説明

六価鉄イオン溶液製造方法及びマグネシウム合金の化成処理剤及び処理方法並びに樹脂表面のエッチング方法。

【課題】本発明は、マグネシウム合金等の部材を耐食性向上のために用いられていた、有害なクロム酸などによる化成処理剤に代わり、環境負荷の少ない六価鉄イオン溶液による化成処理方法および六価鉄イオン溶液から化成処理剤を提供する。
【解決手段】陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等からなる電解隔膜で仕切られた、電解槽の陽極側に所定のアルカリ性水溶液と陰極側に所定のアルカリ性水溶液を満たし、鉄からなる陽極を設置し、任意の導電性陰極からなる陰極を設置した後、直流電源から所定の電力を供給し、鉄から成る陽極を六価のイオンとして水溶液中に溶出することにより安定した六価鉄イオン溶液を得ることができる。また、この安定した六価鉄イオンを含有する液剤を用いてマグネシウム合金部材10に化成処理を行うことにより、クロム酸化成処理と同等の耐食性の優れた化成処理皮膜を有する化成処理部材11を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来使用されてきたクロム酸等の重金属を用いない、環境負荷の少ない六価鉄イオン溶液製造方法及びマグネシウム合金の化成処理剤及び処理方法並びに樹脂表面のエッチング方法であり、特にマグネシウム合金をチクソモールディングやダイカストあるいはプレス加工等により成形し、外装品として用いる場合に、耐食性を付与するための化成処理方法として極めて有用なものである。
【背景技術】
【0002】
六価鉄イオン(フェレート)溶液は、強力な酸化作用を持つため、有機物の酸化分解処理剤として極めて有用なものである。しかしながら、これまで行われてきたフェレートに関する研究は、フェレートの持つ渦マンガン酸カリウムより高い酸化力を利用した消毒や、ウイルスの減菌に使用した研究例がいくつかあるが、金属の化成処理に関する応用はあまり認められない。例えば、特許文献のような鉄酸アルカリの製造法も提案されている。本発明では新たに、マグネシウム合金の化成処理に対するフェレートの利用を検討し、鋭意研究を重ねた。
【特許文献】特公昭57−19054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、これらの知見をもとにさらに鋭意研究を重ねた結果なされたものである。これまでの研究により、安定した強酸化性の六価鉄イオンの溶出方法と当該六価鉄イオン溶液の製造法及び当該六価鉄イオンの製造方法によって製造された有機材料の酸化分解処理剤を見出し、本発明者は特許出願(特願2006−116137)をしている。
【0004】
本発明は、さらにこれらフェレートの応用に関して鋭意研究を重ねた結果なされたものであり、本発明によれば、当該六価鉄イオン溶液の製造法及び当該六価鉄イオンの製造方法によって製造されたファレート溶液によるマグネシウム合金の化成処理技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、電極の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、電極の陽極側に純鉄から成る電極とを設置し、前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行うことにより、その後、鉄を六価イオンの状態で溶出させることを特徴としている。
【0006】
また、電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、電極の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、電極の陽極側に純鉄から成る電極とを設置し、前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行い、六価鉄イオンを生成することにより、六価鉄イオンを含有する液剤を製造することを特徴としている。
【0007】
また、陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜で仕切られた電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、イオン交換膜の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、
陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等の電解隔膜の陽極側に純鉄から成る電極を設置し、前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行い、六価鉄イオンを生成するとことにより、六価鉄イオンを含有する液剤を製造することを特徴としている。
【0008】
さらに、前述の安定した六価鉄イオンを含有する液剤であるマグネシウム合金等の化成処理剤を用いてマグネシウム合金等を化成処理することを特徴としている。
【0009】
電気分解水槽に1〜18mol/lに調整した水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を充填し、陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等からなる電解隔膜の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極を、また、陽イオン交換膜の陽極側に純鉄から成る電極とを設置して、この陽極陰極間に直流電源から0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を開始すると、陽極の純鉄が水溶液中に六価鉄イオンとして溶出し六価鉄イオン水溶液が生成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記電解槽内で電気分解が開始されると、陽極の純鉄が六価のプラスイオンとなりアルカリ水溶液中に鉄を六価イオンの状態で溶出させることができる。
【0011】
また、本発明によれば、前記電解槽内で電気分解を行うことにより、陽極側では六価鉄イオンの溶出反応が進み、同時に陰極表面では水の電気分解反応がすすむ。これらの反応により陽極室に、六価鉄イオン溶液を得ることができる。
【0012】
また、本発明によれば、前記電解槽内で電気分解をおこなうことにより、陽極側で六価鉄イオンの溶出と同時に前記電気分解水槽に六価鉄イオンを含有する液剤からなるマグネシウム合金等の化成処理剤を得ることができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、前記電解槽内で電気分解をおこなうことにより、六価鉄イオンの溶出と同時に前記電気分解水槽に六価鉄イオンを含有する水溶液を生成し、この六価鉄イオン水溶液を用いることによりマグネシウム合金等の防錆能力に優れ、クロム等の重金属等を含まずに環境に優しいマグネシウム合金等の化成処理溶剤を得ることができる。
【0014】
さらに、本発明で得られたマグネシウム合金等の化成処理溶剤を用いてマグネシウム合金等を化成処理することにより、耐食性に優れたマグネシウム合金部材を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した六価鉄イオン溶出方法、六価鉄イオン製造方法とマグネシウム合金等の化成処理剤および化成処理方法を説明する。
【0016】
図1は、本発明を適用した六価鉄イオン溶出方法、六価鉄イオン製造方法および酸化処理液組成物並びにマグネシウム合金等の表面化成処理溶剤製造装置の一例を示す説明図である。電気分解水槽1は、電気分解による六価鉄イオン水溶液製造に必要な諸設備を設けて電気分解作業を行う電解槽であって、電解隔膜2、陽極3、陰極4、直流安定化電源5、陰極電解溶液としてのアルカリ水溶液6、陽極電解溶液としてのアルカリ水溶液7、水溶液循環ポンプ8、電圧計9、など電解溶液製造に必要な設備を構成する。
【0017】
電極の陽極3としては、鉄から成る電極とスチールウールから構成し、鉄としては不純物元素が低い電解鉄板と表面積の広いスチールウールを用いたが、一般の鉄板や金網あるいは鉄粉を用いても良い。一方、電極の陰極4としては、白金を用いたが、他の耐アルカリ腐食性の高い電極を用いても良い。
【0018】
陰極電解溶液としてのアルカリ水溶液6としては、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液を用いたが他のアルカリ水溶液でも良い。また、陽極電解溶液としてのアルカリ水溶液7としては、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液を用いたが他のアルカリ水溶液でも良い。
【0019】
陽極3の電極は厚さ1mmの純鉄板をを25mm×40mmに切断し、酸洗いをした後、電解隔膜との間にスチールウールを挟み込み固定する。つぎに、陰極4の電極に耐アルカリ腐食性の高い白金電極を用いて陽極酸化を行う。
【0020】
電気分解水槽1には1〜18mol/lに調整された陰極アルカリ水溶液6として水酸化ナトリウム水溶液を充填する。次に、1〜18mol/lに調整された陰極アルカリ水溶液6として水酸化ナトリウム水溶液を充填する。この状態で陽極3陰極4間に、直流電源5から0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を開始すると、陽極の鉄が水酸化ナトリウム水溶液中に六価鉄イオン(フェレート)として溶出される。
【0021】
そして、陽極3の六価鉄イオン(フェレート)の溶出と同時に陰極4の表面では水の電気分解反応がすすみ水素ガスが発生する。この反応の継続により陽極溶液中の六価鉄イオン濃度が増大し、六価鉄イオン水溶液(フェレート溶液)が得られ、六価鉄イオン(フェレート)を含有する液剤からなるマグネシウム合金の化成処理剤を得ることができる。
【0022】
六価鉄イオン水溶液(フェレート溶液)としては、水酸化ナトリウム水溶液のほか水酸化カリウム水溶液でも良く、同様に安定した六価鉄イオン水溶液(フェレート溶)を得ることができる。
【0023】
図2(a)、(b)に、本発明により製造した、六価鉄イオン(フェレート)を含有する液剤からなるマグネシウム合金等の化成処理剤を用いて、マグネシウム合金等の部材に化成処理を施した後の、化成処理部材の概略図を示してある。そして、図2(a)はマグネシウム合金部材10の概略図であり、図2(b)は化成処理後のマグネシウム合金部材11とその化成処理層の概略図である。
【0024】
上述の安定した六価鉄イオン(フェレート)を含有する液剤からなるマグネシウム合金等の化成処理剤を用いて、マグネシウム合金等の部材に化成処理を施すとマグネシウムと反応し化成処理皮膜を形成することにより優れた防錆能力を発揮することができる。
化成処理条件としては例えば、
(i)苛性ソーダ濃度が1〜18mol/lの範囲であり、
(ii)六価鉄イオン(フェレート)濃度が0.1〜10g/lの範囲であり、
(iii)化成処理温度が室温〜100℃の範囲であり、
(iv)化成処理時間が1秒〜100分の範囲で
の推奨される条件範囲で化成処理を施すことによって、環境負荷の低い鉄を主成分とするマグネシウム合金等の化成処理剤と化成処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】六価鉄イオン水溶液製造装置の概略図である。
【図2】(a)はマグネシウム合金部材10の概略図であり、(b)は化成処理後のマグネシウム合金部材11とその化成処理層の概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 電気分解槽
2 電解隔膜
3 陽極室アルカリ水溶液
4 陰極室アルカリ水溶液
5 陽極
6 陰極
7 直流電源
8 電圧計
9 循環ポンプ
10マグネシウム合金部材
11化成処理後のマグネシウム合金部材
12マグネシウム合金部材の化成処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等からなる電解隔膜で仕切られた電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、
前記電解槽の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、
前記電解槽の陽極側に鉄から成る電極とを設置し、
前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行うことにより、
鉄を六価イオンの状態で溶出させることを特徴とする六価鉄イオン溶液製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記六価鉄イオン組成物を含有する溶液を用いてマグネシウム合金等の部材を化成処理することを特徴とするマグネシウム合金部材の化成処理剤。
【請求項3】
請求項2において、
前記六価鉄イオン組成物を含有する溶液を用いてマグネシウム合金等の部材を化成処理することを特徴とするマグネシウム合金部材の化成処理方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記六価鉄イオン組成物を含有する溶液を用いてマグネシウム合金等の部材を化成処理するマグネシウム合金部材の化成処理方法であって、
(i)苛性ソーダ濃度が1〜18mol/lの範囲であり、
(ii)六価鉄イオン(フェレート)濃度が0.1〜10g/lの範囲であり、
(iii)化成処理温度が室温〜100℃の範囲であり、
(iv)化成処理時間が1秒〜100分の範囲で
あることを特徴とするマグネシウム合金部材の化成処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化成処理剤及び化成処理方法を用いてマグネシウム表面を化成処理する方法において、
マグネシウム合金部材が、純マグネシウム、AZ31B、AZ91D等のマグネシウムに対してアルミニウム・亜鉛を含む合金、AM60、AM50等のマグネシウムに対してアルミニウム・マンガンを含む合金からなる群から選択されることを特徴とするマグネシウム合金の化成処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−214741(P2008−214741A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97815(P2007−97815)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(505133157)
【Fターム(参考)】