説明

内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法及び塗料変質ミスト発生抑止装置

【課題】内面塗装導管において管内の輸送流体に塗料変質ミストが混入するのを抑止すること。
【解決手段】内面塗装がなされている導管10に対して、特定された加熱処理を伴う工事箇所の外表面に装着され、導管10内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で導管10の外表面を事前加熱する加熱手段20を備える。加熱手段20は、導管10の外表面を部分的に又は全周囲んで外表面に臨む火炎放射空間Sを形成する火炎放射部21と、火炎放射部21に燃焼ガスを供給するガス供給部22と、ガス供給部22から火炎放射部21に供給するガス供給量を調整する供給ガス量調整部23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法及び塗料変質ミスト発生抑止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼製導管の内面には防錆用などの内面塗装が一般に施されている。このような内面塗装導管を溶接や切断などのために外面から加熱すると、導管内面の塗料が加熱によって変質することでミスト化して飛散し、そのミスト化成分が導管内の搬送流体に混ざって下流側に運ばれ、導管に接続されたバルブなどの流体機器に付着してその動作に悪影響を及ぼす不具合が確認されている。このようなミスト化成分は、導管内面に塗装されている塗料が短時間に高温加熱されることで生成されるもので、この生成物は冷却されると凝縮して粘着性を有することから、流体機器の動作部位に付着し動作を阻害する不具合が発生する。このようなミスト化成分を以下に塗料変質ミストという。
【0003】
この塗料変質ミスト対策として、例えば下記特許文献1,2に記載のものが提案されている。特許文献1には、ガス導管に形成された貫通孔周囲の内面の塗装層を内面研磨治具で除去することが記載されており、内面研磨治具で貫通孔周囲の塗装を除去することで、貫通孔にプラグを取り付けて溶接する際に塗料変質ミストが発生しないようにしている。特許文献2には、塗料変質ミストを含むガス流をミスト除去装置に導き、塗料変質ミストをミスト除去装置内のミスト除去フィルタで捕集することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−15049号公報
【特許文献2】特開2008−246351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、導管内面の塗装層を研磨治具で除去できるのは、導管の内部が一部又は全部で開放されている場合に限られる。これに対して、導管内の一部区間で流通を遮断して加熱切断を行う場合がある。この場合は切断箇所が開放されていないので、内面研磨によって塗装層を除去することができず、切断される導管内の輸送流体に塗料変質ミストが混ざってしまうことになる。
【0006】
切断された導管に対して接続工事を行った後には、内部の流体をクリーンな輸送流体と置換する作業(パージ作業)が行われるが、このパージ作業自体が時間を要する作業であって工事期間を長期化させる要因の一つになっている。また、塗料変質ミストを含む流体を完全にクリーンな輸送流体に置換することは困難であって、置換した輸送流体に微量な塗料変質ミストが混入した場合にも導管の末端部で機器障害などの不具合が起こる問題があった。
【0007】
また、導管を所定区間遮断して、区間内で導管の穿孔又は切断を行う場合に、穿孔又は切断後に導管内の内面研磨作業を行うと、導管を遮断した後の工事期間が内面研磨作業を行う時間だけ長引くことになり、遮断区間の下流側で輸送流体の供給停止が長期化する問題がある。
【0008】
一方、輸送流体に塗料変質ミストが混入した場合には、特許文献2に記載されるように塗料変質ミストを含む輸送流体をミスト除去装置に導き、塗料変質ミストを捕集することで対処することができるが、工事の下流側に接続するミスト除去装置のフィルタを工事が発生する度に交換することになり、多大な設備投資と労力を必要とする問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、開口部が形成されていない活管状態の管に対して切断などの加熱工事を施す場合にも、管内の輸送流体に塗料変質ミストが混入するのを抑止すること、導管を遮断して切断などの工事を行う場合に工事期間が長引かないようにし、遮断箇所の下流側での流体供給の停止を長期化しないようにすること、塗料変質ミストによる不具合の回避を少ない設備投資と労力で実現できること、パージ作業を回避して工事期間の短縮化を可能にすること、などが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明に係る内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法は、内面塗装がなされている導管に対して、加熱処理を伴う工事箇所を特定し、該工事箇所に対して、前記導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で前記導管の外表面を事前加熱し、前記工事箇所において前記導管内の塗料を気化させて除去することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止装置は、内面塗装がなされている導管に対して、特定された加熱処理を伴う工事箇所の外表面に装着され、前記導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で前記導管の外表面を事前加熱する加熱手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、加熱を伴う工事箇所周辺における管内の塗料を事前加熱によって塗料変質ミストが発生しないように除去できるので、開口部が形成されていない活管状態の管に対して切断などの加熱工事を施す場合にも、管内の輸送流体に塗料変質ミストが混入するのを未然に抑止することができる。導管の流体輸送を遮断して切断などの工事を行う場合に、塗料の研磨作業を省くことができるので、工事期間の短縮化が可能になる。加熱を伴う工事の施工時に塗料変質ミストを発生させないので工事の下流側にミスト除去装置を配備する必要が無くなり、塗料変質ミストによる不具合の回避を少ない設備投資と労力で実現できる。パージ作業が不要になり、パージ作業を余儀なくされていた従来の工事に対して工事期間を短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法によって塗料変質ミストの発生を未然に抑止した工事のフロー図。
【図2】本発明の実施形態に係る塗料変質ミスト発生抑止工法の事前加熱の態様例を示した説明図。
【図3】本発明の実施形態に係る塗料変質ミスト発生抑止装置を説明する説明図。
【図4】本発明の実施形態に係る塗料変質ミスト発生抑止装置を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本発明の実施形態に係る内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法及び塗料変質ミスト発生抑止装置は、塗料変質ミストが導管内の塗料を高温で急激に加熱した場合に発生し、ある程度低温で徐々に導管内の塗料を加熱した場合には、塗料変質ミストは発生することなく、導管内の塗料を気化して除去することができるという試験結果から得た知見に基づくものである。
【0015】
すなわち、本発明の実施形態に係る内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法は、内面塗装がなされている導管に対して、加熱処理を伴う工事箇所を特定し、工事箇所に対して、導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で導管の外表面を事前加熱し、工事箇所において導管内の塗料を気化させて除去するものである。
【0016】
塗料変質ミストは、導管内面に施されたエポキシ系樹脂などによる塗料(防錆塗料)が導管の溶接工事や加熱切断工事時に高温で急激に加熱された際に発生することが従来から知られている。これに対して、導管の外表面を比較的低温で時間を掛けて加熱した場合には、導管内面に施された塗料は気化して導管内を流れる輸送流体中に混入することにはなるが、下流側の流体機器などに付着して流体機器の動作に悪影響を及ぼす塗料変質ミストにはならず、このような条件での加熱を継続的に行えばその加熱箇所内面の塗料を取り除いてしまえることが試験結果によって新たに判明した。溶接や加熱切断などの高温加熱を伴う工事の前に事前加熱として塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱を行うことで、その加熱箇所における導管内の塗料を気化させて除去することできる。その後に溶接や加熱切断工事を行うことで、塗料変質ミストの発生を未然に抑止することができる。
【0017】
このような知見に基づいて図1に示したフローで工事を施工することで、塗料変質ミストの発生を未然に抑止することができる。先ず第1には、工事対象の内面塗装導管に対して溶接や加熱切断など、加熱処理を伴う工事を行う工事箇所を特定する(工事箇所の特定;S1)。次に、特定した工事箇所に対して、導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で導管の外表面を事前加熱する(事前加熱;S2)。事前加熱で導管内の塗料が除去された工事箇所に対して、溶接や加熱切断などの加熱を伴う工事を施工する(工事の施工;S3)。
【0018】
前述した事前加熱における加熱温度などの態様は、導管内面に施されて塗料の材質によって適宜設定される。塗料がエポキシ系樹脂の場合には、250℃を超える温度への急激な加熱で塗料変質ミストが発生し、250℃に達しない範囲の低温でも継続的な加熱或いは、250℃を超える場合にも緩やかな温度上昇によって塗料変質ミストを発生させない事前加熱が可能になる。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る塗料変質ミスト発生抑止工法における事前加熱の態様例を示した説明図である。同図(a)に示した例では、事前加熱は、導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度を徐々に上昇させている。このように常温T0付近から徐々に加熱温度を上昇させた場合には、十分に時間を掛けた後に到達した温度が250℃を超えたとしても、塗料変質ミストは発生しない。同図(b)に示した例では、事前加熱は、導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度を段階的に上昇させている。このように常温T0付近から段階的に加熱温度を上昇させた場合には、十分に時間を掛けた後に到達した温度が250℃を超えたとしても、塗料変質ミストは発生しない。同図(c)に示した例では、事前加熱は、導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の一定の加熱温度を設定時間継続させている。この例では、塗料変質ミストは発生しないが塗料を気化させることができる加熱温度を一定に保って、加熱箇所の塗料が全て気化される時間まで加熱を継続させる。
【0020】
事前加熱では、緩やかな温度上昇が必要であり、加熱温度の加熱時間に対する平均的な上昇を100℃/min以下、好ましくは30℃/min以下、更に好ましくは10℃/min程度にする。これによって、塗料変質ミストを発生させることなく、導管内面の塗料を気化させて除去することができる。このような事前加熱は、以下に示すような塗料変質ミスト発生抑止装置を用いて、工事箇所を囲むように導管の外表面に火炎加熱手段を装着することによって行うことができる。
【0021】
図3及び図4は、本発明の実施形態に係る塗料変質ミスト発生抑止装置を説明する説明図である。図3において、同図(a)は正面図、同図(b)はA−A断面図を示している。図4において、同図(a)は正面図、同図(b)はB−B断面図を示している。
【0022】
図3及び図4に示した塗料変質ミスト発生抑止装置1(1A,1B)は、内面塗装がなされている導管10に対して、特定された加熱処理を伴う工事箇所の外表面に装着され、導管10内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で導管10の外表面を事前加熱する加熱手段20を備える。加熱手段20は、導管10の外表面を部分的に又は全周囲んで外表面に臨む火炎放射空間Sを形成する火炎放射部21と、火炎放射部21に燃焼ガスを供給するガス供給部22と、ガス供給部22から火炎放射部21に供給するガス供給量を調整する供給ガス量調整部23とを備える。
【0023】
図3に示した例は、導管10の全周を同時に加熱する加熱手段20を備えている。この例における火炎放射部21は火炎放射空間Sを形成する空間形成部21Aを備えており、空間形成部21A内部にはガス流路aとガス放出口bが形成されている。また、火炎放出部21は管軸方向に沿って分割するように形成され、分割体のフランジ部c,cを結合させることで導管10へ装着できるようになっている。
【0024】
供給ガス調整部23を介してガス供給部22から供給される燃焼ガスを火炎放射部21のガス流路aに供給し、図示省略の着火手段を用いてガス放出口bから放出される燃焼ガスに着火し、火炎放出空間S内に火炎を放出させる。供給ガス調整部23を手動又は自動で調整することで、事前加熱における加熱温度を適宜調整することができる。供給ガス調整部23を自動調整するものでは、図示省略のコントローラからの出力で供給ガス調整部23のバルブ開度を調整する。
【0025】
図4に示した例は、導管10の外表面を部分的に加熱する加熱手段20を備えている。この例における火炎放射部21は火炎放射空間Sを形成する空間形成部21Aを備えており、空間形成部21A内部にはガス流路aとガス放出口bが形成されている。加熱手段20は特定された導管10の工事箇所の上に空間形成部21Aを被せるように装着する。
【0026】
このような実施形態に係る塗料変質ミスト発生抑止装置1(1A,1B)によって、前述した塗料変質ミスト発生抑止工法の事前加熱を行うことができる。これによって、加熱を伴う工事箇所周辺における管内の塗料を事前加熱によって塗料変質ミストが発生しないように除去することができる。
【0027】
このような事前加熱によって、開口部が形成されていない活管状態の管に対して切断などの加熱工事を施す場合にも、管内の輸送流体に塗料変質ミストが混入するのを抑止することができる。導管の流体輸送を遮断して切断などの工事を行う場合に、塗料の研磨作業を省くことができるので、工事期間の短縮化が可能になる。
【0028】
加熱を伴う工事の施工時に塗料変質ミストを発生させないので工事の下流側にミスト除去装置を配備する必要が無くなり、塗料変質ミストによる不具合の回避を少ない設備投資と労力で実現できる。パージ作業が不要になり、パージ作業を余儀なくされていた従来の工事に対して工事期間を短縮することが可能になる。
【符号の説明】
【0029】
1(1A,1B):塗料変質ミスト発生抑止装置,
10:導管,20:加熱手段,21:火炎放出部,22:ガス供給部,
23:供給ガス量調整部,S:火炎放射空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面塗装がなされている導管に対して、加熱処理を伴う工事箇所を特定し、
該工事箇所に対して、前記導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で前記導管の外表面を事前加熱し、前記工事箇所において前記導管内の塗料を気化させて除去することを特徴とする内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法。
【請求項2】
前記事前加熱は、前記加熱温度を徐々に上昇させることを特徴とする請求項1記載の内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法。
【請求項3】
前記事前加熱は、前記加熱温度を段階的に上昇させることを特徴とする請求項1記載の内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法。
【請求項4】
前記事前加熱は、一定の前記加熱温度を設定時間継続させることを特徴とする請求項1記載の内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法。
【請求項5】
前記事前加熱は、前記加熱温度の加熱時間に対する平均的な上昇を100℃/min以下にすることを特徴とする請求項1記載の内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法。
【請求項6】
前記事前加熱は、前記工事箇所を囲むように前記導管の外表面に火炎加熱手段を装着することによって行うことを特徴とする請求項1記載の内面塗装導管における塗料変質ミスト発生抑止工法。
【請求項7】
内面塗装がなされている導管に対して、特定された加熱処理を伴う工事箇所の外表面に装着され、
前記導管内に塗料変質ミストが発生しない範囲の加熱温度で前記導管の外表面を事前加熱する加熱手段を備えることを特徴とする塗料変質ミスト発生抑止装置。
【請求項8】
前記加熱手段は、
前記導管の外表面を部分的に又は全周囲んで前記外表面に臨む火炎放射空間を形成する火炎放射部と、
該火炎放射部に燃焼ガスを供給するガス供給部と、
前記ガス供給部から前記火炎放射部に供給するガス供給量を調整する供給ガス量調整部とを備えることを特徴とする請求項7に記載の塗料変質ミスト発生抑止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255322(P2011−255322A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132460(P2010−132460)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】