説明

内燃機関作動機構の教習教材

【課題】 内燃機関の作動機構を詳細にまた現実性をもって理解することができる内燃機関作動機構の教習教材を提供する。
【解決手段】 上下死点を基準とする回転角表示部15と、吸気行程における吸気バルブの開き量、圧縮行程における燃焼室の容積、燃焼行程における燃焼室の圧力、及び排気行程における排気バルブの開き量の回転角に応じた変化をそれぞれの幅の大きさで表示した中心回りの円弧帯状の状態表示部16〜20とを有するタイミングダイヤグラムを備えたダイヤグラムシート6を用いて教習するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の作動機構の教習に用いることにより、作動機構を詳しくかつ現実性をもって理解できるようにする内燃機関作動機構の教習教材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の作動機構の教習に当たっては、図6に示すような吸気バルブ(インレット・バルブ)と排気バルブ(エキゾースト・バルブ)の開閉タイミングを示すバルブタイミングダイヤグラムを図示した教習本が用いられ、そのバルブタイミングダイヤグラムに基づいて作動機構の説明がなされていた。すなわち、このバルブタイミングダイヤグラムから、上死点の前後で、排気バルブが閉じ切る前にオーバーラップして吸気バルブを開いて吸入行程に入り、次いで下死点を超えた後に吸気バルブを閉じることで圧縮行程に入り、上死点近傍で点火して燃焼膨張行程に入り、次いで下死点に達する前に排気バルブを開いて排気行程に入り、下死点を通過し、再度上死点を超えた後に排気バルブを閉じて排気行程を終了するとともにその前に上記のように吸気行程に入るという行程が矢印の方向に順次繰り返されることが説明され、この説明によって内燃機関の作動機構が理解されるものとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記のバルブタイミングダイヤグラムでは、吸気バルブと排気バルブの開閉タイミングにより作動機構を原理的に理解することはできても、これらのバルブの開き量、圧縮工程での燃焼室の容積変化、点火の時期、燃焼工程での燃焼圧力の変化等を含めた詳しい作動状態が理解できず、また実際の内燃機関におけるクランク軸の回転動作と関連してこれらの作動状態を理解することはできず、さらにこれらの作動状態をピストンの実際の位置と関連して理解することはできず、作動機構を詳細にまた現実性をもって理解することができないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、内燃機関の作動機構を詳細にまた現実性をもって理解することができる内燃機関作動機構の教習教材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の内燃機関作動機構の教習教材は、上下死点を基準とする回転角表示部と、吸気行程における吸気バルブの開き量、圧縮行程における燃焼室の容積、燃焼行程における燃焼室の圧力、及び排気行程における排気バルブの開き量の回転角に応じた変化をそれぞれの幅の大きさで表示した中心回りの円弧帯状の状態表示部を有するタイミングダイヤグラムを備えているものである。
【0006】
この構成のタイミングダイヤグラムを用いると、吸気・排気バルブの開閉タイミングに加えて、クランク軸の回転角に対応して、吸気・排気バルブの開き量、点火の位置、燃焼圧力の変化と最大燃焼圧力の位置、圧縮行程における容積の変化が目で見える形で明確に分かるため、内燃機関の作動機構を詳細に理解することができる。
【0007】
また、タイミングダイヤグラムを描いたダイヤグラムシートと、ダイヤグラムシートを内燃機関のクランク軸端に同一軸心状態で取り付ける取付手段と、固定部材に取り付けられて回転角を指示する指針部材とを備えると、実際に内燃機関のクランク軸端にタイミングダイヤグラムシートを取り付け、指針部材を取り付けて内燃機関を動かすことで、その作動位置に応じた状態が指針で示されるため、一層現実性をもって容易に理解することができる。
【0008】
また、内燃機関のシリンダヘッドのプラグ取付穴に装着可能な筒状ガイド部材と、筒状ガイド部材に摺動自在に挿通され、先端がピストン上端に当接する目盛付き軸部材とから成るピストン位置表示手段を有すると、シリンダヘッドを取り外してノギスなどで寸法を一々計測しなくても、それぞれの状態時におけるピストンの実際の位置や移動量を正確に知ることができ、一層詳細にかつ現実性をもって内燃機関の作動機構を理解することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸気・排気バルブの開閉タイミングに加えて、クランク軸の回転角に対応して、吸気、排気バルブの開き量、点火の位置、燃焼圧力の変化と最大燃焼圧力の位置、圧縮行程における容積の変化が目で見える形で明確に分かるため、内燃機関の作動機構を詳細に理解することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の内燃機関作動機構の教習教材の一実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0011】
図1において、1は内燃機関作動機構の教習用の内燃機関であり、内部にピストン21(図4参照)が摺動自在に嵌合配置されたシリンダ2と、ピストンの上部に燃焼室を形成するとともに吸気口及び排気口とそれらを開閉する吸気バルブと排気バルブ、及び点火プラグが配設されるシリンダヘッド3と、ピストンの上下動に連動して回転するクランク軸5が回転自在に支持されて配置されているクランク室4とを備えている。
【0012】
クランク軸5の一端部は、クランク室4の一側面に形成された開口4aから突出し、その軸端面5aには取付ねじ穴5bが形成されており、このクランク軸5の軸端面5aに仮想線で示すように、後述の円形のダイヤグラムシート6が同心状に取付けられる。また、シリンダヘッド3に装着されている点火プラグ(図示せず)を取り外し、そのプラグ取付穴に後述のピストン位置表示手段7が取付けられる。
【0013】
ダイヤグラムシート6は、円形の合成樹脂シートに、図3に詳細に示すようなタイミングダイヤグラムが印刷され、かつ中心位置に取付穴6aが形成されるとともに、その周囲に軸端面5aとほぼ同径の取付座となる空白部6bが形成されている。このダイヤグラムシート6は、図2に示すように、裏面の中心部をクランク軸5の軸端面5aに当て、空白部6bに座金8を当てて、取付ボルト9を取付ねじ穴5bに螺合することでクランク軸5の軸端面5aに取付けられる。この取付状態で、ダイヤグラムシート6は矢印方向に回転する。また、内燃機関1の各種補機を取付けるための取付座の内の適当な取付座14に、クランク軸5とともに矢印方向に回転するダイヤグラムシート6の回転位置を指示する指針部材10が取付けられる。詳しくは、指針部材10の基端取付部10aが取付ボルト13にて座金13aを介して取付座14に締結固定される。指針部材10は、その先端部の指針部11がクランク軸5の軸心位置から径方向にかつダイヤグラムシート6の表面に沿って延出するようにその形状が調整されている。また、指針部11には、どの工程の作動状態であるかを示すため、指針部11とは異なった色に着色された表示筒12が摺動自在に嵌合されている。なお、指針部11の延出方向をシリンダ2の中心線と平行とすると、より理解し易いが、必ずしもそのようにする必要はなく、ピストンが上死点にあるとき、後述のダイヤグラムシート6の回転角表示部15の上死点位置に指針部11が合致すればよい。
【0014】
図3において、タイミングダイヤグラムは、上下死点を基準とする回転角表示部15が外周縁部に形成され、その内側に順次、吸気行程における吸気バルブの開き量の回転角に応じた変化をそれぞれの幅の大きさで表示した中心回りの円弧帯状の吸気バルブ開き量表示部16と、圧縮行程における燃焼室の容積の変化を同様に表示した円弧帯状の圧縮容積表示部17と、点火時期表示部18と、燃焼行程における燃焼室の圧力の変化を同様に表示した円弧帯状の燃焼圧力表示部19と、排気行程における排気バルブの開き量の変化を同様に表示した円弧帯状の排気バルブ開き量表示部20を有している。
【0015】
次に、ピストン位置表示手段7について図4、図5を参照して説明する。図4、図5において、21はピストンで、22はその上面、23は吸気口又は排気口、24は吸気バルブ又は排気バルブであり、25は点火プラグ(図示せず)を装着するプラグ取付穴である。図4は、ピストン21が上死点に位置している状態を、図5は下死点に位置している状態を示している。ピストン位置表示手段7は、プラグ取付穴25に装着可能な筒状ガイド部材26と、この筒状ガイド部材26に摺動自在に挿通され、先端27aがピストン上面22に当接するとともに目盛28が設けられている目盛付き軸部材27にて構成されている。
【0016】
以上の構成によれば、ダイヤグラムシート6を図2に示すようにクランク軸5の軸端面5aに取り付け、指針部材10を適当な取付座14に取り付け、さらに必要に応じて点火プラグを取り外してピストン位置表示手段7を取り付けた状態で、内燃機関1を動かすことにより、回転角表示部15において読み取ったクランク軸5の回転角に対応して、指針部材10の指針部11によって指示されているそれぞれの表示部16〜20の位置と幅の大きさから、吸気又は排気バルブの開き量、又は点火のタイミング、又は圧縮行程における容積、又は燃焼行程における燃焼圧力、及びそれが変化して行く状態を目に見える形で現実性をもって理解することができ、その結果内燃機関1の作動機構を詳細に理解することができる。なお、ダイヤグラムシート6と指針部材10のセッティングは、圧縮上死点において行うのが良い。その理由は、圧縮行程において圧縮された空気がプラグ取付穴25又はピストン位置表示手段7の隙間から噴出してくるため、容易に圧縮行程を理解できるためである。
【0017】
また、その際に同じ回転位置で現在は吸気行程と燃焼行程の何れであるか、また圧縮行程と排気排気の何れであるかを、表示筒12を移動させて指示することによって、より容易に理解することができる。
【0018】
また、プラグ取付穴25にピストン位置表示手段7を取り付けておくと、シリンダヘッド3を取り外してノギスなどで寸法を一々計測しなくても、例えば最大燃焼圧力が発生する回転角が10度の位置ではピストン21は上死点より1mm下がった位置である等、それぞれの状態時におけるピストン21の実際の位置や移動量を正確に知ることができ、一層詳細にかつ現実性をもって内燃機関の作動機構を理解することができる。
【0019】
なお、上記実施形態では、タイミングダイヤグラムを描いたダイヤグラムシート6を用い、そのダイヤグラムシート6をクランク軸5の軸端面5aに取り付けて教習する例を説明したが、タイミングダイヤグラムを教習本に記載するだけでも、従来のバルブの開閉タイミングだけを表示したものに比して、内燃機関の作動機構を具体的に理解することができ、大きな教習効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の内燃機関作動機構の教習教材は、吸気・排気バルブの開閉タイミングに加え、クランク軸の回転角に対応して、吸気・排気バルブの開き量、点火の時期、燃焼圧力の変化と最大燃焼圧力の位置、圧縮行程における容積の変化が目で見える形で表示したタイミングダイヤグラムを備えていることで、内燃機関の作動機構を詳細かつ明確に理解することができ、内燃機関作動機構の教習に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の内燃機関作動機構の教習教材を適用する教習用の内燃機関の正面図である。
【図2】同教習教材のダイヤグラムシートの取付状態を示す正面図である。
【図3】同教習教材のダイヤグラムシートの正面図である。
【図4】同教習教材のピストン位置表示手段の上死点位置での断面図である。
【図5】同教習教材のピストン位置表示手段の下死点位置での断面図である。
【図6】従来例の内燃機関作動機構の教習教材におけるバルブタイミングダイヤグラムの説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 内燃機関
5 クランク軸
5a 軸端面
6 ダイヤグラムシート
7 ピストン位置表示手段
8 座金
9 取付ボルト
10 指針部材
11 指針部
15 回転角表示部
16 吸気バルブ開き量表示部
17 圧縮容積表示部
18 点火時期表示部
19 燃焼圧力表示部
20 排気バルブ開き量表示部
25 プラグ取付穴
26 筒状ガイド部材
27 目盛付き軸部材
28 目盛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下死点を基準とする回転角表示部と、吸気行程における吸気バルブの開き量、圧縮行程における燃焼室の容積、燃焼行程における燃焼室の圧力、及び排気行程における排気バルブの開き量の回転角に応じた変化をそれぞれの幅の大きさで表示した中心回りの円弧帯状の状態表示部を有するタイミングダイヤグラムを備えていることを特徴とする内燃機関作動機構の教習教材。
【請求項2】
タイミングダイヤグラムを描いたダイヤグラムシートと、ダイヤグラムシートを内燃機関のクランク軸端に同一軸心状態で取り付ける取付手段と、固定部材に取り付けられて回転角を指示する指針部材とを備えたことを特徴とする請求項1記載の内燃機関作動機構の教習教材。
【請求項3】
内燃機関のシリンダヘッドのプラグ取付穴に装着可能な筒状ガイド部材と、筒状ガイド部材に摺動自在に挿通され、先端がピストン上端に当接する目盛付き軸部材とから成るピストン位置表示手段を有することを特徴とする請求項2記載の内燃機関作動機構の教習教材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−251109(P2006−251109A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64825(P2005−64825)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(505088086)
【Fターム(参考)】