説明

六方晶窒化ホウ素粉末およびその製造方法

【課題】一次粒子の凝集体を空隙率が小さく粒子同士の結合力を向上させ、充填性ひいては熱伝導性に優れたh−BN粉末を提供する。
【解決手段】BN粉末の一次粒子の長径と厚みの比を5〜10とし、また一次粒子の凝集体の大きさを平均粒径D50で2μm以上200μm以下とし、さらに嵩密度を0.5〜1.0g/cm3とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶窒化ホウ素粉末およびその製造方法に関し、特に熱伝導性および絶縁性の一層の向上を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(h−BN)粉末は、固体潤滑材やガラス離型材、絶縁放熱材、さらには化粧品の材料等の分野に幅広く用いられている。従来、このような六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば特許文献1に記載されているように、ホウ酸やホウ酸塩などのホウ素化合物と尿素やアミンなどの窒素化合物とを比較的低温で反応させて、結晶性の低い粗製h−BN粉末を製造し、ついで得られた粗製h−BN粉末を、高温で加熱して結晶を成長させる方法で製造するのが一般的であった。
【0003】
h−BN粉末は、黒鉛と類似した層状構造をしており、(1)熱伝導性が高く放熱性に優れる、(2)電気絶縁性が大きく、絶縁耐力に優れる、(3)誘電率がセラミックスの中で最も小さい等、電気材料として優れた特性を有している。例えば、h−BNをエポキシ樹脂やシリコンゴム等の樹脂材料に添加してなる熱伝導性(放熱性)および絶縁性に優れたシートやテープが注目されている。
【0004】
このような用途にh−BN粉末を用いる場合、h−BN粉末の樹脂に対する置換率つまりh−BN粉末の充填性が熱伝導性を左右し、h−BN粉末の充填性を向上させてより高い熱伝導性を得ることが望まれている。
【0005】
しかしながら、従来のh−BN粉末は、充填性が十分とはいえず、h−BN粉末を樹脂に添加したシートやテープの熱伝導性は、必ずしも要求特性を満足するとはいえなかった。
【0006】
上記の問題を解決するものとして、発明者らは先に、一次粒子の大きさ(長辺長さ)や長辺長さ/短辺長さ比、二次粒子(凝集粒子)の大きさ等を適正範囲に規定した六方晶窒化ホウ素粉末を新たに開発し、特許文献2において開示した。
しかしながら、近年、絶縁シートの薄膜化が進行しているため、絶縁性を悪化させる導電性物質の存在は好ましくない。また、凝集粒子が樹脂との複合化過程で壊れるのは好ましくなく、気孔が多いのは熱伝導の特性を低下させる。
このため、六方晶窒化ホウ素粉末の充填性の一層の向上と不純物である導電性物質のさらなる低減が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−295801号公報
【特許文献2】特開2007−308360号公報
【特許文献3】特開平11−277515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の開発により、充填性が向上し、熱伝導性が改善された。
本発明は、上掲した特許文献2に記載された六方晶窒化ホウ素粉末の改良に係り、凝集体の形状を一層球状化して充填性を高めると共に、粉末強度の向上を図り、さらには高純度化により、当該粉末を充填した伝熱シート等の絶縁性の向上および耐電圧の安定化を達成した六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする。
また、本発明は、六方晶窒化ホウ素粉末中に、不純物として残留するFeの形状を制御する、具体的には球状形とすることにより、残留するFeの許容量を従来よりも緩和させた六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
h−BN粉末の充填性を向上させて、熱伝導性を改善するには、粉末形状を球状化するのが有利であるが、従来の製造方法では、必ずしも満足いくほどの球状化は達成できなかった。
なお、粉末形状を球状化する方法としては、h−BN粉末を製造したのち、さらに別途用意した球状化工程に供して、球状化する方法が提案されているが、この方法は、余分な工程が必要となるだけでなく、製造コストが嵩むという不利がある(特許文献3参照)。
【0010】
また、従来の製造方法では、B4Cの原料であるほう酸中に含まれるFe成分(Fe2O3)およびB4C製造後の塊破砕時に破砕装置から混入するFeに起因して、粉体中には許容限を超えるFeの混入(約1000ppm)が避けられない。従って、粉体製造後、磁選や酸洗浄処理等によってFeを除去しているが、この除去処理も、工程の煩雑化およびコストアップを招く。また、かような方法は、信頼性の高い工程とはいえない。
【0011】
そこで、発明者らは、h−BN粉末製造後、さらなる工程を必要とすることなく、製造したままで一層の球状化を達成でき、また同時に不純物としてのFeの混入量を低減できる方法について検討を重ねた。
その結果、h−BN粉末の製造工程中、原料であるB4Cの窒化工程中またはその後の脱炭工程後に減圧処理を施すことにより、不純物であるFeが効果的に蒸発除去されることの知見を得た。
また、上記の減圧処理を施した場合、Feが蒸発除去されるだけでなく、たとえ粉末中にFeが残留したとしても、残留したFeの形状が球状化し無害化されることの知見を得た。
さらに、かかる減圧処理を施した場合、得られるh−BN粉末の凝集体がより緻密化・球状化して、粉末強度が向上すると同時に、嵩密度が0.5〜1.0 g/cm3と高位安定することも併せて見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.一次粒子の長径と厚みの比が平均で5〜10で、一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径(D50)で2μm以上 200μm以下で、嵩密度が0.5〜1.0 g/cm3であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【0013】
2.前記凝集体の平均粒径(D50)が20μm以上 80μm以下で、かつ空隙率が50%以下であることを特徴とする前記1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【0014】
3.前記凝集体が、焼成を経たものであることを特徴とする前記1または2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【0015】
4.六方晶窒化ホウ素粉末を、0.3MPaおよび0.01MPaの圧力で噴射し、噴射後の凝集体の粒径をそれぞれ乾式法により測定し、0.01MPaの圧力で噴射したときの凝集体の平均粒径に対する0.3MPaの圧力で噴射したときの平均粒径の比で定義する粉末強度が、0.4 以上を満足することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【0016】
5.前記六方晶窒化ホウ素粉末中に不純物として含まれる鉄の濃度が500ppm以下で、かつ直径が50μm以下の球状になっていることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【0017】
6.炭化ホウ素を、窒素分圧:5kPa以上の窒素雰囲気中、温度:1800〜2200℃の条件で窒化処理し、ついで得られた生成物に三酸化二ホウ素および/またはその前躯体を加えたのち、非酸化性雰囲気中にて、温度:1500〜2200℃の条件で脱炭処理し、その後破砕、分級することによって六方晶窒化ホウ素粉末を製造するに際し、
上記窒化処理中または上記脱炭処理後に、炉内圧を100kPa未満に保持する減圧処理を施すことを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【0018】
7.前記減圧処理を、80 kPa以下の減圧雰囲気下で行うことを特徴とする前記6に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、h−BN粉末の凝集体の形状をより緻密化かつ球状化することができるので、粉末強度の向上と共に、充填性ひいては熱伝導性を高めることができ、併せて誘電率を安定化することができる。
また、本発明によれば、h−BN粉末中に残留するFeを効果的に除去できるだけでなく、たとえ粉末中にFeが残留していてもその形状を球状にして無害化できるので、絶縁性の向上を図ることができる。さらに、耐電圧を悪化させるFeを球状化してその最大寸法を小さくすることは、耐電圧の安定化に一層貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】六方晶窒化ホウ素粉末の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明に従い、窒化処理中に減圧処理を行うことによって、B4C粉末中に不純物として存在していたFeが蒸発除去される過程を示した図である。
【図3】脱炭処理後のBN粒子の顕微鏡写真である。
【図4】脱炭処理後のBN粒子の別の顕微鏡写真である。
【図5】脱炭処理後のBN粒子の別の顕微鏡写真である。
【図6】窒化処理中に減圧処理を行う場合における、好適な熱履歴および減圧条件を示した図である。
【図7】空隙率と嵩密度および強度との関係を示した図である。
【図8】空隙率と熱伝導率との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末において、形状等を前記の範囲に限定した理由について説明する。
【0022】
一次粒子の長径と厚みの比(平均):5〜10
一次粒子の長径Dと厚みdの比D/dが平均で5未満というのは製造が困難であり、一方10を超えると配向性が出て、凝集体の密度が低下する(空隙率が増加する)ので、D/dは5〜10の範囲に限定した。好ましくは6〜9の範囲である。
なお、一次粒子の長径Lについては2〜8μm 程度、また一次粒子の厚みdについては0.1〜1.6μm 程度とするのが好ましい。
【0023】
一次粒子の凝集体の大きさ:平均粒径D50で2μm以上 200μm以下
一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径D50で2μm未満では、一次粒子まで粉砕されるので、この過程で凝集粒を維持できず鱗片状の形状となる。一方200μmを超えると形状の維持が難しく、ハンドリング時に磨砕され易くなり粒度が変動するので、一次粒子の凝集体の大きさは平均粒径D50で2μm以上 200μm以下の範囲に限定した。好ましくは平均粒径D50で5〜100μmの範囲である。
さらに好ましくは平均粒径D50で20〜80μmの範囲であり、この好適粒径範囲を満足すると空隙率が50%以下となって、凝集体は格段に緻密化する。なお、空隙率の下限については特に制限はないが、h−BNは結晶粒の成長に異方性を有するため空隙を完全に消滅させることは難しく、下限としては10%程度が実際的である。
なお、凝集体の空隙率は、水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求めることができる。
【0024】
一次粒子の凝集体の嵩密度:0.5〜1.0 g/cm3
一次粒子の凝集体の嵩密度が0.5 g/cm3に満たないと、樹脂への添加量が減少し、一方 1.0 g/cm3は最密充填の限界値なので、一次粒子の凝集体の嵩密度は0.5〜1.0 g/cm3の範囲に限定した。好ましくは0.6〜0.9 g/cm3の範囲である。
【0025】
粉末強度:0.4 以上
本発明では、凝集体を、より緻密化かつ球状化することができるので、BN粉末を0.3MPaおよび0.01MPaの圧力で噴射し、噴射後の凝集体の粒径をそれぞれ乾式法により測定し、0.01MPaの圧力で噴射したときの凝集体の平均粒径に対する0.3MPaの圧力で噴射したときの平均粒径の比で定義する粉末強度を、0.4 以上とすることができる。ここに、h−BNは、粒成長過程で粒子同士が結合して強度を発現するが、本発明のプロセスでは炭素がCOとして除去される反応と併行して生じるため、粉末強度の上限は0.85程度が限界である。
なお、特許文献1に例示された方法で得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、上記の方法により調査した粉末強度は0.2程度にすぎなかった。
【0026】
本発明において「一次粒子」とは、鱗片状を形成する単一粒子と定義する。
また、「一次粒子の凝集体」とは、一次粒子が2個以上化学結合した状態で存在する粒子と定義する。
そして、本発明のBN粉末では、粉末全体の60%以上が凝集体の形態で存在する。ここに、剥離などにより発生する微粉は少ないほど好ましく、かかる微粉が20%を超えるとフィラー特性が若干低下するため、粉末全体に対する凝集体の割合は80%以上とするのが好ましい。なお、粉砕による粒度調整により凝集体は幾分かの破壊を余儀なくされるため、凝集体の比率の上限は97%程度である。
【0027】
次に、本発明の製造方法について説明する。
一般に六方晶窒化ホウ素粉末は、図1にフローチャートを示すように、炭化ホウ素(B4C)を原料として、窒素雰囲気中にて焼成後、脱炭処理を施し、ついで破砕・分級することにより製造されるが、本発明では、上記したB4Cの窒化工程中またはその後の脱炭工程後に減圧処理を施すところに特徴がある。
以下、各製造工程毎に説明する。
【0028】
まず、B4Cを製造するには、ほう酸(H3BO3)原料を炭素含有材料と非酸化性雰囲気中で高温で反応させたのち、粉砕・分級することによって、B4C粉末とする。
4H3BO3+7C → B4C+6H2O+6CO
なお、上記したような炭素含有材料として代表的なコークスは、不純物としてFeを含有している。また、合成したB4Cは高硬度の材料であるため、粉末にする際に粉砕装置からのFeの混入が避けられない。さらに、本発明で使用するB4C粉末は、反応を進める観点からは微粉が適していることから、この傾向が顕著である。
【0029】
ついで、得られたB4C粉末を窒素雰囲気中で焼成(窒化処理)して、次式(1)の反応によりBN粉末とする。
(1/2)B4C+N2 → 2BN+(1/2)C ・・・(1)
上記の反応をスムーズに進行させるためには、十分な窒素分圧と温度を与える必要がある。窒素分圧は5kPa以上、また焼成温度は1800〜2200℃、好ましくは1900〜2100℃とする必要がある。というのは、窒素分圧が5kPaに満たないと、窒化反応の進行が遅くなり反応に長時間を要するからであり、高窒素分圧雰囲気は窒化反応を促進させるので有効である。ここに、窒素分圧の上限は、高圧ガス保安上の観点から1000kPa程度とする。また、焼成温度が1800℃に満たないと反応時間が長くなり、一方2200℃を超えると逆反応が生じ反応が進行しないからである。
なお、原料であるB4C粉末の粒径は、とくに制限されることはないが、反応性の観点からは1000μm以下(好ましくは2μm以上)とすることが望ましい。
【0030】
ついで、上記の反応により得られたBN粉末に脱炭処理を施して混在するCを除去する。
この脱炭処理は、上記のBN粉末に三酸化二ホウ素および/またはその前駆体(以下、三酸化二ホウ素等ともいう)を混合し、次式(2)の反応により、混在するCをCO(気体)として除去する。
2BN+(1/2)C+(1/2)B23→2BN+(1/2)CO↑+(1/2)B22↑・・・(2)
上記の脱炭処理は、非酸化性雰囲気中にて温度:1500〜2200℃(好ましくは1800〜2200℃)、時間:1時間以上(好ましくは6時間以上、15時間以下)の条件で実施するのが好適であり、十分な温度と処理時間を与えることにより、BN粉末中におけるC量を0.5質量%以下、好ましくは0.2質量%以下まで低減する。ここに、C量の低減は、現行の製造プロセスでは0.01質量%が限界である。なお、処理時における圧力は常圧でよい。
また、上記の脱炭処理でのBN粉末等の窒化処理材と三酸化二ホウ素等との混合は、ボールミルに溶媒を加えて湿式で行うこともできるが、V−ブレンダーのような乾式混合機を用いて行うことが好ましい。なお、混合は均一状態になるまで実施される。具体的には、目視にて混合物が均質な灰色になればよい。
【0031】
なお、三酸化二ホウ素の前駆体とは、加熱により三酸化二ホウ素になり得るホウ素化合物であり、具体的には、ホウ酸のアンモニウム塩、オルトホウ酸、メタホウ酸および四ホウ酸などでが挙げられる。三酸化二ホウ素およびその前駆体の中で、特に好ましいのは三酸化二ホウ素である。
そして、上記(2)式の反応により、BN粉末製造時における副生炭素が一酸化炭素として除去される。
また、上記(2)式の反応は1500℃以上で進行し、また三酸化二ホウ素の蒸発は1600℃以上で進行する。両者ともガスを生成するので、発生ガスの効果的な除去により、反応と蒸発を効果的に進行させることができる。
【0032】
さて、本発明では、上記したB4Cの窒化工程中またはその後の脱炭工程後に、減圧処理を施して、緻密なBN粉末を製造すると共に、BN中のFeを十分に除去し、かつFeの形状を球状として無害化するところに特徴がある。
以下、この点について具体的に説明する。
4C製造用のほう酸原料には、不純物としてFe2O3の他、CaOやSiO2,Al2O3等が含まれている。これらの不純物のうち、CaOやSiO2,Al2O3等は絶縁性を有しているためBN粉末中に5%未満であれば残留していても特に問題とはならない。とはいえ、これらの酸化性不純物量は、h−BNの特性を発現するためには少ないほど好ましく、通常の高純度の原料を使用すれば0.01%まで低減可能である。
一方、Fe2O3は導電性を有するため極力除去することが好ましい。すなわち、Fe2O3量が500ppmを超えると絶縁特性は低下するので、500ppm以下とすることが好ましく、特に250ppm以下であれば安定した絶縁特性を維持することができる。なお、Fe2O3量の下限は、原料中の鉄含有量に左右されるが、粒度調整工程においても若干の混入が見られるため、20ppmが下限である。
【0033】
4C粉末中には、図2(a)に示すような状態で不純物としてFeが存在している。ここで、例えば窒化工程においてかかるFeを除去する場合について説明すると、この場合は、B4CがNと反応を始める時期に減圧処理を施してFeを蒸発除去することが好ましい。温度は1800〜2000℃程度である。また、ガス気流はFe蒸気の排出を促進させるので有効である。
【0034】
上記の窒化処理時に、B4C粉末中にN2ガスが浸透し、BN粒子の生成が始まると、図2(b)に示すように、BN粒子間に空隙ができ、その空隙に不純物であるFeが存在する状態となる。なお、BN粒子の周りに点々で示したものはCである。
【0035】
上記のような状態のときに減圧処理を施すと、図2(c)に示すように、BN粒子間に存在するFeは、粒子間空隙を通して効果的に蒸発除去される。
また、上記の減圧処理によっても除去されずBN粒子間にFeが残留したとしても、かかる残留Feは減圧処理によって球状化されるので、BNとしての絶縁性は保持される。また、耐電圧も安定化する。
【0036】
ここに、上記した減圧処理は、窒素雰囲気中にて炉内圧を大気圧未満(すなわち100 kPa未満)とすればよく、この処理によりBN粉末中におけるFe濃度を500ppm以下まで低減することができる。好ましくは、Fe濃度400 ppm以下、望ましくは250 ppm以下まで低減することにより、さらに耐電圧特性も向上する。
なお、上記の減圧処理の好ましい炉内圧は80 kPa以下であり、より好ましくは60 kPa以下であり、炉内圧を下げることによってFeの蒸発除去が促進されて、残留Feを更に低減することができる。但し、現行の製造プロセスではFe濃度の下限は50ppmが限界である。また、炉内圧の下限は、炉の能力にも依存するが、現実的な操業を考慮すると20kPaであれば十分である。
【0037】
図3〜5に、上記した窒化処理後のBN粒子の顕微鏡写真を示す。
図3,4は、B4C中のFeに由来するもので、図中において白く見えるものが、BN粒子間に存在するFeであり、球状化していることが分かる。また、図5は、破砕装置(ハンマー)に由来するFe(白色のもの)で、全体に分散している。
【0038】
また、上記した窒化工程だけでなく、その後の脱炭工程でも、同様な減圧処理を施して、BN中のFeを除去することもできるが、脱炭前および脱炭中に減圧処理を施すと、脱炭に必要な三酸化二ホウ素等の蒸発ロスが増大する不利が生じるので、脱炭工程で減圧処理を施す場合には、脱炭反応完了後に実施する必要がある。温度は1500〜2000℃程度である。この場合も、ガス気流はFe蒸気の排出を促進させる効果がある。
その後、得られたBNの塊を粉砕・分級してBN粉末とする。
【0039】
上記のような減圧処理を十分に(例えば1〜15時間程度)施すことによって、BN粉末中におけるFeの濃度を500ppm以下まで安定して低減することができる。
また、本発明に従えば、BN粒子間に存在するFeを効果的に均一状態で低減できるので、Fe単体の体積を減らすことになり、結果として球状化したFeの径が小さくなり、Feに起因する絶縁性の低下をより効果的に防止できる。ここに、球状化Feの直径は50μm以下とすることが好ましい。下限については0.2μmが限界である。
【0040】
また、本発明に従いB4Cの窒化工程中またはその後の脱炭工程後に、減圧処理を施すことにより、残留している三酸化二ホウ素が均一に効率良く除去されるため、得られるh−BN粉末の強度が向上し、嵩密度は0.5〜1.0 g/cm3の範囲で高位安定する。
【0041】
なお、本発明に従い得られるBN粉と従来法により得られるBN粉について、長径と厚みの平均の比を比較すると、従来は11〜15であったのに対し、本発明では5〜10であり、本発明によればBN粉が一層球状化されていることが分かる。
なお、BN粉の長径と厚みの比は、電子顕微鏡写真から長径と厚みを測定し、その平均値の比から求めることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1
市販の純度:98質量%の炭化ホウ素粉末を44μm の篩にかけ、篩を通過した101.8gの原料粉末を、内径:90mm、高さ:100mmのカーボンるつぼの中に投入し、炉内圧を保持した窒素雰囲気中にて、温度:2000℃、時間:10時間の条件で焼成(窒化処理)を行った。
この際、図6に示すように、炉温が1800℃以上℃となった時点で、炉内圧を100kPa未満に保持する減圧処理を施した。
かくして得られた焼成生成物の量は176.6gであった。
【0043】
焼成生成物の中から69.3gを採り、市販の三酸化二ホウ素:35.2gと混合した。この際の混合は、内容積が1LのV−ブレンダーを用い、1Hzの条件で30分間回転することにより行った。
得られた粉末状混合物を、内径:90mm、高さ:100mmのカーボンるつぼ内に装入し、窒素気流中にて、2000℃,10時間の脱炭処理を施して、第二焼成生成物を得た。
【0044】
かくして得られた第二焼成生成物は、白色凝集体であり、粉砕後にX線回折に供した結果、ほぼ完全にh−BNとなっていることが確認された。
粉末のC含有量を、管状電気抵抗炉(株式会社島津製作所製)を用いて赤外線吸収法により測定した。
また、O含有量を、ON同時分析装置(株式会社堀場製作所製;EMGA−550型)を用いて不活性ガス−インパルス加熱融解熱伝導度検出法により測定した。
さらに、Fe含有量をフェナントロリン吸光光度法(JIS K 0102)あるいは酸溶解ICP法により測定すると共に、残留するFeの球状化度を電子顕微鏡写真により評価した。すなわち、電子顕微鏡写真から直径10μm以上のFeを25個以上測定して平均値を求めることにより、球状化Feの直径を推定した。
【0045】
得られたh−BN粉末を分級して、凝集体の大きさや嵩密度が種々に異なる粉末を作製し、一次粒子の平均長径Dおよび平均厚みd、凝集体の平均粒径D50および空隙率ならびにBN粉末の強度および嵩密度について調べた結果を、表1に示す。
また、樹脂に対するh−BN粉末の充填比率が増すと粘度が高くなりボイドの巻き込みが多くなり、熱伝導率が向上しないのみならず、電気絶縁性が低下して耐電圧特性が低下する傾向がある。
そこで、得られたBN粉末を用いて成形可能な粘度まで添加量を増やして、樹脂との複合シートを作製した。樹脂としては、エホ゜キシ樹脂『エピコート807』(ジャパンエポキシレジン社製)を、また硬化剤としては、変性脂環族アミングレード『エピキュア807』(ジャパンエポキシレジン社製)を用い、添加可能なところまでBN粉末を増加させて均一に分散してシート状に成形して、該シートから測定用の試験片を作製した。
この複合シートの熱伝導率および耐電圧特性について調べた結果を、BN粉末の不純物濃度および球状化Feの直径についての調査結果と、併せて表2に示す。
【0046】
なお、各特性の評価方法は次のとおりである。
(1)嵩密度
試料を105℃で恒量になるまで乾燥し、3.0gを正確に量り、これを20ml目盛つき試験管に入れ蓋つきのホルダーにセットし、高さ45mmの位置から2秒間に1回の速さで400回落下させた後、その容積を読み取って、嵩密度を求めた。
(2)熱伝導率
成形したシートから熱伝導率が測定できるように試験片(直径10mm×厚み2mm)を切り出し、レーザーフラシュで試験片の熱伝導率を測定した。
(3)耐電圧
固体電気絶縁材料が電圧に耐え得る能力を示す絶縁破壊電圧(KV)は、厚さ0.4mmとして1kV/secの昇圧速度で耐電圧を測定した(JIS C 2110)。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表1,2に示したとおり、本発明のh−BN粉末はいずれも、強度が0.4以上、嵩密度が0.5以上であり、また樹脂への充填量も60%以上であって、優れた熱伝導率と耐電圧特性が得られている。すなわち、熱伝導率は従来例に対して1.3倍以上に向上している。また、減圧処理によってFe濃度の顕著な減少とFe直径の縮小が達成されていた。さらに、充填性の向上との相乗効果で、発明例は、耐電圧特性も向上している。なお、耐電圧特性は、○印が、絶縁破壊電圧が従来例(No.1)に比較して1.1倍以上、1.3倍以下の範囲で向上した例、◎印は、絶縁破壊電圧が従来例(No.1)に比較して1.3倍超えの向上例で示した。
これに対し、従来法に従い得られたh−BN粉末は、強度が0.33、嵩密度が0.44であり、また樹脂への充填量も60%未満であって、熱伝導率および耐電圧特性も本発明に比べると劣っていた。
【0050】
実施例2
実施例1と同様に、市販の純度:98質量%の炭化ホウ素粉末を44μm の篩にかけ、篩を通過した101.8gの原料粉末を、内径:90mm、高さ:100mmのカーボンるつぼの中に投入し、炉内圧を保持した窒素雰囲気中にて、温度:2000℃、時間:10時間の条件で焼成(窒化処理)を行った。
ついで、焼成生成物の中から69.3gを採り、市販の三酸化二ホウ素:35.2gと混合した。この際の混合は、内容積が1LのV−ブレンダーを用い、1Hzの条件で30分間回転することにより行った。
得られた粉末状混合物を、内径:90mm、高さ:100mmのカーボンるつぼ内に装入し、窒素気流中にて、2000℃,10時間の脱炭処理を施し、引き続き、炉温:2000℃で、炉内圧を100kPa未満に保持する減圧処理を施した。
かくして得られた焼成生成物の量は176.6gであった。
【0051】
かくして得られた焼成生成物は、白色凝集体であり、粉砕後にX線回折に供した結果、ほぼ完全にh−BNとなっていることが確認された。
また、実施例1と同様に、粉末のC、O、Fe含有量を測定すると共に、球状化Feの直径を推定した。
【0052】
さらに、得られたh−BN粉末を分級して、凝集体の大きさや嵩密度が種々に異なる粉末を作製し、一次粒子の平均長径Dおよび平均厚みd、凝集体の平均粒径D50および空隙率ならびにBN粉末の強度および嵩密度について調べた結果を、表3に示す。
また、実施例1と同様にして樹脂との複合シートを作製し、この複合シートの熱伝導率および耐電圧特性について調べた結果を、BN粉末の不純物濃度および球状化Feの直径と合わせて表4に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
表3,4に示したとおり、本発明のh−BN粉末はいずれも、強度が0.4以上、嵩密度が0.5以上であり、また樹脂への充填量も60%以上であって、優れた熱伝導率と耐電圧特性を得ることができた。耐電圧は、従来例よりいずれも1.3倍を超える耐電圧特性を得ることができた。
これに対し、製造条件が本発明の適正範囲から外れている比較例は、Fe含有量が許容量を超えるだけでなく、強度および嵩密度についてはいうまでもなく、熱伝導率および耐電圧特性が本発明に比べると劣っていた。
【0056】
上掲表1〜4に示したデータに基づき、空隙率と嵩密度および強度との関係についてまとめた結果を図7に、また空隙率と熱伝導率との関係についてまとめた結果を図8にそれぞれ示す。
図7より、空隙率が50%以下になると、嵩密度は0.50 g/cm3以上、強度は0.40以上と向上することが分かる。
また、図8より、空隙率を50%以下にすることにより、熱伝導率は5.0 W/m・K以上という優れた値を呈することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明では、h−BN粉末の凝集体を緻密化し、かつその形状を一層球状化し、強度を高めることで、樹脂への充填性を向上させ、放熱シートあるいはフィルムの熱伝導性を高めることができる。さらに、h−BN粉末中に残留するFeを効果的に除去して絶縁性の向上を図ることができる。また、たとえ粉末中にFeが残留していてもその形状を球状にして無害化でき、さらにh−BN粉末製造後に後処理工程を必要としないので、処理時間の短縮、ひいては製造コストの低減が図れる。
なお、樹脂の種類については、特に制限はなく、一般の電気電子部品に使用されているものを用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の長径と厚みの比が平均で5〜10で、一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径(D50)で2μm以上 200μm以下で、嵩密度が0.5〜1.0 g/cm3であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記凝集体の平均粒径(D50)が20μm以上 80μm以下で、かつ空隙率が50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
前記凝集体が、焼成を経たものであることを特徴とする請求項1または2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
六方晶窒化ホウ素粉末を、0.3MPaおよび0.01MPaの圧力で噴射し、噴射後の凝集体の粒径をそれぞれ乾式法により測定し、0.01MPaの圧力で噴射したときの凝集体の平均粒径に対する0.3MPaの圧力で噴射したときの平均粒径の比で定義する粉末強度が、0.4 以上を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
前記六方晶窒化ホウ素粉末中に不純物として含まれる鉄の濃度が500ppm以下で、かつ直径が50μm以下の球状になっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項6】
炭化ホウ素を、窒素分圧:5kPa以上の窒素雰囲気中、温度:1800〜2200℃の条件で窒化処理し、ついで得られた生成物に三酸化二ホウ素および/またはその前躯体を加えたのち、非酸化性雰囲気中にて、温度:1500〜2200℃の条件で脱炭処理し、その後破砕、分級することによって六方晶窒化ホウ素粉末を製造するに際し、
上記窒化処理中または上記脱炭処理後に、炉内圧を100kPa未満に保持する減圧処理を施すことを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記減圧処理を、80 kPa以下の減圧雰囲気下で行うことを特徴とする請求項6に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−98882(P2011−98882A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228124(P2010−228124)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000193494)水島合金鉄株式会社 (4)