説明

再生地金、及び再生地金の製造方法

【課題】製品表示の確認が容易となるよう再生地金に刻印を付す。
【解決手段】
平版印刷版の製造過程で発生する端材又は/及び使用済み平版印刷版を1%以上含有する再生地金1は、矩形の底面2と、底面2から上方に向けて広がるように傾斜する4側面4a、4b、4c、4dと、底面2と対向する上面6と、上面6に形成された刻印5を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再生地金、及び再生地金の製造方法に関し、特に、刻印が表示された再生地金、及び再生地金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造された地金に識別番号等の製品表示を行なうための方法が知られている。特許文献1は、地金用の金型の底面か側面に表示プレートをセットし、その後金型に溶湯を流し込み、冷却して鋳造することによって、地金に製品表示を行う方法を開示する。
【0003】
特許文献2は、日付マーク要素等の脱着が容易な日付マーク鋳出装置を金型にセットし、その後金型に溶湯を流し込み、冷却して鋳造する方法を開示する。これにより、地金に刻印される表示を容易に変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3135177号公報
【特許文献2】実公昭57−42582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地金を製造するための鋳型として、矩形の底面と、底面から上方に向かって広がるように傾斜する4の側面を有する鋳型が知られている。溶湯が鋳型に流し込まれ、冷却後鋳型から地金が取り出される。地金は鋳型によりその形状が確定され、矩形の底面と底面から上方に向かい広がるように傾斜する4の側面を地金は有する。複数の地金は保管場所で積み重ねられて保管される。
【0006】
特許文献1又は2に示す表示プレートや日付マーク鋳出装置を、鋳型の底面にセットすると、製品表示は地金の底面に位置する。地金の底面に製品表示がされた場合、地金を反転させないと表示を確認できない。
【0007】
また、特許文献1又は2に示す表示プレートや日付マーク鋳出装置を鋳型の側面にセットすると、製品表示は地金の側面に位置する。この場合、地金を反転する必要はない。しかしながら、保管場所で複数の地金を密着して並べると、地金の側面の製品表示を視認し難くなる。一方、製品表示を視認するために一定のスペースをあけて複数の地金を並べると、広い保管場所が必要となる。
【0008】
特に、使用済みの材料等から製造される再生地金は不純物組成の管理を必要とする。そのため、再生地金に識別番号、ロット番号などの製品情報等の管理情報を表示し、容易に視認できることが求められる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、製品表示の確認が容易な再生地金、及び再生地金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の再生地金は、平版印刷版の製造過程で発生する端材又は/及び使用済み平版印刷版を1%以上含有し、矩形の底面と、前記底面から上方に向けて広がるように傾斜する4側面と、前記底面と対向する上面と、前記上面に形成された刻印と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、再生地金の上面に刻印を形成しているので、容易に視認することができる。特に、フォークリフトでの運搬や反転が必要な100kg超の大型の地金において好適に利用することができる。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の再生地金の製造方法は、平版印刷版の製造過程で発生する端材又は/及び使用済み平版印刷版を1%以上含有する溶解材料を溶解して溶湯にする工程と、底面と前記底面から上方に広がるように傾斜する4側面を有する鋳型内に前記溶湯を注入する工程と、前記鋳型内の前記溶湯の上面に、文字及び/又は図を刻印した鋳型プレートを接触させる工程と、前記溶湯を固化した後、前記鋳型から取り出す工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、鋳型に注入された溶湯の上面に鋳型プレートを接触させているので、上面に刻印を有する再生地金を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製品表示の確認が容易な再生地金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る再生地金の第1の実施形態を示す斜視図。
【図2】本発明に係る再生地金の第2の実施形態を示す斜視図。
【図3】本発明に係る再生地金の製造方法を模式的に示す説明図。
【図4】本発明に係る再生地金の製造方法を模式的に示す説明図。
【図5】平版印刷版のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れを説明する説明図。
【図6】アルミニウム板から平版印刷版を製造するまでの工程を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0017】
図1は、本発明に係る再生地金の第1の実施形態を示す。再生地金1は、底面2と底面から上方に向けて広がるように傾斜する4つの側面4(4a〜4d)と、底面2と対向する上面6を備える。再生地金1は、平版印刷版の製造過程で発生する端材又は/及び使用済み平版印刷版を1%以上含有する。再生地金1において、例えば、底面2の幅W1は600〜800(mm)であり、奥行きL1は580〜780(mm)であり、高さHは470〜670(mm)である。上面6の幅W2は750〜950(mm)であり、奥行きL2は820〜1020(mm)である。溶湯の投入量によりばらつきが生じるが、再生地金1が、アルミニウムを99.0%以上含む場合、その重さはおおよそ400〜500(Kg)とすることができる。なお、底面2の幅方向には、フォークリフトで取り扱う為の段差を両角部に設けても良く、この場合、段差を除いた底面2の幅W1は250〜580(mm)である。さらに、フォークリフトでの取り扱い性を良くするために、奥行きL1にもフォークリフトで取り扱う為の段差を両角部に設けても良く、この場合、段差を除いた底面2の奥行きL1は250〜560(mm)である。
【0018】
再生地金1の上面6の表面に刻印5が施される。刻印5は、ロット、日付、純度、グレード、不純物組成、これらを記号化したもの、又はシリアルナンバーの少なくとも一つを含む。刻印5を確認することにより、再生地金1を識別することができる。再生地金1は、使用される平版印刷版の製造過程で発生する端材又は/及び使用済みの平版印刷版、いわゆる再生材料の種類や含有率に応じて、組成物の含有量が異なる。再生地金1の組成物の含有量を管理する上で、各再生地金1を容易に識別できることが重要である。本発明においては、再生地金1の上面6に刻印5が形成されるので、再生地金1を反転させることなく、刻印5を容易に確認することができる。刻印5の深さは、上面6の表面から5〜500(mm)であることが好ましい。また、刻印の文字記号に対し、刻印文字をセットしたプレートが用いられるが、プレートの底面も上面6の表面からインゴット上に窪みを形成するように、ある深さを持ってセットされるのが好ましい。
【0019】
図2は、本発明に係る再生地金の第2の実施形態を示す。再生地金1が上下に二段積み上げられ、積み上げられた一組の再生地金1が平面的に4つ並べられる。再生地金1は、底面2と底面から上方に向けて広がるように傾斜する4つの側面4(4a〜4d)と、底面2と対向する上面6を備える。一対の段差8が底面2に形成され、フォークリフトの一対のつめがこの段差8に差し込まれる。これにより、再生地金1を容易に搬送することができる。一対の段差8は、上面6側に作ることは溶湯投入量の制御が必要であり、難しい為、地金の鋳型で底面側に形成される。図2に示すように、側面4aに沿って刻印5が形成される。特に、地金を重ねた時に、上面6は底面2よりも面積が広い為、上段の地金の底面2よりも外側に刻印5を形成するのが望ましい。これにより、複数の再生地金1を積み上げた場合でも、上側の再生地金1が下側の再生地金1の刻印5を覆うことはない。したがって、刻印5を容易に確認できる。また、刻印5が再生地金1の上面6に形成されるので、再生地金1を平面的に密着して配列しても、刻印5を容易に確認することができる。また、上段の再生地金1の底面2により、積み重ね時や保管中に加わる力で、下段の再生地金1の刻印5がつぶれたり変形したりすることも無い。積み重ね時に、再生地金1の重量バランスから、下段の再生地金1の刻印5上に上段の再生地金1がおかれることがないからである。なお、刻印5はその文字や記号など識別が必要な部分が識別に必要な範囲で底面2で覆われない1側面のそばに形成されれば良く、刻印5の一部の文字や記号が底面2で覆われる部分に属していても、それが実質的に再生地金1の識別に影響が無い部分であれば、刻印5が底面2で覆われない1側面のそばに形成されていることを意味するものとする。
【0020】
次に、再生地金の製造方法を、図3を参照して説明する。平版印刷版の製造工場で発生した端材、及び印刷会社で発生した使用済み平版印刷版を1%以上含む再生材料40が溶解炉42に投入される。平版印刷版用の再生地金の許容不純物組成の量から、再生材料の含有量が1%以上の場合にその不純物組成の厳密な管理が必要となる。再生材料40は、溶解炉42において680〜750℃の範囲で溶解されて溶湯44となる。溶解炉42は上方が天井壁46によって遮蔽される。溶解炉42の一方の側壁に再生材料40の投入口48が形成される。投入口48に対向する他方の側壁にはバーナー50が設けられる。バーナー50が投入された再生材料40を加熱溶解する。
【0021】
次に、溶解炉42で溶解された再生材料40の溶湯44は、管路52を流れて鋳型54に注ぎ込まれる。鋳型54は、底面56と底面56から上方に向けて広がるように傾斜する4側面58a、58b、58c、58dを備える。底面56と4側面58a、58b、58c、58dにより鋳型54のキャビティが形成され、キャビティの形状が再生地金の形状を画定する。
【0022】
図4に示すように、溶湯44が所定量となるまで鋳型54に注入される。次いで、鋳型プレート60が鋳型54に位置決めされ固定される。溶湯44からは組成分析用の湯が取り出され、テストピースが形成され、発光分析装置等でその組成不純物量およびその合計値からアルミニウムの純度が測定され地金のシリアルナンバーとともに記録される。鋳型プレート60は、中空の箱形状の本体60aと、この本体60aから両方向に伸びる一対のフック60bを備える。本体60aの底面が刻印面60cとなる。刻印面60cには、再生地金に表示しようとうする文字及び/図形が刻印される。刻印面60cが溶湯44に接触するように、一対のフック60bが、対向する側面58b、58dの上端にセットされる。鋳型プレート60は、溶湯44の溶解温度より高い溶解温度を有することが好ましい。例えば、酸化アルミニウム等の融点が高い材質で製造される。特に、印刷版製造用のアルミニウム合金再生地金への刻印では、FeやSiなどの不純物組成の管理が厳しい為、刻印及び鋳型プレート60も、アルミニウム以外の不純物組成の含有量が少ないものが好ましい。これら不純物組成の含有量が各々0.1%未満であることがより望ましい。鋳型プレート60からその組成物が溶湯44に流れ出すのを防止することができ、溶湯44が汚染されるのを防止できる。また、鋳型プレート60および刻印には離型作用のある物質を塗布しておくことが望ましいが、通常のシリコーン系成分を含有する離型剤を用いると、シリコン成分が溶湯に溶け出して炉を汚染してしまう。そこで、溶湯汚染を引き起こさない、黒鉛系やアルミナ系の水溶性塗型剤を用いて塗型して用いるのが好ましい。
【0023】
溶湯44が固化した後、鋳型54を反転することにより、再生地金が取り出される。取り出された再生地金は再び反転され正置される。ここで、重量計で再生地金の重量が計測され記録される。
【0024】
鋳型プレート60を利用して再生地金に刻印した場合、再生地金の底面から、再生地金に形成された刻印の深さまでの距離は、同一の鋳型54を用いた場合には鋳型プレート60の側壁の高さやフック60bの形状が同一であれば一定となる。一方、再生地金ひとつひとつの溶湯量は微妙に異なるから、地金の重量及び、地金の上面6に刻まれる刻印の上面6からの深さは、微妙に異なる。そこで、再生地金ごとに異なる、刻印の深さ、地金の重量、表示内容と、鋳型の番号、プレート番号、地金の底面から刻印の深さまでの距離等を記録しておく。すると、類似の刻印が表示されている再生地金を、再生地金の底面から刻印の深さまでの距離や刻印の深さ、再生地金の重量、表示内容等の関係を照合することにより、再生地金が真正品かどうかを確認することができる。
【0025】
また、刻印面60cに取り付けられる文字及び/又は図形の高さや、本体60aの深さはフック60bの形状寸法が異なる鋳型プレート60を利用するか、鋳型プレート60のフック60bに深さ調整の機構を設けて変更することが好ましい。具体的には、フック60bの高さ部分を長く取り、ボルトを通す穴を幅方向に2列に高さ方向に複数あけておき、ボルトを通した場合には、ボルトが鋳型54の頂部にあたることで、鋳型プレート60の溶湯44に対する高さ位置を変更できるようにすればよい。このとき、鋳型プレート60が溶湯44に沈み込む状態でも、鋳型プレート60には溶湯44が入り込まないようにする。文字及び/又は図形の高さや、本体60aの深さを変更することで、再生地金の底面から、形成された刻印の深さまでの距離は変化する。鋳型の番号、プレートの番号、プレートのセッティング条件、再生地金の底面から刻印の深さまでの距離や刻印の深さ、再生地金の重量、表示内容を関連付けて記憶する。これにより、再生地金の偽物を判別して偽造を防止できる。再生地金の底面から刻印の深さまでの距離や刻印の深さ、再生地金の重量、表示内容を一致させた形でコピーするのは困難だからである。これにより、純アルミニウムに近い高純度かつ大型の高価なアルミニウムの再生地金の取引を円滑に行うことができるので、高純度金属のクローズドリサイクルの課題が解決する。
【0026】
次に、溶湯44が冷却固化した後、鋳型54から取り出され、図1又は図2に示す刻印5を有する再生地金1が製造される。
【0027】
上述したように、再生材料40から再生地金1を製造する場合、溶解炉42において680〜750℃範囲の溶解温度で再生材料40を溶解することにより、溶解炉42での溶解速度が速くなる。これにより再生地金1を得るまでのタクト時間を短縮できる。これにより、再生地金の製造中における溶湯44と空気との接触時間が短くなるので、製造中に生成される酸化物質(酸化アルミ)の生成量が少なくなる。したがって、再生地金として得られる収率が高くなるので、再生地金1Kgを製造する際のCO発生量を低減できる。即ち、680℃以上にすることで680℃未満の場合よりも溶解時間を短くでき、750℃以下にすることで750℃を超えた場合に比べて収率を高くできる。
【0028】
次に、本発明を利用した平版印刷版用支持体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
図5は、本発明の平版印刷版のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れを説明する説明図であり、感光性の製版層を有する平版印刷版の例で以下に説明する。なお、本発明の平版印刷版用支持体はクローズド・ループリサイクルの流れの一部として含まれる。
図5に示すように、アルミ精錬工場10では、ボーキサイトからアルミニウムの新地金12を製造する。アルミニウムの新地金12のアルミニウム純度は99.7%以上であることが好ましい。
【0030】
次に、アルミニウムの新地金12は、アルミ圧延工場14において圧延前溶解炉で溶解されて溶湯となった後、熱間圧延、冷間圧延が行われる。圧延前溶解炉としては、公知のものを使用することができる。これにより、新地金100%のアルミニウム板16が製造される。熱間圧延の開始温度は350〜500℃が好ましい。熱間圧延の前又は後、あるいは途中において中間焼鈍処理を行ってもよい。CO2発生を抑制する観点からは、中間焼鈍処理を省略することが好ましい。圧延処理により得られるアルミニウム板の厚みは0.1〜0.5mmの範囲が好ましい。なお、圧延処理の後にローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置によって平面性を改善してもよい。
【0031】
そして、圧延等の処理が施されたアルミニウム板16はコイル状に巻回されたアルミコイルの状態で平版印刷版の製造工場18に送られる。
【0032】
次に、平版印刷版の製造工場18では、アルミニウム板16に図6に示す各工程を経て平版印刷版の帯状原版を製造する。即ち、先ず、粗面化処理工程20において、アルミニウム板16に塩酸電解方式の粗面化処理を施してアルミニウム板16に砂目立てする。この場合、粗面化処理工程20の後に陽極酸化処理工程22を行ってアルミニウム板16の表面に陽極酸化被膜を形成することが一層好ましい。これにより、平版印刷版用支持体16Aが製造される。
【0033】
塩酸電解方式の粗面化処理は、塩酸水溶液中で交流電流を電解電流としてエッチングすることにより行われる。塩酸水溶液の塩酸濃度は3〜150g/Lとすることが好ましく、5〜50g/Lが一層好ましい。塩酸水溶液としては、塩酸を2〜15g/L含有する希塩酸に塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩を添加して、アルミニウムイオン濃度を2〜7g/Lに調整した溶液が特に好ましい。塩酸水溶液の液温は、20〜50℃が好ましい。交流電解電流の周波数範囲は、0.1〜100Hzに設定するのが好ましく、10〜60Hzに設定すると一層好ましい。電解槽内のアルミニウム溶解量としては、50g/L以下とすることが好ましく、2〜20g/Lの範囲が一層好ましい。電流密度は、5〜100A/dm2とすることが好ましく、10〜80A/dm2が一層好ましい。
【0034】
電解粗面処理の電気量は、20〜500C/dm2になるように印加することが好ましい。前記交流としては、サイン波電流、矩形波電流、台形波電流、及び三角波電流など各種の波形を有する交流電流を用いることができるが、矩形波電流及び台形波電流が一層好ましく、台形波電流が特に好ましい。
【0035】
かかる、塩酸電解方式の粗面化処理において、アルミニウム板16のアルミニウム純度や微量金属の含有率は、電気化学粗面化処理でアルミニウム板を粗面化したときに生成するピットの均一性に影響し、耐刷性、耐汚れ性及び露光安定性に影響を及ぼす。したがって、アルミニウム純度や微量金属含有率は以下の範囲であることが好ましい。なお、ここで示すアルミニウム純度や微量金属の含有率は、新地金100%のアルミニウム板16の場合と、後述する再生材料含有のアルミニウム板88の場合との両方に適用される。
【0036】
即ち、アルミニウム板のアルミニウム純度は99.0%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましい。アルミニウム板の純度が99.0%未満で不純物を多く含むと、粗面化処理に好ましくない他に圧延中に割れ等の不具合が生じ易い。
【0037】
また、アルミニウム板16に含有される微量金属のうち、Siの含有率は、0.50質量%以下であるのが好ましく、0.05〜0.50質量%であるのがより好ましく、0.05〜0.25質量%であるのが更に好ましく、0.06〜0.15質量%であるのが特に好ましい。
【0038】
Cuの含有率は、0.30質量%以下であるのが好ましく、0.010〜0.30質量%であるのがより好ましく、0.02〜0.15質量%であるのが更に好ましく、0.040〜0.09質量%であるのが特に好ましい。
【0039】
Feの含有率は、0.7質量%以下であるのが好ましく、0.15〜0.7質量%であるのがより好ましく、0.15〜0.4質量%であるのが更に好ましく、0.20〜0.40質量%であるのが特に好ましい。
【0040】
Mnの含有率は、0.5質量%以下であるのが好ましく、0.002〜0.15質量%であるのがより好ましく、0.003〜0.02質量%であるのが更に好ましく、0.004〜0.01質量%であるのが特に好ましい。
【0041】
その他の微量金属として、Mgの含有率は、1.5質量%以下であるのが好ましく、0.001〜1.5質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.60質量%であるのが更に好ましく、0.001〜0.40質量%であるのが特に好ましい。
【0042】
Znの含有率は、0.25質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.25質量%であるのがより更に好ましく、0.001〜0.10質量%であるのが更に好ましく、0.010〜0.03質量%であるのが特に好ましい。
【0043】
Tiの含有率は、0.10質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.10質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.05質量%であるのが更に好ましく、0.003〜0.03質量%であるのが特に好ましい。
【0044】
Crの含有率は、0.10質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.10質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.02質量%であるのが更に好ましく、0.002〜0.02質量%であるのが特に好ましい。
【0045】
前記のような塩酸電解方式で粗面化処理されたアルミニウム板16の面には、スマットや金属間化合物が存在するので、pH10以上で液温が25〜80℃のアルカリ溶液を使用してアルカリ処理した後に、硫酸を主体とすると共に液温が20〜80℃の酸性溶液で洗浄処理を行うことが好ましい。
【0046】
次に、製版層形成工程24において、平版印刷版用支持体16Aの粗面化処理された面に、感光層用塗布液が塗布され、乾燥工程26において感光層が乾燥される。なお、感光層の上にマット層を塗布することもできる。これにより、平版印刷版の帯状原版28が製造されるので、加工工程において帯状原版28に帯状の合紙を重ね合わせた状態で所定寸法の四角形シートに切断して合紙付きの平版印刷版30(図1参照)を製造する。製造された合紙付きのシート状の平版印刷版30は複数枚積層された後、梱包されて印刷会社32に送られる。平版印刷版30を積層する際に平版印刷版30同士の間に合紙が挟み込まれるので、平版印刷版30の感光層面に傷をつけないようにすることができる。
【0047】
かかる帯状原版28の加工工程において、帯状原版28の切断片等の端材33が発生する。図1に示すように、平版印刷版の製造工場18で再生材料として回収されて次の再生工場34に送られて再生処理される。
【0048】
一方、印刷会社32に送られた平版印刷版30は、画像露光及び現像が施された後、印刷機に取り付けて印刷に使用される。そして、印刷に使用された使用済み平版印刷版36は、印刷会社32で再生材料として回収されて次の再生工場34に送られて再生処理される。再生工場34では、本発明に係る再生地金の製造方法により、刻印5が上面に施された再生地金(インゴット)1が製造される。
【0049】
次に、再生工場34で製造された再生地金1は、アルミ圧延工場14にリサイクルされる。アルミ圧延工場14では、再生工場34で製造された再生地金1のアルミニウム純度及び微量金属(例えば、Si,Fe,Cu,Mn)の含有率が分析される。再生地金1の分析は、再生工場34で行って、その再生地金74をアルミ圧延工場14に納品するときに分析データを添付してもよい。また、分析する微量金属は、Si,Fe,Cu,Mnに加えてMg,Zn,Ti,Crについても分析することが一層好ましい。分析データと再生地金1の刻印5とが関連付けられる。再生地金1が刻印5により管理される。
【0050】
次に、分析された分析値と予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比してその差を求め、求められた差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金の再生地金に対する配合割合が決定される。即ち、予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とするために配合可能な再生地金の最大配合割合を知ることができる。再生地金の配合割合が最大になるように配合割合が決定される。なお、新地金及び微量金属母合金のアルミニウム純度と微量金属含有率が定まっていない場合には、再生地金と同様に分析する。そして、決定された配合割合に応じて再生地金と新地金と微量金属母合金とを圧延前溶解炉に投入すると共に加熱溶解してアルミニウム溶湯を得る。ここで、再生地金が刻印により管理される為、不純物組成の異なる再生地金が投入されて、溶湯汚染を引き起こし、何トンものアルミ溶湯がカスケードリサイクルにまわされたり、溶解炉の洗浄のために純アルミを何トンも使用するトラブルを防止できる。また、粗悪な組成を持った偽物の再生地金を投入した結果同様のトラブルが生じることも防止できる。その結果、CO発生量の低減に貢献することができる。
【0051】
本発明に係る再生地金1は、その断面が下辺より上辺が長い台形状、又はその断面がT字の形状を有しているので、圧延前溶解炉に投入する際に底壁面に対して面荷重により荷重が分散される。これにより、再生地金1の重さを、例えば1200Kgまで重くしても圧延前溶解炉の底壁面を傷づけたり破損したりすることはない。したがって、破損した底壁面から再生地金1へのSi汚染を防止することができる。圧延前溶解炉への投入効率が上がるので、再生地金製造における仕事効率を向上できる。また、再生地金1を上述の形状とすることで、段積みが可能となるので、保管スペースを削減できる。
【0052】
そして、本発明の平版印刷版のリサイクル方法では、アルミ圧延工場14から平版印刷版の製造工場18に新地金100%のアルミニウム板16を送る新地金100%ルート90は最初のみ行って、2回目からはアルミ圧延工場14から平版印刷版の製造工場18に再生材料含有のアルミニウム板88を送るリサイクルルート92を行う。
【0053】
これにより、平版印刷版の産業分野で発生するアルミスクラップを再利用するための完全なクローズドリサイクルの流れを構築することができる。この結果、CO2発生量を新地金12のみで平版印刷版を製造した場合比べて75%程度低減できる。
【符号の説明】
【0054】
1…再生地金1…底面、4…側面、5…刻印、6…上面、10…アルミ精錬工場、12…アルミニウムの新地金、14…アルミ圧延工場、16…新地金100%のアルミニウム板、18…平版印刷版の製造工場、20…粗面化処理工程、22…陽極酸化処理工程、24…製版層形成工程、26…乾燥工程、28…帯状原版、30…平版印刷版、32…印刷会社、33…端材、34…再生工場、36…印刷使用済み平版印刷版、38…再生地金製造装置、40…再生材料(印刷使用済み平版印刷版及び端材)、42…溶解炉、44…溶湯、46…天井壁、48…投入口、50…バーナー、52…管路、54…鋳型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版の製造過程で発生する端材又は/及び使用済み平版印刷版を1%以上含有する再生地金において、
矩形の底面と、
前記底面から上方に向けて広がるように傾斜する4側面と、
前記底面と対向する上面と、
前記上面に形成された刻印と、を備えることを特徴とする再生地金。
【請求項2】
前記刻印は、再生地金を積み上げたときに上側の再生地金の底面で覆われない、前記4側面のいずれか1側面の近くに形成される請求項1記載の再生地金。
【請求項3】
前記底面は、フォークリフトの一対のつめが差し込まれる段差を備える請求項1又は2記載の再生地金。
【請求項4】
前記刻印は、ロット、日付、純度、グレード、不純物組成、これらを記号化したもの、又はシリアルナンバーの少なくとも一つを含む請求項1〜3の何れか1に記載の再生地金。
【請求項5】
平版印刷版の製造過程で発生する端材又は/及び使用済み平版印刷版を1%以上含有する溶解材料を溶解して溶湯にする工程と、
底面と前記底面から上方に広がるように傾斜する4側面を有する鋳型内に前記溶湯を注入する工程と、
前記鋳型内の前記溶湯の上面に、文字及び/又は図を刻印した鋳型プレートを接触させる工程と、
前記溶湯を固化した後、前記鋳型から取り出す工程と、
を有することを特徴とする再生地金の製造方法。
【請求項6】
前記鋳型プレートは、前記鋳型の4側面の内、対向する2側面の上端に掛けて固定される請求項5記載の再生地金の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の再生地金の製造方法において、前記鋳型内の前記溶湯の組成物の含有率を分析し、分析結果に応じて前記鋳型プレートの文字及び/又は図の刻印を選択する工程をさらに備える再生地金の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか1に記載の再生地金の製造方法において、前記鋳型プレートの刻印の高さを周期的に変更する工程をさらに備える再生地金の製造方法。
【請求項9】
前記鋳型プレートは、前記溶湯の溶解温度より高い溶解温度を有する請求項5〜8の何れか1に記載の再生地金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−31263(P2011−31263A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178188(P2009−178188)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】