説明

処置具用ワイヤーおよび処置具

【課題】処置具用ワイヤーおよび処置具において、処置具の操作や処置動作を繰り返しても伸びが生じにくく、かつ屈曲に対する耐久性にも優れるようにする。
【解決手段】複数の金属素線を撚り合わせた処置具用ワイヤー1であって、金属素線は、第1素線2と第2素線3とを含み、第1素線2の破断伸びは5%以下であり、が第2素線3の破断伸びは20%以上であるものを用いて、処置具を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置具用ワイヤーおよび処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用に用いられる処置具、例えば、体腔内で用いられる、スネア、高周波ナイフ、バスケット鉗子、把持鉗子などの処置具において、処置具用ワイヤーが用いられている。これらの処置具は、内視鏡に挿通して用いられることが多い。
処置具用ワイヤーの種類としては、これら処置具の先端に設けられた処置部を内視鏡内部で進退させたり、処置部の動作を操作したりするための操作ワイヤーを挙げることができる。この操作ワイヤーは、内視鏡の処置具チャンネルに挿通して進退されるシースに挿通され、先端側で、処置を行う処置部と連結されている。
また、この他の処置具用ワイヤーの種類としては、例えば、スネア、バスケット鉗子等において、操作ワイヤーの先端に設けられ、処置部を構成するワイヤー(以下、処置部ワイヤーと称する。)を挙げることができる。
このような処置具用ワイヤーの構成として、例えば、特許文献1には、ステンレス(SUS)やニッケルチタン(Ni−Ti)合金等の金属素線を撚り合わせた撚り線ワイヤーが用いられている。特許文献2には、1本の単線に6本の単線がスパイラル状に撚り合わされ1×7の撚り線からなる内視鏡用操作ワイヤが記載されている。また、この内視鏡用操作ワイヤを内視鏡用各種処置具の操作ワイヤに用いてもよいことが記載されている。この内視鏡用操作ワイヤの各単線はステンレス鋼細線が用いられている。
また、処置具用ワイヤーではないが、特許文献3には、Fe−Co−Cr−Si−Bを含む非晶質合金から形成された非晶質金属細線を7本撚りの撚り線として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−41319号公報
【特許文献2】特開2000−152911号公報
【特許文献3】特公平7−103439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の処置具用ワイヤーおよび処置具には、以下のような問題があった。
操作ワイヤーは、内視鏡に挿通される処置具では、内視鏡の屈曲に従って同様に屈曲するシース内で進退して使用される。
また、処置部ワイヤーは、例えば、スネアやバスケット鉗子の場合、先端がループ状に形成されており、基端部が操作ワイヤーに連結されてシースに進退することでループ径を変化させて、生体組織に巻き付けて括らせたり、結石などを破砕したりする。また、内視鏡を挿通させる場合には、シース内に入る大きさに畳まれる。このように処置部ワイヤーも、繰り返して屈曲されたり、繰り返しの応力負荷を受けたりすることになる。
例えば、特許文献1に記載されたようなSUSやNi−Ti合金の撚り線ワイヤーからなる操作ワイヤーは、繰り返し、圧縮力や引張力を受けるため、操作ワイヤーに塑性変形が発生し、経時的にワイヤー長が伸びてしまうことが知られている。操作ワイヤーに伸びが生じると、操作ワイヤーを通して操作対象に伝達される変位や荷重に誤差が生じ、処置具の操作に支障を来すという問題がある。処置部ワイヤーでは、処置が不完全になってしまうという問題がある。
特許文献2には、内視鏡用操作ワイヤの各単線をねじることによって残留応力を付与して、回転力を滑らかに伝達しかつ張力の作用によって回転してしまう現象を抑制する技術が記載されている。しかし塑性変形を抑制することはできないため、操作の繰り返しによる伸びの発生を抑制することはできないという問題がある。
また、特許文献3に記載の技術のように、撚り線ワイヤーを構成する各素線を、塑性変形が少なく伸びが生じにくい非晶質合金によって構成することも考えられるが、非晶質合金が撚られた撚り線ワイヤーは、塑性変形しにくいため撚られた状態での素線間の密着性が悪く、処置具用ワイヤーに求められる屈曲に対する耐久性が得られないという問題がある。
万一、このような撚り線ワイヤーが使用中に破断した場合、非晶質合金は弾性に富んでいるため、切断端がばらけて鋭利な先端が広がり、シースに損傷を与えたり、シースから内視鏡を突き抜けて、体腔内に突出したりするおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、処置具の操作や処置動作を繰り返しても伸びが生じにくく、かつ屈曲に対する耐久性にも優れる処置具用ワイヤーおよび処置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の処置具用ワイヤーは、複数の金属素線を撚り合わせた処置具用ワイヤーであって、前記複数の金属素線は、第1の素線と第2の素線とを含み、前記第1の素線の破断伸びは5%以下であり、前記第2の素線の破断伸びは20%以上である構成とする。
【0007】
また、本発明の処置具用ワイヤーでは、前記第1の素線は、20K以上のガラス遷移領域を有する非晶質合金である金属ガラスからなり、前記第2の素線は、ステンレスまたはニッケル−チタン合金からなることが好ましい。
【0008】
また、本発明の処置具用ワイヤーでは、前記第1の素線は、ジルコニウム系金属ガラスからなることが好ましい。
【0009】
また、本発明の処置具用ワイヤーでは、前記第1の素線と前記第2の素線とは、撚り合わせられて少なくとも一つのストランドを形成しており、該ストランドの外周面は、前記第2の素線によって形成され、前記ストランドの中心部に前記第1の素線が配置されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の処置具用ワイヤーでは、前記第1の素線と前記第2の素線とは、撚り合わせられて少なくとも一つのストランドを形成しており、該ストランドの外周面は、周方向に沿って、前記第1の素線と前記第2の素線とが交互に配列されて形成され、前記ストランドの中心部に前記第1の素線が配置されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の処置具用ワイヤーでは、前記第2の素線によってワイヤー外周面が形成され、前記第1の素線の単線または前記第1の素線による撚り線体がワイヤー中心部に配置されたことが好ましい。
【0012】
また、本発明の第1の素線の単線または第1の素線による撚り線体がワイヤー中心部に配置された処置具用ワイヤーでは、前記ワイヤー中心部に配置された前記第1の素線は、前記第2の素線の線径以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の処置具は、生体組織に対して処置を行う処置部を備える処置具であって、本発明の処置具用ワイヤーを備える構成とする。
【0014】
また、本発明の処置具では、前記処置部を操作する操作ワイヤーを有し、該操作ワイヤーは、前記処置具用ワイヤーを備えることが好ましい。
【0015】
また、本発明の、操作ワイヤーが本発明の処置具用ワイヤーを備える処置具では、前記処置具用ワイヤーは、該処置具用ワイヤーの一部を構成する前記金属素線または該金属素線の撚り合わせ体をワイヤー端部から延出した延出部を備え、前記処置部は、少なくとも一部が、前記延出部によって構成されることが好ましい。
【0016】
また、本発明の処置具では、前記処置部は、前記処置具用ワイヤーを備えることが好ましい。
【0017】
また、本発明の処置具では、前記処置具用ワイヤーの前記第1の素線は、20K以上のガラス遷移領域を有する非晶質合金である金属ガラスからなり、前記第1の素線を熱間プレスによってかしめたかしめ固定部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の処置具用ワイヤーおよび処置具によれば、破断伸びが5%以下の第1の素線と破断伸びが20%以上の第2の素線とを撚り合わせた構成とするため、処置具の操作や処置動作を繰り返しても伸びが生じにくく、かつ屈曲に対する耐久性にも優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る処置具の主要部の構成を示す部分断面図。およびそのa部の部分拡大図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な正面図、およびそのA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る処置具用ワイヤーの評価に用いた屈曲試験方法を説明する模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の第1変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の第2変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な正面図、およびそのB−B断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の第3〜第5変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の第6、第7変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の第8〜第10変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の第11、第12変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の第13変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図11】本発明の第1の実施形態の第14〜第16変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図12】本発明の第1の実施形態の第17、第18変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図13】本発明の第1の実施形態の第19変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図14】本発明の第1の実施形態の第20、第21変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る処置具の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る処置具用ワイヤーの構成を示す斜視図である。
【図17】本発明の第2の実施形態に係る処置具用ワイヤーの一部の構成を示す正面図である。
【図18】本発明の第2の実施形態に係る処置具用ワイヤーを屈曲させる工程について説明するための斜視図である。
【図19】本発明の第3の実施形態に係る処置具に用いる処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な正面図、およびそのD−D断面図である。
【図20】本発明の第3の実施形態に係る処置具の処置具用ワイヤーと処置部との接続部の断面を示す模式的な断面図、および接続部の製造工程を示す模式的な断面図である。
【図21】本発明の第3の実施形態に係る処置具の先端接合部の接合工程を示す模式的な工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る処置具用ワイヤーおよび処置具について説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る処置具の主要部の構成を示す部分断面図である。図1(b)は、図1(a)におけるa部の部分拡大図である。図2(a)は、本発明の第1の実施形態に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な正面図である。図2(b)は、図2(a)におけるA−A断面図である。
【0022】
本実施形態の処置具であるスネア40は、高周波電流を流すことによって体腔内の患部等の生体組織を切除する医療用器具である。
スネア40の概略構成は、図1(a)に示すように、シース41、スネアワイヤー43(処置部ワイヤー)、および操作ワイヤー42を備える。
【0023】
シース41は、スネア40を不図示の内視鏡の処置具チャンネルに挿通させるとともに、スネアワイヤー43および操作ワイヤー42を内部に挿通させる部材であり、内視鏡の処置具チャンネルの内径よりも小さい外径と、畳まれた状態のスネアワイヤー43、および操作ワイヤー42が挿通可能な内径とを有し、可撓性を有する細長いチューブ部材からなる。
シース41の材質は、電気絶縁性および耐熱性を有する合成樹脂材料を採用することができる。本実施形態では、耐熱温度が300℃程度の、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)を採用している。
【0024】
スネアワイヤー43は、シース41の先端で内径が変更可能なループ形状、例えば、円形、楕円形、洋梨形、紡錘形、多角形等の形状を有し、患部等の生体組織をループ内に保持した状態で、高周波電流を供給することにより、生体組織を切除する処置部を構成する部材である。
本実施形態では、スネアワイヤー43の形状は、外力が作用しない状態でほぼ紡錘状のループを描く形状とされている。
本実施形態では、一例として、1本の金属製の撚り線ワイヤーを中央から折り曲げることで、C字状に湾曲された弧状湾曲部43R、43Lと、これら弧状湾曲部43R、43LをつなぐU字状の先端曲げ部43bとを形成し、弧状湾曲部43R、43Lの先端曲げ部43bと反対側の端部であるワイヤー端部43a、43cとをかしめ部44で固定した構成とされる。
【0025】
かしめ部44は、図1(b)に示すように、スネアワイヤー43のワイヤー端部43a、43bと操作ワイヤー42の端部とを挿通させた、例えばSUS304からなる管部材をプレスして形成されたものである。かしめ部44の外径は、シース41のシース内面41aの内径よりも小さく、かしめ部44の外表面はシース内面41aと滑らかに摺動できる平滑面とされている。
【0026】
操作ワイヤー42は、スネアワイヤー43をシース41の端部から進退させる操作を行うとともに、スネアワイヤー43が患部を保持した状態で、スネアワイヤー43に高周波電流を供給する長尺の金属撚り線ワイヤーである。
本実施形態では、操作ワイヤー42の一端は、かしめ部44によってスネアワイヤー43と連結され、他端は、図示略のシース41の反対側の端部から延出され、適宜の操作機構および高周波電源(いずれも図示略)にそれぞれ機械的、電気的に接続されている。
【0027】
スネアワイヤー43および操作ワイヤー42は、それぞれ異なるワイヤー構成を有していてもよいが、本実施形態では、ワイヤー構成は共通である。
すなわち、本実施形態のスネアワイヤー43および操作ワイヤー42は、図2(a)、(b)に示す処置具用ワイヤー1を折り曲げたり、切断したりして形成されている。
【0028】
処置具用ワイヤー1の構成は、図2(a)、(b)に示すように、金属素線からなる第1素線2(第1の素線)を芯線(ワイヤー芯線)として中心に配置し、この第1素線2の外周に、第1素線2とは材質の異なる金属素線からなる6本の第2素線3(第2の素線)を螺旋状に撚り合わせて外層部4Aを構成した撚り線ワイヤーである。このため、処置具用ワイヤー1は、7本の金属素線による1本のストランドからなる。
以下では、撚り線ワイヤーの構成を、ストランド数をN、1ストランドを構成する素線数をMとしたときに、N×Mで表すことにする。本実施形態の処置具用ワイヤー1は、1×7ワイヤーになっている。
処置具用ワイヤー1の撚り方向は、特に限定されないが、図2(a)には、Z撚りの例を示している。
各第2素線3は、周方向に隣接する他の第2素線3と密着されている。このため、外層部4Aは、第1素線2を側方から隙間なく覆っている。したがって、処置具用ワイヤー1の外周面は、第2素線3のみによって構成されている。
【0029】
なお、図1(a)では、見易いように、第1素線2が、外層部4Aの端部から突出した形態を示しているが、処置具用ワイヤー1の端部形状は、用途に応じて適宜形状を採用することができる。例えば、図1(b)に示すように、スネアワイヤー43および操作ワイヤー42の端部では、第1素線2および各第2素線3が、1つの端面に整列するように切り揃えられている。ただし、操作ワイヤー42の図示略の端部や他の処置具の用途では、図示しない端部部品が溶接やかしめ等によって固定されていたり、一体成形されていたりしてもよい。
【0030】
第1素線2および第2素線3の材質は、第1素線2の場合、破断伸びが5%以下、第2素線3の場合、破断伸びが20%以上となる材質を選定する。ここで、破断伸びは、JIS Z2241によって規定される試験方法によって求められ、百分率で表される。
破断伸びが小さい金属材料は、破断伸びがより大きい金属材料に比べて、塑性変形を起こしにくい。
一般に非晶質合金(非結晶性の金属材料)は、結晶質金属(結晶性の金属材料)に比べて塑性変形を起こしにくく、破断伸びが小さくなっている。特に、金属ガラスとして知られる非晶質合金は、高弾性を有し、高強度であるため、細線化が可能となり、処置具用ワイヤー1における第1素線2として好適な材料である。
第2素線3として好適な金属材料は、例えば、SUS304等のステンレス鋼線材、ニッケル−チタン(Ni−Ti)合金などの例を挙げることができる。
【0031】
金属ガラスとは、非晶質合金のうち昇温時にガラス転移点が明瞭に観察されるもので、ガラス転移点から結晶化温度までの間の過冷却液体領域の温度幅、すなわちガラス遷移領域が20K以上ある合金のことである。
金属ガラスの材質としては、ジルコニウム(Zr)基合金、鉄(Fe)基合金、チタン(Ti)基合金、マグネシウム(Mg)基合金、銅(Cu)基合金などを挙げることができる。
金属ガラスは、一定組成を有する金属の母材料を溶融して、母材料合金の溶湯を形成し、この溶湯を母材料合金の臨界冷却速度以上の冷却速度で母材料合金のガラス転移点以下に冷却して非晶質化することにより形成される。
具体的には、例えば、組成(atm%)が、Zr55Cu30Al10Niや、Zr60Cu20Al10Ni10などの例を挙げることができる。これらの非晶質合金材料は、Zrを主成分とするため、成形転写性に優れ複雑形状の成形が容易である。また、これらは、ニッケル(Ni)を添加しているため、耐薬品性にも優れる。
また、例えば、チタン(Ti)を主成分とする非晶質合金材料も好適である。例えば、Ti40Zr10Cu36Pd14を挙げることができる。この材料は、生体適合性が特に優れており、人体に直接接触して用いる内視鏡部品に好適な材料である。
Cu基合金としては、例えば、組成(atm%)が、Cu60Zr30Ti10などの例を挙げることができる。
【0032】
下記の表1には、第1素線2または第2素線3として好適な金属材料の具体例を、破断伸び(%)、破断応力(MPa)の数値とともに示す。なお、MGは金属ガラスを表す。例えば、「MG(Zr基)」は、Zr基合金の金属ガラスを意味する。
また、表2には、参考として比抵抗のデータを示す。
【0033】
【表1】

【表2】

【0034】
表1に示すように、金属ガラスである、Zr基合金(Zr55Cu30Al10Ni)、Fe基合金(ユニチカ(株)製ボルファ(登録商標))、Cu基合金(Cu60Zr30Ti10)の(破断伸び,破断応力)は、それぞれ、(1.8%,1800MPa)、(3%,3500MPa)、(4.3%,3500MPa)である。
これに対して結晶性の金属材料であるSUS304、Ni−Ti合金の超弾性材、Ni−Ti合金の焼鈍材の(破断伸び,破断応力)は、それぞれ、(40%,520MPa)、(20%,1500MPa)、(60%,1000MPa)である。
このように金属ガラスは、結晶性の金属材料に比べて格段に破断伸びが小さく、破断応力も大きいことが分かる。
【0035】
本実施形態では、一例として、第1素線2には、Zr55Cu30Al10Ni(電気抵抗率:240μΩ・cm)、第2素線3には、SUS304(電気抵抗率:70μΩ・cm)を採用している。これにより、外層部4Aを構成する第2素線3の電気抵抗率が第1素線2に比べて低くなっているため、スネアワイヤー43およびスネアワイヤー43の全体としての電気抵抗を低減している。
また、本実施形態では、第1素線2および第2素線3の線径は同径としている。線径の大きさは、処置や操作の用途に応じて適宜に大きさを採用することができる。例えば、スネア40の場合、直径0.3mm〜0.7mmが好適である。本実施形態では、直径0.4mmを採用している。
ただし、これらの構成は一例であり、第2素線3として、破断伸び20%のNi−Ti超弾性材(電気抵抗率:90μΩ・cm)も電気抵抗率が低いためSUS304に代えて好適に用いることができる。
また、表2に示すように、Fe基合金(ユニチカ(株)製ボルファ(登録商標))は、電気抵抗率がZr55Cu30Al10Niよりも低いため、Zr55Cu30Al10Niに代えた第1素線2として用いれば、スネアワイヤー43およびスネアワイヤー43の全体としての電気抵抗をさらに低減することができる。
【0036】
次に、スネア40の作用について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る処置具用ワイヤーの評価に用いた屈曲試験方法を説明する模式図である。
【0037】
スネア40の使用方法は、従来のスネアと同様である。すなわち、操作ワイヤー42を牽引してスネアワイヤー43をシース41内に収容し、この状態で、内視鏡の処置具チャンネルに挿通して、シース41の先端を体腔内に導く。このとき、内視鏡は体腔内で湾曲しているため、シース41および内部に収容されたスネアワイヤー43および操作ワイヤー42は挿通動作とともに処置具チャンネルの湾曲に沿って湾曲されながら挿通される。
内視鏡が処置対象である患部の近傍に達すると、シース41の端部を内視鏡から押し出し、さらに操作ワイヤー42を先端側に進出させる。これにより、スネアワイヤー43がシース41の先端から押し出されてループ形状が復元される。
スネア40によって、患部の切除を行うには、内視鏡の湾曲部を操作して内視鏡の先端部を移動させたり、シース41を先端側に繰り出したりすることで、スネアワイヤー43の内部に患部を位置付ける。次に、シース41の位置を固定して操作ワイヤー42を手元側に引き戻してスネアワイヤー43を縮径して患部を保持する。次に、操作ワイヤー42に高周波電流を流しつつ、操作ワイヤー42をさらに手元側に牽引して、操作ワイヤー42を縮径していく。
スネアワイヤー43は操作ワイヤー42と導通しているため、スネアワイヤー43と接触した位置の生体組織は高周波電流によって焼灼され、スネアワイヤー43の縮径とともに切断され、患部が切除される。
【0038】
なお、スネアワイヤー43および操作ワイヤー42に通電する際、本実施形態では、第1素線2が金属ガラスであるため、第1素線2がガラス転移点を超えない条件のもとで使用する必要がある。実施形態のZr基合金のガラス転移点は490℃である。
一方、本実施形態ではシース41に耐熱温度が約300℃のPTFEを用いていており、使用時の操作ワイヤー42の温度は300℃より低くなる条件下で使用するため、ガラス転移点を超えないとの条件は十分に満たされている。よって、使用中に第1素線2が軟化したり、結晶化したりすることはない。
【0039】
このような処置を繰り返し行うことで、スネア40のスネアワイヤー43および操作ワイヤー42は、曲げ、引っ張り、圧縮などの繰り返し負荷を受けることになる。
本実施形態では、スネアワイヤー43および操作ワイヤー42に処置具用ワイヤー1を採用しているため、このような繰り返し負荷が作用しても、例えば、従来のSUS素線やNi−Ti合金素線のみからなる処置具用ワイヤーに比べて、耐久性を向上できる。
【0040】
以下、このような処置具用ワイヤー1の作用について、具体的な実施例および比較例の処置具用ワイヤーを製作して、繰り返しの屈曲試験を行った評価結果に基づいて説明する。
処置具用ワイヤー1では、芯線である第1素線2の金属材料が外層部4Aを構成する第2素線3の金属材料よりも破断伸びが小さい材質からなるため、長手方向に沿う圧縮力や引張力に対しては、第1素線2によってほぼ弾性的に抵抗することができる。また塑性変形するとしても第2素線3のみからなる場合に比べて塑性変形量は小さくなる。
このため、処置具用ワイヤー1は、破断伸びが大きい金属素線のみから構成される撚り線ワイヤーに比べて、処置具の内視鏡への挿通動作や患部の処置動作を繰り返しても伸びにつながる長手方向の塑性変形量を低減することができる。
【0041】
また、処置具用ワイヤー1が受ける繰り返しの曲げ応力は、曲げの中立軸に配置された第1素線2では小さく、外層部4Aを構成する第2素線3の方により顕著に作用する。
ところが、第2素線3は、第1素線2に比べて塑性変形が容易であるため、撚られた状態において、ある程度塑性変形して、第1素線2および隣接する他の第2素線3に密着している。このため、処置具用ワイヤー1に曲げ応力が作用すると、外層部4Aにおいて一体性の高い複数の第2素線3によって抵抗することができる。
このため、外層部4Aを破断伸びが小さい金属材料からなる素線によって構成する場合に比べて、屈曲に対する耐久性を向上することができる。
【0042】
下記の表3に、実験に用いた処置具用ワイヤーの構成および評価結果を示す。
【0043】
【表3】

【0044】
評価に用いたワイヤーの構成は、いずれも、処置具用ワイヤー1と同様、1×7ワイヤー、Z撚りである。また、素線径はいずれも直径0.4mmである。
実施例1〜3と、比較例1〜6とは、それぞれ、芯線、および外層部を構成する素線(以下、外層部素線)の材質のみが異なる。それぞれの材質としては、上記表1に示す材質から選択した。
実施例1は、処置具用ワイヤー1の一実施例であり、第1素線2の材質がMG(Zr基)、第2素線3の材質がSUS304である。
実施例2は、処置具用ワイヤー1の一実施例であり、第1素線2の材質がMG(Fe基)、第2素線3の材質がSUS304である。
実施例3は、処置具用ワイヤー1の一実施例であり、第1素線2の材質がMG(Cu基)、第2素線3の材質がNi−Ti超弾性材である。
【0045】
比較例のワイヤーは、いずれも、芯線の材質と外層部素線の材質とを一致させた構成のワイヤーである。
比較例1〜6は、金属素線の材質が、それぞれ、MG(Zr基)、MG(Fe基)、MG(Cu基)、SUS304、Ni−Ti超弾性材、Ni−Ti焼鈍材からなる。
したがって、比較例1〜3は、破断伸び5%以下の塑性変形しにくい材質のみで構成されており、比較例4〜6は、破断伸び20%以上の塑性変形しやすい材質のみで構成されている。
【0046】
これら実施例1〜3、比較例1〜7の各ワイヤーを、図3に示す屈曲試験機104を用いて屈曲試験を行い、小さな曲げ半径での屈曲に対する耐久性(屈曲耐久性)と伸びとを評価した。
屈曲試験機104は、牽引部107に掛け回した供試ワイヤーWに錘105による負荷荷重をかけて、繰り返しの屈曲を与える装置である。
このため、供試ワイヤーWは、その一端が錘105に接続され、供試ワイヤーWを直径Dのプーリー106に半周掛け回すことで錘105を吊り下げている。供試ワイヤーWの他端は、鉛直下方に延ばされて、牽引部107の保持部107aによって鉛直方向に昇降可能に保持されている。
試験条件は、プーリー106のプーリー径DをD=15(mm)、錘105の質量を5kgとし、保持部107aをストローク100mmで、60往復/分の頻度で繰り返し往復駆動した。
これにより、供試ワイヤーWの100mmの範囲が、真直状態からプーリー106の曲率半径7.5mmの間で繰り返し屈曲される。また、供試ワイヤーWの張力は、錘105によるオフセット荷重49Nを中心として繰り返し変化する繰り返しの引張力が作用する。
【0047】
屈曲耐久性の評価は、破断することなく10万回の往復ができたかどうかで判定した。ここで、「破断」の判定は、素線が1本でも破断した場合を「破断」と判定している。表2において、○は、破断することなく10万回の往復ができたことを意味し、×は、10万回未満で破断したことを意味する。
伸びの評価は、屈曲試験終了後の伸び量の大きさで評価した。具体的には、スネアやバスケット鉗子等の処置具において操作性が悪化する経験値に基づいて、伸び量の大きさが、10%未満を○、10%以上を×とした。屈曲試験で破断が生じたものは、破断時の状態で測定した。
【0048】
表3に示すように、実施例1〜3は、いずれも、屈曲耐久性、伸びともに○の評価が得られた。したがって、処置具の操作や処置動作を繰り返すことによって、繰り返しの曲げや引張りを受けても、伸びが生じにくく、かつ良好な屈曲耐久性が得られることが分かる。
一方、比較例1〜3では、金属素線全部が金属ガラスで構成されているため、伸びが生じにくくなっているものの、外層部素線が塑性変形しにくく一体性に欠けるため、屈曲耐久性が、実施例1〜3に比べて劣っている。
また、比較例4〜6では、金属素線全部が結晶性の金属材料構成されているため、塑性変形しやすく、屈曲耐久性は良好であるものの、塑性変形にしやすいため、伸びにおいては、実施例1〜3に比べて劣っている。
【0049】
このように、処置具用ワイヤー1によれば、第1素線2と第2素線3とを撚り合わせ、第2素線3に比べて破断伸びの小さい第1素線2を芯線とし、第1素線2に比べて破断伸びの大きい第2素線3によって外層部4Aを構成しているため、曲げ応力、引張力、圧縮力が作用する処置具の操作や処置動作を繰り返しても、塑性変形による伸びが生じにくくなっている。また、金属素線全部が破断伸びの小さい金属材料で構成されている場合に比べて、屈曲に対する耐久性を向上することができる。
【0050】
また、処置具用ワイヤー1によれば、第1素線2の外周が第2素線3によって覆われているため、万一、処置具の操作中に第1素線2が屈曲状態で破断した場合でも、第1素線2が屈曲に対する耐久性に優れる第2素線3で覆われている。このため、第1素線2の破断された先端が第2素線3を突き抜けて側方に突出しにくい構造となっている。したがって、第1素線2がシース41の内部や体腔内で破断しても、第1素線2の端部が体腔などに露出しにくくなっている。
【0051】
また、芯線となる第1素線2は、塑性変形しにくいため、ねじれにも強くなっている。
【0052】
また、本実施形態のスネア40によれば、処置具用ワイヤー1を用いたスネアワイヤー43、操作ワイヤー42を備えるため、処置具としての耐久性を向上することができる。
例えば、操作ワイヤー42のワイヤー伸びによる操作トルク追従性の低下が起こりにくくなる。また、シース41にスネアワイヤー43を繰り返し収容しても、塑性変形が起こりにくいため、スネアワイヤー43の開口形状が次第に狭くなる劣化が生じにくい。このため、操作性が良く、繰り返し使用に優れるスネアを提供することができる。
【0053】
[第1変形例]
次に、本実施形態の第1変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態の第1変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【0054】
本変形例の処置具用ワイヤー10は、図4に示すように、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1を1つのストランドSとして用い、このストランドSを3本撚り合わせて構成した3×7ワイヤーである。処置具用ワイヤー10は、スネアワイヤー43および操作ワイヤー42として、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1に代えて用いることができるものである(以下の第2〜第21変形例も同様)。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
ストランドSは、第2素線3によって外周面が形成された第2素線被覆ストランドを構成している。このため、処置具用ワイヤー10の外周面は、各ストランドSの外層部4A、すなわち、第2素線3によって形成されている。
また、処置具用ワイヤー10の撚り方は、Z撚りでもS撚りでもよい。第1素線2および第2素線3の線径は、使用時に受ける荷重に応じて適宜選定することができる。
【0055】
処置具用ワイヤー10によれば、各ストランドSが上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1と同様の構成を有するため、処置具用ワイヤー1と同様に、伸びが生じにくく、かつ屈曲に対する耐久性にも優れる。
また、伸びに強いストランドSを3本撚り合わせているため、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1に比べて高荷重が作用する操作用途に用いることができる。
また、3本のストランドSが撚り合わされることによって、各外層部4Aが他のストランドSの外層部4Aと密着して当接しているため、屈曲に対する抵抗をより向上することができる。
【0056】
また、ストランドSは第1素線2を含むことにより全体として破断応力も高いため、処置具用ワイヤー10がねじれた場合でもねじれによる圧縮力または引張力の負荷にほぼ弾性変形の範囲で抵抗することができる。このため、処置具用ワイヤー10はねじれにも強くなっている。
【0057】
[第2変形例]
次に、本実施形態の第2変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図5(a)は、本発明の第1の実施形態の第2変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な正面図である。図5(b)は、図5(a)におけるB−B断面図である。
【0058】
本変形例の処置具用ワイヤー11は、図5(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1を1つのストランドSとして用い、このストランドSを7本撚り合わせて構成した7×7ワイヤーである。
以下、上記第1の実施形態および上記第1変形例と異なる点を中心に説明する。
【0059】
処置具用ワイヤー11の中心部には、ワイヤー本体の芯部ストランドを構成する1本のストランドSが配置され、このストランドSの外周に外層部ストランドを構成する6本のストランドSが撚り合わされている。
処置具用ワイヤー11の外周面は、外層部ストランドを構成する各ストランドSの外層部4A、すなわち、第2素線3によって形成されている。
また、処置具用ワイヤー11の撚り方は、Z撚りでもS撚りでもよい。
図5(a)では、好ましい例として、芯部ストランドがZ撚り、外層部ストランドがS撚り、ワイヤー本体がZ撚りである場合を示している。このような撚り方によれば、芯部ストランドと、芯部ストランドの外周を覆う外層部ストランドとの撚り方向が反対となるため、ほどけにくくなり、さらに耐久性が向上される。
第1素線2および第2素線3の線径は、使用時に受ける荷重に応じて適宜選定することができる。
【0060】
処置具用ワイヤー11によれば、上記第1変形例の処置具用ワイヤー10と同様に、複数のストランドSが撚り合わされているため、伸びが生じにくく、かつ屈曲に対する耐久性にも優れる。また、ストランドSの本数が処置具用ワイヤー10に比べて多いため、処置具用ワイヤー10よりもさらに高強度、高耐久性を備えることができる。
【0061】
[第3変形例]
次に、本実施形態の第3変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図6(a)は、本発明の第1の実施形態の第3変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【0062】
本変形例の処置具用ワイヤー12は、図6(a)に示すように、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1の外層部4Aに代えて、外層部4Bを備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0063】
外層部4Bは、処置具用ワイヤー12の芯線である第1素線2の外周に、周方向に沿って、合計3本の第1素線2と、合計3本の第2素線3とを、1本ずつ交互に配置して撚り合わせたものである。このため、処置具用ワイヤー12は、外周面の一部に第1素線2が露出した1×7ワイヤーになっている。
処置具用ワイヤー12の撚り方は、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1と同様に特に限定されない。
【0064】
処置具用ワイヤー12によれば、外層部4Bにも第1素線2が含まれているため、伸びに対する抵抗がより強固となり、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1に比べて、さらに伸びを低減することができる。
また、外層部4Bにおいて、第1素線2は、塑性変形し易い第2素線3に挟まれた状態で撚られている。このため、第1素線2は、ワイヤー本体の周方向の両側から、第2素線3に挟まれているため、第2素線3によって周方向の位置が拘束されている。この結果、外層部が第1素線2のみから構成される場合に比べて、屈曲に対する耐久性を向上することができる。
【0065】
また、処置具用ワイヤー12は、芯線および外層部4Bに塑性変形しにくい第1素線2を含むため、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1に比べて、さらにねじれにも強くなっている。
【0066】
[第4、第5変形例]
次に、本実施形態の第4、第5変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図6(b)、(c)は、それぞれ、本発明の第1の実施形態の第4、第5変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【0067】
第4変形例の処置具用ワイヤー13は、図6(b)に示すように、上記第1変形例の処置具用ワイヤー10の3本のストランドSに代えて、上記第3変形例の処置具用ワイヤー12と同様の構成を有する3本のストランドSを備える3×7ワイヤーである。
また、第5変形例の処置具用ワイヤー14は、図6(c)に示すように、上記第2変形例の処置具用ワイヤー11の7本のストランドSに代えて、7本のストランドSを備える7×7ワイヤーである。
【0068】
処置具用ワイヤー13、14によれば、各ストランドSが上記第3変形例の処置具用ワイヤー12と同様の構成を有するため、処置具用ワイヤー12と同様に、伸びが生じにくく、かつ屈曲に対する耐久性にも優れる。
また、伸びに強いストランドSを3本または7本撚り合わせているため、上記第3変形例の処置具用ワイヤー12に比べて高荷重が作用する操作用途に用いることができる。
また、3本または7本のストランドSが撚り合わされることによって、それぞれ処置具用ワイヤー13,14の内部側でも、第1素線2が第2素線3と当接するため、内部側の第1素線2が第2素線3によって拘束され、屈曲に対する抵抗をより向上することができる。
【0069】
[第6変形例]
次に、本実施形態の第6変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図7(a)は、本発明の第1の実施形態の第6変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【0070】
本変形例の処置具用ワイヤー15は、図7(a)に示すように、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1の外周に12本の第2素線3を撚り合わせたのと同様の断面構成を有する1×19ワイヤーである。すなわち、芯線である第1素線2の外周に6本の第2素線3からなる中間層部5Aが形成され、その外周に12本の第2素線3からなる外層部4Cが形成されている。このため、処置具用ワイヤー15の外周面は第2素線3のみによって構成されている。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0071】
中間層部5Aおよび外層部4Cの撚り方向は、適宜の撚り方向とすることができるが、よりほどけにくくするためには、中間層部5Aの撚り方向と外層部4Cの撚り方向とは互いに反対方向であることが好ましい。
【0072】
処置具用ワイヤー15によれば、第1素線2の外周に第2素線3のみからなる中間層部5A、外層部4Cが形成された2層構造を有するため、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1に比べて、第2素線3同士の密着性が向上する。また、曲げ応力を、より多くの第2素線3で負荷することができるため、屈曲に対する耐久性を向上することができる。
また、処置具用ワイヤー15によれば、第1素線2の外周が第2素線3によって2重に覆われているため、万一、内視鏡の操作中に第1素線2が屈曲状態で破断した場合でも、処置具用ワイヤー1に比べて、第1素線2の破断した先端がより突出しにくい構造となっている。
【0073】
[第7変形例]
次に、本実施形態の第7変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図7(b)は、本発明の第1の実施形態の第7変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【0074】
本変形例の処置具用ワイヤー16は、図7(b)に示すように、上記第3変形例の処置具用ワイヤー12の外周に12本の第2素線3を撚り合わせたのと同様の断面構成を有する1×19ワイヤーである。すなわち、芯線である第1素線2の外周に処置具用ワイヤー1と第2素線3とが交互に配置された合計6本の中間層部5Bが形成され、その外周に外層部4Cが形成されている。このため、処置具用ワイヤー16の外周面は第2素線3のみによって構成されている。
本変形例は、上記第6変形例の中間層部5Aに代えて、中間層部5Bを備える構成にもなっている。以下、上記第3、第6変形例と異なる点を中心に説明する。
【0075】
中間層部5Bおよび外層部4Cの撚り方向は、適宜の撚り方向とすることができるが、よりほどけにくくするためには、中間層部5Aの撚り方向と外層部4Cの撚り方向とは互いに反対方向であることが好ましい。
【0076】
処置具用ワイヤー16によれば、中間層部5Bの一部を構成する第1素線2が、周方向のみならず径方向外側からも第2素線3によって覆われる構成を有する。このため、上記第3変形例の処置具用ワイヤー12に比べて、第1素線2に対する拘束が強まっているため、屈曲に対する耐久性をより向上することができる。
【0077】
[第8〜第10変形例]
次に、本実施形態の第8〜第10変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図8(a)、(b)、(c)は、本発明の第1の実施形態の第8〜第10変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
第8〜第10変形例は、それぞれ、7本構成のストランドを撚り合わせて、ワイヤー本体の外周面が第2素線3のみから形成された7×7ワイヤーを構成した場合の一例になっている。
【0078】
第8変形例の処置具用ワイヤー17は、図8(a)に示すように、上記第2変形例の処置具用ワイヤー11の芯部ストランドであるストランドSに代えて、ストランドSを備える。
処置具用ワイヤー17によれば、芯部ストランドに、より伸びにくいストランドSを採用しているため、処置具用ワイヤー11に比べて伸びが発生しにくくなっている。
【0079】
第9変形例の処置具用ワイヤー18は、図8(b)に示すように、上記第2変形例の処置具用ワイヤー11の外層部ストランドである6本のストランドSに代えて、6本のストランドSを備える。
ストランドSは、ストランドSのストランド芯線である第1素線2を第2素線3に代えたものである。このため、ストランドSは7本の第2素線3のみからなるストランドになっている。
処置具用ワイヤー18によれば、外層部ストランドに、より屈曲耐久性に優れるストランドSを採用しているため、処置具用ワイヤー11に比べて屈曲に対する耐久性を向上することができる。
また、第1素線2は、第2素線3によって多重に囲まれているため、破断時に側方に突出するおそれがさらに少なくなる。
【0080】
第10変形例の処置具用ワイヤー19は、図8(c)に示すように、上記第8変形例の処置具用ワイヤー17の外層部ストランドである6本のストランドSに代えて、6本のストランドSを備える。
処置具用ワイヤー19によれば、芯部ストランドに伸びが発生しにくいストランドSを採用し、外層部ストランドに屈曲耐久性に優れるストランドSを採用しているため、伸びの抑制と屈曲耐久性の向上とが両立し易くなっている。
また、第1素線2は、芯部ストランドのみに配置され、外層部ストランドを構成するストランドSによって囲まれているため、処置具用ワイヤー17に比べて、破断時に側方に突出する可能性をさらに低減することができる。
【0081】
[第11、第12変形例]
次に、本実施形態の第11、第12変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図9(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の第11、第12変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
第11、第12変形例は、それぞれ、第1素線2のみからなる芯部ストランドと、第2素線3のみからなる外層部ストランドとを撚り合わせて、ワイヤー本体の外周面が第2素線3のみから形成されたワイヤーを構成した場合の一例になっている。
【0082】
第11変形例の処置具用ワイヤー20は、図9(a)に示すように、第1素線2を3本撚り合わせたストランドSを芯部ストランドとして、この外周に3本の第2素線3を撚り合わせたストランドSを6本撚り合わせて形成した7×3ワイヤーである。ストランドSは、処置具用ワイヤー20のワイヤー本体の外周面を構成する外層部ストランドになっている。
また、ストランドSは、第1素線2のみから構成されるストランドである第1素線ストランドを構成している。
処置具用ワイヤー20の撚り方向は、特に限定されないが、例えば、ストランドSがZ撚り、ストランドSがS撚り、ワイヤー本体がZ撚りの構成を採用することができる。
処置具用ワイヤー20によれば、芯部ストランドに伸びの発生しにくい第1素線2のみからなるストランドSを採用し、外層部ストランドに、屈曲耐久性に優れる第2素線3のみからなるストランドSを採用しているため、伸びの抑制と屈曲耐久性の向上とが両立し易くなっている。
【0083】
第12変形例の処置具用ワイヤー21は、図9(b)に示すように、上記第10変形例の処置具用ワイヤー19の芯部ストランドであるストランドSに代えて、ストランドSを備える。
ストランドSは、ストランドSの外層部4Bの第2素線3をすべて第1素線2に代えたものである。このため、ストランドSは7本の第1素線2のみからなる第1素線ストランドを構成している。
処置具用ワイヤー21によれば、芯部ストランドに伸びの発生しにくい第1素線2のみからなるストランドSを採用し、外層部ストランドに、屈曲耐久性に優れる第2素線3のみからなるストランドSを採用しているため、伸びの抑制と屈曲耐久性の向上とが両立し易くなっている。
【0084】
[第13変形例]
次に、本実施形態の第13変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態の第13変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【0085】
本変形例の処置具用ワイヤー22は、図10に示すように、上記第8変形例の処置具用ワイヤー17の芯部ストランドであるストランドSに代えて、第2素線3よりも破断伸びが小さい金属材料からなり、ストランドSの第1素線2よりも大径に形成された第1素線2aを備える。第1素線2aの線径は、6本のストランドSを第1素線2aの外周を密着して覆うように撚り合わせることができる線径であれば特に限定されない。
また、第1素線2aの材質は、第1素線2と同じでもよいし、異なっていてもよい。
処置具用ワイヤー22によれば、ワイヤー芯線に伸びの発生しにくい単線ワイヤーである第1素線2aを採用しているため、上記第8変形例の処置具用ワイヤー17に比べて簡素な構成となり、安価に製造することができる。
また、塑性変形しにくいため撚り合わせにくい第1素線2のみからなる撚り線ワイヤーの代わりに、単線の第1素線2aを用いるため、製造が容易となる。
【0086】
[第14〜第16変形例]
次に、本実施形態の第14〜第16変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図11(a)、(b)、(c)は、それぞれ、本発明の第1の実施形態の第14〜第16変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
第14〜第16変形例は、上記第1の実施形態、各変形例に説明した処置具用ワイヤーのうち、それぞれ、1×7ワイヤー、3×7ワイヤー、7×7ワイヤーの構成においてさらに金属素線の線径を変えた変形例である。ただし、図示では分かりにくいため、断面のハッチングの種類をのみを変えて径を変えていることを示している場合がある。
【0087】
第14変形例の処置具用ワイヤー23は、1×7ワイヤーに適用可能な変形例であり、例えば、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1、上記第3変形例の処置具用ワイヤー12に対して適用可能である。
処置具用ワイヤー23は、図11(a)に示すように、1×7ワイヤーの7本の金属素線のうち、中心部に配置されたワイヤー芯線である大径素線8の線径が、大径素線8の外周に撚り合わされて外層部を構成する6本の金属素線である小径素線9の線径よりも大きくなっているものである。すなわち、大径素線8、小径素線9の線径を、それぞれ、d、dと表すと、d>dである。
すなわち、処置具用ワイヤー1に適用した場合、第1素線2の線径をdとし、外層部4Aを構成する第2素線3の線径をdとする。
また、処置具用ワイヤー12に適用した場合、芯線を構成する第1素線2の線径をdとし、外層部4Bを構成する第1素線2および第2素線3の線径をdとする。
このように、大径素線8、小径素線9は、線径の違いのみを表し、各金属素線の材質は適用する変形例の構成に準じる(以下の変形例でも同じ)。
【0088】
処置具用ワイヤー23によれば、芯線の線径に比べて外層部の線径が小さくなることで、線径が同じ場合に比べて、ワイヤー本体の小径化を図ることができるとともに、外層部を構成する金属素線による屈曲に対する抵抗が低下するため、よりしなやかなワイヤーとなり屈曲耐久性を向上することができる。また、芯線の線径が相対的に大きくなることで、ワイヤー本体の外径の割に伸びにくいワイヤーとなる。
【0089】
第15変形例の処置具用ワイヤー24は、3×7ワイヤーに適用可能な変形例であり、例えば、上記第1変形例の処置具用ワイヤー10、上記第4変形例の処置具用ワイヤー13に対して適用可能である。
処置具用ワイヤー24は、図11(b)に示すように、上記第14変形例の処置具用ワイヤー23を1つのストランドSt1として、このストランドSt1を3本撚り合わせて構成した3×7ワイヤーである。
【0090】
第16変形例の処置具用ワイヤー25は、7×7ワイヤーに適用可能な変形例であり、例えば、上記第2変形例の処置具用ワイヤー11、上記第5変形例の処置具用ワイヤー14、上記第8〜第10変形例の処置具用ワイヤー17〜19、上記第12変形例の処置具用ワイヤー21に対して適用可能である。
処置具用ワイヤー25は、図11(c)に示すように、上記第14変形例の処置具用ワイヤー23を1つのストランドSt1として、このストランドSt1を7本撚り合わせて構成した7×7ワイヤーである。
ただし、ストランドSt1内における第1素線2と第2素線3との配分は、適用する変形例の構成に準じる。したがって、ストランドSt1と記載されていてもそれぞれの材質の構成は、例えば芯部ストランドと外層部ストランドとで異なる場合がある。
【0091】
[第17、第18変形例]
次に、本実施形態の第17、第18変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図12(a)、(b)は、それぞれ、本発明の第1の実施形態の第17、第18変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
第17、第18変形例は、上記各変形例に説明した処置具用ワイヤーのうち、それぞれ、7×3ワイヤー、7×7ワイヤーの構成においてさらに金属素線の線径を変えた変形例である。
【0092】
第17変形例の処置具用ワイヤー26は、7×3ワイヤーに適用可能な変形例であり、例えば、上記第11変形例の処置具用ワイヤー20に対して適用可能である。
処置具用ワイヤー26は、図12(a)に示すように、処置具用ワイヤー20のストランドSの各金属素線をすべて大径素線8で構成したストランドSt2とし、処置具用ワイヤー20のストランドSの各金属素線をすべて小径素線9で構成したストランドSt3としたものである。
【0093】
また、第18変形例の処置具用ワイヤー27は、7×7ワイヤーに適用可能な変形例であり、例えば、上記第2変形例の処置具用ワイヤー11、上記第5変形例の処置具用ワイヤー14、上記第8〜第10変形例の処置具用ワイヤー17〜19、上記第12変形例の処置具用ワイヤー21に対して適用可能である。
処置具用ワイヤー27は、図12(b)に示すように、芯部ストランドをすべて大径素線8からなるストランドSt4とし、外層部ストランドをすべて小径素線9からなる7本のストランドSt5として構成した7×7ワイヤーである。
ただし、ストランドSt4および各ストランドSt5内における第1素線2と第2素線3との配分は、適用する変形例の構成に準じる。
【0094】
処置具用ワイヤー26、27によれば、いずれも、芯部ストランドが複数の大径素線8からなり、外層部ストランドが複数の小径素線9からなることで、線径が同じ場合に比べて、ワイヤー本体の小径化を図ることができるとともに、芯部ストランドの外径が相対的に大きくなることで、ワイヤー本体の外径の割に伸びにくいワイヤーとなる。
【0095】
[第19変形例]
次に、本実施形態の第19変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図13は、本発明の第1の実施形態の第19変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
第19変形例は、上記各変形例に説明した処置具用ワイヤーのうち、7×7ワイヤーの構成においてさらに金属素線の線径を変えた他の変形例である。
【0096】
第19変形例の処置具用ワイヤー28は、例えば、上記第2変形例の処置具用ワイヤー11、上記第5変形例の処置具用ワイヤー14、上記第8〜第10変形例の処置具用ワイヤー17〜19、上記第12変形例の処置具用ワイヤー21に対して適用可能である。
処置具用ワイヤー28は、図12に示すように、芯部ストランドとしてストランドSt6を備え、外層部ストランドとして7本のストランドSt7を備える7×7ワイヤーである。
ストランドSt6は、そのストランド芯線(芯部ストランド芯線)が、線径d8aを有する第1大径素線8aからなり、この第1大径素線8aの外周に、第1大径素線8aの線径よりも小径の線径d8bを有する第2大径素線8bが6本撚り合わされて配置されたものである。
ストランドSt7は、そのストランド芯線(外層部ストランド芯線)が、第2大径素線8b以下の線径d9aを有する第1小径素線9aからなり、この第1小径素線9aの外周に、第1小径素線9aの線径よりも小径の線径d9bを有する第2小径素線8bが6本撚り合わされて配置されたものである。
すなわち、本変形例の金属素線の線径は、d9b<d9a≦d8b<d8aの関係を満足している。
ただし、ストランドSt6および各ストランドSt7内における第1素線2と第2素線3との配分は、適用する変形例の構成に準じる。
【0097】
このように処置具用ワイヤー28では、上記第16変形例と同様に、ストランド芯線の線径よりも外層部を構成する金属素線の線径が小さくなっている。また、上記第18変形例と同様に、芯部ストランドを構成する金属素線の線径が、外層部ストランドを構成する金属素線の線径を超えない構成となっている。
このため、ワイヤー本体の小径化を図ることができるとともに、相対的に伸びの発生を抑えつつ、屈曲耐久性を向上することができる。
【0098】
[第20、第21変形例]
次に、本実施形態の第20、第21変形例の処置具用ワイヤーについて説明する。
図14(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の第20、第21変形例に係る処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な断面図である。
【0099】
第20、第21変形例は、いずれも、上記第1の実施形態および上記各変形例に説明した処置具用ワイヤーの外周面を被覆材で覆うようにした変形例である。
【0100】
第20変形例の処置具用ワイヤー1Aは、図14(a)に示すように、芯線である第1素線2と、6本の第2素線3からなる外層部4Aとで構成される処置具用ワイヤー1の外周面に樹脂材料からなる被覆材30をコーティングしたものである。
被覆材30の材質としては、内視鏡内で処置具用ワイヤー1Aが当接する部材に対して、良好な摺動特性が得られる樹脂材料、例えばフッ素樹脂などを好適に採用することができる。
第21変形例の処置具用ワイヤー1Bは、図14(b)に示すように、処置具用ワイヤー1の外周面に固体潤滑材料からなる被覆材31をコーティングしたものである。
被覆材31の材質としては、例えば、二硫化モリブデン(MoS)などを好適に採用することができる。
【0101】
処置具用ワイヤー1A、1Bでは、それぞれ被覆材30、31によって処置具用ワイヤー1の外周面が保護されるとともに処置具のシース41内で当接する部材に対して良好に摺動することができる。このため、処置具用ワイヤー1A、1Bの耐久性を向上することができる。
また、被覆材30、31は、第1素線2や第2素線3に比べて剛性が小さいため、処置具用ワイヤー1の変形の妨げとなることはない。したがって、処置具用ワイヤー1A、1Bの伸びや屈曲に対する耐久性は処置具用ワイヤー1と同等である。
また、これらの処置具用ワイヤー1A、1Bは、それぞれストランドとして用いることができる。
これらの処置具用ワイヤー1A、1Bは、被覆材30、31が潤滑性を有する場合には、例えば上記第1の実施形態の操作ワイヤー42に好適である。
また、被覆材30、31は、単にワイヤー表面を保護するための被覆としてもよく、この場合、潤滑性を有しない材質を採用してもよい。
また、被覆材30、31は、電気絶縁性を有する場合、上記第1の実施形態のスネアワイヤー43には不適であるが、導電性を要しない処置部であれば、処置部ワイヤーとして用いることができる。
【0102】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る処置具について説明する。
図15は、本発明の第2の実施形態に係る処置具の概略構成を示す模式的な断面図である。図16は、本発明の第2の実施形態に係る処置具用ワイヤーの構成を示す斜視図である。
【0103】
本実施形態の処置具であるバスケット鉗子50は、例えば結石などを取り込んで把持したり回収したり破砕したりする医療用器具であり、体腔内に挿入された内視鏡の処置具チャンネルを通して、体腔内の処置部分に挿入できるようになっている。
バスケット鉗子50の概略構成は、図15に示すように、不図示の内視鏡の処置具チャンネルに挿通可能な可撓性シース54と、可撓性シース54内に進退可能に挿通される操作ワイヤー53と、操作ワイヤー53の先端に接合され、可撓性シース54の一端に設けられた硬質部55の内側で可撓性シース54の軸方向に進退可能に設けられたバスケット部52(処置部)と、可撓性シース54の他端に接合され操作ワイヤー53の後端部に接合された棒状の結合部材57を進退可能に挿通させる口金部56とを備える。
【0104】
可撓性シース54の構成は、例えば、内周面に液密チューブが設けられた金属製の密巻きコイルや可撓性を有する樹脂シースなどを採用することができる。
操作ワイヤー53の構成は、例えばステンレス素線の撚り線ワイヤーを採用してもよいが、本実施形態では、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1を採用している。
ただし、本実施形態では、処置具用ワイヤー1における第1素線2の材質は、一例として、Fe基合金の金属ガラスであるボルファ(登録商標)を採用している。また、第2素線3の材質は、Ni−Ti超弾性材を採用している。
【0105】
口金部56は、結合部材57の進退をガイドするため中心部に貫通して設けられたガイド孔56cを有する口金本体56eの一方の端部に、可撓性シース54の他端部を挿通させて可撓性シース54の他端部を保護するカバー58と、カバー58内で可撓性シース54の他端を接合するシース接合部56dとが設けられている。
また、口金本体56eの他方の端部には、操作ワイヤー53を進退させてバスケット鉗子50を操作する不図示の操作部に連結するための連結部56aが設けられている。
また、口金本体56eの中間部には、側方から不図示のシリンジなどを接続して、例えば造影剤などの液体を送液する送液口部56bが設けられている。
【0106】
バスケット部52は、例えば結石などの被処置物を把持したり破砕したりするもので、バスケット鉗子50の処置部を構成している。
本実施形態のバスケット部52は、図16に示すように、それぞれ屈曲部52i、52jによって山形の折れ線状に屈曲された同一形状を有するバスケットワイヤー52A、52B、52C、52D(処置部ワイヤー)が、山形の裾側の両端部の先端接合部52a、基端接合部52bにおいてそれぞれ一体に接合されてなる。(以下、誤解のおそれがない場合には、「バスケットワイヤー52A、52B、52C、52D」を総称して「バスケットワイヤー52A等」と呼ぶ場合がある)
バスケットワイヤー52A等は、本実施形態では、操作ワイヤー53と同様な構成を有する処置具用ワイヤー1を採用している。
【0107】
先端接合部52aは、バスケットワイヤー52A等の一端部を円柱状にまとめて一体化したものである。本実施形態では、一例としてはんだ付けによって一体化している。また、基端接合部52bは、バスケットワイヤー52A等の他端部を、操作ワイヤー53の端部の外周側に配置して円柱状にまとめて一体化したものである。本実施形態では、先端接合部52aと同様にはんだ付けによって一体化している。
【0108】
バスケットワイヤー52A等は、先端接合部52a、基端接合部52bの各中心線を結ぶ中心軸Cに対して、回転対称となるように配置されている。このため、バスケットワイヤー52A、52Cは、同一平面上で中心軸Cを対称軸として線対称に配置され、バスケットワイヤー52B、52Dは、中心軸Cを含みバスケットワイヤー52A、52Cが配置された平面と直交する平面上で中心軸Cを対称軸として線対称に配置されている。
【0109】
このように、バスケットワイヤー52A、52B、52C、52Dは、中心軸Cを中心とする籠状の線状部を構成しており、各ワイヤー間の隙間から被処置物を取り込んで、籠状の内部側に被処置物を収めることが可能となっている。
また、バスケット部52は、基端接合部52bにおいて操作ワイヤー53と接合されることで、操作ワイヤー53を可撓性シース54内で進退させることにより、硬質部55に対して進退可能に保持されている。
【0110】
このような構成のバスケット部52の製造方法について説明する。
図17は、本発明の第2の実施形態に係る処置具用ワイヤーの一部の構成を示す正面図である。図18は、本発明の第2の実施形態に係る処置具用ワイヤーを屈曲させる工程について説明するための斜視図である。
【0111】
まず、処置具用ワイヤー1をバスケットワイヤー52A等の長さに合わせて切断する。そして、図17に示す形状に屈曲させて、屈曲ワイヤー60を形成する。
屈曲ワイヤー60は、先端接合部52aを形成するための先端部52c、山形の折れ線形状を形成するための弾性ワイヤー部52d、52e、52f、基端接合部52bを形成するための基端部52gが、同一平面内において、これらの間の屈曲部52h、52i、52j、52kで屈曲されてなる。
屈曲ワイヤー60の屈曲形状は、図17に示すように、先端部52cを図示水平方向に配置したとき、その一端に形成された屈曲部52hから弾性ワイヤー部52dが図示斜め上方に延ばされ、弾性ワイヤー部52dの屈曲部52hと反対側の端部の屈曲部52iから図示水平方向に弾性ワイヤー部52eが延ばされ、弾性ワイヤー部52eの屈曲部52iと反対側の端部の屈曲部52jから図示斜め下方に弾性ワイヤー部52fが延ばされ、弾性ワイヤー部52fの屈曲部52jと反対側の端部の屈曲部52kから図示水平方向に基端部52gが延ばされた形状とされる。
基端部52gは、先端部52cに対して、距離dだけ、弾性ワイヤー部52e側にずれた位置に略平行に配置されている。距離dは0であってもよいが、操作ワイヤー53の半径程度の大きさに設定することが好ましい。
【0112】
処置具用ワイヤー1を屈曲させて屈曲ワイヤー60を形成する場合、金属ガラスからなる第1素線2は塑性変形しにくいため、切断した処置具用ワイヤー1を、少なくとも屈曲部52h、52i、52j、52kを形成する位置では、ガラス遷移領域に昇温した状態でプレス成形するとよい。
例えば、図18に示すように、平面部70bに平面視で屈曲ワイヤー60の屈曲形状に対応して断面が半円状とされた溝部70aが形成されてなる金型面70cを、それぞれ有する金型70A、70Bを用いてプレス成形を行う。
特に図示しないが、金型70A、70Bは、少なくとも屈曲部52h、52i、52j、52kに対応する屈曲部形成する金型面70cの温度をガラス遷移領域まで昇温させるヒータ部を備える。また、金型70A、70Bは、金型70A、70Bを各溝部70aが対向するように位置決めして対向方向に進退させる加圧機構によって支持されている。
【0113】
まず、金型70A、70Bがガラス遷移領域よりも低温の状態で、切断した処置具用ワイヤー1を溝部70aに沿って配置する。このとき、処置具用ワイヤー1は塑性変形しにくいが、弾性変形するため、容易に溝部70a内に配置することができる。
次に、金型70A、70Bを閉じて、処置具用ワイヤー1を溝部70a内に保持した状態で、ガラス遷移領域まで加熱する。これにより、処置具用ワイヤー1の第1素線2が溝部70aの形状に沿って変形する。
そして、金型70A、70Bをガラス転移点よりも低温となるように冷却する。これにより、第1素線2が非晶質化した状態で固化し、屈曲ワイヤー60が形成される。この後、図18に示すように、金型70A、70Bを開放し、屈曲ワイヤー60を脱型する。
【0114】
屈曲ワイヤー60が4本形成されたら、適宜の固定治具に保持するなどして、4本および別途切断した操作ワイヤー53とを位置合わせし、先端接合部52a同士、および各基端接合部52bと操作ワイヤー53の端部とを、それぞれはんだ付けし、それぞれ先端接合部52a、基端接合部52bを形成する。
このようにして、バスケット部52が形成される。
【0115】
バスケット部52が形成されたら、操作ワイヤー53においてバスケット部52が接合されたのと反対側の端部に結合部材57を接合する。そして、可撓性シース54の管内に結合部材57および操作ワイヤー53を挿通する。次に、口金部56のガイド孔56c内に結合部材57を挿通した状態で、可撓性シース54と口金部56とをシース接合部56dで接合し、カバー58を取り付ける。
このようにしてバスケット鉗子50が製造される。
【0116】
次に、バスケット鉗子50の作用について説明する。
バスケット鉗子50は、口金部56の連結部56aが不図示の操作部に連結され、操作部によって、口金部56から突出された結合部材57の突出方向の先端位置が、連結部56aに近い退避位置と連結部56aから遠ざかる進出位置との間で進退される。
結合部材57が退避位置にあるとき、図15に示すように、バスケット部52は、基端接合部52b側で硬質部55に当接しており、バスケット部52は籠状に拡開されている。このため、バスケットワイヤー52A等の間の隙間から、例えば結石などを取り込むことが可能となる。
また、結合部材57が進出位置にあるときは、可撓性シース54内の操作ワイヤー53が口金部56側に牽引され、基端接合部52bがより可撓性シース54側に引き込まれる。これにより、バスケット部52の各弾性ワイヤー部52fが硬質部55の内径に沿って可撓性シース54内に引き込まれ、バスケット部52が収縮される。このため、バスケット部52内に結石等が取り込まれている場合には、収縮量に応じて、取り込まれた結石を保持したり、破砕したりすることができる。
このようなバスケット部52の収縮時には、バスケット部52のバスケットワイヤー52A等には、引張応力が発生して伸長され、各屈曲部52h、52i、52j、52kも屈曲角がより開くように変形されつつ、引き延ばされることになる。
また、バスケット部52内に何も取り込まれていない場合には、バスケット部52が硬質部55を通して可撓性シース54内に引き込まれ、不図示の内視鏡の処置具チャンネル内を挿通可能になる。
【0117】
このようなバスケット鉗子50は、バスケット部52を可撓性シース54の先端部に収容した状態で、内視鏡の処置具チャンネルを通して、体腔内に挿入される。そして、結合部材57を退避位置に移動することで、バスケット部52を拡開させ、体腔内の例えば結石等の処置対象を取り込み、結合部材57を進出位置に移動させることで、破砕動作を行うことができる。
このような処置を繰り返すことで、バスケット鉗子50のバスケットワイヤー52A等および操作ワイヤー53は、曲げ、引っ張り、圧縮などの繰り返し負荷を受けることになる。
本実施形態では、バスケットワイヤー52A等および操作ワイヤー53に処置具用ワイヤー1を採用しているため、このような繰り返し負荷が作用しても、例えば、従来のSUS素線やNi−Ti合金素線のみからなる処置具用ワイヤーに比べて塑性変形による伸びを低減できるため、耐久性を向上できる。
【0118】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る処置具について説明する。
図19(a)は、本発明の第3の実施形態に係る処置具に用いる処置具用ワイヤーの構成を示す模式的な正面図である。図19(b)は、図19(a)におけるD−D断面図である。図20(a)は、本発明の第3の実施形態に係る処置具の処置具用ワイヤーと処置部との接続部の断面を示す模式的な断面図である。図20(b)は、接続部の製造工程を示す模式的な断面図である。図21(a)、(b)、(c)は、本発明の第3の実施形態に係る処置具の先端接合部の接合工程を示す模式的な工程説明図である。
【0119】
本実施形態の処置具であるバスケット鉗子80は、図15、16に示すように、上記第2の実施形態のバスケット鉗子50の操作ワイヤー53、バスケット部52に代えて、それぞれ操作ワイヤー83、バスケット部82(処置部)を備える。以下、上記第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0120】
操作ワイヤー83は、図19(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の処置具用ワイヤー1において、第1素線2に代えて、撚り合わされた4本の第1素線33を備える1×10の処置具用ワイヤー32を採用している。すなわち、処置具用ワイヤー32は、4本の第1素線33によって芯部ストランドを構成し、この芯部ストランドの外層部を第2素線3によって囲んで外周面を形成した撚り線ワイヤーになっている。
第1素線33の撚り方向は、本実施形態では、第1素線2の撚り方向と反対のS撚りとしている。
第1素線33は、上記第1の実施形態と同様な破断伸びが20%以上の金属素線であり、上記第1の実施形態の第1素線2と同様な材質を採用することができる。本実施形態では、一例として、Zr55Cu30Al10Niの組成を有する金属ガラスを採用している。第2素線33の素線径は、0.13mmとしている。
【0121】
バスケット部82は、上記第2の実施形態のバスケット部52と同様な籠形状を処置具用ワイヤー32の4本の第1素線33によって形成したものである。
すなわち、バスケットワイヤー52A、52B、52C、52Dに対応して、同様な位置関係に配置されたバスケットワイヤー82A、82B、82C、82D(処置部ワイヤー)を備える。
バスケットワイヤー82A等は、それぞれ処置具用ワイヤー33の端部から延出した第1素線33の4本の単線を屈曲させて形成されている。すなわち、バスケットワイヤー82A等は、処置具用ワイヤー33の一部を構成する第1素線33をワイヤー端部から延出した延出部を構成している。
バスケットワイヤー82A等の形状は、互いに接合される前の状態では、バスケットワイヤー52A等と同様、先端部52c、弾性ワイヤー部52d、52e、52fを備え、これらの間の屈曲部52h、52i、52jで屈曲されている。また、弾性ワイヤー部52fは、図20(a)に示すように、屈曲部52kで屈曲されて、操作ワイヤー83の軸方向に沿って整列された線状部82gを形成している。図20(a)では、線状部82gは、真直に延ばして描かれているが、4本の線状部82gは互いに撚り合わされていてもよい。
【0122】
また、バスケットワイヤー82A等の端部は、熱間プレスで形成された基端接合部82b(かしめ固定部)、先端接合部82a(かしめ固定部)によって固定されている。
【0123】
基端接合部82bは、図20(a)に示すように、4つの線状部82gと操作ワイヤー83の端部における各第2素線3とを外周側から覆って一体化した円柱形状を有する。
基端接合部82bを形成するには、図20(b)に示すように、まず、第2素線3に用いる金属ガラスのガラス転移点以下のガラス転移点を有する金属ガラス製のかしめパイプ84を、4つの線状部82gと操作ワイヤー83の第2素線3を覆う範囲に挿通させる。そして、不図示のプレス装置によって、かしめパイプ84の材質の金属ガラスのガラス遷移領域の温度に加熱された金型を用いて、かしめパイプ84を熱間プレスし、金型によって外形を縮径させる。加圧力としては、加熱時のかしめパイプ84が変形する適宜の加圧力を採用することができるが、良好な密着強度を得るためには、10MPa以上の圧力で加圧することが好ましい。
金属ガラスは、ガラス遷移領域では、容易に変形するため、加圧されたかしめパイプ84は、線状部82gや第2素線3同士の隙間に進入し、線状部82gおよび操作ワイヤー83の外周のワイヤーの凹凸形状に倣って密着し一体化される。
変形したかしめパイプ84を金型から脱型し、冷却して固化させると、基端接合部82bが形成される。
【0124】
このように、基端接合部32bは、金属ガラスによるかしめパイプ84を用いて形成するため、バスケットワイヤー82A等の材質が金属ガラスではない場合でも同様に形成することができる。例えば、バスケットワイヤー82A等の外層部がSUS304等の金属ガラスではない金属素線で覆われたストランドで構成される場合でも同様にして形成される。
また、かしめパイプ84の材質として、かしめ相手の第2素線3と同じ金属ガラスを採用すれば、線状部82gとかしめパイプ84とはそれぞれの間の界面が消失した状態で一体化される。この場合、基端接合部52bは、同材質同士の接合部になるため、例えば、ハンダや溶接などによる材料の不均質部を含む接合に比べて、強度、および耐腐食性などに優れた接合部を形成することができる。
【0125】
先端接合部82aは、本実施形態のバスケットワイヤー82A等が金属ガラスから構成されることを利用し、熱間プレスのみによって、かしめパイプ84のような部品を用いることなく接合を行ったものである。
すなわち、本実施形態の先端接合部82aは、図21(a)、(b)、(c)に示すように、4つの先端部52cを熱間プレスによって一体化することによって形成する。
【0126】
各先端部52cを接合するには、図21(a)に示すように、4つの先端部52cを隣接して配置した状態とし、これら先端部52cを円柱状に成形するための溝部85aが平面部85bに形成された金型面85cをそれぞれ有する金型85A、85Bを用いてプレス成形を行う。
特に図示しないが、金型85A、85Bは、金型面85cの温度をガラス遷移領域に昇温するためのヒータ部を備える。また、金型85A、85Bは、金型85A、85Bを各溝部85aが対向するように位置決めして対向方向に進退させ、金型85A、85Bの被成形物に対する押圧および押圧解除を行う加圧機構によって支持されている。
この加圧機構は、金型85A、85Bを10MPa以上の圧力で押圧できるようになっている。
【0127】
金型85A、85Bによる先端部52cの接合工程では、図21(a)に示すように、まず、隣接配置された4つの先端部52cを挟んで溝部85aが対向するとともに、各溝部85aが4つの先端部52cから離間した位置に金型85A、85Bを配置する。そして、ヒータ部(不図示)で金型85A、85Bをガラス遷移領域に昇温させる。本実施形態では450℃まで昇温させる。
次に、加圧機構(不図示)によって、金型85A、85Bを各溝部85aが先端部52cに接触するまで近づけて停止し、各先端部52cの温度がガラス遷移温度を超えるまで待機させる。
【0128】
ガラス遷移領域に昇温された各先端部52cは、10MPaより低い圧力で容易に変形することができるが、本実施形態では、10MPa以上、例えば、20MPaで押圧し、各先端部52cに各溝部85aの形状を転写する。
このとき、本実施形態では、10MPa以上の圧力で、金型85A、85Bを加圧するので、各先端部52c間の界面の密着、融合が促進され、10MPaより小さい圧力で押圧する場合に比べて、より短時間で成形され、より高い接合強度を得ることができる。
このようにして、各溝部85a内で、各先端部52cが一体化され、円柱状の先端接合部52aの形状が形成される(図21(b)参照)。
【0129】
一定の成形時間の経過後、金型85A、85Bの加熱を停止し、先端接合部52aがガラス遷移温度よりも低温となるように冷却する。
この冷却後、金型85A、85Bを開いて先端接合部52aを脱型する(図21(c)参照)。
このようにして、先端接合部82aが形成される。
【0130】
このように先端接合部82aは、同材質同士の接合部になっており、例えば、ハンダや溶接などによる材料の不均質部を含む接合に比べて、強度、および耐腐食性などに優れた接合部を形成することができる。
【0131】
このようにして、操作ワイヤー83の一端部にバスケット部82が形成されたら、上記第2の実施形態と同様にして、バスケット鉗子80を組み立てる。
【0132】
本実施形態のバスケット鉗子80によれば、上記第2の実施形態のバスケット鉗子50と、処置部であるバスケット部82および操作ワイヤー83のワイヤー構成が異なるのみで、バスケット鉗子50と同様にして、内視鏡の処置具チャンネルに挿通させて体腔内の処置を行うことができる。
このような処置を繰り返すことで、バスケット鉗子80の操作ワイヤー83は、曲げ、引っ張り、圧縮などの繰り返し負荷を受けることになるが、本実施形態では、操作ワイヤー83に処置具用ワイヤー32を採用しているため、このような繰り返し負荷が作用しても、例えば、従来のSUS素線やNi−Ti合金素線のみからなる処置具用ワイヤーに比べて塑性変形による伸びを低減できるため、耐久性を向上できる。
【0133】
また、バスケット鉗子80では、バスケット部82を、操作ワイヤー83から延出させた破断伸びが5%以下の第1素線33によって構成するため、塑性変形が低減され高強度であるため、耐久性の高い処置部を構成することができる。
また、本実施形態では、第1素線33を金属ガラスで構成するため、先端接合部82aを他の接合材料を用いることなく良好に接合できるため、製造が容易になるとともに部品点数を削減することができる。
また、先端接合部82a、基端接合部82bは、いずれもガラス遷移領域に昇温された状態でプレス成形してから冷却されているため、残留応力が緩和あるいは除去された状態であり、残留応力の影響による強度低下を低減あるいは防止することができる。
【0134】
なお、上記の第1の実施形態、および第1〜第19変形例の説明では、特に好ましい例として、第1素線2の金属材料が金属ガラス、第2素線3の金属材料がSUSやNi−Ti合金の場合の例で説明したが、破断伸びの条件を満たす金属材料であれば、適宜の金属材料を組み合わせて、複合させた構成とすることができる。
【0135】
また、上記の第1の実施形態、および第1〜第19変形例の説明では、処置具用ワイヤーが、1×7ワイヤー、3×7ワイヤー、7×7ワイヤー、7×3ワイヤー、1×19ワイヤーの場合の例で説明したが、ストランド数および素線数は、これらの組合せに限定されるもののではなく、他の構成を採用してもよい。
【0136】
また、上記の第1の実施形態およびその各変形例の説明では、屈曲耐久性を評価するための代表的な試験方法を例示したが、他の評価方法でも屈曲耐性の評価は可能である。
また、本評価は、1×7ワイヤーのワイヤー構成に限定して本願発明の実施例と比較例とを相対比較した評価であり、比較例に比べて本願発明の実施例の屈曲耐久性が優れていることを具体的に示したものである。ここで、本試験方法における10万回という屈曲耐久性の許容値は、特定用途の処置具用ワイヤーを想定した許容値の一例であり、処置具用ワイヤーの使用用途や使用部位等が異なる場合には、異なる許容値を設定することができることは言うまでもない。
このため、他の使用用途や使用部位、またこれらに応じたワイヤー構成では、例示した試験方法で破断することなく10万回往復ができなくても、これによりただちに本願発明の効果を奏しないということにはならない。
【0137】
また、上記の各実施形態の説明では、処置具として、スネア、バスケット鉗子の例で説明したが、これらは一例であって、本発明に係る処置具用ワイヤーを用いる処置具はこれらには限定されない。例えば、内視鏡の処置具チャンネルに挿入して、体腔内で用いる鉗子において、鉗子の開閉を操作する操作ワイヤーとして用いてもよい。
また、本発明に係る処置具は、内視鏡に挿通して用いる処置具には限定されない。例えば、トロッカー等を用いて体腔内に挿入して処置を行うスネアやバスケット鉗子等の処置具でもよい。
【0138】
また、上記第1および第2の実施形態の説明では、処置具が処置部ワイヤーおよび操作ワイヤーを備え、それらがいずれも本発明に係る処置具用ワイヤーからなる場合の例で説明したが、本発明に係る処置具は、必要に応じて、処置部ワイヤーおよび操作ワイヤーの少なくともいずれかに本発明の処置具用ワイヤーが用いられていればよい。また、処置具は、処置部ワイヤーおよび操作ワイヤーのいずれか一方を備える構成であってもよい。
【0139】
また、上記第3の実施形態では、処置部を構成する延出部が、処置具用ワイヤーから延出された金属素線の単線からなる場合の例で説明したが、延出部は、処置具用ワイヤーを構成する複数の金属素線を撚り合わせた撚り合わせ体であってもよい。撚り合わせ体としては、処置具用ワイヤーを構成するストランドであってもよいし、単に複数本の金属素線を選択した撚り合わせ体であってもよい。
【0140】
また、上記第3の実施形態の説明では、第1素線33と同材質のかしめパイプ84とを熱間プレスによって接合してもよいことを説明したが、この接合部は、処置部との接合部以外に設けてもよい。例えば、結合部材57を金属ガラスで構成し、操作ワイヤー83から第1素線33を延出させて結合部材57とともに熱間プレスして金属ガラス同士による接合部分を含む接合部を形成してもよい。この場合にも、接合強度を向上することができる。
【0141】
また、上記各実施形態および各変形例では、第1素線と第2素線のみからなる処置具用ワイヤーの例を記載したが、処置具用ワイヤーは、第1素線と第2素線以外の金属材料からなる素線を含んでもよい。
【0142】
また、上記の第1の実施形態の第3変形例の説明では、ワイヤー12の外層部4Bが、第1素線2の外周に、周方向に沿って、合計3本の第1素線2と、合計3本の第2素線3とを、1本ずつ交互に配置して撚り合わせた場合の例で説明したが、外層部4Bは、1本以上あれば、ワイヤー1あるいはストランドSに比べて伸びに対する抵抗がより強固となるため、第2素線3と第1素線2とをそれぞれ1本以上含むワイヤー構成に変形してもよい。またこのようなワイヤーをストランドとして用いてもよい。
【0143】
また、上記各実施形態および各変形例に説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり削除したりして実施することができる。
例えば、上記第1の実施形態および第1〜第19変形例の各処置具用ワイヤーの外周面に、上記第20、第21変形例の被覆材30、31をコーティングしてもよい。
また、被覆材30、31は、上記の各変形例の処置具用ワイヤーに適用することが可能である。
すなわち、被覆材30、31は、複数のストランドが撚り合わされたワイヤー本体の外周面にコーティングすることもできる。ただし、被覆材30、31は、ワイヤー本体の外周面に限らず、ストランドの外周面に設けてもよい。
また、上記第1実施形態の第1〜第21変形例の各処置具用ワイヤーは、必要な強度や電気特性等が満足されれば、すべて、上記第2および第3の実施形態の処置具に用いることができる。
【0144】
また、上記の第1の実施形態の説明では、ストランドを撚り合わせたワイヤー本体については、ストランドの組合せとして、ストランドS、S、S、S、S、S等のうちからいくつかのストランドを組み合わせた場合の例を示したが、これらは可能な組合せのうちの一部を示したに過ぎず、ストランドの組合せはこれらに限定されない。すなわち、本発明に係る処置具用ワイヤーは、すべてストランドとして用いることが可能であり、これらのストランドのうちから2本以上を含むストランドを撚り合わせて適宜のワイヤー本体を構成することができる。
【符号の説明】
【0145】
1、1A、1B、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、33 処置具用ワイヤー
2、2a、33 第1素線(第1の素線)
3 第2素線(第2の素線)
4A、4B、4C 外層部
8 大径素線
8a 第1大径素線
8b 第2大径素線
9 小径素線
9a 第1小径素線
9b 第2小径素線
30、31 被覆材
40 スネア(処置具)
42、53、83 操作ワイヤー
43 スネアワイヤー(処置部ワイヤー)
50、80 バスケット鉗子(処置具)
52、52 バスケット部(処置部)
52A、52B、52C、52D バスケットワイヤー(処置部ワイヤー)
82A、82B、82C、82D バスケットワイヤー(処置部ワイヤー、延出部)
52a 先端接合部
52b 基端接合部
82a 先端接合部(かしめ固定部)
82b 基端接合部(かしめ固定部)
、S、S、S、S、S、S、S、St1、St2、St3、St4、St5、St6、St7 ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属素線を撚り合わせた処置具用ワイヤーであって、
前記複数の金属素線は、第1の素線と第2の素線とを含み、前記第1の素線の破断伸びは5%以下であり、前記第2の素線の破断伸びは20%以上である
ことを特徴とする処置具用ワイヤー。
【請求項2】
前記第1の素線は、20K以上のガラス遷移領域を有する非晶質合金である金属ガラスからなり、
前記第2の素線は、ステンレスまたはニッケル−チタン合金からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の処置具用ワイヤー。
【請求項3】
前記第1の素線は、ジルコニウム系金属ガラスからなる
ことを特徴とする請求項2に記載の処置具用ワイヤー。
【請求項4】
前記第1の素線と前記第2の素線とは、撚り合わせられて少なくとも一つのストランドを形成しており、
該ストランドの外周面は、前記第2の素線によって形成され、
前記ストランドの中心部に前記第1の素線が配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の処置具用ワイヤー。
【請求項5】
前記第1の素線と前記第2の素線とは、撚り合わせられて少なくとも一つのストランドを形成しており、
該ストランドの外周面は、周方向に沿って、前記第1の素線と前記第2の素線とが交互に配列されて形成され、
前記ストランドの中心部に前記第1の素線が配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の処置具用ワイヤー。
【請求項6】
前記第2の素線によってワイヤー外周面が形成され、
前記第1の素線の単線または前記第1の素線による撚り線体がワイヤー中心部に配置された
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の処置具用ワイヤー。
【請求項7】
前記ワイヤー中心部に配置された前記第1の素線は、前記第2の素線の線径以上である
ことを特徴とする請求項6に記載の処置具用ワイヤー。
【請求項8】
生体組織に対して処置を行う処置部を備える処置具であって、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の処置具用ワイヤーを備える
ことを特徴とする処置具。
【請求項9】
前記処置部を操作する操作ワイヤーを有し、
該操作ワイヤーは、前記処置具用ワイヤーを備える
ことを特徴とする請求項8に記載の処置具。
【請求項10】
前記処置具用ワイヤーは、該処置具用ワイヤーの一部を構成する前記金属素線または該金属素線の撚り合わせ体をワイヤー端部から延出した延出部を備え、
前記処置部は、少なくとも一部が、前記延出部によって構成される
ことを特徴とする請求項9に記載の処置具。
【請求項11】
前記処置部は、前記処置具用ワイヤーを備える
ことを特徴とする請求項8に記載の処置具。
【請求項12】
前記処置具用ワイヤーの前記第1の素線は、20K以上のガラス遷移領域を有する非晶質合金である金属ガラスからなり、
前記第1の素線を熱間プレスによってかしめたかしめ固定部を備える
ことを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の処置具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−157378(P2012−157378A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17039(P2011−17039)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】