説明

冷凍空調装置

【課題】塩化物を確実に回収し、かつ、回収運転により空調能力低下の時間を短くできる冷凍空調装置が要求されている。
【解決手段】この冷凍空調装置は、吐出容量可変の圧縮機1を含む冷媒回路Rと、油分離器2を含む油戻し回路16と、塩化物回収手段12を含む塩化物回収回路17とを有するとともに既設冷媒回路の一部分C1,C2を転用した装置であって、圧縮機1の吐出容量取得手段30と、吐出容量取得手段30により得られた圧縮機1の吐出容量が所定吐出容量を超えていた超過容量時間を積算する時間積算手段31と、装置据付後の最初の冷房運転開始時または暖房運転開始時に塩化物回収回路17の開閉弁10を開き、積算された超過容量時間が所定の塩化物回収時間を経過したときに開閉弁10を閉じて通常の冷房運転または暖房運転に移行させる第1開閉弁制御手段32とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷媒として塩素を含む弗化炭素水素系冷媒(例えば冷媒R22など)を使用していた冷凍空調装置の一部分を再利用した、塩素を含まない弗化炭素水素系冷媒(例えば冷媒R410A、R407など)を使用する冷凍空調装置に係り、詳しくは塩化物回収手段を備えた冷凍空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷媒として塩素を含む弗化炭素水素系冷媒を使用していた冷凍空調装置の一部分をそのまま再利用して、塩素を含まない弗化炭素水素系冷媒を使用する冷凍空調装置を構築する技術が知られている。一般の冷凍空調装置では、圧縮機で許容される冷凍機油中の塩化物濃度が圧縮機設計仕様として決められているが、既設の冷媒配管を流用する場合、圧縮機の高温部にて化学反応によりコンタミネーションと称される異物(例えば塩化鉄)の生成要因となる冷媒由来の塩化物が冷媒配管内面に付着して残存している。そこで、このような塩化物を回収する手段を備えているものが、例えば下記の特許文献1に開示されている。この特許文献1記載の冷凍空調装置は、装置据付直後における空調運転開始時に冷媒回路の電子膨張弁を閉じ塩化物回収回路の開閉弁を開いて、既設冷媒配管中に含まれている塩化物を回収する運転を行ない、冷凍空調装置の運転モードに関係なく専用スイッチの入力を必要とせずに、装置据付後に自動的に塩化物回収運転を実施する。そして、予め入力された所定の時間が経過した後に開閉弁を閉じるとともに電子膨張弁を開いて通常の冷媒回路にて空調運転の制御を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005―156078号公報(段落[0031]〜[0038]、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1記載の冷凍空調装置は、装置据付直後の冷房運転開始時または暖房運転開始時に、塩化物回収回路の開閉弁を開いて塩化物回収手段により冷凍機油中の塩化物を回収する運転を行い、所定時間経過後に開閉弁を閉じて通常の冷房運転または暖房運転に移行させるように制御しているが、インバータ駆動式の圧縮機を用いた冷凍空調装置のように設置場所の空気条件により圧縮機の回転数が自在に変化する場合、空気条件によっては圧縮機の回転数を低く保持した状態で運転されることがある。このような場合、圧縮機の回転数が低いことから、塩化物回収回路を流れる冷凍機油の量が減り、冷凍機油の塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度以下になる以前に、所定の時間が経過して塩化物回収運転を終了してしまい、これにより圧縮機許容塩化物濃度以上のままで通常空調運転を行なって圧縮機に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0005】
逆に、設置場所の空気条件によっては圧縮機の回転数を高く保持した状態で運転されることがある。このような場合、圧縮機の回転数が高いことから塩化物回収回路に流れる冷凍機油の量が増え、冷凍機油の塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度以下になったにも拘わらず、予め適当に設定された所定の時間が経過するまで塩化物回収運転を無用に継続することになる。しかしながら、塩化物回収運転中は、冷凍機油のみならず冷媒も塩化物回収回路に流れることから、通常の冷房運転または暖房運転と比べて、油分離器から圧縮機の吸入側配管に戻される冷媒が多くなる。通常運転時よりも冷媒が油分離器から圧縮機の吸入側配管に多く流れるということは、室外熱交換器および室内熱交換器に流れる冷媒量が減ることを意味している。つまり、塩化物回収運転中は、通常の冷房運転または暖房運転中と比べて、冷凍空調装置の能力が低下するという問題が生じる。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、塩素を含む弗化炭素水素系冷媒を使用していた既設冷媒回路の一部分を転用した装置の据付後最初の運転開始時に、冷凍機油中の塩化物濃度を圧縮機が許容する塩化物濃度以下にするまで確実に塩化物を回収でき、且つ、冷凍空調能力の低下する時間を短くすることのできる冷凍空調装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明に係る冷凍空調装置は、冷凍空調装置は、吐出容量可変の圧縮機、油分離器、四方切替弁、熱源側熱交換器、膨張弁、利用側熱交換器、アキュムレータを順次接続して成る冷媒回路と、冷媒回路の油分離器の油収集部と圧縮機の吸入側配管とを接続するとともに第1絞り器を備える油戻し回路と、油戻し回路と並列に冷媒回路の油分離器の油収集部と圧縮機の吸入側配管とを接続するとともに開閉弁、第2絞り器、および塩化物回収手段を備える塩化物回収回路とを有し、冷媒回路の一部分として、塩素を含む弗化炭素水素系冷媒を使用していた既設冷媒回路の一部分を転用した冷凍空調装置において、圧縮機の冷媒の吐出容量を得る吐出容量取得手段と、吐出容量取得手段により得られた圧縮機の吐出容量が、予め入力されていて冷媒回路中の冷凍機油が滞留して圧縮機に戻らなくなるときの所定吐出容量を超えていた超過容量時間を積算する時間積算手段と、装置据付後の最初の冷房運転開始時または暖房運転開始時に塩化物回収回路の開閉弁を開き、時間積算手段により積算された超過容量時間が、予め入力されていて、圧縮機を所定吐出容量で駆動した場合に冷凍機油の塩化物濃度が予め入力されている圧縮機許容塩化物濃度以下になる塩化物回収時間を経過したときに開閉弁を閉じて通常の冷房運転または暖房運転に移行させる第1開閉弁制御手段と、を備えているものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明の冷凍空調装置は、塩素を含む弗化炭素水素系冷媒を使用していた既設冷媒回路の一部分を転用した装置であるが、装置据付後最初の運転開始時に塩化物回収回路の開閉弁を開いて塩化物回収運転を行なう。そして、冷媒回路内で冷凍機油が滞留して圧縮機に戻らなくなるときの所定吐出容量を超えていた超過容量時間を積算し、積算した超過容量時間が、圧縮機を所定吐出容量で駆動した場合に冷凍機油の塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度以下になるような塩化物回収時間を経過したときに、塩化物回収回路の開閉弁を閉じて通常の冷房運転または暖房運転に移行させるので、冷凍機油の塩化物濃度を圧縮機許容塩化物濃度以下にするまで確実に塩化物を回収できるという効果を有する。更に、塩化物回収時間は、上記したように冷媒回路内で冷凍機油が滞留しない圧縮機の所定吐出容量以上になっていた超過容量時間を積算し、積算した超過容量時間が、圧縮機が許容する塩化物濃度以下になるまでの時間であるので、この塩化物回収時間は、従来技術のように予め適当に設定した時間ではなく、冷凍空調装置の運転状況によって決められることになるから、不適当に長く塩化物回収運転が継続されるということがなくなり、冷凍空調能力が低下する時間を短くすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1における冷凍空調装置の冷媒回路構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における塩化物回収運転の制御手順を示すフローチャートの図である。
【図3】この発明の実施の形態2における冷凍空調装置の冷媒回路構成 図である。
【図4】この発明の実施の形態2における高圧圧力、低圧圧力などに基づいて圧縮機の冷媒吐出容量を換算するための換算表を示す図であり、(a)は圧縮機に出力されるインバータ周波数が15HZのときの図、(b)は前記インバータ周波数が60HZのときの図、(c)は前記インバータ周波数が120HZのときの図である。
【図5】この発明の実施の形態2における圧縮機の回転数と油上がり率との関係を示すグラフの図である。
【図6】この発明の実施の形態2における油分離器の油分離効率と圧縮機の冷媒吐出容量との関係を示すグラフの図である。
【図7】この発明の実施の形態2における塩化物回収運転の制御手順を示すフローチャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1を示す図であり、冷凍空調装置の冷媒配管系統を示している。
図において、この実施形態1における冷凍空調装置は塩素を含まない弗化炭素水素系冷媒を冷媒として使用する装置であり、吐出容量可変の圧縮機1、油分離器2、四方切替弁3、室外熱交換器(熱源側熱交換器の例)4、弁開度可変の膨張弁5、室内熱交換器(利用側熱交換器の例)6、アキュムレータ7をそれぞれ冷媒配管で順次接続して成る冷媒回路Rを有している。前記の圧縮機1はモータ18により駆動され、モータ18はインバータ装置19から出力されたインバータ周波数値によりモータ回転数が制御される。インバータ装置19は、モータ18の回転数を検出する回転数検出手段の機能も有している。冷媒回路Rの全体制御は制御器20により行なわれる。冷媒回路Rの油分離器2における容器内底部の油収集部2Aと圧縮機1の吸入側配管9との間は、冷媒配管で接続されて油戻し回路16を形成している。油戻し回路16には例えば毛細管から成る第1絞り器8が配備されている。この油戻し回路16と並列に油分離器2の油収集部2Aと圧縮機1の吸入側配管9との間が、冷媒配管で接続されて塩化物回収回路17を形成している。この塩化物回収回路17には、例えば電磁弁から成る開閉弁10、例えば毛細管から成る第2絞り器11、および例えば活性炭を保有する塩化物回収手段12が配備されている。
【0011】
そして、冷媒回路Rは、前記の圧縮機1、油分離器2、四方切替弁3、室外熱交換器4、アキュムレータ7、油戻し回路16、塩化物回収回路17、モータ18、インバータ装置19、および制御器20を含む室外ユニットAと、膨張弁5および室内熱交換器6を含む室内ユニットBと、室内ユニットBの室内熱交換器6と室外ユニットAの四方切替弁3との間をつなぐ既設冷媒配管C1と、室外ユニットAの室外熱交換器4と室内ユニットBの膨張弁5との間をつなぐ既設冷媒配管C2とから構成される。前記した既設冷媒配管C1と既設冷媒配管C2は、冷媒回路Rの一部分として、塩素を含む弗化炭素水素系冷媒例えばR22を使用していた既設冷媒回路の一部分であり、いずれも例えば70mほどの配管をそのまま転用している。
【0012】
前記の制御器20はCPU21を中心として構成され、CPU21に対しデータ入出力自在のデータバス24、メモリ22、クロック回路23が接続されている。この実施形態において、データバス24のデータ入力側には、操作者により予め外部からデータ入力のために用いられるキーボードなどの外部入力器25と、インバータ装置19とが配線接続されている。データバス24のデータ出力側には、開閉弁10を開閉駆動するドライバ(図示省略)が配線接続されている。前記のCPU21は、後で詳述する、吐出容量取得手段30の機能と、時間積算手段31の機能と、第1開閉弁制御手段32の機能とを有している。メモリ22には、後で詳述するが、冷媒回路R中で冷凍機油が滞留して圧縮機1に戻らなくなるときの圧縮機1の回転数(滞留回転数という)、圧縮機1が許容する冷凍機油中の塩化物濃度(圧縮機許容塩化物濃度という)、滞留回転数で圧縮機1を運転し続けた場合に冷凍機油中の塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度以下となる時間(塩化物回収時間という)など、それぞれ外部入力器25から予め入力されたデータが記憶されている。これらのデータは多大な実験および試運転から得たものである。尚、制御器20において、データバス24のデータ入力側には通常運転のための各種センサから出力された検出データが入力されており、データバス24のデータ出力側からは通常運転のために膨張弁5やインバータ装置19に指令信号が出力されているが、それらは一般的なものであり、発明の理解を複雑化させないために説明は省略する。
【0013】
次に動作について説明する。
上記のように構成された冷凍空調装置の通常の運転状態について説明する。先ず、塩化物回収回路17の開閉弁10は閉止されている。
冷房運転時の冷媒の流れを実線の矢印で示す。圧縮機1から吐出された高温高圧のガス冷媒は油分離器2で冷凍機油が分離された後、四方切替弁3に入る。四方切替弁3からの冷媒は室外熱交換器4(凝縮器として作用)に入って冷却され、熱交換器出口に至るまでに凝縮して液化する。液化した冷媒は膨張弁5に入って減圧され気液二相状態となる。気液二相状態の冷媒は室内熱交換器6(蒸発器として作用)に入って加熱され、熱交換器出口に至るまでに蒸発してガス冷媒となる。ガス化した冷媒は四方切替弁3を通ったのち、余剰冷媒を貯留するアキュムレータ7を経て圧縮機1に戻る。一方、油分離器2で分離された冷凍機油は、油戻し回路16の第1絞り器8を通って吸入側配管9から圧縮機1に戻る。
【0014】
暖房運転時の冷媒の流れを破線の矢印で示す。暖房運転時の冷媒の流れは、四方切替弁3の冷媒流路を切り替えることにより冷房時とは逆になる。四方切替弁3からのガス冷媒は室内熱交換器6(凝縮器として作用)に入って冷却され、熱交換器出口に至るまでに凝縮し液化して膨張弁5に至る。膨張弁5で減圧されて気液二相状態になった冷媒は、室外熱交換器4(蒸発器として作用)に入って加熱され、熱交換器出口に至るまでに蒸発してガス冷媒となる。ガス化した冷媒は四方切替弁3を通ったのち、余剰冷媒を貯留するアキュムレータ7を経て圧縮機1に戻る。一方、油分離器2によって分離された冷凍機油は、油戻し回路16の第1絞り器8を通って吸入側配管9から圧縮機1に戻る。
【0015】
尚、前記のような冷凍空調装置の運転中に、インバータ駆動式の圧縮機1の回転数が小さくなりすぎると、冷媒回路R内の配管に冷凍機油が滞留して、圧縮機1へ冷凍機油が供給されなくなり、圧縮機1が故障に至るおそれがある。このような状態を引き起こす圧縮機1の所定回転数すなわち滞留回転数(所定吐出容量に対応する)は予めメモリ22に記憶されている。そこで、この冷凍空調装置では、圧縮機1の回転数が滞留回転数より小さくなると、一定時間、圧縮機1の回転数を強制的に大きくしたり、滞留回転数よりも小さくしたりしないように制御されている。
【0016】
次に、塩化物回収運転の動作について説明する。図2は実施形態1における塩化物回収運転から通常の冷房運転または暖房運転に移行するまでの制御手順を示すフローチャートである。
まず、装置据付後の最初の冷房運転または暖房運転を制御器20が開始すると(ステップS1)、CPU21の第1開閉弁制御手段32は、塩化物回収回路17の開閉弁10を開いて塩化物回収手段12により冷凍機油中の塩化物を回収する運転を始める(ステップS2)。冷房運転、暖房運転に拘わらず、圧縮機1から吐出された高温高圧のガス冷媒から、冷凍機油が油分離器2で分離されて容器内底部の油収集部2Aに溜まる。その際、ほとんどのガス冷媒は四方切替弁3へと流れるが、一部のガス冷媒は、分離された冷凍機油に混入して第1絞り器8を通り吸入側配管9を経て圧縮機1に戻る。その際、開閉弁10を全開にしたことで、冷凍機油の一部が第2絞り器11を通り、更に塩化物回収手段12を通って吸入側配管9へ戻ることとなる。その際に、塩化物回収手段12の活性炭により冷凍機油中の塩化物が吸着され除去される。この冷凍空調装置において、CPU21の吐出容量取得手段30は、装置運転中にインバータ装置9により検出された圧縮機1のモータ18の回転数(冷媒吐出容量に対応している)を得ており、逐次メモリ22に記憶させている。そして、時間積算手段31は、吐出容量取得手段30により得られた圧縮機1の回転数が、メモリ22に記憶されている所定の滞留回転数を超えていた超過容量時間をクロック回路23の計時機能を利用して積算しメモリ22に逐次記憶させる(ステップS3)。
【0017】
次に、塩化物回収運転終了時の動作について説明する。
ステップS4において、CPU21の第1開閉弁制御手段32は、ステップS3で時間積算手段31により積算された超過容量時間が、メモリ22に記憶されている塩化物回収時間を経過したとき(ステップS4のYES)、開閉弁10を閉じて塩化物回収運転を終了させ(ステップS5)、通常の冷房運転または暖房運転に移行させる(ステップS6)。
【0018】
以上のように、この実施形態1における冷凍空調装置はインバータ駆動式の圧縮機1を利用した装置であるが、設置場所の空気条件により圧縮機1の回転数が自在に変化した場合でも、圧縮機1の回転数が滞留回転数以上になっていた時間を積算して記憶する機能を有している。それにより、圧縮機1が滞留回転数以上で運転していた積算時間が、滞留回転数で圧縮機1を運転した場合に冷凍機油の塩化物濃度を圧縮機許容塩化物濃度以下にするように決定された塩化物回収時間を越えた場合に、塩化物回収回路17の開閉弁10を閉じて通常の冷房または暖房運転に移行させることができる。その結果、冷凍機油の塩化物濃度を圧縮機許容塩化物濃度以下にするまで、塩化物回収手段12で確実に塩化物を回収することができる。更に、塩化物を回収する時間は、従来技術のように圧縮機1の回転数と無関係に適当に設定された必要時間としてではなく、圧縮機1が滞留回転数で回転し続けた場合に冷凍機油の塩化物濃度を圧縮機許容塩化物濃度以下にするという所定の塩化物回収時間によって決められていることから、不当に長く塩化物回収運転を継続するということがなくなり、冷凍空調装置の冷凍空調能力が低下する時間を短くできる。
そして、CPU21の吐出容量取得手段30は、汎用の冷凍空調装置に元々設置されているセンサからの検出値、すなわち冷媒の低圧圧力、冷媒の高圧圧力、冷媒の吸入温度、およびモータ18の回転数を利用し、これらに基づいて実地試験による関係データの取得をしているので、圧縮機1の吐出側配管に冷媒流量計などのハード構成を新たに設置する必要がない。無論、吐出容量取得手段30の機能に替えて新たな冷媒流量計を圧縮機1の吐出側配管に設置し、その検出値を冷媒吐出容量(流量)として制御手順で使用しても構わない。
【0019】
上記の実施形態を更に具体的に説明すると、例えば押しのけ量が52.5cm3/revの圧縮機1を搭載した冷凍空調装置において、室外ユニットAと室内ユニットBとを接続する冷媒配管として、配管径(外径)がΦ22.2mm、肉厚1.0mmの既設冷媒配管C1、配管径(外径)がΦ9.52mm、肉厚0.8mmの既設冷媒配管C2を使用した場合の滞留回転数に対応するインバータ周波数はおおよそ40Hz程度である。また、おおよそ40Hzで圧縮機1が回転した場合に必要な塩化物回収時間はおおよそ30時間程度である。尚、塩素を含む弗化炭素水素系冷媒を使用していた冷凍空調装置から室外ユニットおよび室内ユニットを取り外して、既設冷媒配管C1,C2をそのまま残し、これらの既設冷媒配管C1,C2に新たな室外ユニットAおよび室内ユニットBを接続して、塩素を含まない弗化炭素水素系冷媒とともに冷凍機油量2.8Lを使用する冷凍空調装置を構成した。この冷凍空調装置の初期塩化物濃度は配管長がおおよそ70mの既設冷媒配管C1,C2で最大110ppm程度(数々の既設冷媒配管を回収し調査した結果から算出)であり、当該新たな冷凍空調装置で塩化物回収運転を実施した場合、おおよそ40Hz程度で圧縮機1を運転すると、おおよそ30時間程度で冷凍機油の塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度(=20ppm)以下になった。
【0020】
実施の形態2.
上記の実施形態1では、圧縮機1を滞留回転数で回転させた場合に冷凍機油の塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度以下になる「超過容量時間」を用いて塩化物回収運転を行なうようにしたが、前記の超過容量時間を用いることなく、装置運転状況に応じて塩化物回収運転を終了させるタイミングを決定する実施形態2を以下に説明する。
図3はこの発明の実施の形態2を示す冷媒回路構成図である。この実施形態2の冷凍空調装置における冷媒回路R自体は、実施形態1で示した回路と同じであるため、共通する構成要素の説明は必要以外は省略する。そして、冷媒回路Rにおける圧縮機1の吸入側すなわちアキュムレータ7入側の冷媒配管に、冷媒の吸入温度を検出する吸入温度サーミスタ(吸入温度検出手段の例)13と、冷媒の低圧圧力を検出する低圧圧力センサ(低圧圧力検出手段の例)14とが配備されている。また、冷媒回路Rにおける圧縮機1の吐出側すなわち油分離器2出側の冷媒配管に、冷媒の高圧圧力を検出する高圧圧力センサ(高圧圧力検出手段の例)15が配備されている。
【0021】
そして、制御器20は実施形態1と同様の構成を採用している。但し、CPU21は、それぞれ後で詳述する、吐出容量取得手段30の機能と、油量取得手段33の機能と、塩化物濃度算出手段34の機能と、第2開閉弁制御手段35の機能と、油分離効率算出手段36の機能と、油上がり率算出手段37の機能と、全油量算出手段38の機能と、油量算出手段39の機能とを有している。また、以下に示すような各種データが予め実験などにより求められており、これらは予め外部入力器25から入力されてメモリ22に記憶されている。
【0022】
前記したようにメモリ22に記憶されている各種データとしては、例えば図4(a)〜(c)に示すような吸入温度と低圧圧力と高圧圧力と圧縮機1の回転数(Hz)と圧縮機1の特性とから冷媒吐出容量を得るための換算表データ、図5の関数曲線に示すような圧縮機1の油上がり率との関係データ、図6の関数曲線に示すような冷媒吐出容量と油分離器2の油分離効率との関係データ、配管圧損の推算式(例えば、Lockhart−Martinelliの相関式)を利用して毛細管長と管内径から算出した第1絞り器8を流れる冷凍機油の流量と第2絞り器11を流れる冷凍機油の流量との流量比データ、塩化物回収手段12の活性炭の塩化物吸着率データ、冷凍機油の圧縮機許容塩化物濃度データ、冷媒回路R全体中に収容されている冷凍機油量データ、および塩化物回収運転開始時において想定される冷凍機油の塩化物濃度データが挙げられる。
尚、図4(a)〜(c)に示した換算表データとしては、モータ18に出力されるインバータ周波数が異なる3種の換算表を示したが、実運転ではより細かな数値幅のインバータ周波数に関する多くの換算表データや、推算表データから冷媒吐出容量を計算する推算式を用いて運転している。そして、これらの換算表から明らかなように、低圧圧力が高いと圧縮機1からの冷媒の吐出容量(冷媒流量)が増え、低圧圧力が低いと吐出容量が減る傾向にある。また、圧縮機1の回転数が大きいと吐出容量が増え、回転数が小さいと吐出容量が減っている。そして、吸入温度から低圧圧力における冷媒の飽和温度を差し引いた温度差が小さいと吐出容量は増え、温度差が大きいと吐出容量が減る傾向にあることが判る。
【0023】
次に、塩化物回収運転を終了させる時刻を計算する手順を説明する。
インバータ駆動式の圧縮機1は、運転状況によって時々刻々と回転数が変化する。そこで、装置据付後の最初の冷房運転または暖房運転を制御器20が開始すると(ステップS1)、CPU21において、第2開閉弁制御手段35は塩化物回収回路17の開閉弁10を開いて塩化物回収運転を開始する(ステップS2)。次に、CPU21は、インバータ装置19により検出された現時点におけるモータ18の回転数(=圧縮機1の回転数)と、メモリ22に記憶されている滞留回転数とを比較し(ステップS31)、検出した回転数が滞留回転数以上になれば(ステップS31のYES)、ステップS32の処理に移行する。ステップS32において、吐出容量取得手段30は、低圧圧力センサ14により検出された低圧圧力と、高圧圧力センサ15により検出された高圧圧力と、吸入温度サーミスタ13により検出された吸入温度から低圧圧力センサ14により検出された低圧圧力における冷媒の飽和温度を差し引いた現時刻における温度差を算出する。そして、この温度差と、インバータ装置(回転数検出手段の例)19により検出されたモータ18のモータ回転数とを、例えば図4(a)〜(c)に示したデータテーブルのような関係データに照らし合わせて、現時刻における圧縮機1の吐出容量を算出する。
【0024】
次に、ステップS33において、油上がり率算出手段37は、吐出容量取得手段30により得られた圧縮機1の吐出容量から現時刻における圧縮機1の油上がり率、すなわち圧縮機1から吐出された冷媒に含まれる冷凍機油の含有率を、図5に示した関係式データを基に算出する。更に、ステップS34において、油分離効率算出手段36は、吐出容量取得手段30により得られた圧縮機1の吐出容量から現時刻における油分離器2の油分離効率を、図6に示した関係式データを基に算出する。そして、ステップS35において、全油量算出手段38は、油分離効率算出手段36により算出された油分離効率、および油上がり率算出手段37により算出された冷凍機油含有率を基に、現時刻において油分離器2から圧縮機1の吸入側配管9に流れる全ての冷凍機油量を算出する。
【0025】
ステップS36において、油量算出手段39は、得られた圧縮機1の吐出容量と、算出された油分離器2の油分離効率と、算出された圧縮機1の油上がり率と、算出された油分離器2から吸入側配管9へ流れる全ての冷凍機油量と、メモリ22に記憶されている第1絞り器8と第2絞り器9との流量比とに基づき、現時刻において塩化物回収回路17を流れる冷凍機油量を算出する(ステップS36)。すなわち、前記した吐出容量取得手段30の機能に加えて、油分離効率算出手段36の機能と、油上がり率算出手段37の機能と、全油量算出手段38の機能と、油量算出手段39の機能とから、「吐出容量取得手段30により得られた吐出容量に基づいて塩化物回収回路17を流れる冷凍機油量を得る」機能を有する油量取得手段33が構成される。
【0026】
そして、ステップS37において、塩化物濃度算出手段34は、油量取得手段33により得られた塩化物回収回路17を流れる冷凍機油量と、メモリ22に記憶されている塩化物回収手段12の活性炭の塩化物吸着率と、メモリ22に記憶されている冷媒回路R全体中の冷凍機油量とに基づいて、冷媒回路R全体の冷凍機油の塩化物濃度を算出する。続いて、ステップS41において、第2開閉弁制御手段35は、塩化物濃度算出手段34により算出された冷凍機油全体の塩化物濃度が、メモリ22に記憶されている圧縮機許容塩化物濃度以下になったとき(YES)、開閉弁10を閉じて塩化物回収運転を終了させ(ステップS5)、通常の冷房運転または暖房運転に移行させるのである(ステップS6)。
【0027】
この実施形態2の冷凍空調装置によれば、滞留回転数以上で圧縮機1が駆動した場合に、時々刻々と変化する冷凍機油中の塩化物濃度を算出し、算出した塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度以下になったタイミングで、塩化物回収回路17の開閉弁10を閉じて通常の冷房または暖房運転に移行させる。従って、実施の形態1で示したように、滞留回転数で圧縮機1が回転した場合に冷凍機油の塩化物濃度を圧縮機許容塩化物濃度以下にするという塩化物回収時間になったときに、塩化物回収回路17の開閉弁10を閉じて塩化物回収運転を終了させるといった制御方式よりも早期に、塩化物回収運転を終了させることができ、冷凍空調装置の冷凍空調能力が低下する時間をより短くすることができる。
【0028】
すなわち、この実施形態2では、吸入温度サーミスタ12、低圧圧力センサ14および高圧圧力センサ15からの各検出データと、制御器20のメモリ22に記憶されている冷凍空調装置の特性を示す関係データと、制御器20のCPU21による計算とを利用することによって、冷凍機油内の塩化物濃度が圧縮機許容塩化物濃度以下になるタイミングを明確に得ることができる。その結果、塩化物回収運転により冷凍空調装置の冷凍空調能力が低下する時間を短くすることが可能で、省エネ性を向上化できるという効果を有する。
また、CPU21の油量取得手段33は、いずれもCPU21による演算で得られる、圧縮機の吐出容量、油分離器の油分離効率、吐出冷媒中の冷凍機油の含有率、油分離器から圧縮機の吸入側配管に流れる全ての冷凍機油量、および第1絞り器と第2絞り器との流量比を利用して、塩化物回収回路を流れる冷凍機油量を得るようにしているので、流量計など別個新たなハード構成を塩化物回収回路17に設置する必要がない。
【符号の説明】
【0029】
1 圧縮機
2 油分離器
2A 油収集部
3 四方切替弁
4 室外熱交換器(熱源側熱交換器)
5 膨張弁
6 室内熱交換器(利用側熱交換器)
7 アキュムレータ
8 第1絞り器
9 吸入側配管
10 開閉弁
11 第2絞り器
12 塩化物回収手段
13 吸入温度サーミスタ(吸入温度検出手段)
14 低圧圧力センサ(低圧圧力検出手段)
15 高圧圧力センサ(高圧圧力検出手段)
16 油戻し回路
17 塩化物回収回路
18 モータ
19 インバータ装置(回転数検出手段)
20 制御器
21 CPU
22 メモリ
23 クロック回路
24 データバス
25 外部入力器
30 吐出容量取得手段
31 時間積算手段
32 第1開閉弁制御手段
33 油量取得手段
34 塩化物濃度算出手段
35 第2開閉弁制御手段
36 油分離効率算出手段
37 油上がり率算出手段
38 全油量算出手段
39 油量算出手段
A 室外ユニット
B 室内ユニット
C1 既設冷媒配管(一部分)
C2 既設冷媒配管(一部分)
R 冷媒回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出容量可変の圧縮機、油分離器、四方切替弁、熱源側熱交換器、膨張弁、利用側熱交換器、アキュムレータを順次接続して成る冷媒回路と、前記冷媒回路の油分離器の油収集部と前記圧縮機の吸入側配管とを接続するとともに第1絞り器を備える油戻し回路と、前記油戻し回路と並列に前記冷媒回路の油分離器の油収集部と前記圧縮機の吸入側配管とを接続するとともに開閉弁、第2絞り器、および塩化物回収手段を備える塩化物回収回路とを有し、前記冷媒回路の一部分として、塩素を含む弗化炭素水素系冷媒を使用していた既設冷媒回路の一部分を転用した冷凍空調装置において、
前記圧縮機の冷媒の吐出容量を得る吐出容量取得手段と、
前記吐出容量取得手段により得られた前記圧縮機の吐出容量が、予め入力されていて前記冷媒回路中の冷凍機油が滞留して前記圧縮機に戻らなくなるときの所定吐出容量を超えていた超過容量時間を積算する時間積算手段と、
装置据付後の最初の冷房運転開始時または暖房運転開始時に前記塩化物回収回路の開閉弁を開き、前記時間積算手段により積算された超過容量時間が、予め入力されていて、前記圧縮機を前記所定吐出容量で駆動した場合に冷凍機油の塩化物濃度が予め入力されている圧縮機許容塩化物濃度以下になる塩化物回収時間を経過したときに前記開閉弁を閉じて通常の冷房運転または暖房運転に移行させる第1開閉弁制御手段と、を備えていることを特徴とする冷凍空調装置。
【請求項2】
吐出容量可変の圧縮機、油分離器、四方切替弁、熱源側熱交換器、膨張弁、利用側熱交換器、アキュムレータを順次接続して成る冷媒回路と、前記冷媒回路の油分離器の油収集部と前記圧縮機の吸入側配管とを接続するとともに第1絞り器を備える油戻し回路と、前記油戻し回路と並列に前記冷媒回路の油分離器の油収集部と前記圧縮機の吸入側配管とを接続するとともに開閉弁、第2絞り器、および塩化物回収手段を備える塩化物回収回路とを有し、前記冷媒回路の一部分として、塩素を含む弗化炭素水素系冷媒を使用していた既設冷媒回路の一部分を転用した冷凍空調装置において、
前記圧縮機の冷媒の吐出容量を得る吐出容量取得手段と、
少なくとも前記吐出容量取得手段により得られた吐出容量に基づいて前記塩化物回収回路を流れる冷凍機油量を得る油量取得手段と、
前記油量取得手段により得られた冷凍機油量と、予め入力されている前記塩化物回収手段の塩化物吸着率と、予め入力されている前記冷媒回路全体の冷凍機油量とに基づいて前記冷媒回路全体の冷凍機油の塩化物濃度を算出する塩化物濃度算出手段と、
装置据付後の最初の冷房運転開始時または暖房運転開始時に前記塩化物回収回路の開閉弁を開き、前記塩化物濃度算出手段により算出された冷凍機油の塩化物濃度が、予め入力されている圧縮機許容塩化物濃度以下になったときに前記開閉弁を閉じて通常の冷房運転または暖房運転に移行させる第2開閉弁制御手段と、を備えていることを特徴とする冷凍空調装置。
【請求項3】
油量取得手段は、吐出容量取得手段により得られた圧縮機の吐出容量と、前記得られた吐出容量から算出した前記油分離器の油分離効率と、前記得られた吐出容量から算出した前記圧縮機の吐出冷媒に含まれる冷凍機油の含有率と、前記算出した油分離効率および冷凍機油含有率より算出した前記油分離器から前記圧縮機の吸入側配管に流れる全ての冷凍機油量と、予め入力されている前記第1絞り器と前記第2絞り器との流量比と、に基づいて、前記塩化物回収回路を流れる冷凍機油量を得る構成にされていることを特徴とする請求項2に記載の冷凍空調装置。
【請求項4】
吐出容量取得手段は、前記圧縮機の吸入側に配備された低圧圧力検出手段により検出された冷媒の低圧圧力と、前記圧縮機の吐出側に配備された高圧圧力検出手段により検出された冷媒の高圧圧力と、前記圧縮機の吸入側に配備された吸入温度検出手段により検出された吸入温度から前記低圧圧力検出手段により検出された低圧圧力における冷媒の飽和温度を差し引いた温度差と、前記圧縮機を駆動するモータ用の回転数検出手段により検出されたモータ回転数と、に基づいて、前記圧縮機の吐出容量を得る構成にされていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の冷凍空調装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−37111(P2012−37111A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176235(P2010−176235)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)