説明

冷凍空調用圧縮機及び冷凍空調装置

【課題】冷凍空調用圧縮機の耐摩耗性を向上するとともに、この圧縮機を用いた冷凍空調装置の高効率化を実現する。
【解決手段】2、3、3、3−テトラフルオロプロペン、1、3、3、3−テトラフルオロプロペン等を含む冷媒に、ポリオールエステル油等の冷凍機油主剤と、添加ポリオールエステル油とを含む冷凍機油を混合して封入した冷凍空調用圧縮機を用いる。添加ポリオールエステル油の組成は1〜30重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプサイクルを用いた冷凍空調用圧縮機及び冷凍空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍空調機器分野における地球環境対策としては、オゾン層破壊物質として冷媒や断熱材に用いられていたCFC(Chlorofluorocarbons)やHCFC(Hydrochlorofluorocarbons)の代替、並びに、地球温暖化対策としての高効率化や冷媒に用いられているHFC(Hydrofluorocarbons)の代替が挙げられ、これらが積極的に進められてきた。
【0003】
オゾン層破壊物質であるCFCやHCFCの代替としては、オゾン層を破壊しないこと、毒性や燃焼性が低いこと、効率を確保できることを主眼として冷媒や断熱材の選定、並びに機器開発が進められた。その結果、冷蔵庫の断熱材においては、CFC11をHCFC141b、シクロペンタンの順に発泡剤を代替していき、現在は、真空断熱材との併用に移行している。
【0004】
冷媒としては、冷蔵庫やカーエアコンにおいてCFC12CをHFC134a(地球温暖化係数GWP(Global Warming Potential)=1430)の順に代替し、ルームエアコンやパッケージエアコンにおいてHCFC22をR410A(HFC32/HFC125(50/50重量%)混合物:GWP=2088)に代替した。
【0005】
しかし、1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、HFC排出量が温室効果ガスとしてCO換算されて規制対象となったため、HFCの削減が進められることとなった。
【0006】
そこで、家庭用冷蔵庫においては、冷媒封入量が少なく、可燃性冷媒も製造上使用可能と判断され、HFC134aを可燃性のR600a(イソブタン:GWP=3)へと代替した。さらに、世論の高まりにより、現在は、カーエアコン用のHFC134aやルームエアコン並びにパッケージエアコン用のR410Aにも目が向けられている。また、業務用冷蔵庫においては、R600aの封入量が多く、可燃性の危惧から、現在でもHFC134aが使用されている。
【0007】
現実には、2001年に施行された家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)や2003年施行の自動車リサイクル法(使用済自動車の再資源化等に関する法律)により機器のリサイクルが義務化され、冷媒として用いられているHFC等が回収され処理されている。しかし、EU(欧州連合)では、2006年指令(Directive 2006/40/EC)において、カーエアコンに用いる冷媒としてGWP>150の冷媒の使用が2011年1月出荷分から禁じられた。これを受けて、カーエアコン業界では様々な動きをみせており、ルームエアコンもR410Aがいずれは規制されるのではないかと言う懸念が生じている。前記EU指令に基づき、2011年に定置型エアコンを含めた規制見直しの可能性もあり、代替冷媒の検討が加速している。
【0008】
これらの代替冷媒としては、HFC134aと同等の熱物性を有し、低GWP、低毒性、低可燃性などの理由から、2、3、3、3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf(Hydrofluoroolefine)(GWP=4)や1、3、3、3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)(GWP=10)の単独もしくはこれらの混合冷媒が候補とされている。2、3、3、3−テトラフルオロプロペンと混合する冷媒としては、ジフルオロメタン(HFC32)が主である。
【0009】
さらに、低燃焼性のために許容されるGWPによっては、HFC134aやHFC125を混合することも考えられる。その他の冷媒としては、プロパン、プロピレンなどのハイドロカーボンやフルオロエタン(HFC161)、ジフルオロエタン(HFC152a)、ジフルオロメタン(HFC32)などの低GWPのハイドロフルオロカーボンが挙げられている。
【0010】
一方、冷凍機油は、密閉型電動圧縮機に使用され、その摺動部の潤滑、密封、冷却等の役割を果たすものである。
【0011】
エアコンにおいては2006年から改正された省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)により、実使用状態に沿った省エネ性能を示す指標としてAPF(Annual Performance Factor)が採用され、圧縮機にも更なる省エネルギー化及び高効率化が必要とされている。このように使用条件が厳しくなることから、信頼性確保の面において潤滑性が良い冷凍機油が要求される。
【0012】
2、3、3、3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)及び1、3、3、3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)の単独冷媒若しくはこれらの冷媒を含む混合冷媒を用いた圧縮機に用いる冷凍機油としては、上記の状況から、ポリアルキレングリコール油、鉱油、ポリαオレフィン油及びアルキルベンゼン油が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0013】
特許文献2には、パラフィン系冷凍機油、ナフテン系冷凍機油及び合成冷凍機油の中の少なくとも一種から成る冷凍機油中に、常圧で沸点が50〜250℃で、かつ、粘度が5センチストークス/40℃以下である留分を含む冷凍機油組成物が開示されている。
【0014】
このほか、特許文献3及び4〜9には、HFO−1234yf、HFO−1225yeZ、トランス−1、3、3、3 −ペンタフルオロプロパン(transHFO−1234ze)、1、1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1、1、1、2、3、3、3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1、1、1、2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1、1、1、2、2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)等を含む共沸混合物様組成物、及び鉱物油(パラフィン油又はナフテン油を含む。)、シリコーン油、ポリアルキルベンゼン、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールエステル、ポリビニルエーテル、ポリ(α−オレフィン)、ハロカーボンオイル等の潤滑剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2009−540170号公報
【特許文献2】特開昭58−93796号公報
【特許文献3】特表2007−532767号公報
【特許文献4】特表2007−538115号公報
【特許文献5】特表2008−504374号公報
【特許文献6】特表2008−505989号公報
【特許文献7】特表2008−506793号公報
【特許文献8】特表2008−524433号公報
【特許文献9】特表2008−239814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
2、3、3、3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)及び1、3、3、3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)は、R410Aと比較して低圧冷媒であるため、冷媒循環量を得るために圧縮機押除の大容量化や高速回転化が必須である。このため、上記の冷凍機油の場合、圧縮機軸受などの摺動部において耐摩耗性に関する課題が残る。
【0017】
また、HFO1234yf、HFO1234ze、プロパン、プロピレン、フルオロエタン等の冷媒は、上記の冷凍機油との溶解性が非常に高く、圧縮機内において冷媒の溶け込みが大きいことから、冷凍機油における冷媒溶解粘度が低下する。このため、圧縮部のシール性の低下、さらには、摺動部の摩耗量の増加という問題が生じる。
【0018】
上述の理由から、冷凍空調装置には、機器の効率向上と耐摩耗性とを両立できる冷凍機油を用いることが好ましい。
【0019】
本発明の目的は、冷媒として2、3、3、3−テトラフルオロプロペン、1、3、3、3−テトラフルオロプロペン等を含む冷媒、又はプロパン、プロピレン等のハイドロカーボン、フルオロエタン(HFC161)、ジフルオロエタン(HFC152a)、ジフルオロメタン(HFC32)、R410A等の冷凍空調用冷媒を用いる冷凍空調用圧縮機の耐摩耗性を向上するとともに、この圧縮機を用いた冷凍空調機器の高効率化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の冷凍空調用圧縮機は、2、3、3、3−テトラフルオロプロペン、1、3、3、3−テトラフルオロプロペン等を含む冷媒に、ポリオールエステル油等の冷凍機油主剤と、添加ポリオールエステル油とを含む冷凍機油を混合して封入したものであり、前記添加ポリオールエステル油の組成が1〜30重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、冷凍機油の添加剤として環境に有害なリン系極圧剤を用いずに圧縮機の性能向上と耐摩耗性とを両立した圧縮機を得ることができる。
【0022】
また、本発明によれば、冷凍機油の添加剤として環境に有害なリン系極圧剤を用いずに冷凍空調装置の性能向上と長期信頼性とを両立できる環境に配慮した冷凍空調装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ルームエアコンを示す概略構成図である。
【図2】ルームエアコン用のスクロール式密閉型圧縮機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る冷凍空調用圧縮機及びこれを用いた冷凍空調装置について説明する。
【0025】
前記冷凍空調用圧縮機は、2、3、3、3−テトラフルオロプロペン、1、3、3、3−テトラフルオロプロペン若しくはジフルオロメタンを含む冷媒又はR410Aである封入冷媒に、下記化学式(1)及び(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含む冷凍機油主剤と、下記化学式(3)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を混合して封入したものである。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
前記冷凍空調用圧縮機は、2、3、3、3−テトラフルオロプロペン、1、3、3、3−テトラフルオロプロペン、プロパン、プロピレン若しくはフルオロエタンを含む冷媒である封入冷媒に、鉱油若しくはポリビニルエーテル油又は上記化学式(1)及び(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含み低温側臨界溶解温度が−30℃以下である冷凍機油主剤と、上記化学式(3)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を混合して封入したものである。そして、添加ポリオールエステル油の組成は1〜30重量%である。
【0030】
前記冷凍空調用圧縮機においては、冷凍機油主剤の40℃における動粘度が25〜120mm/sの範囲であり、添加ポリオールエステル油の40℃における動粘度が180mm/s以上であることが望ましい。
【0031】
前記冷凍空調装置は、前記冷凍空調用圧縮機と、前記冷凍空調用圧縮機から吐出された封入冷媒の熱を放熱するための熱交換器と、熱交換器から流出する封入冷媒を減圧するための減圧部と、減圧部にて減圧された封入冷媒を加熱するための熱交換器とを備えている。
【0032】
前記冷凍空調装置においては、冷凍機油主剤の40℃における動粘度は、25〜120mm/sであり、添加ポリオールエステル油の鉄系材料に対する吸着能力は、冷凍機油主剤に比べて2倍以上高いことが望ましい。
【0033】
前記冷凍空調用圧縮機は、地球温暖化係数が1000以下である冷媒、又はR410Aである冷凍空調用冷媒に、上記化学式(1)及び(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含み40℃における動粘度が25〜120mm/sである冷凍機油主剤と、上記化学式(3)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を混合して封入したものである。
【0034】
添加ポリオールエステル油の組成は、1〜30重量%であることが望ましい。
【0035】
前記冷凍空調用圧縮機は、モータが内蔵されたスクロール式もしくはロータリー式密閉型圧縮機、このほか、ツインロータリー式圧縮機、2段圧縮ロータリー式圧縮機、及びローラ及びベーンが一体化されたスイング式圧縮機であり、冷凍機油主剤の40℃における動粘度が25mm/sから120mm/s以下であり、添加ポリオールエステル油の40℃における動粘度が180mm/s以上であることが望ましい。
【0036】
前記冷凍空調用圧縮機は、鉄系材料で形成された摺動部を含み、摺動部における接触面圧が10MPa以上である。
【0037】
前記冷凍空調用圧縮機において、添加ポリオールエステル油は、鉄系材料に対する吸着能力が冷凍機油主剤より2倍以上高い。さらに、添加ポリオールエステル油の鉄系材料に対する吸着能力は、2倍以上が望ましく、4倍以上が更に望ましい。
【0038】
前記冷凍空調装置は、上記のスクロール式もしくはロータリー式圧縮機を用いるものである。
【0039】
以下、実施例を用いて詳細に説明する。
【0040】
実施例は、冷媒として2、3、3、3−テトラフルオロプロペン若しくは1、3、3、3−テトラフルオロプロペン又はこれらを含む混合冷媒、又はプロパン、プロピレン、フルオロエタン、ジフルオロメタン若しくはR410Aを用いた圧縮機及びこの圧縮機を用いた冷凍空調装置について開示するものである。
【0041】
本明細書において、冷凍空調用冷媒は、2、3、3、3−テトラフルオロプロペン若しくは1、3、3、3−テトラフルオロプロペン又はこれらを含む混合冷媒、又はプロパン、プロピレン、フルオロエタン、ジフルオロメタン等のGWPが1000以下である冷媒、及びR410Aを含む。
【0042】
実施例の冷凍機油は、鉄系材料に対する吸着能力が基油よりも極めて高い添加ポリオールエステル油を含む。
【0043】
添加ポリオールエステル油と比較して吸着能力が低い基油としては、鉱油、ポリビニルエーテル油、及び分子構造中にエステル基を有するポリオールエステル油が挙げられる。
【0044】
鉱油としては、ナフテン系鉱油及びパラフィン系鉱油を用いることができる。これらの鉱油としては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油若しくはナフテン基系原油を常圧蒸留する、又は常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、精製後に更に深脱ロウ処理することによって得られる深脱ろう油、水素化処理によって得られる水素化処理油などが挙げられる。その際の精製法に特に制限はなく、様々な方法が使用される。
【0045】
ポリオールエステル油は、多価アルコールと一価の脂肪酸との縮合反応により得られる。
【0046】
ポリオールエステル油としては、熱安定性に優れるヒンダードタイプが好ましく、多価アルコールとして好ましいものは、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等である。
【0047】
一価の脂肪酸としては、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、3、5、5−トリメチルヘキサン酸等があり、これらを単独又は2種類以上を混合して用いる。
【0048】
鉄系材料に吸着能力が高い添加ポリオールエステル油としては、分子構造中にエステル基を多く含むポリオールエステル油が望ましく、多価アルコールと一価の脂肪酸とから合成されるヒンダードタイプであるジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0049】
一価の脂肪酸としては、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、3、5、5−トリメチルヘキサン酸等があり、これらを単独又は2種類以上を混合して用いる。
【0050】
実施例の空調装置及び冷凍機に用いる冷凍機油の粘度グレードは、圧縮機の種類により異なるが、スクロール式圧縮機では、40℃における動粘度が46〜120mm/sの範囲が好ましい。また、ロータリー式圧縮機では、40℃における動粘度が25〜70mm/sの範囲が好ましい。
【0051】
電気絶縁の耐熱クラスは、電気絶縁の耐熱クラスおよび耐熱性評価JEC−6147(電気学会電気規格調査標準規格)で規定されており、冷凍空調機用圧縮機に採用されている絶縁材料も前記規格の耐熱種により選定される。しかし、冷凍空調機器用の有機絶縁材料の場合、冷媒雰囲気中という特殊な環境で使用されるため、温度以外にも圧力による変形・変性を抑制することを考慮する必要がある。また、冷媒や冷凍機油といった有極性化合物にも接触するため、耐溶剤性、耐抽出性、熱的・化学的・機械的安定性、耐冷媒性(クレージング(皮膜にストレスを与えた後、冷媒に浸漬すると発生する微細な蛇腹状クラック)、ブリスタ(皮膜に吸収された冷媒が、温度上昇によって引き起こされる皮膜の気泡))等も考慮しなくてはいけない。
【0052】
このため、高い耐熱クラス(E種120℃以上)の絶縁材料を使用する必要がある。
【0053】
圧縮機内で最も多く使用される絶縁材料は、PET(ポリエチレンテレフタレート)である。用途としては、分布巻モータの鉄心とのコイル絶縁にフィルム材が用いられ、コイルの縛り糸、モータの口出し線の被覆材に繊維状のPETが使用されている。
【0054】
これ以外の絶縁フィルムとしては、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PI(ポリイミド)、PA(ポリアミド)などが挙げられる。
【0055】
また、コイルの主絶縁被覆材料には、THEIC変性ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステルアミドイミド等が使用され、ポリエステルイミド−アミドイミドのダブルコートを施した二重被覆銅線が好ましく使用される。
【0056】
上記の冷凍機油に潤滑性向上剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、金属不活性剤等を添加しても全く問題はない。特に、ポリオールエステル油は、水分共存下で加水分解に起因する劣化が生じるため、酸化防止剤及び酸捕捉剤の配合は必須である。
【0057】
酸化防止剤としては、フェノール系であるDBPC(2、6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)が好ましい。
【0058】
酸捕捉剤としては、一般に、エポキシ環を有する化合物として脂肪族のエポキシ系化合物やカルボジイミド系化合物が使用される。特に、カルボジイミド系化合物は、脂肪酸との反応性が極めて高く、脂肪酸から解離した水素イオンを捕捉することから、ポリオールエステル油の加水分解反応が抑制される効果が非常に大きい。
【0059】
カルボジイミド系化合物としては、ビス(2、6−イソプロピルフェニル)カルボジイミドが挙げられる。酸捕捉剤の配合量は、冷凍機油に対して0.05〜1.0重量%とすることが好ましい。
【0060】
なお、一般に、圧縮機に用いる冷媒に極圧剤を混合する場合がある。極圧剤としては、従来、トリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート等の第三級フォスフェートが用いられている。
【0061】
本発明の冷凍空調用圧縮機においては、上記の冷媒及び冷凍機油を用いることにより、耐摩耗性を向上することができるため、極圧剤を用いる必要がない。
【0062】
(実施例1〜12)
(冷凍機油成分)
冷凍空調用圧縮機の高効率化には、冷媒と冷凍機油とが溶解した状態における溶解粘度(以下、単に「溶解粘度」という。)が重要な因子となる。
【0063】
低温において液液二層分離を起こし始める低温側臨界溶解温度が−30℃以下の冷媒と冷凍機油とを組み合わせた場合、圧縮機運転条件により冷凍機油に対して冷媒が多く溶け込むため、溶解粘度が大幅に低下する。圧縮機内の溶解粘度が低いと、圧縮部シール性が低下するのみならず、圧縮機摺動部における油膜強度が低下してしまうため、摩耗が進行し、冷凍空調装置の信頼性も低下してしまう。このため、冷凍機油成分の摺動部に対する吸着性が重要なパラメータとなる。
【0064】
摺動部は、鉄系材料で構成されている部位が多く、その表面には酸化鉄が形成されている。
【0065】
本明細書における冷凍機油の鉄系材料への吸着能力は、実質的に冷凍機油の酸化鉄への吸着能力と考える。
【0066】
この考え方に基づいて、本実施例においては、平均粒径1μmのFe(四三酸化鉄)の粉末(比表面積1.57m/g)を用いて冷凍機油の吸着能力の評価を行った。
【0067】
溶媒に希釈した冷凍機油成分の吸着前後の濃度を核磁気共鳴分析(NMR)により定量し、酸化鉄粉に吸着した量を算出した。溶媒にはヘキサンを用い、各冷凍機油成分が0.3mol−ppmとなるように調整した。20mlスクリュー管に酸化鉄粉を3g採取後、冷凍機油成分の溶液を10g入れ、超音波洗浄器において30分間分散させて48時間放置後の上澄み液の1H−NMR分析を行った。
【0068】
ここで、mol−ppmは、モル基準のppm(parts per million)である。すなわち、溶液(溶媒及び溶質の混合物)のモル数を分母とし、溶質のモル数を分子として算出した百万分率である。
【0069】
冷凍機油成分として用いた基油は、下記の通りである。ここで、40℃動粘度は、40℃における動粘度を意味する。
【0070】
(A)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ペンタエリスリトール系の2−メチルヘキサン酸/2−エチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃動粘度31.8mm/s
(B)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ネオペンチルグリコール/ペンタエリスリトール系の2−エチルヘキサン酸/3、5、5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃動粘度46.9mm/s
(C)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ネオペンチルグリコール/ペンタエリスリトール系の2−エチルヘキサン酸/3、5、5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃動粘度64.8mm/s
(D)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ペンタエリスリトール系の2−エチルヘキサン酸/3、5、5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃動粘度91.3mm/s
(E)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ジペンタエリスリトール系の2−エチルヘキサン酸/3、5、5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃動粘度190mm/s
(F)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ジペンタエリスリトール系の2−エチルヘキサン酸/3、5、5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃動粘度217mm/s
(G)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ジペンタエリスリトール系の3、5、5−トリメチルヘキサン酸エステル油):40℃動粘度417mm/s
(H)ポリビニルエーテル油(PVE):40℃動粘度50.1mm/s
(I)ポリビニルエーテル油(PVE):40℃動粘度65mm/s
(J)ポリアルキレングリコール油(PAG)(ポリプロピレングリコールジメチルエーテル):40℃動粘度112mm/s
(K)ナフテン系鉱油:40℃動粘度54.1mm/s
(L)ポリαオレフィン油:40℃動粘度61.8mm/s
酸化鉄粉に対する化合物の吸着量を測定した結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
各化合物により酸化鉄粉に対する吸着量(吸着能力)が異なっており、有極性化合物の方が鉄系材料に吸着し易いことがわかる。
【0073】
有極性化合物においても、分子構造中にエステル基が多く存在する化合物(E)、(F)及び(G)が特に吸着量が多いことがわかる。すなわち、(E)、(F)及び(G)は、鉄系材料(酸化鉄)に対する吸着能力が他の冷凍機油成分(A)〜(D)及び(H)〜(L)に比べて2.0倍以上高いことがわかる。
【0074】
このことから、冷凍機油成分(E)、(F)及び(G)は、圧縮機摺動部において膜を形成しやすいことが考えられる。
【0075】
これは、次の理由によると考えられる。
【0076】
エステル基に含まれるカルボニル(C=O)の酸素は、負に帯電する傾向がある。これに対して、酸化鉄の表面は、一般に、水和され、水酸基を有する構造となっている。このため、酸化鉄の表面の水酸基に含まれる水素とエステル基に含まれる酸素との間にクーロン力による引力が生じ、吸着しやすくなると考えられる。
【0077】
この結果から、(E)、(F)及び(G)を本発明における添加ポリオールエステル油として用いることとした。
【0078】
(実施例13〜25)
冷凍空調用圧縮機には、冷媒と冷凍機油とが封入される。
【0079】
冷媒と冷凍機油との相溶性は、冷凍サイクルから圧縮機への油戻り(圧縮機内部の油量を確保)あるいは熱交換効率の低下等、圧縮機の信頼性を保証する面で重要な特性の一つである。しかし、冷媒が存在するため、冷凍機油に対する冷媒の溶け込み量によって混合液の溶解粘度は大幅に変化し、溶け込み量が多いと、油の粘度低下が著しくなり、摺動部では十分な油膜強度が得られず、さらに、圧縮部のシール材としての機能が損なわれてしまう。
【0080】
冷媒と冷凍機油との相溶性の評価は、JIS K 2211に準じて測定した。
【0081】
耐圧ガラス容器に任意の油濃度において冷媒を封入し、温度を変化させて内容物の観察を行った。このとき、内容物が白濁していれば二層分離、透明であれば溶解と判定した。この二層に分離する温度の油濃度依存性は、一般に、極大値を有する曲線となる。この極大値を低温側臨界溶解温度とした。低温側臨界溶解温度は、冷媒と冷凍機油との相溶性の度合いを示すパラメータである。
【0082】
各冷媒と相溶する冷凍機油を選定し、低温側臨界溶解温度を測定した結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
冷媒と冷凍機油との相溶性の度合いにより、低温側臨界溶解温度が大きく異なっている。特に、冷媒としてHFO1234yf、プロパン、プロピレン又はフルオロエタンを用いた場合、冷凍機油に対する溶解性が非常に高く、圧縮機の運転条件において大幅な粘度低下を引き起こす。通常、冷凍機油の粘度グレードを上げて対応するが、冷凍空調用圧縮機の運転条件では、温度及び圧力により冷媒溶解量が大きくなり、実際には粘度があまり増加しない。
【0085】
(実施例26〜31、比較例1〜6)
シェル式四球摩擦摩耗試験機を用い、冷凍機油の潤滑性を評価した。
【0086】
1/2インチSUJ2鋼球を試験片とし、荷重:280N、温度:120℃、回転速度:1200/min、時間:10minで試験した後の固定試験片の摩耗痕径(3個平均)及び摩擦係数を測定した。
【0087】
冷凍機油主剤としては、ポリオールエステル油(A)〜(D)、ポリビニルエーテル油(I)及びナフテン系鉱油(K)を用い、そこに添加ポリオールエステル油(F)を5.0wt%配合したものを評価した。
【0088】
比較例としては、ポリオールエステル油(A)〜(D)をそれぞれ単独の場合、ポリビニルエーテル油(I)単独の場合及びナフテン系鉱油(K)単独の場合について評価した。
【0089】
各冷凍機油の潤滑性を評価した結果を表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
この結果から、添加ポリオールエステル油(F)を配合していない比較例1〜4の冷凍機油は、摩耗痕径が大きく、摩擦係数が高い。比較例5及び6の場合、試験開始直後に焼付きを発生したため試験を中断した。
【0092】
これに対して、実施例26〜31で示す添加ポリオールエステル油(F)を配合した冷凍機油は、冷凍機油主剤の油種に関係なく、摩耗痕径及び摩擦係数が抑制されており、潤滑性の向上効果が得られた。これは、添加ポリオールエステル油(F)の鉄系材料に対する吸着能力が冷凍機油主剤よりも大きいことから、摩擦面が低表面エネルギー化され、耐摩耗性と摩擦係数の低減効果が得られたことによる。冷凍機油主剤がポリビニルエーテル油(I)及びナフテン系鉱油(K)においても焼付きを発生することはなかった。特に、冷凍機油主剤が表1で示したように添加ポリオールエステル油(F)と比べて吸着量が少ないポリビニルエーテル油(I)やナフテン系鉱油(K)である場合、添加ポリオールエステル油(F)が摩擦面に吸着しやすくなるため、潤滑性向上の効果が得られやすい。
【0093】
(実施例32〜37、比較例7〜8)
添加ポリオールエステル油(E)及び(G)の効果を確認するため、シェル式四球摩擦摩耗試験機を用いて、添加ポリオールエステル油の種類及び添加量を変えて実施例26と同様な試験を実施した。
【0094】
各冷凍機油の潤滑性を評価した結果を表4に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
本表に示す実施例32〜37の冷凍機油は、冷凍機油主剤として(C)を用い、添加剤を加えない比較例3(表3に示す。)の冷凍機油と比べて摩耗痕径及び摩擦係数が抑制されており、潤滑性の向上効果が確認できた。
【0097】
また、添加ポリオールエステル油(F)の添加量が少ない比較例7及び8の場合では、摩耗痕径が大きく、摩擦係数が高くなり、潤滑性の向上効果が発現しにくい。これに対して、実施例32〜35で示す添加ポリオールエステル油(F)を冷凍機油主剤に対して1.0重量%以上配合した冷凍機油は、摩耗痕径及び摩擦係数が抑制されており、潤滑性の向上効果が得られた。
【0098】
(実施例38、39、比較例9、10)
図1は、本実施例で用いた冷暖房兼用のルームエアコンの概略を示したものである。
【0099】
室内を冷房する場合、圧縮機1の吐出パイプより断熱的に圧縮された高温高圧の冷媒ガス(封入冷媒)は、四方弁2を通って室外熱交換器3(凝縮手段として使用される)で冷却され、高圧の液冷媒となる。この冷媒は、膨張手段4(例えば、キャピラリーチューブや温度式膨張弁などである。減圧部とも呼ぶ。)で膨張され、僅かにガスを含む低温低圧液となって室内熱交換器5(蒸発手段として使用される。)に至り、室内の空気から熱を得て低温ガスの状態で再び四方弁2を通って圧縮機1に至る。室内を暖房する場合は、四方弁2によって冷媒の流れが逆方向に変えられ、逆作用となる。
【0100】
本実施例においては、圧縮機としてスクロール式圧縮機を用いた。
【0101】
図2は、その概略構造を示したものである。
【0102】
圧縮機は、固定スクロール部材6の端板7に直立する渦巻状のラップ8と、この固定スクロール部材6と実質的に同一形状のラップ10を有する旋回スクロール部材9とをお互いにラップ8とラップ10とを向い合わせにして噛み合わせて圧縮機構部を形成し、旋回スクロール部材9をクランクシャフト11によって旋回運動させる。固定スクロール部材6及び旋回スクロール部材9によって形成される圧縮室12a、12bのうち、最も外側に位置している圧縮室は、旋回運動にともなって容積が次第に縮小しながら、固定スクロール部材6と旋回スクロール部材9とで構成された中心部に向かって移動していく。圧縮室12a、12bが固定スクロール部材6と旋回スクロール部材9とで構成された中心部近傍に達したとき、圧縮室12a、12bが吐出口13と連通し、圧縮室12a、12bの内部の圧縮ガスが吐出パイプ16から圧縮機外に吐出される。
【0103】
本実施例の圧縮機においては、圧力容器15内に電動モータ17が内蔵されており、圧縮機は、一定速あるいは図示していないインバータによって制御された電圧に応じた回転速度でクランクシャフト11が回転し、圧縮動作を行う。また、モータ17の下方には油溜め部20が設けられており、油溜め部20の油は、圧力差によってクランクシャフト11に設けられた油孔19を通り、旋回スクロール部材9とクランクシャフト11との摺動部、滑り軸受け18等の潤滑に供される。
【0104】
実施例38、39、比較例9、10においては、図1に示すルームエアコンを用いて、室内機を恒温室(35℃、湿度75%)に設置して2160時間運転する実機試験を行った。
【0105】
モータ17の鉄心とのコイル絶縁には、耐熱PETフィルム(B種130℃)を用い、コイル主絶縁には、ポリエステルイミド−アミドイミドのダブルコートを施した二重被覆銅線を用いた。
【0106】
ルームエアコンの評価には、スクロール式圧縮機の摩耗状態に着眼し、試験前後でのフレーム14〜クランクシャフト11間(フレーム14とクランクシャフト11との間)の摩耗による隙間増加量を測定した。フレーム14〜クランクシャフト11間(以下、フレーム〜シャフト間ともいう。)の隙間増加量が増えるほど摩耗量が大きいことを示しており、一般に、隙間増加量が増えるに伴って振動や騒音が大きくなる。
【0107】
HFO1234yf(2、3、3、3−テトラフルオロプロペン)を単独で冷媒として用いた。HFO1234yfは、低圧冷媒であり、冷媒循環量が少ないため配管内での圧損が大きくなる。このため、圧縮機押除量を通常の2倍とし、接続配管の広径化、熱交換器のパス数増加と分配バランスの調整を行った仕様で評価した。
【0108】
HFO1234yf及びHFO1234ze並びにこれらを含む混合冷媒を用いた冷凍空調サイクルにおいては、冷媒と冷凍機油との相溶性が圧縮機への油戻り量を確保するための重要な特性となる。冷凍空調サイクルでは、冷媒と同様に冷凍機油も循環することが必要である。相溶性が劣ると、圧縮機から機械的要素により吐出された冷凍機油が循環せず、特に低温部で分離した油が滞留するため、圧縮機の油量が少なくなり、摺動部の潤滑油支障をきたす。このため、サイクル中での運転条件温度範囲で冷媒と冷凍機油とが溶解していることが好ましい。
【0109】
HFO1234yfに対して、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、アルキルベンゼン油、ポリαオレフィン油などの炭化水素油は相溶しにくいため、ポリオールエステル油又はポリビニルエーテル油が好ましい。
【0110】
実施例38においては、HFO1234yfと相溶性を有する実施例28で採用した冷凍機油((C)+(F))を用いて評価を行った。また、実施例39においては、実施例30で採用した冷凍機油((I)+(F))を用いて評価を行った。
【0111】
冷凍機油主剤として(C)または(I)を用い、これらに対して吸着能力が高い(F)を5重量%配合して、40℃における動粘度を68.6mm/sまたは68.9mm/sとした冷凍機油で試験を実施した。
【0112】
比較例9及び10においては、実施例38及び39で添加ポリオールエステル油が配合されていない冷凍機油主剤のみで実施した。
【0113】
本試験の目標値は、試験後のフレーム〜シャフト間の摩耗による隙間増加量が10μm以下である。
【0114】
実施例38、39及び比較例9、10の結果を表5に示す。
【0115】
【表5】

【0116】
表5から明らかなように、実施例38及び39のルームエアコンは、比較例9及び10と比べて、フレーム〜シャフト間の隙間増加量が大幅に低減でき、摩耗を抑制することから、ルームエアコンにおいて高い信頼性が得られる。
【0117】
また、表5には、冷媒と冷凍機油との組み合わせに関して、冷房中間条件における粘度及び効率の測定結果も示してある。
【0118】
粘度の測定は、ジャパンコントロール社のピストン式粘度計を用いた。
【0119】
また、効率は、成績係数(COP:Coefficient of Performance)を用いて、比較例9を基準(100)として比率で表記した。
【0120】
この結果より、比較例9及び10においては、粘度の低下が発生しており、圧縮部において十分なシール性が得られない。これに対して、実施例38及び39においては、粘度が増加している。
【0121】
さらに、表3の実施例28及び30で示したように、添加ポリオールエステル油による摩擦抑制効果が発現したため、比較例9(基準1)と比べて成績係数が向上した。
【0122】
以上の実施例の結果から、圧縮機の摩耗を抑制し、長期絶縁信頼性が十分に確保できる冷凍空調装置が得られることがわかった。
【0123】
また、図示はしていないが、冷媒にHFO1234yf及びHFC32(20重量%及び40重量%)の混合冷媒と実施例28で採用した冷凍機油((C)+(F))との組み合わせにおいて同様な実機試験で評価を行ったが、実施例38及び39とほぼ同様な結果が得られ、混合冷媒を用いても効果が得られ、問題がないことを確認した。
【0124】
(実施例40〜42、比較例11〜13)
実施例40〜42においては、冷媒にプロパン及びR410Aと用い、それぞれの冷媒に合う冷凍サイクルを組んで実施例38と同様な実機試験で評価を行った。
【0125】
実施例40においては、冷媒としてプロパンを、冷凍機油主剤として(C)を、添加ポリオールエステル油として(F)を5.0重量%配合した冷凍機油をそれぞれ用いた。
【0126】
実施例41においては、冷媒としてプロパンを、冷凍機油主剤として(K)を、添加ポリオールエステル油として(F)を5.0重量%配合した冷凍機油をそれぞれ用いた。
【0127】
実施例42においては、冷媒としてR410Aを、冷凍機油主剤として(C)を、添加ポリオールエステル油として(F)を5.0重量%配合した冷凍機油をそれぞれ用いた。
【0128】
比較例40〜42においては、添加ポリオールエステル油が配合されていない冷凍機油をそれぞれ評価した。
【0129】
評価結果は、表5に示す。
【0130】
プロパンは、表2の相溶性の評価結果で示すように、ポリオールエステル油、鉱油などと溶解性が高いため、圧縮機内で大幅な粘度低下を起こす。さらに、分子構造中にハロゲン元素を含まないため、摩擦が生じる部位における潤滑性に寄与するハロゲン化鉄を生成しないため、比較例11及び12で示すように、フレーム〜シャフト間の摩耗による隙間増加量が大幅に増加してしまう。
【0131】
これに対して、実施例40及び41で示すように、冷凍機油主剤に添加ポリオールエステル油(F)を配合した組み合わせについては、フレーム〜シャフト間の摩耗による隙間増加量が大幅に低減され、摩擦を緩和したことにより、比較例11(基準2)と比べて成績係数が向上した。
【0132】
また、冷媒にR410Aを用いた実施例42においては、比較例13(基準3)と比べてフレーム〜シャフト間の摩耗による隙間増加量が抑制され、成績係数も向上した。
【0133】
このことから、冷媒の種類によらず、ジフルオロメタン、フルオロエタン、プロピレンなどの冷媒でも同様な効果が得られる。
【0134】
このほか、ロータリー式圧縮機、ツインロータリー式圧縮機、2段圧縮ロータリー式圧縮機、及びローラ及びベーンが一体化されたスイング式圧縮機においても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、冷凍空調装置用冷媒圧縮機及び冷凍空調装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0136】
1:圧縮機、2:四方弁、3:室外熱交換器、4:膨張手段、5:室内熱交換器、6:固定スクロール部材、7:端板、8:ラップ、9:旋回スクロール部材、10:ラップ、11:クランクシャフト、12a、12b:圧縮室、13:吐出口、14:フレーム、15:圧力容器、16:吐出パイプ、17:電動モータ、18:滑り軸受け、19:油孔、20:油溜め部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2、3、3、3−テトラフルオロプロペン、1、3、3、3−テトラフルオロプロペン若しくはジフルオロメタンを含む冷媒又はR410Aである封入冷媒に、下記化学式(1)及び(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含む冷凍機油主剤と、下記化学式(3)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を混合して封入した冷凍空調用圧縮機であって、前記添加ポリオールエステル油の組成が1〜30重量%であることを特徴とする冷凍空調用圧縮機。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
2、3、3、3−テトラフルオロプロペン、1、3、3、3−テトラフルオロプロペン、プロパン、プロピレン若しくはフルオロエタンを含む冷媒である封入冷媒に、鉱油若しくはポリビニルエーテル油又は下記化学式(1)及び(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含み低温側臨界溶解温度が−30℃以下である冷凍機油主剤と、下記化学式(3)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を混合して封入した冷凍空調用圧縮機であって、前記添加ポリオールエステル油の組成が1〜30重量%であることを特徴とする冷凍空調用圧縮機。
【化4】

【化5】

【化6】

【請求項3】
前記冷凍機油主剤の40℃における動粘度が25〜120mm/sの範囲であり、前記添加ポリオールエステル油の40℃における動粘度が180mm/s以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の冷凍空調用圧縮機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷凍空調用圧縮機と、前記冷凍空調用圧縮機から吐出された前記封入冷媒の熱を放熱するための熱交換器と、前記熱交換器から流出する前記封入冷媒を減圧するための減圧部と、前記減圧部にて減圧された前記封入冷媒を加熱するための熱交換器とを備えたことを特徴とする冷凍空調装置。
【請求項5】
前記冷凍機油主剤の40℃における動粘度は、25〜120mm/sであり、前記添加ポリオールエステル油の鉄系材料に対する吸着能力は、前記冷凍機油主剤に比べて2倍以上高いことを特徴とする請求項4記載の冷凍空調装置。
【請求項6】
地球温暖化係数が1000以下である冷媒、又はR410Aである冷凍空調用冷媒に、下記化学式(1)及び(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含み40℃における動粘度が25〜120mm/sである冷凍機油主剤と、下記化学式(3)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を混合して封入した冷凍空調用圧縮機であって、前記添加ポリオールエステル油の組成が1〜30重量%であることを特徴とする冷凍空調用圧縮機。
【化7】

【化8】

【化9】

【請求項7】
請求項6記載の冷凍空調用圧縮機と、前記冷凍空調用圧縮機から吐出された前記冷凍空調用冷媒の熱を放熱するための熱交換器と、前記熱交換器から流出する前記冷凍空調用冷媒を減圧するための減圧部と、前記減圧部にて減圧された前記冷凍空調用冷媒を加熱するための熱交換器とを備えたことを特徴とする冷凍空調装置。
【請求項8】
前記冷凍機油主剤の40℃における動粘度は、25〜120mm/sであり、前記添加ポリオールエステル油の鉄系材料に対する吸着能力は、前記冷凍機油主剤に比べて2倍以上高いことを特徴とする請求項7記載の冷凍空調装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31239(P2012−31239A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169889(P2010−169889)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】