説明

内視鏡ライトガイド可撓管およびその外皮層の製造方法

【課題】耐久性と操作性に優れ、簡易な製造方法により製造可能な内視鏡ライトガイド可撓管、およびその外皮層の製造方法を提供する。
【解決手段】加熱により部分的に架橋する熱可塑性エラストマーにより、ライトガイド可撓管の外皮層の中間体16を形成する。このチューブ状の中間体16の所定の領域、例えば長手方向の中心部16Cをヒータ20により加熱する。この結果、中心部16Cは、外皮層材料であるポリウレタンエラストマー中の水酸基とイソシアネート基との架橋反応により、硬化する。このように、中間体16の位置選択的な加熱により、外皮層における硬質領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡装置のプロセッサとスコープとを接続するライトガイド可撓管、およびその外皮層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡装置においては、プロセッサとスコープとを接続するライトガイド可撓管が設けられている。ライトガイド可撓管により、プロセッサの光源から出射された照明光とその反射光、スコープで生成された画像信号等が伝達される。
【0003】
ライトガイド可撓管の周囲を覆う外皮層は、一般に、均一な部材で形成されている。また、ライトガイド可撓管の屈曲を防止するためのカバー部材を設けることが知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−229059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ライトガイド可撓管の外皮層を硬くて均一な部材で形成すると、ライトガイド可撓管の操作性が低下し、ユーザが操作する手に疲労感を覚えるといった問題が生じ得る。また、均一かつ軟らかい外皮層を設けると、ライトガイド可撓管の耐久性が低下する。この場合、例えばライトガイド可撓管が吊り下げられた状態で保管されると、曲げ応力による屈曲変形、自重による伸びなどの問題を生じるおそれがある。従って、均一な部材による外皮層を含むライトガイド可撓管においては、操作性と耐久性との両立が困難である。
【0005】
一方、外皮層において屈曲防止用のカバー部材を設けること等により、ライトガイド可撓管の部位に応じて必要な性能を向上させることが考えられる。しかしながら、この場合、ライトガイド可撓管の製造工程が複雑化する。
【0006】
本発明は、耐久性と操作性に優れ、簡易な製造方法により製造可能な内視鏡ライトガイド可撓管、およびその外皮層の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内視鏡ライトガイド可撓管は、内視鏡装置のプロセッサとスコープとを接続しており、ライトガイド可撓管の外皮層が、加熱により架橋するエラストマーもしくはゴムの外皮層材料により形成され、外皮層の一部において外皮層材料の加熱により硬質領域が形成されていることを特徴とする。
【0008】
外皮層材料は、熱可塑性エラストマーであることが好ましい。この場合、外皮層材料は、例えば熱可塑性ポリウレタンである。
【0009】
硬質領域は、ライトガイド可撓管の長手方向における中心部と第1端部と第2端部の少なくともいずれかに設けられていることが好ましい。
【0010】
本発明の製造方法は、内視鏡装置のプロセッサとスコープとを接続するライトガイド可撓管の外皮層の製造方法であり、加熱により架橋するエラストマーもしくはゴムの外皮層材料によりチューブ状の中間体を形成する中間体形成工程と、中間体の一部である被加熱領域を加熱して硬質領域を設ける加熱工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
外皮層の製造方法は、加熱工程において加熱されない中間体の非加熱領域のうち、被加熱領域の近傍を冷却する冷却工程をさらに有することが好ましい。加熱工程においては、被加熱領域の周辺部を中心部よりも低い温度で加熱することが好ましい。また、加熱工程においては、中間体の長手方向における中心部と第1端部と第2端部の少なくともいずれかを加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐久性と操作性に優れ、簡易な製造方法により製造可能な内視鏡ライトガイド可撓管、およびその外皮層の製造方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態におけるライトガイド可撓管が使用されている状態を示す図である。図2は、本実施形態におけるライトガイド可撓管が保管されている状態を示す図である。
【0014】
電子内視鏡装置30は、プロセッサ40とスコープ50とを含む。プロセッサ40とスコープ50とは、ライトガイド可撓管10により接続されている。プロセッサ40の光源(図示せず)から出射された照明光とその反射光、およびスコープ50で生成された画像信号等は、ライトガイド可撓管10により伝達される。電子内視鏡装置30の使用中、ユーザは、挿入部可撓管52を人体内に挿入させ、スコープ50の操作部54を操作する。これらの操作により、体腔内が観察、撮影され、必要に応じて患部が処置される。
【0015】
一方、電子内視鏡装置30の未使用時には、スコープ50は、例えばスコープハンガ56に吊り下げられた状態で保管される(図2参照)。このとき、ライトガイド可撓管10のスコープ50側の第1端部10Eにおいては曲げ応力による屈曲変形が生じ得る。また、ライトガイド可撓管10の中心部10Cは、ライトガイド可撓管10の自重により徐々に伸びてしまうおそれがある。
【0016】
ライトガイド可撓管10の第2端部10F、すなわち第1端部10Eとは反対側の端部には、コネクタ部42が接続されている。電子内視鏡装置30の使用時には、コネクタ部42がプロセッサ40に取り付けられる(図1参照)。このとき、第2端部10Fには、スコープ50を操作するユーザにより曲げ方向に力が加えられる場合がある。
【0017】
以上のことから明らかであるように、ライトガイド可撓管10の長手方向における中心部10Cと、第1および第2端部10E、10Fにおいては、耐久性の向上が必要とされる。そこで本実施形態においては、ライトガイド可撓管10の外皮層12を以下のように製造することにより、これらの部位の強度を向上させている。なお外皮層12は、ライトガイド可撓管10の表面に設けられており、金属性の螺旋管で形成されたライトガイド可撓管10の芯材(いずれも図示せず)の周囲を覆っている。
【0018】
次に、外皮層12の製造方法につき説明する。図3は、外皮層12の中間体を示す図である。図4は、外皮層12の中間体を加熱する加熱工程を示す図である。
【0019】
外皮層12(図1および2参照)は、外皮層材料から形成される。外皮層材料は、加熱されると架橋する熱可塑性エラストマー、例えばポリウレタンである。まず、押出成型等により、外皮層材料からチューブ状の中間体16を形成する(中間体形成工程)。この工程において、外皮層材料は、螺旋管の芯材18を取り囲むように押し出され、中間体16となる。このように中間体16は、均一な組成、厚さの外皮層材料により形成される。なお、このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、例えば、日本ミラクトラン株式会社製のミラクトラン(商標)などが使用可能である。
【0020】
次に、中間体16の所定の領域、例えば長手方向の中心部16Cをヒータ20により加熱する(加熱工程・図4参照)。加熱条件は、外皮層材料の種類、製造される外皮層12の厚さ等により異なるが、例えば80〜100℃で8〜24時間である。このようにして加熱された被加熱領域である中心部16Cは、外皮層材料であるポリウレタンエラストマー中の水酸基とイソシアネート基との架橋反応により、硬化する。この結果、中間体16の中心部16Cは、完成した外皮層12において、その周囲よりも硬度の高い硬質領域となる。
【0021】
なお、中心部16Cのみを確実に加熱するために、中間体16において加熱されない非加熱領域であって、長手方向の第1および第2端部16E、Fを含む領域は、冷却水等により冷却される(冷却工程)。冷却工程においては、加熱されない非加熱領域のうち、加熱領域である中心部16Cの近傍のみを冷却しても良い。加熱領域の不必要な拡大を防止することが可能だからである。
【0022】
しかしながら、本実施形態のように、加熱領域である中心部16Cの近傍を冷却せず、中心部16Cから第1および第2端部16E、F側に少し離れた領域を冷却すると、完成した外皮層12において、硬質領域からその周辺の非硬質領域にかけての硬度変化が緩やかになる。ヒータ20からの熱が、中心部16Cと第1端部16Eの間、もしくは中心部16Cと第2端部16Fの間の領域にも伝わるからである。この場合、製造された外皮層12において、硬度と湾曲性が極端に異なる硬質領域と非硬質領域とが隣接することによる悪影響、例えば外皮層12の強度低下等を防止できる。
【0023】
このように、外皮層12における穏やかな硬度変化を実現する場合、加熱工程において温度勾配を設け、被加熱領域の周辺部を中心部よりも低い温度で加熱する必要がある。この温度勾配を実現するため、図示されたように両端部16E、16F側の領域を冷却しつつ加熱する他に、加熱温度の異なる複数のヒータ20を用いても良い。
【0024】
なお上述のように、ライトガイド可撓管10の中心部10C、および第1、第2端部10E、10Fの耐久性を向上させることが好ましいため、中間体16の中心部16Cと第1および第2端部16E、Fを加熱して、外皮層12の中心部と両端部を硬質領域にしても良い。また、中心部16C、第1端部16E、第2端部16Fのうちいずれか1つ、もしくは2つを加熱しても良い。
【0025】
次に、外皮層が異なる複数のライトガイド可撓管の実施例と比較例につき、説明する。まず、表1に示すように、外皮層のみが異なる、実施例1〜5、および比較例1、2のライトガイド可撓管を製造した。
【0026】
【表1】

【0027】
これらのライトガイド可撓管においては、共通の螺旋管による芯材18(図3、4参照)の周囲を、外皮層が覆っている。実施例1〜5においては、表中に示されたように、外皮層12の中心部、第1端部、第2端部のうちの少なくともいずれかが加熱により硬化され、硬質領域となっている。ライトガイド可撓管の長さは、いずれの実施例、比較例とも2mであり、実施例1〜5において加熱により硬化された領域、すなわち硬質領域は、中心部、第1端部、第2端部のいずれも幅が10cmである。
【0028】
そして、実施例1〜5における硬質領域の硬度は85度であり、硬化されていない非硬質領域の硬度は80度である。これらの実施例1〜5の外皮層は、いずれも上述の架橋性を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマーで形成されている。
【0029】
これに対し、比較例1および2のライトガイド可撓管の外皮層は、熱可塑性ポリウレタンにより、架橋のための加熱工程を経ずに形成されており、硬度はそれぞれ85度、75度である。なおこれらの実施例および比較例の外皮層の硬度は、JIS K 6253に準拠したDuroタイプAの硬度計による、同一形状の板状部材についての測定値である。
【0030】
これらの実施例および比較例の外皮層を有するライトガイド可撓管の評価につき、以下に説明する。図5は、ライトガイド可撓管の耐久性試験の概要を示す図である。図6は、ライトガイド可撓管の操作性試験の概要を示す図である。
【0031】
耐久性の評価試験は、図示されたように、第1端部10Eを水平方向に伸びる孔21に嵌めて固定した状態のライトガイド可撓管10の第2端部10Fに、矢印Aの示す垂直方向に荷重を加えることにより行った。この荷重を徐々に増加させ、ライトガイド可撓管10に10%以上の永久歪みが生じ、もしくはライトガイド可撓管10が折れ曲がったときの荷重の大きさを基準値と比較した。
【0032】
この結果が表1に示されており、耐久性試験の欄の○印は、実施例1〜5および比較例1のライトガイド可撓管が、基準値よりも大きい荷重に耐えることが可能であり、比較例2よりも良好な結果であったことを示す。
【0033】
一方、操作性の評価試験は、第1端部10Eを水平方向に伸びる孔22に固定したライトガイド可撓管の第2端部10Fに、トルク荷重を加えることにより行った。第2端部10Fはパイプ23内にて摺動可能に保持されているため、矢印Bの示すようにトルク荷重を加えると(図6(a)参照)、ライトガイド可撓管の中心部10Cにおいて徐々にループが形成される(図6(b)参照)。最終的に、一重ループが形成されるまでトルク荷重を加え(図6(c)参照)、このときのトルク荷重を基準値と比べた。
【0034】
この結果が表1に示されており、操作性試験の欄の○印は、実施例1〜5および比較例2のライトガイド可撓管においては、基準値よりも小さいトルク荷重でループが形成されたため、与えられたトルク荷重の大きかった比較例1よりも良好な結果であったことを示す。
【0035】
これらの試験結果は、実施例1〜5のライトガイド可撓管、すなわち、中心部10C、第1端部10E、第2端部10Fの少なくともいずれか1つに硬質領域を設けたライトガイド可撓管は、耐久性との操作性のいずれにも優れていることを示す。このため、加熱工程により硬質領域を設けたことによる、ライトガイド可撓管の性能向上効果が認められたといえる。
【0036】
以上のように本実施形態においては、加熱により架橋するエラストマーの外皮層材料で外皮層12の中間体16を形成し、所定の領域のみを選択的に加熱することにより、耐久性と操作性とに優れたライトガイド可撓管10を製造することができる。
【0037】
さらに、このライトガイド可撓管10は、例えば耐久性を向上させるための層状部材を外皮層12の表面に積層させるといった工程なしに、簡易な方法により製造できる。さらに、中間体16(図3、4参照)の加熱する領域を変更することにより、硬質領域を様々な場所に設けたライトガイド可撓管の製造が可能であるので、設計変更に対する対応も容易である。
【0038】
また、本実施形態の外皮層12の製造方法を、スコープ50の挿入部可撓管52(図1参照)の外皮層の製造に適用しても良い。この場合、挿入部可撓管52に硬質領域を位置選択的に設けることが容易となる。例えば、挿入部可撓管52の挿入動作を容易にすべく、操作部54側の領域のみを硬くした外皮層、および挿入部可撓管52を簡易な方法で製造できる。
【0039】
中間体16の材質は本実施形態に限定されない。例えば、熱硬化性樹脂や、明確な降伏点を有さず、永久歪みを発生させにくいゴムにより中間体16を形成しても良い。ただし、ゴムを用いた場合、加硫のための助剤の添加が必要であること、およびチューブ状に成型するための中間体形成工程における加熱で中間体16(図3参照)が硬化してしまい、さらなる加熱により硬質領域を選択的に設けること(図4参照)が困難となり得ることから、熱可塑性エラストマーを外皮層12の材料とすることが好ましい。
【0040】
特に、部分的な架橋が可能なエラストマーは、本実施形態のポリウレタンタイプに限らず、加熱により適度な硬度を有し、耐久性の優れる硬質領域を容易に形成可能であるため、外皮層材料として適している。なお、熱可塑性エラストマーを外皮層材料に用いた場合、加硫助剤が不要であり、また長期間に渡る使用の後に廃棄等されたライトガイド可撓管10の外皮層12を容易に再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ライトガイド可撓管が使用されている状態を示す図である。
【図2】ライトガイド可撓管が保管されている状態を示す図である。
【図3】外皮層の中間体を示す図である。
【図4】外皮層の中間体を加熱する加熱工程を示す図である。
【図5】ライトガイド可撓管の耐久性試験の概要を示す図である。
【図6】ライトガイド可撓管の操作性試験の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 ライトガイド可撓管
10C 中心部
10E 第1端部
10F 第2端部
12 外皮層
16 中間体
30 内視鏡装置
40 プロセッサ
50 スコープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡装置のプロセッサとスコープとを接続するライトガイド可撓管であって、
前記ライトガイド可撓管の外皮層が、加熱により架橋するエラストマーもしくはゴムの外皮層材料により形成されており、前記外皮層の一部において前記外皮層材料の加熱により硬質領域が形成されていることを特徴とする内視鏡ライトガイド可撓管。
【請求項2】
前記外皮層材料が、熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡ライトガイド可撓管。
【請求項3】
前記外皮層材料が、熱可塑性ポリウレタンであることを特徴とする請求項2に記載の内視鏡ライトガイド可撓管。
【請求項4】
前記硬質領域が、前記ライトガイド可撓管の長手方向における中心部と第1端部と第2端部の少なくともいずれかに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡ライトガイド可撓管。
【請求項5】
内視鏡装置のプロセッサとスコープとを接続するライトガイド可撓管の外皮層の製造方法であって、
加熱により架橋するエラストマーもしくはゴムの外皮層材料によりチューブ状の中間体を形成する中間体形成工程と、
前記中間体の一部である被加熱領域を加熱して硬質領域を設ける加熱工程とを備えることを特徴とする内視鏡ライトガイド可撓管の外皮層の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程において加熱されない前記中間体の非加熱領域のうち、前記被加熱領域の近傍を冷却する冷却工程をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の内視鏡ライトガイド可撓管の外皮層の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程において、前記被加熱領域の周辺部を中心部よりも低い温度で加熱することを特徴とする請求項5に記載の内視鏡ライトガイド可撓管の外皮層の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程において、前記中間体の長手方向における中心部と第1端部と第2端部の少なくともいずれかを加熱することを特徴とする請求項5に記載の内視鏡ライトガイド可撓管の外皮層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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