説明

共重合ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる二軸配向フィルム

【課題】機械的特性および温湿度に対する寸法安定性に優れると共に、耐光性も良好な成形品が得られる、新規な共重合ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコールとからなり、式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合が全酸成分を基準として5〜80モル%である共重合ポリエステル中に、樹脂組成物質量を基準として、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾフェノン系紫外線吸収剤を0.5〜10.0質量%含有する共重合ポリエステル樹脂組成物。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れると共に耐光性も良好な成形品を得ることのできる、新規な共重合ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートに代表される芳香族ポリエステルは、優れた機械的特性や化学的特性を有することから、繊維、フィルムまたはボトルなどの成形品に幅広く展開されている。しかしながら、さらなる市場からの高性能化の要求は強く、その改良が望まれている。
【0003】
そのような中で、ポリエチレン−2,6−ナフタレートよりもさらに高性能のポリエステルとして、特許文献1〜4には6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を酸成分とするポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートが提案されている。そして、これらの特許文献によると、このようなポリエステルは非常に寸法安定性に優れ、また非常に高い剛性を発現できることが開示されている。
【0004】
しかしながら、本発明者らの研究によると、これらの公報に記載されたポリエステルは、非常に融点が高く、また結晶性が過度に高いことから、成形加工、特にフィルムなどに製膜しようとすると、溶融押出工程が不安定化したり、延伸時に破断しやすかったりすることが判明した。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平6−145323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートおよびポリエチレン−6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートに変わる新たなポリエステルを提供するために検討し、前述の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合成分として所定量共重合すると、同じヤング率ならポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートと同程度の温度膨張係数を有しつつ、より低い湿度膨張係数を有する、すなわち温湿度変化に対して優れた寸法安定性を有する共重合ポリエステルが得られることを見出し、先に提案した。しかしながら、このように優れた特性を有するポリエステルではあるものの、屋外などで使用する場合には耐光性が未だ不十分であり、用途によってはさらなる改善が必要である。
【0007】
本発明は、上記を背景になされたもので、その目的は、機械的特性および寸法安定性に優れると共に、耐光性も良好な成形体が得られる、新規な共重合ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討し、特定の紫外線吸収剤を配合すれば、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合成分として所定量共重合した共重合ポリエステルの耐光性を改善できることを見出し、さらに検討した結果本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコールからなるグリコール成分とから構成され、下記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合が全酸成分を基準として5〜80モル%の範囲である共重合ポリエステル中に、樹脂組成物質量を基準として、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾフェノン系紫外線吸収剤を0.5〜10.0質量%含有する共重合ポリエステル樹脂組成物が提供される。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]
また、本発明によれば、上記の共重合ポリエステル樹脂組成物からなる二軸配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物を用いて得られるフィルムなどの成形品は、温度膨張係数(αt)および湿度膨張係数(αh)が低く、高弾性でもあることから、温度や湿度などの環境変化に対して優れた寸法安定性を有し、しかも耐光性も良好なので、例えば太陽電池用フィルムなどとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかる共重合ポリエステルは、酸成分が前記式(I)および式(II)からなり、グリコール成分が炭素数2〜4のアルキレングリコールからなる。
前記式(I)で表される酸成分は、Rの部分が炭素数2〜10のアルキレン基で、Rの部分が2,6−ナフタレンジイル基であるものであり、具体的には6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられる。これらの中でも本発明の効果の点からは、Rの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。
【0012】
また前記式(II)で表される酸成分としては、例えばテレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、2,7−ナフタレンジカルボン酸成分などが挙げられる。これらの中でも、機械的特性などの点からテレフタル酸成分、2、6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましく、特に2、6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。
【0013】
また炭素数2〜4のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールが挙げられ、機械的特性などの点からグリコール成分の90モル%以上はエチレングリコール成分であることが好ましく、特に95〜100モル%がエチレングリコールであることが好ましい。
【0014】
ところで、本発明の特徴の一つは、共重合ポリエステルの全酸成分のモル数を基準として、5〜80モル%の範囲で上記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されていることである。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が下限未満では、湿度膨張係数の低減効果などが発現されがたい。一方、上限は成形性などの観点から80モル%以下が好ましく、さらに50モル%未満であることが好ましい。また、驚くべきことに、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分による湿度膨張係数の低減効果は、少量で非常に効率的に発現され、50モル%未満の部分ですでに特許文献3の実施例に記載されたフィルムと同等もしくはそれ以下の湿度膨張係数が達成されており、50モル%以上添加しても湿度膨張係数の観点からの効果は飽和状態になっているといえる。そのような観点から、好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合量の上限は、45モル%以下、さらに40モル%以下、よりさらに35モル%以下、特に30モル%以下であり、他方下限は、5モル%以上、さらに7モル%以上、よりさらに10モル%以上、特に15モル%以上である。
【0015】
このような特定量の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合した共重合ポリエステルを用いることにより、温度膨張係数と湿度膨張係数も小さい成形品、例えばフィルムなどを製造することができる。
【0016】
上記の酸成分とグリコール成分とからなる本発明の共重合ポリエステルは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が0.4〜3dl/gの範囲が好ましく、さらには0.4〜1.5dl/g、特に0.5〜1.2dl/gの範囲が好ましい。
【0017】
さらに、DSCで測定した融点が、200〜260℃の範囲、さらに210〜255℃の範囲、特に220〜253℃の範囲にあることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、溶融押し出しして成形する際に、流動性を高めるにはより高温にすることが必要となって熱劣化しやすくなり、他方溶融温度を低くすると流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなる。一方、上記下限未満になると、製膜性は優れるものの、共重合ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。なお、通常他の酸成分を共重合して融点を下げると同時に機械的特性なども低下するが、本発明の共重合ポリエステルは製膜性が向上するためか、機械的特性なども優れたものとすることができる。
【0018】
また、本発明における共重合ポリエステルは、DSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)が、90〜125℃の範囲、さらには95〜123℃の範囲、特に100〜120℃の範囲にあることが、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。なお、このような融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。
【0019】
ところで、本発明の共重合ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、得られる共重合ポリエステルにそれ自体公知の他の共重合成分を、例えば全酸成分に対して10モル%以下、特に5モル%以下の範囲でさらに共重合していてもよい。
【0020】
本発明においては、上記の共重合ポリエステルに、紫外線吸収剤としてトリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含有させることが肝要である。かかる紫外線級収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などの他の紫外線吸収剤に比べて上記共重合ポリエステルの耐光性を向上させる効果が大きく、しかも成形性よく機械的特性に優れた成形品を得ることができる。
【0021】
好ましく用いられるトリアジン系紫外線吸収剤としては、下記式(A)で表されるものをあげることができる。なかでも、前記式(A)において、Rが−C13で、R、R’、R、R’がともに水素であるトリアジン系紫外線吸収剤A(チバ・ガイギー社製 Tinuvin1577ED)であるものが好ましい。
【0022】
【化1】

(上記式中のRは、炭素数1〜17の分岐してもよく、末端もしくは鎖中に脂環基を有してもよいアルキル基を表し、R、R’、R、R’は、各々独立して水素またはメチル基を表す。)
【0023】
また、好ましく用いられるベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、下記式(B)で表されるものが挙げられる。なかでも、式(B)においてnが4であるベンゾフェノン系紫外線吸収剤B(シプロ化成社製 Seesorb151)が好ましい。
【0024】
【化2】

(上記式中のnは2〜8の整数を表す。)
【0025】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、該組成物質量を基準として、上記のトリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾフェノン系紫外線吸収剤を両者の合計量で0.5〜10.0質量%、好ましくは1.0〜8.0質量%、さらに好ましくは2.0〜6.0質量%の範囲で含有している必要がある。含有量が0.5質量%未満の場合には、これら特定の紫外線吸収剤を用いても耐光性向上効果が不十分となり、一方、10.0質量%を超えると耐光性の向上効果が飽和状態となるだけでなく、生産性が低下し、得られる組成物の成形性も低下するので好ましくない。
【0026】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してもよく、そのようなポリエステル組成物にすることは得られる成形品にさらなる特性を付与できることから好ましい。なお、他の熱可塑性ポリマーとしては、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、液晶性樹脂、さらには6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の共重合量が外れる他のポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【0027】
つぎに、本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物の製造方法について、説明する。
まず、本発明で用いられる前記の共重合ポリエステルは、従来公知のポリエステル製造方法にしたがって製造することができる。例えばアルキレングリコールがエチレングリコールの場合、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体と例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸やテレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、ポリエステル前駆体を製造する。そして、得られたポリエステル前駆体を重縮合触媒の存在下で重縮合し、さらに必要に応じて固相重合することにより製造することができる。なお、前述の式(I)と(II)の割合が異なる2種類のポリエステルを作り、前述の式(I)と(II)の割合が目的となるようにそれらを溶融混練してもよい。この場合、一方のポリエステルとして式(I)の芳香族ジカルボン酸成分を含有しないものを用いても構わない。
【0028】
上記ポリエステル前駆体を製造する工程では、エチレングリコールを全酸成分のモル数に対して、1.1〜6倍モル、さらに2〜5倍モル、特に3〜5倍モル用いることが生産性の点から好ましい。
【0029】
また、ポリエステル前駆体を製造する際の反応温度としては、エチレングリコールの沸点以上で行なうことが好ましく、特に190〜250℃の範囲で行なうことが好ましい。190℃よりも低いと反応が十分に進行しにくく、250℃よりも高いと副反応物であるジエチレングリコールが生成しやすい。また、反応を常圧下で行なうこともできるが、さらに生産性を高めるために加圧下で行なってもよい。
【0030】
このポリエステル前駆体を製造する工程では、公知のエステル化もしくはエステル交換反応触媒を用いてもよい。例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、チタン化合物などがあげられる。
【0031】
つぎに、重縮合温度は、得られる共重合ポリエステルの融点以上でかつ230〜280℃以下、より好ましくは融点より5℃以上高い温度から融点より30℃高い温度の範囲である。重縮合反応では通常50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。50Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合ポリエステルを得ることが困難になる。
【0032】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル化反応やエステル交換反応の触媒として併用してもよい。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、中でも、チタン化合物はエステル化反応やエステル交換反応と重縮合反応との双方の反応で、高い活性を発揮するので好ましい。
【0033】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。かかる触媒量は、共重合ポリエステルの繰り返し単位のモル数に対して、0.001〜0.5モル%、さらには0.005〜0.2モル%が好ましい。
【0034】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物の製造は、前記トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾフェノン系紫外線吸収剤を、前記共重合ポリエステルの重縮合反応系に添加してもよく、また重縮合反応が完了した後に溶融混合してもよい。また、一旦チップ化した共重合ポリエステルを用い、溶融押出し機で前記紫外線吸収剤と溶融混合してもよく、この場合には、該紫外線吸収剤を比較的高濃度に含有するポリエステルチップ(いわゆるマスターバッチ)をチップの状態で混合し、次いで溶融混合する方法が好ましい。
【0035】
次に、本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物を用いて、二軸配向フィルムを製造する方法について説明する。まず、該共重合ポリエステル樹脂組成物のチップを乾燥後、融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す。なお、使用するポリエステル樹脂組成物は、1種類に限られず、例えば前述の式(I)の割合が多いポリマーと、前述の式(II)の多いポリマーとを作り、前述の式(I)と(II)の割合が目的の範囲となるように前記紫外線吸収剤と共に溶融混練して用いてもよく、そのような方法を採用することで、前述の式(I)と(II)の割合を任意に且つ簡便に変更することができる。この場合、一方のポリエステルとして式(I)の芳香族ジカルボン酸成分を含有しないものを用いてもよい。
【0036】
押出されたシート状物は、回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを二軸延伸することで二軸配向フィルムとすることができる。なお、二軸延伸を進行させやすくする観点から、冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましく、20〜60℃の低温で行なうことが好ましい。このような低温で行なうことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行なうことができる。
【0037】
二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸はポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜8倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒熱固定処理するのが好ましい。なお、熱固定の時間はさらに1〜15秒が好ましい。
【0038】
なお、通常であれば、延伸倍率を上げると製膜安定性が損なわれるが、本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は延伸性が高いので、そのような問題は無く、特に延伸倍率をより高くできることから、厚みが10μm以下、特に8μm以下の薄いフィルムでも安定して製膜することができる。フィルム厚みの下限は特に制限されないが、通常1μm程度、好ましくは3μmである。
【0039】
一方、縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも同様に延伸でき、上記逐次二軸延伸で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
また、二軸配向フィルムの表面に塗布層を設けてもよく、その場合、前記した未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述と同様の方法で二軸延伸および熱処理を行なえばよい。
【0040】
以上のようにして得られる本発明の二軸配向フィルムは、製膜方向(MD方向)、幅方向(TD方向)の少なくともいずれか一方の温度膨張係数(αt)が、好ましくは14×10−6/℃以下、より好ましくは10×10−6/℃以下、さらに好ましくは7×10−6℃以下、特に好ましくは5×10−6/℃以下の範囲であることが、雰囲気の温度変化による寸法変化に対して優れた寸法安定性を発現できることから好ましい。
【0041】
また、二軸配向フィルムの製膜方向、幅方向の少なくともいずれか一方の温度膨張係数(αt)の下限は、好ましくは−15×10−6/℃、より好ましくは−10×10−6/℃、さらに好ましくは−7×10−6/℃である。
【0042】
なお、特許文献3によれば、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートを共重合したポリエステルフィルムの温度膨張係数(αt)は大きくなることが予想される。しかし、本発明によれば、特定の共重合比のポリエステルを採用し、かつ延伸することにより、温度膨張係数(αt)を小さくすることができる。
【0043】
本発明の二軸配向フィルムは、製膜方向、幅方向の少なくともいずれか一方の湿度膨張係数(αh)が1×10−6〜7×10−6/%RH、さらに1×10−6〜6×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの製膜方向のヤング率が、好ましくは4.5GPa以上、より好ましくは5GPa以上であることが、高温加工時の伸びを抑制する点から好ましい。フィルムの製膜方向のヤング率(Y)の上限は12GPa程度がフィルムの幅方向にも十分なヤング率を具備させやすいことから好ましい。
【0045】
一方、フィルムの幅方向のヤング率が、6〜14GPa、より好ましくは7〜12GPaの範囲にあることが、フィルムの幅方向の温度膨張係数や湿度膨張係数を上記範囲内に調整しやすいことから好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価し、特に断らない限り、部は質量を基準とした値である。
【0047】
(1)固有粘度
ポリエステルおよび組成物の固有粘度は、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60質量比)の混合溶媒を用いて35℃恒温下オストワルト型粘度計を用いて測定した。
【0048】
(2)樹脂組成物の色相(L*値、a*値、b*値)
共重合ポリエステル樹脂組成物を295℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを180℃、2時間乾燥結晶化処理を行った。その後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL*、a*、及びb*を、マクベス社製分光器(ZE-2000型)を用いて測定した。L*は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、a*はその値が大きいほど赤着色の度合いが大きいことを示し、b*はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。また他の詳細な操作はJIS Z−8729に準じて行った。
【0049】
(3)樹脂組成物の耐光性評価
上記で作成したプレートサンプルを、スガ試験機社製のサンシャインウェザーメーター(S80)により、紫外線の照射を6時間および24時間行なった。紫外線照射前後のプレートの色相をマクベス社製分光器(ZE-2000型)により測定し、6時間照射と24時間照射のb*値の変化量より耐光性を評価した。
【0050】
(4)ヤング率
フィルムをMD方向(またはTD方向)が測定方向となるように試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0051】
(5)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムを、フィルムのMD方向(またはTD方向)が測定方向となるように長さ20mm、幅4mmに切り出し、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0052】
(6)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムを、フィルムのMD方向(またはTD方向)が測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0053】
[実施例1]
(6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸)30kg(74.6モル)と、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル7.8kg(32.0モル)およびエチレングリコール25kgとを攪拌機、精留塔、冷却管を備えた圧力容器に仕込み、150℃まで昇温した。その時点でトリメリット酸チタンをチタン元素として2.3g相当量加え、反応装置全体を窒素にて0.25MPaに加圧して、圧力容器内温を240℃へと昇温した。圧力は常に0.25MPaにコントロールさせ、精留塔の塔頂温度は200℃になると全還流とし、200℃以下では還流比1にて反応を続けた。反応の進行に従い容器内は徐々に透明になり最終的に内温を250℃まで昇温し、液が透明であることを確認して反応終了とした。
【0054】
続いて圧力を常圧に戻しトリメチルフォスフェート9.0gを加え内温を250℃まで再度昇温、余分のエチレングリコールを留出させたのち、平均目開き30μmの金網フィルターを通過させて反応液を重縮合容器に移した。
【0055】
その後反応容器内温を徐々に昇温しながら、ゆっくりと容器内を減圧し、常法に従い高真空下で加熱しながら、最終内温290℃にて所望の粘度に到達した時点で反応を終了させ、吐出部からストランド状に連続的に押し出し、冷却した後カッティングして共重合ポリエステルの粒状ペレットを得た。
【0056】
一方で、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル350部およびエチレングリコール180部とを攪拌機、精留塔、冷却管を備えた圧力容器に仕込み、150℃まで昇温した。その時点でトリメリット酸チタンをチタン元素として0.008部を加え、反応装置全体を窒素にて0.08MPaに加圧して、圧力容器内温を235℃へと徐々に昇温した。圧力は常に0.08MPaにコントロールさせ、精留塔の塔頂温度は還流比1にて反応を続けた。235℃まで昇温したのち圧力を10分間で常圧に戻し、放圧により低下した反応物を再度加熱し220℃とし燐酸トリメチル0.09部を加えさらに昇温させてエチレングリコールの一部を留出させつつ240℃にて反応終了とした。
【0057】
続いて30μmの金網フィルターを通過させて反応液を重縮合容器に移した。その後反応容器内温を徐々に昇温しながら、ゆっくりと容器内を減圧し、290℃、50Paで所定の攪拌電力に到達するまで重縮合反応を続け、固有粘度0.62dl/g、DEG量0.80wt%の2,6−ポリエチレンナフタレート(以下PENと称す)を得た。
【0058】
続いて前記共重合ポリエステルとPENそれぞれのチップを6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分(ENAと称す)が20モル%となるようブレンドして、160℃で12時間乾燥し、振動式定量フィーダーより50kg/hの速度で、ニーディングディスクバドルをスクリュー構成要素として有する同方向回転噛合せ型のベント付き2軸混錬押出し機に供給した。
【0059】
つぎに、式(A)において、Rが−C13で、R、R’、R、R’がともに水素であるトリアジン系紫外線吸収剤A(チバ・ガイギー社製Tinuvin1577ED)を、2軸混練押出し機の上部投入口から振動式定量フィーダーを用いて、含有量が表1に示す2質量%となるように添加した。この際、ベント口の真空度は300Pa、シリンダー温度は290℃、添加時の共重合ポリエステルとPENのブレンドチップの押出し機内における滞留時間は90秒(紫外線吸収剤添加後の混練時間は70秒間)とした。そして、該2軸混錬押出し機内で、紫外線吸収剤を共重合ポリエステルとPENとに溶融混練し、溶融状態でポリマー吐出口から押し出し、冷却後カッティングして、粒状のペレットを得た。
【0060】
このようにして得られた共重合ポリエステル樹脂組成物を、押し出し機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が133℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.8倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、135℃で横方向(幅方向)に延伸倍率8.5倍で延伸し、その後202℃で10秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0061】
[実施例2]
紫外線吸収剤を前記式(B)においてnが4であるベンゾフェノン系紫外線吸収剤B(シプロ化成社製 Seesorb151)に変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0062】
[実施例3〜4]
実施例1において、トリアジン系紫外線吸収剤A(チバ・ガイギー社製Tinuvin1577ED)の含有量が表1に記載のものとなるようにする以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0063】
[実施例5]
実施例1において、前記共重合ポリエステルとPENそれぞれのチップを6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が表1に記載のものになるようブレンドし、縦延伸温度120℃、縦延伸倍率4.5倍、横延伸温度120℃、横延伸倍率9倍、熱固定温度210℃とする以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0064】
[実施例6]
実施例1において、前記共重合ポリエステルとPENそれぞれのチップを6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が表1に記載のものになるようブレンドし、縦延伸温度125℃、縦延伸倍率6.2倍、横延伸温度135℃、横延伸倍率9.5倍、熱固定温度190℃とする以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0065】
[実施例7]
実施例1において、前記共重合ポリエステルとPENそれぞれのチップを6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が表1に記載のものになるようブレンドし、縦延伸温度136℃、縦延伸倍率5.2倍、横延伸温度138℃、横延伸倍率8.2倍、熱固定温度212℃とする以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
紫外線吸収剤を練り込んでいない点以外では、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0067】
[比較例2]
紫外線吸収剤を下記式(C)で示される紫外線吸収剤C(クラリアント・ジャパン社製B−CAP)に変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0068】
【化3】

【0069】
[比較例3]
紫外線吸収剤を下記式(D)で示されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤D(チバ・ガイギー社製 Tinuvin234)に変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた共重合ポリエステル樹脂組成物および二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0070】
【化4】

【0071】
【表1】

【0072】
表中、ENAは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、UV吸収剤AはTinuvin1577ED(チバカイギー株式会社製)、UV吸収剤BはSEESORB151(シプロ化成社製)、UV吸収剤CはB-Cap(クラリアント・ジャパン社製)、UV吸収剤DはTinuvin234 (チバカイギー株式会社製)、である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上に説明した本発明の樹脂組成物からなる二軸配向フィルム等の成形品は、温湿度に対して優れた寸法安定性を有すると共に、耐光性も良好なため、例えば太陽電池用フィルムなどとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコールからなるグリコール成分とから構成され、下記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合が全酸成分を基準として5〜80モル%の範囲である共重合ポリエステル中に、樹脂組成物質量を基準として、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾフェノン系紫外線吸収剤を0.5〜10.0質量%含有する共重合ポリエステル樹脂組成物。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]
【請求項2】
紫外線吸収剤が、下記式(A)で表されるトリアジン系紫外線吸収剤である請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(上記式中のRは、炭素数1〜17の分岐してもよく、末端もしくは鎖中に脂環基を有してもよいアルキル基を表し、R、R’、R、R’は、各々独立して水素またはメチル基を表す。)
【請求項3】
紫外線吸収剤が、下記式(B)で表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤である請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂組成物。
【化2】

(上記式中のnは2〜8の整数を表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂組成物からなる二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2010−31206(P2010−31206A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197750(P2008−197750)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】