説明

冷陰極放電管用電極及びそれを用いた冷陰極放電管

【課題】 優れた耐スパッタ性及び加工性を備えた新規で安価なFe基の合金でなる冷陰極放電管用電極及びそれを用いた冷陰極放電管を提供する。
【解決手段】 質量%で、W:0.1〜14.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる冷陰極放電管用電極である。また、本発明では、上記の冷陰極放電管用電極に、更に質量%で、Mo:0.1〜7.0%を含有させてもよい。
本発明の冷陰極放電管用電極は、冷陰極放電管に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極放電管用電極及びそれを用いた冷陰極放電管に関する。
【背景技術】
【0002】
冷陰極放電管には放電管内に蛍光体を塗布してある冷陰極蛍光管が液晶ディスプレイのバックライト用光源等として、広く用いられている。また、蛍光体を塗布していない冷陰極放電管としては、紫外線を放射する殺菌灯等に広く用いられている。
冷陰極放電管は内部にHg蒸気とAr,Ne等の不活性ガスとが封入されるとともに細径のガラス管と、該ガラス管内の両端に管軸方向に互いに対向させて取り付けられた1対の冷陰極蛍光管用電極とを備える。ここでガラス管内壁面に蛍光体が塗着されたものは冷陰極蛍光管となり、ガラス管内壁面に蛍光体が塗着されていないものは冷陰極紫外線管となる。
冷陰極放電管では、通常、1対の冷陰極放電管用電極間に高電圧を印加することにより電界が発生し、非加熱状態の陰極(冷陰極)から電子が放出される。次いで、この電子がHg原子に衝突することによりHg原子が励起され、該Hg原子が励起状態から基底状態に遷移するときに紫外線が放出される。冷陰極蛍光管は放出された紫外線が蛍光体に照射することにより該蛍光体から可視光が放出される。
【0003】
一般に、冷陰極放電管用電極は、薄板形状の電極材料を深絞り加工等の塑性加工により、一方が開口する有底筒状体に成形したものが使用されている。従来、冷陰極放電管用電極として、塑性加工性に優れた実質的にNiのみからなるものが広く使用されている。
例えば、冷陰極蛍光管では特開2008−204803号として、電極が平均結晶粒子径25μm以下のNiまたはNi合金を主成分とする微細組織を有する冷陰極蛍光管が提案されている(特許文献1参照)。また、冷陰極紫外線管用電極として、Niより形成される電極材料が示されている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−204803号公報
【特許文献2】特開2001−332216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NiまたはNi合金は、軟らかくて塑性加工性に優れるという利点がある一方で、高価なNiを多量に使用するため、経済的ではなく、また、長時間使用するうちにスパッタによって消耗し、スパッタされたNi原子がガラス管内に封入されたHg原子と反応してHg原子が消耗するため、冷陰極放電管の寿命が短くなるという不都合がある。
本発明は、かかる不都合を解消して、優れた耐スパッタ性及び加工性を備えた新規で安価な冷陰極放電管用電極及びそれを用いた冷陰極放電管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために種々の検討を重ね、Niよりも安価で且つ耐スパッタ性に優れる金属元素として、Feに着目した。しかし、実質的にFeのみからなる冷陰極放電管用電極は、放電特性に課題が残るため、Feを主成分として種々の合金元素の添加を試みた。
その結果、所定の範囲のWを含有するFe基合金からなる冷陰極放電管用電極は、実質的にNiのみからなる前記冷陰極放電管用電極より優れた放電特性と耐スパッタ性との両立が可能であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、質量%で、W:0.1〜14.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる冷陰極放電管用電極である。
更に本発明は、上記の冷陰極放電管用電極に、更に質量%で、Mo:0.1〜7.0%を含有する冷陰極放電管用電極である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、実質的にNiのみからなる冷陰極放電管用電極より優れた放電特性と耐スパッタ性との両立が可能である。また、基となる金属をFeとしたため、経済的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態の冷陰極放電管及び冷陰極放電管用電極を示す説明図である。
【図2】本発明の冷陰極放電管用電極を備える冷陰極放電管の電流電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の最大の特徴は、新規な化学組成にある。以下に、各元素とその限定理由を述べる。なお、各元素の含有量は質量%である。
まず、Feを基とした理由から述べる。
本発明において、基となる金属をFeとしたのは、冷陰極放電管用電極からのスパッタ粒子と、ガラス管内に封入されたHg原子との反応を抑制し、Hgの消耗を抑制することにより、冷陰極放電管の長寿命化がはかれるためである。
また、Feを基とすることにより、電極としての基本的な電気特性を得ることができ、且つ優れた塑性加工性を得ることができる。そして、従来から用いられているNiと比較して、入手もし易く経済的である。
これらの理由から、本発明ではFeを基とした。
【0010】
本発明では、Wを0.1〜14.0%の範囲で必須で含有する。
本発明において、Feに0.1〜14.0%のWを含有することにより、放電時の管電圧を低下させて電子放出特性を向上させるだけでなく、Wを添加したFe基合金とHgとの反応をさらに確実に抑制することができる。
また、WはFe基合金の発錆を抑制して耐食性を向上させることができるため、0.1%を下限として必須で添加する。
しかし、Wを過度に添加すると、脆性の金属間化合物(FeW)を生成し加工性を劣化させる。そのため、電子放出特性の改善効果を得つつ、加工性を劣化させない範囲として、Wの上限を14.0%とした。
【0011】
本発明では更にMoを7.0%以下の範囲で添加しても良い。
MoはWと同様に、Feと合金化することによって電子放出特性を改善できる元素である。Moの有する電子放出特性向上効果と、Wの有する電子放出特性向上効果とを比較すると、Wの方が優れているため本発明ではWを必須としているが、更にMoを添加することによりFe基合金の発錆防止させ耐食性をより一層向上させたり、電子放出特性の向上が望める。
しかしながら、7.0%を超える添加は冷陰極放電管用電極用の素材の硬さを高めて加工性が劣化し易くなる。そのため、Moを添加する場合は、その上限を7.0%とする。より加工性を重んじる場合は、WとMoとの合計で10%以下の範囲がよい。
【0012】
次に、図1を参照しながら本発明の冷陰極放電管用電極を用いた冷陰極放電管についてさらに詳しく説明する。
図1に示す本実施形態の冷陰極放電管1は、液晶ディスプレイのバックライト用光源等に用いられる冷陰極蛍光管を示したものであり、例えば直径3mmのガラス管2と、ガラス管2内の両端に取り付けられた1対の冷陰極蛍光管用電極3とを備える。
ガラス管2は、内壁面にそれ自体周知の蛍光体が塗着されていて、内部にHgとAr,Ne等の不活性ガスとが封入されている。ガラス管2の内壁面にそれ自体周知の蛍光体が塗着されていないのもが冷陰極紫外線管となる。
冷陰極放電管用電極3は、一方が開口する有底筒状体であって、開口部の外径が2.1mm、肉厚が0.15mm、長さが7.0mmとなっている。冷陰極放電管用電極3は、薄板状としてもよいが、前記有底筒状体であることにより、該電極3から電子を放出させ易くすることができる。
1対の各冷陰極放電管用電極3は、前記開口部をガラス管2の軸方向に互いに対向させて、ガラス管2内に取り付けられている。冷陰極放電管用電極3の底部には、コバール線からなり、ガラス管2に封着されてガラス管2の外方に突出する封着ピン4が接続されている。封着ピン4の冷陰極放電管用電極3とは反対側の端部には、ジュメット線からなる外部リード線5が接続されている。また、封着ピン4には、ガラス管2との封着用ガラスビーズ(図示せず)が取り付けられている。
【0013】
本発明の冷陰極放電管用電極を冷陰極放電管に用いれば、冷陰極放電管用電極の有する、優れた耐スパッタ性の効果により、寿命を向上させた冷陰極放電管とすることができる。
【実施例】
【0014】
真空溶解にて表1に示す冷陰極放電管用電極用鋼塊を作製した。
なお、表1中に示す「残部」及び「100」には、製造上、不可避的に混入した不純物も含まれる。また、「−」とするのは無添加である。
【0015】
【表1】

【0016】
上記の冷陰極放電管用電極用鋼塊を1100℃で熱間鍛造して、厚さ20mmの熱間鍛造材を得た。この時、No.11及びNo.12はW含有量が多く、鋼塊に割れを生じたため、その後の試験については実施しなかった。
No.1〜No.3及びNo.21の熱間鍛造材からワイヤカットにて、厚さ1mmの冷間圧延用素材を採取した。冷間圧延用素材表面に形成された酸化膜を機械研磨にて除去し、冷間圧延と焼鈍とを繰返して厚さ0.2mmの冷陰極放電管用電極用素材とした。本発明のNo.1〜No.3及びNo.21については、塑性加工中に割れ等は発生せず、優れた塑性加工性を有するものであった。なお、焼鈍は、水素雰囲気下で900℃の温度で実施した。
冷陰極放電管用電極用素材に、水素雰囲気下で900℃×3分の焼鈍を実施してから、機械的特性と電極特性評価用試験片を切り出して、各種試験を実施した。
【0017】
機械的特性の評価は、ビッカース硬さ、電気抵抗率及び引張試験を実施した。引張試験はJIS13B号試験片を採取し、JISZ2241に定められた試験にて実施した。
また、電極特性評価として、スパッタリング特性及び仕事関数を測定した。
スパッタリング特性の評価は、20mm(w)×20mm(l)×0.2mm(t)の試験片を作製し、スパッタ装置の真空チャンバー内に設置し、5.33×10−1PaのAr雰囲気下、投入電力150Wの条件で8時間連続スパッタを行った。そして、連続スパッタされた前記試験片の重量減を測定することにより、冷陰極放電管用電極用素材におけるスパッタによる消耗量を測定した。なお、スパッタ率(スパッタ率の値が小さい程、スパッタによる消耗が少なく、耐スパッタ性が優れていることを意味する。)の評価は純Ni(No.21)を基準とした。また、スパッタリング後のサンプルを用いて仕事関数の測定も行った。
機械的特性及び電極特性の結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2の結果からNo.1〜No.3のスパッタ率は参考例の純Ni(No.21)より大幅に減少しており、電極として寿命が長いことを意味している。さらに、仕事関数に関しても純Ni(No.21)より低い値を示しており、電子放出特性にも優れていることを確認できた。
【0020】
次に、本実施例で得られたWの含有量が全量に対して9.6質量%であり、残部が実質的にFeである電極材料から、図1に示した別形状の冷陰極放電管用電極として縦15mm、横1.5mm、厚さ0.2mmの薄板状の本実施例の冷陰極放電管用電極3を1対製造した。
次に、本実施例で得られた冷陰極放電管用電極3の性能評価を行うために、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に、1対の該電極3を備える冷陰極紫外線管Aを製造した。
【0021】
まず、冷陰極紫外線管Aを製造するために、本実施例で得られた1対の冷陰極放電管用電極3の端部にコバール線からなる封着ピン4を接続し、該封着ピン4の該電極3とは反対側の端部にジュメット線からなる外部リード線5を接続した。封着ピン4には、ガラス管との封着用ガラスビーズ(図示せず)が取り付けられている。
次に、内壁面に蛍光体が塗着されていない直径3mm、長さ300mmのガラス管内の両端に、封着ピン4が接続された薄板状の冷陰極放電管用電極3を取り付けた。このとき、1対の冷陰極放電管用電極3は、封着ピン4が接続されていない側の端部が互いに対向するように、軸方向に取り付けられた。
次に、前記ガラス管の内部にHgとArガスとNeガスとを封入した後に、封着ピン4と該ガラス管とを封着した。このとき、封着ピン4を前記ガラス管の外方に突出させることにより、冷陰極紫外線管Aを得た。
【0022】
次に、得られた冷陰極紫外線管Aについて、1対の前記電極3の間に、5mA,6mA,7mA,8mAの管電流をそれぞれ印加し、それぞれの管電流に対して生じた管電圧を測定した。結果を図2に示す。
次に、不可避的不純物を除き実質的にNiのみからなる電極材料を用いた以外は、本実施例と全く同一にして、参考例としての冷陰極放電管用電極を1対製造し、該電極を備える冷陰極紫外線管Bを製造した。得られた冷陰極紫外線管Bについて、1対の前記電極の間に、5mA,6mA,7mA,8mAの管電流をそれぞれ印加し、それぞれの管電流に対して生じた管電圧を測定した。結果を図2に示す。
【0023】
図2から、Wの含有量が全量に対して9.6質量%であり、残部が実質的にFeである本発明の冷陰極放電管用電極3は、実質的にNiのみからなる参考例の冷陰極放電管用電極と比較して、管電圧が小さく、放電特性が優れていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、優れた耐スパッタ性及び加工性を備え、管電圧を低くすることができる冷陰極放電管用電極を得ることが可能である。本発明の冷陰極放電管用電極を用いた冷陰極放電管は、長寿命で安価なものとすることができる。
【符号の説明】
【0025】
1.冷陰極放電管、2.ガラス管、3.冷陰極放電管用電極、4.封着ピン、5.外部リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、W:0.1〜14.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなることを特徴とする冷陰極放電管用電極。
【請求項2】
質量%で、Mo:7.0%以下を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の冷陰極放電管用電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷陰極放電管用電極を用いたことを特徴とする冷陰極放電管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−54557(P2011−54557A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156641(P2010−156641)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】