説明

内燃機関における冷却用ラジエータの構造

【課題】内燃機関の冷却用ラジエータ1において,そのアッパタンク3内に,上下二室7,8に区成する仕切り板6を位置固定して設ける場合に,その位置固定に要する手数の低減と気密性の確保を図る。
【解決手段】前記アッパタンク3内における前記仕切り板6を,前記アッパタンク3を前記ラジエータ1におけるアッパプレート2に取付けるときに,前記アッパプレート2と,前記アッパタンク3のうち上室7内に設けた支持手段13とで挟んで位置固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,内燃機関において,その冷却液を空冷するために使用されるラジエータの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,完全密閉式冷却システムによる内燃機関に使用されるラジエータには,そのアッパタンクにリザーブタンクを接続し,このリザーブタンクに調圧弁内蔵のラジエータキャップを設けることにより,冷却液からの空気抜き,冷却液の補充等を行なうという構成であった(特許文献1,2参照)が,この従来の構成によると,耐圧性を有するリザーブタンクを必要とすることに加えて,このリザーブタンクとラジエータ及び循環経路との相互間を接続する配管又はホースを必要とすることに加え,支持ブラケットを必要とするから,部品点数が多く,取付けスペースの増大,重量及び価格のアップを招来するのであった。
【0003】
そこで,本発明者達は,特許文献3に示す先の特許出願において,
「冷却用コアにおけるアッパプレートの上面に,アッパタンクを,その間に挟んだシール用ガスケットを圧縮するようにして取付け,このアッパタンクの内部に,当該内部を密閉した上室と前記冷却用コアに連通する下室との上下二室に区成する仕切り板を設け,上室に,調圧弁付きラジエータキャップと内燃機関からの冷却液流入口とを設ける一方,前記仕切り板に,前記上室及び下室の相互間を連通する通孔を設け成るラジエータ。」
を提案した。
【0004】
この先の特許出願の発明のラジエータによると,アッパタンクにおける上室が,前記従来におけるリザーブタンクと同じ作用,つまり,冷却液からの空気抜き及び冷却液の補充等を行なうから,前記従来におけるリザーブタンクを省略することができ,部品点数が少なくなり,取付けスペースの縮小,重量及び価格の低減を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−093668号公報
【特許文献2】特開2004−257717号公報
【特許文献3】特願2010−018225号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,その反面,前記先願発明のラジエータは,前記アッパタンクの内部に設ける仕切り板を,前記アッパタンク内における所定位置に固定する場合に,前記仕切り板の周囲に,下向きに延びる周縁板を一体に設けて,この周縁板を,前記アッパタンクの内周面と前記冷却用コアにおけるアッパプレートとで左右の横方向から挟み付けるという構成にしていた。
【0007】
このために,前記仕切り板における周縁板を,アッパタンクの内周面と前記冷却用コアにおけるアッパプレートとで左右の横方向から挟み付けるように構成することに要する加工工程が複雑になるから,生産性が低いばかりか,前記アッパタンクとアッパプレートとの間における気密性が低いという問題がある。
【0008】
これに加えて,前記アッパプレートとの間におけるシール用ガスケットを,前記アッパタンクの下面と,仕切り板における周縁板の下面との両方に接触するように幅広にしなければならなず,ガスケットの材料費が嵩むことになるから,前記生産性が低いことと相俟って,ラジエータ全体としての製造コストが大幅にアップするという問題を招来するのであった。
【0009】
本発明は,ラジエータにおけるアッパタンクの内部に,当該内部を上下二室に区成する仕切り板を設ける場合において,前記した問題を招来しないようにすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「冷却用コアにおけるアッパプレートの上面に,アッパタンクを,その間に挟んだシール用ガスケットを圧縮するようにして取付け,このアッパタンクの内部に,内燃機関からの冷却液流入口が連通する上室と前記冷却用コアに連通する下室との上下二室に区成する仕切り板を設けて成るラジエータにおいて,
前記アッパタンク内における前記仕切り板は,前記アッパタンクを前記アッパプレートに取付けたときに,前記アッパプレートと,前記アッパタンクのうち上室内に設けた支持手段とで挟まれて位置固定されている。」
ことを特徴としている。
【0011】
また,請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記支持手段は,前記アッパタンクの上室における内側面に,上下方向に延びるように一体に設けた板状リブの形態である。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1によると,アッパタンク内における仕切り板は,前記アッパタンクが取付けられるアッパプレートと,前記アッパタンクのうち上室内に設けた支持手段とで,上下方向から挟まれて位置固定されていることにより,その位置固定に要する加工工程が,先願発明のように,前記仕切り板に設けた下向きの周縁板をアッパタンクの内周面と前記冷却用コアにおけるアッパプレートとで左右の横方向から挟むように構成する場合に比べて,大幅に簡単になって、生産性を向上できるばかりか,前記アッパタンクとアッパプレートとの間における気密性を向上できる。
【0013】
しかも,前記した構成にあることにより,シール用ガスケットは,アッパタンクの下面にのみ接触するだけで良く幅狭にできるから,前記したように生産性を向上できることと相俟って,ラジエータ全体としての製造コストを低減できる。
【0014】
また,請求項2によると,支持手段を,アッパタンクの内側面に上下方向に延びるように一体に設けた板状リブに構成したことにより,この板状リブにて,前記アッパタンクを補強することができるし,前記アッパタンクを合成樹脂製にする場合に,このアッパタンクに前記板状リブを一体に設けて成形できるから,部品点数及び組み立て手数を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ラジエータにおける上端部分の縦断正面図である。
【図2】図1のII−II視拡大断面図である。
【図3】図2のIII −III 視断面図である。
【図4】図1〜図3の要部拡大図である。
【図5】図4の分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の実施の形態を,図1〜図5の図面について説明する。
【0017】
これらの図において,符号1は,内燃機関(図示せず)に対する冷却用のラジエータを示し,このラジエータ1は,従来から良く知られているように,空冷式であり,冷却用コア2と,この冷却用コア2の上部におけるアッパタンク3と,前記冷却用コア2の下部におけるロアタンク(図示せず)とによって構成されている。
【0018】
前記アッパタンク3は,中が見える透明又は半透明の合成樹脂にて下面のみを開放した下向き箱型に構成されており,前記冷却用コア2の上端に固着されている金属板製のアッパプレート4の上面に,ゴム等の軟質弾性材によるシール用ガスケット5を挟んで載せられている。
【0019】
更に,前記アッパタンク3は,前記アッパプレート4の周縁片4a′を前記アッパタンク3の外周に一体に設けたフランジ部3aに対して巻き付けるようにかしめ付けることにより,前記アッパプレート4に,前記ガスケット5を圧縮しながら取付けられている。
【0020】
すなわち,前記アッパプレート4の外周に溝部4aを設け,この溝部4a内に,前記アッパタンク3におけるフランジ部3a及び前記ガスケット5を嵌めることによって位置決めして,この状態で,前記溝部4aの上端における前記周縁片4a′を,前記フランジ部3aの上側にかしめ付けるという構成にしている。
【0021】
この場合,前記周縁片4a′は,前記かしめ付ける以前の状態において,前記溝部4a内へのフランジ部3a及びガスケット5の嵌め込みを容易にすることのために,外向きに傾斜するように開いた構成になっている。
【0022】
そして,このアッパタンク3のアッパプレート4への取付けに際しては,前記かしめ付ける方法に代えて,その間を複数本のボルト又はねじにて前記ガスケット5を圧縮しながら締結するというように他の手段を採用することができることはいうまでもない。
【0023】
前記アッパタンク3内には,合成樹脂にて下向きコ字状断面に構成した仕切り板6を,その下面から適宜高さの位置に挿入することにより,前記アッパタンク3の内部を,この仕切り板6にて,当該仕切り板6より上側の上室7と,当該仕切り板6より下側の下室8とに区成して,前記上室7に,図2及び図3に示すように,ラジエータキャップ9を設けるとともに,前記内燃機関からの冷却液流入口10を設ける一方,前記下室8を,前記冷却用コア2内に連通するように構成している。
【0024】
なお,前記ラジエータキャップ9には,例えば前記特許文献1,2等に記載されているのと同様に,調圧弁11を内蔵している。
【0025】
この調圧弁11は,従来から良く知られているように,加圧弁と負圧弁とで構成されており,内部の圧力が高くなると内部の空気又は冷却液を開口11aから大気中に逃がす一方,内部の圧力が低くなると大気空気を開口11aから吸い込むことにより,内部を所定の圧力に維持するという構成になっている。
【0026】
なお,前記調圧弁11における開口11aには,大気に開放するためのホース11bが接続されている。
【0027】
前記仕切り板6には,ラジエータ1における広い横幅方向の中央の部分,又はこれに近い部分に,前記上室7と下室8の相互間を連通する通孔12が穿設されている。
【0028】
また,前記上室7への冷却液流入口10は,前記通孔12の真上,又はこれに近い部位に位置している。つまり,前記冷却液流入口10も,ラジエータ1における広い横幅方向の中央の部分,又はこれに近い部分に位置している。
【0029】
そして,前記アッパタンク3の上室7における内側面には,上室7の天井面から下向きに延びる板状リブ13が,複数箇所に一体に設けられており,この板状リブ13の下端に,前記仕切り板6における上面が接当することによって支持されており,更に,前記仕切り板6は,前記アッパタンク3を前記アッパプレート4に対してその間のガスケット5を圧縮しながら取付けるときに,前記板状リブ13に対して押し付けるものであり,これにより,前記仕切り板6を,前記アッパプレート4と前記アッパタンク3のうち上室7内に設けた板状リブ13とで上下方向から挟み付けて,所定の高さ位置に位置固定するように構成している。
【0030】
この構成において,内燃機関からラジエータ1に排出される冷却液は,ラジエータ1のアッパタンク3における上室7内に冷却液流入口10より入り,この上室7内から仕切り板6における通孔12を通って下室8内に入り,そして,この下室8からラジエータ1における冷却用コア2に入る経路をとる。
【0031】
これにより,前記冷却液は,アッパタンク3における上室7内に入ったときに,この冷却液中の空気気泡が浮上して分離するというように気液分離され,そして,前記仕切り板6における通孔12から下室8に流入することにより,前記上室7における空気が,前記ラジエータ1の傾き等に起因して下室8内に混入することを,前記仕切り板6にて確実に低減できる。
【0032】
前記アッパタンク3における上室7は,これに調圧弁11を備えたラジエータキャップ9が設けられていることにより,前記従来におけるリザーブタンクと同じ作用,つまり,冷却液からの空気抜き,冷却液の膨張・収縮の吸収及び冷却液の補充等を行なう。
【0033】
前記アッパタンク3における上室7への冷却液流入口10は,前記通孔12の真上の部分又はこれに近い部分に位置していることにより,前記冷却液流入口10から上室7内に入る冷却液は,直ちに,前記仕切り板6における通孔12から下室8内に流れ込むことになるから,前記下室8内への冷却液の流れ込みを,前記ラジエータ1が車両の傾斜等により傾いた場合においても確実に確保できる。
【0034】
また,前記仕切り板6における通孔12は,前記ラジエータ1における広い横幅方向の中央の部分又はこれに近い部分に位置していることにより,前記上室7内における液面が,車両の旋回とか車両の傾斜等に起因して,図1において左右に傾いた場合において,前記仕切り板6における通孔12が前記傾いた液面に露出することを回避できるから,前記通孔12から下室8内に空気が入ることを確実に阻止できる。
【0035】
そして,前記アッパタンク3内における仕切り板6は,前記アッパタンク3が取付けられるアッパプレート4と,前記アッパタンク3のうち上室7内に設けた板状リブ13とで,上下方向から挟まれて所定位置に固定されている。
【0036】
これにより,その位置固定に要する加工工程が,先願発明のように,前記仕切り板に設けた下向きの周縁板をアッパタンクの内周面と前記冷却用コアにおけるアッパプレートとで左右の横方向から挟むように構成する場合に比べて,大幅に簡単になって、生産性を向上できるばかりか,前記アッパタンク3とアッパプレート4との間における気密性を向上できるし,その間におけるシール用ガスケット5の幅寸法を狭くすることができる。
【0037】
なお,前記図示の実施の形態では,前記仕切り板6の上面側をアッパタンク3に対して支持する支持手段を,前記アッパタンク3の内側面に一体に設けた板状リブ13に構成した場合であった。
【0038】
前記支持手段としては,前記板状リブ13に構成することに限らず,例えば,アッパタンク3内の天井面と仕切り板6との間に設けた支持部材に構成するとか,或いは,仕切り板6をアッパタンク3内に設けた段部にて支持するというように,その他の構成にすることができるが,前記実施の形態のように,支持手段を,前記アッパタンク3の内側面に一体に設けた板状リブ13に構成した場合には,この板状リブ13にて,前記アッパタンク3を補強することができるし,前記アッパタンク3を合成樹脂製にする場合に,このアッパタンク3に前記板状リブ13を一体に設けて成形できる。しかも,前記上室7内における液面の動揺及び波立ちを,前記板状リブ13にて小さくするように抑制できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ラジエータ
2 ラジエータにおける冷却用コア
3 ラジエータにおけるアッパタンク
3 アッパタンクにおけるフランジ部
4 ラジエータにおけるアッパプレート
4a アッパプレートにおける溝部
5 シール用ガスケット
6 仕切り板
7 上室
8 下室
9 ラジエータキャップ
10 冷却液流入口
11 調圧弁
12 通孔
13 板状リブ(支持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却用コアにおけるアッパプレートの上面に,アッパタンクを,その間に挟んだシール用ガスケットを圧縮するようにして取付け,このアッパタンクの内部に,内燃機関からの冷却液流入口が連通する上室と前記冷却用コアに連通する下室との上下二室に区成する仕切り板を設けて成るラジエータにおいて,
前記アッパタンク内における前記仕切り板は,前記アッパタンクを前記アッパプレートに取付けたときに,前記アッパプレートと,前記アッパタンクのうち上室内に設けた支持手段とで挟まれて位置固定されていることを特徴とする内燃機関における冷却用ラジエータの構造。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記支持手段は,前記アッパタンクの上室における内側面に,上下方向に延びるように一体に設けた板状リブの形態であることを特徴とする内燃機関における冷却用ラジエータの構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−202571(P2011−202571A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70028(P2010−70028)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)