説明

冷却器

【課題】 低温環境下においても、優れた冷却性能を実現した冷却器を得ること。
【解決手段】 発熱部品は吸熱ブロック10に取り付けられている。ヒートパイプ20の吸熱側は吸熱ブロック10に埋設され、このヒートパイプ20に並列して、内部に不凍液が満水状態に満たされた中空パイプ21が配置されている。フィン20はヒートパイプ20、中空パイプ21の双方に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体素子等を冷却するための冷却器に関し、特に寒冷地等の低温環境において好適な冷却器に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば電車等の車両に搭載される電流変換器等の半導体部品は、その使用によってある程度の発熱が避けがたく、従ってその過度の加熱を防止する手段を講ずる必要がある。そのような部品の冷却方法として、その部品に放熱用のフィンを取り付けたり、或いはその部品が収容される筐体内の雰囲気を冷却したりする方法が知られている。冷却が必要な部品に放熱用のフィンを取り付けて冷却する場合、その部品に伝熱性のブロックや板材を取り付け、そのブロックや板材を経由してフィンを取り付ける構造が採用されることが多い。
【0003】近年はヒートパイプの伝熱性能が注目され、冷却を要する部品に取り付けた伝熱性のブロックや板材とフィンとをヒートパイプを介して接続した構造の冷却器が登場している。ヒートパイプは、その内部に空洞部を有するコンテナと作動流体とを備えており、空洞部に封入された作動流体の相変態と移動により熱の輸送が行われるものである。もちろん、ヒートパイプを構成する容器(コンテナ)を熱伝導することで運ばれる熱も多少あるが、その量は相対的に少ない。
【0004】ヒートパイプの作動について簡単に記すと次のようになる。即ち、ヒートパイプの吸熱側において、ヒートパイプを構成する容器中のその肉厚方向に熱伝導して伝わってきた熱により、内部の作動流体が加熱され蒸発する。そしてその蒸気がヒートパイプの放熱側に移動する。放熱側では、作動流体の蒸気は冷却され再び液相状態に戻る。そして液相に戻った作動流体は再び吸熱側に移動(還流)する。このような作動流体の相変態や移動により熱の移動がなされる。ヒートパイプの内部は作動流体の相変態が生じやすくするために真空密封しておく。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】図6はヒートパイプを用いた冷却器を説明する図である。図6(ア)はその正面図、図6(イ)は側面図である。発熱部品43は、電車等に搭載されるサイリスタやIGBT等を想定している。吸熱ブロック41に発熱部品43が直接または伝熱物を介して接続される。その吸熱ブロック41にはヒートパイプ42の吸熱側が埋設されている。この例ではヒートパイプ42としてループ状のものを用いている。
【0006】さて吸熱ブロック41に伝わった発熱部品43の熱の多くは、ヒートパイプ42の吸熱側に伝わり、その熱によりヒートパイプ42の内部の作動流体が加熱され蒸発する。そしてその蒸気がヒートパイプ42の放熱側であるフィン44が取り付けられた部分に移動し、概ねそこで作動流体の蒸気の熱はフィン44を経て放出される。その際、作動流体の蒸気は凝縮して液相に戻る。図6ではヒートパイプ42が水平になるように描いているが、実際は、ヒートパイプ42の放熱側はその吸熱側より上方に配置するとよい。こうすることにより、放熱側で液相状態に戻った作動流体は重力作用によりヒートパイプ42の吸熱側に戻るからである。
【0007】ところでヒートパイプ42に用いられる作動流体としては水がその代表例である。しかし発熱部品43が搭載される電車等が冬季に寒冷地において使用されるような場合、ヒートパイプ42もそのような低温状況に置かれることになるから、場合によってはその作動流体(水)が凍結してしまうことがありえる。例えば車両等は夜間においては運転をしていない場合が多いから、特に朝の起動時などにおいては作動流体が凍結しており実質的にヒートパイプ42が作動しない状態にある場合が多い。
【0008】尚、ヒートパイプ42の吸熱部に伝わった熱の全てが作動流体の相変態と移動によりフィン44から放出されるとは限らない。つまり、ヒートパイプ42の吸熱ブロック41とフィン44の途中の領域において外気に放出される熱や、吸熱ブロック41から直接外気に放出される熱も存在する。しかしその量は相対的に小さく、発熱部品43の冷却性能としては不充分である。
【0009】そこで、ヒートパイプ42に収容される作動流体として、水に替えて沸点が低いパーフロロカーボン等の溶剤を適用することが考えられる。そうすれば、氷点下の環境にある寒冷地においても、その作動流体は凍結せず、従ってヒートパイプ42の作動は確保されるからである。
【0010】しかしパーフロロカーボン等の低沸点の溶剤は、その潜熱が小さいため、潜熱に影響されるヒートパイプ内での熱伝達率も小さくなってしまう。つまり熱移動性能が低くなるので、所定の冷却性能を実現するには、その冷却器のサイズを相対的に大きくする等が必要となり問題である。また寒冷地において使用される電車等の車両であっても、運転中や、気温が上昇している日中の使用中においては作動流体の凍結の問題が起きない場合もある。このような状況において、冷却性能が低いということは効率的とは言えない。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上述した問題点を踏まえ、低温環境下においても、ある程度の冷却性能が実現する冷却器を開発すべく鋭意研究を行った。本発明の冷却器は、水を作動流体とするヒートパイプと、前記ヒートパイプの吸熱側に取り付けられた吸熱ブロックと、前記ヒートパイプの放熱側に取り付けられたフィンと、前記ヒートパイプに並行して前記吸熱ブロックおよび前記フィンとに取り付けられ、内部の密閉空間に不凍液が満たされた中空パイプと、を備えるものである。その吸熱ブロックには冷却が必要な発熱部品を接続すれば良い。また、前記ヒートパイプがU字型またはL字型である場合を特に提案する。
【0012】前記不凍液は、本発明の冷却器が適用される車両等の機器が使用される低温環境において不凍である液体を指す。例えばエチレングリコール、アルコール、パーフロオロカーボン等が好適に適用できる。
【0013】
【発明の実施の形態】図1、図2を参照しながら本発明の冷却器を説明する。図1は本発明の冷却器を説明する斜視図であり、図2(ア)はその側面図、図2(イ)はその正面図である。ヒートパイプ20は水を作動流体とするループ型のヒートパイプで、その一部は吸熱ブロック10に埋設されている。図示しない発熱部品は、図2における吸熱ブロック10の左側に取り付けられている。吸熱ブロック10に埋設された部分がヒートパイプ20の吸熱側に相当する。
【0014】吸熱ブロック10から立ち上がるようにヒートパイプ20は突き出ているが、その部分には放熱用のフィン30が所定枚数取り付けられている。そのフィン30が取り付けられた部分がヒートパイプ20の放熱側に相当する。
【0015】図示するような本発明の冷却器は例えば図2R>2(ア)に示すように、ヒートパイプ20の吸熱側(吸熱ブロック10に埋設された部分)が、放熱側(フィン30が取り付けられた部分)より下方に位置するように配置すると良い。こうすれば、ヒートパイプ20内の作動流体の重力による還流作用が期待できるからである。
【0016】本発明の冷却器では図示するようにヒートパイプ20に並行して吸熱ブロック10およびフィン30とに取り付けられた、内部に不凍液が満たされた中空パイプ21を備えている。図示する例では、この中空パイプ21も、ヒートパイプ20と同様のループ型の形状のものを適用しているが、本発明はこれに限らない。また中空パイプ21をヒートパイプ20と交互に配置しているが、これは本発明の一形態に過ぎない。
【0017】さて上述したような構成の本発明の冷却器が、例えば寒冷地において使用される車両に適用され、その車両が一晩中、その運転を停止した後の早朝に運転を開始したという状況を想定する。この場合、水を作動流体とするヒートパイプ20の内部においては、その作動流体たる水の多くが、ヒートパイプ20内のフィン30が取り付けられた部分で凍結固定しており、ヒートパイプ20の吸熱側には少量の水が残るだけで、しかもその水は凍結した状態になっている。
【0018】従来の冷却器の場合、上述したような状態で、当該車両の運転を開始し、吸熱ブロック10に取り付けられた発熱部品の温度が上昇し始めても、なかなかフィン30が取り付けられた部分で凍結固定している多くの氷が氷解せず、従って長時間に渡りヒートパイプ20の作動が充分にならない。
【0019】しかし本発明の冷却器の場合、ヒートパイプ20に並行して吸熱ブロック10とフィン30とに、内部の密閉空間に不凍液が満たされた中空パイプ21を備えているので、その中空パイプ21内の不凍液が加熱され、その加熱された不凍液の対流により、温度上昇した不凍液がフィン30の取り付けられた部分に至り、そのフィン30に熱を伝える。この熱が更に隣接するヒートパイプ20に伝わり、その熱によりフィン30が取り付けられた部分で凍結固定している氷の氷解が促進される。
【0020】ヒートパイプ20内のフィン30が取り付けられた部分で凍結した氷が液体に戻れば、その液体(作動流体)は重力によって吸熱側へ移動する。こうしてヒートパイプ20の作動が速やかに再開される。
【0021】このように本発明の冷却器では、ヒートパイプ20内のフィン30が取り付けられた部分で凍結した氷の氷解が速やかになされ、冷却器の冷却性能が早期に回復する。もちろん満水状態に不凍液が満たされた中空パイプ21内の不凍液の対流作用による熱移動も、この冷却性能に寄与する。
【0022】本発明における不凍液は、想定される寒冷地での温度条件を考え、その温度状況において凍らない液体であればよい。例えばエチレングリコール、アルコール、パーフロロカーボン等が適用できる。
【0023】ところで、図1、2に示した例において、ヒートパイプ20としてループ型のものを適用したが、その他、通常の棒状のヒートパイプを適用しても構わないことは言うまでもない。但し通常の棒状のヒートパイプの場合、その下端部に水が溜まり、それが凍結することによるパイプの破損が発生することもありえる。これに対し、ループ型またはL字型のヒートパイプを用いると、その下端部に水が溜まり、それが凍結することによるパイプ破損の発生が起こりにくくなる、という利点がある。
【0024】図3、4は本発明の冷却器の他の形態例を示す説明図である。この例は、図1における中空パイプ21に替え、L字型の中空パイプ22を適用した構造のものである。ヒートパイプ20と中空パイプ22の配置関係は図1、2に示した例と同様、一つ一つを等間隔で交互に配置したものになっている。この例においても上述の図1、2の冷却器と同様、ヒートパイプ20内のフィン30が取り付けられた部分で凍結した氷の氷解が速やかになされ、冷却器の冷却性能が早期に回復する。
【0025】上述した本発明の実施の形態においては、ヒートパイプ20と中空パイプ22とを一つ一つ等間隔で交互に配置しているが、この配置関係は要求される性能その他によって適宜決定すれば良い。例えば図5に側面図を示す例のように、左右2個のヒートパイプ23にはそれに並行して中空パイプ24を近接させて設け、中間にあるヒートパイプ25には、その両隣に中空パイプが近接していないような配置形態もありえる。この場合、中間に位置するヒートパイプ25は、そのフィン31が取り付けられた部分で凍結した氷の氷解は左右に位置するヒートパイプ23でのそれに比べ若干遅れるであろう。しかし、左右のヒートパイプ23には中空パイプ24がより近接して配置されることになり、それらの内部の氷の氷解はむしろ早められる効果がある。
【0026】その他、図示しないが、ヒートパイプとそれに並行して設ける、内部の密閉空間に不凍液が満たされた中空パイプの大きさや長さを適宜設定することも可能である。例えば、図5において、中空パイプ23の長さを短くし、フィン31の一部とは接続していない形態にしても良い。
【0027】また、ヒートパイプの両脇に中空パイプを必ず配置しなければならない訳でもない。場合によっては、片側にのみ中空パイプを配置する形態でも良い。このように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜改良、変更を施してもよい。
【0028】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の冷却器は、ヒートパイプ内の凍結した氷の氷解が速やかになされ、早期に冷却器の冷却性能が回復するものである。従って特に寒冷地で使われる車両等に搭載される各種半導体部品等の冷却に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の冷却器を説明する斜視図である。
【図2】(ア)は図1の冷却器の側面図、(イ)は正面図である。
【図3】本発明の冷却器を説明する斜視図である。
【図4】図3の冷却器の側面図である。
【図5】本発明の冷却器を説明する側面図である。
【図6】従来の冷却器を説明する図で、(ア)はその側面図、(イ)は底面図である。
【符号の説明】
10 吸熱ブロック
20 ヒートパイプ
21 中空パイプ
30 フィン
22 中空パイプ
23 ヒートパイプ
24 中空パイプ
25 ヒートパイプ
31 フィン
41 吸熱ブロック
42 ヒートパイプ
43 発熱部品
44 フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水を作動流体とするヒートパイプと、前記ヒートパイプの吸熱側に取り付けられた吸熱ブロックと、前記ヒートパイプの放熱側に取り付けられたフィンと、前記ヒートパイプに並行して前記吸熱ブロックおよび前記フィンとに取り付けられ、内部の密閉空間に不凍液が満たされた中空パイプと、を備える冷却器。
【請求項2】 前記吸熱ブロックには冷却が必要な発熱部品が接続される、請求項1記載の冷却器。
【請求項3】 前記ヒートパイプがU字型またはL字型である、請求項1または2記載の冷却器。
【請求項4】 前記不凍液がエチレングリコール、アルコール、パーフロロカーボンの何れかである、請求項1〜3のいずれかに記載の冷却器。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開平11−183065
【公開日】平成11年(1999)7月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−351842
【出願日】平成9年(1997)12月22日
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)