説明

冷却装置及びその使用方法

【課題】冷却媒体を強制的に排除して材料特性及び/又は平坦度への悪影響を回避するとともに、冷却媒体の滴下を早期に防止して金属製品の生産性を向上させることが可能な冷却装置及びその使用方法を提供する。
【解決手段】被冷却材が移動するラインの上方に設置され、ライン上を移動する被冷却材を冷却すべき冷却媒体が流通する冷却媒体収納容器を有し、冷却媒体収納容器に設けられた複数の孔から冷却媒体を吐出して被冷却材を冷却する冷却装置であって、空気が流通する空気導入管が冷却媒体収納容器に接続され、空気導入管に空気導入のON/OFFを切り替える空気導入弁が接続され、冷却媒体収納容器内の圧力を低減可能な減圧弁を有する冷却装置とし、空気導入弁を開けて冷却媒体収納容器内へ空気を導入し、冷却媒体収納容器内に存在する冷却媒体を孔から冷却媒体収納容器外へ吐出した後、空気導入弁の閉動作の開始時以後に減圧弁を開ける冷却装置の使用方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の被冷却材を冷却する冷却装置およびその冷却装置の使用方法に関し、さらに詳しくは、熱間圧延後の鋼板等のように移動ライン上を移動する高温の板状材料を上面および下面から冷却する冷却装置、およびその冷却装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料または金属製品(以下、総称して「金属材料」や「金属製品」とも記す。)の製造プロセスにおいては、例えば熱間圧延後の金属材料を冷却する場合のように、高温の材料を強制冷却することにより所望の金属組織や機械的特性を得る工程が多々存在する。金属材料製造プロセスにおける強制冷却は、一般に、被冷却材(冷却されるべき高温の材料)が移動するラインに設置された強制冷却装置内に被冷却材である金属材料を導入し、その表面に冷却水等の冷却媒体を吐出供給することにより行われる。
【0003】
被冷却材の強制冷却装置としては、具体的には、ライン上を移動する被冷却材の上方、および、その底部に複数の冷却媒体吐出孔(以下において、単に「孔」とも記す。)を有する冷却媒体収納容器(ヘッダ)を設置し、このヘッダに冷却媒体を供給して、冷却媒体吐出孔から被冷却材に冷却媒体を吐出供給することにより、被冷却材を冷却する方式のものが多く用いられている。
【0004】
冷却媒体は、被冷却材が強制冷却装置(以下において、「冷却装置」とも記す。)中を通過する度に冷却媒体吐出孔から吐出される。被冷却材が冷却装置を通過した後、冷却媒体の供給は停止されるが、一部の冷却媒体は冷却装置内に滞留するために、冷却媒体は供給停止後も一定時間に亘ってライン上に滴下を続ける。
【0005】
ここで、例えば冷却媒体吐出後に被冷却材をライン上で逆走させる場合、あるいは冷却不要材(冷却装置で冷却しない高温の材料)を冷却装置中に通過させる場合、冷却媒体が滴下し被冷却材または冷却不要材(以下、総称して単に「被冷却材」とも記す。)に跳ねかかると、被冷却材の材料特性や平坦度に大きな影響が生じる。材料特性等に影響を与えずに金属製品の生産効率を上げるためには、冷却媒体の除去、いわゆる水切りを早急に完了させる必要がある。冷却媒体を強制的に除去制御する発明には以下のようなものがある。
【0006】
特許文献1には、空気の排気をノズルの直近且つ冷却水流れ方向に導入し、排気によってノズル内の残留冷却水をパージする(外に追いやる)ことを特徴とする熱間圧延でのスプレーノズルの水切り方法が開示されている。このように、空気を用いて冷却媒体(冷却水)をパージすることは一般に行われている技術である。
【0007】
特許文献2には、ノズルヘッダ内から冷却水を外部へ排出可能とする冷却水排出管と、冷却水供給制御手段とノズルヘッダの間に空気を導入可能とする空気導入管とを備えているとともに、ノズルヘッダに取り付けられたノズル群の各ノズルはノズルヘッダ内に所定長さ貫通し、各ノズルの冷却水流入口は少なくとも冷却水排出管の下端部より上方に位置している鋼材の冷却装置が開示されている。特許文献2に記載の発明がこのような構成をとるのは、冷却水排出管と空気導入管とを同時に作動させることで冷却水を冷却水排出管から排出させることを意図しているためであり、空気によりノズルからの水切りを行うことは意図していない。むしろ、特許文献2に記載の発明では、その明細書段落0047に記載されているように、空気を送りノズルから高い圧力で冷却水を噴射することは過冷却が発生するため好ましくないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−79608号公報
【特許文献2】特開2009−220158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、冷却媒体の供給停止後も冷却装置内に滞留し滴下を続ける冷却媒体を強制的に排除して、被冷却材の材料特性および/または平坦度への悪影響を回避するとともに、いち早く冷却媒体の滴下を防止することで金属製品の生産性を向上させることが可能な冷却装置、およびその冷却装置の使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
空気を用いて冷却媒体を強制的にノズルから噴射する(パージする)ことにより、水切りを行うことができる。パージ開始直後は冷却媒体が勢いよく吐出されるものの、しばらく経つとノズルから排出される冷却媒体は少なくなる。これは、冷却媒体収納容器内に残存する冷却媒体の残存量が少なくなることに起因するが、一方で、少なくなった冷却媒体は空気導入管から導入された空気によって冷却媒体収納容器内にわずかに残存する冷却媒体の滴下が直ぐには止まらない状態になると考えられる。
【0011】
冷却媒体を冷却媒体収納容器内から完全に除去できれば、冷却媒体の滴下によって被冷却材の材料特性および/または平坦度が悪影響を受けることはない。
【0012】
これに対し、発明者らは、パージ後、完全に冷却媒体の除去ができなくても冷却媒体が冷却媒体収納容器から滴下しなければよいと考え、そのための冷却媒体の制御方法を検討した。
【0013】
冷却媒体にはそもそも表面張力が存在する。よって、冷却媒体収納容器内に残存した冷却媒体は、なんら圧力がかからなければ、表面張力によってその位置に留まる。このことから、冷却媒体収納容器内の圧力を抜く弁(減圧弁)を設け、この弁を開いて冷却媒体収納容器内の圧力を低減することにより、冷却媒体収納容器内にわずかに残存する冷却媒体の滴下を防止することが可能になると考えた。発明者らは、以上のような知見を得て、本発明を完成させた。
【0014】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするため、添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の第1の態様は、被冷却材が移動するラインの上方に設置され、該ライン上を移動する被冷却材を冷却すべき冷却媒体が流通する冷却媒体収納容器(12x)を有し、該冷却媒体収納容器に設けられた複数の孔(12y、12y、…)から冷却媒体を吐出して被冷却材を冷却する冷却装置(10)であって、冷却媒体収納容器に接続された空気導入管(14)を介して、冷却媒体収納容器に空気が導入され、空気導入管に、空気導入のON/OFFを切り替える空気導入弁(16)が接続され、冷却媒体収納容器内の圧力を低減可能な減圧弁(15)を有することを特徴とする、冷却装置(10)である。
【0016】
また、上記本発明の第1の態様において、減圧弁(15、15)が、空気導入弁(16)と冷却媒体収納容器(22x、32x)との間に存在する空気導入管(18a、19a)に接続されていることが好ましい。
【0017】
本発明の第2の態様は、上記本発明の第1の態様にかかる冷却装置(10)を使用する方法であって、空気導入弁(16)を開けて冷却媒体収納容器(12x)内へ空気を導入し、導入された空気を用いて、冷却媒体収納容器内に存在する冷却媒体を孔(12y、12y、…)から冷却媒体収納容器外へと吐出した後、空気導入弁の閉動作の開始時以後に減圧弁(15)を開けることを特徴とする、冷却装置の使用方法である。
【0018】
ここに、「導入された空気を用いて、冷却媒体収納容器内に存在する冷却媒体を孔(12y、12y、…)から冷却媒体収納容器外へと吐出した後」は、導入された空気を用いた冷却媒体の吐出が開始された後であればよい。
【0019】
また、上記本発明の第2の態様において、空気導入弁(16)を開ける前に減圧弁(15)を一旦開けた状態にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、冷却媒体収納容器(12x)に空気導入管(16)より空気を導入することができるので、冷却媒体収納容器に設けられた孔(12y、12y、…)から冷却媒体を強制吐出することができる。さらに、空気導入後に減圧弁(15)を開いて冷却媒体収納容器内の圧力を低減することにより、冷却媒体収納容器内になお残存する冷却媒体を、その場所に固定でき、孔からの吐出・滴下を防止することができる。この結果、冷却媒体の被冷却材への跳ねかかりもなく、適正な特性を有する金属製品を製造することができる。また、水切りが完了するまでの所要時間も従来に比べて短縮することができるので、生産性も向上する。すなわち、本発明によれば、冷却媒体の供給停止後も冷却装置内に滞留し滴下を続ける冷却媒体を強制的に排除して、被冷却材の材料特性および/または平坦度への悪影響を回避するとともに、いち早く冷却媒体の滴下を防止することで金属製品の生産性を向上させることが可能な冷却装置(10)、およびその冷却装置の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】冷却装置10を説明する図である。
【図2】冷却装置の形態例を説明する図である。図2(a)は上冷却装置12を説明する図である。図2(b)は上冷却装置22を説明する図である。図2(c)は上冷却装置32を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を適宜参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、図面では、繰り返される一部符号の記載を省略する。
【0023】
1.冷却装置
図1は、本発明の冷却装置10の概要を示した図である。同図では、下方に設置される下冷却装置11、および、上部に設置される上冷却装置12へ冷却媒体(水)を導く配管13も併せて示した。冷却装置10によって冷却される不図示の被冷却材は、下冷却装置11と上冷却装置12との間に位置するライン上を、図1の紙面垂直方向に移動する。下冷却装置11は、冷却媒体収納容器11xを有しており、冷却媒体収納容器11xには、冷却媒体が吐出される複数の孔(ノズル)11y、11y、…が設けられている。また、上冷却装置12は、冷却媒体収納容器12xを有しており、冷却媒体収納容器12xには、冷却媒体が吐出される複数の孔(ノズル)12y、12y、…が設けられている。冷却媒体収納容器12xには、冷却媒体を冷却媒体収納容器12xへ導く配管13、冷却媒体収納容器12xへ導入される空気が流通する空気導入管14、及び、冷却媒体収納容器12x内の圧力を低減する際に開かれる減圧弁15が接続されており、空気導入管14には、空気導入のON/OFFを切り替える空気導入弁16が接続されている。冷却装置10によって、ライン上を移動する被冷却材を冷却する際には、下冷却装置11に設けられた複数の孔(ノズル)11y、11y、…や上冷却装置12に設けられた複数の孔(ノズル)12y、12y、…から冷却媒体が吐出される。上冷却装置12の場合、例えば、自然落下により冷却媒体が吐出される。
【0024】
被冷却材の冷却が終了すると、冷却媒体収納容器11x、12xへの冷却媒体の供給が遮断されるが、遮断直後は、冷却媒体収納容器12x内に残存する冷却媒体が孔12y、12y、…から滴下する。滴下量は徐々に減少するが、滴下が完全に停止するまではかなりの時間を要する。
【0025】
このため、本発明の冷却装置10は、冷却媒体収納容器12xに空気を導入する空気導入管14を備えている。冷却媒体収納容器12xに空気を導入すれば、空気圧により押し出される冷却媒体を、冷却媒体収納容器12xから孔12y、12y、…を通して排出することができる。空気導入管14には空気導入弁16が配されており、当該弁16を開くことにより圧縮された空気がエアタンク(図1では不図示)から冷却媒体収納容器12xに導入される。空気導入弁16は、後述する減圧弁15と連動させることにより、残存する冷却媒体が孔12y、12y、…から滴下しない制御が可能となる。
【0026】
減圧弁15は、空気導入管14から導入された圧縮空気により冷却媒体収納容器12x内に付与された圧力を解放するための開閉弁である。このため、減圧弁15の一方は大気と接続される。当該弁15を開けることにより圧縮空気を冷却媒体収納容器12xの外へ逃がすことができるので、冷却媒体収納容器12x内の圧力を大気圧にすることができる。
【0027】
図2は、本発明の冷却装置の形態例を説明する図である。図2(a)は、減圧弁15が冷却媒体収納容器12xに直接配置されている上冷却装置12を示しており、図2(b)は、減圧弁15、15が空気導入管18に直接的に配置されている上冷却装置22を示しており、図2(c)は、減圧弁15、15が空気導入管19に配置されている上冷却装置32を示している。図2(b)および図2(c)において、図2(a)と同様の構成には図2(a)で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0028】
図2(a)に示した上冷却装置12は、冷却媒体収納容器12x(以下において、「容器12x」ということがある。)を有している。複数の孔12y、12y、…が設けられている該容器12xには、一端がエアタンク17に接続された空気導入管14、および、減圧弁15が接続されている。さらに、容器12xは、図1に示した配管13を介して供給される冷却媒体の入口である給水口12zを有しており、空気導入管14には、空気導入弁16が設けられている。このように構成される上冷却装置12は、空気導入管14および該空気導入管14に設けられた空気導入弁16を有しているので、空気導入弁16を開くことにより、エアタンク17に充填されている圧縮空気を容器12xへと導入することができる。また、容器12xに減圧弁15が接続されているので、例えば減圧弁15を開くことにより、圧縮空気が供給された容器12x内の圧力を大気圧まで低減することができる。
【0029】
図2(b)に示した上冷却装置22は、冷却媒体収納容器22x(以下において、「容器22x」ということがある。)を有している。容器22xには、被冷却材に向かって吐出される冷却媒体が通過する複数の孔22y、22y、…が設けられており、容器22xへと供給される冷却媒体の入口として機能する給水口22zが設けられている。容器22xには、一端がエアタンク17に接続され且つ途中の分岐点で2方向へ分岐している空気導入管18が接続されており、分岐点とエアタンク17との間に空気導入弁16が配され、2方向に分岐している空気導入管18の分岐管18a、18aに、減圧弁15、15がそれぞれ配されている。このように構成される上冷却装置22は、空気導入管18および該空気導入管18に設けられた空気導入弁16を有しているので、空気導入弁16を開くことにより、エアタンク17に充填されている圧縮空気を容器22xへと導入することができる。また、容器22xに接続されている分岐管18a、18aに減圧弁15、15が配されているので、例えば減圧弁15、15を開くことにより、圧縮空気が供給された容器22x内の圧力を大気圧まで低減することができる。
【0030】
図2(c)に示した上冷却装置32は、冷却媒体収納容器32x(以下において、「容器32x」ということがある。)を有している。容器32xには、被冷却材に向かって吐出される冷却媒体が通過する複数の孔32y、32y、…が設けられており、容器32xへと供給される冷却媒体の入口として機能する給水口32zが設けられている。容器32xには、一端がエアタンク17に接続され且つ途中の分岐点で2方向へ分岐している空気導入管19が接続されており、分岐点とエアタンク17との間に空気導入弁16が配され、2方向に分岐している空気導入管19の分岐管19a、19aに、減圧弁15、15がそれぞれ接続されている。このように構成される上冷却装置32は、空気導入管19および該空気導入管19に設けられた空気導入弁16を有しているので、空気導入弁16を開くことにより、エアタンク17に充填されている圧縮空気を容器32xへと導入することができる。また、容器32xに接続されている分岐管19a、19aに減圧弁15、15が接続されているので、例えば減圧弁15、15を開くことにより、圧縮空気が供給された容器32x内の圧力を大気圧まで低減することができる。
【0031】
図2(a)乃至図2(c)に示したように、本発明の冷却装置において、減圧弁15は、冷却媒体収納容器内の圧力を低減できれば、その位置や数は限定されない。ただし、一の管に配置することによってメインテナンスの点で有利な形態にする等の観点からは、図2(b)および図2(c)に示したように、空気導入弁16よりも冷却媒体収納容器側に位置している空気導入管の部位に、減圧弁を配置することが好ましい。
【0032】
また、上記説明では、冷却媒体収納容器に1系統の配管群(空気導入弁および減圧弁を含めた空気導入管。以下において同じ。)が接続された形態を例示したが、本発明の冷却装置は当該形態に限定されない。本発明の冷却装置は、1つの冷却媒体収納容器に複数の系統の配管群が接続された形態とすることも可能である。例えば、冷却媒体収納容器がその内部で複数の部屋に仕切られている場合には、部屋ごとに1つの配管群を接続してもよい。1つの冷却媒体収納容器に複数の配管群を接続する場合、冷却媒体収納容器内に均等に空気を導入可能であり、且つ、減圧弁を用いて冷却媒体収納容器内の圧力を低減可能な形態にする等の観点から、複数の配管群を、冷却媒体収納容器の幅方向(図1及び図2の紙面左右方向)の中央に対して対称に配置することが好ましい。
【0033】
2.冷却装置の使用方法
本発明の冷却装置を用いて冷却媒体の滴下を早期に防止するためには、冷却装置に備えられる空気導入弁および減圧弁の動作を適切に制御することが好ましい。
【0034】
本発明の冷却装置を使用する際には、例えば、ライン上を移動する被冷却材の冷却が終了し、冷却媒体収納容器への冷却媒体の供給終了後または供給終了直前に、空気導入弁を開け、減圧弁を閉じる状態とする。このように使用することで、冷却媒体収納容器内に空気が導入され、冷却媒体に圧力が付与されることにより、冷却媒体の孔からの吐出が促進される。
【0035】
さらに、冷却媒体収納容器内に空気が導入されて冷却媒体が孔から吐出され、孔からの滴下がほぼなくなった後(例えば、冷却媒体の滴下が板内温度分布に影響を及ぼさない量まで減少した後)、空気導入弁を閉じる動作が開始された時以後に減圧弁を開けることにより、冷却媒体収納容器内の圧力を低下させる。圧縮空気から圧力が付与された状態のままでは、冷却媒体収納容器内の冷却媒体が完全になくならない限り、孔からの滴下は止まらない。そこで、減圧弁を開けて冷却媒体収納容器内の圧力を低下させることにより、強制的な冷却媒体の排除(冷却媒体の滴下)を回避する。このとき、冷却媒体は冷却媒体収納容器内に微量残存するが、当該冷却媒体は表面張力により固定されて、孔から滴下することはない。
【0036】
冷却媒体が孔から吐出された後(空気導入弁を開けた後)に減圧弁を開け始める時期は、空気導入弁を閉め始めた時以後且つ空気導入弁が完全に閉まる前とすることが好ましい。空気導入弁が完全に閉まる迄には一定の時間がかかるので、完全に閉まる前に減圧弁を開け始めることにより、水切り完了迄の所要時間を短縮することが可能になるためである。
【0037】
また、本発明の冷却装置を使用する際、冷却媒体収納容器内の冷却媒体の挙動が大きく乱れると、却って冷却媒体の孔からの吐出が遅くなることがある。例えば、冷却媒体収納容器内に大量の冷却媒体が残存した状態で空気を導入したり、冷却媒体収納容器内へと導入される空気の圧力が高すぎたりする場合には、冷却媒体の挙動が乱れやすい。このため、残存する冷却媒体の量や空気圧等を考慮して、空気導入弁から空気を導入することが好ましい。具体的には、空気導入弁を開ける前に、減圧弁を一旦開け、その後、減圧弁を閉めることが好ましい。
【0038】
冷却媒体収納容器内にいまだ大量の冷却媒体が存在する場合、この冷却媒体に、空気導入弁を開放して圧力の高い空気を直接導入すると、冷却媒体の挙動が乱れ得る。冷却媒体の挙動が乱れると冷却媒体の孔からの吐出が遅くなる虞がある。そこで、この乱れの発生を回避するために、空気導入弁を開ける前に一旦減圧弁を開けた状態にし、冷却媒体収納容器内の空気圧を低減する。こうして、減圧弁を一時的に開閉することにより冷却媒体収納容器内の圧力は低空気圧下から徐々に上昇し、冷却媒体が乱れることなく孔から吐出されるので、早期に水切りを完了することが可能になる。
【0039】
空気導入弁を開ける前に減圧弁を開けるタイミングは、例えば、冷却媒体収納容器への冷却媒体導入停止後とすることができる。このほか、冷却媒体が冷却媒体収納容器に導入されている時に減圧弁を開けてもよい。
【0040】
開けられた減圧弁は、空気導入弁が開けられる前に、閉じることが好ましい。空気導入弁を開けることに伴い、減圧弁が開いていると、冷却媒体に十分な圧力をかけることが困難になりやすい。そのため、冷却媒体の孔からの吐出を促進可能な形態にする等の観点からは、空気導入弁を開ける前に減圧弁を閉じることが好ましい。
【0041】
本発明の冷却装置を以上の方法で使用することで、すばやく冷却媒体の滴下を防止できるので、被冷却材の材料特性および/または平坦度への悪影響を回避できると共に、いち早く冷却媒体の滴下を防止することで金属製品の生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0042】
図2(b)に示したような空気導入弁および減圧弁を有する冷却装置を用い、冷却媒体として水を用いて、水切りが完了するまでの所要時間(以下において、「水切り時間」という。)を測定した。表1に、実験条件とともに、水切り時間を示す。表1において、「導入空気圧力」は空気導入管から冷却媒体収納容器に導入した空気の圧力[MPa]、「パージタイミング」は水の供給を遮断し始めてから空気導入弁を開けるまでの時間[秒]、「パージ時間」は空気導入弁を開けてから閉めるまでの時間[秒]、「減圧弁タイミング」は水の供給を遮断してから減圧弁を開けるまでの時間[秒]、「減圧弁開時間」は減圧弁を開けてから閉めるまでの時間[秒]、「水切り時間」は水の供給を遮断してから水の滴下がなくなるまでの時間[秒]である。
【0043】
本発明例1および本発明例2では、水の供給を遮断後、一旦減圧弁を開閉し、その後、空気導入弁を開けることにより、冷却媒体収納容器内の水が乱れることを防いで、冷却媒体収納容器に残存する水を孔から吐出させた。
【0044】
表1にはあわせて、減圧弁を有さない冷却装置の例(図2(b)に示した冷却装置において減圧弁を使用しない場合の例)を比較例1として、また、空気導入弁および減圧弁を有さない冷却装置の例(図2(b)に示した冷却装置において空気導入弁および減圧弁を使用しない場合の例)を比較例2として示した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示したように、本発明の冷却装置を使用した本発明例1乃至本発明例3は、いずれも水切り時間が50秒未満となった。これに対し、単にパージした例(比較例1)、および、パージすら行わなかった例(比較例2)は、本発明例に比べ水切りが完了する迄に倍近くの時間を要した。
【0047】
また、導入空気圧力が0.2MPaであった本発明例2および本発明例3の結果から、空気導入弁を開く前に減圧弁を開閉し、空気導入弁を開いた本発明例2は、空気導入弁を開く前に減圧弁の開閉動作を行わなかった本発明例3と比較して、空気導入弁を開けてから水切りが完了する迄の所要時間が7秒短かった。この結果から、空気導入弁を開く前に減圧弁の開閉動作を行うことにより、水切りが完了するまでの所要時間を短縮することが可能になり、金属製品の生産性を向上させやすくなることが分かる。
【0048】
以上より本発明によれば、水切り時間の短縮化が図れ、生産性が向上する。また、水切りを行うことにより、滴り落ちてきた水が被冷却材にかかることもないので適正な特性を有する材金属製品を製造することができることが分かる。
【符号の説明】
【0049】
10…冷却装置
11…下冷却装置
11x、12x、22x、32x…冷却媒体収納容器
11y、12y、22y、32y…孔
12、22、32…上冷却装置
12z、22z、32z…給水口
13…配管
14、18、19…空気導入管
15…減圧弁
16…空気導入弁
17…エアタンク
18a、19a…分岐管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却材が移動するラインの上方に設置され、前記ライン上を移動する前記被冷却材を冷却すべき冷却媒体が流通する冷却媒体収納容器を有し、該冷却媒体収納容器に設けられた複数の孔から前記冷却媒体を吐出して前記被冷却材を冷却する冷却装置であって、
前記冷却媒体収納容器に接続された空気導入管を介して、前記冷却媒体収納容器に空気が導入され、
前記空気導入管に、空気導入のON/OFFを切り替える空気導入弁が接続され、
前記冷却媒体収納容器内の圧力を低減可能な減圧弁を有することを特徴とする、冷却装置。
【請求項2】
前記減圧弁が、前記空気導入弁と前記冷却媒体収納容器との間に存在する前記空気導入管に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冷却装置を使用する方法であって、
前記空気導入弁を開けて前記冷却媒体収納容器内へ空気を導入し、導入された前記空気を用いて、前記冷却媒体収納容器内に存在する前記冷却媒体を前記孔から前記冷却媒体収納容器外へと吐出した後、
前記空気導入弁の閉動作の開始時以後に前記減圧弁を開けることを特徴とする、冷却装置の使用方法。
【請求項4】
前記空気導入弁を開ける前に前記減圧弁を一旦開けた状態にすることを特徴とする、請求項3に記載の冷却装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−52399(P2013−52399A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190368(P2011−190368)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)