説明

内燃機関の冷却水回路

【課題】機械駆動式のウオータポンプを用いつつエンジンが低負荷のときエンジンに送られる冷却水の量を少なくできる内燃機関の冷却水回路を提供する。
【解決手段】エンジン2とラジエータ3の間にエンジン回転系により駆動されるウオータポンプ4を備えた内燃機関の冷却水回路1において、ウオータポンプ4のエンジン側とラジエータ側とを接続するバイパス水路5と、バイパス水路5に設けられ、エンジン低負荷のためラジエータ3からの冷却水の水温が低いときにバイパス水路5の流量を増加させるべく開度を増し、エンジン高負荷のためラジエータ3からの冷却水の水温が高いときにバイパス水路5の流量を減少させるべく開度を減らすサーモスタット6とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械駆動式のウオータポンプを用いつつエンジンが低負荷のときエンジンに送られる冷却水の量を少なくできる内燃機関の冷却水回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の冷却水回路では、エンジンとラジエータの間にラジエータからエンジンに冷却水を送り込むためのウオータポンプが設けられる。ウオータポンプは、クランクシャフトによりベルトを介して機械的に駆動される。したがって、エンジン回転数が低いときには、ウオータポンプの回転数が低く、ラジエータからエンジンに送り込まれる冷却水の量は多くはない。逆に、エンジン回転数が高いときには、ウオータポンプの回転数も高いため、ラジエータからエンジンに送り込まれる冷却水の量が多い。
【0003】
以上の構成により、従来の内燃機関の冷却水回路は、エンジン回転数が低いときにはエンジンに送り込まれる冷却水の量が少ないが、エンジン回転数が高くなるとエンジンに送り込まれる冷却水の量が多くなってエンジンからの熱をより多く奪い、より強力に冷却することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−133559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の内燃機関の冷却水回路は、ウオータポンプがエンジンと共に回転するエンジン回転系により機械的に駆動されるため、ウオータポンプの吐出量がエンジン回転数で一義的に決まる。よって、エンジンに送り込まれる冷却水の量がエンジン回転数で一義的に決まり、エンジン回転数が低いときには、エンジンに送り込まれる冷却水の量が少なく、エンジン回転数が高いときには、エンジンに送り込まれる冷却水の量が多いことになる。
【0006】
一方、エンジンにおいては、エンジン回転数が高く、かつ、エンジンが高負荷で運転されていると、前述のように、大量の冷却水が送り込まれて強力に冷却され、好ましい。しかし、エンジン回転数が高いときでも、エンジンが低負荷で運転されている場合は、エンジンにおける水温はあまり高くないので、あまり強力に冷却する必要はない。
【0007】
このように、従来の内燃機関の冷却水回路は、ウオータポンプの吐出量がエンジン回転数のみに依存しているため、エンジン負荷には関係なく、エンジンに送り込まれる冷却水の量が調節される。この結果、エンジン低負荷の場合には、エンジンが必要以上に冷却される過冷却の状態になるという問題がある。
【0008】
また、ウオータポンプが必要以上に駆動されているということは、エンジンの出力エネルギが必要以上に消費されているということであり、無駄な駆動損失が発生するという問題がある。
【0009】
なお、ウオータポンプをエンジン回転系により機械的に駆動せず、電動ウオータポンプを用いて、ECU(エンジン制御装置)からの指令でウオータポンプの吐出量を調節するように構成することはできる。しかし、電動ウオータポンプは、流量能力に比してサイズが大きいため、上記機械駆動式のウオータポンプと同等程度の十分に大きい流量能力を有する電動ウオータポンプを用いようとすると、エンジンルーム内のスペースを消費し、レイアウトが困難になる。また、電動ウオータポンプは上記機械駆動式のウオータポンプよりも値段が高いため、車両のコストダウンの障害となる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、機械駆動式のウオータポンプを用いつつエンジンが低負荷のときエンジンに送られる冷却水の量を少なくできる内燃機関の冷却水回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンとラジエータの間にエンジン回転系により駆動されるウオータポンプを備えた内燃機関の冷却水回路において、上記ウオータポンプのエンジン側とラジエータ側とを接続するバイパス水路と、上記バイパス水路に設けられ、エンジン低負荷のため上記ラジエータからの冷却水の水温が低いときに上記バイパス水路の流量を増加させるべく開度を増し、エンジン高負荷のため上記ラジエータからの冷却水の水温が高いときに上記バイパス水路の流量を減少させるべく開度を減らすサーモスタットとを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0013】
(1)機械駆動式のウオータポンプを用いつつエンジンが低負荷のときエンジンに送られる冷却水の量を少なくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0015】
図1に示されるように、本発明に係る内燃機関の冷却水回路1は、エンジン2とラジエータ3の間にエンジン回転系(図示せず)により駆動されるウオータポンプ4を備えた内燃機関の冷却水回路1において、ウオータポンプ4のエンジン側であるウオータポンプ出口4aとラジエータ側であるウオータポンプ入口4bとを接続するバイパス水路5と、バイパス水路5に設けられ、エンジン低負荷のためラジエータ3からの冷却水の水温が低いときにバイパス水路5の流量を増加させるべく開度を増し、エンジン高負荷のためラジエータ3からの冷却水の水温が高いときにバイパス水路5の流量を減少させるべく開度を減らすサーモスタット(以下、水量調整用サーモスタットと称する)6とを備えたものである。
【0016】
エンジン2の内部には、図示しないが冷却水を循環する冷却水路が設けられている。エンジン2とラジエータ3との間には、エンジン2の内部の冷却水路とラジエータ3とを接続するラジエータ吸い込み水路7が設けられている。ラジエータ吸い込み水路7には、従来より暖機用サーモスタット8が設けられている。暖機用サーモスタット8は、エンジン暖機が未達成のため水温が低いときには閉じられてラジエータ吸い込み水路7の水流を遮断し、エンジン暖機が達成されて水温が高いときには開かれてラジエータ吸い込み水路7の水流を解放するものである。暖機用サーモスタット8の開閉温度は、水量調整用サーモスタット6の開度調整温度とは異なる。なお、図1の暖機用サーモスタット8は、いわゆるアウトレットサーモ(出口サーモ)となっているが、いわゆるインレットサーモ(入口サーモ)であってもよい。
【0017】
以下、動作を説明する。
【0018】
エンジン2が既に暖機され、暖機用サーモスタット8が開かれてラジエータ吸い込み水路7の水流が解放されているものとする。エンジン回転系によりウオータポンプ4が機械的に駆動されることにより、冷却水は、エンジン2の内部からラジエータ吸い込み水路7、ラジエータ3、ウオータポンプ4を通り、再びエンジン2の内部に戻る。
【0019】
ここで、エンジン回転数が高く、かつ、エンジン2が高負荷で運転されているものとする。エンジン高負荷であるため、エンジン2の内部の冷却水の水温はかなり高く、ラジエータ3で熱交換がなされた冷却水は水温が比較的高い。この冷却水がウオータポンプ4を通過しエンジン側に流れてくる。水量調整用サーモスタット6は、ラジエータ3からの冷却水の水温が高いので、開度を減らす方向に動作する。水量調整用サーモスタット6の開度が減ったことにより、バイパス水路5に流れる冷却水の流量が減少する。したがって、ウオータポンプ4のエンジン側であるウオータポンプ出口4aに流出した冷却水の多くがエンジン2に流れ込むことになる。エンジン2は、大量の冷却水が送り込まれて強力に冷却される。
【0020】
次に、エンジン回転数は高いが、エンジン2が低負荷で運転されているものとする。エンジン低負荷であるため、エンジン2の内部の冷却水の水温はエンジン高負荷のときに比べて低く、ラジエータ3で熱交換がなされた冷却水は水温がかなり低い。この冷却水がウオータポンプ4を通過しエンジン側であるウオータポンプ出口4aに流れてくる。水量調整用サーモスタット6は、ラジエータ3からの冷却水の水温が低いので、開度を増やす方向に動作する。水量調整用サーモスタット6の開度が増えたことにより、バイパス水路5に流れる冷却水の流量が増加する。したがって、ウオータポンプ4のエンジン側に流出した冷却水の多くがバイパス水路5に流れてウオータポンプ4のラジエータ側であるウオータポンプ入口4bに戻ることになる。エンジン2は、比較的少量の冷却水により適切に冷却される。
【0021】
このように、エンジン低負荷の場合には、エンジン2に流れ込む冷却水が減少するので、エンジン2が必要以上に冷却される過冷却の状態にはならない。
【0022】
一方、バイパス水路5に流れた冷却水はウオータポンプ4で再びバイパス水路5に循環されることになるが、バイパス水路5はエンジン内に比べて水流に対する抵抗が小さいため、ウオータポンプ4で消費されるエネルギは少ない。よって、エンジン2の出力エネルギはあまり消費されず、無駄な駆動損失は発生しない。
【0023】
図2により、水量調整用サーモスタット6における開度に対するエンジン2とバイパス水路5への流量の特性を説明する。
【0024】
図2に示されるように、ウオータポンプ4の流量は水量調整用サーモスタット6の開度によらず一定である。水量調整用サーモスタット6の開度が0のとき、ウオータポンプ4の全量の冷却水がエンジン2に流入する。水量調整用サーモスタット6の開度が高まるにつれて、ウオータポンプ出口4aからウオータポンプ入口4bに戻る冷却水の水量が増加し、これに伴いエンジン2に流入する冷却水の水量が減少する。
【0025】
図3により、水量調整用サーモスタット6における開度に対するエンジン2の駆動損失の特性を説明する。
【0026】
図3に示されるように、水量調整用サーモスタット6の開度が0のとき、エンジン2の駆動損失は最も大きい。水量調整用サーモスタット6の開度が高まるにつれて、エンジン2の駆動損失は減少する。図2と合わせて考えると、ウオータポンプ4の全量の冷却水がエンジン2に流入するとき、エンジン2の駆動損失は最も大きい。エンジン2に流入する冷却水の水量が減少するにつれて、エンジン2の駆動損失は減少する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態を示す内燃機関の冷却水回路の概略図である。
【図2】水量調整用サーモスタットにおける開度に対する流量の特性図である。
【図3】水量調整用サーモスタットにおける開度に対するエンジンの駆動損失の特性図である。
【符号の説明】
【0028】
1 内燃機関の冷却水回路
2 エンジン
3 ラジエータ
4 ウオータポンプ
5 バイパス水路
6 水量調整用サーモスタット
7 ラジエータ吸い込み水路
8 暖機用サーモスタット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとラジエータの間にエンジン回転系により駆動されるウオータポンプを備えた内燃機関の冷却水回路において、
上記ウオータポンプのエンジン側とラジエータ側とを接続するバイパス水路と、
上記バイパス水路に設けられ、エンジン低負荷のため上記ラジエータからの冷却水の水温が低いときに上記バイパス水路の流量を増加させるべく開度を増し、エンジン高負荷のため上記ラジエータからの冷却水の水温が高いときに上記バイパス水路の流量を減少させるべく開度を減らすサーモスタットとを備えたことを特徴とする内燃機関の冷却水回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−96047(P2010−96047A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266270(P2008−266270)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)