説明

再生治療装置とその作動方法

【課題】細胞移植における細胞の生着力を増大させて、臓器の十分な修復を図る。
【解決手段】患者の心拍数を検出する心拍数検出部5と、刺激開始前の心拍数を記憶する記憶部10と、細胞が移植された臓器を支配している迷走神経に刺激を与える刺激用電極と、心拍数検出部5により検出された患者の心拍数が、刺激開始前の状態に対して5〜20%減少するように刺激用電極から迷走神経に出力する刺激信号の強度を制御する制御部7とを備える再生治療装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生治療装置とその作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、心不全治療における再生医療において、遺伝子導入細胞の移植や細胞移植などの手法が採用されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第01/048151号パンフレット
【特許文献2】国際公開第04/045666号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/059375号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細胞移植による再生治療においては、移植後の細胞の生着能力が低いために、幹細胞を移植した場合においても臓器の十分な修復を図ることができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞移植における細胞の生着を促進して、臓器の十分な修復を図ることができる再生治療装置とその作動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、患者の心拍数を検出する心拍数検出部と、刺激開始前の心拍数を記憶する記憶部と、細胞が移植された臓器を支配している迷走神経に刺激を与える刺激用電極と、前記心拍数検出部により検出された患者の心拍数が、刺激開始前の状態に対して5〜20%減少するように前記刺激用電極から前記迷走神経に出力する刺激信号の強度を制御する制御部とを備える再生治療装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、刺激用電極から迷走神経に刺激を与えることにより、移植細胞の生着率を増大させることができる。この場合に、心拍数検出部により検出された患者の心拍数を、刺激開始前に予め記憶部に記憶しておき、刺激後に検出された心拍数が記憶部に記憶されている刺激開始前の心拍数に対して5〜20%減少するように制御部が刺激信号の強度を制御することにより、細胞が移植された臓器の修復を促進することができる。
【0008】
上記発明においては、前記刺激信号が、周波数略10Hz、刺激電圧略0.1〜7.5V、パルス幅略0.4〜3msecのパルス状であってもよい。
また、上記発明においては、前記刺激信号が、前記刺激用電極から間欠的または連続的に出力されてもよい。
【0009】
また、上記発明においては、前記刺激信号が、前記刺激用電極から5〜30秒の連続した刺激期間と残りの非刺激期間とからなる1分間の刺激パターンの繰り返しにより前記刺激用電極から間欠的に出力されてもよい。
また、上記発明においては、前記刺激信号が、電気刺激信号であり、2相性パルスにより構成されていてもよい。電気刺激の場合には、単相性パルスを加えると、組織が一方の電荷に帯電するため、2相性パルスからなる電気刺激信号を加えることにより組織の帯電を防止することができる。
【0010】
上記発明においては、患者の心拍数を検出する心拍数検出部が作動し、刺激開始前の心拍数を記憶する記憶部が作動し、迷走神経を刺激する刺激信号を発生する刺激信号発生手段が作動し、前記心拍数検出部において検出された心拍数が記憶部に記憶されている心拍数から5〜20%減少した心拍数となっているか否かを判定する判定部が作動し、該判定部による判定の結果、心拍数の減少が5%未満の場合には、前記刺激信号発生手段により発生する刺激信号の強度を増大させ、心拍数の減少が20%を越えた場合には、刺激信号の強度を低下させる制御部が作動する再生治療装置の作動方法を提供する。
【0011】
上記発明においては、前記刺激信号が、周波数略10Hz、刺激電圧略0.1〜7.5V、パルス幅略0.4〜3msecのパルス状であってもよい。
また、上記発明においては、前記刺激信号が、間欠的または連続的であってもよい。
また、上記発明においては、前記刺激信号が、5〜30秒の連続した刺激期間と残りの非刺激期間とからなる1分間の刺激パターンの繰り返しによる間欠的な刺激信号であってもよい。
また、上記発明においては、前記刺激信号が、電気刺激信号であり、2相性パルスにより構成されていてもよい。
【0012】
また、本発明は、臓器に対して細胞を移植し、該細胞が移植された前記臓器を支配している迷走神経を刺激する再生治療方法を提供する。
上記発明においては、前記迷走神経の刺激部位が、迷走神経節または迷走神経枝であることが好ましい。これらの刺激部位に刺激を与えることにより、他の臓器に刺激を与えることなく細胞が移植された臓器に対して選択的に刺激を与えることができ、他の臓器における副作用の発生を防止することができる。
【0013】
また、上記発明においては、患者の心拍数を検出し、検出された心拍数が所定の心拍数となるように迷走神経の刺激強度を調節することとしてもよい。
この場合に、検出された心拍数が、刺激開始前の状態に対して5〜20%減少するように刺激強度を調節することが好ましい。
【0014】
また、上記発明においては、迷走神経の刺激が、周波数略10Hz、刺激電圧略0.1〜7.5V、パルス幅略0.4〜3msecのパルス状の刺激であることが好ましい。
また、上記発明においては、前記パルス状の刺激が間欠的または連続的に行われてもよい。
【0015】
また、上記発明においては、前記パルス状の刺激が、5〜30秒の連続した刺激期間と残りの非刺激期間とからなる1分間の刺激パターンの繰り返しにより間欠的に行われてもよい。
また、上記発明においては、前記パルス状の刺激が、電気刺激であり、2相性パルスにより行われることが好ましい。
【0016】
また、上記発明においては、前記迷走神経に対して2〜5mmの間隔をあけて、刺激用の正電極と負電極とを配置することが好ましい。電極間隔が近過ぎると刺激を与える範囲が狭くなり過ぎ、遠過ぎると刺激の効率が低下して、多くのエネルギが必要となる。2〜5mmの間隔をあけて配置することによりそのような不都合なく刺激を与えることができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記負電極を、前記正電極よりも前記臓器に近い位置に配置することが好ましい。
このようにすることで、負電極によって発生する迷走神経の興奮を臓器側に伝達し易くすることができ、迷走神経の末端から放出されるアセチルコリンの作用により移植細胞の生着を促進することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、細胞移植における細胞の生着を促進して、臓器の十分な修復を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る再生治療装置1とその作動方法について、図1〜図18を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る再生治療装置1は、図1および図2に示されるように、心臓A内部または心臓A外部に配置された生体用電極2と、迷走神経Bに配置された刺激用電極3と、生体用電極2から検出した心電信号に基づいて、生体用電極2を介した心臓Aの刺激および/または刺激用電極3を介した迷走神経Bの刺激を制御する制御部4とを備えている。
【0020】
制御部4は、図2に示されるように、生体用電極2を介して検出した心電信号から拍動を検出する拍動検出部5と、該拍動検出部5により検出された拍動に基づいて心臓Aの状態を解析する拍動解析部6と、該拍動解析部6による解析結果に応じて刺激信号を生成する刺激信号生成部7と、刺激信号生成部7により生成された刺激信号を刺激用電極3に出力する迷走神経刺激出力部8と、刺激信号生成部7により生成された刺激信号を生体用電極2に出力する心臓刺激出力部9とを備えている。
【0021】
拍動解析部6は拍動検出部5から送られてきた心臓Aの拍動の時間情報から、心臓Aの状態が、正常な状態であるか、異常な状態(徐脈状態、心室細動状態あるいは心室頻拍状態)であるかを判定し、該判定結果に基づいて種々の出力を行うようになっている。
具体的には、拍動解析部6は、心臓Aが異常な状態である場合には、拍動の時間情報から心臓Aの状態が徐脈状態、心室細動状態あるいは心室頻拍状態のいずれかであるかを診断するようになっている。
【0022】
刺激信号生成部7は、診断結果に応じて生体用電極2および/または刺激用電極3に出力する刺激信号を生成するようになっている。
具体的には、刺激信号生成部7は、拍動解析部6において心臓Aの状態が心室頻拍状態であると判定された場合に、後述する迷走神経刺激出力部8を介して刺激用電極3に出力する電気パルスの仕様を設定し、迷走神経刺激出力部8に対して出力するようになっている。同時に、刺激信号生成部7は心室頻拍の心拍数より速いリズムの電気パルスまたは高エネルギショックを設定し、心臓刺激出力部9を介して生体用電極2に出力するようになっている。
【0023】
また、刺激信号生成部7は、拍動解析部6において心臓Aが徐脈状態であると判定された場合に、心臓Aに正常な心拍と同じ程度のリズムの電気パルスを設定し、心臓刺激出力部9を介して生体用電極2に出力するようになっている。また、心臓Aが心室細動状態であると判定された場合には、個々にバラバラに収縮している全ての心細胞に、生体用電極2を介して高エネルギの電気ショックを与える除細動パルスを生成するようになっている。
【0024】
また、刺激信号生成部7は、迷走神経Bを刺激する前の心拍数を記憶する記憶部10に接続されている。刺激信号生成部7は、拍動解析部6によって心臓Aの状態が正常であると判定された場合には記憶部10に記憶されている心拍数に基づいて刺激信号を生成するようになっている。
【0025】
具体的には、刺激信号生成部7は、迷走神経Bの刺激後に検出された心拍数が、記憶部10に記憶されている刺激前の心拍数と比較して、5〜20%減少しているか否かに応じて刺激信号の強度を決定するようになっている。減少率が5%未満の場合には、刺激信号の強度を増大させ、心拍数が20%以上減少している場合には、刺激信号の強度を低下させるようになっている。
【0026】
さらに具体的には、本実施形態に係る再生治療装置1は、図3に示されるフローチャートに従って作動する。
まず、刺激条件の初期値が設定され(ステップS1)、刺激を与えない状態で予め定められた時間、心拍数が測定されて記憶部10に記憶され(ステップS2)、次いで、予め定められた刺激強度で迷走神経Bの刺激が予め定められた時間だけ行われ(ステップS3)、心拍数の変化が監視される(ステップS4A,S4B)。
【0027】
心拍数が変化しない場合には、図4に示されるように、パルス電圧が初期値以上であるか否かが判定され(ステップS5)、初期値以上ではない場合には、電気パルスの電圧が所定の増分で増大され(ステップS6)、ステップS2からの工程が繰り返される。パルス電圧が初期値以上である場合には、パルス幅が初期値以上であるか否かが判定される(ステップS7)。判定の結果、初期値以上ではない場合には、電気パルスのパルス幅が所定の増分で増大され(ステップS8)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0028】
また、パルス幅が初期値以上である場合には、刺激周波数が初期値以上であるか否かが判定される(ステップS9)。判定の結果、初期値以上ではない場合には、電気パルスの刺激周波数が所定の増分で増大され(ステップS10)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0029】
刺激周波数が初期値以上である場合には、パルス電圧が最大であるか否かが判定される(ステップS11)。判定の結果、最大ではない場合には、電気パルスの電圧が所定の増分で増大され(ステップS12)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0030】
パルス電圧が最大である場合には、パルス幅が最大であるか否かが判定される(ステップS13)。判定の結果、最大ではない場合には、電気パルスのパルス幅が所定の増分で増大され(ステップS14)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0031】
パルス幅が最大である場合には、刺激周波数が最大であるか否かが判定される(ステップS15)。判定の結果、最大ではない場合には、電気パルスの刺激周波数が所定の増分で増大され(ステップS16)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0032】
刺激周波数が最大である場合には、刺激時間が最大であるか否かが判定される(ステップS17)。判定の結果、最大ではない場合には、刺激時間が所定の増分で延長され(ステップS18)、ステップS2からの工程が繰り返される。
また、刺激時間が最大である場合には、アラームが発せられ(ステップS19)、処理が中止される。
【0033】
迷走神経Bに刺激を与えた結果、心拍数が変化した場合には、刺激・非刺激期間について、例えば、1〜5分間の平均心拍数が測定され(ステップS20)、測定された平均心拍数が記憶部10に記憶されている刺激前の心拍数と比較される。
比較の結果、平均心拍数が、刺激前の心拍数よりも5%以下の変化をしているか否かが判定される(ステップS21)。
【0034】
判定の結果、変化が5%以下である場合には、図6に示されるように、刺激時間が初期値以上であるか否かが判定される(ステップS36)。判定の結果、初期値以上ではない場合には、刺激時間が所定時間だけ延長され(ステップS37)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0035】
刺激時間が初期値以上である場合には、刺激周波数が初期値以上であるか否かが判定される(ステップS38)。判定の結果、初期値以上ではない場合には、電気パルスの刺激周波数が所定周波数分だけ増大され(ステップS39)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0036】
刺激周波数が初期値以上である場合には、パルス電圧が最大であるか否かが判定される(ステップS40)。判定の結果、パルス電圧が最大ではない場合には、電気パルスのパルス電圧が増大され(ステップS41)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0037】
パルス電圧が最大である場合には、パルス幅が最大であるか否かが判定される(ステップS42)。判定の結果、最大ではない場合には、電気パルスのパルス幅が増大され(ステップS43)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0038】
パルス幅が最大である場合には、刺激周波数が最大であるか否かが判定される(ステップS44)。判定の結果、最大ではない場合には、電気パルスの刺激周波数が所定周波数分だけ増大され(ステップS45)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0039】
刺激周波数が最大である場合には、刺激時間が最大であるか否かが判定される(ステップ46)。判定の結果、最大ではない場合には、電気パルスの刺激時間が所定時間だけ延長され(ステップS47)、ステップS2からの工程が繰り返される。
刺激時間が最大である場合には、アラームが発せられ(ステップS48)、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0040】
また、測定された平均心拍数と記憶部10に記憶されている刺激前の心拍数との比較の結果、平均心拍数が、刺激前の心拍数よりも5%以上変化しているか否かが判定される(ステップS21)。
【0041】
判定の結果、変化が5%以上の場合には、平均心拍数が、刺激前の心拍数よりも20%以上変化しているか否かが判定される(ステップS35)。
判定の結果、変化が20%以上ではない場合には、ステップS20からの工程が繰り返される。
変化が20%以上である場合には、図5に示されるように、刺激時間が初期値以下であるか否かが判定される(ステップS22)。判定の結果、初期値以下ではない場合には、刺激時間が所定時間だけ短縮され(ステップS23)、ステップS20からの工程が繰り返される。
【0042】
刺激時間が初期値以下である場合には、刺激周波数が初期値以下であるか否かが判定される(ステップS24)。判定の結果、初期値以下ではない場合には、電気パルスの刺激周波数が所定周波数分だけ縮小され(ステップS25)、ステップS20からの工程が繰り返される。
【0043】
刺激周波数が初期値以下である場合には、刺激時間が最小であるか否かが判定される(ステップS26)。判定の結果、最小ではない場合には、刺激時間が所定時間だけ短縮され(ステップS27)、ステップS20からの工程が繰り返される。
【0044】
刺激時間が最小である場合には、刺激周波数が最小であるか否かが判定される(ステップS28)。判定の結果、最小ではない場合には、電気パルスの刺激周波数が所定周波数分だけ縮小され(ステップS29)、ステップS20からの工程が繰り返される。
【0045】
刺激周波数が最小である場合には、パルス幅が最小であるか否かが判定される(ステップS30)。判定の結果、最小ではない場合には、電気パルスのパルス幅が縮小され(ステップS31)、ステップS20からの工程が繰り返される。
【0046】
パルス幅が最小である場合には、パルス電圧が最小であるか否かが判定される(ステップS32)。判定の結果、最小ではない場合には、電気パルスのパルス電圧が縮小され(ステップS33)、ステップS20からの工程が繰り返される。
また、パルス電圧が最小である場合には、アラームが発せられ(ステップS34)、処理が中止される。
【0047】
刺激信号生成部7から迷走神経刺激出力部8を介して出力する電気パルスは、周波数略10Hz、刺激電圧略0.1〜7.5V、パルス幅略0.4〜3msecとなるように設定されている。また、電気パルスは、連続的に出力することにより不整脈を予防するのに効果的であり、間欠的に出力することにより、移植細胞の生着率を向上させるのに効果的である。
【0048】
間欠的に出力する場合には、例えば、電気パルスの存在する5〜30秒間の刺激期間と、残りの電気パルスの存在しない非刺激期間とを含む1分間の刺激パターンを繰り返すようになっている。
さらに、出力する電気パルスは、2相性の電気パルスである。このようにすることで、組織を一方向の電荷に帯電させてしまうことを防止できる。
【0049】
また、刺激用電極3は、図7に示されるように、迷走神経枝B1もしくは迷走神経節B2に配置されることが好ましい。このようにすることで、心臓Aに対して刺激を与え、他の臓器を刺激しないようにすることができる。なお、迷走神経の基幹部(迷走神経幹)B3に刺激用電極3を配置してもよい。
【0050】
迷走神経枝B1に配置する場合には、刺激用電極3は、2〜5mmの間隔をあけて配置することが好ましい。このようにすることで、刺激を与える範囲を局所的に限定し過ぎず、また、刺激のための電力を効率的に利用して、省電力で効果的な刺激を与えることができる。
【0051】
また、迷走神経Bに配置する刺激用電極3は、正電極(+)に対して負電極(−)を心臓Aに近い側に配置することが好ましい。このようにすることで、負電極(−)により迷走神経Bに与えられる興奮を心臓A側に伝えやすくすることができる。これにより、迷走神経Bに沿って心臓A側に向かって神経の興奮が伝播されると、神経の末端から放出されるアセチルコリンの作用によって、移植細胞の生着が促進され、心臓Aの修復を迅速に行うことができるという利点がある。
【0052】
このように、本実施形態に係る再生治療装置1とその作動方法および再生治療方法によれば、副作用を伴うような薬剤投与や危険な遺伝子導入を行うことなく、迷走神経Bの刺激により、移植細胞の生着率を改善し、薬剤投与を行った場合と比較してもその生着率を高くすることができる。
【0053】
すなわち、心臓Aに間葉系幹細胞を移植した場合には、間葉系幹細胞の生着率を増加させ、心臓Aの収縮能や拡張能の改善や心臓リモデリングの防止等の間葉系幹細胞の治療効果を増強することができる。特に、迷走神経Bの刺激によって間葉系幹細胞のアポプトーシスおよび心臓Aの炎症および線維化が抑制され、血管新生を誘導することで有益な効果を得ることができる。さらに、心臓Aに対する細胞移植治療では、細胞移植治療自体の副作用として不整脈が発生する。迷走神経Bの刺激によって、細胞移植治療による不整脈の発生が抑制され、有益な効果を得ることができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、臓器としての心臓Aへの間葉系幹細胞の移植を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、肝臓Cや膵臓(図示略)のような副交感神経の影響が大きな臓器にも同様に適用することができる。例えば、肝硬変に対する幹細胞移植治療を挙げることができる。
【0055】
次に、本実施形態に係る再生治療装置1による再生治療方法の効果を実証するためのラットを使用した実施例について、図8〜図18を参照して説明する。
心筋梗塞ラットにおける骨髄間葉系幹細胞の移植治療に対して、細胞移植を実施した後、心電信号に対応したレベルを算出し、迷走神経の刺激を実施した。比較のため、従来の細胞移植手法を用い、心機能改善効果、移植細胞の生着率、血管新生率を比較した。その結果、各5体の検体に対して明らかな改善効果が見られた。
【0056】
(具体的方法)
左冠動脈を結紮した1時間後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現している間葉系幹細胞(5×106個)をラット虚血心筋に注射した。その後、4週間にわたって迷走神経刺激(VS−MSC群)または擬似刺激(SS−MSC群)を行った。
【0057】
迷走神経刺激は無線刺激装置を植え込み行った。刺激強度は心拍数が20−30心拍毎分低下するように個々のラットで調節した。他の2群のラットでは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を虚血心筋に注射し、その後迷走神経刺激(VS−PBS群)または擬似刺激(SS−PBS群)を行った。
【0058】
心筋梗塞作成後、3日目、2週間目、4週間目に心臓超音波検査を行った。心筋梗塞作成後4週間目に心臓カテーテル検査を行い、移植細胞と微小血管密度の組織学的検査のために移植後心臓を取り出した。
【0059】
(結果)
VS−MSC群の梗塞心筋の内部および周囲では広範な心筋再生と移植した間葉系幹細胞の生着が観察された。拡張末期左室内径(LVDd)はVS−MSC群で最も小さく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。LVDdはSS−PBS群で最も大きかった(図8)。
【0060】
収縮末期左室内径(LVDs)はVS−MSC群で最も小さく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。LVDsはSS−PBS群で最も大きかった(図9)。左室内径短縮率(FS)はVS−MSC群で最も大きく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。FSはSS−PBS群で最も小さかった(図10)。
【0061】
左室駆出率(LVEF)はVS−MSC群で最も大きく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。LVEFはSS−PBS群で最も小さかった(図11)。
【0062】
左室収縮末期エラスタンス(Ees)はVS−MSC群で最も大きく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。EesはSS−PBS群で最も小さかった(図12)。左室拡張末期圧(LVEDP)はVS−MSC群で最も低く、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。LVEDPはSS−PBS群で最も高かった(図13)。
【0063】
心係数(CI)はVS−MSC群で最も大きく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。CIはSS−PBS群で最も小さかった(図14)。
左室圧陰性1次微分値の最大値(−dp/dtmax)はVS−MSC群で最も大きく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。−dp/dtmaxはSS−PBS群で最も小さかった(図15)。
【0064】
体重で正規化した心室重量(VW)はVS−MSC群で最も小さく、SS−MSC群とVS−PBS群がそれに次いだ。VWはSS−PBS群で最も大きかった(図16)。
組織学的検査の半定量的評価では、生着した移植細胞数はSS−MSC群よりもVS−MSC群で多かった(図17)。微小血管の密度はSS−MSC群よりもVS−MSC群で高かった(図18)。
【0065】
(結論)
迷走神経刺激は移植した間葉系幹細胞の生着率を増加させ、心臓の収縮能や拡張能の改善や心臓リモデリングの防止といった間葉系幹細胞の治療効果を増強した。これらの迷走神経刺激の有益な効果の一部は、間葉系幹細胞のアポプトーシスを抑制したり、血管新生を誘導したりすることによってもたらされている。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係る再生治療装置を示す模式図である。
【図2】図1の再生医療装置の制御部を示すブロック図である。
【図3】図1の再生医療装置を用いた再生治療方法を示すフローチャートである。
【図4】図3に続く再生治療方法を示すフローチャートである。
【図5】図3に続く再生治療方法を示すフローチャートである。
【図6】図3に続く再生治療方法を示すフローチャートである。
【図7】図3の再生治療方法における刺激用電極の配置例を示す模式図である。
【図8】図3の再生治療方法の一実施例におけるラットの心臓の拡張末期左室内径の経時変化を示すグラフである。
【図9】図8と同様のラットの心臓の収縮末期左室内径の経時変化を示すグラフである。
【図10】図8と同様のラットの心臓の左室内径短縮率の経時変化を示すグラフである。
【図11】図8と同様のラットの心臓の左室駆出率の経時変化を示すグラフである。
【図12】図8と同様のラットの心臓の左室収縮末期エラスタンスを示すグラフである。
【図13】図8と同様のラットの心臓の左室拡張末期圧を示すグラフである。
【図14】図8と同様のラットの心臓の心係数を示すグラフである。
【図15】図8と同様のラットの心臓の左室圧陰性1次微分値の最大値を示すグラフである。
【図16】図8と同様のラットの心臓の体重で正規化した心室重量を示すグラフである。
【図17】図8と同様のラットの心臓の生着した移植細胞数を示すグラフである。
【図18】図8と同様のラットの心臓の微小血管の密度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
A 心臓(臓器)
B 迷走神経
C 肝臓(臓器)
1 再生治療装置
3 刺激用電極(正電極,負電極)
4 制御部(判定部)
5 拍動検出部(心拍数検出部)
7 刺激信号生成部(制御部)
8 迷走神経刺激出力部(刺激信号発生手段)
10 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心拍数を検出する心拍数検出部と、
刺激開始前の心拍数を記憶する記憶部と、
細胞が移植された臓器を支配している迷走神経に刺激を与える刺激用電極と、
前記心拍数検出部により検出された患者の心拍数が、刺激開始前の状態に対して5〜20%減少するように前記刺激用電極から前記迷走神経に出力する刺激信号の強度を制御する制御部とを備える再生治療装置。
【請求項2】
前記刺激信号が、周波数略10Hz、刺激電圧略0.1〜7.5V、パルス幅略0.4〜3msecのパルス状である請求項1に記載の再生治療装置。
【請求項3】
前記刺激信号が、前記刺激用電極から間欠的または連続的に出力される請求項1または請求項2に記載の再生治療装置。
【請求項4】
前記刺激信号が、前記刺激用電極から5〜30秒の連続した刺激期間と残りの非刺激期間とからなる1分間の刺激パターンの繰り返しにより前記刺激用電極から間欠的に出力される請求項1または請求項2に記載の再生治療装置。
【請求項5】
前記刺激信号が、電気刺激信号であり、2相性パルスにより構成されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の再生治療装置。
【請求項6】
患者の心拍数を検出する心拍数検出部が作動し、
刺激開始前の心拍数を記憶する記憶部が作動し、
迷走神経を刺激する刺激信号を発生する刺激信号発生手段が作動し、
前記心拍数検出部において検出された心拍数が記憶部に記憶されている心拍数から5〜20%減少した心拍数となっているか否かを判定する判定部が作動し、
該判定部による判定の結果、心拍数の減少が5%未満の場合には、前記刺激信号発生手段により発生する刺激信号の強度を増大させ、心拍数の減少が20%を越えた場合には、刺激信号の強度を低下させる制御部が作動する再生治療装置の作動方法。
【請求項7】
前記刺激信号が、周波数略10Hz、刺激電圧略0.1〜7.5V、パルス幅略0.4〜3msecのパルス状である請求項6に記載の再生治療装置の作動方法。
【請求項8】
前記刺激信号が、間欠的または連続的である請求項6または請求項7に記載の再生治療装置の作動方法。
【請求項9】
前記刺激信号が、5〜30秒の連続した刺激期間と残りの非刺激期間とからなる1分間の刺激パターンの繰り返しによる間欠的な刺激信号である請求項6または請求項7に記載の再生治療装置の作動方法。
【請求項10】
前記刺激信号が、電気刺激信号であり、2相性パルスにより構成されている請求項6から請求項9のいずれかに記載の再生治療装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−296014(P2008−296014A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132361(P2008−132361)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】