説明

凹み加工装置

【課題】装置全体のコンパクト化が図れる凹み加工装置を提供する。
【解決手段】軸線方向に貫通するリング孔40を有し、その軸線回りに回転自在なリング状部材31と、リング状部材31の内周面にあって周方向に並んで保持された回転自在の複数のローラと、リング状部材31のリング孔40内に軸状の被加工材が位置するように被加工材を保持するワーク保持手段とを備え、リング状部材31を軸線回りに回転させて複数のローラを被加工材の外面に当接させることで、被加工材の外面に凹みを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は凹み加工装置、詳しくは棒・軸・管などの長尺状部材に対してその外面に凹み加工を施す凹み加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークの外面に溝などを成形するためのローラ成形装置としては、特許文献に示すローラ成形装置が知られていた。
このローラ成形装置は、クラッチドラムの側面に複数の溝、例えばスプラインを成形する際、その加工精度を向上させることを目的としており、ワークである円筒体(クラッチドラムなど)の側面に軸線方向に延びる複数の溝を形成するものである。
ワークである円筒体の軸回りに複数のローラを配置し、上型を駆動してこれらのローラの間にワークを押し込むことにより、ワークの外周面に軸線方向に延びる複数の溝を形成することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−221248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来技術にあっては、パイプの外周面の軸線方向の溝(上型の移動方向の溝)を形成することができるが、その円周方向に延びる溝やパイプの一部に凹みを形成することは不可能であるという課題を有していた。また、ローラで形成する空間に上型によりワークを押し込む構造のため、装置そのものが大型化してしまうこととなっていた。
【0005】
そこで、発明者は、鋭意研究の結果、軸体の外周面に凹みを形成する際、軸体を固定し、ローラを回転させること、ローラを支持するリング状部材の軸線を軸体の軸線と略一致させることで、その装置構成をコンパクトにすることができることを知見してこの発明を完成させた。
【0006】
この発明は、装置全体をコンパクトにすることができる凹み加工装置を提供することを目的としている。
この発明は、軸体の外周面の一部に凹みを形成することができる凹み加工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、軸線方向に貫通するリング孔を有し、その軸線回りに回転自在に設けられたリング状部材と、このリング状部材の内周面にあってその周方向に沿って並んで保持された回転自在の複数のローラと、このリング状部材のリング孔内に軸状の被加工材が位置するようこの被加工材を保持するワーク保持手段とを備え、このリング状部材をその軸線回りに回転させて上記複数のローラを被加工材の外面に当接させることにより、この被加工材の外面に凹みを形成する凹み加工装置である。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、ワーク保持手段が保持する被加工材の外面に対してリング状部材を回転させてその内周面に保持するローラを当接させる。その結果、被加工材の外面には凹みが形成される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、ベースと、このベースに支持されて片持ち梁形状にベースから水平に突出する突出アームと、この突出アームの先端部に設けられて軸状の被加工材をクランプするクランプ部材と、この突出アームの基端部がそのリング孔を貫通して設けられるとともに、この基端部の外周面に回転自在に支持されたリング状部材と、このリング状部材の内周面にあってその周方向に配設された回転自在な複数のローラと、このリング状部材を回転させて複数のローラを上記被加工材の外面に当接させることにより、被加工材の外面に所望の凹みを形成するリング状部材駆動手段とを備えた凹み加工装置である。
クランプ部材としては、後述するくさび片を用いた挟持機構の他にも単なるチャック機構なども採用することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、リング状部材を回転させ、その内周面に保持する複数のローラを被加工材の外面に当接させることにより、この外面に凹みを形成する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、上記リング状部材はその軸線方向に沿って複数列のローラを保持する請求項1または請求項2に記載の凹み加工装置である。
複数列のローラを被加工材に同時的に当接させることにより、被加工材の複数箇所に凹みを一時に形成することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、上記クランプ部材は、上記突出アームの先端部に形成された凹部に挿入されてその間に上記被加工材を挟持する2つ割りの挟持片を有するとともに、これら挟持片と上記凹部の内壁面との間に差し込まれて挟持片同士の厚さ方向の隙間を狭めることができるくさび片を有する請求項2に記載の凹み加工装置である。
リング状部材のリング孔内に被加工材を保持するクランプ部材は、2つ割りの挟持片の間にこの被加工材を挟持する際、挟持片と突出アームとの間にくさび片を差し込むことにより固定する。よって、被加工材を強固に固定することができ、かつ、加工終了後にはくさび片を抜き取ることで容易に被加工材のクランプ(挟持)を解除することができる。さらに、くさび片を用いることにより被加工材に対してその全長方向にほぼ均一に外力を作用させることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、上記くさび片は上記突出アームの長手方向に進退自在に設けられた請求項4に記載の凹み加工装置である。
くさび片を突出アームの長手方向に沿って進退させる構成としたため、全体としての構成をよりコンパクトにすることができる。また、被加工材を挟持するため、その着脱が容易な構成となっている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜5に記載の発明によれば、被加工材の外面に対して凹み加工を行うに際してその外面の周方向における任意の位置に凹み加工を行うことができる。また、その加工に際してリング状部材の回転軸と被加工部材の軸線とをほぼ同軸的に配置することが可能となり、装置全体を小型化することができる。また、クランプ機構として2つ割りの挟持片をくさび片によりロック(固定)することとしたため、小さな外力によりこれら挟持片の挟持を開始・解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施例1に係る凹み加工装置を示す斜視図である。
【図2】この発明の実施例1に係る凹み加工装置を示す側面図である。
【図3】この発明の実施例1に係る凹み加工装置を示す正面図である。
【図4】この発明の実施例1に係る凹み加工装置を示す平面図である。
【図5】この発明の実施例1に係る凹み加工装置の突出アームを示す斜視図である。
【図6】この発明の実施例1に係る凹み加工装置の突出アームを示す側面図である。
【図7】この発明の実施例1に係る凹み加工装置のローラを示す斜視図である。
【図8】この発明の実施例1に係る凹み加工装置のローラを示す正面図である。
【図9】この発明の実施例1に係る凹み加工装置のクランプ部材を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の一実施例に係る凹み加工装置を図面を参照して具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
この発明の実施例1に係る凹み加工装置は、図1〜図9において示すように、架台(図示していない)の所定高さ位置に水平に固定される矩形のベース板11を有している。このベース板11の上面には突出アーム12の基端部が固定されており、この突出アーム12の先端部は片持ち梁のようにベース板11から所定長さだけ水平に突出している。突出アーム12の突出した先端部には後述するクランプ部材13が配設されている。
すなわち、突出アーム12は、全体として、所定長さの円柱体またはその一部を切り欠いた円柱体で形成され、その外周面の一部(先端部)にその長さ方向に沿って延びる断面コの字形状の溝14が形成されている。この溝14は、矩形のベース板11の長辺方向に開口して突出アーム12の全長に亘って形成され、その深さは突出アーム12の半径とほぼ同じであって、その幅は突出アーム12の直径の半分程度とされている。この溝14の内部、特に突出アーム12の先端部側の溝14の内部には、図9に示すように、2つ割りの上側挟持片15A、下側挟持片15Bが上下に重なった状態でシム板を介して収容されている。さらに、この上側挟持片15Aと溝14の内壁面(上壁面)との間にはくさび片16が差し込まれる構成とされている。上側挟持片15Aの上面にはこのくさび片16が挿入されるように傾斜溝15AAが形成されている。
【0018】
くさび片16はリンク機構を介して溝内でその溝の延びる方向に沿って(突出アーム12の軸線方向に沿って)進退自在に設けられている。リンク機構は、厚さが先端に行く程薄くなるテーパ形状のくさび片16の後端にその先端が連結された溝内リンク17と、この溝内リンク17の後端にその先端がピン結合された溝外リンク18とを有して構成されている。溝外リンク18の後端はベース板11の上面に固定されたエアシリンダ20のピストンロッド21の先端にピン結合されている。なお、エアシリンダ20は、突出アーム12の側方にてこれと平行に配設されている。エアシリンダ20のピストンロッド21が突出すると、ピン18Aを支点として水平面内で揺動する溝外リンク18を介して溝内リンク17が溝14の内部でその先端方向に向かって摺動し、くさび片16を上側挟持片15Aと溝14の上壁面との間に挿入することとなる(くさび片16の先端テーパ部が傾斜溝15AAに挿入される)。逆にピストンロッド21がシリンダボディ内に引き込まれると、くさび片16は溝14の内部で後退し上記隙間から抜き取られることとなる(先端テーパ部が傾斜溝15AAから抜け出る)。
【0019】
被加工材Wとしては、丸棒または円筒体(パイプ)が用いられる。例えば所定長さの丸棒である被加工材Wは、上下に2つ割りにされた上側挟持片15Aと下側挟持片15Bとの間に挟持される。すなわち、これらの上下一対の挟持片15A,15Bが重なり合った場合に大略直方体の板状のブロックを形成するが、これらの一部を4分の1円程度に切り欠くことで、このブロックの側面に断面C字型または断面半円形乃至弓形の保持溝(凹部)22が形成されることとなる。この断面弓形(おぼん形状)の保持溝22は側方が開口とされ、断面円形の被加工材である丸棒Wをその長さ方向のほぼ全体を挟み込んでこれを固定し、水平に保持する。したがって、丸棒Wの外面の一部(180度未満の角度範囲)が一対の挟持片15A,15Bの側面から所定高さだけ突出することとなる。
【0020】
また、上記突出アーム12の突出端部にはリング状部材としての回転ヘッド31が回転自在に支持されている。すなわち、ベース板11から片持ち梁形状に突出した突出アーム12の外面に図示していないが軸受けを介して回転ヘッド31が回転自在に支持されている。回転ヘッド31は、複数のリングとスペーサと支持リングとを一体化した円筒体で構成され、その基端部にはフランジ状に拡径された歯車32を有している。
詳しくは、先端側から押さえリング33、第1リング34、スペーサリング35、第2リング36、第1支持リング37、第2支持リング38、歯車リング39を順番に同軸的に重ね合わせて例えば挿通ボルトなどで固着することで一体化されている。この結果、突出アーム12に回転自在に支持される回転ヘッド31は、軸方向に貫通するリング孔40を有する円筒体で形成されることとなる。この場合、回転ヘッド31の軸線は突出アーム12の軸線と同一とすることができる。なお、軸受けは上記支持リング37,38等に配設されることとなる。
【0021】
また、図7,図8に示すように、第1リング34、第2リング36の各リング孔40の内周面にはその円周方向に沿って等間隔で複数のローラ50が配設されている。各ローラ50は円柱体であって、その回転中心軸が上記円筒体である回転ヘッド31の回転中心軸と平行となるようにこれらの第1リング34、第2リング36に装着されている。
また、各ローラ50は、その外周面がこれらの第1リング34、第2リング36の内周面から所定高さだけそのリング孔40の内方に向かって突出するように、これらのリング34,36に回転自在に取り付けられている。なお、この突出量(半径方向においてリング内周面からローラ外周面までの高さ・距離)は、取り付けるローラ50の径を調節することで、任意の値に設定することができる。また、全てのローラ50ではその突出高さを同一とすることもできるが、それぞれにて異ならせることもできる。特に、各ローラ50を1個ずつまたは数個のローラ50からなるローラ群ごとにリング周方向(回転ヘッド31の回転方向)へ向かって除所に大径化した場合には、所定深さの凹みDを複数段に分けて形成することができる。これにより、モータ61に作用する加工負荷を軽減することができるとともに、丸棒Wにローラ50が当接した際の衝撃を小さくして凹み形成部分の変形を抑えることができる。
さらに、ローラ50を保持するリング34、36の間隔、リング34,36の数については、被加工材である丸棒Wに形成する凹みDの間隔および数により適宜変更することができる。
そして、この円筒体である回転ヘッド31を駆動回転する機構(リング状部材駆動機構)は、以下の通り構成されている。すなわち、上記ベース板11の下面に搭載されたモータ61と、このモータ61の出力軸の先端に固着されたギア62とを有し、このギア62が上記回転ヘッド31の歯車リング39の歯車32にかみ合っている。これらのギア比などを調整することにより所定速度で回転ヘッド31を正逆両方向に回転駆動することができる。
【0022】
以上の構成に係る凹み加工装置は、以下の通り作用する。
すなわち、丸棒Wを挟持片15A,15Bによる凹部22に挿入してエアシリンダ20をONにしてピストンロッド21を突出させ、リンク17,18を介してくさび片16を上側挟持片15Aとアーム12の溝14の内壁面との間に差し込むことにより、この丸棒Wを所定円周方向位置・所定長さ方向位置において固定し、水平に保持する。このとき、丸棒Wの一部外周面は突出アーム12の外周面より半径方向で所定高さだけ外方に突出してセットされることとなる。
そして、モータ61をONにすると、ギア62、歯車リング39を介して回転ヘッド31が所定速度で回転する。すると、第1リング34,第2リング36にそれぞれ保持された複数のローラ50がそれぞれの位置で丸棒Wの外面に当接する。この当接の結果、丸棒Wの当接位置では丸棒Wの外面が塑性変形し、所望の凹みDが形成されることとなる。
すなわち、水平に保持された丸棒Wに対してその丸棒Wの軸線と平行な回転軸を有する回転ヘッド31を回転させ、回転ヘッド31の内周面から内方に向かって突出させた全体として環状に配置された複数のローラ50を連続的に丸棒Wの外面に当接させることで丸棒Wの外面を塑性変形させるものである。丸棒Wの外面には所定位置に所定形状の凹みDが形成されることとなる。
なお、いったん凹み加工が施された丸棒Wを再度クランプ部材13でクランプすることで再度の凹み加工を行うこともできる。また、丸棒Wに替えて断面が長円形、矩形、六角形などの角棒などを加工することもできる。さらに、環状のローラ列の数およびそれらの間隔は任意とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明は、中実な丸棒W、中空のパイプ、その他円形断面を有する被加工材の外面への凹み加工などにおいてきわめて有用とされる。
【符号の説明】
【0024】
11 ベース板、
12 突出アーム、
13 クランプ部材、
14 突出アームの溝、
15A 上側挟持片、
15B 下側挟持片、
16 くさび片、
31 回転ヘッド、
32 歯車、
40 リング孔、
50 ローラ、
61 モータ、
62 ギア、
W 被加工材(丸棒)、
D 凹み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に貫通するリング孔を有し、その軸線回りに回転自在に設けられたリング状部材と、
このリング状部材の内周面にあってその周方向に沿って並んで保持された回転自在の複数のローラと、
このリング状部材のリング孔内に軸状の被加工材が位置するようこの被加工材を保持するワーク保持手段とを備え、
このリング状部材をその軸線回りに回転させて上記複数のローラを被加工材の外面に当接させることにより、この被加工材の外面に凹みを形成する凹み加工装置。
【請求項2】
ベースと、
このベースに支持されて片持ち梁形状にベースから水平に突出する突出アームと、
この突出アームの先端部に設けられて軸状の被加工材をクランプするクランプ部材と、
この突出アームがそのリング孔を貫通して設けられるとともに、突出アームの基端部の外周面に回転自在に支持されたリング状部材と、
このリング状部材の内周面にあってその周方向に配設された回転自在な複数のローラと、
このリング状部材を回転させて複数のローラを上記被加工材の外面に当接させることにより、被加工材の外面に所望の凹みを形成するリング状部材駆動手段とを備えた凹み加工装置。
【請求項3】
上記リング状部材はその軸線方向に沿って並んだ複数列のローラを保持する請求項1または請求項2に記載の凹み加工装置。
【請求項4】
上記クランプ部材は、上記突出アームの先端部に形成された凹部に挿入されてその間に上記被加工材を挟持する2つ割りの挟持片を有するとともに、これら挟持片と上記凹部の内壁面との間に差し込まれて挟持片同士の厚さ方向の隙間を狭めることができるくさび片を有する請求項2に記載の凹み加工装置。
【請求項5】
上記くさび片は上記突出アームの長手方向に進退自在に設けられた請求項4に記載の凹み加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−223774(P2012−223774A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90670(P2011−90670)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(396008934)松本工業株式会社 (7)