説明

内燃機関用の点火コイル

【課題】内燃機関への装着性に優れ、スパークプラグとの安定した接続を確保し、かつ、プラグホールを通じた燃焼室への水分の浸入を確実に防ぐことができる内燃機関用の点火コイルを提供すること。
【解決手段】コイル本体部2と高圧タワー部3とブーツ部4とを備えた内燃機関用の点火コイル1。ブーツ部4は、高圧タワー部3に嵌合する基端側嵌合部421と、スパークプラグ5に嵌合する先端側嵌合部422と、連通ホールの開口部の内周面に対向する対向部(鍔部43)と、対向部に対して基端側に隣接して設けられた基端側筒部44と、対向部に対して先端側に隣接して設けられた先端側筒部45と、先端側筒部45よりも先端側においてプラグホールの内壁とブーツ部4との間をシールするシール部46とを有する。基端側筒部44の外径D1よりも、先端側筒部45の外径D2の方が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に配設されたスパークプラグに高電圧を印加して点火させるための内燃機関用の点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジン等の内燃機関には、混合気に着火するためのスパークプラグと、該スパークプラグに高電圧を印加して点火させるための点火コイルが配設されている。すなわち、点火コイルは、スパークプラグの基端部に接続された状態で、内燃機関に配設されている(特許文献1、2)。
【0003】
ここで、スパークプラグは、その先端部を燃焼室に露出させて配置されるため、スパークプラグを配置するためのプラグホールは燃焼室に対して開口している。また、内燃機関には、燃焼室に燃料を供給するためのインジェクタが配設される。それゆえ、内燃機関には、インジェクタを配設するためのインジェクタホールが、燃焼室に連通するように形成されている。そして、特に燃料を燃焼室に直接噴射する直噴型の内燃機関においては、インジェクタホールとプラグホールとはその先端部付近(燃焼室付近)において、互いに近接して形成されることとなる。また、燃焼室へのインジェクタホールの開口端とプラグホールの開口端とを近付けるために、プラグホールを斜めに形成することが必要となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−261127号公報
【特許文献2】特開2008−280946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラグホールを斜めに形成することにより、スパークプラグに連結する点火コイルのブーツ部を、コイル本体部に対して斜めに曲げる必要が生じることがある。この場合、コイル本体部に対するプラグホールの傾斜方向を正確に規定して点火コイルを製造しないと、内燃機関への取り付けが困難となるおそれがある。それゆえ、点火コイルの製造コストが向上し、また、内燃機関への組み付け作業においても生産性が低下する要因となり得る。
【0006】
そこで、点火コイルの製造時においては、ブーツ部をまっすぐに形成しておき、内燃機関への取り付け時において、プラグホールに沿ってブーツ部を屈曲させて斜めにすることが考えられる。しかし、この場合において、ブーツ部の屈曲部が定まらないと、ブーツ部がプラグホールの内壁面に干渉するなどして、円滑に内燃機関にブーツ部を挿入できず、スパークプラグと点火コイルとの接続作業が困難となるおそれがある。また、スパークプラグと点火コイルとの安定した接続状態を得ることが困難となるおそれがある。
【0007】
また、プラグホールとインジェクタホールとが接近して配置されると、両者を互いに独立して形成しておくことが困難となるおそれがある。すなわち、プラグホールとインジェクタホールとが、燃焼室の手前において、互いに連通せざるを得ない場合がある。特に、インジェクタの軸方向長さが比較的短い場合(いわゆるショートインジェクタの場合)、その基端部に設けるインジェクタコネクタの分だけ、インジェクタホールの内径を大きくする必要が生じる。その結果、インジェクタホールとプラグホールとを互いに連通させる必要性がより生じやすい。
【0008】
かかる場合においては、特許文献1、2に開示されているように、ブーツ部の基端部において、プラグホールへの水分の浸入を防ぐシール部を設けても、インジェクタホールから水分が入れば、結局プラグホールに水分が入り、そしてプラグホールを通じて燃焼室への水分の浸入を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、内燃機関への装着性に優れ、スパークプラグとの安定した接続を確保し、かつ、プラグホールを通じた燃焼室への水分の浸入を確実に防ぐことができる内燃機関用の点火コイルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、一次コイル及び二次コイルをコイルケース内に収容してなるコイル本体部と、該コイル本体部において発生させた高電圧を出力する高圧出力端子を内部に保持した高圧タワー部と、上記高圧出力端子と内燃機関のプラグホールに装着されたスパークプラグとを導通させる電気的接続部を内側に備えると共に上記高圧タワー部と上記スパークプラグの基端部とを連結する筒状のブーツ部とを備えた内燃機関用の点火コイルであって、
上記ブーツ部は、上記プラグホールへ連通する連通ホールに挿入できるよう構成されており、
また、上記ブーツ部は、上記高圧タワー部に嵌合する基端側嵌合部と、上記スパークプラグの基端部に嵌合する先端側嵌合部と、上記基端側嵌合部と上記先端側嵌合部との間において上記連通ホールの開口部の内周面に対向する対向部と、該対向部に対して基端側に隣接して設けられた基端側筒部と、上記対向部に対して先端側に隣接して設けられた先端側筒部と、該先端側筒部よりも先端側において上記プラグホールの内壁と上記ブーツ部との間をシールするシール部とを有し、
上記基端側筒部の外径よりも、上記先端側筒部の外径の方が小さいことを特徴とする内燃機関用の点火コイルにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
上記点火コイルにおいては、上記ブーツ部が、上記基端側筒部と上記先端側筒部とを、上記対向部を境にして軸方向の両側に形成してなり、上記基端側筒部の外径よりも、上記先端側筒部の外径の方を小さくしてある。これにより、ブーツ部を上記プラグホールに連通する連通ホールに挿入する際において、上記先端側筒部の基端部、すなわち、上記対向部に対して先端側に隣接する部分において、容易に屈曲させることができる。そして、他の部位においては、ブーツ部が極力屈曲しないようにすることができる。
【0012】
これにより、スパークプラグが連通ホールの開口部の開口方向に対して斜めに配置されている場合においても、ブーツ部における、連通ホールの開口部に対向する対向部よりも先端側の部分をスパークプラグと平行にして円滑に連通ホールに挿入配置することができる。すなわち、基端側筒部の軸方向を上記開口部の開口方向と一致させた状態で、先端側筒部の軸方向を上記開口部の開口方向に対して斜めとなっているスパークプラグの軸方向と容易に一致させることがきる。これにより、内燃機関への点火コイルの装着性を向上させることができると共に、スパークプラグへの点火コイルの接続安定性を確保することができる。
【0013】
また、上記のように、容易に所望の箇所においてブーツ部を屈曲させることができるため、点火コイルを製造する際には、予めブーツ部を屈曲させておく必要はなく、まっすぐにしておくことができる。つまり、例えば、まっすぐな状態のブーツ部を備えた点火コイルを用意しておいて、これを内燃機関に組み付ける際に、上記連通ホールの形状に沿ってブーツ部を容易に屈曲させることができる。それゆえ、内燃機関への装着時において、点火コイルの方向性による組み付けの制約がなくなり、組み付け作業が容易となる。さらには、点火コイルにおけるコイル本体部とブーツ部との方向性についての制約がなくなるため、コイル本体部に対するブーツ部の組み付けも容易となる。
【0014】
また、上記ブーツ部は、先端側筒部よりも先端側において上記プラグホールの内壁と上記ブーツ部との間をシールするシール部を備えている。これにより、連通ホールに水分が浸入しても、プラグホールから燃焼室へ水分が浸入することを確実に防ぐことができる。
特に、内燃機関に設けたインジェクタホールとプラグホールとが、燃焼室の手前において連通する場合などにおいて、インジェクタホールから水分が浸入しても、上記シール部の存在により、プラグホールを通じて燃焼室へ水分が浸入することを確実に防ぐことができる。
【0015】
また、上記先端筒部よりも先端側において上記シール部によるシールを行うことができるため、連通ホールの開口部、すなわち、対向部付近においてシールを行う必要がない。それゆえ、連通ホールの開口部の形状の設計自由度を高くすることができる。その結果、例えば、連通ホールをインジェクタホールにも連通させて、その連通ホールの開口部を、インジェクタ用の開口部としてもスパークプラグ用の開口部としても用いることができるようにすることも可能となる。
【0016】
以上のごとく、上記態様によれば、内燃機関への装着性に優れ、スパークプラグとの安定した接続を確保し、かつ、プラグホールを通じた燃焼室への水分の浸入を確実に防ぐことができる内燃機関用の点火コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、内燃機関用の点火コイルの部分断面正面図。
【図2】実施例1における、シリンダーヘッドに装着した点火コイルの正面図。
【図3】実施例1における、シリンダーヘッドの上面説明図。
【図4】実施例1における、ブーツ部の基端側筒部の軸方向に直交する平面による断面図。
【図5】実施例1における、連通ホールの開口部の内周面に当接したブーツ部の鍔部(対向部)の断面図。
【図6】実施例2における、内燃機関用の点火コイルの部分断面正面図。
【図7】実施例3における、内燃機関用の点火コイルの部分断面正面図。
【図8】実施例4における、内燃機関用の点火コイルの正面図。
【図9】実験例1における、応力解析結果の線図。
【図10】実験例1における、解析計算モデルの説明図。
【図11】実験例2における、応力解析結果の線図。
【図12】比較例における、シリンダーヘッドに装着した点火コイルの正面説明図。
【図13】比較例における、シリンダーヘッドの上面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記基端側筒部の外径、及び、上記先端側筒部の外径は、それぞれ、最大直径を意味する。すなわち、上記基端側筒部や上記先端側筒部が、その軸方向に直交する断面形状において円形である場合には、その円の直径が上記「外径」を意味するものとし、それ以外の形状である場合には、上記断面形状の外接円の直径をいうものとする。それゆえ、例えば、上記基端側筒部の外周面に、軸方向に延びるリブを径方向外側に向かって突出形成することにより、上記基端側筒部の上記外径を、上記先端側筒部の上記外径よりも大きくしてもよい。
【0019】
また、基端側筒部及び先端側筒部の上記断面形状は、円形であることが好ましいが、それ以外の形状の場合、上記断面形状は3回対称以上の回転対称であることが好ましく、4回対称以上の回転対称であることがさらに好ましい。
【0020】
また、上記ブーツ部は、例えばシリコーンゴム等のゴムによって構成することができる。また、上記ブーツ部は、一体の成形体によって構成することもできるし、複数の成形体を組み合わせて構成することもできる。
また、上記対向部は、上記ブーツ部の外側へ突き出た鍔部によって構成してあってもよい。すなわち、上記対向部は、上記基端側筒部よりもその外径を大きくしてもよい。そして、上記対向部は、上記連通ホールの開口部の内周面に当接するよう構成されていてもよい。
また、上記鍔部は、上記ブーツ部の外周の周方向における全周に形成されていてもよいし、部分的に形成されていてもよい。
また、上記内燃機関は、燃焼室へ燃料を直接噴射する直噴型の内燃機関であることが好ましい。
【0021】
また、上記内燃機関用の点火コイルにおいて、上記先端側筒部は、その基端部に、他の部位よりも肉厚の薄い薄肉部を有することが好ましい(請求項2)。この場合には、上記ブーツ部を上記先端側筒部の基端部、すなわち上記対向部の先端側に隣接する部分において、容易かつ確実に屈曲させることができる。
【0022】
また、上記薄肉部は、0.5mm以上の厚みを有することが好ましい(請求項3)。この場合には、上記ブーツ部の上記薄肉部における強度を充分に確保することができる。
【0023】
また、上記ブーツ部は、上記対向部と上記シール部との間において外側へ突出したガイド部を備えていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記ブーツ部を上記連通ホールへ挿入する際に、上記ガイド部を上記連通ホールの内壁面に対して摺動させることができる。これにより、上記ブーツ部を円滑に連通ホールに挿入し、ブーツ部を先端側嵌合部においてスパークプラグに容易かつ確実に嵌合させることができる。
なお、上記ガイド部は、上記ブーツ部の外周の周方向における全周に形成されていてもよいし、部分的に形成されていてもよい。
【0024】
また、上記ブーツ部は、上記基端側嵌合部を備えた基端側ラバー部材と、上記先端側嵌合部を備えた先端側ラバー部材と、上記基端側ラバー部材と上記先端側ラバー部材との間に配された中間樹脂部材とを、軸方向に連結してなり、上記対向部と上記基端側筒部と上記先端側筒部とは、上記基端側ラバー部材に形成されているものとすることもできる(請求項5)。
【0025】
この場合には、上記ブーツ部の材料コストを低減することができる。すなわち、上記基端側嵌合部と上記先端側嵌合部以外の部分は、特に大きな弾力性や可撓性を有していなくてもよい部分であり、材料選択の自由がある。それゆえ、この部分を上記中間樹脂部材として、比較的安価な材料を選択することにより、上記ブーツ部のコストを低減し、ひいては点火コイルのコストを低減することができる。また、基端側ラバー部材と先端側ラバー部材とを、それぞれ上記基端側嵌合部と上記先端側嵌合部とを形成する部分に配置することにより、安定した嵌合状態を確保することができる。また、上記対向部と上記基端側筒部と上記先端側筒部とを、上記基端側ラバー部材に形成することにより、所定の箇所における上記ブーツ部の屈曲を容易かつ確実に実現することができる。
なお、上記基端側ラバー部材及び上記先端側ラバー部材は、例えば、シリコーンゴム、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)等によって構成することができる。また、上記中間樹脂部材は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)等によって構成することができる。
【0026】
また、上記基端側ラバー部材の全長L1と、上記中間樹脂部材の全長L2とは、L2/L1≦2を満たすことが好ましい(請求項6)。この場合には、上記ブーツ部の長尺化を招くことなく、上記基端側ラバー部材の全長を充分に確保することができる。これにより、屈曲させたい部位である上記先端側筒部の基端部を所望の位置に形成しやすくなる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
実施例にかかる内燃機関用の点火コイルにつき、図1〜図5を用いて説明する。
本例の点火コイル1は、図1、図2に示すごとく、コイル本体部2と、高圧タワー部3と、筒状のブーツ部4とを備えている。
コイル本体部2は、一次コイル及び二次コイルをコイルケース内に収容してなる。
高圧タワー部3は、コイル本体部2において発生させた高電圧を出力する高圧出力端子31を内部に保持してなる。
ブーツ部4は、高圧出力端子31と内燃機関のプラグホール61に装着されたスパークプラグ5とを導通させる電気的接続部41を内側に備えると共に高圧タワー部3とスパークプラグ5の基端部とを連結するよう構成されている。
【0028】
上記ブーツ部は、プラグホール61へ連通する連通ホール62に挿入できるよう構成されている。
また、ブーツ部4は、高圧タワー部3に嵌合する基端側嵌合部421と、スパークプラグ5の基端部に嵌合する先端側嵌合部422とを有する。基端側嵌合部421と先端側嵌合部422との間には、連通ホール62の開口部621の内周面に対向する対向部が設けてある。該対向部は、外側へ突き出た鍔部43によって構成されている。
【0029】
また、ブーツ部4は、鍔部43に対して基端側に隣接して設けられた基端側筒部44と、鍔部43に対して先端側に隣接して設けられた先端側筒部45とを有する。また、ブーツ部4における、先端側筒部45よりも先端側には、プラグホール61の内壁とブーツ部4との間をシールするシール部46(軸方向当接部461及び径方向当接部462)が形成されている。
【0030】
鍔部43は、少なくともその一部が、内燃機関におけるプラグホール61へ連通する連通ホール62の開口部621の内周面に当接するよう構成してある。
基端側筒部44の外径D1よりも、先端側筒部45の外径D2の方が小さい。
【0031】
ここで、基端側筒部44の外径D1、及び、先端側筒部45の外径D2は、それぞれ、最大直径を意味する。すなわち、基端側筒部44や先端側筒部45が、その軸方向に直交する断面形状において円形である場合には、その円の直径が上記「外径」を意味するものとし、それ以外の形状である場合には、上記断面形状の外接円の直径をいうものとする。
【0032】
本例においては、基端側筒部44は、図4に示すごとく、円筒形状の外周面に軸方向に延びるリブ441を径方向外側に向かって突出形成した形状を有する。リブ441は、周方向の4か所に均等に配置されており、この断面形状は、いわゆる4回対称の回転対称形状である。それゆえ、基端側筒部44の外径D1は、図4に示すごとく、軸方向に直交する断面の形状において、互いに反対側に突出形成された一対のリブ441の外側端部同士の間の距離となる。
一方、先端側筒部45は、円筒形状を有し、図2に示すごとく、特にリブ等を設けていないため、その軸方向に直交する断面に表れる外側輪郭である円形の直径が、外径D2となる。
そして、このように定義された外径D1、D2が、D1>D2の関係を有する。
【0033】
外径D1と外径D2との差は、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがさらに好ましい。また、外径D2は、製造上の理由から12mm以上であることが好ましく、内燃機関への搭載上の理由から31mm以下であることが好ましい。
具体的には、本例においては、外径D1を22mm、外径D2を18mmとしている。
【0034】
鍔部43は、ブーツ部4の外周面の全周にわたって円環状に形成してある。そして、鍔部43は、基端側筒部44のリブ441よりも径方向外側まで突出している。また、図5に示すごとく、鍔部43は、その外周端縁の一部が連通ホール62の開口部621の内周面に当接する。
【0035】
図1に示すごとく、先端側筒部45は、その基端部に、他の部位よりも肉厚の薄い薄肉部451を有する。薄肉部451は、ブーツ部4の内側面の内径を部分的に大きくすることにより、形成されている。すなわち、先端側筒部45の外径は、薄肉部451においても他の部位においても同じであるが、ブーツ部4の内周面を部分的にえぐるようにすることにより、上記薄肉部451を形成してある。
また、薄肉部451は、0.5mm以上の厚みを有する。具体的に、本例においては、薄肉部451の厚みは3mmであり、先端側筒部45における他の部位の厚み5mmに比べ、2mm薄くなっている。
【0036】
また、ブーツ部4は、鍔部43とシール部46との間において外側へ突出したガイド部47を備えている。ガイド部47は、ブーツ部4の外周面の全周にわたって円環状に形成してある。
ブーツ部4におけるガイド部47よりも先端側には、シール部46が形成されている。シール部46は、軸方向の先端側に向かってプラグホール61の内壁に当接する軸方向当接部461と、径方向外側に向かってプラグホール61の内壁に当接する径方向当接部462を備える。軸方向当接部461も径方向当接部462も、全周にわたって円環状に形成されている。また、径方向当接部462は、軸方向当接部461よりも先端側において、軸方向に2本並んで形成されている。
【0037】
スパークプラグ5及び点火コイル1が装着される内燃機関は、図2に示すごとく、燃焼室60の上部に形成されたシリンダーヘッド6にプラグホール61を設けると共に、該プラグホール6に連通する連通ホール62を有する。プラグホール61は、その一端が燃焼室60に開口している。また、シリンダーヘッド6には、燃料を燃焼室60に噴射するためのインジェクタ71が取り付けられる。このインジェクタ71を配置するインジェクタホール64は、連通ホール62と連通している。つまり、プラグホール61とインジェクタホール64とは、燃焼室60と開口部621との間において、連通ホール62によって連結されている。
【0038】
本例においては、上記インジェクタ71は、いわゆるショートインジェクタであり、その軸方向長さが短い。そして、インジェクタ71の基端部には、インジェクタ71の開閉信号を送信するための信号線を接続するインジェクタコネクタ72が取り付けられている。また、インジェクタ71には、インジェクタ71へ燃料を供給するための燃料レール73が接続されている。この燃料レール73は、シリンダーヘッド6における連通ホール62に挿入されて、インジェクタ71に接続されている。
【0039】
プラグホール61は、シリンダーヘッド6において、傾斜して形成されている。具体的には、内燃機関における図示しないピストンの進退方向に対して傾斜した状態で、プラグホール61が形成されている。プラグホール61に装着されたスパークプラグ5は、その軸方向が、ピストンの進退方向に対して傾斜しており、インジェクタホール64に装着されたインジェクタ71の軸方向に対して傾斜している。インジェクタ71は、ピストンの進退方向と平行に配置されている。また、インジェクタ71の先端側において、インジェクタホール64は燃焼室60に開口している。このインジェクタ71の先端側における開口部と、燃焼室60に対するプラグホール61の開口部とは、互いに独立したものであるが、互いに近接して配置されている。
【0040】
また、シリンダーヘッド6は、複数の燃焼室60を備え、それぞれの燃焼室60に対応して、それぞれ連通ホール62を備えている。複数の連通ホール62は、インジェクタ71とスパークプラグ5との並び方向に並んで配置されている。
同じ燃焼室60に対応して配設されるインジェクタ71及び燃料レール73とスパークプラグ5及び点火コイル1とは、その基端側において、互いに離隔された開口部621からそれぞれ着脱できるよう構成されている。つまり、シリンダーヘッド6の上部を覆うカムカバー69は、複数の開口部621を有しており、同じ燃焼室60に対応して配設されるインジェクタ71と点火コイル1とを、異なる開口部621から着脱するように構成してある。
【0041】
また、図2、図3に示すごとく、隣り合う連通ホール62同士は、その基端部において互いに連結されている。これにより、隣り合う連通ホール62に配置された点火コイル1とインジェクタ71とは、同じ開口部621から着脱できるよう構成されている。つまり、隣り合う燃焼室60の間の上部に設けられた開口部621は、一方の燃焼室60用のスパークプラグ5及び点火コイル1と、他方の燃焼室60用のインジェクタ71との双方に対して開口している。
【0042】
このように構成されたシリンダーヘッド6に点火コイル1を装着する際には、開口部621から連通ホール62へ、図1に示す状態の点火コイル1をブーツ部4の先端から挿入する。すなわち、シリンダーヘッド6に装着する前の状態においては、ブーツ部4はまっすぐに形成されており、屈曲していない。
【0043】
ブーツ部4を連通ホール62へ挿入する際には、連通ホール62における斜めに傾斜した傾斜壁面622に沿わせるようにする。具体的には、ブーツ部4に設けたガイド部47を傾斜壁面622に当接させ、摺動させながら、ブーツ部4を先端側へ移動させる。
そして、ブーツ部4の先端側嵌合部422を、既にプラグホール61に装着してあるスパークプラグ5の基端部に嵌合させる。このとき、ブーツ部4の内側に保持されているコイルバネ状の電気的接続部41(図1)がスパークプラグ5の基端部の端子に接触する。
また、シール部46が、プラグホール61の内壁に密着することにより、プラグホール61の上端部において、プラグホール61をシールする。
【0044】
また、シリンダーヘッド6に点火コイル1が装着された状態(ボルト等によって内燃機関に固定された状態)においては、基端側筒部44は、上下方向すなわちピストンの進退方向に対して平行に配置される。その一方で、先端側筒部45は、上下方向すなわちピストンの進退方向に対して斜めに配置される。それゆえ、先端側筒部45と基端側筒部44とは、互いに屈曲することとなる。この屈曲が、シリンダーヘッド6への点火コイル1の挿入段階において行われる。つまり、上述のように連通ホール62の傾斜壁面622に、先端側筒部45のガイド部47を摺動させる際に、徐々に、ブーツ部4を屈曲させる。このとき、鍔部43を境にして、ブーツ部4の外径が小さくなる部分である先端側筒部45の基端部に変形が集中し、この部分において、局部的にブーツ部4が屈曲する。しかも、この部分には、薄肉部451が形成されているため、特に他の部位よりも変形しやすい。
【0045】
それゆえ、先端側筒部45の基端部である薄肉部451において、ブーツ部4が適切な角度で屈曲し、その状態で、点火コイル1がシリンダーヘッド6に装着されることとなる。
また、ブーツ部4に形成した鍔部43がカムカバー69に設けた開口部621の内周面に当接することで、点火コイル1の径方向の位置決めがなされる(図5)。
【0046】
また、この状態において、コイル本体部2は、そのフランジ部21において、カムカバー69に設けたボス691に対して、ボルト(図示略)によって固定される。これにより、シリンダーヘッド6に対して、コイル本体部2が正しい位置に正しい姿勢にて固定されることとなる。そして、コイル本体部2に設けられたコネクタ部22の位置及び姿勢が設計通りに配置されることとなる。
【0047】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記点火コイル1においては、ブーツ部4が、基端側筒部44と先端側筒部45とを、鍔部43を境にして軸方向の両側に形成してなり、基端側筒部44の外径D1よりも、先端側筒部45の外径D2の方を小さくしてある。これにより、ブーツ部4をプラグホール61に連通する連通ホール62に挿入する際において、先端側筒部45の基端部、すなわち、鍔部43に対して先端側に隣接する部分において、容易に屈曲させることができる。そして、他の部位においては、ブーツ部4が極力屈曲しないようにすることができる。
【0048】
これにより、スパークプラグ5が連通ホール62の開口部621の開口方向に対して斜めに配置されている場合においても、ブーツ部4における、連通ホール62の開口部621に当接する鍔部43よりも先端側の部分をスパークプラグ5と平行にして円滑に連通ホール62に挿入配置することができる。すなわち、基端側筒部44の軸方向を開口部621の開口方向と一致させた状態で、先端側筒部45の軸方向を開口部621の開口方向に対して斜めとなっているスパークプラグ5の軸方向と容易に一致させることがきる。これにより、内燃機関(シリンダーヘッド6)への点火コイル1の装着性を向上させることができると共に、スパークプラグ5への点火コイル1の接続安定性を確保することができる。
【0049】
また、上記のように、容易に所望の箇所においてブーツ部4を屈曲させることができるため、点火コイル1を製造する際には、予めブーツ部4を屈曲させておく必要はなく、まっすぐにしておくことができる。つまり、例えば、まっすぐな状態のブーツ部4を備えた点火コイル1を用意しておいて、これをシリンダーヘッド6に組み付ける際に、連通ホール62の形状に沿ってブーツ部4を容易に屈曲させることができる。それゆえ、シリンダーヘッド6への装着時において、点火コイル1の方向性による組み付けの制約がなくなり、組み付け作業が容易となる。さらには、点火コイル1におけるコイル本体部2とブーツ部4との方向性についての制約がなくなるため、コイル本体部2に対するブーツ部4の組み付けも容易となる。
【0050】
また、ブーツ部4は、先端側筒部45よりも先端側においてプラグホール62の内壁とブーツ部4との間をシールするシール部46を備えている。これにより、連通ホール62に水分が浸入しても、プラグホール61から燃焼室60へ水分が浸入することを確実に防ぐことができる。
特に、シリンダーヘッド6に設けたインジェクタホール64とプラグホール61とが、燃焼室60の手前において連通ホール62に連通している状態において、インジェクタホール64から水分が浸入しても、シール部46の存在により、プラグホール61を通じて燃焼室60へ水分が浸入することを確実に防ぐことができる。なお、図示は省略したが、インジェクタホール64の先端部にも、燃焼室60への水分の浸入を防ぐシール部が形成されている。
【0051】
また、先端筒部45よりも先端側においてシール部46によるシールを行うことができるため、連通ホール62の開口部621、すなわち、鍔部43付近においてシールを行う必要がない。それゆえ、連通ホール62の開口部621の形状の設計自由度を高くすることができる。その結果、連通ホール62をインジェクタホール64にも連通させて、その連通ホール62の開口部621を、インジェクタ71用の開口部としてもスパークプラグ5用の開口部としても用いることができる。
【0052】
また、先端側筒部45は、その基端部に薄肉部451を有する。そのため、ブーツ部4を先端側筒部45の基端部、すなわち鍔部43の先端側に隣接する部分において、容易かつ確実に屈曲させることができる。
また、薄肉部451は、0.5mm以上の厚みを有するため、ブーツ部4の薄肉部451における強度を充分に確保することができる。
【0053】
また、ブーツ部4はガイド部47を備えているため、ブーツ部4を連通ホール62へ挿入する際に、ガイド部47を連通ホール62の内壁面(傾斜壁面622)に対して摺動させることができる。これにより、ブーツ部4を円滑に連通ホール62に挿入し、ブーツ部4を先端側嵌合部422においてスパークプラグ5に容易かつ確実に嵌合させることができる。
【0054】
以上のごとく、本例によれば、内燃機関への装着性に優れ、スパークプラグとの安定した接続を確保し、かつ、プラグホールを通じた燃焼室への水分の浸入を確実に防ぐことができる内燃機関用の点火コイルを提供することができる。
【0055】
(実施例2)
本例は、図6に示すごとく、ブーツ部4に設けた薄肉部451の形状を、実施例1に示した形状に対して変更した例である。
すなわち、本例の点火コイル1における薄肉部451は、ブーツ部4の先端側筒部45の基端部を、他の部位よりも内径を大きくすると共に外径をも小さくすることにより、形成してある。つまり、先端側筒部45の内周面と外周面との双方を部分的にえぐるようにすることにより、薄肉部451が形成されている。
その他は、実施例1と同様である。
本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0056】
(実施例3)
本例は、図7に示すごとく、ブーツ部4に設けた薄肉部451の形状を、実施例1、2に示した形状に対して変更した例である。
すなわち、本例の点火コイル1における薄肉部451は、ブーツ部4の先端側筒部45の基端部を、他の部位よりも外径を小さくすることにより、形成してある。ただし、先端側筒部45の基端部における内径は、他の部位と同じにしてある。
【0057】
また、本例においては、先端側筒部45の外径を部分的に小さくする手法として、薄肉部451とする部位の先端側の部分にリブ452を設けている。リブ452は、軸方向に沿って延びると共に、径方向外側に向かって突出形成されている。また、リブ452は、先端側筒部45の周方向の4か所に、等間隔に配設されている。これにより、リブ452を設けた部分は、その外径が薄肉部451よりも大きくなり、薄肉部451が所望の位置に局部的に形成されることとなる。
その他は、実施例1と同様である。
本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0058】
(実施例4)
本例は、図8に示すごとく、ブーツ部4を、以下の3つの部材を連結して構成した例である。
すなわち、ブーツ部4は、基端側嵌合部421を備えた基端側ラバー部材401と、先端側嵌合部422を備えた先端側ラバー部材402と、基端側ラバー部材401と先端側ラバー部材402との間に配された中間樹脂部材403とを、軸方向に連結してなる。
【0059】
鍔部43と基端側筒部44と先端側筒部45とは、基端側ラバー部材401に形成されている。
基端側ラバー部材401及び先端側ラバー部材402は、シリコーンゴムからなり、中間樹脂部材403は、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、又はPBT(ポリブチレンテレフタレート)からなる。
【0060】
中間樹脂部材403は、ガイド部47を備えている。
また、中間樹脂部材403の両端部は、基端側ラバー部材401と先端側ラバー部材402に対して、内側から嵌合している。
また、基端側ラバー部材401の全長L1と、中間樹脂部材403の全長L2とは、L2/L1≦2を満たす。具体的に本例においては、L1=55mmであり、L2=80mmである。
その他は、実施例1と同様である。
【0061】
本例の場合には、ブーツ部4の材料コストを低減することができる。すなわち、基端側嵌合部421と先端側嵌合部422以外の部分は、特に大きな弾力性や可撓性を有していなくてもよい部分であり、材料選択の自由がある。それゆえ、この部分を中間樹脂部材403として、比較的安価な材料を選択することにより、ブーツ部4のコストを低減し、ひいては点火コイル1のコストを低減することができる。また、基端側ラバー部材401と先端側ラバー部材402とを、それぞれ基端側嵌合部421と先端側嵌合部422とを形成する部分に配置することにより、安定した嵌合状態を確保することができる。また、鍔部43と基端側筒部44と先端側筒部45とを、基端側ラバー部材401に形成することにより、所定の箇所におけるブーツ部4の屈曲を容易かつ確実に実現することができる。
【0062】
また、基端側ラバー部材401の全長L1と中間樹脂部材403の全長L2とが、L2/L1≦2を満たすことにより、ブーツ部4の所定の長さを維持しつつ、基端側ラバー部材401の全長を充分に確保することができる。これにより、屈曲させたい部位である先端側筒部45の基端部を所望の位置に形成しやすくなる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0063】
(実験例1)
本例は、図9に示すごとく、基端側筒部44の外径D1と先端側筒部45の外径D2との差による、曲げ応力のかかる部位とその大きさの変化について解析した例である。
本例においては、図10に示すような解析計算モデル10を用意した。モデル10は、実施例1の点火コイル1におけるブーツ部4の外形を模したものであり、特に、鍔部43と基端側筒部44と先端側筒部45との部位を模したものである。ただし、このモデル10には、薄肉部451に相当する部位を設けていない。
【0064】
つまり、モデル10は、ブーツ部4における鍔部43に対応する鍔部13と、基端側筒部44に対応する基端側筒部14と、先端側筒部45に対応する先端側筒部15とからなる。また、材質は、シリコーンゴムとした。
基端側筒部14の軸方向長さは22mm、先端側筒部15の軸方向長さは103mm、鍔部13の軸方向長さ(厚み)は5mm、鍔部13の外径は28mmとした。また、基端側筒部14の肉厚は2.5mmであり、先端側筒部15の肉厚は5mmである。また、基端側筒部14の外径d1を16〜22mmの間で変化させ、先端側筒部15の外径d2も変化させて、両者の差(d1−d2)を種々変更して、曲げの応力解析計算を行った。この(d1−d2)は、実施例1における(D1−D2)に相当する。
【0065】
曲げの応力解析計算は、図10に示すごとく、基端側筒部14の基端140を固定し、先端側筒部15の先端150に、軸方向に対して直角となる方向に荷重fをかけることにより行う。そして、先端側筒部14が所定の角度に傾斜するまで荷重をかけていく。この所定の角度とは、実施例1において示したプラグホール61の傾斜角度(上下方向に対する傾斜角度)に相当し、具体的には、18°である。
【0066】
曲げの応力解析計算の結果、d1−d2がマイナスとなる場合、すなわち、先端側筒部15の外径d2が基端側筒部14の外径d1よりも大きい場合には、最大応力が基端側筒部14にかかることが分かった。そして、その応力は、図9に示すごとく、d1−d2≒−2mmのとき、約0.9MPaと、比較的高いものであった。
これに対し、d1−d2がプラス、すなわち先端側筒部15の外径d2が基端側筒部14の外径d1よりも小さい場合には、最大応力が先端側筒部15の基端部、つまり鍔部13に対して先端側に隣接する部分にかかることが分かった。そして、その応力は、図9に示すごとく、約0.3MPaと、充分に低いものであった。
また、d1−d2≧1の場合には、d1−d2の値が大きくなっても、特に応力の大きさは変わらないことも分かった。
【0067】
以上の結果は、実際の点火コイル1におけるブーツ部4において、以下のことが言えると考えられる。すなわち、先端側筒部45の外径D2を基端側筒部44の外径D1よりも小さくすることにより、先端側筒部45の基端部に最大応力が作用するようにすることができ、この部位において屈曲させることができる。そして、D1>D2とすることにより、最大応力を小さくすることができ、特に、D1−D2≧1mmであれば、屈曲部に過大な応力を生じさせずに、ブーツ部4を所望の位置(先端側筒部45の基端部)において容易に屈曲させることができる。
【0068】
(実施例2)
本例は、図11に示すごとく、薄肉部451の肉厚と、薄肉部451において屈曲させたときに、薄肉部451に作用する応力との関係を調べた例である。
すなわち、上記実験例1と同様の解析計算モデルに、実施例1の薄肉部451と同様の薄肉部を設け、実験例1と同様の曲げの応力解析計算を行った。そして、モデルとしては、薄肉部の肉厚を0.5mm〜5mmまで振ったものを用意した。それぞれのモデルに対して曲げの応力解析計算を行い、薄肉部にかかる応力を解析した。その結果を図11に示す。
【0069】
同図に示すごとく、薄肉部の肉厚が小さくなるほど、薄肉部に作用する応力は徐々に増えるものの、その値は、0.4MPa未満であり、材料強度(安全を考慮した許容応力である3.2MPa)に対して充分に低い値であった。
それゆえ、薄肉部の肉厚としては、0.5mm以上あれば充分な強度を確保することができ、ブーツ部4の強度に影響を与えることがないことが分かる。
【0070】
(比較例)
本例は、図12、図13に示すごとく、プラグホール61とインジェクタホール64とが互いに独立して形成されているシリンダーヘッド6に点火コイル9を組み付けてなる内燃機関の例である。
【0071】
本例の内燃機関も、直噴型の内燃機関であり、燃焼室60へのインジェクタホール64の開口端とプラグホール61の開口端とを近付けるために、プラグホール61を斜めに形成してある。しかし、実施例1とは異なり、インジェクタ710を、いわゆるロングインジェクタとしており、その軸方向長さが長い。それゆえ、インジェクタ710の基端部に設けるインジェクタコネクタ72を、シリンダーヘッド6の上方であり、インジェクタホール64の外に配置することができる。それゆえ、インジェクタホール64を比較的細く形成することができ、インジェクタホール64とプラグホール61とを連結することなく、互いに独立して形成することができる。また、これに伴い、インジェクタホール64の基端側の開口部641と、プラグホール61の基端側の開口部611とは、互いに独立している。
【0072】
それゆえ、点火コイル9においても、スパークプラグ5との嵌合部ではなく、プラグホール61の基端側の開口部611においてシールすればよい。つまり、プラグホール61とインジェクタホール64とが連通しているわけではないので、インジェクタホール64からプラグホール61を介して燃焼室60へ水分が浸入することはあり得ない。それゆえ、プラグホール61から燃焼室60への水分の浸入を防ぐためには、プラグホール61の基端側の開口部611、すなわちシリンダーヘッド6の上部における開口部においてシールすればよい。そこで、本例においては、点火コイル9のブーツ部94の基端部に、シールラバー部99を設け、プラグホール61の基端側の開口部611と点火コイル9との間をシールしている。
【0073】
これに対し、実施例1(図2)に示したように、プラグホール61とインジェクタホール64とが連通ホール62によって連通するような場合には、本例のようにブーツ部94の基端側にシールラバー部99を設けた構成とすると、インジェクタホール64からプラグホール61を通じて水分が燃焼室60へ浸入することを防ぐことができない。そこで、実施例1においては、図1、図2に示すごとく、ブーツ部4の先端部であって、スパークプラグ5との嵌合部分の外周に、シール部46を設けている。
【0074】
また、本例の点火コイル9においては、ブーツ部94を屈曲させてその先端部を傾斜させているが、実施例1〜4の点火コイル1のように鍔部43を有するわけでもなく、屈曲部941の基端側と先端側とで直径を変化させているわけでもない。それゆえ、実際には、図12に示すように適切な位置でブーツ部94を屈曲させることは困難である。
【0075】
これに対し、実施例1〜4の点火コイル1においては、ブーツ部4に鍔部43を設け、その基端側と先端側とにおける基端側筒部44と先端側筒部45との外径D1、D2を、D1>D2とすることにより、上述のごとく、所望の位置においてブーツ部4を容易に屈曲させることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 点火コイル
2 コイル本体部
3 高圧タワー部
31 高圧出力端子
4 ブーツ部
41 電気的接続部
421 基端側嵌合部
422 先端側嵌合部
43 鍔部
44 基端側筒部
45 先端側筒部
46 シール部
5 スパークプラグ
60 燃焼室
61 プラグホール
62 連通ホール
621 開口部
D1 基端側筒部の外径
D2 先端側筒部の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイル及び二次コイルをコイルケース内に収容してなるコイル本体部と、該コイル本体部において発生させた高電圧を出力する高圧出力端子を内部に保持した高圧タワー部と、上記高圧出力端子と内燃機関のプラグホールに装着されたスパークプラグとを導通させる電気的接続部を内側に備えると共に上記高圧タワー部と上記スパークプラグの基端部とを連結する筒状のブーツ部とを備えた内燃機関用の点火コイルであって、
上記ブーツ部は、上記プラグホールへ連通する連通ホールに挿入できるよう構成されており、
また、上記ブーツ部は、上記高圧タワー部に嵌合する基端側嵌合部と、上記スパークプラグの基端部に嵌合する先端側嵌合部と、上記基端側嵌合部と上記先端側嵌合部との間において上記連通ホールの開口部の内周面に対向する対向部と、該対向部に対して基端側に隣接して設けられた基端側筒部と、上記対向部に対して先端側に隣接して設けられた先端側筒部と、該先端側筒部よりも先端側において上記プラグホールの内壁と上記ブーツ部との間をシールするシール部とを有し、
上記基端側筒部の外径よりも、上記先端側筒部の外径の方が小さいことを特徴とする内燃機関用の点火コイル。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用の点火コイルにおいて、上記先端側筒部は、その基端部に、他の部位よりも肉厚の薄い薄肉部を有することを特徴とする内燃機関用の点火コイル。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関用の点火コイルにおいて、上記薄肉部は、0.5mm以上の厚みを有することを特徴とする内燃機関用の点火コイル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関用の点火コイルにおいて、上記ブーツ部は、上記対向部と上記シール部との間において外側へ突出したガイド部を備えていることを特徴とする内燃機関用の点火コイル。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関用の点火コイルにおいて、上記ブーツ部は、上記基端側嵌合部を備えた基端側ラバー部材と、上記先端側嵌合部を備えた先端側ラバー部材と、上記基端側ラバー部材と上記先端側ラバー部材との間に配された中間樹脂部材とを、軸方向に連結してなり、上記対向部と上記基端側筒部と上記先端側筒部とは、上記基端側ラバー部材に形成されていることを特徴とする内燃機関用の点火コイル。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関用の点火コイルにおいて、上記基端側ラバー部材の全長L1と、上記中間樹脂部材の全長L2とは、L2/L1≦2を満たすことを特徴とする内燃機関用の点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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