説明

冷間圧延炭素鋼板用スラブの連続鋳造方法

【目的】 スラブの連続鋳造において、鋳型内湯面部の皮張りを防止すると共に、ブロホール発生とシェル表層内への介在物捕捉を防止し、表面及び内部ともに欠陥の無い高品質の冷間圧延炭素鋼板用スラブを確実に高位安定して得る。
【構成】 C<0.10%、Mn<0.55%、Si<0.03%、P<0.05%、S<0.03%、0.003 %<Al<0.1 %、厚み>200mm 、幅>900mm の冷間圧延炭素鋼板用スラブを、鋳型のメニスカスから20m以上の垂直部とこれに続く湾曲部と水平部を形成した連続鋳造機で連続鋳造する。その際、鋳造ノズルからの吐出溶鋼中に1l/min以上の不活性ガスを混入して溶鋼を鋳型内に注出すると共に、この鋳型のメニスカスに粘性が1.0ポアズ以上のパウダーを添加しながら1.0m/min以上で且つ4.0ton/min以上の鋳造速度で鋳造し、鋳型のメニスカスから1.5m以内の垂直部にある溶鋼を電磁攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、冷間圧延炭素鋼板用スラブの連続鋳造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】冷間圧延炭素鋼板用スラブの連続鋳造に際しては、製品の表面及び内部欠陥防止上、および鋳造ノズルの注出孔狭窄による生産性(ton/hr)阻害防止上、従来から溶鋼中のAl2 3 等の酸化生成介在物の低減対策が種々とられてきた。
【0003】その代表的な従来からの手段は、鋳造ノズルの内壁と溶鋼流との間に、不活性ガスカーテンを形成して、鋳造ノズル内壁への溶鋼中Al2 3 付着防止を図ると共に、その不活性ガスを鋳造ノズルの吐出溶鋼中に随伴させて通常湾曲した鋳型内に注出し、該ガスの鋳型内浮上作用によって鋳型内溶鋼中のAl2 3 等の介在物を浮上促進しメニスカス部のパウダーに捕捉させその清浄化を図ってきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらこの従来の方法では、鋳造ノズルからの吐出溶鋼中に随伴した不活性ガスによる問題がいまだ解決されていない。
【0005】即ち、湾曲鋳型内において、鋳造ノズルからの吐出溶鋼中に随伴した不活性ガスは、多少多いと浮上過程で凝固シェル内表面の半凝固界面部にトラップされて鋼中に気泡として残留する。又不活性ガスの量が多過ぎると浮上ガス上流による上昇溶鋼流が強くこれがメニスカス部で反転し下降流となり、この下降流によりメニスカス部にある溶融パウダーが溶鋼中に巻き込まれ溶鋼を著しく汚染しスラブ品質を低下させるばかりか、溶鋼の凝固シェル生成過程で噛み込み大型介在物となって、ブレイクアウトを惹起させる等の操業上の問題が発生する。更に不活性ガスの量が少な過ぎると、湾曲鋳型内の溶鋼からAl2 3 等の介在物を浮上除去する効果を減少させる結果、該鋳型内壁面近傍の溶鋼中に残留しているAl2 3 等の介在物は凝固シェル生成によりそのままシェル表層内に捕捉されるため冷間圧延したときスリバー欠陥などの表面欠陥の多い冷間圧延炭素鋼板となる。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、C<0.10%、Mn<0.55%、Si<0.03%、P<0.05%、S<0.03%、0.003%<Al<0.1%、厚み>200mm、幅>900mmの冷間圧延炭素鋼板用スラブを、鋳型のメニスカスから2.0m以上の垂直部とこれに続く湾曲部と水平部を形成した連続鋳造機で連続鋳造するに際し、鋳造ノズルから溶鋼と共に1〜50l/minの不活性ガスを鋳型内に吐出すると共に、この鋳型のメニスカスに粘性が1.0〜8.0ポアズのパウダーを添加しながら1.0m/min以上で且つ4.0ton/min以上の鋳造速度で鋳造し、鋳型のメニスカスから1.5m以内の垂直部にある溶鋼を電磁攪拌(攪拌方向等の限定が必要)することを特徴とする冷間圧延炭素鋼板用スラブの連続鋳造方法である。
【0007】
【作用】本発明は、図1に示す如く、鋳型内の溶鋼滞留量時間を短縮して、表面内部の品質劣化に起因する鋳型内湯面部の皮張りを防止するための鋳造速度として1.0m/min以上で4.0ton/min以上に維持する。かくすると溶鋼中の不活性ガスの残留気泡によるブロホールが増大する。この残留気泡を全量浮上してAl2 3 等の溶鋼中介在物を円滑に略全量浮上促進してブロホール発生とシェル表層内へのAl2 3 等の介在物捕捉を積極的に防止するため、図2に示すごとく、該溶鋼流の反転下降流を5〜7cm/secに規定する。又図3に示す如く、該溶鋼流の反転下降流によって鋳型のメニスカス部にある溶融パウダー溶鋼中に巻き込まれないように、またブレイクアウト等の操業異常が起こらないように添加パウダーの粘性を1.0〜8.0ポアズに規定する。そして更にこれらの効果を確実且つ高位安定して得るため図4に示す如く、鋳型のメニスカスから2.0m以上を垂直部とし、且つ鋳型のメニスカスから1.5m以内の垂直部にある溶鋼を電磁攪拌するものであり、その好ましい攪拌条件は、図5に示す如く、水平方向の溶鋼流速を15〜40cm/secの範囲とするものである。
【0008】そこで、上記各技術条件の根拠について、該当各図と共に詳細に説明する。
【0009】尚、この各データは、表1に示す連続鋳造操業条件下で得たものであり、本発明が前提条件とするものである。
【0010】
【表1】


【0011】図1は、鋳型内湯面部の皮張り発生と残留気泡の状況を鋳造速度(m/minとton/min)との関係で示すものであり、この図から明らかなように、鋳造速度が1.0m/min以上で4.0ton/min以上の領域が皮張りが発生しない良好操業域であるが、鋳造速度の増加に伴い残留気泡は増加する。
【0012】図2は、溶鋼流の反転下降流が2〜10cm/sec生ずる鋳造ノズルから溶鋼と共に吐出する不活性ガスによる残留気泡が主因となって発生するブロホールと層内へのAl2 3 等の介在物量との関係を示すものでありこの図から明らかなように反転下降流5〜7cm/secの範囲がブロホール発生量とシェル表層内へのAl2 3 等の介在物量の両者を共に許容範囲内に低減せしめるものである。つまり反転下降流5cm/sec未満であるとシェル表層内へのAl2 3 等の介在物量が許容範囲を超え、7cm/secを超えるとブロホール発生量が許容範囲を超えてしまうものである。ここで許容範囲とは、冷間圧延炭素鋼板として実用上問題の無い範囲をいう。
【0013】図3は、上記反転下降流5〜7cm/secの範囲において、添加パウダーの粘性と溶融パウダー溶鋼中巻き込みによるブレークアウト発生及びスラブ内部のパウダー巻き込みによる大型介在物個数との関係を示すものであり、この図から明らかなように、パウダーの粘性が1.0〜8.0ポアズの範囲が各発生量の最も少ない領域である。ここで上限を8.0ポアズとした理由は、8.0ポアズを超えるとブレークアウトと大型介在物は殆ど発生しないが、パウダー本来の機能、つまり鋳型内壁面−凝固シェル表面間への均一流入と鋳型メニスカス部での浮上不純物捕捉能を損なわせるからである。
【0014】図4は、本発明における条件の電磁攪拌を実施する垂直部の領域と、前記各図に示した本発明の各条件による効果との関係を示したものであり、この図から明らかなように、鋳型のメニスカスから1.5m以内の垂直部にある溶電磁攪拌することにより本発明の各条件による効果をより高位安定して確実に得られる。そして電磁攪拌条件として水平方向の溶鋼流速を15〜40cm/secの範囲とする理由は、図5に電磁攪拌条件と本発明の各条件による効果の向上率との関係を示す如く水平方向の溶鋼流速を15cm/sec未満とすると該向上は殆ど得られなく又水平方向の溶鋼流速が40cm/secを超えると該向上率が変わらず、50cm/secを超えると効果の向上は無く急激に低下しむしろ悪化するため好ましくない。
【0015】
【実施例】本発明の実施例No.1〜6を比較例No.7〜12と共に表2〜5に示す。
【0016】
【表2】


【0017】
【表3】


【0018】
【表4】


【0019】
【表5】


【0020】
【発明の効果】本発明は、スラブの連続鋳造において、鋳型内の溶鋼滞留量時間を短縮して、表面内部の品質劣化に起因する鋳型内湯面部の皮張りを防止すると共に、鋳型のメニスカス部にある溶融パウダーを溶鋼中に巻き込むことなく、Al2 3 等の溶鋼中介在物を円滑に略全量浮上促進してブロホール発生とシェル表層内へのAl2 3 等の介在物捕捉を積極的に防止し、表面及び内部ともに欠陥の無い高品質の冷間圧延炭素鋼板用スラブを確実に高位安定して得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋳型内湯面部の皮張り発生と残留気泡の状況を鋳造速度との関係で示す図である。
【図2】残留気泡が主因となって発生するブロホールと層内へのAl2 3 等の介在物量との関係を示す図である。
【図3】添加パウダーの粘性と溶融パウダー溶鋼中巻き込みによるブレークアウト発生及びスラブ内部のパウダー巻き込みによる大型介在物個数との関係を示す図である。
【図4】電磁攪拌を実施する垂直部の領域と本発明の効果との関係を示す図である。
【図5】電磁攪拌条件と本発明の効果の向上率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 C<0.10%、Mn<0.55%、Si<0.03%、P<0.05%、S<0.03%、0.003%<Al<0.1%、厚み>200mm、幅>900mmの冷間圧延炭素鋼板用スラブを、鋳型のメニスカスから20m以上の垂直部とこれに続く湾曲部と水平部を形成した連続鋳造機で連続鋳造するに際し、鋳造ノズルからの吐出溶鋼中に1l/min以上の不活性ガスを混入して溶鋼を鋳型内に注出すると共に、この鋳型のメニスカスに粘性が1.0ポアズ以上のパウダーを添加しながら1.0m/min以上で且つ4.0ton/min以上の鋳造速度で鋳造し、鋳型のメニスカスから1.5m以内の垂直部にある溶鋼を(攪拌方向等の限定が必要)電磁攪拌することを特徴とする冷間圧延炭素鋼板用スラブの連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−76993
【公開日】平成5年(1993)3月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−265463
【出願日】平成3年(1991)9月18日
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)