説明

凍結手術装置およびその温度制御方法

【課題】 微小領域を凍結治療できるとともに、冷媒を患部に供給する管を断熱する必要がなく、且つ大気中に冷媒を放出せずに冷媒を再利用することが可能な凍結手術装置およびその温度制御方法を提供する。
【解決手段】 凍結手術装置は、患部30を凍結するプローブ11と、プローブで用いる冷媒を加圧条件下で液体状態に保持する冷媒保持容器12と、気体状態の冷媒を冷却して凝縮する凝縮器14と、プローブへ液体状態の冷媒1を送る第一の管15aと、プローブから気体状態の冷媒を凝縮器へ送る第二の管15bとを備える。プローブ11は、内管および外管を備える二重管構造を有しており、内管は、第一の管からの液体状態の冷媒を減圧し、外管は、その外面が患部と接触するとともに、その内部に減圧した冷媒が流れ、患部からの熱を奪って冷媒を気化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結手術装置およびその温度制御方法に関し、詳しくは、皮膚のシミや皺、初期乳がん、右心房の洞房結節周囲などの微小領域の治療に適した凍結手術装置およびその温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、腫瘍や機能不全に陥った患部を切除せず、クライオプローブと呼ばれる凍結手術用プローブを用いて患部を−20℃程度の低温まで冷却し凍結させて壊死させるという凍結手術が行われている。凍結手術は、患部のみの局所的な治療を行うことができ、出血や炎症反応、痛みが少なく、回復に要する期間が短いといった様々な利点が指摘されている。
【0003】
凍結手術装置の冷却方法としては、クライオプローブ内に液体窒素を流して先端部で気化させることで冷却を行う相変化の利用や、アルゴンガスや二酸化炭素のような高圧ガスを用いてジュールトムソン冷却を行う等エンタルピー膨張の利用がある。クライオプローブの一般的な大きさは外径が2mmから8mm程度である。
【0004】
しかしながら、このような装置では、顔面などに存在するシミや皺、初期乳がん、右心房の洞房結節周囲などの一般的なクライオプローブの外径よりも微小な領域を局所的に治療することが困難であること、また、内視鏡やカテーテルなどを利用して体内の患部を冷凍する場合、患部に達するまで極低温となるパイプを断熱する必要があるという問題がある。さらに、高い冷却能力を確保するために冷媒を大流量で流し、かつ大気中へ放出するため、大型のリザーバーやボンベが必要であるという問題もある。
【0005】
一方、体内で利用することを目的とした凍結手術装置として、特開2006−130024号公報には、ペルチェ素子を利用することでプローブでの温度制御を容易にできること、及びプローブへ冷媒を送るための可撓性の管を多重管構造とし、常温で液体の冷媒を外側の管に流すことで、管の断熱を不要にすることが記載されている。しかしながら、プローブからの冷媒は大気に放出しており、上記の問題は解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−130024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、プローブの冷却面を微小な面積にすることができ、よって微小領域の凍結治療が可能であり、また、冷媒を患部に供給する管を断熱する必要がなく、且つ大気中に冷媒を放出せずに冷媒を再利用することが可能な凍結手術装置およびその温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る凍結手術装置は、患部を凍結するためのプローブと、このプローブで用いる冷媒を加圧条件下で液体状態に保持する容器と、気体状態の前記冷媒を冷却して凝縮する凝縮器と、前記容器から前記液体状態の冷媒を前記プローブへ送る第一の管と、前記プローブから前記気体状態の冷媒を前記凝縮器へ送る第二の管とを備えており、更に前記プローブは、内管および外管を備える二重管構造を有しており、前記内管は、前記第一の管からの前記液体状態の冷媒を減圧し、前記外管は、その外面が患部と接触するとともに、その内部に前記減圧した冷媒が流れ、前記患部からの熱を奪って前記冷媒を気化するものである。
【0009】
前記プローブの内管は、外径50〜200μmおよび肉厚10〜40μmが好ましく、前記プローブの外管は、外径200〜700μmおよび肉厚10〜180μmが好ましい。また、本発明に係る凍結手術装置は、前記第一の管と前記第二の管とを前記プローブを介さずに接続するバイパス管を更に備え、このバイパス管は開閉可能な弁を備えることが好ましい。
【0010】
本発明に係る凍結手術装置の温度制御方法は、患部を凍結するためのプローブと、このプローブで用いる冷媒を加圧条件下で液体状態に保持する容器と、気体状態の前記冷媒を冷却して凝縮する凝縮器と、前記容器から前記液体状態の冷媒を前記プローブへ送る第一の管と、前記プローブから前記気体状態の冷媒を前記凝縮器へ送る第二の管とを備える凍結手術装置において、前記容器を前記第一及び第二の管並びに前記プローブを介して前記凝縮器と連通することによって、前記液体状態の冷媒を前記プローブに送り、冷媒を気化することで前記プローブを冷却する工程と、前記容器を前記プローブと非連通にするとともに前記第一の管を前記プローブを介さずに前記凝縮器と連通することによって、前記プローブの冷却を停止する工程とを含むものである。
【0011】
この凍結手術装置の温度制御方法は、前記凝縮器で凝縮した冷媒を加熱することで、当初の加圧条件下で液体状態の冷媒に戻す工程を更に含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上述したように本発明によれば、プローブを二重管構造とし、内管で液体状態の冷媒を減圧し、外管の外面を患部と接触するように構成するとともに、外管の内部にこの減圧した冷媒を流し、患部からの熱を奪って冷媒を気化するようにしたことで、プローブの冷却面を微小な面積にすることができ、よって、微小な病変部の凍結手術が可能となる。また、冷却面が微小であることから、気化した冷媒は、患部などの周囲の温度まで容易に上昇し、よって冷媒を送る管を断熱する必要がない。さらに、プローブ内を流れる冷媒の流量が小さくなることから、気体状態の冷媒を冷却して凝縮できる凝縮器を設けることが可能となる。冷却による凝縮器を設けることで、負圧が形成され、このような微小な冷却面を有するプローブでも容易に冷媒を流すことができるとともに、冷媒を大気へ放出することなく、冷媒を再利用することができる。
【0013】
例えば、プローブの内管は外径50〜200μmおよび肉厚10〜40μmが好ましく、プローブの外管は外径200〜700μmおよび肉厚10〜180μmが好ましい。このようにプローブ内の冷媒の流路を非常に小さくすることで、圧力損失が大きくなり、冷媒の流量を低く抑えることができる。これにより、プローブから凝縮器に流入する気体状態の冷媒の流量が、凝縮器内で冷却により気体から液体へ相変化する冷媒の速度(流量)を超えることを防ぐことができ、よって、凝縮器の冷却性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る凍結手術装置の一実施の形態を示す模式図である。
【図2】図1に示す凍結手術装置のプローブを示す拡大断面図である。
【図3】本発明に係る凍結手術装置のプローブの別の形態を示す断面図である。
【図4】実施例で用いた凍結手術装置の構成を示す模式図である。
【図5】実施例におけるプローブの温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る凍結手術装置およびその温度制御方法の一実施の形態について説明する。図1に示すように、本実施の形態の凍結手術装置は、患部30を凍結するためのプローブ11と、このプローブで用いる冷媒を加圧条件下で液体状態に保持する冷媒保持容器12と、プローブで用いた気体状態の冷媒を冷却して凝縮する凝縮器14と、この凝縮した冷媒を再利用するために加熱する冷媒加熱容器13と、この凍結手術装置内における冷媒の流通などを制御する制御装置18とを主に備える。
【0016】
本実施の形態の凍結手術装置は、冷媒保持容器12から液体状態の冷媒1をプローブ11へ送る第一の管15aと、プローブ11で気体状態となった冷媒2を凝縮器14へ送る第二の管15bと、これら第一の管と第二の管を繋ぐバイパス管15cとを更に備える。これら管15は、使用用途に合わせて外径が1〜6mm程度で、かつ高圧や低温の冷媒に耐える強度を有していることが好ましい。
【0017】
本実施の形態の凍結手術装置は、これら管15a、15b、15cに、それぞれ冷媒の流路を開閉する弁16a、16b、16cを備える。また、凝縮器14と冷媒加熱容器13との間に、冷媒の流路を開閉する弁16dを備え、冷媒加熱容器13と冷媒保持容器12との間に、冷媒の流路を開閉する弁16eを備える。これら弁16a〜16eは開閉を高速かつ容易に行うため、電磁弁であることが好ましい。電磁弁を利用することで、一連の開閉操作を制御装置18によりシーケンス化することができる。
【0018】
冷媒保持容器12は、冷媒1を加圧条件下で液体状態に保持する容器である。冷媒保持容器12は、高圧の冷媒に耐えるため、金属製であることが好ましい。また、凍結手術を繰り返し行うためにも、容量は少なくとも100ml程度あることが好ましい。冷媒保持容器12は、冷媒の温度を変化および維持するためのヒーター17aを備える。冷媒としては、取り扱いを容易にするため、常温で加圧して液体状態となり、且つ減圧することでプローブを−20℃以下に冷却できる冷媒であれば特に限定されないが、例えば、代替フロンであるハイドロフルオロカーボンや、自然冷媒であるプロパン、イソブタン、アンモニア、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0019】
凝縮器14は、プローブ11から排出された気体状態の冷媒2を冷却して凝縮するための装置である。凝縮器14は、凝縮器内に導入された冷媒を冷却するための冷却剤4を備える。冷却剤4としては、気体状態の冷媒2を冷却して液化させるための低温が得られるものであれば、任意の熱源が利用できる。また、凝縮器14内の圧力は、冷媒保持容器12内の圧力よりも低い。特に、冷媒が冷媒保持容器12から凝縮器14まで容易に流れるように、その圧力差はできるだけ大きいことが好ましい。例えば、凝縮器14内の圧力を負圧(大気圧以下)にすることが好ましい。このような冷却剤4として具体的には、所定の低温と高い伝熱性能を有する液体窒素が挙げられる。
【0020】
本実施の形態では、凝縮器14内は、このような冷却剤4によって低温で負圧状態を保っている。気体状態の冷媒2を効率良く液化するため、冷却剤4との熱交換を容易に行うことが好ましい。具体的には、冷却剤4が収容され、冷媒2と熱交換を行う伝熱部14aを熱伝導率の高い金属製とすることや、伝熱部14aにフィンなどの拡大伝熱面を取り付けることが挙げられる。
【0021】
冷媒加熱容器13は、凝縮器14で凝縮した液体状態の冷媒3を、冷媒保持容器12で再利用するために加熱する装置である。冷媒加熱容器13は、容器内に導入された液体状態の冷媒3を加熱するためのヒーター17bを備える。低温負圧の冷媒3を加熱すると、冷媒3は高圧になるため、冷媒加熱容器13は、低温および高圧に耐えられる強度を持つものが好ましい。なお、凝縮器14および冷媒加熱容器13は、冷媒を低温で保持するため、これらの周囲に断熱材19を設ける。
【0022】
制御装置18は、上記の各弁16の開閉を制御するように構成されており、また、冷媒保持容器12および冷媒加熱容器13の各ヒーター17の起動停止を制御するように構成されている。
【0023】
プローブ11は、図1に示すように、患部に直接刺して用いることができる形状となっている。プローブ11については、図2を用いてさらに詳細に説明する。
【0024】
図2に示すように、プローブ11は、二重管構造を有しており、オリフィス管として作用する内管21と、患部と直接的に接触するプローブ本体22としての外管とを備える。内管21の両端は開口しており、両端の一方は、冷媒の圧力に耐えるための耐圧接合部23aを介して第一の管15aと接続し、他方は、外管22の閉じた先端付近に位置する。外管22の反対端は開口しており、内管と同様に耐圧接合部23bを介して第二の管15bと接続する。耐圧接合部23の材料としては、例えばエポキシ系接着剤やメタルガスケットが挙げられる。外管22は患部に直接刺入するため、強度に加えて生体に対して毒性がないことが求められる。具体的には注射針に用いられるステンレス管が好ましい。
【0025】
内管21内の冷媒流路の断面積、内管21の長さ、並びに内管21内および外管22内の冷媒の流路の断面積比により、冷媒の流量や減圧量、乾き度が変化することから、凝縮器14の凝縮性能および外管22の最低到達温度や冷却能力を適宜設計することができる。内管21は、加圧条件下で液体状態の冷媒1を大気圧程度まで減圧できる程度の細さおよび長さを有することが好ましい。具体的には内管21は、外径50〜200μm、肉厚10〜40μm、長さ100〜500mmが好ましい。特に外径100〜150μmがより好ましい。外管22も、このように内管21内で冷媒を大気圧程度まで減圧させる程度の大きさを有することが好ましい。特に、内管21を出た冷媒2は、図2に示すように、内管21の外壁と外管22の内壁の間にできた環状の流路を流れるため、この環状流路の等価直径が、内管21の内径よりも大きくなければならない。具体的には外管22は、外径450〜700μm、内径250〜350μmが好ましい。特に外径450〜600μmがより好ましい。外管22の肉厚は50〜180μmであるのが好ましい。また、外管22の長さは100〜200mmであるのが好ましい。なお、図2に示すように、本明細書において二重管構造とは、内管21の一部が外管22内に挿入されていればよい。
【0026】
以上の構成によれば、図1に示すように、先ず、冷媒保持容器12内に常温高圧で液体状態の冷媒1を供給する。また、凝縮器14には冷却剤4を導入し、凝縮器14内を低温負圧状態に維持する。この時、第二の管15bの弁16bは開けておき、その他の弁16a、16c、16d、16eは全て閉じておく。
【0027】
そして、プローブ11の冷却を開始するため、第一の管15aの弁16aを開ける。これによって液体状態の冷媒1が冷媒保持容器12からプローブ11へと流れる。図2に示すように、プローブ11では、液体状態の冷媒1が内管21に流入し、オリフィス作用により減圧、膨張され、二相流へと変化する。そして、内管21から外管22に流出すると、プローブ本体である外管22からの熱を奪って気化し、低温で気体状態の冷媒2となる。この気体状態の冷媒2は、内管21と外管21との間の環状流路を流れた後、第二の管15bを介して凝縮器14へと流れる。凝縮器14では、気体状態の冷媒2が冷却材4で冷却されて凝縮し、凝縮器14の底部に液体状態の冷媒3となって貯留する。
【0028】
このように、常温高圧で液体状態の冷媒1を、プローブ11の内管21内を経てから外管22内に放出することによって、冷媒1が減圧、低温化し、プローブ本体である外管22を−20℃以下に冷却することができ、よって、凍結手術が可能となる。また、冷媒1はプローブ11の内管21に流入するまで常温であることから、冷媒保持容器12からプローブ11まで冷媒が流れる第一の管15aを断熱する必要はない。また、外管22に放出された低温で気体の冷媒は、その熱容量が小さいため、即時に周囲の温度と同じ温度になり、よって、プローブ11から凝縮器14まで冷媒が流れる第二の管15bを断熱する必要はない。よって、患部に達するまでの冷媒用の管15を断熱する必要がないことから、体内での凍結手術が容易になる。
【0029】
次に、プローブ11の冷却を停止するため、第一の管15aの弁16aを閉じるとともに、バイパス管15cの弁16cを開ける。この弁16cを開けることにより、バイパス管15cを介して第一の管15a内の冷媒1が強制的に凝縮器14に流入する。これによりプローブ11内への冷媒1の流入が直ちに止まり、プローブ11の温度も−20℃以下から急速に生体組織の主成分である水の凝固点(すなわち0℃)程度まで上昇する。その後、プローブ11の温度は周囲の生体組織の自己発熱機構により常温まで次第に上昇する。このように各弁16の操作を行うことで、プローブ11の温度の低下および上昇を迅速に制御することができる。よって、この操作を繰り返すことにより、患部を繰り返し冷却することができ、細胞の壊死率を向上することができる。
【0030】
上記の冷却および冷却停止の操作は、冷媒保持容器12に蓄えた冷媒1が無くなるまで繰り返し継続して行うことができる。冷媒保持容器12内に冷媒1が無くなった後は、凝縮器14内に貯留する冷媒3を再利用する操作を行う。
【0031】
冷媒を再利用する操作は、先ず、第一及び第二の管15a、15bの弁16a、16bを開き、冷媒保持容器12内に残っている冷媒1を凝縮器14へ流し、冷媒保持容器12内を凝縮器14と同じ圧力にする。その後、上記の弁16a、16bを閉め、凝縮器14と冷媒加熱容器13の間の弁16dを開く。そして、凝縮器14内の液体状態の冷媒3を冷媒加熱容器13内に導入した後、弁16dを閉じ、ヒーター17bを用いて冷媒の加熱を行う。冷媒の加熱は、当初の冷媒保持容器12における冷媒の温度、例えば常温まで行う。これによって低温負圧で液体の冷媒3が、常温高圧で液体の冷媒1に変化する。
【0032】
次に、冷媒加熱容器13と冷媒保持容器12の間の弁16eを開き、冷媒加熱容器13内の常温高圧で液体状態の冷媒1を冷媒保持容器12内に供給する。そして、上記の弁16eを閉じることで、初めの状態に戻り、再び、プローブ11の冷却操作が可能となる。このように冷媒を再利用することで、冷媒を大気へ排出することなく、冷媒を半永久的に使用することができる。また、冷媒を再利用する過程で圧縮機を用いないため、装置全体を小型化することができる。
【0033】
図1及び図2に示す実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、プローブ11は、図2に示す形状の他、例えば、図3に示すように、外管32を円形などに湾曲した形状にすることもできる。この実施の形態の場合、外管32の両端は開口しており、一方は、耐圧接合部33を介して内管31と接続し、他方は、第二の管15bと接続する。内管31の両端も開口しており、一方は、耐圧接合部33および外管32の端部を介して第一の管15aと接続し、他方は、外管32の中間部分に位置する。内管31の外径、内径、長さは、図2の構成と同様である。一方、外管32は、内管31から出た冷媒2が外管32内を通過することから、内管31の内径よりも外管32の内径が大きければよい。具体的には外管32は外径200〜500μm、肉厚10〜180μm、長さ100mm〜500mmが好ましい。
【0034】
このように外管32の形状は任意に変形させることで、特定の部位を線状に凍結させることが可能となる。また、外管32を可撓性にすることもできる。この場合、外管32の材料は、低温における強度と柔軟性、そして生体適合性を有するものであれば特に限定されないが、例えばシリコンチューブなどが挙げられる。
【0035】
また、図1に示す実施の形態では、冷媒加熱容器13を設けたが、本発明は特にこれに限定されるものではない。例えば、冷媒の加熱は常温でよい場合もあることから、ヒーターを用いずに、例えば、冷媒を大気または空気と熱交換することで、凝縮器14の低温負圧の冷媒3を、当初の常温高圧の冷媒1に戻すことができる。このように加熱には任意の熱源を用いることができる。また、凝縮器14内で低温負圧の冷媒3を加熱してもよい。例えば、凝縮器14から冷却剤4を取り出し、任意の熱源により冷媒3を加熱するようにしてもよい。常温高圧の冷媒1となったら、凝縮器14から直接この冷媒1を冷媒保持容器12に供給してもよい。
【実施例】
【0036】
図4に示す構成の凍結手術装置で、プローブの冷却および冷却を停止する操作の試験を行った。なお、プローブは図2に示す構成のものを用いた。二重管構造のプローブの内管と外管として、外径および内径がそれぞれ150μmおよび70μmと550μmおよび300μmの2種類のステンレスチューブを用いた。冷媒には、オゾン破壊係数(ODP)が0である代替フロンの一つであるHFC−23(大気圧下の沸点:−82.1℃)を用いた。凝縮器14の冷却剤4には液体窒素(大気圧下の沸点:−196℃)を用いた。
【0037】
この試験では、先ず、冷媒保持容器12内に約42気圧で液体の冷媒を溜め、第一の管15aの弁16a、バイパス管15cの弁16c、冷媒保持容器12と凝縮器14の間の弁16dを閉じておき、第二の管15bの弁16bを開けておいた。また、凝縮器14内の圧力は、HFC−23の液体窒素温度における飽和圧力となり、約0気圧となった。また、プローブ11は約37℃の寒天に挿入した。これは生体組織を模擬するためである。
【0038】
そして、プローブ11の冷却を開始する操作として、第一の管15aの弁16aを開け、液体状態の冷媒1をプローブ11に流入させた。プローブ11の温度の時間履歴を図5に示す。液体状態の冷媒1が内管21を通る間に減圧され、二相流へと変化し、外管22内で寒天の熱を奪い気化した。プローブ11の表面が、冷却開始操作から10秒で約−25℃に達しているのが図5によりわかる。実際、プローブ11の周囲に凍結領域が確認された。
【0039】
次に、冷却開始20秒後に冷却停止操作を行った。先ず、第一の管15aの弁16aを閉じ、バイパス管15cの弁16cを開けた。この弁16cを開けることにより、第一の管15aおよびプローブ11内を流れていた冷媒1が同時かつ急速に凝縮器14に流入した。図5に示すように、冷却停止操作後、すぐにプローブ11の表面温度が0℃まで上昇した。しばらく0℃で温度が維持された後、冷却停止操作から約30秒後に凍結領域が完全に消滅し、プローブ11の温度が上昇した。
【符号の説明】
【0040】
1、2、3 冷媒
4 冷却剤
11 プローブ
12 冷媒保持容器
13 冷媒加熱容器
14 凝縮器
15 管
16 弁
17 ヒーター
18 制御装置
19 断熱材
21、31 内管
22、32 外管
23、33 耐圧接合部
30 患部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部を凍結するためのプローブと、このプローブで用いる冷媒を加圧条件下で液体状態に保持する容器と、気体状態の前記冷媒を冷却して凝縮する凝縮器と、前記容器から前記液体状態の冷媒を前記プローブへ送る第一の管と、前記プローブから前記気体状態の冷媒を前記凝縮器へ送る第二の管とを備える凍結手術装置であって、前記プローブは、内管および外管を備える二重管構造を有しており、前記内管は、前記第一の管からの前記液体状態の冷媒を減圧し、前記外管は、その外面が患部と接触するとともに、その内部に前記減圧した冷媒が流れ、前記患部からの熱を奪って前記冷媒を気化する凍結手術装置。
【請求項2】
前記プローブの内管が外径50〜200μmおよび肉厚10〜40μmであり、前記プローブの外管が外径200〜700μmおよび肉厚10〜180μmである請求項1に記載の凍結手術装置。
【請求項3】
前記第一の管と前記第二の管とを前記プローブを介さずに接続するバイパス管を更に備え、このバイパス管が開閉可能な弁を備える請求項1又は2に記載の凍結手術装置。
【請求項4】
患部を凍結するためのプローブと、このプローブで用いる冷媒を加圧条件下で液体状態に保持する容器と、気体状態の前記冷媒を冷却して凝縮する凝縮器と、前記容器から前記液体状態の冷媒を前記プローブへ送る第一の管と、前記プローブから前記気体状態の冷媒を前記凝縮器へ送る第二の管とを備える凍結手術装置の温度制御方法であって、
前記容器を前記第一及び第二の管並びに前記プローブを介して前記凝縮器と連通することによって、前記液体状態の冷媒を前記プローブに送り、冷媒を気化することで前記プローブを冷却する工程と、前記容器を前記プローブと非連通にするとともに前記第一の管を前記プローブを介さずに前記凝縮器と連通することによって、前記プローブの冷却を停止する工程とを含む凍結手術装置の温度制御方法。
【請求項5】
前記凝縮器で凝縮した冷媒を加熱することで、当初の加圧条件下で液体状態の冷媒に戻す工程を更に含む請求項4に記載の凍結手術装置の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−34798(P2013−34798A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175756(P2011−175756)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 国立大学法人東北大学 〔刊行物名〕 第一期博士研究教育院生(D3)学位論文要旨集及び活動実績報告書 〔発行年月日〕 平成23年2月23日
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】