説明

出入り足を備えた車輪装置

【課題】本発明は、路面状況の影響を受け易い車輪型移動装置の問題を解消し、バリアフリーな車両として有効な足を出入れさせる車輪の構造と制御技術を提供する。
【解決手段】複数の足5を出入りさせる車輪構造により、整地、不整地、軟弱地、湿地、草地、土面、砂面、床面、雪面、凍結面、のそれぞれに適したグリップ力や接地面積を作り、足5の使用目的を必要に応じて選択的に変更し、さらに、路面の傾斜が途中で変わる場合でも重力センサの出力を使って同じ目的を自動的に果たす移動を確実にした。冬期の圧雪路、凍結路における滑り転倒を恐れて出歩く機会を少なくして憂鬱に陥り易い高齢者や下肢障害者の行動範囲を広げ、車いす利用者の積極的な社会参加を支援する為のバリアフリーな移動装置用車輪の構造と制御を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面状況の影響を受け易い車輪型移動装置の問題点を解消し、バリアフリー化に有効な車輪の構造と制御に関する。実際に、車輪の対地適応能力の向上に有効な足の出入れ機構とその制御に必要な技術を提供する。詳しくは、車輪の使用目的と路面環境に応じた手動制御、あるいはセンサからの重力方向を利用する自動制御により複数の足を車輪枠の適切な方向に出入りさせ、高速走行、段差乗り上げ、砂道での埋没回避、あるいは雪道での滑り防止、等のいずれにも有効な車輪の構造と足の方向制御技術を提供する。
【背景技術】
【0002】
車輪移動装置には連続に回転する、という脚型移動装置にない本質的な特性があり、車輪の軸対称性や軽量化を図り、加速性を改善し高速化に対応できるというメリットがある。しかし、凸凹や段差の多い自然界の山道、砂利道、凍結道路、雪道、人工の階段、等の不整地においてはどんなに低速にしても車輪だけでは進めない限界がある。
【0003】
これまでに、滑り止め用車輪機構や外輪船の水掻羽根機構(非特許文献1、2)、階段昇降用足付き車輪(非特許文献3)、全方向走行用車輪ならびに全方向走行用駆動輪(特許文献1)、車輪装着型スパイク装置(特許文献2)、車輪滑り止め装置(特許文献3)が開発されている。
【0004】
これらは、車輪特有の問題解消に提案された数少ない貴重な技術であるが、いずれも接地面積を増大させる等の特化した機能を達成させることを目的とするため、通常の車輪として使う場合の性能を悪化させる傾向がある。また、路面傾斜角の変化等に対する対地適応性を十分備えているとは言い難い。他に、出没型スパイク車輪、網目車輪、トレッドバンド車輪、ブロックタイヤ、スタッド(レス)タイヤ、テンションホィール、猫足タイヤ、等が開発されているが、グリップ力を高める工夫を車輪の全外周に一様に施すに過ぎず、路面状況の変化に幅広く適応させることはできない。田打車、(ぺルトン)水車、等の特殊用途車もある。
【0005】
本発明者は、これまでに脚型車輪型兼用移動装置(特許文献4)を見出したが、バリアフリーな車いすはないかと思案する中で、車輪型を装置の基本構造とし、これに段差を昇降し、また、路面での滑りを阻止する技術を付加することで車いすの対地適応性を拡げられることを着想するに至った。長い脚を短い足として使うことに大きな効果を見出したことにある。実際に、脚が短くなる分だけその駆動に必要なトルクは減少する。そして、進行方向の車輪外周に足を出して段差や階段等の突端に乗り上げるきっかけを作り、また、路面側車輪外周に足を立てることでグリップ力を増大させ、滑り防止に役立つ。車輪機能の拡大に効果があることを確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48-16303号公報
【特許文献2】特開平08-156540号公報
【特許文献3】特開平07-112605号公報
【特許文献4】特願平2008-62306号公報
【非特許文献1】芦葉清三郎 著、「機械運動機構」技報堂、18頁61-62、1990年
【非特許文献2】岩本太郎、渋谷恒司 著、「可変翼車輪を用いたロボットビークルの構想と機構」日本機械学会論文集、C編71巻701号、pp.171-177、2005年
【非特許文献3】田口幹、佐藤央隆 著「足付き車輪による段差昇降機械の研究」、日本ロボット学会誌、15巻1号、118-123頁、1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多重関節構造による車輪自体の回転とこれとは別に独立して方向を変える複数足の連動法、および複数足のリム周辺への適正配置、形状と車輪径に対する足サイズの最適化、耐横応力、さらには耐環境対策、等が対地適応性やバリアフリー化に重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、車輪に車輪軸と平行な軸により複数の足を軸支し、これら複数の足を車輪軸と同一軸上を経由して車体側から伝達する動力によって揺動、もしくは回転させ、前記足の向きを略同一方向に制御し、車輪外への足の出入れを可能にしたものである。
【0009】
また、本発明は、足方向制御機構を備え、この足方向制御機構は、前記足の使用目的として通常走行、潜り込み防止、段差乗り上げ、滑り防止等を定め、そのいずれかを選択する使用目的の情報とセンサで計測する車体からみる重力方向角の情報により足の方向を自動制御する制御手段を備えることにより車輪に対地適応性をもたせたものである。
【0010】
さらに、本発明は、搭乗者が前記足の使用目的と車体からみる重力方向を総合して足の方向を定め、この足の方向の情報を制御手段に入力することで足の方向をセンサを使わずに手動制御するように構成したものである。
【0011】
指定する方向に短い足の顔を選択的に出す車輪の構造を提案し、車輪型移動装置の対地適応性を飛躍的に向上させる。とくに、車いすを対象とし、着座したままの状態で搭乗者が路面状況に応じて足の使用目的を段差乗り上げ、滑り止め、埋没回避、あるいは待避させて一般の車輪とする選択肢の中から1つを選び、これに適する方向への複数足の出入れ操作を手動、あるいは電動により指令する。車いすは、重力方向からの車体傾斜角を専用の重力方向センサを使って入力し、この情報と足の使用目的を総合して意味のある向きを定め、この方向に足を出し、逆方向においては車輪枠内に隠す。この向きは、手動の場合利用者の判断力により、また、電動(自動)の場合サーボ回路により路面の変化に応じて自動的に更新される。足の方向制御用動力は車輪回転軸を経由して伝達する必要があり、車輪軸を多重軸構造とする。これまで車輪外周に爪を放射状に出す技術はあったが、出す方向を選択的に変えて足の機能と利用効率を高める車輪の構造と制御に関する技術は国の内外に見当たらない。本発明は、このような車輪を開発し、対地適応性の拡大に有効な車輪の機構と制御の設計に有効である。
【発明の効果】
【0012】
足を出入りさせる車輪構造により、整地、不整地、軟弱地、湿地、草地、土面、砂面、床面、雪面、凍結面、のそれぞれに適したグリップ力や接地面積を作りだし、また、足の使用目的を制御装置により必要に応じて変更し、さらに、路面が途中で傾く場合でも重力方向センサの出力を使って同じ目的を自動的に果たす移動を確実にする。これらの技術は、車いすに応用する場合、人の手を借りない段差昇降を容易にする。冬期の圧雪路、凍結路における滑り転倒を恐れて出歩く機会を少なくして憂鬱に陥り易い高齢者や下肢障害者の行動範囲を広げることに貢献する。積極的な社会参加を広く支援する為のバリアフリーな移動装置を提供することにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施例として複数足をもつ車輪構造の説明図である。
【図2】同上、複数足を同方向に連動させるための動力伝達手段を示す側面図である。
【図3】同上、足が出入りする状態を示す斜視図である。
【図4】同上、足が前方の段差に橋をかけて昇降する様子を示す斜視図である。
【図5】同上、伝達動力経路の違いに依り異なる車輪構造を示す車軸面図である。
【図6】本発明の第2実施例を示す足方向制御機構の説明図である。
【図7】同上、足方向制御機構のブロック図である。
【図8】同上、走行状態を示す側面図である。
【図9】同上、他の走行状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、車輪に足を付けてこれを地面に向ける場合、スパイクタイヤやチェインを巻きつけたタイヤ相当のグリップ力を出して滑り防止に、また、進行方向に向ける場合、段差のある障害物や人工道としての階段に橋を渡す作用によって人の手を借りない昇降に、それぞれ大きな効果を表す。足を上方に制御する場合には車輪本来の機能を損なわずに高速走行の目的を果たす。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1〜図5は、車輪リムを8分割する位置に車輪軸と平行な回転軸を固定し、この軸周りに短い足を揺動、あるいは回転可能に軸支する本発明の第1実施例である。
【0017】
本実施例の車輪装置1は、車体たる本体2の前後左右に車輪3を有し、この車輪3のリム部4に複数の足5を出入り自在に設け、それら複数の足5を駆動する駆動機構6を備える。
【0018】
足5の数は、車輪3の半径に依存して増大するが、多いと互いに干渉し、また、少ないと利用効果を低下させ、6〜10個程度が妥当である。単一車輪の耐荷重値を考慮して車輪数を3、4、6、8個にすることは自由であり、図1は片側に2つの動輪を装備する場合の車輪3と足5の駆動機構を示す。しかも左側の前輪と後輪を1つの車輪駆動用モータ11で、また、前輪と後輪の複数足5を別の1つの足駆動用モータ12で連動させる場合を示す。右側も同じモータ、あるいは異なるモータで同様に連動させる。車輪3は車輪軸13により本体2に設けられる。車輪軸13は移動のための車輪動力を伝達するだけでなく足5の向きを制御する動力用筒軸14を重ねて配置する。リム部4に車輪軸13と平行に軸15を回転自在に設け、この軸15にプーリやスプロケット、あるいは歯車などの回転伝達手段を固定する場合、8個の足5はロープやベルト、チェイン、あるいは歯車などの回転伝達部材によりそれぞれ結合されて車輪軸上に送り込まれる動力を受けて同様に運動する。
【0019】
図2は、回転伝達部材であるロープ17を用いて実施例1の複数の足5を連動させる場合のプーリ16へのロープの掛け方を車輪軸方向から見る様子を示す。前記車輪軸13に外装した前記動力用筒軸14に、プーリ16Aを設け、各軸15に前記プーリ16を設けている。図2(a)では、プーリ16Aと1つのプーリ16にロープ17Aを掛装してプーリ16Aの回転をプーリ16に伝達し、全てのプーリ16,16…に1本のロープ17を掛装し、全てのプーリ16,16…を同一方向に回転するように構成している。ロープ17とロープ材17Aの計2本を必要とするが、2つを繋げて1本にすることも可である。図2(b)では、プーリ16Aと、対向する位置のプーリ16,16とに、それぞれロープ材17A,17Aを掛装してプーリ16Aの回転をプーリ16,16に伝達し、隣合う4つプーリ16,16同士にロープ17を掛装し、全てのプーリ16,16…を同一方向に回転するように構成している。ロープ17、17とロープ材17A、17Aの計4本を必要とするが、繋ぎ方次第で1本から8本の間の任意の本数のロープ要素にすることも可である。図2(c)では、1本のロープ17Bを用い、4つのプーリ16,16,16,16に掛装したロープ17Bを中央のプーリ16Aに掛装した後、ロープ17Bを残りの4つのプーリ16,16,16,16に掛装し、全てのプーリ16,16…を同一方向に回転するように構成している。ロープは、17Bの1本であるがこれを2本のロープ要素に分けることも可である。図2(d)では、プーリ16Aと、対向する位置のプーリ16,16とに、それぞれロープ材17A,17Aを襷状に掛装してプーリ16Aの回転を全てのプーリ16,16・・・に伝達している。ロープ材17A、17Aとロープ17、17の計4本を必要とするが、1から8の間の任意の数のロープ要素にすることも可である。図2(e)では、図2(a)の構成に似ているが、プーリ16Aと1つのプーリ16にロープ材17Aを襷状に掛装してプーリ16Aの回転をプーリ16,16・・・に伝達している。1本のロープ材17Aと1本のロープ17の計2本が必要になるが、両者を繋いで1本のロープ要素にすることも可である。図2(f)では、2本のロープ17C,17Cを用い、4つのプーリ16,16,16,16とプーリ16Aに一方のロープ17Cを掛装し、残りの4つのプーリ16,16,16,16とプーリ16Aに一方のロープ17Cを掛装し、4つのプーリ16,16,16,16の両側のプーリ16,16とプーリ16Aとの間にロープ17Cを掛装することにより、全てのプーリ16,16…を同一方向に回転するように構成している。これは、ロープ17C、17Cの2本を必要とするが両者を繋いで1本のロープ17Cにすることも可である。そして、前記回転伝達手段及び回転伝達部材により、足5の駆動伝達機構18を構成している。
【0020】
このように車輪軸13と足5の軸15間を単一のロープで結合するだけでなく、複数のロープを用いて襷掛け、あるいは平行掛けを部分的に混在させて連動させてもよいことは容易に想像できる。要するに、車輪軸13を多重軸構造にして車輪用と足用の動力を別個に伝達し、車輪3の回転の影響なしに複数の足5を常時特定な方向に固定可能にする。図中の足5は常時上方を向き、通常走行を選択して車輪3を使用する場合である。この機構において、足駆動用モータ12を回転させると足5を車輪回転に関係なく前方、後方、斜め下、斜め上、真下、真上、他の方向に変更できる。尚、足5の向きは車体2の前後方向傾斜角に関係なく使用目的に合わせて一定になるように制御する。
【0021】
図3はこのような例として、3つの方向を示す。すなわち、真下、真上、前方を向く足5を(a)、(b)、(c)でそれぞれ示す。車輪3の安全性や耐荷重性を向上させるには同図中の(a')、(b')、(c')のように足5を側板7で被い、2箇所で軸支するのがよい。この側板7の外形は前記車輪3と同一であり、側板7が車輪軸13に固定されて車輪3と一体となって回転する。この外観に着目すれば足5は、図3(a')で下に、図3(b')で上に、図3(c')で前に、それぞれ顔を出し、その他の向きで車輪3と側板7の間に全て隠すことになる。
【0022】
図4は、段差昇降を目的として実施例1の足5を本体2の前方に向けて路面上の障害物101を乗り越える場合を示す。即ち、車輪3を回転した状態で、足5を前向き水平になるように駆動する。実際に、図4中の(a),(b),(c),(d),(e),(f)の順に進み、車輪3による上昇と下降を実現させる。車体2前後の車輪3に装備する足5が同様に振舞うのでどの車輪3も障害物101に妨害されることはない。尚、乗り越え後の平坦な路面では、図4(f)のように、足5を上向きに制御し、車輪3を普通の車輪として用いる。障害物101が車輪3の半径以下の高さであれば不連続な段差への上昇を可能にする。砂利道の場合には路面が高くない凸凹の連続になるが、この場合には足5を前方斜め下に向けることで小石への乗り上げを容易にし、また、砂利下への車輪3の沈みを回避する。足5を真下に向ければ足先が路面に爪を立てるように作用し、凍結面や圧雪面における滑りの発生を制止する。
【0023】
図5は、実施例1における車輪軸構造を示す。ただし、車輪3の回転量と足5の方向角をそれぞれθ,αで表す。多重軸の内側軸と外側軸で伝達する動力の種類の違いにより2つの構造が設計可能であり、前記車輪軸13を前記動力用筒軸14に回転可能に挿入配置している。
【0024】
図5(a)は内側軸である前記車輪軸13で車輪3の回転を、また、外側軸である前記動力用筒軸14で足5の向きを変える。同図において、本体2に動力用筒軸14を回転可能に軸支し、この動力用筒軸14に前記車輪軸13を回転可能に挿入して前記車輪3を回転可能に設け、前記動力用筒軸14から突出した車輪軸13に前記側板7を固着し、この側板7と車輪3とを複数の前記軸15により連結し、これにより、車輪軸13と側板7と車輪3とが一体となって回転し、一方、動力用筒軸14の回転を前記駆動伝達機構18により前記足5に伝達し、複数の足5,5・・・が同一方向を向くように駆動制御する。尚、車輪3はベアリング19により動力用筒軸14に対して回転可能に設けられ、また、前記軸15は図示してないベアリングで車輪3と側板7に軸支される。
【0025】
図5(b)はその逆であり、外側軸である前記動力用筒軸14で車輪3の回転を、また、内側軸である前記車輪軸13で足5の向きを変える。同図において、本体2に前記動力用筒軸14を回転可能に軸支し、この円筒軸14に前記車輪軸13を回転可能に内装し、前記動力用筒軸14に前記車輪3を固着し、前記動力用筒軸14から突出した車輪軸13に前記側板7を回転可能に設け、この側板7と車輪3とを複数の前記軸15により連結し、これにより、車輪軸13と側板7と車輪3とが一体となって回転し、一方、車輪軸13の回転を前記駆動伝達機構18により前記足5に伝達し、複数の足5,5・・・が同一方向を向くように駆動制御する。尚、側板7はベアリング19により車輪軸13に対して回転可能に設けられ、また、前記軸15が図示してないベアリングによって車輪3と側板7に軸支されることは図5(a)と同様である。
【0026】
図5において、足5は、図2で言及したロープ、ワイヤ、ベルト、歯車などの駆動伝達機構18を使って方向角αを実現する。車体側回転駆動軸角度と足5の角度αは、同じとなっているが必ずしも同じである必要はない。足5の回転を減速させて車体2側の駆動力を小さくする設計であってもよい。
【0027】
このように本実施例は、車輪リム部4に車輪軸13と平行に軸支する複数の足5を車輪軸と同一軸上を経由して車体側から伝達する動力によって揺動、もしくは回転させ、足5の向きを略同一方向に制御し、車輪3外への足5の出入れを可能にしたものであり、整地、不整地、軟弱地、湿地、草地、土面、砂面、床面、雪面、凍結面、のそれぞれに適したグリップ力や接地面積を作りだし、各種条件に適した走行移動を可能にした。
【実施例2】
【0028】
図6〜図9は、複数足5の足方向制御機構に関する本発明の第2実施例を示す。足5の向きは、車両の操縦者が路面状況を総合的に判断して指定する場合と、車体である本体2に装備する車体向き検出手段たる重力方向センサ21の出力を用いて車輪3の着地方向を入力し、足5の使用目的を選択的に指定するだけで足5の向きを自動的に定める場合の2つに分けられる。実施例2は操縦者の切換えで手動と自動のいずれの場合にも対応する。
【0029】
足方向制御機構において、足5の向きを指定する情報は角度であり、この角度に関する制御手段たるサーボ回路22を構成する場合、入力する角度相当値に応じて足5を特定の向きに保持させることが可能である。したがって、自動制御として実施例のように本体2にとっての下方を角度ゼロとする入力情報αを増減させることで足5の向きを制御する。実際に、実施例2中、使用目的である滑動防止Vk、前方沈防Vbf、前方段差Vsf、前後走行Vnの電位を指定(増大)することで足5の向きを下方(滑動防止)、斜め下前方(砂利道前進)、前方(段差乗り上げ前進)、上方(通常の前後進)への制御がそれぞれ可能になる。また、使用目的である後方沈防Vbb、後方段差Vsbの電位を指定(減少)することで足5の向きを斜め下後方(砂利道後退)、後方(段差乗り上げ後退)のいずれにも変更できる。しかも、本体2に搭載する重力方向センサ21は実時間で走行中の路面斜角θsを計測するのでこの情報から車輪3の接地方向を検知し、上記の後方、前方、上方を実際に有効な足5の向きに補正できる。
【0030】
具体的に、前方を本体2にとっての真正面方向でなく車輪軸13から見る水平線前方向に、また後方を本体2にとっての真後ろ方向でなく車輪軸13から見る水平線後方に修正できる。上方も本体2にとっての上方でなく車輪軸13から見る鉛直上方に修正できる。すなわち本体2の傾斜に係らず水平に対して足5の向きを設定できる。
【0031】
図7に示すように、重力方向センサ21から本体2の実際の向きの情報θsが入力手段23に入力され、操作者が指定する使用目的の情報θiとを使って自動制御時の信号θi-θsをサーボ回路22に入力し、サーボ回路22はモータ12を制御し、足5を使用目的に対応した向きに自動制御する。尚、モータ12にはポテンショメータ24が結合され、これでモータ12の回転を測定し、その情報θaがサーボ回路22に負帰還され、足5の向きを正確に制御する。
【0032】
一方、手動制御時の場合、希望する足使用目的の足設定角αとして自動制御の場合のθi−θsに相当する入力値θmを搭乗者が直接指定する。例えば、図8は、前方段差の乗り上げを使用目的とする場合を示し、水平線Sに対して、本体2が路面斜角θsだけ傾く上り坂を矢印Fの向きに進行させるための入力値θmを搭乗者が指定することにより、足5が水平で前向きに制御される。尚、足5の向きを下方(滑動防止)に設定する時には足設定角αが0°、斜め下前方(砂利道前進)に設定する時には足設定角αが45°、前方(段差乗り上げ前進)に設定する時には足設定角αが90°、上方(通常の前後進)に設定する時にはαが180°になり、また、足5の向きを斜め下後方(砂利道後退)に設定する時には足設定角αが−45°、後方(段差乗り上げ後退)に設定する時には足設定角αが−90°になる。入力手段は、搭乗者による入力値θmの設定がし易くなる様に重力方向センサ21の検出情報を搭乗者に表示させるようにしてもよい。
【0033】
また、図9に示すように、滑り防止に有効な本体にとっての下方については、路面が傾いても車輪軸13から見る路面方向は変わりないとみなせるので補正は不要である。手動制御は、このような補正不要時にも有効である。
【0034】
このように本実施例では、足方向制御機構を備え、この足方向制御機構は、足5の使用目的として通常走行、潜り込み防止、段差乗り上げ、滑り防止等を定め、使用目的に応じてそのいずれかを選択する情報とセンサたる重力方向センサ21で計測する本体2からみる車体の重力方向角情報、とを用いて足5の方向を自動制御する制御手段たるサーボ回路22を備えるから、路面が途中で傾く場合でも重力方向センサ21の出力を使って指定された目的に適した走行移動が可能となる。
【0035】
また、このように本実施例では、搭乗者が足5の使用目的と車体たる本体2からみる重力方向を総合して足5の方向を定め、この足5の方向の情報を制御手段たるサーボ回路22に入力することで足5の方向をセンサを使わずに手動制御するように構成したから、手動で足5の向きを走行移動に適した向きに設定することができる。
【0036】
本発明は、前記実施例に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、車輪軸や動力用筒軸から足の回転軸に動力を伝達する経路として車輪を支持するスポーク上に中継用のアイドラやテンショナを自由に備えて足の連動性能を向上させることが可能である。また、前輪と後輪の足数を違えたり車輪全てに足を備える必要もない。重力方向センサを使用せず手動のみの足方向制御機構の設計であってもよい。モータを使わず、手動力で足を駆動する場合には、高減速機構を採用することでサーボ回路を組まずに足の方向を直接制御することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 車輪装置
2 本体(車体)
3 車輪
4 リム部
5 足
6 駆動機構
7 側板
11 車輪駆動用モータ
12 足駆動用モータ
13 車輪軸
14 動力用筒軸
15 軸
16 プーリ
17 ロープ
18 動力伝達機構
19 ベアリング
21 重力センサ
22 サーボ回路(制御手段)
θ 車輪回転量
θa 足の実際の方向角
θi 使用目的に応じて定める足の対重力方向角度(電位)
θm 手動で指定する足の方向角
θs 路面斜角
α 指定する足の方向角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に車輪軸と平行な軸により複数の足を軸支し、これら複数の足を車輪軸と同一軸上を経由して車体側から伝達する動力によって揺動、もしくは回転させ、前記足の向きを略同一方向に制御し、車輪外への足の出入れを可能にしたことを特徴とする車輪装置。
【請求項2】
足方向制御機構を備え、この足方向制御機構は、前記足の使用目的として通常走行、潜り込み防止、段差乗り上げ、滑り防止等を定め、そのいずれかを選択する使用目的の情報とセンサで計測する車体からみる重力方向角の情報により足の方向を自動制御する制御手段を備えることにより車輪に対地適応性をもたせたことを特徴とする請求項1記載の車輪装置。
【請求項3】
搭乗者が前記足の使用目的と車体からみる重力方向を総合して足の方向を定め、この足の方向の情報を制御手段に入力することで足の方向をセンサを使わずに手動制御するように構成したことを特徴とする請求項2記載の車輪装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−264923(P2010−264923A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119279(P2009−119279)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)