説明

冷却水系の薬注制御方法及び装置

【課題】薬注量制御を容易に行うことができる冷却水系の薬注制御方法及び装置を提供する。
【解決手段】冷却塔1の散水装置2からは冷凍機12で昇温した冷却水(循環戻水)が散水され、下部水槽4に溜まる。下部水槽4内の冷却水は循環ポンプ10、循環往管11及び循環戻管13によって冷凍機12に循環される。冷却塔1における蒸発量及び飛沫の飛散量W並びにブローライン7のブロー弁8からのブロー水量Bに見合う量の新たな水を補給水管路9から補給する。循環往水と循環戻水との温度差から冷却塔の負荷を求め、この冷却塔の負荷に基づいて薬注装置14による薬注量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開放循環冷却水系の薬注制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用・空調用等の開放循環冷却水系では、冷凍機等の熱交換器で熱交換により温度が上昇した水を冷却塔で蒸発させ、蒸発潜熱の放出によって冷却して循環使用する。
【0003】
開放循環冷却水系は、水を循環利用しているため、蒸発による水の濃縮が生じ、腐食障害・スケール障害・スライム障害が発生しやすい。これらの障害を防止するために、開放循環冷却水系の冷却水には、種々の水処理薬剤(以下、薬剤)が添加されている。このような薬剤の例としては、腐食防止を目的とした各種リン酸塩、スケール防止を目的とした各種水溶性ポリマー、スライム付着防止を目的とした各種殺菌剤を挙げることができる。
【0004】
これらの薬剤は、常時一定濃度以上を維持しなければ十分な効果を発揮しない。一方、過剰注入は経済的に無駄であると共に、弊害をもたらすこともある。従って、薬剤を使用する場合は、使用目的が最も効果的かつ経済的に達成されるように、冷却水中の薬剤濃度を管理することが望ましい。
【0005】
特開平11−211386には、水処理薬剤の合計添加量を薬注装置の流量計計測値から求め、冷却水の濃縮倍数を補給水の電気伝導度と循環冷却水の電気伝導度から求め、冷却水の蒸発水量を冷凍機の冷凍能力、冷凍機の運転負荷および運転時間から求め、補給水量を上記濃縮倍数と上記蒸発水量とから求め、これらの値から冷却水中の水処理薬剤濃度を演算し、維持管理目標濃度範囲内となるように水処理薬剤の注入量を制御することが記載されている。
【特許文献1】特開平11−211386
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
冷凍機などの負荷は季節によって変動するため、上記特開平11−211386の薬注制御方法では季節ごとに冷凍機の負荷設定値を変更する必要があり、手間がかかる。
【0007】
本発明は、薬注量制御を容易に行うことができる冷却水系の薬注制御方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の冷却水系の薬注制御方法は、熱交換器と冷却塔との間で循環している冷却水に水処理薬剤を注入する開放循環冷却水系の薬注制御方法において、循環往水と循環戻水との温度差から冷却塔の負荷を求め、この冷却塔の負荷に基づいて薬注量を制御することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の冷却水系の薬注制御方法は、請求項1において、循環水量と前記温度差と濃縮倍数とからブロー水量及び飛散損失量の合計量を求め、このブロー水量及び飛散損失量の合計量と設定薬品濃度とから薬注量を演算することを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の冷却水系の薬注制御方法は、請求項2において、冷却水及び補給水の導電率から濃縮倍数を求めることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の冷却水系の薬注制御方法は、熱交換器に冷却水を循環供給する手段と、この冷却水を冷却する冷却塔と、循環冷却水に水処理薬剤を注入する薬注装置とを備えた開放循環冷却水系の薬注制御装置において、循環往水と循環戻水との温度差から冷却塔の負荷を演算する手段と、この冷却塔の負荷に基づいた薬注量にて該薬注装置を作動させる薬注制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、冷却塔の負荷を循環往水と循環戻水の温度差から求め、この冷却塔負荷に基づいて薬注量を制御するので、季節に応じて定数を設定する必要がなく、制御が容易である。
【0013】
冷却塔では、冷却水が蒸発する際の潜熱により冷却水の水温が低下する。従って、冷却塔に加えられる負荷が大きいほど、冷却塔からの蒸発水量が多くなり、これに伴ってブロー水量も多くなる。この冷却塔の負荷は、冷却塔に戻ってくる循環戻水の温度と、冷却塔から出ていく循環往水の温度との温度差及び循環水量から求めることができる。従って、冷却塔戻水と往水との温度差及び循環水量から冷却負荷を測定し、この負荷からブロー水量を算出し、このブロー水量を基に必要な薬注量を求めることができる。
【0014】
冷却塔からは、飛散によっても冷却水が失われる。冷却水系の塩類バランスを考慮すると、飛散損失量とブロー水量との合計量と、蒸発水量及び濃縮倍数とを勘案することにより、飛散損失量とブロー水量との合計量を循環水量と前記温度差と濃縮倍数から求めることができる。濃縮倍数については、補給水及び冷却水の導電率等から求められる。そして、この飛散損失量とブロー水量との合計量と設定薬品濃度とから、最適な薬注量を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1図は本発明の実施の形態に係る冷却水系の薬注制御方法及び装置が適用された冷却塔設備のフローを示したものである。冷却塔1の散水装置2からは冷凍機12で昇温した冷却水(循環戻水)が散水され、ファン5の駆動による取入れ外気と気液接触して冷却され、ピットすなわち下部水槽4に溜まる。下部水槽4内の冷却水は循環ポンプ10、循環往管11及び循環戻管13によって冷凍機12に循環される。
【0016】
冷却塔1における蒸発量及び飛沫の飛散損失量W並びにブローライン7のブロー弁8からのブロー水量Bに見合う量の新たな水を補給水管路9から補給する。なお、どのように蒸発量や飛沫の飛散損失量が変動し、またブローが適宜行われたとしても、冷却塔の下部水槽4の水面を一定とするように補給水が供給され、冷却水系の水量はほぼ一定に保持される。この水面制御はボールタップ弁等を用いて自動的に行われる。なお、ブローは冷却水系の水質が劣化した際に適宜行われる。
【0017】
本発明においては、冷却水による配管や機器類の防食その他の目的で、冷却塔1に戻る冷却水の循環戻管13に設けられた薬注装置14によって水処理薬剤が薬注される。ただし、この薬注位置はこれに限定されない。
【0018】
次に、本発明の薬注制御方法の計測原理について説明する。
【0019】
一般に、開放循環冷却水系の蒸発量は対象となる冷却塔の負荷に比例する。
また、冷却塔での蒸発水量及び飛散水量と開放循環冷却水系の濃縮倍数とから補給水量を求めることにより、冷却水中の薬剤濃度は薬剤の注入量、冷却塔の負荷及び冷却水の濃縮倍数から演算できる。
【0020】
一般に、開放循環冷却水系の薬剤濃度Cは、次の(1)式より求めることができる。
薬剤濃度 C=(G/M)・N …(1)
ここで前記の通り、C:薬剤濃度(g/m
G:薬剤注入量(g/Hr)
N:濃縮倍数(−)
M:補給水量(m/Hr)である。
【0021】
この補給水量Mは、次の(2)式で表わすことができる。
M=E+B+W …(2)
ここでE:蒸発量(m/Hr)
B:ブロー水量(m/Hr)
W:飛散損失量(m/Hr)である。
【0022】
さらに、このブロー水量Bと飛散損失量Wとの和B+Wは、次の(3)式で表わすことができる。
ブロー水量 B+W=E/(N−1) …(3)
【0023】
(3)式を求めた根拠は次の通りである。すなわち、冷却水の濃縮倍数Nは、冷却水中での塩類濃度が補給水に比較して何倍になっているかを示す指標であり、次の(4)式で定義される。
N=C/C …(4)
:冷却水中の塩類濃度(mg/m
:補給水中の塩類濃度(mg/m
【0024】
冷却水系の塩類量バランスを考慮すると、冷却水系が定常状態で運転されている場合には、補給水として流入してくる溶存塩類量とブロー水および飛散水に含まれている溶存塩類は等しくなるため、濃縮倍率は以下の式(5)で表される。
・M=C(B+W) …(5)
【0025】
(4),(5)式より
N=M/(B+W)
=(E+B+W)/(B+W) …(6)
【0026】
この(6)式を変形することにより、上記(3)式が得られる。
【0027】
一般に、水中の塩類濃度と導電率は比例関係にあるので、補給水及び冷却水の導電率を測定することにより、冷却水系の濃縮倍数は次の(7)式で求めることができる。
N=μS/μS …(7)
μS:冷却水中の導電率(μS/cm)
μS:補給水中の導電率(μS/cm)
【0028】
導電率の測定は簡単かつ迅速に行え、かつ、導電率センサーの測定値は電気信号として処理することができるので、導電率の測定から対象冷却水系の濃縮倍数Nを容易に決定することができる。補給水の水質変動が小さい場合には、既知の導電率の値を使用し、補給水の導電率の測定を省略することもできる。
【0029】
上記のブロー水量Bと蒸発水量Wとの合計量B+Wは次式(8)で表すことができる。
B+W=R・ΔT/[580・(N−1)] …(8)
ただし、R:循環水量(m/hr)
ΔT:循環戻水の温度Tと循環往水の温度Tとの差(ΔT=T−T
【0030】
この(8)式を求めた根拠は次の通りである。
一般に、冷却塔における蒸発潜熱による放熱と、冷却水が冷凍機から受け取る熱量とは等しい。蒸発潜熱は、蒸発水量E(m/hr)と蒸発潜熱Hとの積であり、冷却水が冷凍機から受け取る熱量は、循環戻水と循環往水との温度差ΔT(℃)と循環水量(m/hr)と水の定圧比熱Cとの積であるから、次式(9)が成り立つ。
E・H=R・ΔT・C …(9)
【0031】
これを変形することにより、蒸発水量Eは、次式(10)で表わされることになる。
E=R・ΔT・C/H …(10)
:水の定圧比熱(kcal kg−1−1
:水の蒸発潜熱(kcal kg−1
【0032】
水温40℃のときのC=0.998kcal kg−1−1、H=578kcal kg−1とすると
E=RΔT/580[m/hr) …(11)
となる。
【0033】
この(11)式を前記(3)式に代入することにより、(8)式が得られる。
B+W=R・ΔT/[580・(N−1)] …(8)
【0034】
この(8)式中の濃縮倍数Nはすでに述べたように補給水および冷却水の導電率から求められるが、塩化物イオン濃度、カリウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度などからも計算できる。例えば、冷却水の塩化物イオン濃度の値を補給水の塩化物イオン濃度の値で除することで求めることができる。循環水量Rはポンプ10の吐出量から求まるが、流量計により測定してもよい。また、ポンプをインバーター抑制し、循環水量Rを増減させている場合には、インバーター信号に基づき循環水量Rを求めてもよい。これらをΔT測定値とともに(8)式に代入することにより、蒸発及び飛散水量B+Wが求まる。
【0035】
薬注量すなわち系内に注入すべき薬品量(g/Hr)は、(設定薬品濃度)×(ブロー水量+飛散水量)すなわち(設定薬品濃度)×(B+W)であるから、(8)式から算出されるB+Wの値から薬注量が演算される。
【0036】
この薬注量となるように薬注装置14の制御を行うことにより、冷却水系中の薬剤濃度を目標値とすることができる。薬注量を制御するには、薬注時間の制御、吐出量の制御、ポンプ稼働台数の制御などがあるが、一台のポンプで薬注時間を制御する方法(タイマー薬注)が最も簡便である。なお、制御装置は、上記の水温T,T、補給水及び冷却水の電気伝導度、ポンプ10の作動信号が入力され、上記演算を行い、薬注装置14に制御信号を出力するよう構成されている。
【0037】
なお、上記の温度T,Tを測定する場合の注意事項は次の通りである。
【0038】
循環水は配管の温度に影響を受けるため、配管長が長い現場、配管温度が下がりやすい冬季などは冷却対象近傍と冷却塔近傍で循環水の温度が異なる。このため、測温の際は冷却塔近傍で測定することが好ましい。還り循環水の測温場所として、散水板・冷却塔近傍の還配管・充填材上部などが挙げられる。往き循環水の測温場所としてピット内吸い込み口近傍、冷却塔近傍の往配管などが挙げられる。充填材下部などは場所によって温度の差が大きいために全体のΔTを求めるための測温場所としては不適切である。
【0039】
循環往水の温度は冷却塔内の滞留時間のために、その変動には時間的な遅れが見られる。冷却塔戻水の水温が急に下がった場合、冷却塔往水の水温は急激には下がらず、冷却塔のΔTが見かけ上負になることもあり、短時間の測定では冷却塔の負荷を正確に把握することができない。そのため、0.5〜10hr程度の平均温度差をとり、これをもとに薬注量を設定する方法が好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、比較例及び実施例について説明する。
【0041】
[比較例1]
コンプレッサー用冷却塔に対し、タイマー薬注を行った場合について、薬品濃度の変動を調べ結果を第3図に示した。冷却塔の仕様は保有水量4m、循環水量160m/hrであった。
【0042】
3hrに一度のタイマー薬注となっており、負荷の推移を見ながら季節ごとに薬注量を設定しなおした。負荷の変動が大きい時期には検出される薬品量の変動も大きく、薬品濃度は100〜800mg/Lで変動していた。
【0043】
[実施例1]
上記冷却塔で本発明による方式で薬注処理を行った。
薬品濃度設定を200〜250mg/Lとし、冷却塔散水板とピット内循環水吸い込み口に白金測温抵抗体(Pt100)を設置し、1分ごとに温度差を測定した。3hr毎に平均温度差から必要な薬品量を算出し、ダイアフラムポンプで薬注を行った。薬品の注入量はダイアフラムポンプの運転時間を変えることによって制御した。なお、冷却塔の運転及び循環水量は循環ポンプの発停により監視及び測定し、停止時には温度差の測定を行わなかった。
【0044】
結果を第2図に示す。第2図の通り、測定20日間で冷却水中の薬品濃度を200〜250mg/Lで制御することができた。
【0045】
[実施例2、比較例2]
栗田工業株式会社社内冷却塔設備において、特開平11−211386による方法(比較例2)と本発明による方法(実施例2)とで薬注制御を行った。結果を第4図に示す。
【0046】
冷却塔の設備仕様は以下の通りであった。
冷却容量:100RT
保有水量:2m
循環水量:20m/hr
濃縮倍数:4倍
冷却対象:冷凍機
補給水導電率:26mS/m
冷却水導電率:100mS/m
【0047】
第4図の通り、比較例2の場合、薬品濃度のばらつきが見られたが、実施例2の場合には安定な制御が可能であった。比較例2の方法では冷却塔の負荷に対応していないため、負荷が低下した時間帯で過剰な薬注となり、高い薬品濃度が検出されたと考えられた。実施例2による方法では、冷却塔の負荷を測定しているため、負荷の変動に追従して安定した制御が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】循環冷却水系の系統図である。
【図2】実施例1の結果を示すグラフである。
【図3】比較例1の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2及び比較例2の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1 冷却塔
8 ブロー弁
10 循環ポンプ
12 冷凍機
14 薬注装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器と冷却塔との間で循環している冷却水に水処理薬剤を注入する開放循環冷却水系の薬注制御方法において、
循環往水と循環戻水との温度差から冷却塔の負荷を求め、この冷却塔の負荷に基づいて薬注量を制御することを特徴とする冷却水系の薬注制御方法。
【請求項2】
請求項1において、循環水量と前記温度差と濃縮倍数とからブロー水量及び飛散損失量の合計量を求め、このブロー水量及び飛散損失量の合計量と設定薬品濃度とから薬注量を演算することを特徴とする冷却水系の薬注制御方法。
【請求項3】
請求項2において、冷却水及び補給水の導電率から濃縮倍数を求めることを特徴とする冷却水系の薬注制御方法。
【請求項4】
熱交換器に冷却水を循環供給する手段と、この冷却水を冷却する冷却塔と、循環冷却水に水処理薬剤を注入する薬注装置とを備えた開放循環冷却水系の薬注制御装置において、
循環往水と循環戻水との温度差から冷却塔の負荷を演算する手段と、この冷却塔の負荷に基づいた薬注量にて該薬注装置を作動させる薬注制御手段とを備えたことを特徴とする冷却水系の薬注制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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