説明

冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法

【課題】 カップ状の電極機材の内面に、厚さを均一にしかつ付着強度を強固にして放電層を形成し、深絞りを行っても放電層が剥離しない冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法を提供する。
【解決手段】 金属基材10この金属基材10上に形成された放電層11とを備え、冷陰極蛍光ランプの放電電極に加工される冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法である。エミッタ粉末を分散媒中に分散させた粉末塗料を金属基材10上に塗布して放電層11を形成する塗布工程と、放電層11を金属基材10側へ向けて圧縮する第1圧縮工程と、第1圧縮工程の後に、放電層11からエミッタ粉末以外の成分を除去する除去工程と、エミッタ粉末以外の成分が除去された放電層11を金属基材10側へ向けて圧縮する第2圧縮工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明用光源や、パソコンのモニタ、液晶テレビ、カーナビゲイションシステム用の液晶ディスプレイなどのバックライト等に好適に用いられる冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法に係り、特に、金属基材にエミッタ層を形成した状態で電極を深絞り成形する際のエミッタ層の剥離を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から冷陰極蛍光ランプがいろいろな用途で用いられ、最近では液晶ディスプレイ用バックライトへの適用が盛んに検討されている。液晶ディスプレイの装備機器が主にバッテリー駆動であることから、液晶ディスプレイ用バックライトに用いられる冷陰極蛍光ランプに関しては、低消費電力化の要望が強い。その低消費電力を実現するためには発光に寄与しない電極の電圧降下を低減させることが重要である。また、近年TV用に液晶素子が使われ始めたために、従来よりも長寿命で高輝度の冷陰極蛍光ランプが望まれている。
【0003】
冷陰極蛍光ランプは、図1に示すように、ガラス管1内に、端子2で外部に接続された電極3が両端に配置された構造をしており、このガラス管1の内面に蛍光体4を塗布するとともに、不活性ガスと微量の水銀からなる封入ガス5を封入して構成されている。この両端の電極3に高電界を加えて低圧の水銀蒸気中でグロー放電を発生させ、この放電により励起された水銀が紫外線を発生するとともに、この紫外線によりガラス管1内面の蛍光体4を励起して発光させる。ここで用いられる電極3は、近年ではカップ状に形成したものが用いられている。電極をカップ状に形成することにより、その形状に起因するホローカソード効果により電極内側から電子放射が行われやすく、陰極電圧降下を低減することができ、低消費電力化に有効である。また、冷陰極蛍光ランプの電極損失を低減して高効率化、低消費電力化を図るために、電極3の材料として、他の金属に比べて仕事関数が低い1属〜3属の元素を含むエミッタ材料が適用されてきている。
【0004】
上記のようなエミッタ材料を塗布またはイオンプレーティングによりカップ状の金属基材に被覆してエミッタ層を形成したカップ状陰極電極は公知であり、このようなカップ状電極を適用した冷陰極蛍光ランプでは、電極降下電圧を従来の棒状金属電極のそれよりも40V程度低減することができ、その分低消費電力化が可能であることが報告されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
また、エミッタ材料としてMo,Ta,Nb等の高融点金属材を使用することにより、ランプ点灯中の電極のスパッタリングが抑制され、ランプ内での水銀の消耗量が少なくなり、長寿命化することが報告されている(非特許文献1参照)。この場合、MoとTa電極では従来のNi電極より約40%水銀の消耗量が少なくなり、その分ランプ寿命が延びることが期待される。
【0006】
【特許文献1】特開平10−14425号公報
【特許文献2】特開2000−11866号公報(第3頁)
【非特許文献1】日本照明学会誌 Vol.1.87,No.1 2003 15 頁、「液晶ディスプレイ冷陰極蛍光ランプの技術動向」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カップ型に加工された電極の金属基材の内面に、厚さを均一にしかつ付着強度を強固にしてエミッタ層を形成することは容易でない。例えば、塗布によりカップ状の金属電極にエミッタ層を形成する場合には、エミッタ層の厚さが不均一となる。また、金属電極とエミッタ層の付着強度が弱く、蛍光ランプ生産工程中や点灯中のイオン衝撃によってエミッタ層が脱落しやすいという欠点もある。さらに、ディッピングによりエミッタ層を形成する場合には、電極の外周面にもエミッタ層が塗布されてしまうという不都合もある。
【0008】
また、イオンプレーティングによりエミッタ層を形成する場合には、付着強度が大きいエミッタ層が得られるものの、エミッタ材料が金属基材以外のプレーティング装置の内面にも付着し、材料歩留まりが悪いという欠点がある。さらに、塗布による場合にも当てはまるが、カップ状の電極基材に個別にエミッタ層を形成するのでは、生産効率が悪く製造コストが割高になるという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、カップ状の電極機材の内面に、厚さを均一にしかつ付着強度を強固にしてエミッタ層を形成することができるのは勿論のこと、生産効率が良好で生産コストを低減することができる冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、冷陰極蛍光ランプ用電極の生産効率を向上させるために、金属材料の板材に放電層(エミッタ層)を形成した後、その素材からカップ状の冷陰極蛍光ランプ用電極を製造することを検討した。しかしながら、放電層を形成した後に深絞り等の激しい塑性加工を行うと、放電層が強く擦過されて剥離することは必至であり、このため、そのような技術は現在のところ提供されていないのが実情である。そこで、本発明等は、放電層を緻密化しつつ金属材料に強固に付着させる方法を検討した。その結果、金属基材に放電層を塗布した後に圧縮加工することにより、放電層が金属基材に強固に付着し、深絞りを行っても剥離しないことが判明した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、金属基材とこの金属基材上に形成された放電層とを備え、冷陰極蛍光ランプの放電電極に加工される冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法であって、エミッタ粉末を分散媒中に分散させた粉末塗料を金属基材上に塗布して放電層を形成する塗布工程と、放電層を金属基材側へ向けて圧縮する第1圧縮工程と、第1圧縮工程の後に、放電層からエミッタ粉末以外の成分を除去する除去工程と、エミッタ粉末以外の成分が除去された放電層を金属基材側へ向けて圧縮する第2圧縮工程とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
粉末塗料を金属基材上に塗布して形成した放電層の内部には多数の気孔が存在している。その気孔には、乾燥により溶剤が蒸発したあとにできる空隙や、粉末塗料を混合する際に巻き込まれた空気の粒子などが含まれる。本発明によれば、塗布工程により形成された放電層が第1圧縮工程で圧縮されることにより、放電層の内部の気孔が圧壊されて緻密になるとともに放電層が金属基材に強固に付着する。次に、除去工程で分散媒等のエミッタ粉末以外の成分が除去されることで気孔が生成されるが、気孔は第2圧縮工程で圧壊されて放電層は再び緻密となる。
【0013】
そして、第2圧縮工程を行うことにより、放電層の厚さが均一化されるとともに放電層は金属基材にさらに強固に付着する。このような冷陰極蛍光ランプ用電極材に例えば深絞り等の塑性加工を施すことにより、カップ状の冷陰極蛍光ランプ用電極を製造することができる。この場合において、放電層が緻密化されるとともに金属基材に強固に付着しているので、塑性加工時のエミッタ粉末の脱落ないし剥離を防止することができる。
【0014】
したがって、たとえばロールから金属基材を連続的に巻き出しながら本発明の一連の工程を行い、次いでプレス装置に供給して深絞りで電極を成形するなど、工場の連続ラインによる処理が可能である。したがって、本発明によれば、厚さを均一にしかつ付着強度を強固にして放電層を形成することができるのは勿論のこと、冷陰極蛍光ランプ用電極の生産効率が良好で生産コストを低減することができる。
【0015】
なお、圧縮工程により放電層が金属基材に強固に付着する理由は定かではない。本発明者等の検討によると、エミッタ粉末の一部が金属基材の表面に食い込んでいるのが確認されており、それが理由の一つとも推察される。また、エミッタ粉末どうしあるいはエミッタ粉末と金属基材とが分散媒の残滓を挟んで密着し、大気圧によって互いに離れなくなっていることも考えられる。ただし、これらはあくまでも推測であって、そのような作用の有無によって本発明が限定されないことは言うまでもない。
【0016】
なお、本発明で製造した材料で電極を形成し、この電極を用いて冷陰極蛍光ランプを試作してテストしたところ、ガラス管内部においてアウトガスの問題は一切発生しなかった。したがって、上記のような残滓が存在しているにしても、残滓は無害化されていることが確認されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図2は、本発明の各工程と放電層の状態を示す断面図であり、図中符号10は金属基材、符号11は放電層である。図2に示すように、塗布工程で金属基材10の片面にエミッタ粉末と分散媒(溶剤を含むこともある)をスラリー状に混合した粉末塗料を塗布し、乾燥または冷却工程によって粉末塗料を固化させる。これにより、溶剤が蒸発したあとに気孔が形成される。この気孔は、第1圧縮工程により圧壊され、放電層が緻密化される。次いで、除去工程により分散媒が蒸発し、そのあとに気孔が形成される。この気孔は、第2圧縮工程により圧壊され、放電層が緻密化される。以下、本発明の各工程について詳細に説明する。
【0018】
金属基材としては、ニッケルまたはニッケル合金(例えばパーマロイ)、鉄合金(例えばステンレス鋼)、クロム、モリブデン、タンタル、ニオブの純金属またはこれらの金属の2種以上の合金を用いることができる。
【0019】
また、エミッタ粉末としては、仕事関数の低い元素を含むものが望ましく、たとえば、タングステン酸バリウム(BaCaWO,BaWO)、六硼化カルシウム(CaB)、六硼化ストロンチウム(SrB)、六硼化バリウム(BaB)、六硼化ランタン(LaB)、六硼化セリウム(CeB)、六硼化プラセオジウム(PrB)、六硼化ネオジウム(NdB)、六硼化サマリウム(SmB)、六硼化ユウロピウム(EuB)、炭化チタン(TiC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化タンタル(TaC)、および炭化タングステン(WC)のうちの1種もしくは2種以上を用いるのが好適である。
【0020】
上記のようなエミッタ粉末を分散媒と混合してスラリー状の粉末塗料にし、金属基材に塗布する。分散媒としては、ポリフッ化ビニリデン、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂等の可溶性樹脂、ヒドロキシプロピルセルロース、メチレセルロース、ゼラチン等の天然または合成の多糖類、エチレンビスステアロアマイド等の高級脂肪酸のうちの1種もしくは2種以上を溶剤中に溶解したものを用いることができる。この場合、分散媒を溶かす溶剤としてノルマルメチルピロリドンのような有機溶剤や水を用いることができる。粉末塗料は、溶剤を含む分散媒と粉末とを質量比で約1:1程度で混合して調製すると好適である。なお、塗布工程の後に溶剤を蒸発させる乾燥工程を行うことが望ましい。
【0021】
また、分散媒として加熱により溶融状態とした熱可塑性樹脂、天然または合成の多糖類、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸、高級脂肪酸のうちの1種もしくは2種以上を用いることができる。この場合、分散媒を室温まで冷却すれば固化するので省エネルギーである。なお、塗布工程の後に分散媒を固化する冷却工程を行うことが望ましい。
【0022】
塗布工程は、浸漬法、噴霧法、印刷法、刷毛塗り法、流し塗り(フローコート)法、ドクターブレード法のいずれかを用いることができる。ドクターブレード法は、粉末塗料を金属基材に付着させてドクターブレードで一定の厚さに掻き落とし、塗布する方法であり、粉末塗料の厚さの管理を厳密に行うことができて好適である。
【0023】
金属基材に粉末塗料を塗布した後、乾燥または冷却して固化することにより、金属基材の片面に放電層が形成される。次いで、放電層を金属基材側へ向けて圧縮する第1圧縮工程を行う。第1圧縮工程は、金属基材および放電層を一対のロールで挟み込んで行う。これにより、放電層が圧縮されて緻密化し、放電層の厚さが均一化する。また、溶剤によって分散媒を溶かしていた場合には、乾燥により溶剤が蒸発した後に気孔が形成されるが、気孔は、第1圧縮工程により圧壊される。第1圧縮工程での圧下率は、本発明の目的を確実に達成するために20%以上であることが望ましい。ここで、圧下率は、圧縮前後の試料の板厚をh,hとしたときに、(h−h)/h×100で表される。
【0024】
次に、放電層からエミッタ粉末以外の成分を除去する除去工程を行う。除去工程では、分散媒を蒸発させるために加熱を行う。加熱温度と時間は、分散媒の種類や含有量によって適宜選定する。加熱温度は数百℃となるため、エミッタ粉末の酸化を防止するために除去工程は窒素ガスなどの不活性雰囲気中で行うことが望ましい。
【0025】
次に、放電層を金属基材側へ向けて再度圧縮する第2圧縮工程を行う。第2圧縮工程は、金属基材および放電層を一対のロールで挟み込んで行う。除去工程によって分散媒が蒸発した後に気孔が形成されるが、圧縮により気孔は圧壊され放電層が緻密化する。また、第2圧縮工程により、放電層の厚さがさらに均一化する。第2圧縮工程での圧下率は、本発明の目的を確実に達成するために50%以上であることが望ましい。
【0026】
また、第2圧縮工程後の放電層の厚さは0.005〜0.05mmであることが望ましい。放電層の厚さは放電特性を確保するために0.005mm以上必要である。しかしながら、放電層の厚さが0.05mmを超えると、深絞り成形時に剥離が生じやすくなる。
【0027】
上記のようにして製造された冷陰極蛍光ランプ用電極材は、金属基材の片面にエミッタ粉末からなる放電層が形成されたものである。この放電層は、緻密化されるとともに金属基材に強固に付着しているので、深絞りによりカップ状の電極に形成する際の放電層の剥離が防止される。また、第1、第2圧縮工程によって放電層の厚さが均一になっているので、電極を冷陰極蛍光ランプに用いた際の放電特性が良好である。
【実施例】
【0028】
1.電極の作製
厚さ0.30mmのニッケル板の片面に、六硼化ランタン(LaB)の粉末塗料を0.02mmの厚さで塗布した。粉末塗料は、六硼化ランタンを47.6質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを2.4質量%、ノルマルメチルピロリドンを50.0質量%混合したものを用いた。この試料を空気中において120℃で15分間加熱してノルマルメチルピロリドンを蒸発させ、粉末塗料を固化した。
【0029】
次に、圧延ロールによって圧下率を25%または53%として上記試料を圧延した(第1圧縮工程)。次いで、試料を窒素ガス中において500℃で1時間加熱し、ヒドロキシプロピルセルロースを蒸発させた。次に、圧延ロールによって圧下率を53%として上記試料を圧延し(第2圧縮工程)、本発明の実施例である試料1を作製した。
【0030】
比較のために、第1圧縮工程または打2圧縮工程を行わなかった以外は上記と同じ条件で冷陰極蛍光ランプ用電極材を作製した(試料2、試料3)。第1圧縮工程を行わないで第2圧縮工程を行った試料2では、第2圧縮工程において放電層が金属基材から剥離した。
【0031】
2.テープ剥離試験
上記のようにして作製した冷陰極蛍光ランプ用電極材を適当な大きさに切断して試験片を作製し、その放電層にセロハンテープを添付した後に剥離するテープ剥離試験を行った。その結果を表1に示す。表1では、放電層の一部がセロハンテープに付着して剥離した場合を「△」、放電層の剥離が無かった場合を「○」として評価した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、第1、第2圧縮工程を行った試料1では放電層は剥離しなかったが、第2圧縮工程を行わなかった試料3では放電層の一部が剥離した。なお、第1圧縮工程を行わなかった試料2では、第2圧縮工程により放電層が剥離したので、テープ剥離試験を行うことができなかった。
【0034】
3.180°屈曲試験
放電層を内側にして試験片を180°折り曲げる屈曲試験を行い、放電層の剥離の情況を観察した結果を表1に併記する。表1に示すように、第1、第2圧縮工程を行った試料1も第2圧縮工程を行わなかった試料3も放電層は剥離しなかったので、「○」として評価した。
【0035】
4.加振試験
メタノールを注入した超音波洗浄機に試験片を装入して5分間超音波洗浄を行った。超音波洗浄後の試験片の放電層の剥離の情況を観察した結果を表1に併記する。表1に示すように、第1、第2圧縮工程を行った試料1も第2圧縮工程を行わなかった試料3も放電層は剥離しなかったので、「○」として評価した。
【0036】
以上のように、第1圧縮工程を行わなかった試料2では、除去された溶剤と分散媒が抜けたあとに形成された気孔により放電層が多孔質の状態となり、第2圧縮工程での変形に耐えられずに放電層が崩壊、剥離した。また、第2圧縮を行わなかった試料3では、分散媒が抜けたあとに形成された気孔によりエミッタ粉末どうしの結合力が低下し、テープ剥離に対する耐性が低下した。したがって、放電層を緻密にし金属基材への付着強度を向上させるには第1、第2圧縮工程を行うことが必須であることが確認された。
【0037】
5.放電層の内部構造
図3は試料1の断面を示すSEM写真である。この写真から判るように、エミッタ粉末どうしは互いに密着し、気孔の存在が殆ど確認できないほどに放電層が緻密化されている。また、エミッタ粉末の一部が金属基材の表面に食い込んでいることも確認することができる。
【0038】
6.放電特性
試料1を深絞りして図1中符号3で示すカップ状の電極を形成し、この電極を用いて図1に示す冷陰極蛍光ランプを作製した。また、本発明の他の実施例として、ヒドロキシプロピルセルロースおよびノルマルメチルピロリドンに代えて、ステアリン酸亜鉛を同じ質量%で混合した以外は試料1と同じ条件で電極を形成し、冷陰極蛍光ランプを作製した。さらに、比較のために、ニッケル板のみから電極を形成し、冷陰極蛍光ランプを作製した。以上の冷陰極蛍光ランプに電流を供給し、電流と電圧の関係を調査した。その結果を図4に示す。
【0039】
図4から明らかなように、本発明の製造方法を経て作製した電極を使用した冷陰極蛍光ランプでは、ニッケル板のみからなる電極を使用した冷陰極蛍光ランプ用と比較して、放電電圧が低く良好な放電特性を示した。したがって、本発明では、低仕事関数を有するエミッタ粉末を用いたことの効果が発揮されていることが判る。このことは、本発明により製造された冷陰極蛍光ランプ用電極材では、深絞り加工によって放電層が剥離しないことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】冷陰極線ランプの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態の工程を順に示す図である。
【図3】冷陰極線ランプ用電極材の断面を示すSEM写真である。
【図4】本発明の実施例における冷陰極線ランプの電流と電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
10 金属基材
11 放電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材とこの金属基材上に形成された放電層とを備え、冷陰極蛍光ランプの放電電極に加工される冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法であって、
エミッタ粉末を分散媒中に分散させた粉末塗料を前記金属基材上に塗布して前記放電層を形成する塗布工程と、
前記放電層を前記金属基材側へ向けて圧縮する第1圧縮工程と、
前記第1圧縮工程の後に、前記放電層から前記エミッタ粉末以外の成分を除去する除去工程と、
前記エミッタ粉末以外の成分が除去された前記放電層を前記金属基材側へ向けて圧縮する第2圧縮工程と
を備えたことを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法。
【請求項2】
前記金属基材は、ニッケル、鉄、クロム、モリブデン、タンタル、ニオブの純金属またはこれらの金属2種以上の合金であることを特徴とする請求項1に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法。
【請求項3】
前記エミッタ粉末は、タングステン酸バリウム(BaCaWO,BaWO)、六硼化カルシウム(CaB)、六硼化ストロンチウム(SrB)、六硼化バリウム(BaB)、六硼化ランタン(LaB)、六硼化セリウム(CeB)、六硼化プラセオジウム(PrB)、六硼化ネオジウム(NdB)、六硼化サマリウム(SmB)、六硼化ユウロピウム(EuB)、炭化チタン(TiC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化タンタル(TaC)、および炭化タングステン(WC)のうちの1種もしくは2種以上からなることを特徴とする請求項1または2に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法。
【請求項4】
前記分散媒は、可溶性樹脂、天然または合成の多糖類、金属石鹸、高級脂肪酸のうちの1種もしくは2種以上を溶剤中に溶解したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒は、溶融状態の熱可塑性樹脂、天然または合成の多糖類、金属石鹸、高級脂肪酸のうちの1種もしくは2種以上からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程は、浸漬法、噴霧法、印刷法、刷毛塗り法、流し塗り(フローコート)法、ドクターブレード法のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の冷陰極蛍光ランプ用電極材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−26801(P2007−26801A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205364(P2005−205364)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)