説明

処置対応型創離開防止用補助具

【課題】創の離開を防止する効果が高く、使用・装着が容易であり、患部の処置や再治療が必要な際には、創離開防止用補助具を脱着せず、創およびその周辺組織に対する処置等を行うことのできる処置対応型創離開防止用補助具を提供する。
【解決手段】創およびその周辺組織を覆い、創閉方向に収縮させる創閉力を備えた創離開防止部1と、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する保持部2a〜2lと、処置対応切除可能部6とを備え、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備え、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、創離開防止部が有する創閉力により創離開防止部を創閉方向に収縮させて創離開を防止し、創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、創およびその周辺組織に対する処置等を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創離開(創がさらに開くこと)を防止するための創離開防止用補助具に係り、特には、過剰な浸出液、膿および壊死組織等に対する処置等を容易に行うことのできる処置対応切除可能部を備える処置対応型創離開防止用補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
身体の一部がきずつけられてできたきずを創傷と称するが、創傷は、鋭利な刃物等で切って生じた解放性のきずを称する「創(そう)」と、鈍器等で打撲したときのような切り口のない閉鎖的なきずを称する「傷(しょう)」に大別することができる。従来、開放性のきずである「創(そう)」に対しては、創底が浅い場合は、絆創膏や包帯等で創を閉じて固定する手段で創離開を防止し、創底が深い場合は、縫合糸等による縫合の手段により創を閉じて創離開を防止している。
さらに、縫合糸等による縫合の手段では、外力等によって縫合糸が切断されることによる創離開を防止するために、適度な太さの複数の縫合糸の中から、より太い縫合糸を選択し使用する手段が汎用されている。
【0003】
しかし、太い縫合糸の使用は、縫合の跡が目立ちやすく、好ましいものとは言えない。また、太い縫合糸を使用し、創の周辺組織を強く引き寄せ強く縫合するほど、縫合した創の周辺組織に対する血液等の循環は不良となり、次第に縫合した創の周辺組織に壊死が生じ、創離開が生じる。
さらに、切開手術等による縫合は、創の周辺組織を引き寄せて行われる。そのため、縫合糸と縫合した創の周辺組織は引き合っている。この状態で外力が加われば、縫合糸が細ければ縫合糸が切れ、縫合糸が太ければ縫合した創の周辺組織が裂ける。即ち、適度な太さの縫合糸を選択し使用しても、創離開の予防は困難であった。
【0004】
一部では、切開手術後の縫合に際して、創口が開くのを防止すると共に、縫合糸による縫合部皮膚の圧迫、壊死等を防止して、患者の苦痛を和らげるための当て具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、細い縫合糸によって、患部組織に応力が集中的に働かないようにするため、患部への接触面積の大きな当て具を用意し、糸に張力を掛けるための弾性付与形状とし、糸の巻きつけを容易化するためのガイドスリット及び糸固定スリットを設けた創離開防止用当て具が提案されている。
【0005】
このように、上記を含む従来の創離開防止用当て具では、切開手術等の縫合時に創離開防止用当て具を装着する技術を事前に習得することが不可欠となる。また、患部の経過観察、処置および当て具の消毒等において当て具を取り外す必要が生じた場合、これらに対応する技術も事前に習得しておかなければならない。また、当て具を取り外せば、これまで当て具の装着によって得られていた患部組織に応力が集中的に働かないようにする機能が失われてしまう。
さらに、当て具の脱着に縫合糸の切断や除去が伴えば、縫合糸によって得られていた創離開を防止していた力までもが失われてしまい、このことで治癒寸前の組織にも創離開が生じやすくなることは容易に予測できる。そのため、患部組織の完全治癒まで当て具の取り外しを不要とする創以外の創に対しては、当て具の装着は安易には行えない。
【0006】
さらに、創離開の治療について科学的に言及している書籍や論文は乏しく、治療法のみならず、予防法さえも確立されていないのが現状である。特に、血液等の循環不良による縫合した創の周辺組織等の壊死を原因とする創離開に対しては、再度縫合しても効果は期待できず、縫合糸をすべて除去して壊死組織を切除し、創傷被覆材で覆って自然治癒に期待するという、保存的治療に切り替えなければならない場合もあり、患者は長期間の入院や通院を余儀なくされることも稀ではない。
患部の経過観察、処置および当て具の消毒や、縫合した創の周辺組織の壊死等よる再治療の際には、当て具の取り外しや再装着が必要となるが、上記したように、従来の創離開防止用補助具は脱着が容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平6−44511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑み、身体の一部がきずつけられて生じた解放性のきずである創に対し、創の離開を防止する効果が高く、使用・装着が容易であり、患部の処置や再治療が必要な際には、創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、創およびその周辺組織に対する処置等を行うことのできる処置対応型創離開防止用補助具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の処置対応型創離開防止用補助具は、身体の一部がきずつけられて生じた解放性のきずである創に対し、創およびその周辺組織を覆って装着し、創の離開を防止するための創離開防止用補助具であって、創およびその周辺組織を覆い、創閉方向に収縮させる創閉力を備えた創離開防止部と、該創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する保持部と、前記創離開防止用補助具を脱着せずに、創およびその周辺組織の処置等を必要に応じて行うことのできる処置対応切除可能部とを備え、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備え、前記創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、前記創離開防止部が有する創閉力により該創離開防止部を創閉方向に収縮させて創離開を防止し、前記創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、創およびその周辺組織に対する処置等を可能とすることを特徴としている。
【0010】
本発明の処置対応型創離開防止用補助具は、前記処置対応切除可能部の一部もしくは全部に処置用開口部を備えることが好ましい。また、前記創離開防止部が有する創閉力を温存させる機能を有する収縮防止部を備え、該創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、前記保持部で固定し装着した後に、温存させていた創離開防止部の創閉力を発揮させることが好ましい。なお、前記創が、縫合された状態あるいは未縫合の状態に関わらず、本発明の処置対応型創離開防止用補助具を効果的に装着することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の処置対応型創離開防止用補助具によれば、創の周辺組織が受けている生理的で静的な張力(以下、生理的張力と称する)を持続的に減少させるための手段を創離開防止用補助具に機能として取り入れることで、創底が浅い場合は、創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、創の周辺組織が受けている創を離開させる方向(以下、創離開方向と称する)の生理的張力を持続的に減少させて創離開を防止し、創底が深い場合は、縫合糸等による縫合後に、縫合した創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、縫合した創の周辺組織が受けている創離開方向の生理的張力ならびにその生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させ、縫合後の縫合糸切断による創離開ならびに縫合糸による縫合した創の周辺組織の血液等の循環不良を原因とする縫合した創の周辺組織の壊死等による創離開を防止することができる。
【0012】
また、適度な太さの複数の縫合糸の中から、より細い縫合糸を選択し使用することが可能となり、縫合の跡を目立たなくすることができる。さらに、創の状態によっては縫合を不要とすることも可能となる。また、挫創や咬創等のような一般的に縫合が困難な創の創離開の防止も期待できる。さらに、創の状態が縫合、未縫合に関わらず、創およびその周辺組織を安静に保つことができ、自然治癒を早めることもできる。
【0013】
さらに、創離開防止部に、創およびその周辺組織に対する処置等を行うための任意に切除が可能な部位(以下、処置対応切除可能部と称する)を備えていることにより、切開手術等のように創の衛生状態がよい創や早期の治癒が見込める創に対し、創離開防止用補助具を装着したままで、創およびその周辺組織の観察が容易となり、過剰な浸出液および膿等が生じている場合には、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、処置対応切除可能部を適宜切除することで適切な処置等を行うことが可能となる。
【0014】
さらに、創離開防止部に備えた処置対応切除可能部に、創およびその周辺組織の処置等の用途に合わせて開口した部位(以下、処置用開口部と称する)を備えることで、刺創や咬創等のように創の衛生状態が悪く感染等を生じやすい創や複数回の処置が必要と想定される創に対し、創離開防止用補助具を装着したままで、創およびその周辺組織の観察と共に創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、過剰な浸出液、膿および壊死組織等に対する処置等を行うことが可能となる。また、腹腔内の観察や手術に伴う腹腔鏡等の挿入のための切開創にも効果を期待することができる。
【0015】
さらに、創離開防止部が備える創離開方向に抗する方向(以下、創閉方向と称する)の力(以下、創閉力と称する)を温存させる機能を有する収縮防止部を備えることにより、創閉力を温存した状態に維持できるため、装着が著しく容易となる。
そして、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、保持部で固定し装着した後に、温存させていた創離開防止部が備えた創閉力を発揮させ、創離開防止部を創閉方向に効率よく収縮させ、創離開防止用補助具として機能させることができる。
なお、本発明の処置対応型創離開防止用補助具は、創の状態が縫合、未縫合に関わらず、効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す処置対応型創離開防止用補助具の、非装着時の状態を示す概略平面図である。
【図2】図1に示した処置対応型創離開防止用補助具の、装着時の状態を示す概略平面図である。
【図3】図1に示した処置対応型創離開防止用補助具の、収縮防止部を示す概略平面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す処置用開口部を備えた処置対応型創離開防止用補助具の、非装着時の状態を示す概略平面図である。
【図5】図4に示した処置対応型創離開防止用補助具の、装着時の状態を示す概略平面図である。
【図6】図4に示した処置対応型創離開防止用補助具の、収縮防止部を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、鋭意研究を重ねていく過程で、創離開の一因が生体の生理的作用に伴う物理的な力と密接に関係していることを知見した。例えば、筋肉は、筋膜が備える弾性や下層にある筋線維等により、皮膚では、皮膚が備える弾性や下層にある筋組織等により、常に生理的張力を受けている。筋肉や皮膚の縫合時に、縫合糸や施術者の手指または器具等で、縫合する筋肉や皮膚を引き寄せる必要性があることや、縫合後に、外力によらずとも創離開が生じやすいのは、縫合した筋肉や皮膚が創離開方向への生理的張力を持続的に受けているためである。
【0018】
このため、縫合後の創離開を防止するには、縫合した創の周辺組織や、縫合糸が受けている創離開方向の生理的張力を持続的に減少させることが肝要となる。また、縫合後の自然治癒を早めるためには、縫合した創の周辺組織を安静に保つことも必要であるが、縫合した創の周辺組織は、創離開方向の生理的張力を持続的に受けているため安静を保つことが困難である。
しかしながら、従来の創離開防止用補助具は、縫合した創の周辺組織や縫合糸が受けている創離開方向の生理的張力に対する考慮がなされていない。
【0019】
ここで、縫合した創に向かって、創閉方向から縫合した創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、縫合した創の周辺組織が受けている創離開方向の生理的張力ならびにその生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させることは、縫合後の縫合糸切断による創離開ならびに縫合糸による縫合した創の周辺組織の壊死等による創離開を防止する有効な手段となる。
【0020】
そこで、本発明者は、縫合した創の周辺組織が受けている創離開方向の生理的張力ならびに生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させる機能を備えた創離開防止用補助具を得るために、医療用として使用可能な伸縮性を有する素材を選択し、さらに、生理的張力に勝る伸縮力を有する素材を選択して創離開防止用補助具を構成することを着想した。
【0021】
そこで、創離開防止用補助具の各部に収縮距離の異なる素材を用いることにより、各部における収縮距離の差異によって生じる作用(装着する際に一定の力で引き伸ばした場合、収縮距離の長い部位は、収縮距離の短い部位よりさらに伸びる。すなわち、装着時において収縮距離の最も長い部位が最も縮む)と、素材と創の周辺組織との摩擦とを考慮すれば、縫合した創の周辺組織や縫合糸が受けている生理的張力を持続的に減少させるための手段を創離開防止用補助具に機能として取り入れることができ、創離開方向の生理的張力ならびにその生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させ、創離開を防止することができるとの知見を得た。
なお、上記において収縮距離とは、創離開防止用補助具の材料として用いた素材から試験片を切り出し、所定の力を加えてその伸びた長さを測定し、得られた数値から、負荷をゼロとして収縮した状態の数値を差し引いて求めた長さである。
【0022】
さらに、創およびその周辺組織を覆って装着する創離開防止部に処置対応切除可能部や、処置対応切除可能部に処置用開口部を備えることで、創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、創およびその周辺組織に対する処置等を行うことができること、さらに、創の衛生状態および治癒までに想定される創に対する処置等を考慮し、創に適した創離開防止用補助具を選択することのできる処置対応型創離開防止用補助具を提供することができるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0023】
本発明の処置対応型創離開防止用補助具は、創およびその周辺組織を覆い、創閉方向に収縮させる創閉力を備えた創離開防止部と、該創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する保持部とを備え、創離開防止用補助具を構成する素材の適切な選択・組み合わせによって、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備えさせることができ、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、保持部で固定し装着することにより、創離開防止部が有する創閉力により、創およびその周辺組織を創閉方向に収縮させることを基本としている。
また、創離開防止部に収縮防止部を備えることで、創離開防止部が有する創閉力を温存させることができ、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、保持部で固定し装着した後に、温存させていた創離開防止部の創閉力を発揮させ、創離開防止部を創閉方向に効率よく収縮させることができる。
【0024】
ここで云う装着に伴う収縮距離とは、安静時にも起こりうる創離開防止用補助具の各部の装着後に生じる身体の生理的な動き(呼吸による胸囲や腹囲の変化等)によって引き伸ばされた状態の数値から、これらの負荷をゼロにすることによって収縮した状態の数値を差し引いた長さである。
また、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる状態とは、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離と少なくとも同等か長い状態をいう。
【0025】
なお、保持部は、創離開防止部の装着に伴う収縮距離との差異を大きくするために、創離開方向には非伸縮機能を備えることが望ましい。しかし、縫合した創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、縫合した創の周辺組織が受けている創離開方向の生理的張力ならびにその生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させ、創離開を防止する機能を備えてさえいれば、保持部にも創離開方向への伸縮機能を備えさせてもよい。
また、前述したように、本発明の処置対応型創離開防止用補助具は、創離開防止部に処置対応切除可能部を備えていることにより、創離開防止用補助具を脱着せず装着したままで、創およびその周辺組織の処置等を可能としている。
なお、処置対応切除可能部の開口した部位や処置用開口部を塞ぐ機能を有する閉塞部を備えてもよく、このことで創およびその周辺組織の衛生管理や保護等が容易となる。
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1〜図3に示す本発明の第1の実施の形態である処置対応型創離開防止用補助具は、縫合部および縫合部周辺の皮膚を覆う創離開防止部1と、創離開防止部1を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持する機能を有する保持部2a〜2lと、創離開防止部1と保持部2a〜2lとを接続する接続部3a、3bと、創離開防止部1が備える創閉力を温存させる機能を有する収縮防止部4a、4aと、創離開防止用補助具を脱着せず、縫合部および縫合部周辺の処置等を必要に応じ可能とする処置対応切除可能部6とから構成される。
【0027】
保持部2a〜2lは、図1に示すように、非装着状態においては、創離開防止部1の両端に設けられた接続部3a、3bから接続・延設されている。保持部2a〜2fは接続部3aに接続され、保持部2g〜2lは接続部3bに接続されている。さらに、接続部3a、3bは、筒状となっている。収縮防止部4a、4aは、図3に示すようにコの字型の金属材からなり、これを2個使用し、接続部3a、3bの上下両側から差し込むことによって、創離開防止部1は創離開方向に適度に引き伸ばされ、その状態に維持され、創離開防止部1の創閉力が温存される。処置対応切除可能部6は、創離開防止部1の中央に位置し、創離開防止部1と互いに逢着されている。さらに、処置対応切除可能部6は、全部を開口しても創離開防止部1に破損等が生じないように、創離開防止部1と処置対応切除可能部6との逢着部位は補強されている。
この処置対応切除可能部6を備えたことにより、創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、処置対応切除可能部6を適宜切除することで、創およびその周辺組織の観察が容易となり、過剰な浸出液および膿等が生じている場合には、容易に処置することができる。
【0028】
装着状態においては、図2に示すように、創離開防止部1を創の縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持するために、これに適切な保持部2c、2d、2i、2jによって前腕内側部で、創離開防止部の創閉力により、創閉方向に収縮して機能するように保持部で固定し、装着した後に不要な保持部2a、2b、2e、2f、2g、2h、2k、2lは切除され、収縮防止部4a、4aは、装着後、筒状の接続部3a、3bから取り外される。
これにより、温存させていた創離開防止部1が有する創閉力を発揮させ、創離開防止部1を創閉方向に効率よく収縮させることができる。また、保持部は、創離開方向に配置し、かつ創離開防止部の両端に配置するのが縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持できるため好ましく、例えば、縫合部5が、創離開防止部上辺の中央点1aと創離開防止部下辺の中央点1bとを結ぶ直線上にある場合には、保持部の位置は、2c、2d、2i、2jとするのが好ましい。図3は、収縮防止部4aを示す概略平面図である。
【0029】
なお、図1において、1aは創離開防止部上辺の中央点、1bは創離開防止部下辺の中央点を示している。図2は、前腕外側部の縫合部5に対し、創離開防止部上辺の中央点1aと創離開防止部下辺の中央点1bとを結ぶ直線を一致させて処置対応型創離開防止用補助具を装着した状態を示し、「創離開防止用補助具」部分と「人体」部分とを区別するために、「人体」部分を破線で記した。
装着に際しては、縫合部および縫合部周辺の皮膚を十分に覆う創離開防止部を有する創離開防止用補助具を選択し、縫合部に創離開防止部上辺の中央点と創離開防止部下辺の中央点とを結ぶ直線を一致させ、創離開防止部を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させ、12本の保持部の中から、創離開防止部を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持するのに適切な保持部を選択し、創離開防止部がその創閉力により創閉方向に収縮して機能するように保持部で固定し装着する。その後、不要な保持部は切除し、収縮防止部を取り外すことにより、創離開防止用補助具と縫合部および縫合部周辺の皮膚との間に摩擦が生じる。さらに、縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着する創離開防止部の装着に伴う収縮距離が、保持部の装着に伴う収縮距離以上となり、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、創離開方向に対して垂直方向の収縮距離以上となる差異を設けて、創離開防止部の両端に接続部を介して保持部を接続しているため、創離開防止用補助具の装着に伴う収縮距離の度合は、縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となり、創閉方向から縫合部周辺の皮膚を弛ませ、軽くしわをよせ、縫合糸や縫合部および縫合部周辺の皮膚が受けている生理的張力を持続的に減少させることができる。
【0030】
次に、創離開防止部1は、伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)からなり、装着に伴う創離開方向の収縮距離が装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より長くなる方向で使用し、創離開防止部1の両端を折り返して二重にし、接続部3a、3bとした。また、保持部2a〜2lは、伸縮機能を備えない綿糸を使用した綾織り生地を細くして紐とし、前腕部に装着するために十分な長さとした。保持部2a〜2fは、接続部3aに逢着され、保持部2g〜2lは、接続部3bに逢着されている。さらに、筒状の接続部3a、3bには、図3に示したコの字型の金属材からなる収縮防止部4a、4aが両側から差し込まれている。収縮防止部4a、4aは、創離開防止部1が備える創閉力によって変形することがない強度を有している。
【0031】
処置対応切除可能部6は、観察に適した医療用に用いる非伸縮性の透明ビニールシートで形成され、創離開防止部1の中央で互いに逢着されている。さらに、処置対応切除可能部6は、必要に応じ裂いて処置するができ、全部を開口しても創離開防止部1に破損等が生じないように、創離開防止部1と処置対応切除可能部6との逢着部位は補強されている。さらに、経過観察中に過剰な浸出液および膿等が確認された場合、処置対応切除可能部6である透明のビニールシート上から注射針を刺し、注射器で過剰な浸出液および膿等を吸引排出したり、処置対応切除可能部を切除することで、創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、処置に必要なスペースを確保することができる。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明の処置対応型創離開防止用補助具を用いた第2の実施の形態を、図4〜図6を用いて説明する。
図4は、創離開防止部に処置用開口部を備えた処置対応型創離開防止用補助具の非装着時の前面側を示す概略平面図である。なお、符号4bは収縮防止部、符号7は処置用開口部であり、他の符号は図1と同様である。
この第2の実施の形態での処置対応型創離開防止用補助具は、処置対応切除可能部6の中央に処置用開口部7を備え、接続部3a、3bを筒状とし、図6に示した収縮防止部4bであるコの字型の金属材を2個使用し、接続部3a、3bの上下両側から差し込むことによって、創離開防止部1は創離開方向に適度に引き伸ばされ、その状態に維持され、創離開防止部1の創閉力を温存させ、創離開防止部1を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させ、保持部2(2a〜2l)で固定し装着した後に、収縮防止部4b、4bを取り外し、温存させていた創閉力を発揮させることで、創離開防止部を創閉方向に効率よく収縮させることができる。これにより、複数回の処置が必要と想定される創に対し、創離開防止用補助具を脱着せず、創およびその周辺組織の観察と共に創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、過剰な浸出液、膿および壊死組織等に対する処置等を行うことが容易となる。
【0033】
図5は、図4に示した創離開防止用補助具の装着時の状態を示す概略平面図である。図において、前腕外側部の縫合部5に、創離開防止部上辺の中央点1aと創離開防止部下辺の中央点1bとを結ぶ直線を一致させて創離開防止用補助具を装着した状態を示し、「創離開防止用補助具」部分と「人体」部分とを区別するために、「人体」部分を破線で示している。図6は、収縮防止部4bを示す概略平面図である。
【0034】
図4に示す第2の実施の形態において、創離開防止部1は、伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)からなり、装着に伴う創離開方向の収縮距離が、装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より長くなる方向で使用し、創離開防止部1の両端を折り返して筒状にし、接続部3a、3bとした。また、保持部2a〜2lは、伸縮機能を備えない綿糸を使用した綾織り生地を細くして紐とし、前腕部の装着に十分な長さとした。保持部2a〜2fは、接続部3aに逢着され、保持部2g〜2lは、接続部3bに逢着されている。さらに、筒状の接続部3a、3bには、図6に示したコの字型の金属材からなる収縮防止部4b、4bが両側から差し込まれている。収縮防止部4b、4bは、創離開防止部1の創閉力によって変形することがない強度を有している。処置対応切除可能部6は、医療用として用いる非伸縮性の透明のビニールシートからなり、創離開防止部1の中央に位置し、互いに補強され逢着されている。さらに、処置対応切除可能部6の中央には、処置用開口部7を備えている。
【0035】
装着状態では、図5に示すように、創離開防止部1を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持するために適切な保持部2c、2d、2i、2jによって前腕内側部で、創離開防止部1の創閉力により、創閉方向に収縮させて機能するように保持部で固定し装着され、不要な保持部2a、2b、2e、2f、2g、2h、2k、2lは切除されている。収縮防止部4bは、装着後、筒状の接続部3a、3bから引き抜かれている。また、保持部は、創離開方向に配置され、創離開防止部の両端に配置されることが、縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持できるため好ましく、例えば、縫合部5が創離開防止部上辺の中央点1aと創離開防止部下辺の中央点1bとを結ぶ直線上にある場合、保持部の位置は、2c、2d、2i、2jが好ましい。
【0036】
処置用開口部7は、処置対応切除可能部6の中央に設けられ、処置用に開口していることを基本とするが、処置用の薬液等が浸透すれば明確に開口していなくてもよい。また、線状や網目状等に構成され、必要に応じ開口部を拡張できる構造であってもよく、さらに形状や素材等による制限を受けない。
このように処置対応切除可能部6に処置用開口部7を設けたことにより、刺創や咬創等のように創の衛生状態が悪く感染等を生じやすい創や複数回の処置が必要と想定される創に対し、創離開防止用補助具を装着したままで、過剰な浸出液、膿および壊死組織等に対する処置等が可能となる。また、処置用開口部7は、腹腔内の観察や手術に伴う腹腔鏡等の挿入のための切開創に対しても効果を期待することができる。
【0037】
実施例1,2で示した第1、第2の実施の形態では、創離開防止部1の形状を長方形とし、保持部2a〜2lを紐としたが、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備えていれば、用途に応じ創離開防止部1の形状は正方形、円形、菱形等でもよい。また、保持部2a〜2lは、用途に応じ紐の本数や長さは任意でよく、伸縮性を有してもよく、紐状でなくてもよく、保持するためにボタンやファスナー等を用いてもよく、皮膚と密着する面に医療用の粘着剤を塗布してもよい。接続部3a、3bについては、創離開防止部1の両端を折り返して二重としたが、明確な接続部を設けなくてもよい。また、接続部3a、3bを筒状にしてコの字型の金属材を差し込み、収縮防止部4aを備えた構成としたが、収縮防止部4aは、創離開防止部が備える創閉力を温存させる機能を備えてさえいれば、用途に応じ、その素材や形状および部位等に制限を受けない。
【0038】
さらに上記の例において、処置対応切除可能部6の形状を長方形とし、観察を目的として透明のビニールシートを用いたが、処置対応切除可能部は透明であることが望ましいが、形状や素材等による制限を受けず、創離開防止用補助具を脱着せず、創およびその周辺組織の処置等を必要に応じ可能とする機能を備えていれば、半透明または不透明でもよい。また、処置対応切除可能部の下層に処置用開口部を備えてもよく、さらに、処置対応切除可能部の下層に、あらかじめ湿潤環境を整えるためのドレッシング材や過剰な浸出液および膿等に対応する処置材等を備えてもよい。
また、創離開防止部や保持部の一部もしくは全部を必要に応じ多層構造としてもよく、さらに形状や素材等による制限を受けないが、結果として、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備えてさえいればよい。
さらに、創離開防止部1、保持部2a〜2l、接続部3a、3b、処置対応切除可能部6を互いに縫着したが、一部もしくは全部に縫い目や継ぎ目のない製法を用いてもよい。
【0039】
なお、本発明の処置対応型創離開防止用補助具を構成する素材としては、上記の素材の他に、例えば、ナイロン等の化学繊維や絹、麻等の天然繊維等が挙げられ、創離開防止部1、保持部2a〜2l、接続部3a、3b、処置対応切除可能部6のそれぞれに適した柔軟性、保温性、耐久性等を備えるものが好ましい。これらは例示であって制限的なものではない。さらに用途によっては、プラスチックや金属等の素材を用いてもよく、医療用として適していれば、その他の新素材等を用いてもよい。
【0040】
さらに、保持部は、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する機能を備え、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備えていれば、用途に応じ、その素材や形状および部位等に制限を受けない。例えば、医療用として適した粘着剤のみを保持部とし、創離開防止部の下層の一部もしくは全部に備えても良く、このとき、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離は、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離と同等となることが望ましく、創離開防止部または保持部の形状により、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離と、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離との差異が少なくても良い。
【0041】
さらに、創離開防止部1と処置対応切除可能部6に明確な区別がなくてもよく、双方の機能を備えていれば同一素材で構成されていてもよい。また、創離開防止部1に、湿度、薬物または空気中の成分等に反応し創離開防止部1の機能を発揮する素材を用いた場合には、収縮防止部はこれらの反応を防止する機能を備えていればよく、パッケージ等にこれらの反応を防止する機能を備えている場合は、パッケージ等を収縮防止部とみなす。
創離開防止部1の素材として、体温に反応し創離開防止部1の機能を発揮する形状記憶合金を用いた場合、創離開防止部の収縮を温存させる機能を備える収縮防止部は、創離開防止部1の中に備えられているものとみなすことができ、このような場合は、明確な収縮防止部を設けなくてもよい。結果として、他の素材であっても創離開防止部の収縮を温存させる機能を備えていれば、明確な収縮防止部を設けなくてもよい。さらに、創離開防止用補助具の一部もしくは全部に装着後に硬化する液体やゲル状等の素材を用いてもよく、結果として、本発明の処置対応型創離開防止用補助具各部の機能を備えていればよい。
【0042】
以上、創離開防止用補助具を、前腕外側部の縫合した創に装着した例について説明してきたが、創の状態が縫合、未縫合に関わらず装着することができる。また、前腕外側部に関わらず、身体の各部位に装着することができ、各部位に適した形状とすることもできる。なお、本発明でいう組織に密着して装着するとは、組織の表面に直接に接して密着する場合に限らず、創離開防止用補助具を脱着せず、処置対応切除可能部の機能を確保した状態で、湿潤環境を整えるためのドレッシング材や処置用ガーゼ等の創およびその周辺組織を覆うものを介して密着する場合も含んでいる。また、縫合糸を用いず、医療用接着剤やステープラー(ホッチキス)等を用いた場合でも同様の効果が得られる。また、創の状態が縫合、未縫合に関わらず、使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の処置対応型創離開防止用補助具は、生理的張力を原因とする創離開を防止する効果が極めて高く、創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、創およびその周辺組織に対する処置等を行うことができ、さらに、創の状態が縫合、未縫合に関わらず使用することができ、医療業界に貢献するところ大である。
【符号の説明】
【0044】
1.創離開防止部、
1a.創離開防止部上辺の中央点、
1b.創離開防止部下辺の中央点、
2,2a〜2l.保持部、
3a,3b.接続部、
4a,4b.収縮防止部、
5.縫合部、
6.処置対応切除可能部、
7.処置用開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の一部がきずつけられて生じた解放性のきずである創に対し、創およびその周辺組織を覆って装着し、創の離開を防止するための創離開防止用補助具であって、創およびその周辺組織を覆い、創閉方向に収縮させる創閉力を備えた創離開防止部と、該創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する保持部と、前記創離開防止用補助具を脱着せずに、創およびその周辺組織の処置等を必要に応じて行うことのできる処置対応切除可能部とを備え、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備え、前記創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、前記創離開防止部が有する創閉力により該創離開防止部を創閉方向に収縮させて創離開を防止し、前記創離開防止用補助具を脱着せず、創離開防止用補助具の創離開防止機能を保持した状態で、創およびその周辺組織に対する処置等を可能とすることを特徴とする処置対応型創離開防止用補助具。
【請求項2】
前記処置対応切除可能部の一部もしくは全部に処置用開口部を備える請求項1に記載の処置対応型創離開防止用補助具。
【請求項3】
前記創離開防止部が有する創閉力を温存させる機能を有する収縮防止部を備え、該創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、前記保持部で固定し装着した後に、温存させていた創離開防止部の創閉力を発揮させる請求項1又は2に記載の処置対応型創離開防止用補助具。
【請求項4】
前記創が、縫合された状態にある請求項1乃至3のいずれかに記載の処置対応型創離開防止用補助具。
【請求項5】
前記創が、未縫合の状態にある請求項1乃至3のいずれかに記載の処置対応型創離開防止用補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−17509(P2013−17509A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150916(P2011−150916)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【特許番号】特許第5095846号(P5095846)
【特許公報発行日】平成24年12月12日(2012.12.12)
【出願人】(507134655)有限会社ちょうりゅう (4)
【Fターム(参考)】