説明

内燃機関の空燃比制御装置

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
この発明は内燃機関の空燃比制御装置に係り、特に減速してアイドル運転状態への移行時にエンジン回転数が一時的に落ち込むのを防止して運転性能を向上し得る内燃機関の空燃比制御装置に関する。
〔従来の技術〕
近時、内燃機関においては、燃料消費率の低減や排気有害成分の低減を図るために、最良の燃焼状態を得るべき空燃比に制御する空燃比制御装置が提案されている。
内燃機関の空燃比制御装置は、内燃機関の吸気通路に設けた吸気絞り弁を迂回する迂回通路を設け、この迂回通路途中に電磁手段たるISC(アイドル回転数制御)用のソレノイドバルブを設け、水温センサやエンジン回転数センサ、そして車速センサ等からの検出信号を入力してソレノイドバルブを0〜100%間のデューティ値でデューティ制御する制御手段たる制御部を設け、この制御部によってソレノイドバルブを作動制御し、迂回通路を通過する空気量を増減して空燃比を制御し、例えばエンジン回転数が上昇側では空気量を減少する一方、エンジン回転数が下降側では空気量を増加して調整することにより、アイドル運転状態のエンジン回転数を目標アイドル回転数に制御しているものがある。
また、空燃比を制御すべく燃料供給量を制御する装置としては、例えば特開昭62−240442号公報に開示されている。この公報に記載のものは、アイドル運転状態でエンジン回転数が所定値未満の際に、燃焼噴射パルス時間を所定に変更してアイドル運転状態における内燃機関の脈動等の発生を防止するものである。
更に、内燃機関の吸入空気量を調整してアイドル運転状態におけるエンジン回転数を制御する装置としては、例えば特開昭61−277841号公報に開示されている。この公報に記載のものは、絞り弁全閉でエンジン回転数が目標アイドル回転数よりも高く且つ目標アイドル回転数と所定回転数との間の基準回転数よりも低い状態が所定時間継続した場合にフィードバックモードによる補助空気量制御を早く開始してエンジン回転数を低くし、燃費の改善を図るものである。
〔発明が解決しようとする問題点〕
ところで、従来のアイドル回転数制御においては、第8図8図に示す如く、走行時にはソレノイドバルブを作動させるデューティ値を前回である発進前のデューティ値aに固定し、そして走行状態から減速してアイドル運転状態の移行時に、つまりアイドルスイッチがオフからオンになった時(経過時間b位置で示す)に、エンジン回転数が急激に低下するのを防止する等でソレノイドバルブをデューティ値100%で経過時間b位置から経過時間c位置までの所定時間dだけ作動制御し、所定時間d経過後にデューティ値を小さくし、経過時間e位置から車速等を考慮したアイドル回転数制御(ISC)条件の成立時(経過時間f位置で示す)までの所定時間gを再び発進前のデューティ値aでソレノイドバルブを作動制御し、そして、アイドル回転数制御の成立後(経過時間f位置以後)に、アイドル回転数制御hを開始させていた。
しかしながら、第8図から明らかな如く、走行運転状態から減速してアイドル運転状態に移行した時に、デューティ値100%でソレノイドバルブを作動制御した後に、急激にデューティ値を小さくして経過時間e位置で発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値aに固定するので、経過時間c位置からe位置までの間において、車両の運転条件や内燃機関の負荷が種々異なる等によってエンジン回転数が一時的に大きく落ち込み(第8図R>図の符号iで示す)エンジンストール等が発生する等で運転性能が損われるという不都合があった。
また、減速してアイドル運転状態に移行した時に、デューティ値を100%にすると、減速時におけるエンジン回転数が徒に高くなり、車速状態によってはエンジンブレーキの効きが悪くなるという不都合を招いた。
〔発明の目的〕
そこで、この発明の目的は、上述の不都合を除去すべく、車両を走行運転状態から減速してアイドル運転状態に移行した時に、アイドル回転数制御条件が成立する前には、電磁手段のデューティ値を急激に制御するのを回避させて、エンジン回転数を徐々に低下させ、エンジン回転数が急激に落ち込むのを防止して運転性能を向上するとともに、エンジンブレーキの効きを良好とし得る内燃機関の空燃比制御装置を実現することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
この目的を達成するために、この発明は、車両の内燃機関の吸気通路に設けた吸気絞り弁を迂回する迂回通路を設け、この迂回通路途中には0〜100%間のデューティ値でデューティ制御される電磁手段を設け、この電磁手段のデューティ制御によって前記迂回通路を通過する空気量を増減して空燃比を制御し、エンジン回転数を制御する内燃機関の空燃比制御装置において、前記車両の発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値を設定するとともに前記車両の走行時の走行運転状態におけるデューティ値を前記発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値よりも大きく設定し、走行運転状態から減速してアイドル運転状態になった時から所定時間だけ前記走行運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きく且つ100%よりも小さな第1のデューティ値で前記電磁手段を作動制御し、前記所定時間経過後にはデューティ値をゆっくり小さくするとともにアイドル回転数制御条件の成立時までは前記第1のデューティ値よりも小さく且つ前記発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きな第2のデューティ値で前記電磁手段を作動制御し、前記アイドル回転制御条件の成立後はアイドル回転数制御を開始する制御手段を設けたことを特徴とする。
〔作用〕
この発明の構成によれば、走行運転状態から減速してアイドル運転状態になった時から所定時間だけ走行運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きく且つ100%よりも小さな第1のデューティ値で電磁手段を作動制御し、所定時間経過後にはデューティ値をゆっくり小さくするとともにアイドル回転数制御条件の成立時までは第1のデューティ値よりも小さく且つ発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きな第2のデューティ値で電磁手段を作動制御し、アイドル回転制御条件の成立後はアイドル回転数制御を開始するので、走行運転状態から減速してアイドル運転状態に移行した時に、アイドル回転数制御条件が成立する前には、電磁手段のデューティ値が100%や発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値に急激に制御されるのを回避させ、エンジン回転数を徐々に低下させ、且つ、電磁手段を一旦第2のデューテイ値で保持させることから、エンジン回転数が急激に落ち込むのを防止して運転性能を向上するとともに、エンジンブレーキの効きを良好にすることができる。
〔実施例〕
以下図面に基づいてこの発明の実施例を詳細且つ具体的に説明する。
第1〜7図は、この発明の実施例を示すものである。図において、2は車両の空燃比制御装置、4は内燃機関、6は吸気通路、8はサージタンクである。吸気通路6には、サージタンク8側への吸入空気量を調整する吸気絞り弁10が配設されている。吸気絞り弁10上流側の吸気通路6と吸気絞り弁10下流側のサージタンク8とは、吸気絞り弁10を迂回する迂回通路であるバイパス通路12によって連通されている。このバイパス通路12途中には、エンジン回転数を制御するように0〜100%間のデューティ値でデューティ制御される電磁手段たるISC(アイドル回転数制御)用のソレノイドバルブ14が介設されている。このソレノイドバルブ14は、制御手段たる制御部16からのデューティ値によって作動制御され、バイパス通路12を開閉して吸気通路6からサージタンク8側への空気量を調整し、エンジン回転数を制御するものである。
この制御部16には、内燃機関4がアイドル運転状態になるとオンになるとともにアイドル運転以外の場合にはオフとなるアイドルスイッチ18と、吸気絞り弁10の開度を検出するスロットルセンサ20と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ22と、車速を検出する車速センサ24と、内燃機関4の冷却水温度を検出する水温センサ26と、そしてバッテリ28とが連絡している。
制御部16には、第4図に示す如く、車両の発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値Cが設定されるとともに、車両の走行時の走行運転状態におけるデューティ値Aが上述の発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値Cよりも所定値Y%だけ大きく設定されている。
また、この制御部16には、第4図に示す如く、走行運転状態から減速してアイドル運転状態への移行時に、つまりアイドルスイッチ18がオフからオンになった時から所定時間Xだけ、走行運転状態におけるデューティ値A(第2図のbでも示す)よりも所定値Z%だけ大きく且つ100%よりも小さな第1のデューティ値Bでソレノイドバルブ14を作動制御し、そして、この所定時間Xの経過後には、デューテイ値をゆっくり小さくするとともに、車速等を考慮したアイドル回転数制御条件の成立時までは上述の第1のデューティ値Bよりも小さく且つ発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値Cよりも所定値Y%だけ大きな第2のデューティ値Dでソレノイドバルブ14を作動制御し、そして、アイドルスイッチ18がオンで且つ車速が設定車速SP以下になり、アイドル回転数制御条件が成立した後には、アイドル回転数制御によりエンジン回転数制御(フィードバック制御)を開始するものである。よって、かかる場合に、走行運転状態におけるデューティ値Aと第2のデューティ値Dとは、略同一である。
更に、制御部16は、前記所定時間X経過後にデューティ値を小さくする時、およびアイドル回転数制御条件が成立した後でアイドル回転数制御におけるデューティ値にする時には、制御定数を変化させてゆっくりデューティ値を小さく制御し、もってエンジン回転数を徐々に低下させるものである。
なお、前記制御部16は、アイドル運転状態から発進時への移行時に、アイドル運転状態から発進になり、アクセルスイッチ(図示せず)がオンとなった時に、エンジン回転数の落ち込みを防止するために、ソレノイドバルブ14をアイドル時のデューティ値よりも所定値R%だけ大なるデューティ値でソレノイドバルブ14を作動制御するものである。
次に、この実施例の作用を、第2、3図のフローチャートおよび第4〜7図のタイミングチャートに基づいて説明する。
走行運転状態から減速運転状態になると、先ず、この減速運転状態を感知し(ステップ102)そして、アイドル運転状態になってステップ104においてアイドルスイッチ18がオンになると(第4、5図の経過時間H位置で示す)、ソレノイドバルブ14を、走行運転状態におけるデューティ値Aよりも所定値Z%だけ大きく且つ100%よりも小さな第1のデューティ値Bで作動制御する。この第1のデューティ値Bにおけるソレノイドバルブ14の作動制御は、経過時間H位置から経過時間I位置までの所定時間Xだけ行われる。加えられる所定のデューティ値Z%は、任意の値であるが、エンジン回転数を徒に高くしないために、作動制御するデューティ値が100%に満たないような値である。
そして、前記所定時間X経過後、つまり経過時間I位置以後には、デューティ値を小さくする。このとき、第5、6図に示す如く、デューティ値を小さくする際に、比例分・積分分によってデューティ値をゆっくり小さくさせる。即ち、第3図及び別表に示す如く、制御定数は、制御定数切替回転数(CHGN)、つまりエンジン回転数センサ22からのエンジン回転数の値によって変化される。第3図において、制御定数の設定がスタートすると(ステップ202)、先ず、エンジン回転数Ne≧制御定数切替回転数(CHGN)を比較し(ステップ204)、Ne≧CHGNでなくステップ204でNOの場合には、制御定数に比例分P1、積分分I1を使用する(ステップ206)、一方、Ne≧CHGNでステップ204がYESの場合には、制御定数に比例分P2、積分分I2を使用し(ステップ208)、そして、エンド210とする。
そして、第2図において、アイドル回転数制御(ISC)条件が成立せず、ステップ108がNOの場合には、経過時間I位置から所定時間がたって経過時間J位置で、第1のデューティ値Bよりも小さく且つ発進前のアイドル運転状態のデューティ値Cに所定値Y%を加えた第2のデューティ値Dによってソレノイドバルブ14を作動制御し(スップ110)、そして、ステップ208に戻す。この実施例においては、走行運転状態におけるデューティ値Aと減速時におけるアイドル回転数制御条件の成立する前の第2のデューティ値Dとは、略同一である。この所定値Y%は、任意の設定値であるが第2のデューティ値Dが走行運転状態におけるデューティ値A付近であることが好ましい。
即ち、経過時間I位置から経過時間J位置までの所定時間Kにおいて、上述の如くエンジン回転数によって制御定数を変化させ、デューティ値を斜線P1の如きゆっくり変化させ、エンジン回転数が急激に低下するのを防止する。
一方、経過時間Jから所定時間Lが経過してアイドル回転数制御(ISC)条件が経過時間Mで成立し、ステップ108においてYESの場合には、アイドル回転数制御を開始し(ステップ112)、そしてエンド(ステップ114)とする。
前記経過時間M位置からデューティ値を小さくする場合も同様に、経過時間M位置から経過時間N位置までの間で、斜線P2の如きデューティ値をゆっくり変化させる。
そして、経過時間N位置以後は、制御定数を変化させず、通常のデューティ値Eでソレノイドバルブ14を作動制御させる。


この結果、第1のデューティ値Bからデューティ値を小さくする際に、アイドル回転数制御条件が成立する前に、エンジン回転数を徐々に低下させ、且つ一旦ソレノイドバルブ14が第2のデューティ値Dで保持させることにより、従来の如きエンジン回転数が急激に落ち込むことがなく、エンジンストール等が生ずるのを防止して運転性能を向上させることができる。
また、エンジン回転数を漸次低下させるので、エンジンブレーキの効きを良くすることができる。
なお、この実施例における制御部16は、第7図に示す如く、アイドル運転状態から発進時に移行する際にはアクセルスイッチがオンになると、アイドル運転時のデューティ値Qに所定値R%を加えたデューティ値Sでソレノイドバルブ14を作動制御し、これにより、従来のデューティ値mよりもR%だけ大きいデューティ値Sとし、アイドル時から発進時への移行の際に生ずるエンジン回転数の落ち込み状態(第7図の符号nで示す)を防止してエンジン回転数を第7図の符号Tの如き上昇させ、発進時の運転性能を向上させることができる。
〔発明の効果〕
以上詳細な説明から明かなように、この発明によれば、車両の発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値を設定するとともに車両の走行時の走行運転状態におけるデューティ値を発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値よりも大きく設定し、走行運転状態から減速してアイドル運転状態になった時から所定時間だけ走行運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きく且つ100%よりも小さな第1のデューティ値で電磁手段を作動制御し、所定時間経過後にはデューティ値をゆっくり小さくするとともにアイドル回転数制御条件の成立時までは第1のデューティ値よりも小さく且つ発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きな第2のデューティ値で電磁手段を作動制御し、アイドル回転制御条件の成立後はアイドル回転数制御を開始する制御手段を設けたことにより、走行運転状態から減速してアイドル運転状態に移行した時に、アイドル回転数制御条件が成立する前には、電磁手段のデューティ値が100%や発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値に急激に制御されるのを回避させ、エンジン回転数を徐々に低下させ、且つ、電磁手段を一旦第2のデューテイ値で保持させることから、エンジン回転数が急激に落ち込むのを防止して運転性能を向上するとともに、エンジンブレーキの効きを良好とし得る。
【図面の簡単な説明】
第1〜7図はこの発明の実施例を示し、第1図は空燃比制御装置、第2図はこの実施例の作用を説明するフローチャート、第3図は制御定数を決定するフローチャート、第4図はデューティ値とエンジン回転数と経過時間とのタイミングチャート、第5図は走行運転状態から減速運転状態へのデューティ値と経過時間とのタイミングチャート、第6図はエンジン回転数と経過時間との関係を示す図、第7図はアイドル運転時から発進時へのデューティ値と経過時間とのタイミングチャートである。
第8図は従来の減速時のタイミングチャートである。
図において、2は空燃比制御装置、4は内燃機関、6は吸気通路、8はサージタンク、10は吸気絞り弁、12はバイパス通路、14はソレノイドバルブ、16は制御部、18はアイドルスイッチ、20はスロットルセンサ、22はエンジン回転数センサ、24は車速センサ、26は水温センサ、そして28はバッテリである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】車両の内燃機関の吸気通路に設けた吸気絞り弁を迂回する迂回通路を設け、この迂回通路途中には0〜100%間のデューティ値でデューティ制御される電磁手段を設け、この電磁手段のデューティ制御によって前記迂回通路を通過する空気量を増減して空燃比を制御し、エンジン回転数を制御する内燃機関の空燃比制御装置において、前記車両の発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値を設定するとともに前記車両の走行時の走行運転状態におけるデューティ値を前記発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値よりも大きく設定し、走行運転状態から減速してアイドル運転状態になった時から所定時間だけ前記走行運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きく且つ100%よりも小さな第1のデューティ値で前記電磁手段を作動制御し、前記所定時間経過後にはデューティ値をゆっくり小さくするとともにアイドル回転数制御条件の成立時までは前記第1のデューティ値よりも小さく且つ前記発進前のアイドル運転状態におけるデューティ値よりも所定値だけ大きな第2のデューティ値で前記電磁手段を作動制御し、前記アイドル回転制御条件の成立後はアイドル回転数制御を開始する制御手段を設けたことを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。

【第1図】
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【第5図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第6図】
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【第7図】
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【第8図】
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【特許番号】特許第3005983号(P3005983)
【登録日】平成11年11月26日(1999.11.26)
【発行日】平成12年2月7日(2000.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−217668
【出願日】昭和63年8月31日(1988.8.31)
【公開番号】特開平2−67437
【公開日】平成2年3月7日(1990.3.7)
【審査請求日】平成7年7月7日(1995.7.7)
【出願人】(999999999)スズキ株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭61−277841(JP,A)