説明

再狭窄の発症リスクを判定する方法

【課題】冠動脈形成術後の再狭窄の発症リスクを判定する方法の提供。
【解決手段】冠動脈再建術治療を施行された被験者の再狭窄の発症リスクを判定する方法であって、
(a)被験者の生体サンプル中の変性低比重リポ蛋白(変性LDL)レベルを測定する工程と、
(b)当該変性LDLの測定値を予め定めた基準値と比較する工程、
を含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠動脈再建術治療を施行される被験者における冠動脈再建術治療施行後の再狭窄の発症リスクを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冠動脈疾患(CAD)に対する治療として汎用される経皮的冠動脈再建術(PCI)のうち、最も一般的であるステント植え込み術治療を行った患者では、治療後3〜6ヶ月後に20〜40%程度の頻度で再狭窄が起こることが、大きな問題となっている(非特許文献1〜3参照)。
再狭窄の検査方法としては次の(1)〜(3)のような検査方法があるが、それぞれ問題点を有している。
(1)冠動脈造影検査: 通常、PCI後に2回行って再狭窄を検査するが、侵襲的検査であり、特に糖尿病(DM)患者では腎症による腎機能障害が多いため、造影剤の腎毒性が問題となる。
(2)運動負荷心電図検査: 再狭窄の検出感度が低く、これだけでは十分ではない。また、本検査は運動負荷によって狭心症などの心事故を引き起こす危険があり、高齢者、および運動障害者等ではこの検査はできない。
(3)心臓CT(マルチスライスCT)検査: 近年、普及してきたものの、ステント挿入部位における再狭窄の観察は困難である。
いずれの検査も患者への負担が大きく、また再狭窄形成後の状態を確認するためのもので、再狭窄の発症リスクを判定することはできない。
【0003】
一方、糖尿病(DM)患者では、非DM患者に比べ再狭窄の頻度が高い(非DMで26.3%に対し、DMでは36.8%)ことが知られている(非特許文献1)ものの、再狭窄の発症リスクを判定するパラメーターは明確になっておらず、年齢、性別、喫煙、高脂血症、透析患者か否かに関しては、再狭窄発症との関連がないとされている(非特許文献4)。また、DM患者の場合、再狭窄が生じても胸部症状を自覚しない無症候性の患者が多く存在するため、再狭窄の発症リスクを判定する方法の開発が強く望まれていた。
再狭窄の発症リスクを判定する方法としては、冠動脈再建術治療施行後の動脈壁損傷部位における単球/マクロファージの異常蓄積や活性化につながる因子を測定する方法(特許文献1)や、冠動脈再建術治療施行後の体液試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定する方法(特許文献2)が報告されているものの、これらも冠動脈再建術治療施行後に測定するものであり、再狭窄発症リスクの予測あるいは早期判定という観点では実用的でなかった。
【特許文献1】特開平9−54090号公報
【特許文献2】特開平2000−249709号公報
【非特許文献1】宮内克己:糖代謝異常を合併した冠動脈疾患に対する冠血行再建術と予後、心臓、37:280-286、2005
【非特許文献2】田村俊寛、木村剛、冠動脈インターベンション後の再狭窄−メカニズムと治療法−:内科、93、890-896、2004
【非特許文献3】宮内克己、横山貴之、代田浩之:酸化ストレスと再狭窄、血管医学、2、80-87、2001
【非特許文献4】横山直之、一色高明、外来での再狭窄の診断と対処法:Heart View Vol.9 No.1 2005 p8-12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、冠動脈再建術治療を施行された被験者の再狭窄の発症リスクを上記のような問題がなく判定できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、DM患者でPCI治療のステント植え込み術治療を行う患者を対象として、該治療前及び/または後に測定した変性低比重リポ蛋白(変性LDL)値を予め定めた基準値と比較することにより、該治療後の再狭窄の発症リスクを判定できることを見出し本発明を完成した。尚、本願明細書において「再狭窄の発症リスク」とは再狭窄の形成可能性を指し、「判定できる」とは、従来技術のように再狭窄形成後の状態を確認するのではなく、再狭窄の形成可能性(発症)の高低を予測または判別することを意味する。
【0006】
即ち本発明は、冠動脈再建術治療を施行された被験者における再狭窄の発症リスクを判定する方法であって、
(a)被験者由来の生体サンプル中の変性低比重リポ蛋白(変性LDL)を測定する工程と、
(b)当該変性LDLの測定値を予め定めた基準値と比較する工程、
を含むことを特徴とする方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、冠動脈再建術治療を施行される被験者における冠動脈再建術治療施行後の治療プロトコルを決定する方法であって、前記(a)工程と(b)工程を含むことを特徴とする方法をも提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の再狭窄の発症リスクを判定する方法により、変性LDL値が予め定めた基準値より低値の場合は、患者に負担の大きい従来の検査(冠動脈造影検査や運動負荷心電図検査など)の過度の繰り返しを防ぐことができる。
一方、変性LDL値が予め定めた基準値より高値の場合は、積極的に検査を行うことで再狭窄の見落としを防ぐことができる。また食事療法、再狭窄予防のエビデンスが整いつつあるスタチンなどによる薬剤治療を積極的に行うことで、再狭窄を防止することができる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、冠動脈再建術治療を施行された被験者の再狭窄の発症リスクを判定する方法であり、該冠動脈再建術としては、経皮的冠動脈再建術(PCI)のうち最も一般的なステント植込み術だけでなく、バルーンのみによる冠動脈拡張術(POBA:plain old balloon angioplasty)、従来のバルーンカテーテルの表面に2〜3枚の刃がついたカッティングバルーン、冠動脈の粥腫を切除するアテレクトミー、粥腫を蒸散させるレーザー形成術等が挙げられ、本発明はいずれの場合にも適用できるが、好ましくはステント植込み術治療が挙げられる。
【0010】
本発明は下記(a)工程と(b)工程を含む。
【0011】
(a)被験者の生体サンプル中の変性低比重リポ蛋白(変性LDL)レベルを測定する工程
変性LDLとしては酸化LDLが好ましい。酸化LDLとしては、マロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL)、酸化リン脂質を含有する酸化LDLや前記酸化LDLと蛋白との複合体が挙げられる。これらのうち、さらに好ましいのはマロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL)である。
【0012】
変性LDLの測定方法としては、酸化LDLや酸化LDLと蛋白の複合体を検出する免疫学的測定法(例えば、モノクローナル抗体FOH1a/DLH3を使用する方法(Itabe H. et al., J Lipid Res. 1996, 37(1), 45-53.), モノクローナル抗体4E6を使用する方法(Holvoet P. et al., Circulation. 1998, 98(15), 1487-94.)等)、イオン交換クロマト法による測定法(Shimano H. et al., J Lipid Res. 1991, 32(5):763-73.)等の公知の方法を用いることができる。これらのうち、MDA-LDLを測定する方法としては、特許第3115587号に記載の方法が好適であり、該方法においてMDA-LDLの測定の特異性を高めるために、MDA-LDL及びLDLを構成しているアポBを認識する抗体とのサンドイッチ酵素免疫測定法を用いるのが特に好ましい。すなわち、MDA-LDLを認識するモノクローナル抗体及びアポB認識抗体の何れか一方を不溶性担体に固定化し、他方を酵素で標識して、これらを被検体と接触させてサンドイッチ酵素免疫測定を行ってMDA-LDLを測定する方法が好ましい。この方法によれば、MDA-LDL以外のMDA修飾蛋白を検出する可能性を無くすことができる。
【0013】
本発明で用いられる生体サンプルとしては、血液、血漿、あるいは血清が挙げられるが、中でも血清が好ましい。生体サンプルは冠動脈再建術治療の前及び後の何れに採取されたものであってもよく、前後2回以上採取されたものであってもよいが、早期に再狭窄の発症リスクを判定するという観点からは、該治療前のサンプルが好ましい。また、被験者が糖尿病患者である場合、再狭窄の発症リスクが大きく、本発明方法は、早期診断、治療を行い重症化を防止するために極めて有効である。
【0014】
(b)当該変性LDLの測定値を予め定めた基準値と比較する工程
ここで、基準値は、例えば予め変性LDL値を確認した複数の被験者について、再狭窄を発症したか否かの追跡調査をした結果を、統計学的解析手法を用いて解析することにより設定することができる。例えば該基準値は、PCI治療前の変性LDL値、あるいはPCI治療後から一定期間経過後の変性LDL値のいずれの場合においても、それぞれ同様の統計学的解析手法を用いて設定することができる。被験者のPCI治療前の変性LDL値が、PCI治療前の変性LDL値から定めた基準値より高くなっている場合、及び/またはPCI治療後の変性LDL値が、PCI治療後の変性LDL値から定めた基準値より高くなっている場合には、再狭窄の発症リスクがあると判定できるが、早期に再狭窄の発症リスクを判定するという観点からは、PCI治療前の変性LDL値により再狭窄の発症リスクを判定することが好ましい。
【0015】
前記の統計学的解析手法の例としては、Receiver-operating characteristics (ROC)曲線を用いた解析が挙げられ、再狭窄群を識別する感度および特異度が共に高い(両者の差が最小値を示す)値を基準値とすることができる。尚、該基準値は、予測精度、予防効果など臨床現場における要望・事情を勘案して、それぞれの要望・事情に最適な値を設定することができる。
一般的には冠動脈再建術の施術後3〜6ヶ月後に再狭窄が形成されるため、3ヶ月後と6ヶ月後に確認造影検査を行い再狭窄の有無を診断している。それ故、PCI治療前から確認造影を行う治療後6ヶ月後まで変性LDL値をモニターすることにより、より高い精度で再狭窄の発症リスクを判定できる。
このようにして、PCI施行患者の再狭窄の発症リスクが、高精度で判定できるので、PCI治療後の治療プロトコルの決定が容易になる。すなわち再狭窄の発症リスクが高い患者に対しては、1.食事療法など、生活習慣改善指導をより積極的に行う、2.再狭窄予防のエビデンスが整いつつあるスタチン系薬剤の投与を行う、などにより、再狭窄を防止することができる。また、適宜冠動脈造影検査などを行うことにより、無症候性の再狭窄を見逃す危険を低下させることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(MDA-LDLの基準値の設定-1)
【0017】
方法
CADに対するPCI治療のうち、ステント植え込み術を行ったDM患者についてPCI治療直前に採血してMDA-LDLを測定した。(計44例)尚、MDA-LDL測定のための血清検体の採取、保存、および測定操作は次の如く実施した。
【0018】
試薬
(1)抗体結合プレート:抗MDA-LDLマウスモノクローナル抗体(ML25)結合ウエル
(2)酵素標識抗体液 :β-ガラクトシダーゼ標識抗アポBマウスモノクローナル抗体2.86μg/mL
(3)洗浄液 :20mMリン酸緩衝液(pH7.2)
(4)基質液 :10 mM o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド
(5)停止液 :200mM炭酸ナトリウム
(6)検体希釈液 :25mM HEPES緩衝液(pH7.8)
(7)標準液 :MDA-LDL濃度既知血清*
*:ヒトLDLを人工的にMDA修飾してMDA-LDLを調製して、そのタンパク濃度を求め、上記測定系において、該調製したMDA-LDL 1mg/mLと同じ吸光度を示す血清中のMDA-LDL濃度を1U/Lと定義し、値付けを行った(文献 Kotani K. et al., Biochim Biophys Acta, 1994, 1215, 121-5)。
【0019】
操作方法
<試料の調製方法>
検体は新鮮な血清を用い、最終希釈率2000倍になるように検体を検体希釈液で希釈し、15〜30℃で1時間静置し、試料とした。具体的には、検体20μLに検体希釈液980μLを加え、50倍希釈した液20μLに検体希釈液780μLを加え、更に40倍希釈した。この液を15〜30℃で1時間静置後、試料とした。
【0020】
<測定>
(1)全ての試薬を室温(15〜30℃)に戻した。
(2)抗体結合プレートの各ウエルに洗浄液を300μLずつ分注後、除去。この操作を3回行い、ウエルを洗浄した。ウェル内が乾燥する前に次の操作を行った。
(3)各ウェルに、試料または標準液を各100μL分注し、15〜30℃で2時間静置した。尚、試料と標準液は二重測定を行った。
(4)ウェル内の液を除去し、各ウェルに洗浄液を300μLずつ分注後、(2)と同様に3回洗浄した。
(5)洗浄液を除去し、各ウエルに酵素標識抗体液を100μL分注し、15〜30℃で1時間静置した。
(6)ウェル内の液を除去し、各ウェルに洗浄液を300μLずつ分注後、 (2)と同様に3回洗浄した。
(7)洗浄液を除去し、各ウェルに基質液を各100μL分注し、15〜30℃で2時間静置した。
(8)さらに各ウェルに停止液を100μL分注し、反応を停止した。
マイクロプレートリーダーで、試薬ブランクを対照に主波長415nm 副波長600nmにおける吸光度を測定した。なお、試薬ブランクには、試料の代わりに検体希釈液を用いて同様に操作した液を用いた。
【0021】
<MDA-LDL濃度の算出方法>
(1)標準液について縦軸に吸光度、横軸にMDA-LDL濃度をプロットし、検量線を作成した。
(2)試料の吸光度に対応する濃度を検量線より読み取り、MDA-LDL濃度を求めた。
また、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、および中性脂肪(TG)は、酵素法を測定原理とする体外診断用医薬品を用いて測定した。
再狭窄の判定は、冠動脈造影検査により標的病変に50%以上の狭窄が認められた場合を再狭窄とした。
【0022】
結果
PCI治療前にMDA-LDLを測定した44例中、2〜9ヶ月後に再狭窄を発症した例は14例(44例中32%))、発症しなかった例は30例(44例中68%)であった。狭窄群と非狭窄群における年齢の平均±SDはそれぞれ、63.2±8.1歳、68.1±9.1歳で2群間に有意差は認められなかった(表1)。PCI治療前のMDA-LDLの測定平均値±SDは、狭窄群では138.4±46U/L、非狭窄群では102±47.4U/Lと非狭窄群に比べ再狭窄群が有意に高値であった(p<0.05、t検定)。また、同時に測定したTCは、再狭窄群では176.4±35.2、非狭窄群では187.4±41mg/dLであり、LDL-Cは再狭窄群で110.7±28.2mg/dL、非狭窄群では115±28.5mg/dLであり、TC、LDL-Cとも2群間に有意差は認められなかった(図1、表1参照)。
【0023】
【表1】

【0024】
PCI治療前のMDA-LDL値について、再狭窄群14例と非再狭窄群30例の2群につき、Receiver-operating characteristics (ROC)曲線の解析により、再狭窄を識別するための基準値を算出した(図2)。再狭窄群を識別する感度および特異度が共に高い(両者の差が最小値を示すMDA-LDL値は110U/Lであり、これを基準値としたとき、再狭窄群を識別するMDA-LDLの感度(有病正診率)は79%、特異度(無病正診率)は77%であった(表2)。
【0025】
【表2】

【0026】
本検討はプロスペクティブスタディであることから相対危険度5.3、95%信頼区間1.7〜16.3と算出された(表2)。95%信頼区間が1より大であることから有意な結果と判断され、MDA-LDL値が110U/L以上のときは110U/L未満の場合に比べ、再狭窄の発生率が5.3倍高いことが示された。
【0027】
PCI治療前のMDA-LDLが基準値110U/L以上の場合は、相対危険度5.3で再狭窄の発症リスクであることから、PCI治療前のMDA-LDL値により、その後の再狭窄の発症リスクを判定できることが判る。
【0028】
実施例2(MDA-LDLの基準値の設定-2)
実施例1と同様、PCI治療から2〜9ヶ月後再狭窄の有無を判断する確認造影検査施行直前に採血し、MDA-LDLを測定した(計67例)。
【0029】
結果
PCI治療施行後に2〜9ヶ月間追跡した確認造影時にMDA-LDLを測定した67例中、確認造影により再狭窄が認められた例は26例、狭窄が認められなかった例は41例であった。狭窄群と非狭窄群における年齢の平均±SDはそれぞれ、66.1±9.6歳、66.3±10.3歳で2群間に有意差は認められなかった(表3)。確認造影時のMDA-LDLの測定平均値±SDは、狭窄群では114.9±37.5U/L、非狭窄群では92.2±29.4U/Lと非狭窄群に比べ再狭窄群が有意に高値であった(p<0.01、t検定)。一方、同時に測定したTCは、再狭窄群では181.0±30.3、非狭窄群では172.8±29.7mg/dLであり、LDL-Cは再狭窄群で110.9±21.6mg/dL、非狭窄群では102.1±22.5mg/dLであり、TC、LDL-Cとも2群間に有意差が認められなかった(図3、表3)。
【0030】
【表3】

【0031】
確認造影時のMDA-LDL値について、再狭窄群26例と非再狭窄群41例の2群につき、実施例1と同様にROC曲線の解析により、再狭窄を識別するための基準値を算出した。再狭窄例を識別する感度および特異度が共に高い(両者の差が最小値を示す)MDA-LDL値は100U/Lであり、これを基準値としたとき、再狭窄群を識別するMDA-LDLの感度(有病正診率)は73%、特異度(無病正診率)は71%であった(表4)。
【0032】
【表4】

【0033】
本検討はケースコントロールスタディであることからオッズ比6.6、95%信頼区間2.2〜19.6と算出できた(表4)。95%信頼区間が1より大であることから有意な結果と判断でき、MDA-LDL値が100U/L以上のときは100U/L未満の場合に比べ、再狭窄との関連が6.6倍高いことが示された。
【0034】
PCI治療前のMDA-LDL値だけでなく、確認造影時もMDA-LDL値が100U/L以上の高値の場合は、オッズ比6.6で再狭窄との関連を認めたことから、再狭窄の発症リスクを判定できることが判る。
再狭窄群と非再狭窄群とを識別する基準値は、PCI治療前では110U/Lであるのに対し、確認造影時では100U/Lと、PCI治療前に比べ確認造影時では低い傾向が認められた。これは、PCI治療後には冠危険因子低減を図るための治療を受けたため、MDA-LDL値が低下したものと思われる。
本検討においても、CADの危険因子である年齢、TC、LDL-Cは、PCI治療前、確認造影時いずれも、再狭窄群と非再狭窄群との間に有意差を認めず、MDA-LDLのみ有意差を認めた。これらの成績からも、本発明の再狭窄の発症リスクを判定する方法は有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
冠動脈形成術後の再狭窄の発症リスクを判定する方法として本発明は有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】PCI治療を行ったDM患者の再狭窄群、非再狭窄群におけるMDA-LDL値の比較を示す図である。
【図2】再狭窄群の識別に関するPCI治療前MDA-LDL値のROC解析を示す図である。
【図3】PCI治療を行ったDM患者の再狭窄群、非再狭窄群におけるMDA-LDL値の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冠動脈再建術治療を施行された被験者における再狭窄の発症リスクを判定する方法であって、
(a)被験者由来の生体サンプル中の変性低比重リポ蛋白(変性LDL)を測定する工程と、
(b)当該変性LDLの測定値を予め定めた基準値と比較する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
生体サンプルが冠動脈再建術治療の前及び/または後に採取されたものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験者が糖尿病患者である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
冠動脈再建術が経皮的冠動脈再建術(PCI)である請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
変性LDLが酸化LDLである請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
変性LDLがマロンジアルデヒド修飾LDL (MDA-LDL)である請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
生体サンプルが、血液、血漿および血清より選ばれるものである請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
予め定めた基準値が、再狭窄群と非再狭窄群の2群における変性LDL値より統計学的解析手法を用いて求めた値である請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
冠動脈再建術治療を施行される被験者における冠動脈再建術治療施行後の治療プロトコルを決定する方法であって、
(a)被験者由来の生体サンプル中の変性低比重リポ蛋白(変性LDL)を測定する工程と、
(b)当該変性LDLの測定値を予め定めた基準値と比較する工程、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−322187(P2007−322187A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150900(P2006−150900)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)