説明

内燃機関の冷却制御システム

【課題】サーモスタットが不要になり、燃費の向上が図れる内燃機関の冷却制御システムを提供する。
【解決手段】内燃機関Eに第1循環通路3を介して接続され、該第1循環通路3を介して冷却水を循環させることにより内燃機関Eに発生する熱を放熱する第1熱交換器Rと、前記内燃機関Eに第2循環通路6を介して接続され、該第2循環通路6を介して冷却水を循環させることにより内燃機関Eに発生する熱を放熱する車室暖房用の第2熱交換器Hと、前記第1循環通路3に設けられ、冷却水を循環させる第1ポンプ5と、前記内燃機関E内の冷却水の温度を検出する温度検出手段7と、該温度検出手段7により検出される温度に基いて前記内燃機関E内の冷却水の温度が所定の温度になるように前記第1ポンプ5の回転数を制御する制御手段ECUと、前記第2循環通路6に設けられ、前記冷却水の温度が所定の温度よりも低い時に車室暖房を行う場合に冷却水を循環させるための第2ポンプ9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に使用される内燃機関の冷却制御システムに係り、特に冷却水の温度制御手段であるサーモスタットを使用しない内燃機関の冷却制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、自動車に使用される内燃機関(以下、エンジンともいう。)Eにおいては、発生する熱を冷却するための第1の熱交換器であるラジエータRを有する水冷式の冷却制御システムBが使用されている(特許文献1参照)。この冷却制御システムBにおいては、冷却水の温度を制御する温度制御手段としてサーモスタット(サーモスタットバルブともいう。)50が使用されている。冷却水が所定温度よりも低い場合には、サーモスタット50が閉じて冷却水はラジエータR内を流れず、バイパス通路51を循環する。冷却水が所定温度よりも高くなった場合には、サーモスタット50が開いて冷却水はラジエータR内を通って循環する。
【0003】
従来の内燃機関用冷却制御システムBにおいては、シリンダヘッド10aとシリンダブロック10bとから構成されるエンジンEの内部に矢印で示すように冷却水が流れる冷却水通路20が形成されており、エンジンEとラジエータRとの間に冷却水を循環させる第1循環通路30が設けられている。
【0004】
この第1循環通路30は、エンジンEの上部(シリンダヘッド)の冷却水流出部とラジエータRの流入部とを接続する流出通路30aと、ラジエータRの流出部とエンジンEの下部(シリンダブロック)の冷却水流入部とを接続する流入通路30bと、冷却水流出部と冷却水流入部とを直接接続するバイパス通路51とを備えている。そして、流出通路30aとバイパス通路51との分岐部にサーモスタット50が設けられている。
【0005】
このサーモスタット50は、熱変化により膨張又は収縮するワックス等の熱膨張体をその内部に内蔵しており、冷却水温が高い場合には、内部の熱膨張体の膨張によってバルブが開き、冷却水がエンジンEの冷却水流出部から流出通路30aを通ってラジエータRに流入する。そして、ラジエータRによって放熱され、温度の低下した冷却水は流入通路30bを通ってエンジンEの冷却水流入部からエンジンEの冷却水通路20に流入するようになっている。これによりエンジンEの過加熱が防止されている。
【0006】
一方、冷却水温が所定温度よりも低い場合には、サーモスタット50の熱膨張体の収縮によってバルブが閉じ、エンジンEの冷却水流出部から流出した冷却水がバイパス通路51を通ってエンジンEの冷却水流入部から直接エンジン内の冷却水通路20に流れ込むようになっている。これによりエンジンの過冷却が防止されている。
【0007】
エンジンEの冷却水流入部にはウォータポンプ52が設けられ、図示しないクランク軸によりウォータポンプ52が駆動され、冷却水が強制的に循環されるようになっている。また、ラジエータRには強制的に冷却風を取り入れるための冷却ファン40が配置されている。
【0008】
また、内燃機関の冷却制御システムBは、車室暖房用の第2熱交換器であるヒータコアHを備えており、エンジンEとヒータコアHとの間に冷却水を循環させる第2循環通路60が設けられている。この第2循環通路60は、エンジンEの上部のもう一つの冷却水流出部に設けられたコントロールバルブ70とヒータコアHの流入部とを接続する流出通路60aと、ヒータコアHの流出部とエンジンEの前記冷却水流入部とを接続する流入通路60bとを備えている。また、ヒータコアHにはこれより放熱される熱を車室内に送風するためのブロワファン80が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−506616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前記内燃機関の冷却制御システムBにおいては、前記サーモスタット50の通水抵抗が非常に高く、内燃機関全体の通水抵抗の25%を占めている。このため、前記ウォータポンプ52の駆動力が大きくなり、燃費の悪化を招いている。
【0011】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、サーモスタットが不要になり、燃費の向上が図れる内燃機関の冷却制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、内燃機関に第1循環通路を介して接続され、該第1循環通路内に冷却水を循環させることにより内燃機関に発生する熱を放熱する第1熱交換器と、前記内燃機関に第2循環通路を介して接続され、該第2循環通路内に冷却水を循環させることにより内燃機関に発生する熱を放熱する車室暖房用の第2熱交換器と、前記第1循環通路に設けられ、冷却水を循環させる第1ポンプと、前記内燃機関内の冷却水の温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段により検出される温度に基いて前記内燃機関内の冷却水の温度が所定の温度になるように前記第1ポンプの回転数を制御する制御手段と、前記第2循環通路に設けられ、前記冷却水の温度が低い時に車室暖房を行う場合に冷却水を循環させるための第2ポンプとを備えたことを特徴とする。
【0013】
前記制御手段が、前記冷却水の温度が低い時に車室暖房を行う場合に前記第1熱交換器を冷却水が逆流しないように前記第1ポンプを僅かに回転させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サーモスタットが不要になり、燃費の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の冷却制御システムを概略的に示す図である。
【図2】ヒートバランスの計算例を示すグラフである。
【図3】内燃機関の負荷が低い時にヒータを使用した場合のメインポンプの回転数とヒータ及びラジエータの水流量の関係を示すグラフである。
【図4】従来の内燃機関の冷却制御システムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態における内燃機関の冷却制御システムAにおいては、内燃機関である自動車用のエンジンEに第1循環通路3を介して接続され、この第1循環通路3を介して冷却媒体である冷却水(冷却液)を循環させることによりエンジンEに発生する熱を放熱する第1熱交換器であるラジエータRと、前記エンジンEに第2循環通路6を介して接続され、この第2循環通路6内に冷却水を循環させることによりエンジンEに発生する熱を放熱する車室暖房用の第2熱交換器であるヒータコアHとを備えている。
【0018】
前記エンジンEは、シリンダヘッド1aとシリンダブロック1bとから主に構成されており、エンジンE内には矢印で示すように冷却水を循環させる冷却水通路2が形成されている。
【0019】
前記第1循環通路3は、エンジンEの上部(シリンダヘッド)の冷却水流出部とラジエータRの流入部とを接続する流出通路3aと、ラジエータRの流出部とエンジンEの下部(シリンダブロック)の冷却水流入部とを接続する流入通路3bとを備えている。なお、エンジンEの冷却水流入部にはウォータポンプが設けられていない。
【0020】
前記ラジエータRには強制的に冷却風を取り入れるための冷却ファン4が配置されている。この冷却ファン4は、モータ4aによって駆動される電動ファンからなっている。
【0021】
前記第2循環通路6は、エンジンEの上部(シリンダヘッド)のもう一つの冷却水流出部とヒータコアHの流入部とを接続する流出通路6aと、ヒータコアHの流出部と前記第1循環通路3の流入通路3bとを接続する流入通路6bとを備えている。なお、エンジンEのもう一つの冷却水流出部にはコントロールバルブが設けられていない。また、第2循環通路6の流入通路6bは、エンジンEの冷却水流入部に直接接続されていてもよい。
【0022】
前記ヒータコアHにはこれより放熱される熱を車室内に送風するためのブロワファン8が設けられている。このブロワファン8は、モータによって駆動される電動ファンからなっている。
【0023】
前記第1循環通路3の流入通路3bには冷却水を循環させる第1ポンプ5が設けられている。この第1ポンプ5は電動ウォータポンプからなっている。エンジンEにはエンジン内の冷却水の温度を検出する温度検出手段である温度センサ7が設けられ、この温度センサ7により検出される温度に基いて前記冷却水の温度が所定の温度(設定温度、例えば90℃)になるように前記第1ポンプ5の回転数を制御する制御手段であるエンジンコントロールユニット(ECU)100が設けられている。
【0024】
また、前記第2循環通路6の流出通路6aには、冷却水の温度が所定の温度よりも低い時に車室暖房を行う場合に冷却水を循環させるための第2ポンプ9が設けられている。この第2ポンプ9は電動ウォータポンプからなっている。この第2ポンプ9もECU100により制御されるように構成されている。
【0025】
前記ECUは、前記冷却水の温度が所定の温度よりも低い時に車室暖房を行う場合に前記ラジエータRに冷却水が逆流しないように前記第1ポンプ5を僅かに(例えば図3に示すように175rpmで)回転させるように設定されている。
【0026】
次に、以上の構成からなる内燃機関の冷却制御システムAの作用を説明する。本実施形態では、過冷却や過加熱を起こさないように、第1ポンプ5を用いてシリンダヘッド1a内の冷却水温度を所定の温度(例えば90℃)に保つように第1ポンプ5の回転数を制御する。冷却水の温度が所定の温度よりも低い場合(エンジン負荷が低い場合)には第1ポンプ5の回転数を下げて水流量を減らし、冷却水の温度が所定の温度よりも高い場合(エンジン負荷が高い場合)には第1ポンプ5の回転数を上げて水流量を増やして冷却水の温度を一定に保つ。
【0027】
ここで、第1ポンプ5の回転数の制御で冷却水の温度を一定に保つことができる理由を説明する。エンジンEの冷却水の放熱量は燃料流量で一義的に決まる。つまり、エンジンEの冷却水の放熱量はエンジン負荷で一義的に決まる。更に、ラジエータRの放熱量は冷却水流量で一義的に決まる。よって、第1ポンプ5の回転数の制御(流量の制御)を行うことにより、冷却水温を一定に保つことが可能となる。
【0028】
このようなヒートバランスの計算例を示すと、図2に示すようにラジエータの放熱量は、冷却水流量で一義的に決まっている。それぞれの負荷での放熱量は、点線、一点鎖線、二点鎖線で示すように冷却水流量には関係せずにエンジン負荷のみで一義的に決まっている。そして、それぞれのエンジン負荷において、丸印のポイント(冷却水流量)で、内燃機関の冷却水放熱量とラジエータ放熱量が釣り合うことが分かる。また、エンジン内部はサブクール沸騰冷却となっているため、内部の部品温度や水温は、冷却水流量(流速)の影響を受けないので、第1ポンプ5の回転数の制御(流量の制御)を行って水流量が減っても、エンジン内部温度が上がって破損や焼き付きに至ることはない。
【0029】
ECU100によりシリンダヘッド1a内の冷却水温度が一定(所定値)になるように第1ポンプ5の回転数を制御する。エンジン負荷が低い時に車室暖房を行う場合、第1ポンプ5の回転数が低いため、ヒータコアHへの流量が不足する可能性がある。しかしながら、第2循環通路6に第2ポンプ9を備えているため、ヒータコアHへの流量不足を防止することができる。
【0030】
また、エンジン負荷が低い時に車室暖房を行う場合、第1ポンプ5を僅かに回転させることにより、ラジエータRにおける水流量をゼロにする。これにより、ヒータコアHを通過した冷却水がラジエータRで冷やされることを防止することができる。
【0031】
この計算結果は図3に示すように、第1ポンプ5の回転数を徐々に上げていくことでヒータコアHへの水流量を変えずにラジエータRでの水流量がゼロになることが分かる。なお、図3において、ラジエータRでの水流量がマイナスになっているのは、ラジエータRに対して冷却水が逆向き(図1のラジエータRにおける矢印とは逆の方向)に流れているからである。また、エンジン負荷が高く且つ車室暖房を行わない場合には、冷却水がエンジンEを通過するだけでなく、第2循環通路6を逆流する虞があるが、この逆流も第2ポンプ9の駆動により容易に回避することができる。
【0032】
本実施形態によれば、第1ポンプ5及び第2ポンプ9により温度制御を行うことができるため、サーモスタットが不要になり、サーモスタットを廃止することができる。その結果、エンジンEの通水抵抗を25%削減でき、燃費の向上が図れる。また、冷却水温のオーバーシュートやハンチングを防止でき、エンジンEの耐久性の向上が図れる。更に、冷却水の給水時のエア抜けがよく、エンジンEの整備性の向上が図れる。また、従来のウォータポンプ、バイパス通路及びコントロールバルブが不要になり、構造の簡素化が図れる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。例えば、第1ポンプ5、第2ポンプ9は、電動ウォータポンプからなっていることが好ましいが、電磁クラッチを用いた機械駆動方式例えばベルト駆動方式のウォータポンプからなっていてもよく、要はECUで回転数を制御できるポンプであれば駆動方式を問わない。また、冷却ファン4は、モータ駆動ではなく、エンジンによりベルト等を介して駆動されるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
E エンジン(内燃機関)
A エンジンの冷却制御システム
R ラジエータ(第1熱交換器)
H ヒータコア(第2熱交換器)
3 第1循環通路
5 第1ポンプ
6 第2循環通路
7 温度センサ(温度検出手段)
9 第2ポンプ
100 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に第1循環通路を介して接続され、該第1循環通路を介して冷却水を循環させることにより内燃機関に発生する熱を放熱する第1熱交換器と、前記内燃機関に第2循環通路を介して接続され、該第2循環通路を介して冷却水を循環させることにより内燃機関に発生する熱を放熱する車室暖房用の第2熱交換器と、前記第1循環通路に設けられ、冷却水を循環させる第1ポンプと、前記内燃機関内の冷却水の温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段により検出される温度に基いて前記内燃機関内の冷却水の温度が所定の温度になるように前記第1ポンプの回転数を制御する制御手段と、前記第2循環通路に設けられ、前記冷却水の温度が所定の温度よりも低い時に車室暖房を行う場合に冷却水を循環させるための第2ポンプとを備えたことを特徴とする内燃機関の冷却制御システム。
【請求項2】
前記制御手段が、前記冷却水の温度が所定の温度よりも低い時に車室暖房を行う場合に前記第1熱交換器を冷却水が逆流しないように前記第1ポンプを僅かに回転させることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の冷却制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−169237(P2011−169237A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33872(P2010−33872)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)