説明

冷凍機、蓄冷器、および蓄冷器の製造方法

【課題】
パルス管冷凍機に用いられる蓄冷器において、熱収縮による低温側のメッシュ状蓄冷材と円筒状ケースとの間に隙間が生じない構造とし、メッシュ状蓄冷材による蓄冷能力の低下を防止する。
【解決手段】
複数枚のメッシュ状蓄冷材を筒状ケースの内部に該筒状ケースの軸方向に積層してなる蓄冷器において、前記メッシュ状蓄冷材と前記筒状ケースの内周面との接触部を溶接によって接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にパルス管冷凍機、パルス管冷凍機における蓄冷器、およびその蓄冷器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1に記載のパルス管冷凍機が知られている。図5は特許文献1に記載のパルス管冷凍機の概略構成図である。図5において、10は内部にガス状冷媒が充填されたコンプレッサであり、シリンダ12内にピストン13が移動可能に設けられている。20はコンプレッサ10に第1パイプ15を介して連結された蓄冷器であり、内部に蓄冷材22を充填している。40は蓄冷器20に第2パイプ31を介して連結されたパルス管である。30は100K以下の極低温を取り出すための低温取出用熱交換器であり、第2パイプ31の途中に設けられている。53はパルス管40に第3パイプ51を介して連結されたバッファタンクであり、第3パイプ51の途中にオリフィス弁52が設けられている。21は蓄冷器20のコンプレッサ側端部に設けられた放熱用熱交換器、41はパルス管40のバッファタンク側端部に設けられた放熱用熱交換器である。そして、蓄冷器20、低温取出用熱交換器30、パルス管40、およびこれらを連結する第2パイプ31は真空チャンバ60に収納されている。
【0003】
上記の構成においてピストン13の図5下方向への移動による圧縮過程においてコンプレッサ10で圧縮したガス状冷媒は、放熱用熱交換器21および蓄冷器20を通る間に冷却されてパルス管40に流入し、このパルス管40内の残留冷媒は圧縮されてその圧縮熱が放熱用熱交換器41で放熱され、さらに冷媒がオリフィス弁52を通る間に断熱膨張により冷却されてバッファタンク53内に流入する。
その後、ピストン13の図5上方向への移動による膨張過程においてコンプレッサ10内へガス状冷媒を吸引動作することでバッファタンク53内に蓄積されたガス状冷媒を復帰移動させ、これをパルス管40内で断熱膨張させてさらに低温化させ、低温取出用熱交換器30および蓄冷器20を冷却してコンプレッサ10に帰還させる。
このようにガス状冷媒の往復移動サイクルを繰り返すことにより、低温取出用熱交換器30にて極低温を得るようにしたものである。
【0004】
ところで、蓄冷器20として円筒状ケース23と、この円筒状ケース23の内部にその軸方向に積層した複数枚のメッシュ状蓄冷材22から構成されているものがある。
この種の蓄冷器20では、低温側のメッシュ状蓄冷材22が熱収縮し、高温側のメッシュ状蓄冷材22が膨張するために、低温側において円筒状ケース23とメッシュ状蓄冷材22との間に隙間が発生し、ガス状冷媒がこの隙間に流れてメッシュ状蓄冷材22の内部を流れるガス状冷媒量が減少し、蓄冷能力の低下を招き、冷凍能力向上の障害となっていた。
このような課題に対して、特許文献1では、極低温時においても円筒状ケース23とメッシュ状蓄冷材22の間に隙間が開かないように、円筒状ケース23をテーパ状に形成し、円筒状ケース23に応力を付与するリング24を嵌めて、円筒状ケース23の内部に圧縮応力を付与し、円筒状ケース23とメッシュ状蓄冷材22と密接させる技術が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術を用いると、膨張機全体が大きくなったり、熱容量の増大に伴う温度降下時間が長くなったり、定常時性能以外の面でデメリットが顕著になった。性能面においても、蓄冷管のテーパ形状故に低温端への伝導熱侵入量が増大するため、条件によってはマイナス効果さえ生じる可能性がある。さらには、高精度の薄肉テーパ管を使用することで製作コストが大幅に増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−269967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
冷凍機の冷凍出力を向上させるためには、蓄冷器において、熱収縮による低温側のメッシュ状蓄冷材と円筒状ケースとの間に隙間が生じない構造とし、メッシュ状蓄冷材における蓄冷能力の低下を防止することが大変重要である。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、蓄冷器における蓄冷効率を向上させ、冷凍出力を向上させる蓄冷器およびその蓄冷器を用いた冷凍機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る蓄冷器は、複数枚のメッシュ状蓄冷材を筒状ケースの内部に該筒状ケースの軸方向に積層してなる蓄冷器であって、前記メッシュ状蓄冷材と前記筒状ケースの内周面との接触部を溶接によって接合している。
本発明に係る蓄冷器において、前記蓄冷器の軸方向一端側に位置する複数枚の前記メッシュ状蓄冷材と前記円筒状ケースの内周面との接触部を溶接によって接合している。
本発明に係る冷凍装置は、内部にガス状冷媒が充填されたコンプレッサと、上記本発明に係る蓄冷器と、低温取出用熱交換器と、パルス管とを直列に連結し、前記コンプレッサの動作により圧縮、若しくは膨張させたガス状冷媒を往復移動させることによって、前記低温取出用熱交換器を冷却する冷凍装置。
さらに、上記本発明に係る蓄冷器を採用した冷凍装置にあっては、蓄冷器が軸方向一端側に位置する複数枚の前記メッシュ状蓄冷材と前記円筒状ケースの内周面との接触部を溶接によって接合した蓄冷器である場合には、前記メッシュ状蓄冷材と前記円筒状ケースの内周面とを溶接した軸方向一端が、低温端部側となるように前記コンプレッサに接続されていることを特徴とする。
【0009】
さらに本発明に係る冷凍装置は、内部にガス状冷媒が充填されたコンプレッサと、上記本発明に係る蓄冷器と、低温取出用熱交換器と、パルス管とを直列に連結し、前記コンプレッサの動作により圧縮、若しくは膨張させたガス状冷媒を往復移動させることによって、前記低温取出用熱交換器を冷却する冷凍装置であって、前記蓄冷器は、前記メッシュ状蓄冷材と前記円筒状ケースの内周面とを溶接した軸方向一端が、前記低温取出用熱交換器側となるように前記コンプレッサに接続されている。
上記本発明に係る蓄冷器の製造方法は、絶縁された支持具によって、前記筒状ケースの内周面を支持すると共に、前記メッシュ状蓄冷材の前記筒状ケースの軸方向における位置を固定し、前記筒状ケースにスポット溶接の一方の電極を接触させ、スポット溶接の他方の電極を備えた押圧具により、前記筒状ケースに挿入された前記メッシュ状蓄冷材を押圧すると共に、電極から通電して前記筒状ケースの内周面と前記メッシュ状蓄冷材との接触部をスポット溶接により接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
蓄冷器において、熱収縮による低温側のメッシュ状蓄冷材と円筒状ケースとの間に隙間が生じないため、メッシュ状蓄冷材による蓄冷能力の低下を防止でき、蓄冷器における蓄冷効率が向上し、冷凍出力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る実施形態におけるパルス管冷凍機の概略構成図である。
【図2】本発明に係る実施形態における蓄冷器の軸方向断面図である。
【図3】本発明に係る実施形態における蓄冷器の溶接状態を表した径方向断面図である。
【図4】本発明に係る実施形態における蓄冷器の製造装置の概略図である。
【図5】特許文献1に記載のパルス管冷凍機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る実施形態について図に基づいて説明する。図1は本発明に係る実施形態におけるパルス管冷凍機の概略構成図である。なお、蓄冷器以外の構成は従来技術と何ら変更はなく、蓄冷式の冷凍機であれば図1に示す構成以外も採用可能であり、駆動方式や構成は問わない。
図1において、10は内部にガス状冷媒が充填されたコンプレッサであり、シリンダ12内にピストン13が移動可能に設けられている。20はコンプレッサ10に第1パイプ15を介して連結された蓄冷器であり、内部に蓄冷材22を充填している。40は蓄冷器20に第2パイプ31を介して連結されたパルス管である。30は100K以下の極低温を取り出すための低温取出用熱交換器であり、第2パイプ31の途中に設けられている。53はパルス管40に第3パイプ51を介して連結されたバッファタンクであり、第3パイプ51の途中にオリフィス弁52が設けられている。21は蓄冷器20のコンプレッサ側端部に設けられた放熱用熱交換器、41はパルス管40のバッファタンク側端部に設けられた放熱用熱交換器である。そして、蓄冷器20、低温取出用熱交換器30、パルス管40、およびこれらを連結する第2パイプ31は真空チャンバ60に収納されている。
【0013】
上記の構成においてピストン13の図1下方向への移動による圧縮過程においてコンプレッサ10で圧縮したガス状冷媒は、放熱用熱交換器21および蓄冷器20を通る間に冷却されてパルス管40に流入し、このパルス管40内の残留冷媒は圧縮されてその圧縮熱が放熱用熱交換器41で放熱され、さらに冷媒がオリフィス弁52を通る間に断熱膨張により冷却されてバッファタンク53内に流入する。
その後、ピストン13の図1上方向への移動による膨張過程においてコンプレッサ10内へガス状冷媒を吸引動作することでバッファタンク53内に蓄積されたガス状冷媒を復帰移動させ、これをパルス管40内で断熱膨張させてさらに低温化させ、低温取出用熱交換器30および蓄冷器20を冷却してコンプレッサ10に帰還させる。
このようにガス状冷媒の往復移動サイクルを繰り返すことにより、低温取出用熱交換器30にて極低温を得るようにしたものである。
【0014】
次に、本実施形態における蓄冷器について図に基づいて詳細に説明する。
図2は本発明に係る実施形態における蓄冷器の軸方向断面図である。図2に示すように、蓄冷器20は、円筒状ケース23と、この円筒状ケース23の内部にその軸方向に積層した複数枚のメッシュ状蓄冷材22から構成されている。
図3は、本発明に係る実施形態における蓄冷器の溶接状態を表した径方向断面図である。メッシュ状蓄冷材22は一般に図3に示すように金属線が一定の間隔に配置されるように金属線で織られている。なお、メッシュの間隔(金属線間に生じる空隙)は金属線径と1インチ当たりメッシュ数で確定する。通常、メッシュ状蓄冷材22には、1インチ当たりのメッシュ数が200〜400であるステンレス製メッシュが使用される。
図4は、本発明に係る実施形態における蓄冷器の製造装置の概略図である。図4において、101はスポット溶接用電源、102はスポット溶接用スイッチ、103は円筒状ケース23に取り付けるスポット溶接用電極、104はスポット溶接用電極を備えた押圧具、201は絶縁された支持具である。
【0015】
スポット溶接用電極103は、円筒状ケース23の外周面に固定するとスポット溶接の電極が円筒状ケース23の外周面に密着するように構成されている。このスポット溶接用電極103は、作業性等を考慮して三日月状の1対の電極で円筒状ケース23を挟みこむ形状とするのが望ましい。
押圧具104は、メッシュ状蓄冷材22との接触面にスポット溶接用電極が備えられ、メッシュ状蓄冷材22を押圧するとそのスポット溶接用電極がメッシュ状蓄冷材22に密着するように構成されている。電極はリング形状であって、メッシュ状蓄冷材22との接触面の外周近傍に設けられている。溶接箇所と電極の距離を短くするためである。
支持具201は、樹脂等により絶縁されており、円筒状ケース23の内周面に嵌合される凸部を備え、凸部の上面にてメッシュ状蓄冷材22が円筒状ケース23の軸方向にずれないよう支持する。
【0016】
次に、蓄冷器の製造方法について説明する。支持具201の凸部に円筒状ケース23を嵌合する。少なくとも円筒状ケース23の内径より大きく、かつ適正に接合される外径を有するメッシュ状蓄冷材22を、押圧具104を用いて下方へ挿入する。
なお、メッシュ素線径や円筒状ケース23、押圧具104による押し付け力等の条件により最適化されるが、メッシュ状蓄冷材22の外径は、ある程度の平板状態を保持するために円筒状ケース23の内径に対して20μm〜60μm程度大きく成形されることが好ましい。
押圧具104にてメッシュ状蓄冷材22を押圧している状態にて、スポット溶接用スイッチ102を入れることで前述の2つの電極に電気が流れ、瞬間的に円筒状ケース23とメッシュ状蓄冷材22との接触部がスポット溶接される。図2において25が溶接された箇所を示している。
【0017】
メッシュ状蓄冷材22は、少なくとも熱収縮が発生する低温側のメッシュ状蓄冷材22と円筒状ケース23とを溶接により接合する。通常は熱収縮が発生する所定の範囲に位置する複数枚のメッシュ状蓄冷材22と円筒状ケース23とを溶接により接合する。メッシュ状蓄冷材22と円筒状ケース23との間に隙間が生じなくなり、メッシュ状蓄冷材22の蓄冷能力の低下を防止できる。
なお、熱収縮が発生しない範囲においてメッシュ状蓄冷材22を一定枚数積層するごとに接合しても良い。また、メッシュ状蓄冷材22の全数を接合しても良い。蓄冷器内部の圧力変動や流体振動によるメッシュ状蓄冷材22のズレを抑制することが可能となるからである。
また、単純な円筒状ケースと円板状メッシュとの組合せについてのみ示したが、蓄冷管が2重円管で、メッシュがリング形状メッシュのような同軸型の場合にも同様な構成で接合できることは容易に想像できる。その際、メッシュ内周面の接合用の電極冶具が外側に押し付ける形状になる点で異なるだけで、メッシュ外周面の接合は全く同じ冶具で接合できる。
【0018】
なおさらに、多角筒形状ケースと多角形状のメッシュ状蓄冷材との組合せであってもよい。
また、オリフィス弁52に代替してイナータンスチューブを用いることもできる。
メッシュ状蓄冷材22は、網目であれば平織または綾織等の織り方に限定されるものではない。さらに、網目に近い形状を有していれば製造方法等にも限定されない。つまり、パンチングメタルやエッジング加工等によって製造された網目に近い形状を有する板材等であっても良い。
【符号の説明】
【0019】
10 コンプレッサ
20 蓄冷器
22 蓄冷材
23 円筒状ケース
30 低温取出用熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のメッシュ状蓄冷材を筒状ケースの内部に該筒状ケースの軸方向に積層してなる蓄冷器において、
前記メッシュ状蓄冷材と前記筒状ケースの内周面との接触部を溶接によって接合したこと、を特徴とする蓄冷器。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄冷器において、
前記蓄冷器の軸方向一端側に位置する複数枚の前記メッシュ状蓄冷材と前記円筒状ケースの内周面との接触部を溶接によって接合したこと、を特徴とする蓄冷器。
【請求項3】
内部にガス状冷媒が充填されたコンプレッサと、請求項1に記載の蓄冷器と、低温取出用熱交換器と、パルス管とを直列に連結し、前記コンプレッサの動作により圧縮、若しくは膨張させたガス状冷媒を往復移動させることによって、前記低温取出用熱交換器を冷却する冷凍装置。
【請求項4】
内部にガス状冷媒が充填されたコンプレッサと、請求項2に記載の蓄冷器と、低温取出用熱交換器と、パルス管とを直列に連結し、前記コンプレッサの動作により圧縮、若しくは膨張させたガス状冷媒を往復移動させることによって、前記低温取出用熱交換器を冷却する冷凍装置であって、
前記蓄冷器は、前記メッシュ状蓄冷材と前記円筒状ケースの内周面とを溶接した軸方向一端が、前記低温取出用熱交換器側となるように前記コンプレッサに接続されていることを特徴とする冷凍装置。
【請求項5】
複数枚のメッシュ状蓄冷材を筒状ケースの内部に該筒状ケースの軸方向に積層してなる蓄冷器において、
絶縁された支持具によって、前記筒状ケースの内周面を支持すると共に、前記メッシュ状蓄冷材の前記筒状ケースの軸方向における位置を固定し、
前記筒状ケースにスポット溶接の一方の電極を接触させ、
スポット溶接の他方の電極を備えた押圧具により、前記筒状ケースに挿入された前記メッシュ状蓄冷材を押圧すると共に、電極から通電して前記筒状ケースの内周面と前記メッシュ状蓄冷材との接触部をスポット溶接により接合することを特徴とする蓄冷器の製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−281468(P2010−281468A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132897(P2009−132897)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)