説明

冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物

【課題】低粘度化と冷媒溶解粘度の維持との両立並びに冷凍機油の冷媒相溶性と冷媒溶解粘度の維持との両立が可能な冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の冷凍機油は、炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのエステルを含有することを特徴とする。また、本発明の冷凍機用作動流体組成物は、炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのエステルと、冷媒とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍空調機器に使用される冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のオゾン層破壊の問題から、従来冷凍空調機器の冷媒として使用されてきたCFC(クロロフルオロカーボン)およびHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が規制の対象となり、これらに代わってHFC(ハイドロフルオロカーボン)が冷媒として使用されつつある。しかしながら、HFC冷媒においても、地球温暖化能が高いという問題があり、これらのフロン系冷媒に代わる代替冷媒として自然系冷媒の使用が検討されている。中でも二酸化炭素冷媒は環境に対して無害であり安全性の点で優れている上、オイルや機械材料との適合性や入手性のなどの利点を有している。また近年、開放型圧縮機あるいは密閉型電動圧縮機を用いたカーエアコン用の冷媒として、その適用が検討されている。
【0003】
HFC冷媒用の冷凍機油としては、HFC冷媒と相溶するエステル、炭酸エステル、PAG(ポリアルキレングリコール)、ポリビニルエーテル等が検討あるいは使用されている(例えば、下記特許文献1〜10を参照。)。また、二酸化炭素冷媒用の冷凍機油としては、例えばエステル系冷凍機油がある(例えば、下記特許文献11を参照)。
【0004】
一方、近年は様々な分野にて省エネルギーへの関心が高まっている中、冷凍空調機器の分野においても熱効率の向上や消費電力低減などの省エネルギー対策が検討されている。そこで、省エネルギー対策において冷凍機油の側から貢献すべく、冷凍機油の低粘度化によりエネルギー効率を向上させる技術が提案されている(例えば特許文献12、13を参照)。
【特許文献1】特表平3−505602号公報
【特許文献2】特開平3−88892号公報
【特許文献3】特開平3−128991号公報
【特許文献4】特開平3−128992号公報
【特許文献5】特開平3−200895号公報
【特許文献6】特開平3−227397号公報
【特許文献7】特開平4−20597号公報
【特許文献8】特開平4−72390号公報
【特許文献9】特開平4−218592号公報
【特許文献10】特開平4−249593号公報
【特許文献11】特開2000−104084号公報
【特許文献12】特開平10−204458号公報
【特許文献13】特開2000−297753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の冷凍機油であっても、以下の点で未だ改善の余地がある。
【0006】
すなわち、従来、冷凍空調機器の分野では、上述のように、冷凍機油の性能評価の一つとして冷媒相溶性が重視されている。しかし、冷凍機油の冷媒相溶性が良好であると、冷媒の溶解により冷凍機油の粘度が低下して潤滑性が不十分となりやすい。より具体的には、冷凍システム内で冷媒が冷凍機油に溶解することにより冷凍機油と冷媒との混合物である流体組成物の粘度(冷媒溶解粘度)が低下すると、冷媒圧縮機の圧縮部での吹き抜け、潤滑不良などの問題が懸念される。
【0007】
なお、潤滑性を改善する方法の一つとして高粘度化が考えられるが、冷凍機油の高粘度化は省エネルギー性や取り扱い性の観点から望ましくない。特に、冷凍空調機器において冷凍機油の側から省エネルギー対策に貢献するためには、冷凍機油を低粘度化してエネルギー効率の向上並びに冷媒圧縮機内での撹拌抵抗の低減を図る必要があり、冷凍機油の高粘度化はこのような省エネルギー対策のコンセプトに逆行することになる。
【0008】
また、冷凍機油は、冷媒存在下で使用されるという点で、空気雰囲気等で使用される他の潤滑油とはその使用環境が大きく異なる。そして、このことが他の潤滑油分野における潤滑性の改善技術をそのまま冷凍機油に適用できない一因となっている。
【0009】
また、冷凍機油の高粘度化により冷媒溶解粘度を維持するとその分冷媒相溶性は損なわれることになるが、この場合は別の理由により潤滑不良が懸念される。つまり、冷凍空調機器の冷媒循環システムにおいては、その機構上、冷媒圧縮機内の冷凍機油の一部が冷媒と共に循環流路に吐出される。ここで、冷媒圧縮機内の冷凍機油の量が不足することによる潤滑不良等を防ぐためには、吐出された冷凍機油が循環流路を通って冷媒圧縮機に戻ること(オイル戻り性)が重要であり、オイル戻り性の観点からは冷媒相溶性の低下は望ましいとはいえない。
【0010】
なお、相反する関係にある冷凍機油の低粘度化と冷媒溶解粘度の維持とを両立することの困難性、並びに冷凍機油の冷媒相溶性と冷媒溶解粘度の維持とを両立することの困難性は、HFC冷媒、二酸化炭素冷媒等と共に使用される冷凍機油の開発において共通の課題となり得るが、特に二酸化炭素冷媒の場合は、冷媒溶解粘度の低下が顕著であるため上記の困難性がより高いものであるといえる。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低粘度化と冷媒溶解粘度の維持との両立並びに冷凍機油の冷媒相溶性と冷媒溶解粘度の維持との両立が可能な冷凍機油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために、まず、上記課題の中でも特に達成が困難であると考えられる二酸化炭素冷媒の共存下でのエステル系冷凍機油の二酸化炭素冷媒との冷媒溶解粘度の改善について検討した。その結果、脂肪酸と多価アルコールとのエステルにおける脂肪酸組成が二酸化炭素冷媒の共存下での冷媒溶解粘度についての重要な決定因子であることが判明した。そして、かかる知見に基づいて更に検討を重ねた結果、本発明者らは、エステルの構成脂肪酸として特定の脂肪酸組成を有する脂肪酸を、構成アルコールとして多価アルコールを、それぞれ用いることによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の冷凍機油は、炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのエステル(以下、「本発明にかかるエステル」ともいう。)を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の冷凍機油は、上記構成を備えるため、二酸化炭素冷媒と共に用いる場合であっても、相反する関係にある冷凍機油の低粘度化と冷媒溶解粘度の維持とを両立することができ、また、冷媒相溶性と冷媒溶解粘度の維持とを両立することができる。さらに、本発明の冷凍機油は熱・化学的安定性及び電気絶縁性にも優れる。したがって、本発明の冷凍機油を用いることによって、冷媒圧縮機の摺動部における冷媒ガスのシール性、摺動部における潤滑性、冷媒圧縮機のエネルギー効率の全てを高水準で達成することができ、その結果、冷凍空調機器の省エネルギー性と高信頼性とを両立することができる。
【0015】
また、本発明の冷凍機油においては、13C−NMR分析法により得られる、本発明にかかるエステルを構成する脂肪酸の構成炭素に占める3級炭素の割合が2質量%以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の冷凍機油が適用される冷凍空調機器の冷媒は特に制限されないが、本発明の冷凍機油は、特に二酸化炭素冷媒と共に用いられる場合に、上述の優れた効果を発揮することができるものである。
【0017】
また、本発明は、炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのエステルと、冷媒とを含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物を提供する。
【0018】
本発明の冷凍機用作動流体組成物は、上記本発明の冷凍機油を含有するため、二酸化炭素冷媒を含有する場合であっても、相反する関係にある冷凍機油の低粘度化と冷媒溶解粘度の維持とを両立することができ、また、冷媒相溶性と冷媒溶解粘度の維持とを両立することができる。さらに、本発明の冷凍機油は熱・化学的安定性及び電気絶縁性にも優れる。したがって、本発明の冷凍機用作動流体組成物を用いることによって、冷媒圧縮機の摺動部における冷媒ガスのシール性、摺動部における潤滑性、冷媒圧縮機のエネルギー効率の全てを高水準で達成することができ、その結果、冷凍空調機器の省エネルギー性と高信頼性とを両立することができる。
【0019】
本発明の冷凍機用作動流体組成物に含まれる冷媒は特に制限されないが、特に冷媒が二酸化炭素冷媒を含有する場合に、上述の優れた効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の通り、本発明によれば、低粘度化と冷媒溶解粘度の維持との両立並びに冷凍機油の冷媒相溶性と冷媒溶解粘度の維持との両立が可能な冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明の冷凍機油は、脂肪酸に占める炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのポリオールエステルを含有することを特徴とする。また、本発明の冷凍機用作動流体組成物は、炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのエステルと、冷媒とを含有する。なお、本発明の冷凍機用作動流体組成物には、本発明の冷凍機油と冷媒とを含有する態様が包含される。
【0023】
本発明にかかるエステルにおいては、二酸化炭素冷媒の共存下での相溶性及び冷媒溶解粘度を好適に確保する観点から、構成脂肪酸に占める炭素数10〜13の脂肪酸の割合が50モル%以上、好ましくは60〜100モル%、さらに好ましくは80〜100モル%、最も好ましくは90〜100モル%であることが必要である。炭素数10〜13の脂肪酸の割合が50モル%未満の場合、二酸化炭素冷媒との相溶性と二酸化炭素冷媒共存下での冷媒溶解粘度が両立できず好ましくない。
【0024】
またさらに、本発明にかかるエステルにおいては、二酸化炭素冷媒の共存下での相溶性及び冷媒溶解粘度を好適に確保する観点から、構成脂肪酸に占める炭素数13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上であることが必要であり、より好ましくは60〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%であることが必要である。
【0025】
また、構成脂肪酸は、炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が上記条件を満たす限りにおいて、分岐脂肪酸のみを含むものであってもよく、あるいは分岐脂肪酸と直鎖脂肪酸との混合物であってもよい。さらに、構成脂肪酸は、炭素数10〜13の分岐脂肪酸以外の脂肪酸を含んでいてもよい。炭素数10〜13の分岐脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えば、炭素数6〜24の直鎖脂肪酸、炭素数6〜9、14〜24の分岐脂肪酸が挙げられ、より具体的には、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状のデカン酸、直鎖状のウンデカン酸、直鎖状のドデカン酸、直鎖状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等が挙げられる。
【0026】
本発明にかかるエステルにおいては、相溶性と冷媒溶解粘度のバランスの観点から、その構成脂肪酸の構成炭素に占める3級炭素の割合が2質量%以上、好ましくは2〜10質量%、さらに好ましくは2.5〜5質量%であることが望ましい。上記3級炭素の割合は13C−NMR分析法により求めることができる。
【0027】
また、本発明にかかるエステルを構成する多価アルコールとしては、水酸基を2〜6個有する多価アルコールが好ましく用いられる。二酸化炭素冷媒の共存下で非常に高水準の潤滑性を得る観点からは、水酸基を4〜6個有する多価アルコールを用いることが好ましい。また、エネルギー効率等の観点から、冷凍機油の低粘度化が求められる場合があるが、本発明にかかるエステルを構成する多価アルコールとして水酸基を2個又は3個有する多価アルコールを用いると、二酸化炭素冷媒の共存下での潤滑性と低粘度化とを高水準で両立することができる。
【0028】
2価アルコール(ジオール)としては、具体的には例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2ーメチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。また、3価以上のアルコールとしては、具体的には例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜20量体)、1,3,5ーペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物、およびメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0029】
なお、本発明にかかるエステルは、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに水酸基のまま残っている部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0030】
本発明にかかるエステルとしては、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンおよびペンタエリスリトールのエステルがさらにより好ましく、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールがさらに好ましく、冷媒との相溶性および加水分解安定性に特に優れることからペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。
【0031】
本発明にかかるエステルは、単一の構造のエステルの1種からなるものであっても良く、構造の異なる2種以上のエステルの混合物であっても良い。
【0032】
また、本発明にかかるエステルは、1種の脂肪酸と1種の多価アルコールとのエステル、2種以上の脂肪酸と1種の多価アルコールとのエステル、1種の脂肪酸と2種以上の多価アルコールとのエステル、2種以上の脂肪酸と2種以上の多価アルコールとのエステルのいずれであってもよい。これらの中でも、混合脂肪酸を用いたポリオールエステル、特にエステル分子中に2種以上の脂肪酸を含んで構成されるポリオールエステルは、低温特性や冷媒との相溶性に優れる。
【0033】
本発明の冷凍機油において、本発明にかかるエステルの含有量は特に制限されないが、潤滑性、冷媒相溶性、熱・化学安定性、電気絶縁性等の各種性能により優れる点から、冷凍機油全量基準で、50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することがさらにより好ましく、90質量%以上含有することが最も好ましい。
【0034】
本発明の冷凍機油は、本発明にかかるエステルのみからなるものであってもよいが、本発明にかかるエステル以外の基油をさらに含有してもよい。本発明にかかるエステル以外の基油としては、鉱油、オレフィン重合体、ナフタレン化合物、アルキルベンゼン等の炭化水素系油、並びに本発明にかかるエステル以外のエステル系基油(モノエステル、構成脂肪酸として直鎖脂肪酸のみを含むポリオールエステル等)、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテルなどの酸素を含有する合成油を併用して用いても良い。酸素を含有する合成油としては、上記の中でも本発明にかかるエステル以外のエステル系基油、ポリグリコール、ポリビニルエーテルが好ましく用いられる。
【0035】
また、本発明の冷凍機油は、本発明にかかるエステルを含有するため添加剤未添加の状態でも好適に用いることができるが、必要に応じて各種添加剤を配合した形で使用することもできる。
【0036】
本発明の冷凍機油の耐摩耗性、耐荷重性をさらに改良するために、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、チオリン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステルおよび亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を配合することができる。これらのリン化合物は、リン酸または亜リン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体である。
【0037】
具体的には例えば、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0038】
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0039】
チオリン酸エステルとしては、トリブチルホスフォロチオネート、トリペンチルホスフォロチオネート、トリヘキシルホスフォロチオネート、トリヘプチルホスフォロチオネート、トリオクチルホスフォロチオネート、トリノニルホスフォロチオネート、トリデシルホスフォロチオネート、トリウンデシルホスフォロチオネート、トリドデシルホスフォロチオネート、トリトリデシルホスフォロチオネート、トリテトラデシルホスフォロチオネート、トリペンタデシルホスフォロチオネート、トリヘキサデシルホスフォロチオネート、トリヘプタデシルホスフォロチオネート、トリオクタデシルホスフォロチオネート、トリオレイルホスフォロチオネート、トリフェニルホスフォロチオネート、トリクレジルホスフォロチオネート、トリキシレニルホスフォロチオネート、クレジルジフェニルホスフォロチオネート、キシレニルジフェニルホスフォロチオネートなどが挙げられる。
【0040】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミンなどのアミンとの塩が挙げられる。
【0041】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェートなどが挙げられる。亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどが挙げられる。また、これらの混合物も使用できる。
【0042】
本発明の冷凍機油が上記リン化合物を含有する場合、リン化合物の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準(基油と全配合添加剤の合計量基準)で、0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.02〜3.0質量%であることがより好ましい。なお、上記リン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
また、本発明の冷凍機油は、その安定性をさらに改良するために、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリルオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有することができる。
【0044】
フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエーテルまたはアルキルフェニルグリシジルエーテルが例示できる。ここでいうアルキルフェニルグリシジルエーテルとは、炭素数1〜13のアルキル基を1〜3個有するものが挙げられ、中でも炭素数4〜10のアルキル基を1個有するもの、例えばn−ブチルフェニルグリシジルエーテル、i−ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテルなどが好ましいものとして例示できる。
【0045】
アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルなどが例示できる。
【0046】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエステル、アルキルグリシジルエステル、アルケニルグリシジルエステルなどが挙げられ、好ましいものとしては、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルベンゾエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが例示できる。
【0047】
アリルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシスチレン、アルキル−1,2−エポキシスチレンなどが例示できる。
【0048】
アルキルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,1,2−エポキシオクタデカン、2−エポキシノナデカン、1,2−エポキシイコサンなどが例示できる。
【0049】
脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ−2,3−エポキシノルボルナン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−スピロ(1,3−ジオキサン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4−(1’−メチルエポキシエチル)−1,2−エポキシ−2−メチルシクロヘキサン、4−エポキシエチル−1,2−エポキシシクロヘキサンなどが例示できる。
【0050】
エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、具体的には、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と炭素数1〜8のアルコールまたはフェノール、アルキルフェノールとのエステルなどが例示できる。特にエポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニルおよびブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
【0051】
エポキシ化植物油としては、具体的には、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物などが例示できる。
【0052】
これらのエポキシ化合物の中でも好ましいものは、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物およびエポキシ化脂肪酸モノエステルである。中でもフェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物およびグリシジルエステル型エポキシ化合物がより好ましく、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステルもしくはこれらの混合物が特に好ましい。
【0053】
本発明の冷凍機油が上記エポキシ化合物を含有する場合、エポキシ化合物の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.2〜2.0質量%であることがより好ましい。なお、上記エポキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
さらに本発明の冷凍機油は、その性能をさらに高めるため、必要に応じて従来より公知の冷凍機油添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えばジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系の酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N−ジ(2−ナフチル)−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛などの摩耗防止剤、塩素化パラフィン、硫黄化合物等の極圧剤、脂肪酸等の油性剤、シリコーン系等の消泡剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの添加剤の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0055】
本発明の冷凍機油の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度は、好ましくは3〜1000mm/s、より好ましくは4〜500mm/s、最も好ましくは5〜400mm/sとすることができる。また、100℃における動粘度は好ましくは1〜100mm/s、より好ましくは2〜50mm/sとすることができる。
【0056】
また、本発明の冷凍機油の体積抵抗率は特に限定されないが、好ましくは1.0×1012Ω・cm以上、より好ましくは1.0×1013Ω・cm以上、最も好ましくは1.0×1014Ω・cm以上とすることができる。特に、密閉型の冷凍機用に用いる場合には高い電気絶縁性が必要となる傾向にある。なお、本発明において、体積抵抗率とは、JIS C 2101「電気絶縁油試験方法」に基づいて測定した25℃での値を意味する。
【0057】
また、本発明の冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下とすることができる。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、油の安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。
【0058】
また、本発明の冷凍機油の酸価は特に限定されないが、冷凍機または配管に用いられている金属への腐食を防止するため、および本発明の冷凍機油に含有されるエステル油の分解を防止するため、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下とすることができる。なお、本発明において、酸価とは、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験方法」に基づいて測定した酸価を意味する。
【0059】
また、本発明の冷凍機油の灰分は特に限定されないが、本発明の冷凍機油の安定性を高めスラッジ等の発生を抑制するため、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることができる。なお、本発明において、灰分とは、JIS K 2272「原油および石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」に基づいて測定した灰分の値を意味する。
【0060】
本発明の冷凍機油は、特に二酸化炭素冷媒と共に用いられる場合にその優れた効果を発揮するものであるが、使用される冷媒は、二酸化炭素冷媒単独であってもよく、二酸化炭素冷媒以外の冷媒単独であってもよく、あるいは二酸化炭素冷媒と他の冷媒との混合冷媒であってもよい。二酸化炭素冷媒以外の冷媒としては、HFC冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、テトラフルオロプロペン、3フッ化ヨウ化メタン、ジメチルエーテル、アンモニア、炭化水素などが挙げられる。
【0061】
HFC冷媒としては、炭素数1〜3、好ましくは1〜2のハイドロフルオロカーボンが挙げられる。具体的には例えば、ジフルオロメタン(HFC−32)、トリフルオロメタン(HFC−23)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)などのHFC、またはこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばHFC−32単独;HFC−23単独;HFC−134a単独;HFC−125単独;HFC−134a/HFC−32=60〜80質量%/40〜20質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/60〜30質量%の混合物;HFC−125/HFC−143a=40〜60質量%/60〜40質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/15〜35質量%/5〜40質量%の混合物;HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=35〜55質量%/1〜15質量%/40〜60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、HFC−134a/HFC−32=70/30質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=60/40質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=50/50質量%の混合物(R410A);HFC−32/HFC−125=45/55質量%の混合物(R410B);HFC−125/HFC−143a=50/50質量%の混合物(R507C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=30/10/60質量%の混合物;HFC−32/HFC−125/HFC−134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などが挙げられる。
【0062】
含フッ素エーテル系冷媒としては、具体的には、HFE−134p、HFE−245mc、HFE−236mf、HFE−236me、HFE−338mcf、HFE−365mc−f、HFE−245mf、HFE−347mmy、HFE−347mcc、HFE−125、HFE−143m、HFE−134m、HFE−227meなどが挙げられる。
【0063】
テトラフルオロプロペン冷媒としては、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)などがあげられる。
【0064】
また、炭化水素冷媒としては、25℃、1気圧で気体のものが好ましく用いられる。具体的には炭素数1〜5、好ましくは1〜4のアルカン、シクロアルカン、アルケンまたはこれらの混合物である。具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパンまたはこれらの2種以上の混合物などがあげられる。これらの中でも、プロパン、ブタン、イソブタンまたはこれらの混合物が好ましい。
【0065】
二酸化炭素とHFC冷媒、含フッ素エーテル系冷媒、ジメチルエーテル、アンモニア、との混合比は特に制限されないが、二酸化炭素冷媒と併用する冷媒の合計量は、二酸化炭素100質量部に対して、好ましくは1〜200質量部、より好ましくは10〜100質量部である。好適な態様としては、二酸化炭素冷媒とハイドロフルオロカーボンおよび/または炭化水素とを、二酸化炭素100質量部に対してハイドロフルオロカーボンと炭化水素合計量として好ましくは1〜200質量部、より好ましくは10〜100質量部を配合した混合冷媒が挙げられる。
【0066】
本発明の冷凍機油は、通常、冷凍空調機器においては上述したような二酸化炭素を含有する冷媒と混合された冷凍機用流体組成物の形で存在している。この組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合は特に制限されないが、冷媒100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1〜500質量部、より好ましくは2〜400質量部である。
【0067】
本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、その優れた電気特性や低い吸湿性から、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するルームエアコン、パッケージエアコン及び冷蔵庫に好ましく用いられる。また、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、自動車用エアコンや除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に好ましく用いられる。さらに、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
[脂肪酸の組成]
以下の実施例で用いた脂肪酸Aおよび脂肪酸Bの組成を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
[実施例1〜10、比較例1〜6]
実施例1〜10および比較例1〜6においては、それぞれ以下に示す基油1〜16を用いて冷凍機油を調製した。得られた冷凍機油の各種性状を表2〜表5に示す。
【0072】
(基油)
基油1:脂肪酸Aとペンタエリスリトールとのエステル
基油2:脂肪酸A及びn−デカン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸A/n−デカン酸=85/15)とペンタエリスリトールとのエステル
基油3:脂肪酸A及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸A/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=85/15)とペンタエリスリトールとのエステル
基油4:脂肪酸A及びn−デカン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸A/n−デカン酸=70/30)とペンタエリスリトールとのエステル
基油5:脂肪酸A及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸A/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=70/30)とペンタエリスリトールとのエステル
基油6:脂肪酸Bとペンタエリスリトールとのエステル
基油7:脂肪酸B及びn−デカン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸B/n−デカン酸=85/15)とペンタエリスリトールとのエステル
基油8:脂肪酸B及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸B/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=85/15)とペンタエリスリトールとのエステル
基油9:脂肪酸B及びn−デカン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸B/n−デカン酸=70/30)とペンタエリスリトールとのエステル
基油10:脂肪酸B及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸B/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=70/30)とペンタエリスリトールとのエステル
基油11:2−エチルヘキサン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(混合比:2−エチルヘキサン酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=50/50(モル比))とジペンタエリスリトールとのエステル
基油12:オレイン酸とペンタエリスリトールとのエステル
基油13:ステアリン酸とペンタエリスリトールとのエステル
基油14:脂肪酸A及びn−デカン酸の混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸A/n−デカン酸=40/60)とペンタエリスリトールとのエステル
基油15:脂肪酸A及び3,5,5−トリメチルヘキサンの混合脂肪酸(混合比(質量比):脂肪酸A/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=40/60)とペンタエリスリトールとのエステル
基油16:ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル。
【0073】
次に、実施例1〜10および比較例1〜6の各冷凍機油について、以下に示す評価試験を実施した。
【0074】
(冷媒相溶性)
JIS−K−2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、二酸化炭素冷媒18gに対して冷凍機油を2g配合し、二酸化炭素冷媒と冷凍機油とが0℃において相互に溶解しているかを観察し、「相溶」、「白濁」、「分離」として評価した。得られた結果を表2〜表5に示す。
【0075】
(冷媒溶解粘度)
図1に示す装置は、粘度計1、圧力計2、熱電対3および撹拌子4を備える圧力容器5(ステンレス製、内容積:200ml)と、圧力容器5内の温度を制御するための恒温槽6と、バルブを備えており流路7を介して圧力容器5と接続されたサンプリングボンベ8とを備えている。なお、サンプリングボンベ8と流路7とは脱着可能であり、サンプリングボンベ8は、測定に際し、真空脱気した後、あるいは二酸化炭素冷媒と冷凍機油との混合物を秤取した後でその重量を測定することが可能となっている。また、熱電対3および恒温槽6はそれぞれ温度制御手段(図示せず)と電気的に接続されており、熱電対3から温度制御手段に試料油(または二酸化炭素冷媒と冷凍機油との混合物)の温度に関するデータ信号が送られるとともに、温度制御手段から恒温槽6に制御信号が送られて、冷凍機油または混合物の温度を制御することが可能となっている。さらに、粘度計1は情報処理装置(図示せず)と電気的に接続されており、圧力容器5内の液体の粘度に関する測定データが粘度計1から情報処理装置に送られて、所定の条件下での粘度を測定することが可能となっている。
【0076】
本試験においては、先ず、圧力容器5内に冷凍機油100gを入れて容器内を真空脱気した後、二酸化炭素冷媒を導入し、二酸化炭素冷媒と冷凍機油との混合物を撹拌子4で攪拌しかつ冷媒を抜きながら40℃で5MPaになるよう調整した。安定させた後、二酸化炭素冷媒と冷凍機油との混合物の粘度を測定した。得られた40℃のおける冷媒溶解粘度の測定結果を表2〜表5に示す。
【0077】
(電気絶縁性)
JIS−C−2101「電気絶縁油試験方法」に基づいて、25℃における冷凍機油の体積抵抗率を測定した。得られた結果を表2〜表5に示す。
【0078】
(熱安定性)
オートクレーブ中に、冷凍機油90gと二酸化炭素冷媒10gと触媒(鉄、銅、アルミの各線)を封入した後、200℃に加熱して2週間保持した。2週間後の冷凍機油について全酸価を測定した。得られた結果を表2〜表5に示す。
【0079】
(潤滑性)
ASTM D 2670“FALEXWEAR TEST”に基づいて、冷凍機油の温度100℃の条件下で、慣らし運転を150lb荷重の下に1分間行った。次いで、二酸化炭素冷媒10L/hを吹き込みながら、250lb荷重の下に2時間試験機を運転し、試験後のテストジャーナル(ピン)の摩耗量を測定した。得られた結果を表2〜表5に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
表2〜表5に示した結果から明らかなように、実施例1〜10の冷凍機油は、二酸化炭素冷媒と共に用いた場合に、冷媒相溶性、電気絶縁性、熱安定性、潤滑性、および動粘度の全ての性能がバランスよく優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例において使用した冷媒溶解粘度測定装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・粘度計、2・・・圧力計、3・・・熱電対、4・・・攪拌子、5・・・圧力容器、6・・・恒温槽、7・・・流路、8・・・サンプリングボンベ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのエステルを含有することを特徴とする冷凍機油。
【請求項2】
13C−NMR分析法により得られる、前記脂肪酸の構成炭素に占める3級炭素の割合が2質量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の冷凍機油。
【請求項3】
二酸化炭素冷媒と共に用いられることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の冷凍機油。
【請求項4】
炭素数10〜13の分岐脂肪酸の割合が50モル%以上である脂肪酸と多価アルコールとのエステルと、冷媒とを含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物。
【請求項5】
前記冷媒が二酸化炭素冷媒を含有することを特徴とする、請求項4に記載の冷凍機油。


【図1】
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【公開番号】特開2008−239817(P2008−239817A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82696(P2007−82696)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】