説明

共通の軽鎖のマウス

遺伝子改変マウスが提供され、ここで、マウスは、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再構成して発現することができず、内因性マウスK遺伝子座でマウスカッパ(K)定常遺伝子に作動可能に連結されたヒト免疫グロブリン配列によってコードされる1つまたは2つだけのヒト軽鎖可変ドメインを発現し、2つだけのヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの1つに由来する軽鎖可変ドメイン、およびマウスκ定常ドメイン、およびヒト重鎖可変ドメイン、および内因性マウス重鎖遺伝子座からのマウス重鎖定常ドメインを有するリバースキメラ抗体を発現する。2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖と会合する2つの異なる重鎖を含む、完全にヒトである二重特異的エピトープ結合性タンパク質が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
多様なヒト可変/マウス定常重鎖と会合している共通のヒト可変/マウス定常軽鎖を有する抗体を発現する遺伝子改変マウスが提供される。マウスのB細胞のヒト可変領域遺伝子配列からヒト二重特異性抗体を作製する方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
抗体は、各重鎖モノマーが同一の軽鎖と会合しているホモダイマー重鎖成分を一般的に含む。ヘテロダイマー重鎖成分を有する抗体(例えば、二重特異性抗体)は、治療抗体として望ましい。しかし、二重特異性抗体の重鎖の各々と十分に会合することができる好適な軽鎖成分を有する二重特異性抗体を作製することには、問題があることが判明した。
【0003】
1つの手法では、全ての軽鎖可変ドメインの使用統計値を調査し、ヒト抗体で最も頻繁に使用される軽鎖を同定し、その軽鎖を異なる特異性の2つの重鎖とin vitroで対合させることによって、軽鎖を選択することができる可能性がある。
【0004】
別の手法では、ファージディスプレイライブラリー(例えば、ヒト軽鎖可変領域配列を含むファージディスプレイライブラリー、例えばヒトScFvライブラリー)において軽鎖配列を観察し、最も一般的に用いられる軽鎖可変領域をライブラリーから選択することによって、軽鎖を選択することができる可能性がある。次に、軽鎖を、目的の2つの異なる重鎖について試験することができる。
【0005】
別の手法では、目的の両方の重鎖の重鎖可変配列をプローブとして用いて、軽鎖可変配列のファージディスプレイライブラリーを分析することによって、軽鎖を選択することができる可能性がある。両方の重鎖可変配列と会合する軽鎖は、それら重鎖のための軽鎖として選択することができる可能性がある。
【0006】
別の手法では、候補軽鎖を重鎖の関連軽鎖とアラインメントさせることができ、両方の重鎖の関連軽鎖に共通する配列特性により緊密に一致するように軽鎖が改変される。免疫原性の可能性を最小にする必要がある場合、改変は好ましくは、公知のヒト軽鎖配列に存在する配列をもたらし、ここで、タンパク分解プロセシングが、免疫原性の可能性を評価するための当技術分野で公知であるパラメータおよび方法(すなわち、in silicoおよびウェットアッセイ)に基づいたT細胞エピトープを生成する可能性は低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の手法のいずれも、例えば配列同一性、特異的な前選択された重鎖と会合する能力などのいくつかのアプリオリ制限を含むin vitroの方法に依存する。共通する軽鎖を含むヒトエピトープ結合性タンパク質を作製するための、in vitro条件における操作に頼らず、代わりにより生物学的で実用的な手法を使用する組成物および方法への必要性が当技術分野にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ヒト免疫グロブリンの重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを発現し、限られた軽鎖可変レパートリーを有する遺伝子改変マウスが提供される。親和性成熟ヒト重鎖可変ドメインの多様なレパートリーと会合して発現するヒト軽鎖可変ドメインを生成する生物系が提供される。免疫グロブリン可変ドメインを含む結合性タンパク質の作製方法であって、目的の抗原で限定された免疫グロブリン軽鎖レパートリーを有するマウスを免疫化すること、および目的の抗原に特異的に結合する結合性タンパク質においてマウスの免疫グロブリン可変領域遺伝子配列を使用することを含む方法が提供される。方法には、多重特異性抗原結合性タンパク質の作製で用いるのに適するヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインの作製方法が含まれる。
【0009】
再構成されていないヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントのレパートリーに由来する好適な親和性成熟ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインを選択する遺伝子操作マウスであって、親和性成熟ヒト重鎖可変ドメインは、1つのヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントに由来する単一のヒト軽鎖可変ドメインと会合して発現する、遺伝子操作マウスが提供される。2つのヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントの選択を提示する遺伝子操作されたマウスも提供される。
【0010】
ヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントの限定されたレパートリーからの、ヒト軽鎖可変ドメインの限定されたレパートリーまたは単一のヒト軽鎖可変ドメインを発現する遺伝子操作マウスが提供される。マウスは、単一の再構成されていないヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメント(または2つのヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメント)を含むように遺伝子操作され、これは、再構成して、単一の軽鎖を発現する(または2つの軽鎖の一方もしくは両方を発現する)再構成されたヒト軽鎖可変領域遺伝子(または再構成された2つの軽鎖可変領域遺伝子)を形成する。再構成されたヒト軽鎖可変ドメインは、マウスによって選択される複数の親和性成熟ヒト重鎖との対合が可能であり、ここで、重鎖可変領域は異なるエピトープと特異的に結合する。
【0011】
一態様では、再構成して、ヒトの免疫グロブリン軽鎖のVLドメインをコードすることが可能な単一のヒト免疫グロブリン軽鎖可変(VL)領域遺伝子セグメントを含む遺伝子改変マウスが提供される。別の態様では、マウスは、再構成して、ヒトの免疫グロブリン軽鎖のVLドメインをコードすることが可能である2つ以下のヒトVL遺伝子セグメントを含む。
【0012】
一態様では、ヒトの免疫グロブリン軽鎖のVLドメインをコードする単一の再構成された(V/J)ヒト免疫グロブリン軽鎖可変(VL)領域セグメント(すなわち、V/Jセグメント)を含む遺伝子改変マウスが提供される。別の態様では、マウスは、ヒトの免疫グロブリン軽鎖のVLドメインをコードすることが可能である2つ以下の再構成されたヒトVL遺伝子セグメントを含む。
【0013】
一実施形態では、VL遺伝子セグメントは、ヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントまたはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントである。一実施形態では、マウスは、ヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントおよびヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントの両方を有する。
【0014】
一実施形態では、ヒトVL遺伝子セグメントは、ヒトまたはマウスのリーダー配列に作動可能に連結される。一実施形態では、リーダー配列はマウスのリーダー配列である。具体的な実施形態では、マウスのリーダー配列は、マウスVκ3−7リーダー配列である。
【0015】
一実施形態では、VL遺伝子セグメントは、免疫グロブリンプロモーター配列に作動可能に連結される。一実施形態では、プロモーター配列は、ヒトのプロモーター配列である。具体的な実施形態では、ヒト免疫グロブリンプロモーターは、Vκ3−15プロモーターである。
【0016】
一実施形態では、遺伝子改変マウスは、再構成して免疫グロブリン軽鎖遺伝子を形成することが可能な内因性マウスVL遺伝子セグメントを含まないVL遺伝子座を含み、ここで、VL遺伝子座は、再構成して軽鎖遺伝子のVL領域をコードすることが可能な単一のヒトVL遺伝子セグメントを含む。具体的な実施形態では、ヒトVL遺伝子セグメントは、ヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントまたはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントである。
【0017】
一実施形態では、VL遺伝子座は、5’(VL遺伝子セグメントの転写方向に関して)にヒト免疫グロブリンプロモーターが隣接し、3’に、再構成して、内因性マウス軽鎖定常領域(CL)を含むリバースキメラ(reverse chimeric)軽鎖のVLドメインをコードするヒトVL遺伝子セグメントが隣接する、リーダー配列を含む。具体的な実施形態では、VL遺伝子セグメントはマウスカッパ(κ)VL遺伝子座にあり、マウスCLはマウスκCLである。
【0018】
一実施形態では、マウスは機能しないラムダ(λ)免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含む。具体的な実施形態では、λ遺伝子座は、遺伝子座の1つまたは複数の配列の欠失を含み、ここで、1つまたは複数の欠失は、λ遺伝子座が再構成して軽鎖遺伝子を形成することを不可能にする。別の実施形態では、λ遺伝子座のVL遺伝子セグメントの全てまたは実質的に全てが欠失されている。
【0019】
一実施形態では、改変マウスのVL遺伝子座はκ遺伝子座であり、κ遺伝子座はマウスκイントロンエンハンサー、マウスκ3’エンハンサー、またはイントロンエンハンサーおよび3’エンハンサーの両方を含む。
【0020】
一実施形態では、マウスは、ヒトVL遺伝子セグメントに由来する体細胞変異VLドメインを含む軽鎖を作る。一実施形態では、軽鎖は、ヒトVL遺伝子セグメントに由来する体細胞変異VLドメインおよびマウスκCL領域を含む。一実施形態では、マウスはλ軽鎖を発現しない。
【0021】
一実施形態では、遺伝子改変マウスは、ヒトVL領域配列を体細胞超変異させることが可能である。具体的な実施形態では、マウスは、再構成して、VLドメインをコードすることが可能であるヒトVL遺伝子セグメントに由来する再構成された免疫グロブリン軽鎖遺伝子を含む細胞を含み、再構成された免疫グロブリン軽鎖遺伝子は体細胞変異VLドメインを含む。
【0022】
一実施形態では、マウスは、マウスκCLに連結された体細胞変異ヒトVLドメインを含む軽鎖を発現する細胞を含み、ここで、軽鎖は、ヒトVH遺伝子セグメントに由来する体細胞変異VHドメインを含む重鎖と会合し、重鎖はマウス重鎖定常領域(CH)を含む。
【0023】
一実施形態では、マウスは、1つまたは複数のヒトVH遺伝子セグメントによる内因性マウスVH遺伝子セグメントの置換を含み、ここで、ヒトVH遺伝子セグメントはマウスCH領域遺伝子に作動可能に連結され、したがってマウスはヒトVH遺伝子セグメントを再構成して、ヒトVHドメインおよびマウスCHを含むリバースキメラ免疫グロブリン重鎖を発現する。一実施形態では、再構成されていないマウスVH遺伝子セグメントの90〜100%は、少なくとも1つの再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントで置換される。具体的な実施形態では、内因性マウスVH遺伝子セグメントの全てまたは実質的に全ては、少なくとも1つの再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントで置換される。一実施形態では、置換は、少なくとも19、少なくとも39または少なくとも80もしくは81個の再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントによる。一実施形態では、置換は、少なくとも12個の機能的な再構成されていないヒトVH遺伝子セグメント、少なくとも25個の機能的な再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントまたは少なくとも43個の機能的な再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントによる。一実施形態では、マウスは、少なくとも1つの再構成されていないヒトDセグメントおよび少なくとも1つの再構成されていないヒトJセグメントによる全てのマウスDおよびJセグメントの置換を含む。一実施形態では、少なくとも1つの再構成されていないヒトDセグメントは、D1−7、D1−26、D3−3、D3−10、D3−16、D3−22、D5−5、D5−12、D6−6、D6−13、D7−27およびその組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも1つの再構成されていないヒトJセグメントは、J1、J3、J4、J5、J6およびその組合せから選択される。具体的な実施形態では、1つまたは複数のヒトVH遺伝子セグメントは、1−2、1−8、1−24、2−5、3−7、3−9、3−11、3−13、3−15、3−20、3−23、3−30、3−33、3−48、4−31、4−39、4−59、5−51、6−1ヒトVH遺伝子セグメントおよびその組合せから選択される。
【0024】
一実施形態では、マウスは、目的の抗原に特異的に結合する結合性タンパク質を発現するB細胞を含み、ここで、結合性タンパク質はヒトVκ1−39/Jκ5再構成またはヒトVκ3−20/Jκ1再構成に由来する軽鎖を含み、細胞は、VH2−5、VH3−23、VH3−30、VH4−39、VH4−59およびVH5−51遺伝子セグメントから選択されるヒト遺伝子セグメントの再構成に由来する再構成された免疫グロブリン重鎖遺伝子を含む。一実施形態では、1つまたは複数のヒトVH遺伝子セグメントは、J1、J3、J4、J5およびJ6から選択されるヒト重鎖J遺伝子セグメントと共に再構成される。一実施形態では、1つまたは複数のヒトVHおよびJ遺伝子セグメントは、D1−7、D1−26、D3−3、D3−10、D3−16、D3−22、D5−5、D5−12、D6−6、D6−13およびD7−27から選択されるヒトD遺伝子セグメントと共に再構成される。具体的な実施形態では、軽鎖遺伝子は、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つ、またはそれ以上の体細胞超変異を有する。
【0025】
一実施形態では、マウスは、
【0026】
【化1】

から選択される、VH、JHおよびDH遺伝子セグメントを含む再構成された免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子配列を含むB細胞を含む。具体的な実施形態では、B細胞は、マウス重鎖定常領域と融合したヒト免疫グロブリン重鎖可変領域、およびマウス軽鎖定常領域と融合したヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む結合性タンパク質を発現する。
【0027】
一実施形態では、ヒトVL遺伝子セグメントは、ヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントであり、マウスは、(i)ヒトVL遺伝子セグメントに由来するVLドメイン、および(ii)マウスCLを含むリバースキメラ軽鎖を発現し、ここで、軽鎖は、(i)マウスCHならびに(ii)1−2、1−8、1−24、2−5、3−7、3−9、3−11、3−13、3−15、3−20、3−23、3−30、3−33、3−48、4−31、4−39、4−59、5−51、および6−1ヒトVH遺伝子セグメントおよびその組合せから選択されるヒトVH遺伝子セグメントに由来する体細胞変異ヒトVHドメインを含むリバースキメラ重鎖と会合している。一実施形態では、マウスは、体細胞変異した軽鎖を発現する。一実施形態では、CLはマウスκCLである。
【0028】
一実施形態では、ヒトVL遺伝子セグメントは、ヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントであり、マウスは、(i)ヒトVL遺伝子セグメントに由来するVLドメイン、および(ii)マウスCLを含むリバースキメラ軽鎖を発現し、ここで、軽鎖は(i)マウスCHならびに(ii)1−2、2−5、3−7、3−9、3−11、3−20、3−23、3−30、3−33、4−59、および5−51ヒトVH遺伝子セグメントおよびその組合せから選択されるヒトVH遺伝子セグメントに由来する体細胞変異ヒトVHを含むリバースキメラ重鎖と会合している。一実施形態では、マウスは、体細胞変異した軽鎖を発現する。一実施形態では、CLはマウスκCLである。
【0029】
一実施形態では、マウスはヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントおよびヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントの両方を含み、マウスは、(i)ヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントまたはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントに由来するVLドメイン、および(ii)マウスCLを含むリバースキメラ軽鎖を発現し、ここで、軽鎖は(i)マウスCHならびに(ii)1−2、1−8、1−24、2−5、3−7、3−9、3−11、3−13、3−15、3−20、3−23、3−30、3−33、3−48、4−31、4−39、4−59、5−51、6−1ヒトVH遺伝子セグメントおよびその組合せから選択されるヒトVH遺伝子セグメントに由来する体細胞変異ヒトVHを含むリバースキメラ重鎖と会合している。一実施形態では、マウスは、体細胞変異した軽鎖を発現する。一実施形態では、CLはマウスκCLである。
【0030】
一実施形態では、内因性の再構成されていないマウスVH遺伝子セグメントの90〜100%は、少なくとも1つの再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントで置換される。具体的な実施形態では、内因性の再構成されていないマウスVH遺伝子セグメントの全てまたは実質的に全ては、少なくとも1つの再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントで置換される。一実施形態では、置換は、少なくとも18、少なくとも39、少なくとも80または81個の再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントによる。一実施形態では、置換は、少なくとも12個の機能的な再構成されていないヒトVH遺伝子セグメント、少なくとも25個の機能的な再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントまたは少なくとも43個の再構成されていないヒトVH遺伝子セグメントによる。
【0031】
一実施形態では、遺伝子改変マウスはC57BL系統であり、具体的な実施形態では、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、C57BL/Olaから選択される。具体的な実施形態では、遺伝子改変マウスは、前記の129系統および前記のC57BL/6系統の混合体である。別の具体的な実施形態では、マウスは、前記の129系統の混合体または前記のBL/6系統の混合体である。具体的な実施形態では、混合体の129系統は、129S6(129/SvEvTac)系統である。
【0032】
一実施形態では、マウスは、マウスκCLおよびヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントまたはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントに由来する体細胞変異ヒトVLドメインを含む軽鎖、ならびにマウスCHおよび1−2、1−8、1−24、2−5、3−7、3−9、3−11、3−13、3−15、3−20、3−23、3−30、3−33、3−48、4−31、4−39、4−59、5−51、および6−1ヒトVH遺伝子セグメントから選択されるヒトVH遺伝子セグメントに由来する体細胞変異ヒトVHドメインを含む重鎖を含むリバースキメラ抗体を発現し、ここで、マウスは完全なマウスの抗体を発現せず、完全なヒトの抗体を発現しない。一実施形態では、マウスは、ヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントまたはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントによる内因性マウスκVL遺伝子セグメントの置換を含むκ軽鎖遺伝子座を含み、ならびにヒトVH遺伝子セグメントの完全であるか実質的に完全であるレパートリーによる全てまたは実質的に全ての内因性マウスVH遺伝子セグメントの置換を含む。
【0033】
一態様では、本明細書に記載されるマウスから単離されるマウス細胞が提供される。一実施形態では、細胞はES細胞である。一実施形態では、細胞はリンパ球である。一実施形態では、リンパ球はB細胞である。一実施形態では、B細胞は、ヒト遺伝子セグメントに由来する可変ドメインを含むキメラ重鎖、および再構成されたヒトVκ1−39/Jセグメント、再構成されたヒトVκ3−20/Jセグメントまたはその組合せに由来する軽鎖を発現し、ここで、重鎖可変ドメインはマウス定常領域と融合され、軽鎖可変ドメインはマウスまたはヒトの定常領域と融合される。
【0034】
一態様では、本明細書に記載されるマウスのB細胞で作製されるハイブリドーマが提供される。具体的な実施形態では、B細胞は、目的のエピトープを含む免疫原で免疫化された本明細書に記載されるマウスに由来し、B細胞は、目的のエピトープに結合する結合性タンパク質を発現し、結合性タンパク質は、体細胞変異ヒトVHドメインおよびマウスCHを有し、ヒトVκ1−39Jκ5またはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントに由来するヒトVLドメインおよびマウスCLを有する。
【0035】
一態様では、本明細書に記載されるマウスに由来するドナーES細胞を含むマウス胚が提供される。
【0036】
一態様では、ベクターの5’および3’マウス相同性アームの配列に関して転写方向の5’から3’にかけて、5’マウス相同性アーム、ヒトまたはマウスの免疫グロブリンプロモーター、ヒトまたはマウスのリーダー配列、およびヒトVκ1−39Jκ5またはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントから選択されるヒトLCVR遺伝子セグメント、および3’マウス相同性アームを含むターゲティングベクターが提供される。一実施形態では、5’および3’相同性アームはそのベクターを、マウスκ定常領域遺伝子の5’に存在し、近位であるエンハンサー配列の5’にある配列にターゲティングする。一実施形態では、プロモーターはヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントプロモーターである。具体的な実施形態では、プロモーターはヒトVκ3−15プロモーターである。一実施形態では、リーダー配列はマウスのリーダー配列である。具体的な実施形態では、マウスのリーダー配列は、マウスVκ3−7リーダー配列である。
【0037】
一態様では、前記の通りであるが、ヒトまたはマウスのプロモーターの5’に、5’マウス相同性アームの代わりに部位特異的リコンビナーゼ認識部位(SRRS)が隣接し、ヒトLCVR遺伝子セグメントの3’に、3’マウス相同性アームの代わりにSRRSが隣接する、ターゲティングベクターが提供される。
【0038】
一態様では、マウスCLおよびヒトVLを含む軽鎖ならびにヒトVHおよびマウスCHを含む重鎖を含む、本明細書に記載されるマウスによって作製されるリバースキメラ抗体が提供される。
【0039】
一態様では、抗体の作製方法であって、単一の細胞で、(a)ヒトCH遺伝子配列と融合される本明細書に記載の免疫化マウスの第一のVH遺伝子配列、(b)ヒトCL遺伝子配列と融合される本明細書に記載の免疫化マウスのVL遺伝子配列を発現させること、および(c)完全なヒトの抗体を発現させるのに十分な条件の下で細胞を維持し、抗体を単離することを含む方法が提供される。一実施形態では、細胞は、ヒトCH遺伝子配列と融合される本明細書に記載の第二の免疫化マウスの第二のVH遺伝子配列を含み、第一のVH遺伝子配列は第一のエピトープを認識するVHドメインをコードし、第二のVH遺伝子配列は第二のエピトープを認識するVHドメインをコードし、ここで、第一のエピトープおよび第二のエピトープは同一でない。
【0040】
一態様では、エピトープ結合性タンパク質の作製方法であって、目的のエピトープを含む免疫原に本明細書に記載のマウスを曝露させること、目的のエピトープに特異的に結合する免疫グロブリン分子をマウスが生成するのに十分な条件の下でマウスを維持すること、および目的のエピトープに特異的に結合する免疫グロブリン分子を単離することを含み、エピトープ結合性タンパク質は、マウスCLおよびヒトVκ1−39Jκ5またはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントに由来するヒトVLを含む軽鎖に会合している、体細胞変異ヒトVHおよびマウスCHを含む重鎖を含む方法が提供される。
【0041】
一態様では、エピトープ結合性タンパク質を発現する細胞であって、(a)ヒト免疫グロブリン軽鎖定常ドメインcDNA配列(例えば、ヒトκ定常ドメインDNA配列)と(直接的に、またはリンカーを通して)融合される、ヒトVκ1−39Jκ5またはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントに由来するヒトVLドメインをコードするヒトVLヌクレオチド配列、および(b)第一のヒトVHヌクレオチド配列に由来するヒトVHドメインをコードする第一のヒトVHヌクレオチド配列であって、ヒト免疫グロブリン重鎖定常ドメインcDNA配列と(直接的に、またはリンカーを通して)融合される、第一のヒトVHヌクレオチド配列、を含み、エピトープ結合性タンパク質は第一のエピトープを認識する、細胞が提供される。一実施形態では、エピトープ結合性タンパク質は、10−6M未満、10−8M未満、10−9M未満、10−10M未満、10−11M未満または10−12M未満の解離定数で第一のエピトープに結合する。
【0042】
一実施形態では、細胞は、第二のヒトVHドメインをコードする第二のヒトVHヌクレオチド配列を含み、第二のヒトVH配列はヒト免疫グロブリン重鎖定常ドメインcDNA配列と(直接的に、またはリンカーを通して)融合され、第二のヒトVHドメインは第一のエピトープを特異的に認識せず(例えば10−6M、10−5M、10−4Mまたはそれ以上の解離定数を例えば示す)、エピトープ結合性タンパク質は第一のエピトープおよび第二のエピトープを認識し、第一および第二の免疫グロブリン重鎖は(a)の同一の軽鎖と各々会合する。
【0043】
一実施形態では、第二のVHドメインは、10−6M未満、10−7M未満、10−8M未満、10−9M未満、10−10M未満、10−11M未満または10−12M未満の解離定数で第二のエピトープに結合する。
【0044】
一実施形態では、エピトープ結合性タンパク質は、ヒトVκ1−39Jκ5またはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントから選択されるヒトVL遺伝子セグメントに由来する同一の軽鎖と各々会合している第一の免疫グロブリン重鎖および第二の免疫グロブリン重鎖を含み、第一の免疫グロブリン重鎖はナノモルからピコモルの範囲の解離定数で第一のエピトープに結合し、第二の免疫グロブリン重鎖はナノモルからピコモルの範囲の解離定数で第二のエピトープに結合し、第一のエピトープおよび第二のエピトープは同一でなく、第一の免疫グロブリン重鎖は第二のエピトープに結合しないか、マイクロモルの範囲より弱い(例えば、ミリモルの範囲)解離定数で第二のエピトープに結合し、第二の免疫グロブリン重鎖は第一のエピトープに結合しないか、マイクロモルの範囲より弱い(例えば、ミリモルの範囲)解離定数で第一のエピトープに結合し、VL、第一の免疫グロブリン重鎖のVHおよび第二の免疫グロブリン重鎖のVHの1つまたは複数は、体細胞変異している。
【0045】
一実施形態では、第一の免疫グロブリン重鎖はプロテインA結合性残基を含み、第二の免疫グロブリン重鎖はプロテインA結合性残基を欠く。
【0046】
一実施形態では、細胞は、CHO、COS、293、HeLa、およびウイルス核酸配列を発現する網膜細胞(例えば、PERC.6TM細胞)から選択される。
【0047】
一態様では、ヒトVHおよびマウス重鎖定常ドメイン、ヒトVLおよびマウス軽鎖定常ドメインを含むリバースキメラ抗体が提供され、ここで、抗体は、本明細書に記載されるマウスをエピトープを含む免疫原で免疫化することを含むプロセスによって作製され、抗体は、マウスを免疫化した免疫原のエピトープに特異的に結合する。一実施形態では、VLドメインは、体細胞変異している。一実施形態では、VHドメインは、体細胞変異している。一実施形態では、VLドメインおよびVHドメインの両方は、体細胞変異している。一実施形態では、VLはマウスκ定常ドメインに連結される。
【0048】
一態様では、内因性マウス遺伝子座の全てまたは実質的に全てのマウス重鎖可変遺伝子セグメントを置換するヒト重鎖可変遺伝子セグメント、全てのマウス軽鎖可変遺伝子セグメントを置換する、再構成されたVκ1−39/Jおよび再構成されたVκ3−20/Jセグメントまたはその組合せから選択される1つまたは2つ以下のヒト軽鎖可変遺伝子セグメントを含むマウスが提供され、ヒト重鎖可変遺伝子セグメントはマウス定常遺伝子と連結され、ヒト軽鎖可変遺伝子セグメント(複数可)はヒトまたはマウスの定常遺伝子と連結される。
【0049】
一態様では、ヒト重鎖可変遺伝子セグメントによる全てまたは実質的に全てのマウス重鎖可変遺伝子セグメントの置換、および1つまたは2つ以下の再構成されたヒト軽鎖V/Jセグメントを含むマウスES細胞が提供され、ここで、ヒト重鎖可変遺伝子セグメントはマウス免疫グロブリン重鎖定常遺伝子と連結され、ヒト軽鎖V/Jセグメントはマウスまたはヒトの免疫グロブリン軽鎖定常遺伝子と連結される。具体的な実施形態では、軽鎖定常遺伝子は、マウスの定常遺伝子である。
【0050】
一態様では、本明細書に記載されるマウスによって作製される抗原結合性タンパク質が提供される。具体的な実施形態では、抗原結合性タンパク質は、マウス定常領域と融合されたヒト免疫グロブリン重鎖可変領域、およびVκ1−39遺伝子セグメントまたはVκ3−20遺伝子セグメントに由来するヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、軽鎖定常領域はマウスの定常領域である。
【0051】
一態様では、本明細書に記載されるマウスからの免疫グロブリン可変領域遺伝子配列から作製される完全なヒトの抗原結合性タンパク質が提供され、ここで、抗原結合性タンパク質は、本明細書に記載されるマウスの配列に由来するヒト可変領域を含む完全にヒトの重鎖、およびVκ1−39またはVκ3−20可変領域を含む完全にヒトの軽鎖を含む。一実施形態では、軽鎖可変領域は1から5個の体細胞変異を含む。一実施形態では、軽鎖可変領域は、マウスのB細胞で重鎖可変領域と対になる関連軽鎖可変領域である。
【0052】
一実施形態では、完全なヒトの抗原結合性タンパク質は、第一の重鎖および第二の重鎖を含み、第一の重鎖および第二の重鎖は、本明細書に記載されるマウスに独立して由来する同一でない可変領域を含み、第一および第二の重鎖の各々は、Vκ1−39遺伝子セグメントまたはVκ3−20遺伝子セグメントに由来するヒト軽鎖と関連する宿主細胞から発現する。一実施形態では、第一の重鎖は第一の抗原の第一のエピトープに特異的に結合する第一の重鎖可変領域を含み、第二の重鎖は第二の抗原の第二のエピトープに特異的に結合する第二の重鎖可変領域を含む。具体的な実施形態では、第一の抗原および第二の抗原は異なる。具体的な実施形態では、第一の抗原および第二の抗原は同じであり、第一のエピトープおよび第二のエピトープは同一でない。具体的な実施形態では、結合性タンパク質の第一の分子による第一のエピトープの結合は、結合性タンパク質の第二の分子による第二のエピトープの結合をブロックしない。
【0053】
一態様では、本明細書に記載されるマウスのヒト免疫グロブリン配列に由来する完全なヒトの結合性タンパク質は、第一の免疫グロブリン重鎖および第二の免疫グロブリン重鎖を含み、第一の免疫グロブリン重鎖は、第二の免疫グロブリン重鎖の可変領域と同一ではない第一の可変領域を含み、第一の免疫グロブリン重鎖は、野生型プロテインA結合性決定基を含み、第二の重鎖は、野生型プロテインA結合性決定基を欠く。一実施形態では、第一の免疫グロブリン重鎖は単離条件の下でプロテインAに結合し、第二の免疫グロブリン重鎖はプロテインAに結合しないか、第一の免疫グロブリン重鎖が単離条件の下でプロテインAに結合するよりも少なくとも10倍、100倍または1000倍弱くプロテインAに結合する。具体的な実施形態では、第一および第二の重鎖はIgG1アイソタイプであり、第二の重鎖は95R(EU 435R)、96F(EU 436F)およびその組合せから選択される改変を含み、第一の重鎖はそのような改変を欠く。
【0054】
一態様では、二重特異的抗原結合性タンパク質の作製方法であって、本明細書に記載される第一のマウスを、第一のエピトープを含む目的の第一の抗原に曝露させること、本明細書に記載される第二のマウスを、第二のエピトープを含む目的の第二の抗原に曝露させること、第一および第二のマウスに目的の抗原への免疫応答を各々開始させること、目的の第一の抗原の第一のエピトープに結合する第一のヒト重鎖可変領域を第一のマウスで同定すること、目的の第二の抗原の第二のエピトープに結合する第二のヒト重鎖可変領域を第二のマウスで同定すること、目的の第一の抗原の第一のエピトープに結合する第一の重鎖をコードする第一の完全なヒトの重鎖遺伝子を作製すること、目的の第二の抗原の第二のエピトープに結合する第二の重鎖をコードする第二の完全なヒトの重鎖遺伝子を作製すること、ヒトVκ1−39またはヒトVκ3−20遺伝子セグメントに由来する単一の完全なヒトの軽鎖を発現する細胞で第一の重鎖および第二の重鎖を発現させて二重特異的抗原結合性タンパク質を形成すること、ならびに二重特異的抗原結合性タンパク質を単離することを含む方法が提供される。
【0055】
一実施形態では、第一の抗原および第二の抗原は同一でない。
【0056】
一実施形態では、第一の抗原および第二の抗原は同じであり、第一のエピトープおよび第二のエピトープは同一でない。一実施形態では、第一のエピトープへの第一の重鎖可変領域の結合は、第二のエピトープへの第二の重鎖可変領域の結合をブロックしない。
【0057】
一実施形態では、第一の抗原は可溶性抗原および細胞表面抗原(例えば、腫瘍抗原)から選択され、第二の抗原は細胞表面受容体を含む。具体的な実施形態では、細胞表面受容体は免疫グロブリン受容体である。具体的な実施形態では、免疫グロブリン受容体はFc受容体である。一実施形態では、第一の抗原および第二の抗原は同じ細胞表面受容体であり、第一のエピトープへの第一の重鎖の結合は第二のエピトープへの第二の重鎖の結合をブロックしない。
【0058】
一実施形態では、軽鎖の軽鎖可変ドメインは、2から5個の体細胞変異を含む。一実施形態では、軽鎖可変ドメインは、第一または第二の重鎖可変ドメインを有する第一または第二の免疫化マウスのB細胞で発現される体細胞変異関連軽鎖である。
【0059】
一実施形態では、第一の完全なヒトの重鎖は、プロテインAへのその親和性を低減するアミノ酸改変を有し、第二の完全なヒトの重鎖はプロテインAへのその親和性を低減する改変を含まない。
【0060】
一態様では、本発明に従って作製されたヒト重鎖可変ドメインを含む抗体または二重特異性抗体が提供される。別の態様では、完全なヒトの抗体または完全なヒトの二重特異性抗体を作製するための本明細書に記載されるマウスの使用が提供される。
【0061】
本明細書に記載される実施形態および態様のいずれも、特に明記しない限り、または文脈から明らかでない限り、互いに一緒に用いることができる。他の実施形態は、後に続く記載の概観から当業者にとって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子セグメントをヒトVκ1−39Jκ5遺伝子領域で置換するためのターゲティング戦略を説明する。
【図2】図2は、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子セグメントをヒトVκ3−20Jκ1遺伝子領域で置換するためのターゲティング戦略を説明する。
【図3】図3は、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子セグメントをヒトVpreB/Jλ5遺伝子領域で置換するためのターゲティング戦略を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明は特定の方法、および記載される実験条件に限定されず、したがって、方法および条件は変更することができる。本発明の範囲は請求項の範囲によって規定されるので、本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を記載することだけを目的とし、限定するものではないことも理解するべきである。
【0064】
別に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての用語および語句は、反対が明らかに示されるか、その用語または語句が用いられる文脈から明らかに明白でない限り、その用語および語句が当技術分野で獲得した意味を含む。本明細書に記載される方法および材料に類似するか同等であるいかなる方法および材料も本発明の実施または試験で用いることができるが、特定の方法および材料がこれから記載される。言及された全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
本明細書で用いる用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続する4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子を含む。各重鎖は、重鎖可変(VH)領域および重鎖定常領域(CH)を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変(VL)領域および軽鎖定常領域(CL)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存されている領域の間に散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分化することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序で配置される3つのCDRおよび4つのFRを含む:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(重鎖CDRは、HCDR1、HCDR2およびHCDR3と略すことができ;軽鎖CDRは、LCDR1、LCDR2およびLCDR3と略すことができる)。用語「高親和性」抗体は、その標的エピトープに関して約10−9M以下のK(例えば、約1×10−9M、1×10−10M、1×10−11Mまたは約1×10−12M)を有する抗体を指す。一実施形態では、Kは表面プラズモン共鳴、例えばBIACORETMによって測定され、別の実施形態では、KはELISAによって測定される。
【0066】
語句「二重特異性抗体」は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することが可能な抗体を含む。二重特異性抗体は、2つの同一ではない重鎖を一般に含み、各重鎖は、2つの異なる分子上(例えば、2つの異なる免疫原上の異なるエピトープ)または同じ分子上(例えば、同じ免疫原上の異なるエピトープ)の異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第一のエピトープおよび第二のエピトープ)に選択的に結合することが可能な場合、第一のエピトープに対する第一の重鎖の親和性は、第二のエピトープに対する第一の重鎖の親和性より少なくとも1桁から2桁、または3桁または4桁またはそれ以上一般に低く、逆もまた同じである。二重特異性抗体が特異的に結合するエピトープは、同じか異なる標的の上(例えば、同じか異なるタンパク質の上)にあってよい。二重特異性抗体は、例えば、同じ免疫原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作ることができる。例えば、同じ免疫原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、同じか異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合させることができ、そのような配列は免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞で発現させることができる。一般的な二重特異性抗体は、各々3つの重鎖CDRと、続く(N末端からC末端にかけて)CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインを有する2つの重鎖、ならびに、エピトープ結合特異性を付与しないが各重鎖と会合することができるか、または各重鎖と会合することができ、かつ重鎖エピトープ結合性領域が結合するエピトープの1つもしくは複数に結合することができるか、または各重鎖と会合することができ、かつ一方もしくは両方のエピトープへの重鎖の一方もしくは両方の結合を可能にすることができる免疫グロブリン軽鎖を有する。
【0067】
用語「細胞」には、組換え核酸配列を発現させるのに適する任意の細胞が含まれる。細胞には、原核生物および真核生物(単細胞または多細胞)のもの、細菌細胞(例えば、E.coliの株、Bacillus spp.、Streptomyces spp.など)、マイコバクテリウム細胞、真菌細胞、酵母細胞(例えば、S.cerevisiae、S.pombe、P.pastoris、P.methanolicaなど)、植物細胞、昆虫細胞(例えば、SF−9、SF−21、バキュロウイルス感染昆虫細胞、Trichoplusia niなど)、ヒト以外の動物細胞、ヒト細胞、または細胞融合体、例えばハイブリドーマもしくはクアドローマが含まれる。一部の実施形態では、細胞はヒト、サル、類人猿、ハムスター、ラットまたはマウスの細胞である。一部の実施形態では、細胞は真核細胞であり、以下の細胞から選択される:CHO(例えば、CHO K1、DXB−11 CHO、Veggie−CHO)、COS(例えば、COS−7)、網膜細胞、Vero、CV1、腎臓(例えば、HEK293、293 EBNA、MSR 293、MDCK、HaK、BHK)、HeLa、HepG2、WI38、MRC 5、Colo205、HB 8065、HL−60(例えば、BHK21)、Jurkat、Daudi、A431(表皮性)、CV−1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS−0、MMT 060562、Sertoli細胞、BRL 3A細胞、HT1080細胞、骨髄腫細胞、腫瘍細胞および前記細胞に由来する細胞系。一部の実施形態では、細胞は、1つまたは複数のウイルス遺伝子を含む(例えばウイルス遺伝子を発現する網膜細胞(例えば、PER.C6TM細胞))。
【0068】
語句「相補性決定領域」または用語「CDR」には、通常(すなわち、野生型動物で)免疫グロブリン分子(例えば、抗体またはT細胞受容体)の軽鎖または重鎖の可変領域の2つのフレームワーク領域の間に現れる、生物体の免疫グロブリン遺伝子の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列が含まれる。CDRは、例えば、生殖系列配列または再構成されたか再構成されていない配列がコードすることができ、例えば、ナイーヴであるか成熟したB細胞またはT細胞がコードすることができる。CDRは体細胞変異してもよく(例えば、動物の生殖系列でコードされている配列と異なる)、ヒト化、および/またはアミノ酸の置換、付加もしくは欠失で改変されてもよい。一部の状況(例えば、CDR3に関して)では、CDRは、2つ以上の配列(例えば、生殖系列配列)であって、(例えば、再構成されていない核酸配列において)不連続であるが、例えば、配列のスプライシングまたは接続の結果として(例えば、V−D−J組換えによって重鎖CDR3を形成する)B細胞核酸配列において連続している、2つ以上の配列(例えば、生殖系列配列)によってコードされてもよい。
【0069】
保存的なアミノ酸置換を記載するために用いられる場合、用語「保存的」には、類似した化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖R基を有する別のアミノ酸残基によるアミノ酸残基の置換が含まれる。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の目的の機能特性、例えば標的エピトープに所望の親和性で特異的に結合する可変領域の能力を実質的に変えない。類似した化学特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンなどの脂肪族側鎖;セリンおよびトレオニンなどの脂肪族ヒドロキシル側鎖;アスパラギンおよびグルタミンなどのアミドを含む側鎖;フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンなどの芳香族の側鎖;リシン、アルギニンおよびヒスチジンなどの塩基性側鎖;アスパラギン酸およびグルタミン酸などの酸性側鎖;ならびにシステインおよびメチオニンなどの硫黄を含む側鎖が含まれる。保存的アミノ酸置換基には、例えば、バリン/ロイシン/イソロイシン、フェニルアラニン/チロシン、リシン/アルギニン、アラニン/バリン、グルタミン酸/アスパラギン酸、およびアスパラギン/グルタミンが含まれる。一部の実施形態では、例えばアラニンスキャニング変異生成で用いられるように、保存的アミノ酸置換は、アラニンによるタンパク質の任意の天然の残基の置換であってよい。一部の実施形態では、参照により本明細書に組み込まれるGonnetら(1992年)Exhaustive Matching of the Entire Protein Sequence Database、Science256巻:1443〜45頁に開示されるPAM250対数尤度マトリックスで正の値を有する保存的置換がもたらされる。一部の実施形態では、置換は、PAM250対数尤度マトリックスで置換が負ではない値を有するような適度に保存的な置換である。
【0070】
一部の実施形態では、免疫グロブリン軽鎖または重鎖での残基位置は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換によって異なる。一部の実施形態では、免疫グロブリン軽鎖またはその機能的断片(例えば、B細胞などからの発現および分泌を可能にする断片)における残基位置は、アミノ酸配列が本明細書に記載されている軽鎖と同一ではなく、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換によって異なる。
【0071】
語句「エピトープ結合性タンパク質」には、少なくとも1つのCDRを有し、エピトープを選択的に認識することが可能な、例えばエピトープに約1マイクロモル以下のK(例えば、約1×10−6M、1×10−7M、1×10−9M、1×10−9M、1×10−10M、1×10−11Mまたは約1×10−12MのK)で結合することが可能であるタンパク質が含まれる。治療的なエピトープ結合性タンパク質(例えば、治療的な抗体)は、ナノモルまたはピコモルの範囲のKをしばしば必要とする。
【0072】
語句「機能的断片」には、発現、分泌させることができ、マイクロモル、ナノモルまたはピコモルの範囲のKでエピトープに特異的に結合するエピトープ結合性タンパク質の断片が含まれる。特異的な認識には、少なくともマイクロモルの範囲、ナノモルの範囲またはピコモルの範囲のKを有することが含まれる。
【0073】
用語「生殖系列」には、非体細胞変異細胞、例えば非体細胞変異B細胞またはプロB細胞または造血細胞中の免疫グロブリン核酸配列への言及が含まれる。
【0074】
語句「重鎖」または「免疫グロブリン重鎖」には、任意の生物体からの免疫グロブリン重鎖定常領域配列が含まれる。特に明記しない限り、重鎖可変ドメインには3つの重鎖CDRおよび4つのFR領域が含まれる。重鎖の断片には、CDR、CDRおよびFR、ならびにその組合せが含まれる。一般的な重鎖は、可変ドメインに続いて(N末端からC末端に向かって)CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインを有する。重鎖の機能的断片には、エピトープを特異的に認識する(例えば、マイクロモル、ナノモルまたはピコモルの範囲のKでエピトープを認識する)ことが可能で、細胞から発現および分泌させることが可能で、少なくとも1つのCDRを含む断片が含まれる。
【0075】
配列に関連して用いられる場合、用語「同一性」には、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列の同一性を測定するために用いることができる当技術分野で公知であるいくつかの異なるアルゴリズムで決定される同一性が含まれる。本明細書に記載される一部の実施形態では、同一性は、10.0のオープンギャップペナルティ、0.1のエクステンドギャップペナルティを使用するClustalW v.1.83(スロー)アラインメントを用い、およびGonnetの類似度マトリックス(MacVectorTM10.0.2、MacVector Inc.、2008)を用いて決定される。配列の同一性に関して比較される配列の全長は特定の配列に依存するが、軽鎖定常ドメインの場合、全長は、自己会合して正規の軽鎖定常ドメインを形成することが可能な、例えばベータストランドを含む2つのβシートを形成することが可能であり、およびヒトまたはマウスの少なくとも1つのCH1ドメインと相互作用することが可能な軽鎖定常ドメインに折り畳まれるのに十分な長さの配列を含むべきである。CH1ドメインの場合、配列の全長は、ベータストランドを含む2つのβシートを形成することが可能であり、およびマウスまたはヒトの少なくとも1つの軽鎖定常ドメインと相互作用することが可能なCH1ドメインに折り畳まれるのに十分な長さの配列を含むべきである。
【0076】
語句「免疫グロブリン分子」には、2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖が含まれる。重鎖は同一であっても異なってもよく、軽鎖は同一であっても異なってもよい。
【0077】
語句「軽鎖」には、任意の生物体からの免疫グロブリン軽鎖配列が含まれ、特に明記しない限りヒトκおよびλ軽鎖およびVpreB、ならびに代わりの軽鎖が含まれる。特に明記しない限り、軽鎖可変(VL)ドメインには3つの軽鎖CDRおよび4つのフレームワーク(FR)領域が一般に含まれる。一般に、完全長軽鎖には、アミノ末端からカルボキシル末端にかけて、FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4を含むVLドメインおよび軽鎖定常ドメインが含まれる。軽鎖には、例えば、軽鎖が現れるエピトープ結合性タンパク質が選択的に結合する第一または第二のエピトープのいずれにも選択的に結合しないものが含まれる。軽鎖には、軽鎖が現れるエピトープ結合性タンパク質が選択的に結合する1つまたは複数のエピトープに結合し認識するものか、重鎖による結合および認識を助けるものがさらに含まれる。共通の軽鎖はヒトVκ1−39Jκ5遺伝子セグメントまたはヒトVκ3−20Jκ1遺伝子セグメントに由来するものであり、それの体細胞変異(例えば、親和性成熟)バージョンが含まれる。
【0078】
語句「マイクロモルの範囲」は、1〜999マイクロモルを意味するものとする。語句「ナノモルの範囲」は、1〜999ナノモルを意味するものとする。語句「ピコモルの範囲」は、1〜999ピコモルを意味するものとする。
【0079】
語句「体細胞変異」には、クラススイッチングを経たB細胞からの核酸配列への言及が含まれ、ここで、クラススイッチングされたB細胞での免疫グロブリン可変領域の核酸配列(例えば、重鎖可変ドメインまたは重鎖CDRもしくはFR配列を含む)は、クラススイッチングの前のB細胞の核酸配列に同一でなく、例えば、クラススイッチングを経ていないB細胞とクラススイッチングを経たB細胞との間のCDRまたはフレームワーク核酸配列において差がある。「体細胞変異」には、親和性成熟していないB細胞での対応する免疫グロブリン可変領域配列(すなわち、生殖系列細胞のゲノム中の配列)に同一ではない親和性成熟B細胞からの核酸配列への言及が含まれる。語句「体細胞変異」には、目的のエピトープへのB細胞の曝露の後のB細胞からの免疫グロブリン可変領域核酸配列への言及も含まれ、ここで、核酸配列は、目的のエピトープへのB細胞の曝露の前の対応する核酸配列と異なる。語句「体細胞変異」は、免疫原チャレンジに応じて動物で、例えばヒト免疫グロブリン可変領域核酸配列を有するマウスで生成される、そのような動物で生得的に作動する選択プロセスから生じる抗体からの配列を指す。
【0080】
核酸配列に関して用語「再構成されていない」には、動物細胞の生殖系列に存在する核酸配列が含まれる。
【0081】
語句「可変ドメイン」には、N末端からC末端(特に明記しない限り)の順序での以下のアミノ酸領域を含む免疫グロブリン軽鎖または重鎖(所望により改変される)のアミノ酸配列が含まれる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0082】
共通の軽鎖
有用な多重特異性エピトープ結合性タンパク質、例えば二重特異性抗体を作製するこれまでの努力は、共通のパラダイムをしばしば共有する様々な問題によって妨害された:ヘテロダイマー二重特異的ヒト免疫グロブリンを対合させるのに適するフォーマットを、合理的に操作するか、試行錯誤を通して遺伝子操作するための配列のin vitro選択または操作。残念ながら、in vitro操作手法の全てではないにしてもそのほとんどは、個々の分子に適する(あるとしても)主にその場しのぎの修正を提供する。他方、ヒト治療法へと導くことが可能である適当な対合を選択するために複雑な生物体を使用するためのin vivo方法は、実現されていない。
【0083】
一般に、天然のマウス配列は、しばしば、ヒトの治療的な配列のための良い供給源ではない。少なくともその理由から、共通のヒト軽鎖と対合するマウス重鎖免疫グロブリン可変領域を生成することは、実用性において限定される。共通のヒト軽鎖と結合する能力を維持し、かつエピトープの特異性および親和性を保持することを望みながら、不確定な結果を伴ってマウス重鎖可変配列をヒト化しようと試みるための試行錯誤のプロセスにおいて、より多くのin vitro操作努力が費やされる。そのようなプロセスの終わりに、最終生成物は特異性および親和性の一部を維持し、かつ共通の軽鎖と会合することができる場合があるが、最終的にはヒトでの免疫原性が根深いリスクとして残るだろう。
【0084】
したがって、ヒト治療法を作るのに適するマウスは、内因性のマウス重鎖可変領域遺伝子セグメントの代わりに、ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントの好適に大きなレパートリーを含むであろう。ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントは、リバースキメラ重鎖(すなわち、ヒト可変ドメインおよびマウス定常領域を含む重鎖)を形成するために、再構成して、内因性マウス重鎖定常ドメインと再結合することができるべきである。重鎖は、クラススイッチングおよび体細胞超変異が可能であるべきであり、これにより、重鎖可変ドメインの好適に大きなレパートリーを、マウスがヒト軽鎖可変領域の限られたレパートリーと会合することができるものを選択するために、利用可能である。
【0085】
複数の重鎖について共通の軽鎖を選択するマウスは、実際的な有用性を有する。様々な実施形態では、共通の軽鎖だけを発現することができるマウスで発現する抗体は、同一であるか実質的に同一の軽鎖と会合して発現することができる重鎖を有する。これは、二重特異性抗体の作製で特に有益である。例えば、そのようなマウスは第一の免疫原で免疫化して、第一のエピトープに特異的に結合する抗体を発現するB細胞を生成することができる。マウス(または、遺伝的に同じマウス)は、第二の免疫原で免疫化して、第二のエピトープに特異的に結合する抗体を発現するB細胞を生成することができる。重鎖可変領域はB細胞からクローニングすることができ、同じ重鎖定常領域および同じ軽鎖と共に発現し、かつ細胞で発現されて二重特異性抗体を作製することができ、ここで、二重特異性抗体の軽鎖成分は、軽鎖成分と会合して発現するようにマウスによって選択される。
【0086】
可変領域が生殖系列配列から逸脱する重鎖、例えば親和性成熟または体細胞変異可変領域を含む、重鎖のかなり多様なファミリーと好適に対合する免疫グロブリン軽鎖を生成するために、発明者らはマウスを操作した。様々な実施形態では、マウスは、ヒト軽鎖可変ドメインが、体細胞変異を含むヒト重鎖可変ドメインと対合するように工夫され、このようにして、ヒト治療法として使用するのに適する高親和性結合性タンパク質への経路を可能にする。
【0087】
生物体における抗体選択の長く複雑なプロセスを介して、遺伝子操作マウスは、ヒト重鎖可変ドメインの多様なコレクションを限定された数のヒト軽鎖選択肢と対合させることにおいて、生物学的に適当な選択をする。これを達成するために、多様なヒト重鎖可変ドメイン選択肢と一緒に限定された数のヒト軽鎖可変ドメイン選択肢を提示するようにマウスは操作される。免疫原チャレンジに際して、マウスは免疫原に対する抗体を発生させるためにそのレパートリーにおける解法の数を最大にし、これは、そのレパートリーでの軽鎖選択肢の数によって大きく、またはそれ単独で制限される。様々な実施形態では、これは、軽鎖可変ドメインの好適で適合性の体細胞変異をマウスに達成させることを含み、該変異は、それにもかかわらず、特に体細胞変異ヒト重鎖可変ドメインを含む、比較的多様なヒト重鎖可変ドメインに適合する。
【0088】
限られたレパートリーの軽鎖選択肢を達成するために、天然のマウス軽鎖可変ドメインを作製または再構成する能力を、非機能的または実質的に非機能的にするようにマウスを操作する。これは、例えば、マウスの軽鎖可変領域遺伝子セグメントを欠失させることによって達成することができる。内因性マウス遺伝子座は、次に、外来性のヒト可変領域遺伝子セグメントが再構成して内因性マウス軽鎖定常領域遺伝子と再結合でき、再構成されたリバースキメラ軽鎖遺伝子(ヒト可変、マウス定常)を形成することができる方法で、選択された外来性の好適なヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメント(これは、内因性のマウス軽鎖定常ドメインに作動可能に連結される)によって改変され得る。様々な実施形態では、軽鎖可変領域は、体細胞変異させることが可能である。様々な実施形態では、体細胞変異を得る軽鎖可変領域の能力を最大にするために、適当なエンハンサー(複数可)がマウスで保持される。例えば、ヒトκ可変領域遺伝子セグメントで内因性マウスκ可変領域遺伝子セグメントを置換するためにマウスκ遺伝子座を改変することにおいて、マウスのκイントロンエンハンサーおよびマウスκ3’エンハンサーは機能的に維持されるか、破壊されない。
【0089】
多様なリバースキメラ(ヒト可変、マウス定常)重鎖と会合する限られたレパートリーのリバースキメラ(ヒト可変、マウス定常)軽鎖を発現する遺伝子操作マウスが提供される。様々な実施形態では、内因性マウスκ軽鎖可変領域遺伝子セグメントが欠失し、内因性マウスκ定常領域遺伝子に作動可能に連結される単一の(または2つの)ヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントで置換される。ヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントの体細胞超変異を最大にするための実施形態では、マウスκイントロンエンハンサーおよびマウスκ3’エンハンサーが維持される。様々な実施形態では、マウスは非機能的なλ軽鎖遺伝子座、またはその欠失、またはその遺伝子座がλ軽鎖を作製できないようにする欠失をさらに含む。
【0090】
様々な実施形態では、内因性マウス軽鎖可変遺伝子セグメントを欠き、マウス定常領域に作動可能に連結されるヒト可変遺伝子セグメント(一実施形態では再構成されたヒトV/J配列)を含む、軽鎖可変領域遺伝子座を含む遺伝子操作マウスが提供され、ここで、遺伝子座は体細胞超変異を経ることが可能であり、および遺伝子座は、マウス定常領域に連結されたヒトV/J配列を含む軽鎖を発現する。したがって、様々な実施形態では、遺伝子座はマウスκ3’エンハンサーを含み、それは正常または野生型のレベルの体細胞超変異と相関している。
【0091】
目的の抗原で免疫化されるとき、様々な実施形態での遺伝子操作マウスは、1つまたは2つの再構成された軽鎖を発現し、軽鎖と共に機能するヒト免疫グロブリン重鎖可変領域の多様な再構成を示すB細胞を生成し、これには、1つまたは2つの軽鎖が、例えば1から5個の体細胞変異を含むヒト軽鎖可変領域を含む実施形態が含まれる。様々な実施形態では、そのように発現されるヒト軽鎖は、マウスで発現される任意のヒト免疫グロブリン重鎖可変領域と会合して発現することが可能である。
【0092】
複数のエピトープに結合するエピトープ結合性タンパク質
本明細書に記載される組成物および方法は、複数のエピトープに高親和性で結合する結合性タンパク質、例えば二重特異性抗体を作製するために用いることができる。本発明の利点には、その各々が単一の軽鎖と会合する好適に高い結合性の(例えば、親和性成熟した)重鎖免疫グロブリン鎖を選択する能力が含まれる。
【0093】
二重特異的結合性タンパク質の合成および発現は、一部は、2つの異なる重鎖と会合して発現することができる好適な軽鎖を同定することに関連する問題のため、および一部は、単離の問題のために厄介であった。本明細書に記載される方法および組成物は、遺伝子改変マウスが、他の点では天然であるプロセスを介して、体細胞変異された(例えば、親和性成熟した)重鎖を含む複数の重鎖と会合して発現することができる好適な軽鎖を選択することを可能にする。リバースキメラ重鎖(すなわち、ヒト可変およびマウス定常)を有する親和性成熟抗体を発現する、本明細書に記載される免疫化マウスの適するB細胞からのヒトVLおよびVH配列を同定して、適するヒト定常領域遺伝子配列(例えば、ヒトIgG1)を有する発現ベクターにインフレームでクローニングすることができる。2つのそのような構築物を調製することができ、ここで、各構築物は異なるエピトープに結合するヒト重鎖可変ドメインをコードする。生殖系列配列における、またはB細胞(ここで、配列は体細胞変異されている)からのヒトVLの1つ(例えば、ヒトVκ1−39Jκ5またはヒトVκ3−20Jκ1)は、適するヒト定常領域遺伝子(例えば、ヒトκ定常遺伝子)にインフレームで融合させることができる。これら3つの完全なヒトの重鎖および軽鎖構築物は、発現のために適する細胞に入れることができる。細胞は、2つの主要な種を発現する:同一の軽鎖を有するホモダイマー重鎖、および同一の軽鎖を有するヘテロダイマー重鎖。これらの主要な種の容易な分離を可能にするために、重鎖の1つはプロテインA結合決定基が削除されるように改変され、これにより、ヘテロダイマー結合性タンパク質とは異なるホモダイマー結合性タンパク質の親和性がもたらされる。この問題に対処する組成物および方法は、参照により本明細書に組み込まれる、US2010/0331527A1として公開された、20010年6月25日に出願された「Readily Isolated Bispecific Antibodies with Native Immunoglobulin Format」という名称のUSSN12/832,838に記載される。
【0094】
一態様では、本明細書に記載されるエピトープ結合性タンパク質が提供され、ここで、ヒトVLおよびVH配列は、目的のエピトープを含む抗原で免疫化されている本明細書に記載されるマウスに由来する。
【0095】
一実施形態では、第一および第二のポリペプチドを含むエピトープ結合性タンパク質が提供され、第一のポリペプチドは、N末端からC末端にかけて、第一のエピトープに選択的に結合する第一のエピトープ結合性領域、続いてIgG1、IgG2、IgG4およびその組合せから選択されるヒトIgGの第一のCH3領域を含む定常領域を含み;第二のポリペプチドは、N末端からC末端にかけて、第二のエピトープに選択的に結合する第二のエピトープ結合性領域、続いてIgG1、IgG2、IgG4およびその組合せから選択されるヒトIgGの第二のCH3領域を含む定常領域を含み、第二のCH3領域は、プロテインAへの第二のCH3ドメインの結合を低減または除去する改変を含む。
【0096】
一実施形態では、第二のCH3領域はH95R改変を含む(IMGTエクソンナンバリングによる;EUナンバリングによりH435R)。別の実施形態では、第二のCH3領域はY96F改変をさらに含む(IMGT;EUによりY436F)。
【0097】
一実施形態では、第二のCH3領域は改変ヒトIgG1に由来し、D16E、L18M、N44S、K52N、V57MおよびV82I(IMGT;EUによりD356E、L358M、N384S、K392N、V397MおよびV422I)からなる群より選択される改変をさらに含む。
【0098】
一実施形態では、第二のCH3領域は改変ヒトIgG2に由来し、N44S、K52NおよびV82I(IMGT;EUによりN384S、K392NおよびV422I)からなる群より選択される改変をさらに含む。
【0099】
一実施形態では、第二のCH3領域は改変ヒトIgG4に由来し、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79QおよびV82I(IMGT;EUによりQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419QおよびV422I)からなる群より選択される改変をさらに含む。
【0100】
複数のエピトープに結合するエピトープ結合性タンパク質を作製するための1つの方法は、目的の第一のエピトープを含む抗原で本発明による第一のマウスを免疫化することであり、ここで、マウスは、軽鎖を再構成して形成することが可能な内因性マウスVLを含まない内因性免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子座を含み、ここで、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子座はマウス内因性軽鎖定常領域遺伝子に作動可能に連結される単一のヒトVL遺伝子セグメントであり、ヒトVL遺伝子セグメントは、ヒトVκ1−39Jκ5およびヒトVκ3−20Jκ1から選択され、内因性マウスVH遺伝子セグメントは、ヒトVH遺伝子セグメントによって全部または一部が置換され、したがって、マウスによって作製される免疫グロブリン重鎖は、もっぱらまたは実質的に、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを含む重鎖である。免疫化されるとき、そのようなマウスは、2つのヒト軽鎖可変ドメインの1つだけ(例えば、ヒトVκ1−39Jκ5またはヒトVκ3−20Jκ1の1つ)を含むリバースキメラ抗体を作る。目的のエピトープに結合するVHをコードするB細胞が同定されると、VH(および、任意選択でVL)のヌクレオチド配列を引き出して(例えば、PCRによって)、適するヒト免疫グロブリン定常ドメインとインフレームで発現構築物にクローニングすることができる。第二のエピトープに結合する第二のVHドメインを同定するためにこのプロセスを繰り返すことができ、第二のVH遺伝子配列を引き出して、第二の適する免疫グロブリン定常ドメインとインフレームで発現ベクターにクローニングすることができる。第一および第二の免疫グロブリン定常ドメインは、同じか異なるアイソタイプであってよく、免疫グロブリン定常ドメインの1つ(他のものではない)を、本明細書またはUS2010/0331527A1に記載されるように改変することができ、エピトープ結合性タンパク質を適する細胞で発現させ、例えばUS2010/0331527A1に記載されるように、ホモダイマーエピトープ結合性タンパク質と比較してプロテインAに対するその異なった親和性に基づいて単離することができる。
【0101】
一実施形態では、二重特異的エピトープ結合性タンパク質の作製方法であって、本明細書に記載されるマウスから第一の親和性成熟(例えば、1つまたは複数の体細胞超変異を含む)ヒトVHヌクレオチド配列(VH1)を同定すること、本明細書に記載されるマウスから第二の親和性成熟(例えば、1つまたは複数の体細胞超変異を含む)ヒトVHヌクレオチド配列(VH2)を同定すること、VH1をUS2010/0331527A1に記載されるプロテインA決定基改変を欠くヒト重鎖とインフレームでクローニングして重鎖1(HC1)を形成すること、VH2をUS2010/0331527A1に記載されるプロテインA決定基を含むヒト重鎖とインフレームでクローニングして重鎖2(HC2)を形成すること、HC1を含む発現ベクターおよびHC2を含む同じか異なる発現ベクターを細胞に導入することであって、ここで、細胞はヒト軽鎖定常ドメインに融合したヒトVκ1−39/ヒトJκ5またはヒトVκ3−20/ヒトJκ1を含むヒト免疫グロブリン軽鎖をさらに発現する、導入すること、VH1によってコードされるVHドメインおよびVH2によってコードされるVHドメインを含む二重特異的エピトープ結合性タンパク質を細胞に発現させること、ならびに単一特異的なホモダイマーエピトープ結合性タンパク質と比較して、プロテインAに結合するその異なった能力に基づいて二重特異的エピトープ結合性タンパク質を単離すること、を含む方法が提供される。具体的な実施形態では、HC1はIgG1であり、HC2は、改変H95R(IMGT;EUによりH435R)を含み、改変Y96F(IMGT;EUによりY436F)をさらに含むIgG1である。一実施形態では、VH1によってコードされるVHドメイン、VH2によってコードされるVHドメイン、またはその両方は、体細胞変異される。
【0102】
共通のヒトVLと共に発現するヒトVH遺伝子
4つの異なる抗原に対して形成された親和性成熟抗体からの様々なヒト可変領域は、それらの関連軽鎖、またはヒトVκ1−39Jκ5、ヒトVκ3−20Jκ1もしくはヒトVpreBJλ5から選択される少なくとも1つのヒト軽鎖と共に発現された(実施例1を参照)。抗原の各々に対する抗体について、異なる遺伝子ファミリーからの体細胞変異高親和性重鎖は、再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5およびVκ3−20Jκ1領域と上手く対合し、重鎖および軽鎖を発現する細胞から分泌された。Vκ1−39Jκ5およびVκ3−20Jκ1について、以下のヒトVHファミリーに由来するVHドメインが有利に発現した:1−2、1−8、1−24、2−5、3−7、3−9、3−11、3−13、3−15、3−20、3−23、3−30、3−33、3−48、4−31、4−39、4−59、5−51および6−1。したがって、Vκ1−39Jκ5およびVκ3−20Jκ1の片方または両方からヒトVLドメインの限られたレパートリーを発現するように遺伝子操作されているマウスは、ヒトVH遺伝子セグメントでマウスVH遺伝子セグメントを置換するように改変されたVH遺伝子座から、体細胞変異ヒトVHドメインの多様な集団を生成する。
【0103】
単一の再構成された軽鎖(例えば、Vκ1−39/JまたはVκ3−20/J)と会合しているリバースキメラ(ヒト可変、マウス定常)免疫グロブリン重鎖を発現するように遺伝子操作されたマウスは、目的の抗原で免疫化される場合、多様なヒトVセグメント再構成を含み、かつ多様な特性(リガンドへの抗原の結合をブロックする能力に関して、および抗原のバリアントに結合する能力に関して)を有する多様な高親和性抗原特異的抗体を発現するB細胞を生成した(実施例5から10を参照)。
【0104】
したがって、本明細書に記載されるマウスおよび方法は、多様な再構成から生じ、多種多様な親和性を示し(約ナノモルまたはそれ以下のKを示すことを含む)、多種多様な特異性を示し(同じ抗原の異なるエピトープへの結合を含む)、同じか実質的に同じヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域と会合して発現する、体細胞変異ヒト重鎖可変ドメインを含む、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインの作製および選択で有用である。
【0105】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を作製、使用する方法を当業者に説明するために提供され、発明者が彼らの発明とみなすものの範囲を限定するものではない。用いる数(例えば、量、温度など)に関して正確性を保証するように努めたが、多少の実験誤差および逸脱があることが考慮されるべきである。特に明記しない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏で示され、気圧は大気圧またはその近くである。
【実施例】
【0106】
(実施例1)
選択されたヒト軽鎖可変領域と会合するヒト重鎖可変領域の同定
単一の再構成されたヒト生殖系列軽鎖を抗原特異的ヒト抗体からのヒト重鎖と共発現させることができるか否かを判定するために、in vitro発現系を構築した。
【0107】
遺伝子改変マウスでヒト抗体を生成する方法は、公知である(例えば、US6,596,541を参照、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標))。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に応じてヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を生成するように、内因性マウス定常領域遺伝子座に作動可能に連結されたヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有する遺伝子改変マウスの生成を含む。VELOCIMMUNE(登録商標)マウスから生成される抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAは、完全にヒトである。最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高親和性キメラ抗体が単離される。下記のように、抗体は、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付けされ、選択される。マウス定常領域は所望のヒト定常領域で置換され、非IgMアイソタイプ、例えば野生型または改変されたIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4を含む完全にヒトの抗体が生成される。選択される定常領域は具体的な用途によって異なることができるが、高親和性抗原結合および標的特異性特性は可変領域に存在する。
【0108】
VELOCIMMUNE(登録商標)マウスを血管形成を促進する増殖因子(抗原C)で免疫化し、当技術分野で認められる標準技術を用いて抗原特異的ヒト抗体を単離し、V遺伝子の使用について配列決定をした。選択された抗体をヒト重鎖および軽鎖定常領域にクローニングし、69個の重鎖を以下の3つのヒト軽鎖の1つとの対合のために選択した:(1)ヒトκ定常領域に連結された関連κ軽鎖、(2)ヒトκ定常領域に連結された再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5、または(3)ヒトκ定常領域に連結された再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1。重鎖および軽鎖の各対を、標準技術を用いてCHO−K1細胞に共トランスフェクトした。上清中の抗体の存在は、ELISAアッセイで抗ヒトIgGによって検出された。各重鎖/軽鎖対について抗体力価(ng/ml)を決定し、様々な再構成された生殖系列軽鎖による力価を、親の抗体分子(すなわち、関連軽鎖と対になった重鎖)で得られた力価と比較し、天然の力価の百分率を計算した(表1)。V:重鎖可変遺伝子。ND:現在の実験条件下で発現は検出されない。
【0109】
【表1−1】

【0110】
【表1−2】

類似した実験では、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスをいくつかの異なる抗原で免疫化し、抗原特異的ヒト抗体の選択された重鎖を、様々な再構成されたヒト生殖系列軽鎖と対合するそれらの能力について試験した(前記の通り)。この実験で用いた抗原には、コレステロールホメオスタシスに関与する酵素(抗原A)、グルコースホメオスタシスの調節に関与する血清ホルモン(抗原B)、血管形成を促進する増殖因子(抗原C)および細胞表面レセプター(抗原D)が含まれた。抗原特異的抗体は各免疫化群のマウスから単離され、重鎖および軽鎖可変領域がクローニングされ、配列決定された。重鎖および軽鎖の配列から、V遺伝子の使用が決定され、選択された重鎖はそれらの関連軽鎖または再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5領域と対にさせられた。各重鎖/軽鎖対を、CHO−K1細胞に共トランスフェクトし、上清中の抗体の存在はELISAアッセイで抗ヒトIgGによって検出した。各重鎖/軽鎖対について抗体力価(μg/ml)を決定し、様々な再構成されたヒト生殖系列軽鎖による力価を、親の抗体分子(すなわち、関連軽鎖と対になった重鎖)で得られた力価と比較し、天然の力価の百分率を計算した(表2)。V:重鎖可変遺伝子。Vκ:κ軽鎖可変遺伝子。ND:現在の実験条件下で発現は検出されない。
【0111】
【表2−1】

【0112】
【表2−2】

これらの実験から得られた結果は、様々な遺伝子ファミリーからの体細胞変異高親和性重鎖は、再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5およびVκ3−20Jκ1領域と対合することができ、細胞から正常な抗体分子として分泌させることができることを示す。表1に示すように、親の抗体の関連軽鎖と比較して、抗体力価は、再構成されたヒトVκ1−39Jκ5軽鎖と対にした場合、約61%(69中42個)の重鎖で増加し、再構成されたヒトVκ3−20Jκ1軽鎖と対にした場合、約29%(69中20個)の重鎖で増加した。重鎖の約20%(69中14個)について、親の抗体の関連軽鎖と比較して、再構成されたヒト生殖系列軽鎖の両方が発現の増加を付与した。表2に示すように、再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5領域は、親の抗体の関連軽鎖と比較して、様々な異なるクラスの抗原に特異的ないくつかの重鎖の発現の増加を付与した。親の抗体の関連軽鎖と比較して、重鎖の約35%(15/43)で抗体力価は2倍を超えて増加した。2つの重鎖(315および316)では、増加は親の抗体と比較して10倍を超えていた。親の抗体の関連軽鎖と比較して発現の増加を示した全ての重鎖の中で、ファミリー3(V3)の重鎖は、他の重鎖可変領域遺伝子ファミリーと比較してより多く提示されている。これは、再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5およびVκ3−20Jκ1軽鎖と対合するヒトV3重鎖の好ましい関係を示す。
【0113】
(実施例2)
再構成されたヒト生殖系列軽鎖遺伝子座の生成
マウスゲノム細菌人工染色体(BAC)クローン302g12および254m04(Invitrogen)を改変するために、VELOCIGENE(登録商標)技術(例えば、米国特許第6,586,251号およびValenzuelaら(2003年)High−throughput engineering of the mouse genome coupled with high−resolution expression analysis、Nature Biotech.21巻(6号):652〜659頁を参照)を用いて、様々な再構成されたヒト生殖系列軽鎖ターゲッティングベクターが作製された。これらの2つのBACクローンを用いて、ゲノム構築物を単一の再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域を含むように操作し、内因性κ可変および連結遺伝子セグメントを欠失させるために事前に改変しておいた内因性κ軽鎖遺伝子座に挿入した。
【0114】
A.再構成されたヒト生殖系列軽鎖ターゲッティングベクターの構築
当技術分野で認められる標準の分子生物学技術を用いて、3つの異なる再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域を作製した。これらの3つの領域を構築するために用いたヒト可変遺伝子セグメントには、再構成されたヒトVκ1−39Jκ5配列、再構成されたヒトVκ3−20Jκ1配列および再構成されたヒトVpreBJλ5配列が含まれた。
【0115】
マウスVκ3−7遺伝子のエクソン1(リーダーペプチドをコードする)およびイントロン1を含むDNAセグメントを、新規DNA合成(Integrated DNA Technologies)によって作製した。天然に存在するBlpI制限酵素部位までの5’非翻訳領域の一部が含まれた。ヒトVκ1−39およびVκ3−20遺伝子のエクソンを、ヒトゲノムBACライブラリーからPCR増幅した。フォワードプライマーは、マウスVκ3−7遺伝子のイントロン1のスプライス受容部位を含む5’伸長部を有した。ヒトVκ1−39配列のPCRのために用いられたリバースプライマーは、ヒトJκ5をコードする伸長部を含んでいたが、ヒトVκ3−20配列のPCRのために用いられたリバースプライマーはヒトJκ1をコードする伸長部を含んでいた。ヒトVpreBJλ5配列は、新規DNA合成(Integrated DNA Technologies)によって作製した。スプライスドナー部位を含むヒトJκ−Cκイントロンの一部を、プラスミドpBS−296−HA18−PISceIからPCR増幅した。フォワードPCRプライマーは、ヒトJκ5、Jκ1またはJλ5配列のいずれかの一部をコードする伸長部を含んでいた。リバースプライマーは、イントロンにおいて事前に操作されたPI−SceI部位を含んでいた。
【0116】
マウスVκ3−7エクソン1/イントロン1、ヒト可変軽鎖エクソンおよびヒトJκ−Cκイントロン断片を重複伸長PCRによって一つにまとめ(sew)、BlpIおよびPI−SceIで消化し、ヒトVκ3−15可変遺伝子セグメントからのプロモーターを含むプラスミドpBS−296−HA18−PISceIにライゲーションした。プラスミドpBS−296−HA18−PISceI内のloxedハイグロマイシンカセットを、NotIおよびAscI部位が隣接するFRTedハイグロマイシンカセットで置換した。このプラスミドのNotI/PI−SceI断片を、マウスJκ−Cκイントロンの一部、マウスCκエクソン、およびマウスES細胞での相同組み換えのために3’相同性アームを提供したマウスκ遺伝子座の下流のゲノム配列の約75kbを含んでいた改変マウスBAC 254m04にライゲーションした。次にこのBACのNotI/AscI断片を、FRTedネオマイシンカセットおよびマウスES細胞での相同組み換えのための内因性κ遺伝子座の上流のゲノム配列の約23kbを含んでいた改変マウスBAC 302g12にライゲーションした。
【0117】
B.再構成されたヒト生殖系列Vκ1ー39Jκ5ターゲッティングベクター(図1)
ターゲッティングベクターへのクローニングのために、操作軽鎖挿入物の5’末端および3’末端に制限酵素部位を導入した:5’末端にAscI部位、3’末端にPI−SceI部位。5’AscI部位および3’PI−SceI部位の中で、5’から3’までのターゲッティング構築物は、マウスBACクローン302g12から得られた内因性マウスκ軽鎖遺伝子座の5’側配列を含む5’相同性アーム、FRTedネオマイシン耐性遺伝子、ヒトVκ3−15プロモーターを含むゲノム配列、マウスVκ3−7可変遺伝子セグメントのリーダー配列、マウスVκ3−7可変遺伝子セグメントのイントロン配列、再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5領域のオープンリーディングフレーム、ヒトJκ−Cκイントロンの一部を含むゲノム配列、ならびにマウスBACクローン254m04から得られた内因性マウスJκ5遺伝子セグメントの3’側配列を含む3’相同性アームを含んでいた(図1、中央)。内因性マウスκ軽鎖遺伝子座の上流および最も3’側のJκ遺伝子セグメントの下流(例えば、内因性3’エンハンサー)の遺伝子および/または配列は、ターゲッティング構築物によって改変されていなかった(図1を参照)。操作されたヒトVκ1−39Jκ5遺伝子座の配列を、配列番号1に示す。
【0118】
再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域中の配列に位置するプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、BAC DNAへの再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5領域のターゲッティング挿入を確認した。簡潔には、マウスVκ3−7リーダー配列の3’側イントロン配列は、プライマーULC−m1F(AGGTGAGGGT ACAGATAAGT GTTATGAG;配列番号2)およびULC−m1R(TGACAAATGC CCTAATTATA GTGATCA;配列番号3)で確認した。再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5領域のオープンリーディングフレームは、プライマー1633−h2F(GGGCAAGTCA GAGCATTAGC A;配列番号4)および1633−h2R(TGCAAACTGG ATGCAGCATA G;配列番号5)で確認した。ネオマイシンカセットは、プライマーneoF(GGTGGAGAGG CTATTCGGC;配列番号6)およびneoR(GAACACGGCG GCATCAG;配列番号7)で確認した。再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5領域を発現するキメラマウスを生成するための改変ES細胞を形成するために、マウスES細胞をエレクトロポレーションするために、次にターゲッティングBAC DNAを用いた。
【0119】
内因性遺伝子座に挿入された操作されたVκ1−39Jκ5軽鎖領域に特異的なプローブを用いるTAQMANTMスクリーニングおよび核型分析によって、陽性のES細胞クローンを確認した。簡潔には、ネオマイシンマーカー遺伝子の中で結合するプローブneoP(TGGGCACAAC AGACAATCGG CTG;配列番号8)、マウスVκ3−7リーダー配列の3’側のイントロン配列中で結合するプローブULC−m1P(CCATTATGAT GCTCCATGCC TCTCTGTTC;配列番号9)、および再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5オープンリーディングフレーム中で結合するプローブ1633h2P(ATCAGCAGAA ACCAGGGAAA GCCCCT;配列番号10)。生殖系列Vκ1−39Jκ5軽鎖領域を発現する同腹仔を生ませるために、雌性マウスに移植するために、次に陽性のES細胞クローンを用いた。
【0120】
あるいは、再構成されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5軽鎖領域を有するES細胞は、ターゲッティング構築物によって導入されたFRTedネオマイシンカセットを除去するために、FLPを発現する構築物でトランスフェクトされる。任意選択で、ネオマイシンカセットは、FLPリコンビナーゼを発現するマウスを繁殖させることによって除去される(例えば、US6,774,279)。任意選択で、ネオマイシンカセットは、マウスで保持される。
【0121】
C.再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1ターゲッティングベクター(図2)
同じように、再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1領域を発現する操作軽鎖遺伝子座を、5’から3’にかけて、マウスBACクローン302g12から得られた内因性マウスκ軽鎖遺伝子座の5’側配列を含む5’相同性アーム、FRTedネオマイシン耐性遺伝子、ヒトVκ3−15プロモーターを含むゲノム配列、マウスVκ3−7可変遺伝子セグメントのリーダー配列、マウスVκ3−7可変遺伝子セグメントのイントロン配列、再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1領域のオープンリーディングフレーム、ヒトJκ−Cκイントロンの一部を含むゲノム配列、ならびにマウスBACクローン254m04から得られた内因性マウスJκ5遺伝子セグメントの3’側配列を含む3’相同性アームを含むターゲッティング構築物を用いて作製した(図2、中央)。操作されたヒトVκ3−20Jκ1遺伝子座の配列を、配列番号11に示す。
【0122】
再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1軽鎖領域中の配列に位置するプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、BAC DNAへの再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1領域のターゲッティング挿入を確認した。簡潔には、マウスVκ3−7リーダー配列の3’側イントロン配列は、プライマーULC−m1F(配列番号2)およびULC−m1R(配列番号3)で確認した。再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1領域のオープンリーディングフレームは、プライマー1635−h2F(TCCAGGCACC CTGTCTTTG;配列番号12)および1635−h2R(AAGTAGCTGC TGCTAACACT CTGACT;配列番号13)で確認した。ネオマイシンカセットは、プライマーneoF(配列番号6)およびneoR(配列番号7)で確認した。再構成されたヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1軽鎖を発現するキメラマウスを生成するための改変ES細胞を形成するために、マウスES細胞をエレクトロポレーションするために、次にターゲッティングBAC DNAを用いた。
【0123】
内因性κ軽鎖遺伝子座に挿入された操作されたVκ3−20Jκ1軽鎖領域に特異的なプローブを用いるTaqmanTMスクリーニングおよび核型分析によって、陽性のES細胞クローンを確認した。簡潔には、ネオマイシンマーカー遺伝子の中で結合するプローブneoP(配列番号8)、マウスVκ3−7リーダー配列の中で結合するプローブULC−m1P(配列番号9)、およびヒトVκ3−20Jκ1オープンリーディングフレーム中で結合するプローブ1635h2P(AAAGAGCCAC CCTCTCCTGC AGGG;配列番号14)。雌性マウスに移植するために、陽性のES細胞クローンを次に用いた。ヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1軽鎖領域を発現する同腹仔。
【0124】
あるいは、ヒト生殖系列Vκ3−20Jκ1軽鎖領域を有するES細胞は、ターゲッティング構築物によって導入されたFRTedネオマイシンカセットを除去するために、FLPを発現する構築物でトランスフェクトされてもよい。任意選択で、ネオマイシンカセットは、FLPリコンビナーゼを発現するマウスを繁殖させることによって除去されてもよい(例えば、US6,774,279)。任意選択で、ネオマイシンカセットは、マウスで保持される。
【0125】
D.再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5ターゲッティングベクター(図3)
同じように、再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5領域を発現する操作軽鎖遺伝子座を、5’から3’にかけて、マウスBACクローン302g12から得られた内因性マウスκ軽鎖遺伝子座の5’側配列を含む5’相同性アーム、FRTedネオマイシン耐性遺伝子、ヒトVκ3−15プロモーターを含むゲノム配列、マウスVκ3−7可変遺伝子セグメントのリーダー配列、マウスVκ3−7可変遺伝子セグメントのイントロン配列、再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5領域のオープンリーディングフレーム、ヒトJκ−Cκイントロンの一部を含むゲノム配列、ならびにマウスBACクローン254m04から得られた内因性マウスJκ5遺伝子セグメントの3’側配列を含む3’相同性アームを含むターゲッティング構築物を用いて作製した(図3、中央)。操作されたヒトVpreBJλ5遺伝子座の配列を、配列番号15に示す。
【0126】
再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5領域軽鎖領域中の配列に位置するプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、BAC DNAへの再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5領域のターゲッティング挿入を確認した。簡潔には、マウスVκ3−7リーダー配列の3’側イントロン配列は、プライマーULC−m1F(配列番号2)およびULC−m1R(配列番号3)で確認した。再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5領域のオープンリーディングフレームは、プライマー1616−h1F(TGTCCTCGGC CCTTGGA;配列番号16)および1616−h1R(CCGATGTCAT GGTCGTTCCT;配列番号17)で確認した。ネオマイシンカセットは、プライマーneoF(配列番号6)およびneoR(配列番号7)で確認した。再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5軽鎖を発現するキメラマウスを生成するための改変ES細胞を形成するために、マウスES細胞をエレクトロポレーションするために、次にターゲッティングBAC DNAを用いた。
【0127】
内因性κ軽鎖遺伝子座に挿入された操作されたVpreBJλ5軽鎖領域に特異的なプローブを用いるTAQMANTMスクリーニングおよび核型分析によって、陽性のES細胞クローンを確認する。簡潔には、ネオマイシンマーカー遺伝子の中で結合するプローブneoP(配列番号8)、マウスIgVκ3−7リーダー配列の中で結合するプローブULC−m1P(配列番号9)、およびヒトVpreBJλ5オープンリーディングフレーム中で結合するプローブ1616h1P(ACAATCCGCC TCACCTGCAC CCT;配列番号18)。生殖系列軽鎖領域を発現する同腹仔を生ませるために、雌性マウスに移植するために、次に陽性のES細胞クローンを用いる。
【0128】
あるいは、再構成されたヒト生殖系列VpreBJλ5軽鎖領域を有するES細胞は、ターゲッティング構築物によって導入されたFRTedネオマイシンカセットを除去するために、FLPを発現する構築物でトランスフェクトされる。任意選択で、ネオマイシンカセットは、FLPリコンビナーゼを発現するマウスを繁殖させることによって除去される(例えば、US6,774,279)。任意選択で、ネオマイシンカセットは、マウスで保持される。
【0129】
(実施例3)
単一の再構成されたヒト生殖系列軽鎖を発現するマウスの生成
上記のターゲッティングES細胞をドナーES細胞として用い、VELOCIMOUSE(登録商標)法によって8細胞期マウス胚に導入した(例えば、米国特許第7,294,754号およびPoueymirouら(2007年)F0 generation mice that are essentially fully derived from the donor gene−targeted ES cells allowing immediate phenotypic analyses Nature Biotech.25巻(1号):91〜99頁を参照)。特有な再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域の存在を検出する対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら、上記)の改変型を用いる遺伝子タイピングによって、操作されたヒト生殖系列Vκ1−39Jκ5軽鎖領域、Vκ3−20Jκ1軽鎖領域またはVpreBJλ5軽鎖領域を独立して有するVELOCIMICE(登録商標)を同定する。
【0130】
再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域の発現を特徴付けするために、仔を遺伝子タイピングし、特有な再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域についてヘテロ接合である仔を選択する。
【0131】
(実施例4)
単一の再構成されたヒト生殖系列軽鎖を発現するマウスの繁殖
A.内因性Igλノックアウト(KO)
操作された軽鎖遺伝子座の使用を最適化するために、再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域の1つを有するマウスを、内因性λ軽鎖遺伝子座に欠失を含む別のマウスと繁殖させる。この様式において、得られる子孫は、それらの唯一の軽鎖として、実施例2に記載される再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域を発現する。繁殖は、当技術分野で認められる標準技術によって、あるいは商業的な繁殖家(例えば、Jackson Laboratory)によって実施される。操作された軽鎖遺伝子座、および内因性λ軽鎖遺伝子座の欠失を有するマウス系統は、特有な軽鎖領域の存在および内因性マウスλ軽鎖の非存在についてスクリーニングされる。
【0132】
B.ヒト化内因性重鎖遺伝子座
操作されたヒト生殖系列軽鎖遺伝子座を有するマウスは、ヒト重鎖可変遺伝子の遺伝子座による内因性マウス重鎖可変遺伝子の遺伝子座の置換を含むマウスと繁殖させられる(US6,596,541を参照;VELOCIMMUNE(登録商標)マウス、Regeneron Pharmaceuticals,Inc.)。VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは、マウスが抗原刺激に応じてヒト重鎖可変領域およびマウス重鎖定常領域を含む抗体を生成するように、内因性マウス定常領域遺伝子座に作動可能に連結されたヒト重鎖可変領域を含むゲノムを含む。抗体の重鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に連結させる。DNAは次に、抗体の完全なヒトの重鎖を発現することが可能な細胞で発現される。
【0133】
ヒトVH遺伝子座による内因性マウスVH遺伝子座の置換、および内因性κ軽鎖遺伝子座に単一の再構成されたヒト生殖系列VL領域を有するマウスが得られる。目的の抗原による免疫化に際して、単一のヒト軽鎖(ヒトVLおよびマウスCL)と体細胞変異重鎖(ヒトVHおよびマウスCH)を含むリバースキメラ抗体が得られる。抗体を発現するB細胞のVHおよびVLヌクレオチド配列を同定し、完全にヒトの抗体を、適する発現系でVHおよびVLヌクレオチド配列をヒトCHおよびCLヌクレオチド配列と融合させることによって作製する。
【0134】
(実施例5)
ヒト重鎖および再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域を発現するマウスからの抗体の生成
操作されたヒト軽鎖領域を含むマウスを、他の内因性Ig遺伝子座(実施例4に記載の)の改変および欠失を含む様々な所望の系統へ繁殖させた後、選択されたマウスを目的の抗原で免疫化することができる。
【0135】
一般に、単一の再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域の1つを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスは抗原でチャレンジされ、リンパ細胞(B細胞など)が動物の血清から収集される。不死のハイブリドーマ細胞系を調製するためにリンパ細胞を骨髄腫細胞系と融合させ、そのようなハイブリドーマ細胞系は、ヒト可変重鎖および再構成されたヒト生殖系列軽鎖を含む抗体(これは、免疫化のために用いる抗原に特異的である)を生成するハイブリドーマ細胞系を同定するためにスクリーニングおよび選択される。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域に連結させる。内因性マウス配列の存在および内因性遺伝子座に存在するあらゆるさらなるシス活性エレメントのために、各抗体の単一の軽鎖は体細胞変異することがある。これは、単一の軽鎖および多様な重鎖配列を含む抗原特異的レパートリーにさらなる多様性を加える。生じるクローニングされた抗体配列は、CHO細胞などの細胞でその後発現される。あるいは、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAは、抗原特異的リンパ球から直接的に同定される。
【0136】
最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高親和性キメラ抗体が単離される。上記のように、抗体は、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付けされ、選択される。体細胞変異したヒト重鎖および本発明の再構成されたヒト生殖系列軽鎖領域に由来する単一の軽鎖を含む完全なヒトの抗体を生成するために、マウス定常領域は所望のヒト定常領域で置換される。適するヒト定常領域には、例えば野生型または改変型のIgG1またはIgG4が含まれる。
【0137】
ヒトV、DおよびJ遺伝子セグメントによる内因性マウス重鎖遺伝子座の置換、ならびに操作された生殖系列Vκ1−39Jκ5ヒト軽鎖領域または操作された生殖系列Vκ3−20Jκ1ヒト軽鎖領域(上記)による内因性マウスκ軽鎖遺伝子座の置換を含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスの別々のコホートを、ヒト細胞表面レセプタータンパク質(抗原E)で免疫化した。抗原Eは、3〜4日おきの6回の連続的な注射でマウスの後ろの足蹠に直接投与する。注射の前に、2から3マイクログラムの抗原Eを10μgのCpGオリゴヌクレオチド(カタログ♯tlrl−modn−ODN1826オリゴヌクレオチド;InVivogen、SanDiego、CA)および25μgのAdju−Phos(リン酸アルミニウムゲルアジュバント、カタログ♯H−71639−250;Brenntag Biosector、Frederikssund、Denmark)と混合する。屠殺の3〜5日前に与えられる最終抗原リコールの前に、合計6回の注射を与える。4回目および6回目の注射の後に血液を収集し、抗体免疫応答を標準の抗原特異的イムノアッセイによってモニタリングする。
【0138】
所望の免疫応答が達成されるとき、脾細胞を収集し、それらの生存能力を保存し、ハイブリドーマ細胞系を形成するためにマウス骨髄腫細胞と融合させる。抗原E特異的な共通軽鎖抗体を生成する細胞系を同定するために、ハイブリドーマ細胞系をスクリーニングし、選択する。この技術を用いて、いくつかの抗抗原E特異的な共通軽鎖抗体(すなわち、ヒト重鎖可変ドメイン、同じヒト軽鎖可変ドメインおよびマウス定常ドメインを有する抗体)が得られる。
【0139】
あるいは、参照によりその全体が本明細書に具体的に組み込まれるU.S.2007/0280945A1に記載されるように、抗抗原E共通軽鎖抗体は、骨髄腫細胞との融合なしに抗原陽性B細胞から直接的に単離される。この方法を用いて、いくつかの完全なヒトの抗抗原E共通軽鎖抗体(すなわち、ヒト重鎖可変ドメイン、操作されたヒトVκ1−39Jκ5軽鎖か操作されたヒトVκ3−20Jκ1軽鎖領域のいずれか、およびヒト定常ドメインを有する抗体)が得られた。
【0140】
この実施例の方法に従って生成された例示的な抗抗原E共通軽鎖抗体の生物学的特性は、下に示すセクションで詳細に記載される。
【0141】
(実施例6)
抗原特異的共通軽鎖抗体での重鎖遺伝子セグメントの使用
生成されたヒト抗抗原E共通軽鎖抗体の構造を分析するために、重鎖抗体可変領域をコードする核酸をクローニングし、配列決定をした。抗体の核酸配列および予測されたアミノ酸配列から、操作されたヒトVκ1−39Jκ5軽鎖か操作されたヒトVκ3−20Jκ1軽鎖領域のいずれかを含む免疫化VELOCIMMUNE(登録商標)マウスから得られた、選択された共通軽鎖抗体の重鎖可変領域(HCVR)について、遺伝子使用を特定した。結果を表3および4に示す。それらは、ヒトVκ1−39またはヒトVκ3−20に由来する軽鎖だけから軽鎖を発現するマウスを使用するとき、様々な再構成のために、本発明によるマウスが様々なヒト重鎖遺伝子セグメントから抗原特異的共通軽鎖抗体を生成することを示す。2、3、4および5ファミリーのヒトV遺伝子セグメントは、様々なヒトDセグメントおよびヒトJセグメントと再構成されて、抗原特異的抗体を与えた。
【0142】
【表3−1】

【0143】
【表3−2】

【0144】
【表4】

(実施例7)
LuminexTMアッセイによる抗原特異的共通軽鎖抗体のブロック能力の判定
ビーズベースのアッセイで、抗原Eに対する98個のヒト共通軽鎖抗体を、抗原Eへの抗原Eの天然のリガンド(リガンドY)の結合をブロックするそれらの能力について試験した。
【0145】
抗原Eの細胞外ドメイン(ECD)を2つのmycエピトープタグおよび6×ヒスチジンタグとコンジュゲートさせ(抗原E−mmH)、MES緩衝液中の20μg/mLの濃度でカルボキシル化マイクロスフェアにアミンカップリングさせた。混合液を室温で2時間インキュベートし、続いて1MトリスpH8.0でビーズ非活性化を行い、続いて0.05%(v/v)のTween−20を含むPBSで洗浄した。次にビーズを2%(w/v)BSA(Sigma−Aldrich Corp.、St.Louis、MO)を含むPBS(Irvine Scientific、Santa Ana、CA)でブロックした。96穴フィルタープレート中で、抗原E特異的共通軽鎖抗体を含む上清を緩衝液で1:15に希釈した。抗体上清と同じ媒質成分による模擬上清を含む陰性対照を調製した。抗原E標識ビーズを上清に加え、4℃で一晩インキュベートした。ビオチン化リガンドYタンパク質を0.06nMの最終濃度まで加え、室温で2時間インキュベートした。抗原E−myc−myc−6His標識ビーズに結合したビオチン化リガンドYの検出を、ストレプトアビジンとコンジュゲートされたR−フィコエリトリン(Moss Inc、Pasadena、MD)で判定し、続いてLuminexTMフローサイトメトリーベースのアナライザーで測定した。リガンドYのない試料のバックグラウンド平均蛍光強度(MFI)を、全ての試料から引いた。ブロック百分率は、各試料のバックグラウンドを引いたMFIを調整された陰性対照値で割り、100を掛け、生じた値を100から引くことによって計算された。
【0146】
同様の実験において、抗原Eに対する同じ98個のヒト共通軽鎖抗体を、リガンドY標識ビーズへの抗原Eの結合をブロックするそれらの能力について試験した。
【0147】
簡潔には、MES緩衝液に希釈した20μg/mLの濃度で、リガンドYをカルボキシル化マイクロスフェアにアミンカップリングさせた。混合液を室温で2時間インキュベートし、続いて1MトリスpH8でビーズの非活性化を行い、続いて0.05%(v/v)のTween−20を含むPBSで洗浄した。次にビーズを2%(w/v)BSA(Sigma−Aldrich Corp.、St.Louis、MO)を含むPBS(Irvine Scientific、Santa Ana、CA)でブロックした。96穴フィルタープレート中で、抗原E特異的共通軽鎖抗体を含む上清を緩衝液で1:15に希釈した。抗体上清と同じ媒質成分による模擬上清を含む陰性対照を調製した。ビオチン化抗原E−mmHを0.42nMの最終濃度まで加え、4℃で一晩インキュベートした。リガンドY標識ビーズを次に抗体/抗原E混合物に加え、室温で2時間インキュベートした。リガンドYビーズに結合したビオチン化抗原E−mmHの検出は、ストレプトアビジンとコンジュゲートされたR−フィコエリトリン(Moss Inc、Pasadena、MD)で判定し、続いてLuminexTMフローサイトメトリーベースのアナライザーで測定した。抗原Eのない試料のバックグラウンド平均蛍光強度(MFI)を、全ての試料から引いた。ブロック百分率は、各試料のバックグラウンドを引いたMFIを調整された陰性対照値で割り、100を掛け、生じた値を100から引くことによって計算された。
【0148】
表5および6は、両方のLuminexTMアッセイで試験された全98個の抗抗原E共通軽鎖抗体のブロック百分率を示す。ND:現在の実験条件下で判定されない。
【0149】
上記の第一のLuminexTM実験では、Vκ1−39Jκ5操作軽鎖を含む80個の共通軽鎖抗体を、抗原E標識ビーズへのリガンドY結合をブロックするそれらの能力について試験した。これらの80個の共通軽鎖抗体のうち、68個は>50%のブロックを示し、12個は<50%のブロック(6個は25〜50%のブロック、6個は<25%のブロック)を示した。Vκ3−20Jκ1操作軽鎖を含む18個の共通軽鎖抗体については、12個は抗原E標識ビーズへのリガンドY結合の>50%のブロックを示し、6個は<50%のブロック(3個は25〜50%のブロック、3個は<25%のブロック)を示した。
【0150】
上記の第二のLuminexTM実験では、Vκ1−39Jκ5操作軽鎖を含む同じ80個の共通軽鎖抗体を、リガンドY標識ビーズへの抗原Eの結合をブロックするそれらの能力について試験した。これらの80個の共通軽鎖抗体のうち、36個は>50%のブロックを示し、44個は<50%のブロック(27個は25〜50%のブロック、17個は<25%のブロック)を示した。Vκ3−20Jκ1操作軽鎖を含む18個の共通軽鎖抗体については、1個はリガンドY標識ビーズへの抗原Eの結合の>50%のブロックを示し、17個は<50%のブロック(5個は25〜50%のブロック、12個は<25%のブロック)を示した。
【0151】
表5および6のデータは、表3および4に記載される再構成が、その関連受容体抗原EへのリガンドYの結合を様々な程度の効力でブロックした抗抗原E特異的共通軽鎖抗体を生成したことを証明し、このことは、抗原Eに関して重複するおよび重複しないエピトープ特異性を有する抗体を含む表3および4の抗抗原E共通軽鎖抗体と矛盾しない。
【0152】
【表5−1】

【0153】
【表5−2】

【0154】
【表5−3】

【0155】
【表6】

(実施例8)
ELISAによる抗原特異的共通軽鎖抗体のブロック能力の判定
ELISAアッセイにおいて、抗原Eに対するヒト共通軽鎖抗体を、リガンドYコーティング表面への抗原Eの結合をブロックするそれらの能力について試験した。
【0156】
リガンドYをPBSに希釈した2μg/mLの濃度で96穴プレートにコーティングし、一晩インキュベートし、続いて0.05%Tween−20を含むPBSで4回洗浄した。次にプレートを0.5%(w/v)BSA(Sigma−Aldrich Corp.、St.Louis、MO)を含むPBS(Irvine Scientific、Santa Ana、CA)によって室温で1時間ブロックした。別々のプレート中で、抗抗原E共通軽鎖抗体を含む上清を緩衝液で1:10に希釈した。抗体の同じ成分を有する模擬上清を、陰性対照として用いた。抗原E−mmH(上記)を0.150nMの最終濃度まで加え、室温で1時間インキュベートした。次に、リガンドYを含むプレートに抗体/抗原E−mmH混合物を加え、室温で1時間インキュベートした。リガンドYに結合した抗原E−mmHの検出は、抗ペンタ−His抗体とコンジュゲートさせた西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Qiagen、Valencia、CA)で判定し、硫酸によって中和されるテトラメチルベンジジン(TMB)基質(BD Biosciences、San Jose、CA)を用いる標準の比色応答によって発色させた(develop)。吸光度をOD450で0.1秒間読み取った。抗原Eのない試料のバックグラウンド吸光度を、全ての試料から引いた。ブロック百分率は、各試料のバックグラウンドを引いたMFIを調整された陰性対照値で割り、100を掛け、生じた値を100から引くことによって計算された。
【0157】
表7および8は、ELISAアッセイで試験された全98個の抗抗原E共通軽鎖抗体のブロック百分率を示す。ND:現在の実験条件下で判定されない。
【0158】
この実施例に記載されているように、リガンドYコーティング表面への抗原Eの結合をブロックするそれらの能力を試験された、Vκ1−39Jκ5操作軽鎖を含む80個の共通軽鎖抗体のうち、22個は>50%のブロックを示し、58個は<50%のブロック(20個は25〜50%のブロック、38個は<25%のブロック)を示した。Vκ3−20Jκ1操作軽鎖を含む18個の共通軽鎖抗体については、1個はリガンドYコーティング表面への抗原Eの結合の>50%のブロックを示し、17個は<50%のブロック(5個は25〜50%のブロック、12個は<25%のブロック)を示した。
【0159】
これらの結果はまた、抗原Eに関して重複するおよび重複しないエピトープ特異性を有する抗体を含む抗原E特異的共通軽鎖抗体プールと矛盾しない。
【0160】
【表7−1】

【0161】
【表7−2】

【0162】
【表7−3】

【0163】
【表8】

(実施例9)
抗原特異的共通軽鎖抗体についてのBIAcoreTM親和性判定
BIAcoreTMT100機器(GE Healthcare)を用いるSPR(表面プラズモン共鳴)によって、選択された抗体上清の平衡解離定数(K)を判定した。全てのデータは、ランニング緩衝液および試料緩衝液の両方としてHBS−EP(10mM Hepes、150mM NaCl、0.3mM EDTA、0.05%界面活性剤P20、pH7.4)を用いて25℃で得られた。標準のアミンカップリング化学を用いて高密度の抗ヒトFc抗体で事前に誘導体化させたCM5センサーチップ表面で、抗体を粗製上清試料から捕捉した。捕捉工程中、合計3分間、上清を3μL/分の流速で抗ヒトFc表面全域に注入した。捕捉工程の後に、35μL/分の流速で2分間の、ランニング緩衝液または100nMの濃度の分析物の注入が続いた。捕捉された抗体からの抗原の解離を、6分間モニタリングした。捕捉された抗体は、10mMグリシン、pH1.5の短時間注入によって除去した。緩衝液注入からのセンサーグラムを分析物センサーグラムから引き、それによって捕捉表面からの抗体の解離に起因するアーチファクトを除くことによって、全てのセンサーグラムをダブルリファレンス(double reference)とした。BIAcore T100評価ソフトウェアv2.1を用いて、各抗体の結合データを、マストランスポートを有する1:1結合モデルにあてはめた。結果を表9および10に示す。
【0164】
表3および4に示す再構成を含む共通軽鎖抗体の結合親和性は様々であり、ほとんど全てはナノモル範囲のKを示す。親和性データは、高親和性で、クローン選択され、体細胞変異している表3および4に記載の再構成された可変ドメインの組合せ会合から生じる共通軽鎖抗体と矛盾しない。前に示すデータと合わせると、表3および4に記載される共通軽鎖抗体は、抗原Eの上の1つまたは複数のエピトープに特異性を示す、多様な高親和性抗体の集合を含む。
【0165】
【表9−1】

【0166】
【表9−2】

【0167】
【表9−3】

【0168】
【表10−1】

【0169】
【表10−2】

(実施例10)
LuminexTMアッセイによる抗原特異的共通軽鎖抗体の結合特異性の判定
選択された抗抗原E共通軽鎖抗体を、抗原EのECDおよび抗原E ECDバリアントに結合するそれらの能力について試験した(例えば、そのアミノ酸残基の約10%がヒトタンパク質と異なる、カニクイザルオルソログ(Mf抗原E);ECDのC末端から最後の10アミノ酸を欠く抗原Eの欠失変異体(抗原E−ΔCT);ならびにリガンドYとの相互作用が疑われる位置にアラニン置換を含む2つの変異体(抗原E−Ala1および抗原E−Ala2))。抗原Eタンパク質はCHO細胞で生成され、各々はmyc−myc−His C末端タグを含んでいた。
【0170】
結合試験のために、抗mycモノクローナル抗体(MAb 9E10、ハイブリドーマ細胞系CRL−1729TM;ATCC、Manassas、VA)で共有結合コーティングされた1×10個のマイクロスフェア(LuminexTM)ビーズと一緒での室温で2時間のインキュベーションによって、1mLの培養培地からの抗原E ECDタンパク質またはバリアントタンパク質(上記)を捕捉した。次に、ビーズを使用前にPBSで洗浄した。抗抗原E共通軽鎖抗体を含む上清を緩衝液で1:4に希釈し、96穴フィルタープレートに加えた。抗体のない模擬上清を、陰性対照として用いた。捕捉された抗原Eタンパク質を含むビーズを次に抗体試料に加え(ウェルにつき3000個のビーズ)、4℃で一晩インキュベートした。次の日、試料ビーズを洗浄し、結合した共通軽鎖抗体をR−フィコエリトリンとコンジュゲートさせた抗ヒトIgG抗体で検出した。ビーズの蛍光強度(約100個のビーズを各抗原Eタンパク質への各抗体試料の結合について計数した)は、LuminexTMフローサイトメトリーベースのアナライザーで測定し、ビーズ/抗体相互作用につき少なくとも100個の計数されたビーズの中央蛍光強度(MFI)を記録した。結果を表11および12に示す。
【0171】
【表11−1】

【0172】
【表11−2】

【0173】
【表11−3】

【0174】
【表12】

抗抗原E共通軽鎖抗体上清は、抗原E−ECDに連結されたビーズへの高特異的結合を示した。これらのビーズについては、陰性対照模擬上清は、抗原E−ECDビーズ試料と組み合わせたときは無視できるシグナル(<10MFI)をもたらしたが、抗抗原E共通軽鎖抗体を含む上清は、強い結合シグナルを示した(98個の抗体上清については2627の平均MFI;91/98の抗体試料についてはMFI>500)。
【0175】
抗原EのECDの上の異なるエピトープを同定する選択された抗抗原E共通軽鎖抗体の能力の測定手段として、バリアントに対する抗体の相対的結合を判定した。天然の抗原E−ECD結合試験について上で記載したように、全4つの抗原Eバリアントを抗myc LuminexTMビーズに捕捉し、相対的な結合比(MFIバリアント/MFI抗原E−ECD)を判定した。表11および12に示す98個の試験された共通軽鎖抗体上清について、平均比(MFIバリアント/MFI抗原E−ECD)は各バリアントで異なり、ビーズ上でのタンパク質の様々な捕捉量を反映しているようである(抗原E−ΔCT、抗原E−Ala1、抗原E−Ala2およびMf抗原Eについてそれぞれ0.61、2.9、2.0および1.0の平均比)。各タンパク質バリアントについて、98個の試験された共通軽鎖抗体のサブセットの結合は、大きく低減された結合を示し、このことは、所与のバリアントを特徴付けた変異への感度を示した。例えば、共通軽鎖抗体試料の19個は、<8%のMFIバリアント/MFI抗原E−ECDでMf抗原Eに結合した。この群の多くは高いか適度に高い親和性の抗体(5個はK<5nM、15個はK<50nM)を含むので、この群の低いシグナルは、低い親和性からではなく、天然の抗原E−ECDと所与のバリアントとの間の配列(エピトープ)の差への感度から生じるようである。
【0176】
表3および4に記載される共通軽鎖抗体が、抗原Eの上の複数のエピトープを特異的に認識する抗原E特異的共通軽鎖抗体の多様な群を実際に表すことを、これらのデータは証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)内因性マウスκ免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子座における、ヒトVκ1−39/J遺伝子セグメント、ヒトVκ3−20/J遺伝子セグメントまたはその組合せによる、全部または実質的に全部の内因性マウスκ免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子セグメントの置換であって、該ヒト遺伝子セグメントは内因性マウスκ定常遺伝子に作動可能に連結される、置換;および
(b)複数のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントによる、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子の遺伝子座の全部または実質的に全部の置換であって、該ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントは内因性マウス重鎖定常遺伝子に作動可能に連結され、該ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントは、再構成して、再構成されたヒト/マウスキメラ重鎖遺伝子を形成することが可能である、置換
を含む、マウス。
【請求項2】
再構成して、マウスκ可変領域をコードする遺伝子を形成することが可能な内因性マウスκ免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子座を欠く、請求項1に記載のマウス。
【請求項3】
前記マウス軽鎖定常領域の5’にマウスκイントロンエンハンサーをさらに含む、請求項1に記載のマウス。
【請求項4】
マウスκ3’エンハンサーをさらに含む、請求項1に記載のマウス。
【請求項5】
前記複数のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントが、1−2ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、1−8ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、1−24ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、2−5ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−7ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−9ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−11ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−13ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−15ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−20ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−23ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−30ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−33ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−48ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、4−31ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、4−39ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、4−59ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、5−51ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、および6−1ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントから選択されるセグメントを含む、請求項1に記載のマウス。
【請求項6】
前記複数のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントが、D1−7遺伝子セグメント、D1−26遺伝子セグメント、D3−3遺伝子セグメント、D3−10遺伝子セグメント、D3−16遺伝子セグメント、D3−22遺伝子セグメント、D5−5遺伝子セグメント、D5−12遺伝子セグメント、D6−6遺伝子セグメント、D6−13遺伝子セグメント、D7−27遺伝子セグメントおよびその組合せから選択されるセグメントを含む、請求項1に記載のマウス。
【請求項7】
請求項1に記載のマウスであって、該マウスが、再構成された免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子配列を含むB細胞を含み、該再構成された免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子配列が、VH2−5、VH3−23、VH3−30、VH4−39、VH4−59、VH5−51から選択されるVH遺伝子セグメントに由来し、かつD1−7、D1−26、D3−3、D3−16、D3−10、D3−22、D5−5、D5−12、D6−6、D6−13およびD7−27から選択されるD遺伝子セグメントに由来するヒト重鎖可変領域遺伝子を含む、マウス。
【請求項8】
前記ヒトVκ1−39遺伝子セグメントがヒトJκ5遺伝子セグメントとの再構成において存在する、請求項1に記載のマウス。
【請求項9】
前記ヒトVκ3−20遺伝子セグメントがヒトJκ1遺伝子セグメントとの再構成において存在する、請求項1に記載のマウス。
【請求項10】
二重特異性抗体を作製するためのヒト可変領域を選択するための方法であって、
(a)目的の抗原で遺伝子改変マウスを免疫化するステップであって、該マウスは、
(i)内因性マウスκ免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子座における、ヒトVκ1−39/J遺伝子セグメント、ヒトVκ3−20/J遺伝子セグメントまたはその組合せによる、全部または実質的に全部の内因性マウスκ免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子セグメントの置換であって、該ヒト遺伝子セグメントは内因性マウスκ定常遺伝子に作動可能に連結される、置換;および
(ii)複数のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントによる、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子の遺伝子座の全部または実質的に全部の置換であって、該ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントは内因性マウス重鎖定常遺伝子に作動可能に連結され、該ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントは、再構成して、再構成されたヒト/マウスキメラ重鎖遺伝子を形成することが可能である、置換
を含む、ステップと、
(b)該マウスに該目的の抗原への免疫応答を起こさせるステップと、
(c)該目的の抗原に特異的に結合する抗体を発現する該マウスのクローン性選択リンパ球を同定して、該リンパ球または該抗体から、該目的の抗原に特異的に結合するヒト重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を得るステップと、
(d)二重特異性抗体の作製において(c)のヌクレオチド配列を使用するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記マウスが、再構成して、マウスκ可変領域をコードする遺伝子を形成することが可能な内因性マウスκ免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子座を欠く、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記マウス軽鎖定常領域の5’にマウスκイントロンエンハンサーをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
マウスκ3’エンハンサーをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記複数のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントが、1−2ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、1−8ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、1−24ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、2−5ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−7ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−9ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−11ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−13ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−15ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−20ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−23ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−30ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−33ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、3−48ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、4−31ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、4−39ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、4−59ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、5−51ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメント、および6−1ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントから選択されるセグメントを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記複数のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントが、D1−7遺伝子セグメント、D1−26遺伝子セグメント、D3−3遺伝子セグメント、D3−10遺伝子セグメント、D3−16遺伝子セグメント、D3−22遺伝子セグメント、D5−5遺伝子セグメント、D5−12遺伝子セグメント、D6−6遺伝子セグメント、D6−13遺伝子セグメント、D7−27遺伝子セグメントおよびその組合せから選択されるセグメントを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記マウスが、再構成された免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子配列を含むB細胞を含み、該再構成された免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子配列が、VH2−5、VH3−23、VH3−30、VH4−39、VH4−59、VH5−51から選択されるVH遺伝子セグメントに由来し、かつD1−7、D1−26、D3−3、D3−16、D3−10、D3−22、D5−5、D5−12、D6−6、D6−13およびD7−27から選択されるD遺伝子セグメントに由来するヒト重鎖可変領域遺伝子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒトVκ1−39遺伝子セグメントがヒトJκ5遺伝子セグメントとの再構成において存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒトVκ3−20遺伝子セグメントがヒトJκ1遺伝子セグメントとの再構成において存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
請求項10に記載の方法であって、1回目に目的の第一の抗原についてステップ(a)から(d)を実行して、第一のヒト重鎖可変領域配列を生成し、2回目に目的の第二の抗原についてステップ(a)から(d)を実行して、第二のヒト重鎖可変領域配列を生成し、該第一のヒト重鎖可変領域配列を第一のヒト重鎖定常領域と融合させて発現させて第一のヒト重鎖を形成し、該第二のヒト重鎖可変領域配列を第二のヒト重鎖定常領域と融合させて発現させて第二のヒト重鎖を形成し、ここで、該第一のヒト重鎖および該第二のヒト重鎖は、Vκ1−39遺伝子セグメントまたはVκ3−20遺伝子セグメントに由来する単一のヒト軽鎖の存在下で発現させられる、方法。
【請求項20】
前記第一のヒト重鎖が、プロテインAへの該第一のヒト重鎖の親和性を除去するか実質的に低減する改変を含み、前記第二のヒト重鎖が、プロテインAに結合する能力を保持する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第一のヒト重鎖のプロテインAへの親和性を除去するか実質的に低減する前記改変が、95R(EU 435R)、96F(EU 436F)およびその組合せから選択される、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−518597(P2013−518597A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552144(P2012−552144)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2011/023971
【国際公開番号】WO2011/097603
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】