説明

刃体の刃縁の成形方法

【解決手段】刃体の刃縁11,12,13は、真空処理槽内で陰極側に取り付けた刃体の未処理刃縁5に対し陽極側から不活性ガスであるArを噴出してリアクティブイオンエッチングを施すことにより成形される。所定刃付角θをなす両刃付面6が互いに交差する刃付頂部7からバリ8が突出する未処理刃縁5をリアクティブイオンエッチングにより所定処理時間T1,T2,T3だけ加工して、このバリ8を削り取り、この両刃付面6の一部分を刃付頂部7から所定深さA1,A2,A3だけ削り取って両刃付面6のうち残った部分に刃付面端部6aを形成するとともに、この刃付頂部7から所定深さB1,B2,B3にある刃先頂部15で互いに交差して所定刃先角α,β,γをなす両刃先面14をこの両刃付面端部6aに連続して形成する。
【効果】刃体の刃縁11,12,13を成形するにあたって微細加工性と生産性とに優れた方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は刃体の刃縁を成形する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1では、スパッタリング現象を利用したイオンビーム加工により剃刀の刃先を成形する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第2779453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、イオンビーム加工は、アンダーカットが少ないために微細加工性に優れてはいるものの、加工速度が遅いために生産性に劣る欠点があった。
この発明は、刃体の刃縁を成形するにあたって微細加工性と生産性とに優れた方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
後記実施形態の図面(図1〜2)の符号を援用して本発明を説明する。
請求項1の発明において、刃体4の刃縁11,12,13は、処理槽1内で陰極2側に取り付けた刃体4の未処理刃縁5に対し陽極3側から不活性ガスを噴出して例えばプラズマエッチングなどのリアクティブイオンエッチングを施すことにより成形される。
【0005】
請求項1の発明を前提とする請求項2の発明においては、所定刃付角θ(例えば15度以上40度以下)をなす両刃付面6が互いに交差する刃付頂部7からバリ8が突出する未処理刃縁5をリアクティブイオンエッチングにより所定処理時間T1,T2,T3(例えば30分以上90分以下)だけ加工して、このバリ8を削り取り、この両刃付面6の一部分を刃付頂部7から所定深さA1,A2,A3(例えば1.5μm以上4.5μm以下)だけ削り取って両刃付面6のうち残った部分に刃付面端部6aを形成するとともに、この刃付頂部7から所定深さB1,B2,B3(例えば1μm以上3μm以下)にある刃先頂部15で互いに交差して所定刃先角α,β,γ(例えば40度以上70度以下)をなす両刃先面14をこの両刃付面端部6aに連続して形成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、刃体4の刃縁11,12,13を成形するにあたって微細加工性と生産性とに優れた方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態にかかる刃体の刃縁の成形方法について図1〜2を参照して説明する。
図1(a)に示すように、真空処理槽1内で陰極2の電極盤2aと陽極3の電極盤3aとが相対向して配設され、陰極2の電極盤2a上に複数の刃体4(例えば剃刀用薄刃)が互いに接触して並べられた状態で取り付けられる。この各刃体4の未処理刃縁5は陽極3の電極盤3aに面して上向きで互いに並べられて配置されている。この各未処理刃縁5においては、図2(a)に示すように、研削処理により刃付けされ、所定刃付角θ(約19度)をなす両刃付面6が互いに交差する刃付頂部7からバリ8が突出している。
【0008】
前記真空処理槽1内において前記各未処理刃縁5に対し陽極3側から不活性ガス(Arガス)を噴出して例えばプラズマエッチングなどのリアクティブイオンエッチングを施す。その際、各刃体4の未処理刃縁5の延設長さ、所謂、刃渡りにおいて、それらの合計長さ50mあたり、例えば4〜6Paのうち5Pa及び例えば250〜350wのうち300wの条件下で行う。ただし、その各刃渡りの合計長さが長くなってもそれらの値が比例的に大きくなるものではない。このリアクティブイオンエッチングは、図1(b)に示すように、物理的なスパッタ加工と化学的なプラズマ加工とを合わせたものである。すなわち、不活性ガスを高周波放電あるいはマイクロ波放電することによって生じた活性イオン9による物理的なスパッタリング作用や、活性ラジカル10による化学的作用や、それらの相乗作用により、各未処理刃縁5に対する加工が前記図2(a)の状態から順次図2(b)の状態と図2(c)の状態と図2(d)の状態とを経て進行する。
【0009】
図2(b)の状態では、前記リアクティブイオンエッチングの開始後に所定処理時間T1(例えば約30分)が経過して刃縁11が加工される。この刃縁11においては、図2(a)の状態からバリ8が概ね削り取られ、両刃付面6の一部分が刃付頂部7から所定深さA1(例えば約1.5μm)だけ削り取られて両刃付面6のうち残った部分に刃付面端部6aが形成されるとともに、この刃付頂部7から所定深さB1(例えば約1μm)にある刃先頂部15で互いに交差して所定刃先角α(例えば約40度)をなす両刃先面14がこの両刃付面端部6aに連続して形成される。
【0010】
図2(c)の状態では、前記リアクティブイオンエッチングの開始後に所定処理時間T2(例えば約60分)が経過して刃縁12が加工される。この刃縁12においては、図2(a)の状態からバリ8が削り取られ、両刃付面6の一部分が刃付頂部7から所定深さA2(例えば約3μm)だけ削り取られて両刃付面6のうち残った部分に刃付面端部6aが形成されるとともに、この刃付頂部7から所定深さB2(例えば約2μm)にある刃先頂部15で互いに交差して所定刃先角β(例えば約60度)をなす両刃先面14がこの両刃付面端部6aに連続して形成される。ちなみに、両刃付面端部6a間の厚みは例えば約0.8μmである。
【0011】
図2(d)の状態では、前記リアクティブイオンエッチングの開始後に所定処理時間T3(例えば約90分)が経過して刃縁13が加工される。この刃縁13においては、図2(a)の状態からバリ8が削り取られ、両刃付面6の一部分が刃付頂部7から所定深さA3(例えば約4.5μm)だけ削り取られて両刃付面6のうち残った部分に刃付面端部6aが形成されるとともに、この刃付頂部7から所定深さB3(例えば約3μm)にある刃先頂部15で互いに交差して所定刃先角γ(例えば約70度)をなす両刃先面14がこの両刃付面端部6aに連続して形成される。
【0012】
図2(a)の状態における未処理刃縁5と図2(b)の状態における刃縁11と図2(c)の状態における刃縁12と図2(d)の状態における刃縁13とにそれぞれCrコーティング及びフッ素樹脂コーティングしたものにより、フェルトを同一条件下で切断した場合、切断抵抗については、未処理刃縁5よりも刃縁11が小さくなるとともに、刃縁11よりも刃縁12が小さくなる。しかし、刃縁12と刃縁13とを比較した場合、それらの間で切断抵抗の差はほとんどないか、刃縁13の切断抵抗がかえって大きくなる。従って、図2(c)の状態における刃縁12を採用した。さらに、前記真空処理槽1内においてこの各刃縁12に対し例えば8〜12Paのうち10Pa及び例えば250〜350wのうち300wの条件下でリアクティブイオンエッチングを例えば約10分程度施すと、角(例えば前記両刃付面端部6aや刃先頂部15)に丸みを付けることができ、切断抵抗が小さくなる。なお、刃縁としては、例えば、下地にTiAlとTiAlCrとTiAlCrNとを順次施した強化層に対し、Crコーティングを施し、さらにこのCrコーティングに対しフッ素樹脂コーティングを施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本実施形態にかかる刃体の刃縁の成形方法を実施するための装置を示す原理図であり、(b)は本実施形態にかかるリアクティブイオンエッチングの加工モデルを示す説明図である。
【図2】(a)(b)(c)(d)は刃体の刃縁の成形過程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0014】
1…真空処理槽、2…陰極、3…陽極、4…刃体、5…未処理刃縁、6…刃付面、6a…刃付面端部、7…刃付頂部、8…バリ、11,12,13…刃縁、14…刃先面、15…刃先頂部、T1,T2,T3…処理時間、θ…刃付角、α,β,γ…刃先角、A1,A2,A3…深さ、B1,B2,B3…深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内で陰極側に取り付けた刃体の未処理刃縁に対し陽極側から不活性ガスを噴出してリアクティブイオンエッチングを施すことを特徴とする刃体の刃縁の成形方法。
【請求項2】
所定刃付角をなす両刃付面が互いに交差する刃付頂部からバリが突出する未処理刃縁をリアクティブイオンエッチングにより所定処理時間加工して、このバリを削り取り、この両刃付面の一部分を刃付頂部から所定深さ削り取って両刃付面のうち残った部分に刃付面端部を形成するとともに、この刃付頂部から所定深さにある刃先頂部で互いに交差して所定刃先角をなす両刃先面をこの両刃付面端部に連続して形成することを特徴とする請求項1に記載の刃体の刃縁の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−61212(P2007−61212A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248278(P2005−248278)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000001454)株式会社貝印刃物開発センター (123)
【Fターム(参考)】