冷却油および冷却方法
【課題】高い熱浸透率を有し、さらに生分解性も備えた冷却油および該冷却油を用いた冷却方法を提供する。
【解決手段】冷却油は、エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなり、前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基である。本発明の冷却油は、熱浸透率が高くしかも生分解性を備えているので、特に電気自動車やハイブリッド車などの電動モーター装着車のモーター冷却用として好適に使用できる。
【解決手段】冷却油は、エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなり、前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基である。本発明の冷却油は、熱浸透率が高くしかも生分解性を備えているので、特に電気自動車やハイブリッド車などの電動モーター装着車のモーター冷却用として好適に使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却油および冷却方法に関し、詳しくは、モーター等の機器を効率よく冷却する冷却油およびそれを用いた冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド車の高性能化によりモーターの出力密度が上がり、発熱量が増加している。それに対応するため、モーターの高効率化による発熱量の低減、コイルや磁石等の耐熱性の向上とともに、種々の冷却設計が工夫されている。冷却法には空冷、水冷および油冷がある。空冷は、大きな冷却容量を確保するのが難しい。水冷は、水の熱伝導率が高いので冷却性には優れるが、導電性があるためモーターコイルを直接冷却できず、冷却パイプを張り巡らせる必要が生じて冷却装置が大きくなる欠点がある。
一方、油冷方式は上述した欠点がなく、コンパクトな設計も可能なため、ハイブリッド車や電気自動車のモーター冷却用として好ましい。
【0003】
このような、モーター冷却に使用される油例方式の油としては、例えば、低粘度の鉱物油や合成油に(A)炭化水素基含有ジチオリン酸亜鉛、(B)トリアリールホスフェート、および(C)トリアリールチオホスフェートのうち少なくともいずれかを配合してなる組成物が提案されている(特許文献1参照)。また、エステル系合成油を基油全量基準で10質量%以上、100質量%以下含有し、40℃における動粘度15mm2/s未満、粘度指数120以上、15℃における密度0.85g/cm3以上である基油を用いた熱伝達係数が780W/m2・℃以上である組成物(特許文献2参照)も同様の冷却油として提案されている。上述の各文献で提案された冷却油は、電気絶縁性や冷却性に優れており、電気自動車またはハイブリッド車等の電動モーター装着車に好適に用いられるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2002/097017号公報
【特許文献2】特開2009−242547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1では、組成物の冷却性については低粘度にすることしか触れておらず、冷却性能に関しては何のデータも開示されていない。また、実施例に基油として記載されているネオペンチルグリコール2−エチルヘキサン酸ジエステルやアルキルベンゼンは、熱伝導率が低く冷却性がよいとは言えない。さらに、アルキル芳香族化合物は、生分解性がなく高い生体濃縮性があり、特に有機熱媒体として使用されているアルキルジフェニルやアルキルナフタレンなどは化審法の第一種監視化学物質として自主管理が求められている。また、特許文献2において具体的に開示されているエステル化合物は、アゼライン酸ジ2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコール2−エチルヘキサン酸ジエステル、オレイン酸2−エチルヘキシルであるが、熱伝導率が低く好ましくない。
【0006】
ところで、流体による冷却性を示す尺度として「熱伝達係数(単位面積、単位温度、単位時間あたりの伝熱量)」があり、この値が大きいほど冷却性に優れる。熱伝達係数は物性値ではなく流速や材質などの条件により変化する値なので、設計により増大させることができるため、この値を高める設計工夫がなされている。
強制対流冷却の場合、熱伝達係数は、ヌッセルト数、レイノルズ数およびプラントル数が関係するので流体の物性値としては、動粘度、熱伝導率、比熱および密度が冷却性に影響する。すなわち、動粘度は小さいほど、熱伝導率、比熱および密度は大きいほど冷却性に優れる。したがって、従来は冷却油を低粘度化して乱流領域で強制対流させて冷却性能を上げることが検討されていた。しかしながら、低粘度化すると冷却性は向上するが、冷却油の流路に摺動部があると、十分な油膜厚さが確保できず潤滑不良となるため、必要最低限の限界粘度は摺動部の構造により決まることになる。それ故、同じ動粘度でも熱伝導率、比熱および密度が大きい油ほど冷却性が良いことになる。
例えば、温度が均一な板の強制対流条件下での理論上の熱伝達係数は、動粘度以外は、熱伝導率の3分の2乗、比熱の3分の1乗、および密度の3分の1乗の積に比例する。また垂直平板における自然対流条件の理論上の熱伝達係数には動粘度は影響せず、熱伝導率の4分の3乗、比熱の4分の1乗、および密度の4分の1乗の積に比例する。
【0007】
ここで、モーターの発熱はコイルのジュール発熱損失(銅損)が大半を占めるため、コイル銅線束の狭い隙間を冷却するのが有効であるが、狭い隙間の冷却に対流効果は殆ど期待できないので、銅線束内の冷却性は冷却油の熱浸透率(熱を奪い取る能力の指標、熱浸透率=(密度×比熱×熱伝導率)1/2)で評価することが妥当だと考えられる。
しかしながら、ある一つの分子構造で密度、比熱および熱伝導率全てを大きくすることは、各物性に影響を与える因子がそれぞれ相違するため不可能に近い。よって、その積が最大となる様な化合物を分子設計する必要があるが、その様な分子設計指針は全く知られておらず、高い熱浸透率を保有する化合物群を見出すのは大変困難な状況である。また、電気自動車やハイブリッド車のような電動モーター装着車は、炭酸ガス排出量の削減に貢献できるので地球温暖化防止を図れ環境に優しいと言われるが、そのためには、使用される冷却油にも環境に優しい性質すなわち生分解性を持つことが望まれる。
【0008】
そこで本発明は、高い熱浸透率を有し、さらに生分解性も備えた冷却油および該冷却油を用いた冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく、本発明は以下のような冷却油および冷却方法を提供するものである。
(1)エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなる冷却油であって、前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基であることを特徴とする冷却油。
(2)上述の(1)に記載の冷却油において、前記主鎖両末端がいずれもフェニル基であることを特徴とする冷却油。
(3)上述の(1)または(2)に記載の冷却油において、前記主鎖が分岐を有さないことを特徴とする冷却油。
(4)上述の(1)から(3)までのいずれか一つに記載の冷却油において、80℃における熱浸透率が500J/s0.5・m2・K以上であることを特徴とする冷却油。
(5)上述の(1)から(4)までのいずれか1つに記載の冷却油により冷却することを特徴とする冷却方法。
(6)上述の(5)に記載の冷却方法により機器を冷却することを特徴とする冷却方法。
(7)上述の(6)に記載の冷却方法において、前記機器がモーター、バッテリーおよびインバーターのうち少なくともいずれかであることを特徴とする冷却方法
(8)上述の(6)または(7)に記載の冷却方法において、前記機器が電動モーター装着車に用いられることを特徴とする冷却方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の冷却油によれば、熱浸透率が高く冷却性に優れるとともに、生分解性にも優れる。それ故、電気自動車や、ハイブリッド車等の電動モーター装着車に用いられるモーターの冷却用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の冷却油は、(以下、単に「本冷却油」ともいう。)は、エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなり、前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基である。ここで、主鎖とは分子中で一番長い鎖状構造部分をいうが芳香環は含まない。また、主鎖中にカルボキシル基やエーテル基が存在してもよい。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本冷却油の主成分(基油)はエステルまたはエーテルであって、主鎖両末端がいずれも芳香族基すなわち芳香環である。主鎖の両末端に芳香環が存在すると、分子振動が環全体で起こり振動エネルギーが分散しないように制御することができる。また芳香環は密度を高くする効果もある。また、主鎖中にエーテル結合やエステル結合があっても上述した振動への悪影響はなく、化合物全体に生分解性を付与できる。
芳香環としては、単環でも多環でもよいが、ナフタレン環やアントラセン環のような多環芳香族であると生分解性に劣り、また動粘度が高くなりすぎるおそれがある。従って、単環であるベンゼン環(フェニル基)が最も好ましい。また、芳香環(芳香族基)には主鎖以外に各種の置換基が結合していてもよい。例えば、メチル基やエチル基のような炭化水素基が一つ以上芳香環に結合していてもよい。ただし、熱伝導率を高くする観点より、このような置換基はないことが好ましい。
【0013】
また、熱伝導率を高くするためには、分子間の衝突による熱振動エネルギーの授受を良くすることと、分子内で振動エネルギーが拡散しない様にする分子設計が重要である。分子間の衝突頻度を増やすには、分子の主鎖を長くして、炭素−炭素結合間の回転運動により分子末端の可動範囲を広くすることが有効である。
それ故、本発明におけるエステルやエーテルの主鎖のメチレン基およびエーテル基の総数は3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。ただし、動粘度が高くなり過ぎないように、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましい。
【0014】
さらにまた、分子内で振動エネルギーを拡散させずに分子主鎖に集約されたままにするには、振動エネルギーを拡散させるような分岐を有さないことが好ましい。具体的には、メチル基やエチル基などの短鎖分岐を無くすことが重要である。それ故、本発明におけるエステルやエーテルの主鎖には、メチル基やエチル基などの炭素数4以下の分岐を有さないことが好ましい。
【0015】
上述したエステルは、通常のエステル製造法で製造すれば良く、特に制限はない。例えば、カルボン酸とアルコールの脱水反応やエステル交換反応などで容易に製造することができる。
カルボン酸としては、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸などのモノカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、および1,10−デカメチレンジカルボン酸などのジカルボン酸、およびこれらの誘導体であるカルボン酸エステル,カルボン酸塩化物などが用いられる。
アルコールとしては、ベンジルアルコール、2−フェネチルアルコール、2−フェノキシエタノール、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールなどのモノオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、およびポリエチレングリコール(両末端水酸基)などのジオールが好適に用いられる。
エステル化反応には、チタンテトライソプロポキシドなどの触媒を用いてもよいし、無触媒でも良い。
エーテル化合物は、ウイリアムソンエーテル合成法などの一般的なエーテル製造法で製造すればよく、特に制限はない。
【0016】
本冷却油は、冷却性や生分解性の観点より上述のエステルやエーテルのうち少なくともいずれか1種を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがもっとも好ましい。もちろん、冷却油として上述したエステルやエーテルのうち少なくともいずれかを100質量%用いてもよい。
【0017】
本冷却油は、冷却性の観点より80℃における熱浸透率が500J/s0.5・m2・K以上であることが好ましく、505J/s0.5・m2・K以上であることがより好ましく、510J/s0.5・m2・K以上であることがさらに好ましい。
【0018】
本冷却油は、80℃動粘度が2mm2/s以上、30mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは2mm2/s以上、20mm2/s以下である。80℃動粘度が2mm2/s未満であると、例えばモーターの冷却油として用いた場合、摺動部における潤滑性が不足するおそれがある。一方、80℃動粘度が30mm2/sを超えると、モーターの冷却油として系内循環等に支障をきたすおそれがある。
【0019】
本冷却油としては、上述したエステルやエーテルに他の成分(基油)を混合して使用することもできる。その場合、他の成分の種類としては特に制限はないが、本発明の効果を損なわない程度に混合する必要がある。特に、上述した粘度範囲を損なわず、さらに冷却性、絶縁性および潤滑性を損なわない成分であると、モーターの冷却用として好ましい。
このような他の成分としては、鉱油あるいは合成油が好ましく挙げられる。鉱油としては、例えばナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、GTL鉱油、WAX異性化鉱油などが挙げられる。具体的には、溶剤精製あるいは水添精製による軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストックなどが例示できる。
一方、合成油としては、ポリブテンまたはその水素化物、ポリα−オレフィン(1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等)またはその水素化物、α−オレフィンコポリマー、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ヒンダードエステル、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0020】
上述した本発明の冷却油は、各種の機器冷却用として好適に使用できる。特に、電気自動車やハイブリッド車等の電動モーター装着車用のモーター冷却用として好適であり、さらには、バッテリー、インバーター、エンジン、電池等の冷却にも好適に使用できる。
なお、本冷却油に対しては、本発明の目的を阻害しない範囲で種々の添加剤を配合することができる。例えば、粘度指数向上剤、酸化防止剤、清浄分散剤、摩擦調整剤(油性剤、極圧剤)、耐摩耗剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、および消泡剤などを必要に応じて配合することができる。
【0021】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン水素化共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の質量平均分子量は、例えば分散型および非分散型ポリメタクリレートでは5千以上、30万以下が好ましい。また、オレフィン系共重合体では800以上、10万以下程度が好ましい。これらの粘度指数向上剤は、単独でまたは複数種を任意に組合せて配合させることができるが、その配合量は、冷却油全量基準で0.1質量%以上、20質量%以下の範囲が好ましい。
【0022】
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにモリブデン系酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独でまたは複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常2種以上の組み合わせが好ましく、その配合量は、冷却油全量基準で0.01質量%以上、5質量%以下が好ましい。
【0023】
清浄分散剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリチレート、アルカリ土類金属ホスホネート等の金属系洗浄剤、並びにアルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、アルキルポリアミン、アルケニルコハク酸エステル等の無灰系分散剤が挙げられる。これらの清浄分散剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、冷却油全量基準で、0.1質量%以上、30質量%以下が好ましい。
【0024】
摩擦調整剤や耐摩耗剤としては、例えば硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物、塩素化油脂、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル、塩素化脂肪酸などの塩素系化合物、アルキル若しくはアルケニルマレイン酸エステル、アルキル若しくはアルケニルコハク酸エステルなどのエステル系化合物、アルキル若しくはアルケニルマレイン酸、アルキル若しくはアルケニルコハク酸などの有機酸系化合物、ナフテン酸塩、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)などの有機金属系化合物などが挙げられる。その配合量は、冷却油全量基準で0.1質量%以上、5質量%以下が好ましい。
【0025】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、その配合量は、冷却油全量基準で0.01質量%以下、3質量%以下が好ましい。
流動点降下剤としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、特に、ポリメタクリレートが好ましく用いられる。これらの配合量は、冷却油全量基準で0.01質量%以上、5質量%以下が好ましい。
消泡剤としては、液状シリコーンが適しており、例えば、メチルシリコーンやフルオロシリコーンなどが好適である。これら消泡剤の好ましい配合量は、冷却油全量基準で0.0005質量%以上、0.01質量%以下である。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
具体的には、表1に示すような各冷却油(試料油)を調製して、各種の評価を行った。評価方法(物性測定方法)および試料油の調製方法は以下の通りである。
【0027】
【表1】
【0028】
〔物性測定方法〕
(1)動粘度
JIS K 2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)熱伝導率
デカゴン社製 熱特性計KD2proを用い、シングルニードルセンサーにて測定した。
(3)密度
JIS K 2249に規定される「原油および石油製品−密度試験方法」に準拠して測定した。
(4)比熱
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製ダイヤモンドDSC)を用い、窒素フロー下、20℃から150℃まで10℃/分の昇温速度で測定した。
(5)熱浸透率
上記で測定した80℃における熱伝導率、密度および比熱の値を用い、熱を奪い取る能力(冷却性)の指標として次式により80℃での値を求めた。
熱浸透率=(密度×比熱×熱伝導率)1/2
(6)生分解度(BOD)
タイテック株式会社製BODテスター200Fを使用し、JIS K 6950に準拠して、28日間の生分解性試験を行って求めた。
(7)冷却速度
JIS K2242に規定される「冷却性能試験方法:A法」を用い、200℃に加熱した銀棒を80℃に加熱した200mlの試料油に入れ、銀棒表面の温度変化から100℃における冷却速度を求めた。
【0029】
〔実施例1〕
500ミリリットルのディーン・スターク装置付き四つ口フラスコに安息香酸メチル(東京化成工業株式会社製 試薬)245g、ポリエチレングリコール200(東京化成工業株式会社製 試薬)117g、チタンテトライソプロポキシド(東京化成工業株式会社製 試薬)0.1gを入れ、窒素気流攪拌下にメタノールを留去しながら150℃で4時間反応させた。その後、飽和食塩水による洗浄と、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を各々3回行った後、無水硫酸マグネシウム(東京化成工業株式会社製 試薬)で乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過した後、過剰の原料エステルを留去して、ポリエチレングリコール200の安息香酸ジエステルを219g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0030】
〔実施例2〕
安息香酸メチル245g、ポリエチレングリコール200 117gの代わりに、フェニル酢酸メチル(東京化成工業株式会社製 試薬)180g、ジエチレングリコール(東京化成工業株式会社製 試薬)43gを用いたこと以外は、実施例1と同様に行って、ジエチレングリコールのフェニル酢酸ジエステルを98g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0031】
〔実施例3〕
1リットルのディーン・スターク装置付き四つ口フラスコにアゼライン酸(東京化成工業株式会社製 試薬)136g、ベンジルアルコール(東京化成工業株式会社製 試薬)233g、混合キシレン80ml(東京化成工業株式会社製 試薬)、チタンテトライソプロポキシド(東京化成工業株式会社製 試薬)0.1gを入れ、窒素気流攪拌下に水を留去しながら165℃で4時間反応させた。その後、実施例1と同様に後処理をして、アゼライン酸ジベンジルを246g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0032】
〔実施例4〕
安息香酸メチル245g、ポリエチレングリコール200 117gの代わりに、安息香酸メチル(東京化成工業株式会社製 試薬)231g、エチレングリコールモノベンジルエーテル(東京化成工業株式会社製 試薬)228gを用いたこと以外は実施例1と同様に行って、エチレングリコールモノベンジルエーテルの安息香酸エステルを352g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0033】
〔比較例1〕
エチルジフェニル(新日鐵化学株式会社製 商品名:サームエス600)を試料油として上述の各物性を測定した。
【0034】
〔比較例2〕
ベンジルアルコール233gの代わりに、シクロヘキサンメタノール(東京化成工業株式会社製 試薬)246gを用いたこと以外は実施例3と同様に行って、シクロヘキサンメタノールのアゼライン酸ジエステルを251g得た。
このエステルを試料油として、上述の各物性を測定した。
【0035】
〔比較例3〕
パラフィン系鉱物油(出光興産株式会社製 商品名;ダイアナフレシアP32)を試料油として上述の各物性を測定した。
【0036】
〔比較例4〕
安息香酸メチル245g、ポリエチレングリコール200 117gの代わりに2−エチルヘキサン酸(東京化成工業株式会社製 試薬)165gと、ネオペンチルグリコール(東京化成工業株式会社製 試薬)52gを用いたこと以外は実施例1と同様に行って、ネオペンチルグリコール2−エチルヘキサン酸ジエステル160gを得た。
このエステルを試料油として、上述の各物性を測定した。
【0037】
〔比較例5〕
アゼライン酸ジ2−エチルヘキシル(東京化成工業株式会社製 試薬)を試料油として上述の各物性を測定した。
【0038】
〔評価結果〕
表1に示すように、実施例1から4までの各試料油(本発明の冷却油)は、いずれも2個の芳香族基(芳香環)が主鎖両末端に結合したエーテルまたはエステルであるので、冷却性に優れ、さらに生分解性にも優れる。また、80℃における動粘度も所定の範囲内であるので冷却油が摺動部分を流れる際にも潤滑性に優れる。それ故、本発明の冷却油は、電気自動車やハイブリッド車用のモーター冷却油として好適であることが理解できる。
一方、比較例1の試料油は、2個の芳香族基を有する化合物であるが、いわゆる主鎖部分を有さず、冷却性に劣る。また、この化合物は芳香族炭化水素であるため生分解性がほとんどない。比較例2の試料油は、2個の環状構造置換基が主鎖両末端に結合したエステルであるが、この環状構造置換基は芳香族基ではなく飽和炭化水素基であるので冷却性が十分でない。比較例3の試料油は、パラフィン系鉱物油であるので冷却性に劣り、生分解性もほとんどない。比較例4、5の試料油は、エステルであるが、主鎖の両末端に芳香族基が結合しておらず冷却性に劣る。
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却油および冷却方法に関し、詳しくは、モーター等の機器を効率よく冷却する冷却油およびそれを用いた冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド車の高性能化によりモーターの出力密度が上がり、発熱量が増加している。それに対応するため、モーターの高効率化による発熱量の低減、コイルや磁石等の耐熱性の向上とともに、種々の冷却設計が工夫されている。冷却法には空冷、水冷および油冷がある。空冷は、大きな冷却容量を確保するのが難しい。水冷は、水の熱伝導率が高いので冷却性には優れるが、導電性があるためモーターコイルを直接冷却できず、冷却パイプを張り巡らせる必要が生じて冷却装置が大きくなる欠点がある。
一方、油冷方式は上述した欠点がなく、コンパクトな設計も可能なため、ハイブリッド車や電気自動車のモーター冷却用として好ましい。
【0003】
このような、モーター冷却に使用される油例方式の油としては、例えば、低粘度の鉱物油や合成油に(A)炭化水素基含有ジチオリン酸亜鉛、(B)トリアリールホスフェート、および(C)トリアリールチオホスフェートのうち少なくともいずれかを配合してなる組成物が提案されている(特許文献1参照)。また、エステル系合成油を基油全量基準で10質量%以上、100質量%以下含有し、40℃における動粘度15mm2/s未満、粘度指数120以上、15℃における密度0.85g/cm3以上である基油を用いた熱伝達係数が780W/m2・℃以上である組成物(特許文献2参照)も同様の冷却油として提案されている。上述の各文献で提案された冷却油は、電気絶縁性や冷却性に優れており、電気自動車またはハイブリッド車等の電動モーター装着車に好適に用いられるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2002/097017号公報
【特許文献2】特開2009−242547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1では、組成物の冷却性については低粘度にすることしか触れておらず、冷却性能に関しては何のデータも開示されていない。また、実施例に基油として記載されているネオペンチルグリコール2−エチルヘキサン酸ジエステルやアルキルベンゼンは、熱伝導率が低く冷却性がよいとは言えない。さらに、アルキル芳香族化合物は、生分解性がなく高い生体濃縮性があり、特に有機熱媒体として使用されているアルキルジフェニルやアルキルナフタレンなどは化審法の第一種監視化学物質として自主管理が求められている。また、特許文献2において具体的に開示されているエステル化合物は、アゼライン酸ジ2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコール2−エチルヘキサン酸ジエステル、オレイン酸2−エチルヘキシルであるが、熱伝導率が低く好ましくない。
【0006】
ところで、流体による冷却性を示す尺度として「熱伝達係数(単位面積、単位温度、単位時間あたりの伝熱量)」があり、この値が大きいほど冷却性に優れる。熱伝達係数は物性値ではなく流速や材質などの条件により変化する値なので、設計により増大させることができるため、この値を高める設計工夫がなされている。
強制対流冷却の場合、熱伝達係数は、ヌッセルト数、レイノルズ数およびプラントル数が関係するので流体の物性値としては、動粘度、熱伝導率、比熱および密度が冷却性に影響する。すなわち、動粘度は小さいほど、熱伝導率、比熱および密度は大きいほど冷却性に優れる。したがって、従来は冷却油を低粘度化して乱流領域で強制対流させて冷却性能を上げることが検討されていた。しかしながら、低粘度化すると冷却性は向上するが、冷却油の流路に摺動部があると、十分な油膜厚さが確保できず潤滑不良となるため、必要最低限の限界粘度は摺動部の構造により決まることになる。それ故、同じ動粘度でも熱伝導率、比熱および密度が大きい油ほど冷却性が良いことになる。
例えば、温度が均一な板の強制対流条件下での理論上の熱伝達係数は、動粘度以外は、熱伝導率の3分の2乗、比熱の3分の1乗、および密度の3分の1乗の積に比例する。また垂直平板における自然対流条件の理論上の熱伝達係数には動粘度は影響せず、熱伝導率の4分の3乗、比熱の4分の1乗、および密度の4分の1乗の積に比例する。
【0007】
ここで、モーターの発熱はコイルのジュール発熱損失(銅損)が大半を占めるため、コイル銅線束の狭い隙間を冷却するのが有効であるが、狭い隙間の冷却に対流効果は殆ど期待できないので、銅線束内の冷却性は冷却油の熱浸透率(熱を奪い取る能力の指標、熱浸透率=(密度×比熱×熱伝導率)1/2)で評価することが妥当だと考えられる。
しかしながら、ある一つの分子構造で密度、比熱および熱伝導率全てを大きくすることは、各物性に影響を与える因子がそれぞれ相違するため不可能に近い。よって、その積が最大となる様な化合物を分子設計する必要があるが、その様な分子設計指針は全く知られておらず、高い熱浸透率を保有する化合物群を見出すのは大変困難な状況である。また、電気自動車やハイブリッド車のような電動モーター装着車は、炭酸ガス排出量の削減に貢献できるので地球温暖化防止を図れ環境に優しいと言われるが、そのためには、使用される冷却油にも環境に優しい性質すなわち生分解性を持つことが望まれる。
【0008】
そこで本発明は、高い熱浸透率を有し、さらに生分解性も備えた冷却油および該冷却油を用いた冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく、本発明は以下のような冷却油および冷却方法を提供するものである。
(1)エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなる冷却油であって、前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基であることを特徴とする冷却油。
(2)上述の(1)に記載の冷却油において、前記主鎖両末端がいずれもフェニル基であることを特徴とする冷却油。
(3)上述の(1)または(2)に記載の冷却油において、前記主鎖が分岐を有さないことを特徴とする冷却油。
(4)上述の(1)から(3)までのいずれか一つに記載の冷却油において、80℃における熱浸透率が500J/s0.5・m2・K以上であることを特徴とする冷却油。
(5)上述の(1)から(4)までのいずれか1つに記載の冷却油により冷却することを特徴とする冷却方法。
(6)上述の(5)に記載の冷却方法により機器を冷却することを特徴とする冷却方法。
(7)上述の(6)に記載の冷却方法において、前記機器がモーター、バッテリーおよびインバーターのうち少なくともいずれかであることを特徴とする冷却方法
(8)上述の(6)または(7)に記載の冷却方法において、前記機器が電動モーター装着車に用いられることを特徴とする冷却方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の冷却油によれば、熱浸透率が高く冷却性に優れるとともに、生分解性にも優れる。それ故、電気自動車や、ハイブリッド車等の電動モーター装着車に用いられるモーターの冷却用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の冷却油は、(以下、単に「本冷却油」ともいう。)は、エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなり、前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基である。ここで、主鎖とは分子中で一番長い鎖状構造部分をいうが芳香環は含まない。また、主鎖中にカルボキシル基やエーテル基が存在してもよい。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本冷却油の主成分(基油)はエステルまたはエーテルであって、主鎖両末端がいずれも芳香族基すなわち芳香環である。主鎖の両末端に芳香環が存在すると、分子振動が環全体で起こり振動エネルギーが分散しないように制御することができる。また芳香環は密度を高くする効果もある。また、主鎖中にエーテル結合やエステル結合があっても上述した振動への悪影響はなく、化合物全体に生分解性を付与できる。
芳香環としては、単環でも多環でもよいが、ナフタレン環やアントラセン環のような多環芳香族であると生分解性に劣り、また動粘度が高くなりすぎるおそれがある。従って、単環であるベンゼン環(フェニル基)が最も好ましい。また、芳香環(芳香族基)には主鎖以外に各種の置換基が結合していてもよい。例えば、メチル基やエチル基のような炭化水素基が一つ以上芳香環に結合していてもよい。ただし、熱伝導率を高くする観点より、このような置換基はないことが好ましい。
【0013】
また、熱伝導率を高くするためには、分子間の衝突による熱振動エネルギーの授受を良くすることと、分子内で振動エネルギーが拡散しない様にする分子設計が重要である。分子間の衝突頻度を増やすには、分子の主鎖を長くして、炭素−炭素結合間の回転運動により分子末端の可動範囲を広くすることが有効である。
それ故、本発明におけるエステルやエーテルの主鎖のメチレン基およびエーテル基の総数は3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。ただし、動粘度が高くなり過ぎないように、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましい。
【0014】
さらにまた、分子内で振動エネルギーを拡散させずに分子主鎖に集約されたままにするには、振動エネルギーを拡散させるような分岐を有さないことが好ましい。具体的には、メチル基やエチル基などの短鎖分岐を無くすことが重要である。それ故、本発明におけるエステルやエーテルの主鎖には、メチル基やエチル基などの炭素数4以下の分岐を有さないことが好ましい。
【0015】
上述したエステルは、通常のエステル製造法で製造すれば良く、特に制限はない。例えば、カルボン酸とアルコールの脱水反応やエステル交換反応などで容易に製造することができる。
カルボン酸としては、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸などのモノカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、および1,10−デカメチレンジカルボン酸などのジカルボン酸、およびこれらの誘導体であるカルボン酸エステル,カルボン酸塩化物などが用いられる。
アルコールとしては、ベンジルアルコール、2−フェネチルアルコール、2−フェノキシエタノール、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールなどのモノオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、およびポリエチレングリコール(両末端水酸基)などのジオールが好適に用いられる。
エステル化反応には、チタンテトライソプロポキシドなどの触媒を用いてもよいし、無触媒でも良い。
エーテル化合物は、ウイリアムソンエーテル合成法などの一般的なエーテル製造法で製造すればよく、特に制限はない。
【0016】
本冷却油は、冷却性や生分解性の観点より上述のエステルやエーテルのうち少なくともいずれか1種を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがもっとも好ましい。もちろん、冷却油として上述したエステルやエーテルのうち少なくともいずれかを100質量%用いてもよい。
【0017】
本冷却油は、冷却性の観点より80℃における熱浸透率が500J/s0.5・m2・K以上であることが好ましく、505J/s0.5・m2・K以上であることがより好ましく、510J/s0.5・m2・K以上であることがさらに好ましい。
【0018】
本冷却油は、80℃動粘度が2mm2/s以上、30mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは2mm2/s以上、20mm2/s以下である。80℃動粘度が2mm2/s未満であると、例えばモーターの冷却油として用いた場合、摺動部における潤滑性が不足するおそれがある。一方、80℃動粘度が30mm2/sを超えると、モーターの冷却油として系内循環等に支障をきたすおそれがある。
【0019】
本冷却油としては、上述したエステルやエーテルに他の成分(基油)を混合して使用することもできる。その場合、他の成分の種類としては特に制限はないが、本発明の効果を損なわない程度に混合する必要がある。特に、上述した粘度範囲を損なわず、さらに冷却性、絶縁性および潤滑性を損なわない成分であると、モーターの冷却用として好ましい。
このような他の成分としては、鉱油あるいは合成油が好ましく挙げられる。鉱油としては、例えばナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、GTL鉱油、WAX異性化鉱油などが挙げられる。具体的には、溶剤精製あるいは水添精製による軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストックなどが例示できる。
一方、合成油としては、ポリブテンまたはその水素化物、ポリα−オレフィン(1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等)またはその水素化物、α−オレフィンコポリマー、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ヒンダードエステル、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0020】
上述した本発明の冷却油は、各種の機器冷却用として好適に使用できる。特に、電気自動車やハイブリッド車等の電動モーター装着車用のモーター冷却用として好適であり、さらには、バッテリー、インバーター、エンジン、電池等の冷却にも好適に使用できる。
なお、本冷却油に対しては、本発明の目的を阻害しない範囲で種々の添加剤を配合することができる。例えば、粘度指数向上剤、酸化防止剤、清浄分散剤、摩擦調整剤(油性剤、極圧剤)、耐摩耗剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、および消泡剤などを必要に応じて配合することができる。
【0021】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン水素化共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の質量平均分子量は、例えば分散型および非分散型ポリメタクリレートでは5千以上、30万以下が好ましい。また、オレフィン系共重合体では800以上、10万以下程度が好ましい。これらの粘度指数向上剤は、単独でまたは複数種を任意に組合せて配合させることができるが、その配合量は、冷却油全量基準で0.1質量%以上、20質量%以下の範囲が好ましい。
【0022】
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにモリブデン系酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独でまたは複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常2種以上の組み合わせが好ましく、その配合量は、冷却油全量基準で0.01質量%以上、5質量%以下が好ましい。
【0023】
清浄分散剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリチレート、アルカリ土類金属ホスホネート等の金属系洗浄剤、並びにアルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、アルキルポリアミン、アルケニルコハク酸エステル等の無灰系分散剤が挙げられる。これらの清浄分散剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、冷却油全量基準で、0.1質量%以上、30質量%以下が好ましい。
【0024】
摩擦調整剤や耐摩耗剤としては、例えば硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物、塩素化油脂、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル、塩素化脂肪酸などの塩素系化合物、アルキル若しくはアルケニルマレイン酸エステル、アルキル若しくはアルケニルコハク酸エステルなどのエステル系化合物、アルキル若しくはアルケニルマレイン酸、アルキル若しくはアルケニルコハク酸などの有機酸系化合物、ナフテン酸塩、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)などの有機金属系化合物などが挙げられる。その配合量は、冷却油全量基準で0.1質量%以上、5質量%以下が好ましい。
【0025】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、その配合量は、冷却油全量基準で0.01質量%以下、3質量%以下が好ましい。
流動点降下剤としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、特に、ポリメタクリレートが好ましく用いられる。これらの配合量は、冷却油全量基準で0.01質量%以上、5質量%以下が好ましい。
消泡剤としては、液状シリコーンが適しており、例えば、メチルシリコーンやフルオロシリコーンなどが好適である。これら消泡剤の好ましい配合量は、冷却油全量基準で0.0005質量%以上、0.01質量%以下である。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
具体的には、表1に示すような各冷却油(試料油)を調製して、各種の評価を行った。評価方法(物性測定方法)および試料油の調製方法は以下の通りである。
【0027】
【表1】
【0028】
〔物性測定方法〕
(1)動粘度
JIS K 2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)熱伝導率
デカゴン社製 熱特性計KD2proを用い、シングルニードルセンサーにて測定した。
(3)密度
JIS K 2249に規定される「原油および石油製品−密度試験方法」に準拠して測定した。
(4)比熱
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製ダイヤモンドDSC)を用い、窒素フロー下、20℃から150℃まで10℃/分の昇温速度で測定した。
(5)熱浸透率
上記で測定した80℃における熱伝導率、密度および比熱の値を用い、熱を奪い取る能力(冷却性)の指標として次式により80℃での値を求めた。
熱浸透率=(密度×比熱×熱伝導率)1/2
(6)生分解度(BOD)
タイテック株式会社製BODテスター200Fを使用し、JIS K 6950に準拠して、28日間の生分解性試験を行って求めた。
(7)冷却速度
JIS K2242に規定される「冷却性能試験方法:A法」を用い、200℃に加熱した銀棒を80℃に加熱した200mlの試料油に入れ、銀棒表面の温度変化から100℃における冷却速度を求めた。
【0029】
〔実施例1〕
500ミリリットルのディーン・スターク装置付き四つ口フラスコに安息香酸メチル(東京化成工業株式会社製 試薬)245g、ポリエチレングリコール200(東京化成工業株式会社製 試薬)117g、チタンテトライソプロポキシド(東京化成工業株式会社製 試薬)0.1gを入れ、窒素気流攪拌下にメタノールを留去しながら150℃で4時間反応させた。その後、飽和食塩水による洗浄と、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を各々3回行った後、無水硫酸マグネシウム(東京化成工業株式会社製 試薬)で乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過した後、過剰の原料エステルを留去して、ポリエチレングリコール200の安息香酸ジエステルを219g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0030】
〔実施例2〕
安息香酸メチル245g、ポリエチレングリコール200 117gの代わりに、フェニル酢酸メチル(東京化成工業株式会社製 試薬)180g、ジエチレングリコール(東京化成工業株式会社製 試薬)43gを用いたこと以外は、実施例1と同様に行って、ジエチレングリコールのフェニル酢酸ジエステルを98g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0031】
〔実施例3〕
1リットルのディーン・スターク装置付き四つ口フラスコにアゼライン酸(東京化成工業株式会社製 試薬)136g、ベンジルアルコール(東京化成工業株式会社製 試薬)233g、混合キシレン80ml(東京化成工業株式会社製 試薬)、チタンテトライソプロポキシド(東京化成工業株式会社製 試薬)0.1gを入れ、窒素気流攪拌下に水を留去しながら165℃で4時間反応させた。その後、実施例1と同様に後処理をして、アゼライン酸ジベンジルを246g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0032】
〔実施例4〕
安息香酸メチル245g、ポリエチレングリコール200 117gの代わりに、安息香酸メチル(東京化成工業株式会社製 試薬)231g、エチレングリコールモノベンジルエーテル(東京化成工業株式会社製 試薬)228gを用いたこと以外は実施例1と同様に行って、エチレングリコールモノベンジルエーテルの安息香酸エステルを352g得た。
このエステルを試料油として上述の各物性を測定した。
【0033】
〔比較例1〕
エチルジフェニル(新日鐵化学株式会社製 商品名:サームエス600)を試料油として上述の各物性を測定した。
【0034】
〔比較例2〕
ベンジルアルコール233gの代わりに、シクロヘキサンメタノール(東京化成工業株式会社製 試薬)246gを用いたこと以外は実施例3と同様に行って、シクロヘキサンメタノールのアゼライン酸ジエステルを251g得た。
このエステルを試料油として、上述の各物性を測定した。
【0035】
〔比較例3〕
パラフィン系鉱物油(出光興産株式会社製 商品名;ダイアナフレシアP32)を試料油として上述の各物性を測定した。
【0036】
〔比較例4〕
安息香酸メチル245g、ポリエチレングリコール200 117gの代わりに2−エチルヘキサン酸(東京化成工業株式会社製 試薬)165gと、ネオペンチルグリコール(東京化成工業株式会社製 試薬)52gを用いたこと以外は実施例1と同様に行って、ネオペンチルグリコール2−エチルヘキサン酸ジエステル160gを得た。
このエステルを試料油として、上述の各物性を測定した。
【0037】
〔比較例5〕
アゼライン酸ジ2−エチルヘキシル(東京化成工業株式会社製 試薬)を試料油として上述の各物性を測定した。
【0038】
〔評価結果〕
表1に示すように、実施例1から4までの各試料油(本発明の冷却油)は、いずれも2個の芳香族基(芳香環)が主鎖両末端に結合したエーテルまたはエステルであるので、冷却性に優れ、さらに生分解性にも優れる。また、80℃における動粘度も所定の範囲内であるので冷却油が摺動部分を流れる際にも潤滑性に優れる。それ故、本発明の冷却油は、電気自動車やハイブリッド車用のモーター冷却油として好適であることが理解できる。
一方、比較例1の試料油は、2個の芳香族基を有する化合物であるが、いわゆる主鎖部分を有さず、冷却性に劣る。また、この化合物は芳香族炭化水素であるため生分解性がほとんどない。比較例2の試料油は、2個の環状構造置換基が主鎖両末端に結合したエステルであるが、この環状構造置換基は芳香族基ではなく飽和炭化水素基であるので冷却性が十分でない。比較例3の試料油は、パラフィン系鉱物油であるので冷却性に劣り、生分解性もほとんどない。比較例4、5の試料油は、エステルであるが、主鎖の両末端に芳香族基が結合しておらず冷却性に劣る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなる冷却油であって、
前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基である
ことを特徴とする冷却油。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却油において、
前記主鎖両末端がいずれもフェニル基である
ことを特徴とする冷却油。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の冷却油において、
前記主鎖が分岐を有さない
ことを特徴とする冷却油。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の冷却油において、
80℃における熱浸透率が500J/s0.5・m2・K以上である
ことを特徴とする冷却油。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の冷却油により冷却する
ことを特徴とする冷却方法。
【請求項6】
請求項5に記載の冷却方法により機器を冷却する
ことを特徴とする冷却方法
【請求項7】
請求項6に記載の冷却方法において
前記機器がモーター、バッテリーおよびインバーターのうち少なくともいずれかである
ことを特徴とする冷却方法
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の冷却方法において、
前記機器が電動モーター装着車に用いられる
ことを特徴とする冷却方法。
【請求項1】
エステルおよびエーテルのうち少なくともいずれかを配合してなる冷却油であって、
前記エステルおよびエーテルは、主鎖両末端がいずれも芳香族基である
ことを特徴とする冷却油。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却油において、
前記主鎖両末端がいずれもフェニル基である
ことを特徴とする冷却油。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の冷却油において、
前記主鎖が分岐を有さない
ことを特徴とする冷却油。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の冷却油において、
80℃における熱浸透率が500J/s0.5・m2・K以上である
ことを特徴とする冷却油。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の冷却油により冷却する
ことを特徴とする冷却方法。
【請求項6】
請求項5に記載の冷却方法により機器を冷却する
ことを特徴とする冷却方法
【請求項7】
請求項6に記載の冷却方法において
前記機器がモーター、バッテリーおよびインバーターのうち少なくともいずれかである
ことを特徴とする冷却方法
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の冷却方法において、
前記機器が電動モーター装着車に用いられる
ことを特徴とする冷却方法。
【公開番号】特開2012−17391(P2012−17391A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154986(P2010−154986)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
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