凹型レンズおよび光学部材、ならびにこれらを使用した照明装置
【課題】LEDなどのように消費エネルギーが少なく、指向性の高い光エネルギーを有効使用して、大面積の表示部を略均一な照度分布で高範囲に照射することのできる凹型レンズおよびそれを使用した照明装置を提供する。
【解決手段】光を透過させる透明基材14の一方面に、中心を通る径方向断面の高さhが同じである三角形状の凸部16a、16b、16c、16d…を半径方向に多数形成したことを特徴とする凹型レンズ。
【解決手段】光を透過させる透明基材14の一方面に、中心を通る径方向断面の高さhが同じである三角形状の凸部16a、16b、16c、16d…を半径方向に多数形成したことを特徴とする凹型レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、点光源の光を大面積の面状強度分布を持つ光に変換するのに好適な凹型レンズおよび光学部材、ならびにこれらを使用した照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザおよび発光ダイオード(LED)などは指向性の高い光源であるため、電球や蛍光灯のように広い配光を有する光度分布を実現できない。このため、LEDなどを電球や蛍光灯に代わる次世代光源として使用するためには、例えばLEDを多数ならべ、光を面状にかつ略均一の強度で広げることが必要である。
【0003】
光源の光を単に広げるためだけには、従来、拡散板や拡散フィルムなどの光拡散素子、あるいは光の屈折を使用した凸レンズ(砲弾型LEDのレンズも含む)や凹レンズ、さらには凸レンズを薄型化したフレネルレンズやキノフォームなどが用いられてきた。
【0004】
しかしながら、上記で取り上げた光学部品は点光源の配光制御を目的とした素子ではないだけでなく、次のような問題がある。すなわち、例えば、拡散板によって光を拡散させると、透過率が悪くなり光の使用効率が悪くなる。また、図11に示したように、凹レンズ2は屈折を使用したレンズであるため、その焦点距離は、基板材料の屈折率と曲率半径とに依存しており、焦点距離を自由に制御することができない。さらに、レンズ形状を薄くすることができないという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の実情に鑑み、LEDなどのように消費エネルギーが少なく、指向性の高い光エネルギーを有効使用して、大面積の表示部を略均一な照度分布で高範囲に照射することのできる凹型レンズおよび光学部材、ならびにこれらを使用した照明装置を提供することを目的としている。
【0006】
本発明者らは、できるだけ多くの光を外部に広げて取り出すために、高い透過性を有し、焦点距離の制御が容易な手法を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る凹型レンズは、光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、同心円状の構造体で、その中心を通る断面が三角形状の構造体を複数形成したことを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る凹型レンズにおいては、前記三角形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に存在することが好ましい。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0009】
さらに、本発明に係る凹型レンズにおいては、前記三角形状の構造体の高さが、すべて下記式(2)で表されることが好ましい。
高さ(μm):h=λ0/(n−1)…(2)
(λ0は任意の数で光源波長(μm)を表し、nは構造体を形成している物質のλ0に対する屈折率を表す。)
【0010】
また、本発明に係る光学部材は、光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、断面が矩形状の構造体を複数形成したことを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体が、同心円状に形成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に1つ以上存在する群であることが好ましい。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0013】
さらに、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体の高さTが、0.4μm≦T≦1.2μmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体が、下記条件1)〜5)を満たす構造体の群であることが好ましい。
1)m番目の構造体の群の幅(μm):dm=r(m)−r(m-1)
2)m番目の構造体の幅を任意の数に分割した幅(μm):
gm=dm/xm
(xmはm番目の構造体において、1以上の任意の整数を表す。)
3)m番目の構造体に相当する位置におけるi番目の高さ(μm):
Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)
(Tは前記矩形状の構造体の高さを表し、iは1〜xmの整数を表す。)
4)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体のデューティー比:
tm(i)=1−Tm(i)/T
5)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体の幅:tm(i)・gm
【0015】
このような構成の凹型レンズまたは光学部材であれば、大面積に対する照射光度を略均一にして広げるにあたり、薄型レンズで高い透過性を有し、焦点距離の制御が容易で、コスト的にも安価に形成することができる。
【0016】
また、本発明に係る照明装置は、上記いずれかに記載の凹型レンズまたは光学部材と、光源とから構成されることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る照明装置は、その光源が白色LEDであることが好ましい。
また、本発明に係る照明装置においては、光源波長λ0が、0.555±0.020μmとして設計されていることが好ましい。
また、本発明に係る照明装置においては、焦点距離fが、0.3〜0.1mmであることが好ましい。
【0018】
このような構成の照明装置であれば、例えば、店頭などに載置される看板などの照明装置として有効使用を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、指向性の強い点光源の光を略均一の強度で大面積の面状強度分布を持つ光に変換することができ、焦点距離を構造で制御でき、電子線描画で容易に作製可能である。さらに本発明のレンズ形状の金型を作製し、射出成型が可能になれば、安価に作製可能で、大面積に対する照度を略均一にして照射することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る凹型レンズを使用した照明装置の概略断面図である。
【図2】図2は、その照明装置を店頭の看板などに組み込んで使用する場合の概略断面図である。
【図3】図3は、壁に向かってスリットからレーザ光を照射してどのくらいの広がりを示したかを調べる遠視野像の装置図である。
【図4】図4(A)、(B)、(C)は、それぞれ図1に示した凹型レンズの初期状態と、断面三角形状の凸部を階段状の凸部に近似させた状態と、階段状の凸部をデューティー比に対応して2値化に変換した状態と、を示した説明図である。
【図5】図5(A)、(B)は、例えば図1に示した断面三角形状の凸部を備えた凹型レンズをバイナリ化する前の状態と、バイナリ化した後の状態とを対比して示す説明図である。
【図6】図6は、回折型光学部材の周期位置による突起数の最適化を示す概念図である。
【図7】図7は、1周期あたりの突起体の数N=1の回折型光学部材および構造変調型回折型光学部材のフォトダイオードによる一次回折光強度測定の結果を示す図である。
【図8】図8は、設計上の光源波長を変更した場合のLEDの光の拡散を示す図である。
【図9】図9は、設計上の光源波長を変更した場合に、色度の空間分布測定を行い、色度座標上で、x=0.310,y=0.316からの色度のずれを、標準偏差として示す図である。
【図10】図10は、焦点距離を変更した場合のLEDの光の拡散を示す図である。
【図11】図11は、従来の凹レンズによる光の屈折状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る凹型レンズ10を使用した照明装置12の概略図である。
【0022】
凹型レンズ10は、フレネル型の凹レンズであり、光透過性で平板状に形成された透明基材14の一方面に、高さhが一定である断面三角形状の凸部16a、16b、16c、16d…を半径方向に有している。これら各凸部16a、16b、16c、16d…の三角形の一辺をなす垂直な面13は、径方向の外側に配置される構造となっている。すなわち、三角形の斜面が外側に傾く姿勢となっている。さらに、この凹型レンズ10では、径方向の外側に近づくに従って、凸部間の間隙r1、r2、r3、r4が、所定の割合で小さくなるように設定されている。
【0023】
このように形成された凹型レンズ10と光源18とを組み合わせた照明装置12の場合、光源18から矢印Y方向に光が照射されると、その光は、透明基材14を射出するときに構造の厚い方向に向かって光が回折するため、それぞれy方向に広がって進む。これにより、点状の光源18であっても、大面積を照射することが可能になる。また、このとき、光の回折現象により射出面側では光の強度を略均一にして光の広がりを得ることができる。
【0024】
このような照明装置12は、図2に示したように、例えば、コンビニエンスストアの看板照明などとして使用することができる。
図2に示したように、この看板照明20では、例えば、プラスチック製の筐体22内に、上記の照明装置12が収容されている。そして、この照明装置12では、LEDランプ18から照射された指向性の強い光がリフレクター26によって開口面側に反射され、その光が凹型レンズ10により広範囲に亘って発散されることにより、乳白色の板体28に記載された情報が外方に表示される。
【0025】
このような使い勝手であれば、消費エネルギーが少なく指向性の高いLEDあるいはレーザーエネルギーを有効使用して大面積の表示部を略均一な照度分布で照射することが可能であり、長期間の継続使用においても安価に稼動させることができる。
【0026】
なお、図2に示した照明装置20では、リフレクター26の天板から板体28の下面までの距離Eは6cmで、筐体22の幅Fは20cmである。
このようにLEDランプ18と、光を出射させる照明板28との間隔が近距離であっても、光を外方に向かって略均一に照らすことが可能である。
【0027】
なお、光源は、LEDランプ18、レーザなどに何ら限定されず、有機EL、電球、蛍光灯などであっても同様の効果を奏することができる。
凹型レンズ10を構成する透明基材14は、透明な有機系の高分子であれば特に限定されない。代表的には、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリサルホン樹脂などからなる高分子フィルムで透明性の高いものであれば、何でもよい。また2種以上の樹脂をブレンドして使用することも可能である。これらの樹脂の中で、光学特性や耐熱性の点から環状オレフィン系樹脂が好ましい。
【0028】
凹型レンズ10を看板用の照明装置に用いた場合の効果を調べるため、室内での実験を行った。この実験では、図3に示したように、光源18として光源波長が532nmの単色(緑色)のレーザを用いた。そして、直径1mmのピンホール19から20cm離れた壁21に向かってレーザ光を照射し、幅方向にどの程度の広がりを見せるかの確認を行った。光の広がりSは10cmになることが確認され、照明装置として十分の機能を発揮することが確認された。
以下に、図2に示した看板用の照明装置12として凹型レンズ10を使用する場合に、好ましい態様について、図4を参照しながら説明する。
【0029】
この図4に示した例では、例えば、凹型レンズ10における、例えば、センターに形成された凸部16aを、複数の領域(2,4,6)に分割してそれをバイナリ化して同等品を得るための設計の段階を順番に示している。
【0030】
図4(A)は、本発明の一実施形態による凹型レンズを示したものである。この凹型レンズは、透明基材14の一方面に同心円状の構造体で、その中心を通る断面が三角形状の構造体16a、16b…16mを複数形成している。
【0031】
上記三角形状の構造体は、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に存在している。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0032】
また、図4(A)に示した凹型レンズにおける三角形状の構造体16a、16b…16mの高さhは、下記式(2)で表される高さ(μm)を有している。
高さ(μm):h=λ0/(n−1)…(2)
(nは構造体を形成している物質のλ0に対する屈折率を表す。)
このような輪帯半径と高さとを有する鋸歯状の凹型レンズであれば、指向性の高い光を、射出面側では光の強度を略均一にして光の広がりを得ることができる。
【0033】
したがって、この図4(A)に示した鋸歯状の凹型レンズと、光源18とを組み合わせて照明装置とし、その照明装置を図2に示したような照明看板20に好ましく採用することができる。
【0034】
さらに、本発明では、図4(A)に示した凹型レンズに基づいて図4(C)に示したようなバイナリ型の回折型光学部材を作製し、凹型レンズと同様の機能を持たすことができる。
【0035】
ここで、本発明において、平板状の透明基材14の表面を加工するために、例えば、LSI製造に汎用に用いられるフォトリソグラフィとドライエッチングの技術や紫外線硬化樹脂に金型をプレスして作製する技術が採用されている。
【0036】
フォトリソグラフィとドライエッチングの技術で作製する場合、具体的には、透明基材にフォトレジストをスピンコートし、フォトマスクを介してUV光により露光/現像することで微細構造パターンをフォトレジストに転写する。その上で、ドライエッチングにより位相をラジアンに相当する深さまで基材をエッチングし、基材に微細構造を転写し、最後にレジストを除去することによって、図4(C)に示すように凹凸部を有する断面形状が完成する。
【0037】
なお、図4(A)の凹型レンズから最終的に図4(C)あるいは図5(B)に示したようなバイナリ型の回折型光学部材を作製する場合、以下の条件で行われる。
【0038】
すなわち、さらに、1)〜5)の条件を満たすように設定される。
1)m番目の構造体の群の幅(μm):dm=r(m)−r(m-1)
2)m番目の構造体の幅を任意の数に分割した幅(μm):gm=dm/xm
(xmはm番目の構造体において、1以上の任意の整数を表す。)
3)m番目の構造体に相当する位置におけるi番目の高さ(μm):
Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)
(iは1〜xmの整数を表す。
Tは構造体の高さであり、0.4μm≦T≦1.2μmである。)
4)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体のデューティー比:
tm(i)=1−Tm(i)/T
5)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体の幅:tm(i)・gm
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、
λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0039】
上記の条件において、凸部16aなどを複数の領域に分割する。分割数は任意であるが、好ましくは、2,4,6…などのように偶数である。
上記の条件を当てはめて、例えば、m番目の構造体の群の幅dmを、4つに分割したときの幅gmは、gm=dm/4である。このときの高さTm(i)は、上記3)より、Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)であるため、
Tm(1)=0
Tm(2)=T/3
Tm(3)=2T/3
Tm(4)=T
となり、中心に向かう構造体(J、K、L、M)の群の高さは、中心に向かうにつれて次第に小さくなり、構造体Mの高さは0である。
【0040】
また、このときのデューティー比は、上記4)より、tm(i)=1−Tm(i)/Tであるため、
tm(1)=1
tm(2)=2/3
tm(3)=1/3
tm(4)=0
となる。
【0041】
なお、上記3)に記載したi番目の高さTm(i)とは、例えば、図4(B)に示したように、突起体の深さWiである。
これにより、図4(C)に示したように、構造体(O,P,Q,R)の各幅は、上記5)より、tm(i)・gmで示されるので、t1、t2、t3と中心に向かうほど狭くなり、t4は幅0である。
【0042】
すなわち、構造体Oの幅を1としたとき、構造体Pは2/3の割合、構造体Qは1/3の割合、構造体Rは零となる。
図5(A),(B)は、このようにして鋸歯状の突起体16a、16b、…16mからバイナリ化を図った例を示している。
【0043】
図5(B)に示されるように、回折型光学部材40では、周期dは、外方に向かうほど短くなる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
図6は、1周期あたりの突起体の数N=2(上記式2)において、xm=4)の回折型光学部材の右半分の構造図である。作製した回折型光学部材50にレーザ光(ダイオード励起緑色固体レーザ、PROPHOTNIX社製、λ=0.532μm)を照射し、その遠視野像と光強度測定とから焦点距離の確認を行った。
【0045】
また、1周期あたりの突起体の数Nと回折光強度との関係を調べるために、それぞれの回折型光学部材のcenter、middle、edge部分の周期構造を有する回折パターンを作製し、一次回折光強度の測定を行った。
【0046】
この結果から、回折型光学部材の中央部分であるcenter構造では、1周期あたりの突起体の数N=4(上記式2)において、xm=6)のとき、回折型光学部材の中間領域であるmiddle構造では、N=2(上記式2)において、xm=4)のとき、回折型光学部材の外側付近であるedge構造では、N=1(上記式2)において、xm=2)のときに、強い一次回折光強度が得られた。
【0047】
この結果から、第1周期目(center構造)をN=4、第2周期〜第36周期目をN=2、第37周期〜第109周期目をN=1として、構造変調型回折型光学部材を作製した。
【0048】
作製した構造変調型回折型光学部材を用いて、フォトダイオードで遠視野像の光強度測定を行った。その結果、図7に示すように、center、middle、edge部分において1周期あたりの突起体の数が異なる構造変調型回折型光学部材を作製することにより、全ての周期においてN=1の回折型光学部材を作製したときに比べて、最も好ましい照度分布を得ることができた。
【0049】
[実施例2]
表面実装タイプLED(GOLDEN DRAGON ULTRA WHITE,LUW W5SM−JZKY−4C8E、OSRAM社製)の発光ピークをLED配光測定器(IMS−5000、朝日分光(株)製)で測定したところ、発光スペクトルは0.380〜0.800μmの間に広がっており、ピークは青色LEDのピーク0.446μmとYAG蛍光体のピーク0.555μmとがあった。
【0050】
光源波長を0.446μm,0.500μm,0.555μm,0.780μmとして設計し、1周期当たりの突起体の数Nを全ての周期でN=1とし、焦点距離を何れも2mmとして、直径1mmの回折型光学部材を作製した。
【0051】
LEDに直径1mmのピンホールを取り付け、上記で作製した回折型光学部材をLED上に搭載し、回折型光学部材から30mm離れたところでフォトダイオードによる光強度分布測定を行った。その結果、図8に示すように、いずれの光源波長で設計した回折型光学部材であっても、回折型光学部材を搭載しない(ピンホールのみ)場合と比べ、回折型光学部材を搭載した場合の方が、LEDの光が拡散していることがわかった。
【0052】
[実施例3]
実施例2のフォトダイオードの代わりに回折型光学部材から0.7mの場所にスクリーンを設置し、スクリーンに投影された像を撮影した。また、色度の空間分布をLED配光測定器(IMS−5000、朝日分光(株)製)で測定を行い、色度座標上で、x=0.310,y=0.316からの色度のずれを、標準偏差として計算した。
【0053】
その結果、光源波長を0.446μmから0.555μmとして設計した回折型光学部材になるにつれて、青色から白色に変化し、光源波長を0.780μmとして設計した回折型光学部材については赤味が増してくることがわかった。また、図9に示すように、光源波長を0.555μmとして設計した回折型光学部材が、広い角度範囲にわたって標準偏差が最も小さくなることがわかった。このように本発明に係る照明装置の一実施態様においては、光源波長λ0が、0.555±0.020μmとして、つまり0.555−0.020μm≦λ0≦0.555+0.020μmとして設計されていることが好ましい。
【0054】
[実施例4]
光源波長を0.555μmとして設計し、焦点距離を0.3mmとした他は実施例2と同様にして回折型光学部材を作製し、実施例2と同様の測定を行った。その結果、図10に示すように、焦点距離が0.3mmでも、回折型光学部材を搭載しない(ピンホールのみ)場合と比べ、回折型光学部材を搭載した場合の方が、LEDの光が拡散していることがわかった。このように本発明に係る照明装置の一実施態様においては、焦点距離fが、0.3〜0.1mmであることが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
10 凹型レンズ
12 照明装置
13 壁面
16 透明基材
16a、16b、16c、16d 突起体
18 光源(532nmの緑色レーザ)
19 ピンホール
20 看板
21 壁
22 筐体
26 リフレクター
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、点光源の光を大面積の面状強度分布を持つ光に変換するのに好適な凹型レンズおよび光学部材、ならびにこれらを使用した照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザおよび発光ダイオード(LED)などは指向性の高い光源であるため、電球や蛍光灯のように広い配光を有する光度分布を実現できない。このため、LEDなどを電球や蛍光灯に代わる次世代光源として使用するためには、例えばLEDを多数ならべ、光を面状にかつ略均一の強度で広げることが必要である。
【0003】
光源の光を単に広げるためだけには、従来、拡散板や拡散フィルムなどの光拡散素子、あるいは光の屈折を使用した凸レンズ(砲弾型LEDのレンズも含む)や凹レンズ、さらには凸レンズを薄型化したフレネルレンズやキノフォームなどが用いられてきた。
【0004】
しかしながら、上記で取り上げた光学部品は点光源の配光制御を目的とした素子ではないだけでなく、次のような問題がある。すなわち、例えば、拡散板によって光を拡散させると、透過率が悪くなり光の使用効率が悪くなる。また、図11に示したように、凹レンズ2は屈折を使用したレンズであるため、その焦点距離は、基板材料の屈折率と曲率半径とに依存しており、焦点距離を自由に制御することができない。さらに、レンズ形状を薄くすることができないという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の実情に鑑み、LEDなどのように消費エネルギーが少なく、指向性の高い光エネルギーを有効使用して、大面積の表示部を略均一な照度分布で高範囲に照射することのできる凹型レンズおよび光学部材、ならびにこれらを使用した照明装置を提供することを目的としている。
【0006】
本発明者らは、できるだけ多くの光を外部に広げて取り出すために、高い透過性を有し、焦点距離の制御が容易な手法を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る凹型レンズは、光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、同心円状の構造体で、その中心を通る断面が三角形状の構造体を複数形成したことを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る凹型レンズにおいては、前記三角形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に存在することが好ましい。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0009】
さらに、本発明に係る凹型レンズにおいては、前記三角形状の構造体の高さが、すべて下記式(2)で表されることが好ましい。
高さ(μm):h=λ0/(n−1)…(2)
(λ0は任意の数で光源波長(μm)を表し、nは構造体を形成している物質のλ0に対する屈折率を表す。)
【0010】
また、本発明に係る光学部材は、光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、断面が矩形状の構造体を複数形成したことを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体が、同心円状に形成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に1つ以上存在する群であることが好ましい。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0013】
さらに、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体の高さTが、0.4μm≦T≦1.2μmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る光学部材においては、前記矩形状の構造体が、下記条件1)〜5)を満たす構造体の群であることが好ましい。
1)m番目の構造体の群の幅(μm):dm=r(m)−r(m-1)
2)m番目の構造体の幅を任意の数に分割した幅(μm):
gm=dm/xm
(xmはm番目の構造体において、1以上の任意の整数を表す。)
3)m番目の構造体に相当する位置におけるi番目の高さ(μm):
Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)
(Tは前記矩形状の構造体の高さを表し、iは1〜xmの整数を表す。)
4)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体のデューティー比:
tm(i)=1−Tm(i)/T
5)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体の幅:tm(i)・gm
【0015】
このような構成の凹型レンズまたは光学部材であれば、大面積に対する照射光度を略均一にして広げるにあたり、薄型レンズで高い透過性を有し、焦点距離の制御が容易で、コスト的にも安価に形成することができる。
【0016】
また、本発明に係る照明装置は、上記いずれかに記載の凹型レンズまたは光学部材と、光源とから構成されることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る照明装置は、その光源が白色LEDであることが好ましい。
また、本発明に係る照明装置においては、光源波長λ0が、0.555±0.020μmとして設計されていることが好ましい。
また、本発明に係る照明装置においては、焦点距離fが、0.3〜0.1mmであることが好ましい。
【0018】
このような構成の照明装置であれば、例えば、店頭などに載置される看板などの照明装置として有効使用を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、指向性の強い点光源の光を略均一の強度で大面積の面状強度分布を持つ光に変換することができ、焦点距離を構造で制御でき、電子線描画で容易に作製可能である。さらに本発明のレンズ形状の金型を作製し、射出成型が可能になれば、安価に作製可能で、大面積に対する照度を略均一にして照射することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る凹型レンズを使用した照明装置の概略断面図である。
【図2】図2は、その照明装置を店頭の看板などに組み込んで使用する場合の概略断面図である。
【図3】図3は、壁に向かってスリットからレーザ光を照射してどのくらいの広がりを示したかを調べる遠視野像の装置図である。
【図4】図4(A)、(B)、(C)は、それぞれ図1に示した凹型レンズの初期状態と、断面三角形状の凸部を階段状の凸部に近似させた状態と、階段状の凸部をデューティー比に対応して2値化に変換した状態と、を示した説明図である。
【図5】図5(A)、(B)は、例えば図1に示した断面三角形状の凸部を備えた凹型レンズをバイナリ化する前の状態と、バイナリ化した後の状態とを対比して示す説明図である。
【図6】図6は、回折型光学部材の周期位置による突起数の最適化を示す概念図である。
【図7】図7は、1周期あたりの突起体の数N=1の回折型光学部材および構造変調型回折型光学部材のフォトダイオードによる一次回折光強度測定の結果を示す図である。
【図8】図8は、設計上の光源波長を変更した場合のLEDの光の拡散を示す図である。
【図9】図9は、設計上の光源波長を変更した場合に、色度の空間分布測定を行い、色度座標上で、x=0.310,y=0.316からの色度のずれを、標準偏差として示す図である。
【図10】図10は、焦点距離を変更した場合のLEDの光の拡散を示す図である。
【図11】図11は、従来の凹レンズによる光の屈折状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る凹型レンズ10を使用した照明装置12の概略図である。
【0022】
凹型レンズ10は、フレネル型の凹レンズであり、光透過性で平板状に形成された透明基材14の一方面に、高さhが一定である断面三角形状の凸部16a、16b、16c、16d…を半径方向に有している。これら各凸部16a、16b、16c、16d…の三角形の一辺をなす垂直な面13は、径方向の外側に配置される構造となっている。すなわち、三角形の斜面が外側に傾く姿勢となっている。さらに、この凹型レンズ10では、径方向の外側に近づくに従って、凸部間の間隙r1、r2、r3、r4が、所定の割合で小さくなるように設定されている。
【0023】
このように形成された凹型レンズ10と光源18とを組み合わせた照明装置12の場合、光源18から矢印Y方向に光が照射されると、その光は、透明基材14を射出するときに構造の厚い方向に向かって光が回折するため、それぞれy方向に広がって進む。これにより、点状の光源18であっても、大面積を照射することが可能になる。また、このとき、光の回折現象により射出面側では光の強度を略均一にして光の広がりを得ることができる。
【0024】
このような照明装置12は、図2に示したように、例えば、コンビニエンスストアの看板照明などとして使用することができる。
図2に示したように、この看板照明20では、例えば、プラスチック製の筐体22内に、上記の照明装置12が収容されている。そして、この照明装置12では、LEDランプ18から照射された指向性の強い光がリフレクター26によって開口面側に反射され、その光が凹型レンズ10により広範囲に亘って発散されることにより、乳白色の板体28に記載された情報が外方に表示される。
【0025】
このような使い勝手であれば、消費エネルギーが少なく指向性の高いLEDあるいはレーザーエネルギーを有効使用して大面積の表示部を略均一な照度分布で照射することが可能であり、長期間の継続使用においても安価に稼動させることができる。
【0026】
なお、図2に示した照明装置20では、リフレクター26の天板から板体28の下面までの距離Eは6cmで、筐体22の幅Fは20cmである。
このようにLEDランプ18と、光を出射させる照明板28との間隔が近距離であっても、光を外方に向かって略均一に照らすことが可能である。
【0027】
なお、光源は、LEDランプ18、レーザなどに何ら限定されず、有機EL、電球、蛍光灯などであっても同様の効果を奏することができる。
凹型レンズ10を構成する透明基材14は、透明な有機系の高分子であれば特に限定されない。代表的には、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリサルホン樹脂などからなる高分子フィルムで透明性の高いものであれば、何でもよい。また2種以上の樹脂をブレンドして使用することも可能である。これらの樹脂の中で、光学特性や耐熱性の点から環状オレフィン系樹脂が好ましい。
【0028】
凹型レンズ10を看板用の照明装置に用いた場合の効果を調べるため、室内での実験を行った。この実験では、図3に示したように、光源18として光源波長が532nmの単色(緑色)のレーザを用いた。そして、直径1mmのピンホール19から20cm離れた壁21に向かってレーザ光を照射し、幅方向にどの程度の広がりを見せるかの確認を行った。光の広がりSは10cmになることが確認され、照明装置として十分の機能を発揮することが確認された。
以下に、図2に示した看板用の照明装置12として凹型レンズ10を使用する場合に、好ましい態様について、図4を参照しながら説明する。
【0029】
この図4に示した例では、例えば、凹型レンズ10における、例えば、センターに形成された凸部16aを、複数の領域(2,4,6)に分割してそれをバイナリ化して同等品を得るための設計の段階を順番に示している。
【0030】
図4(A)は、本発明の一実施形態による凹型レンズを示したものである。この凹型レンズは、透明基材14の一方面に同心円状の構造体で、その中心を通る断面が三角形状の構造体16a、16b…16mを複数形成している。
【0031】
上記三角形状の構造体は、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に存在している。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0032】
また、図4(A)に示した凹型レンズにおける三角形状の構造体16a、16b…16mの高さhは、下記式(2)で表される高さ(μm)を有している。
高さ(μm):h=λ0/(n−1)…(2)
(nは構造体を形成している物質のλ0に対する屈折率を表す。)
このような輪帯半径と高さとを有する鋸歯状の凹型レンズであれば、指向性の高い光を、射出面側では光の強度を略均一にして光の広がりを得ることができる。
【0033】
したがって、この図4(A)に示した鋸歯状の凹型レンズと、光源18とを組み合わせて照明装置とし、その照明装置を図2に示したような照明看板20に好ましく採用することができる。
【0034】
さらに、本発明では、図4(A)に示した凹型レンズに基づいて図4(C)に示したようなバイナリ型の回折型光学部材を作製し、凹型レンズと同様の機能を持たすことができる。
【0035】
ここで、本発明において、平板状の透明基材14の表面を加工するために、例えば、LSI製造に汎用に用いられるフォトリソグラフィとドライエッチングの技術や紫外線硬化樹脂に金型をプレスして作製する技術が採用されている。
【0036】
フォトリソグラフィとドライエッチングの技術で作製する場合、具体的には、透明基材にフォトレジストをスピンコートし、フォトマスクを介してUV光により露光/現像することで微細構造パターンをフォトレジストに転写する。その上で、ドライエッチングにより位相をラジアンに相当する深さまで基材をエッチングし、基材に微細構造を転写し、最後にレジストを除去することによって、図4(C)に示すように凹凸部を有する断面形状が完成する。
【0037】
なお、図4(A)の凹型レンズから最終的に図4(C)あるいは図5(B)に示したようなバイナリ型の回折型光学部材を作製する場合、以下の条件で行われる。
【0038】
すなわち、さらに、1)〜5)の条件を満たすように設定される。
1)m番目の構造体の群の幅(μm):dm=r(m)−r(m-1)
2)m番目の構造体の幅を任意の数に分割した幅(μm):gm=dm/xm
(xmはm番目の構造体において、1以上の任意の整数を表す。)
3)m番目の構造体に相当する位置におけるi番目の高さ(μm):
Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)
(iは1〜xmの整数を表す。
Tは構造体の高さであり、0.4μm≦T≦1.2μmである。)
4)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体のデューティー比:
tm(i)=1−Tm(i)/T
5)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体の幅:tm(i)・gm
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、
λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【0039】
上記の条件において、凸部16aなどを複数の領域に分割する。分割数は任意であるが、好ましくは、2,4,6…などのように偶数である。
上記の条件を当てはめて、例えば、m番目の構造体の群の幅dmを、4つに分割したときの幅gmは、gm=dm/4である。このときの高さTm(i)は、上記3)より、Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)であるため、
Tm(1)=0
Tm(2)=T/3
Tm(3)=2T/3
Tm(4)=T
となり、中心に向かう構造体(J、K、L、M)の群の高さは、中心に向かうにつれて次第に小さくなり、構造体Mの高さは0である。
【0040】
また、このときのデューティー比は、上記4)より、tm(i)=1−Tm(i)/Tであるため、
tm(1)=1
tm(2)=2/3
tm(3)=1/3
tm(4)=0
となる。
【0041】
なお、上記3)に記載したi番目の高さTm(i)とは、例えば、図4(B)に示したように、突起体の深さWiである。
これにより、図4(C)に示したように、構造体(O,P,Q,R)の各幅は、上記5)より、tm(i)・gmで示されるので、t1、t2、t3と中心に向かうほど狭くなり、t4は幅0である。
【0042】
すなわち、構造体Oの幅を1としたとき、構造体Pは2/3の割合、構造体Qは1/3の割合、構造体Rは零となる。
図5(A),(B)は、このようにして鋸歯状の突起体16a、16b、…16mからバイナリ化を図った例を示している。
【0043】
図5(B)に示されるように、回折型光学部材40では、周期dは、外方に向かうほど短くなる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
図6は、1周期あたりの突起体の数N=2(上記式2)において、xm=4)の回折型光学部材の右半分の構造図である。作製した回折型光学部材50にレーザ光(ダイオード励起緑色固体レーザ、PROPHOTNIX社製、λ=0.532μm)を照射し、その遠視野像と光強度測定とから焦点距離の確認を行った。
【0045】
また、1周期あたりの突起体の数Nと回折光強度との関係を調べるために、それぞれの回折型光学部材のcenter、middle、edge部分の周期構造を有する回折パターンを作製し、一次回折光強度の測定を行った。
【0046】
この結果から、回折型光学部材の中央部分であるcenter構造では、1周期あたりの突起体の数N=4(上記式2)において、xm=6)のとき、回折型光学部材の中間領域であるmiddle構造では、N=2(上記式2)において、xm=4)のとき、回折型光学部材の外側付近であるedge構造では、N=1(上記式2)において、xm=2)のときに、強い一次回折光強度が得られた。
【0047】
この結果から、第1周期目(center構造)をN=4、第2周期〜第36周期目をN=2、第37周期〜第109周期目をN=1として、構造変調型回折型光学部材を作製した。
【0048】
作製した構造変調型回折型光学部材を用いて、フォトダイオードで遠視野像の光強度測定を行った。その結果、図7に示すように、center、middle、edge部分において1周期あたりの突起体の数が異なる構造変調型回折型光学部材を作製することにより、全ての周期においてN=1の回折型光学部材を作製したときに比べて、最も好ましい照度分布を得ることができた。
【0049】
[実施例2]
表面実装タイプLED(GOLDEN DRAGON ULTRA WHITE,LUW W5SM−JZKY−4C8E、OSRAM社製)の発光ピークをLED配光測定器(IMS−5000、朝日分光(株)製)で測定したところ、発光スペクトルは0.380〜0.800μmの間に広がっており、ピークは青色LEDのピーク0.446μmとYAG蛍光体のピーク0.555μmとがあった。
【0050】
光源波長を0.446μm,0.500μm,0.555μm,0.780μmとして設計し、1周期当たりの突起体の数Nを全ての周期でN=1とし、焦点距離を何れも2mmとして、直径1mmの回折型光学部材を作製した。
【0051】
LEDに直径1mmのピンホールを取り付け、上記で作製した回折型光学部材をLED上に搭載し、回折型光学部材から30mm離れたところでフォトダイオードによる光強度分布測定を行った。その結果、図8に示すように、いずれの光源波長で設計した回折型光学部材であっても、回折型光学部材を搭載しない(ピンホールのみ)場合と比べ、回折型光学部材を搭載した場合の方が、LEDの光が拡散していることがわかった。
【0052】
[実施例3]
実施例2のフォトダイオードの代わりに回折型光学部材から0.7mの場所にスクリーンを設置し、スクリーンに投影された像を撮影した。また、色度の空間分布をLED配光測定器(IMS−5000、朝日分光(株)製)で測定を行い、色度座標上で、x=0.310,y=0.316からの色度のずれを、標準偏差として計算した。
【0053】
その結果、光源波長を0.446μmから0.555μmとして設計した回折型光学部材になるにつれて、青色から白色に変化し、光源波長を0.780μmとして設計した回折型光学部材については赤味が増してくることがわかった。また、図9に示すように、光源波長を0.555μmとして設計した回折型光学部材が、広い角度範囲にわたって標準偏差が最も小さくなることがわかった。このように本発明に係る照明装置の一実施態様においては、光源波長λ0が、0.555±0.020μmとして、つまり0.555−0.020μm≦λ0≦0.555+0.020μmとして設計されていることが好ましい。
【0054】
[実施例4]
光源波長を0.555μmとして設計し、焦点距離を0.3mmとした他は実施例2と同様にして回折型光学部材を作製し、実施例2と同様の測定を行った。その結果、図10に示すように、焦点距離が0.3mmでも、回折型光学部材を搭載しない(ピンホールのみ)場合と比べ、回折型光学部材を搭載した場合の方が、LEDの光が拡散していることがわかった。このように本発明に係る照明装置の一実施態様においては、焦点距離fが、0.3〜0.1mmであることが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
10 凹型レンズ
12 照明装置
13 壁面
16 透明基材
16a、16b、16c、16d 突起体
18 光源(532nmの緑色レーザ)
19 ピンホール
20 看板
21 壁
22 筐体
26 リフレクター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、同心円状の構造体で、その中心を通る断面が三角形状の構造体を複数形成したことを特徴とする凹型レンズ。
【請求項2】
前記三角形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に存在することを特徴とする請求項1に記載の凹型レンズ。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【請求項3】
前記三角形状の構造体の高さが、すべて下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の凹型レンズ。
高さ(μm):h=λ0/(n−1)…(2)
(λ0は任意の数で光源波長(μm)を表し、nは構造体を形成している物質のλ0に対する屈折率を表す。)
【請求項4】
光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、断面が矩形状の構造体を複数形成したことを特徴とする光学部材。
【請求項5】
前記矩形状の構造体が、同心円状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の光学部材。
【請求項6】
前記矩形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に1つ以上存在する群であることを特徴とする請求項4または5に記載の光学部材。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【請求項7】
前記矩形状の構造体の高さTが、0.4μm≦T≦1.2μmであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項8】
前記矩形状の構造体が、下記条件1)〜5)を満たす構造体の群であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の光学部材。
1)m番目の構造体の群の幅(μm):dm=r(m)−r(m-1)
2)m番目の構造体の幅を任意の数に分割した幅(μm):
gm=dm/xm
(xmはm番目の構造体において、1以上の任意の整数を表す。)
3)m番目の構造体に相当する位置におけるi番目の高さ(μm):
Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)
(Tは前記矩形状の構造体の高さを表し、iは1〜xmの整数を表す。)
4)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体のデューティー比:
tm(i)=1−Tm(i)/T
5)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体の幅:tm(i)・gm
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の凹型レンズまたは請求項4〜8のいずれか一項に記載の光学部材と、光源とから構成される照明装置。
【請求項10】
前記光源が、白色LEDであることを特徴とする請求項9に記載の照明装置。
【請求項11】
前記凹型レンズまたは前記光学部材における光源波長λ0が、0.555±0.020μmとして設計されていることを特徴とする請求項9に記載の照明装置。
【請求項12】
前記凹型レンズまたは前記光学部材における焦点距離fが、0.3〜0.1mmであることを特徴とする請求項9に記載の照明装置。
【請求項1】
光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、同心円状の構造体で、その中心を通る断面が三角形状の構造体を複数形成したことを特徴とする凹型レンズ。
【請求項2】
前記三角形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に存在することを特徴とする請求項1に記載の凹型レンズ。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【請求項3】
前記三角形状の構造体の高さが、すべて下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の凹型レンズ。
高さ(μm):h=λ0/(n−1)…(2)
(λ0は任意の数で光源波長(μm)を表し、nは構造体を形成している物質のλ0に対する屈折率を表す。)
【請求項4】
光を透過させる透明基材の少なくとも一方の表面に、断面が矩形状の構造体を複数形成したことを特徴とする光学部材。
【請求項5】
前記矩形状の構造体が、同心円状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の光学部材。
【請求項6】
前記矩形状の構造体が、下記式(1)を満たすm番目の輪帯半径と、m−1番目の輪帯半径との間に1つ以上存在する群であることを特徴とする請求項4または5に記載の光学部材。
m番目の輪帯半径(μm):r(m)=(m2λ02+2mλ0f)1/2 …(1)
(mは1以上の任意の整数を表し、fは任意の数で焦点距離(μm)を表し、λ0は任意の数で光源波長(μm)を表す。)
【請求項7】
前記矩形状の構造体の高さTが、0.4μm≦T≦1.2μmであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項8】
前記矩形状の構造体が、下記条件1)〜5)を満たす構造体の群であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の光学部材。
1)m番目の構造体の群の幅(μm):dm=r(m)−r(m-1)
2)m番目の構造体の幅を任意の数に分割した幅(μm):
gm=dm/xm
(xmはm番目の構造体において、1以上の任意の整数を表す。)
3)m番目の構造体に相当する位置におけるi番目の高さ(μm):
Tm(i)={T/(xm−1)}・(i−1)
(Tは前記矩形状の構造体の高さを表し、iは1〜xmの整数を表す。)
4)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体のデューティー比:
tm(i)=1−Tm(i)/T
5)m番目の構造体の群に存在するi番目の構造体の幅:tm(i)・gm
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の凹型レンズまたは請求項4〜8のいずれか一項に記載の光学部材と、光源とから構成される照明装置。
【請求項10】
前記光源が、白色LEDであることを特徴とする請求項9に記載の照明装置。
【請求項11】
前記凹型レンズまたは前記光学部材における光源波長λ0が、0.555±0.020μmとして設計されていることを特徴とする請求項9に記載の照明装置。
【請求項12】
前記凹型レンズまたは前記光学部材における焦点距離fが、0.3〜0.1mmであることを特徴とする請求項9に記載の照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−123371(P2012−123371A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241325(P2011−241325)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
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