説明

内視鏡装置

【課題】 本発明は,低侵襲性を維持しつつ,心臓内腔など広い領域や血管内での視野を確保するために,内視鏡の先端部から液体を噴出する内視鏡装置を実現する.従来研究・開発では,血液内の観察手段として内視鏡先端部に作成した隙間から生理食塩水を噴出し一時的に視野を確保する手法を行っている.しかし,過大な生理食塩水の噴出は侵襲が高い.低侵襲性を実現するために,先端部から噴出する液体としては,(1)できるだけ透明であること.(2)生体適合性があること.を同時に解決することが課題である.
【解決手段】 そこで,本発明では,血液等の体液が存在する中で用いる内視鏡の視野を得るために,自己血から抽出した血漿成分もしくは同等の成分をフラッシュ液として使用する.自己血の使用は生体適合性が極めて高く,また残った血球成分は体内に戻すことで,患者への負担が軽減される.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,低侵襲治療を実現するための医用工学における内視鏡に関する.
【背景技術】
【0002】
血管内視鏡は血管狭窄や硬化の診断のみならず,カテーテルの挿入による治療にも用いられるようになってきた.しかしながら,血流のある状態でそのまま血管内の画像を観察することは,赤血球の光散乱特性により困難である.特に心臓血管外科では体外循環により観察対象周辺の血液を退避させ治療を行っており,リスク・侵襲が高い.そこで血管内での画像を観察する手段として,内視鏡先端からレーザ誘起による気泡を作ることにより視野空間を確保する内視鏡が開発されている(例えば非特許論文1参照).しかしこの手法は,心臓内腔など広い領域での視野の確保には不向きである.また,血流が存在する中で,血管内視鏡の先端から生理食塩水を視野前方に噴出することで瞬間的な視野を確保し,それと同期して随時画像をレコーダーに蓄積することで,術中に常に血管内の鮮明な映像を取得するシステムが提案されている(例えば非特許論文2参照).
【0003】
しかし,この従来手法は,画像観察のための生理食塩水の噴出量は多くなる.そのため,過度な血管への水分等の注入は循環器系に影響を及ぼすことが考えられ,患者にとっては侵襲が大きいものと考えられる.
【非特許文献1】山下,他:Ho:YAGレーザ誘起水蒸気気泡による血液排除:新しい血管内視鏡のための視野確保法,医用電子と生体工学,Vol.42,Suppl.1,p.279,2004
【非特許文献2】菱,他:血管内手術支援のための血管壁可視化システムの開発,医用電子と生体工学,Vol.42,Suppl.1,p.278,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は,生体にとって負担が少ない低侵襲性を維持しつつ,心臓内腔など広い領域や血管内での視野を確保するために,内視鏡の先端部から液体を噴出する内視鏡装置を実現する.
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来研究では,血液内の観察手段として内視鏡先端部に作成した隙間から生理食塩水を噴出し一時的に視野を確保する手法を行っている.しかし,過大な生理食塩水の噴出は侵襲が高い.低侵襲性を実現するために,先端部から噴出する液体としては,(1)できるだけ透明であること.(2)生体適合性があること.が求められる.
【0006】
そこで,本発明では,血液等の体液が存在する中で用いる内視鏡の視野を得るために,自己血から抽出した血漿成分もしくは同等の成分をフラッシュ液として使用することで解決をする.
【発明の効果】
【0007】
血漿成分は,血液の遠心分離もしくは血漿分離膜交換により得られ,一般的に作成手法は確立している.また,血液のヘマトクリット値が極めて小さい時には血漿の透過性が高い.本発明の最大のメリットは,血漿成分の使用により,患者の自己血が利用可能となるため,生体適合性の良い透過度の高い液体として使用することが可能である点である.
【実施例】
【0008】
図1に内視鏡装置の実施例を示す.本実施例は,心臓の左心房内の治療を行うために,左心房上より内視鏡デバイスを挿入し観察することを想定した例である.実施例では,内視鏡デバイス(ψ4mm,長さ200mmの硬性内視鏡,内視鏡用光源,CCDカメラ,硬性内視鏡先端部より液体が噴出する灌流用外套管を含む),液体注入ポンプ,輸液チューブ,血漿分離システム,画像取り込み・処理・ポンプ制御・生体情報処理を行う制御器および内視鏡画像を表示するモニタから構成される.
【0009】
まず,対象となる患者から血液を引き出し,遠心分離機もしくは血漿分離機(中空糸フィルタ)等により,血液の中から血漿成分を抽出する.基本的には血液中の赤血球濃度が低い状態であり,患者本人に対する生体適合性が備わった液体であっても良い.抽出した液体は貯蔵し,その他の成分は直接もしくは希釈して体内に戻す.患者の自己血を用いた場合は極めて生体適合性が高い治療措置となる.
【0010】
内視鏡装置は,光源を含めた硬性内視鏡に,内視鏡よりも太い内径を有する外套管を同軸上となるように付け,内視鏡用カメラとの接合部において灌流用の活栓をつける.外套管と内視鏡は突起物により位置を固定し,ゴムパッキンにより液が漏れないようにする.外套管先端部の取り付け位置は,内視鏡視野を狭めないように調整する.これにより,活栓に取り付けたチューブから輸液を注入すると,外套管と内視鏡の隙間を通って,先端部から輸液が放出される.なお,実施例では硬性内視鏡を利用したが,光源があること,内視鏡視野内の映像が得られるという,一般の内視鏡と同等の機能が備わるように構成すれば種類を選ばない.
【0011】
既に貯蔵した血漿成分もしくは随時抽出される血漿成分は,輸液ポンプ等およびチューブを介して内視鏡装置に送られる.このとき,ポンプを駆動するタイミングは制御器により自動運転とするか,手動で駆動する信号を送ることが出来る.駆動タイミングは心臓から発する心電等を随時計測し,しかるべきタイミングでポンプを駆動することで,輸液が内視鏡装置先端部より放出される時間間隔の制御を行う.
【0012】
さらに制御器では,輸液を放出する時間に,内視鏡画像を記録し,それをモニタ画面上に表示する.この内視鏡装置を用いる医師は,輸液を放出している間の画像のみ観察することとなる.このため,超音波画像等の粗い画像を観察して行う従来の治療から,より鮮明でかつ治療対象を観察しながらの治療へと転換することが可能となるため,治療時間の短縮,成績の向上が期待される.
【産業上の利用可能性】
【0013】
主に医療産業では低侵襲治療がひとつのキーワードとなっているが,本発明により,極めて生体適合性の高い材料による,新しい高度な血管内治療が実現でき,内視鏡装置および周囲の医療用品等の普及につながる.
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】は実施例の構成図を示している.図中の記号は下記のとおりである.
【符号の説明】
【0015】
a.血漿分離装置 b.貯蔵タンク
c.輸液ポンプ d.外套管
e.ECG等の生体信号 f.内視鏡画像表示用モニタ
g.制御器(画像入力,画像処理,生体信号処理,ポンプ駆動機能)
h.血漿流れ i.画像信号
j.外套管および内視鏡の接合部パッキン
k.硬性内視鏡 l.血漿が抜かれた主に血球成分
m.血液(自己血) n.血漿成分
o.ポンプ駆動信号 p.対象となる患者の血管壁もしくは心腔壁
q.内視鏡デバイス先端の血漿放出部
r.内視鏡デバイスと輸液チューブの接続部
s.ビデオ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液等の体液が存在する中で用いる内視鏡の視野を得るために,自己血もしくは同等の適合する血液から抽出した血漿成分を使用する内視鏡装置

【図1】
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【公開番号】特開2008−272388(P2008−272388A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138415(P2007−138415)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(507169738)
【Fターム(参考)】