説明

分割錠剤

【課題】錠剤の表裏を問わず分割可能であって、正確に等分することができ、十分な錠剤の重量を有し、分割のための押圧時に錠剤に欠けが生じることのない錠剤を提供する。
【解決手段】上記課題を解決すべく、錠剤1の上下両表面の少なくとも片側表面に当該錠剤を少なくとも二つの錠剤片に分割する割線2を有する錠剤であって、各錠剤片がその上下両表面に前記錠剤1の割線2を通る分割面3側から側縁部9a,9b側に向かってそれぞれ所定角度で伸張する傾斜面4a,4b,5a,5bを有し、前記分割面3を挟んで隣り合う二つの錠剤片1a,1bが対を成し、断面逆V字状又は断面V字状の形態を形成して成ることを特徴とする分割錠剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割錠剤、より詳しくは、包装された状態で、包装内での錠剤の表裏に関係なく包装の上から押圧することによって錠剤を少なくとも2分割することができる分割錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤は、特に患者の受容性がよいため、単位用量形態の投与用として製薬工業で広く使用されている。近年では、個々の患者に対する服用量の管理を最適化し、処方の際の融通性を高めるため、錠剤面に1以上の切欠部(割線)を設けることにより、錠剤を均等に少なくとも2分割して服用する分割錠剤が開発されている。
【0003】
この種の錠剤は、錠剤を指で摘んで両手指で内側に力を加えて分割するタイプのもの(例えば特許文献1〜3)と、錠剤を硬質平面に置いて指等で上から押圧することによって分割するタイプのもの(例えば特許文献4〜9)とに大別され、これらの錠剤の包装形態としてはPTP(塩化ビニル/塩化ビニリデン複合シート)包装が採用されている。
【0004】
前者の場合、PTP包装から錠剤を取り出し、該錠剤を両手の指で摘み、しかる後に力を加えて錠剤を分割するという一連の工程が利用者に要求されるので、錠剤を摘み取ることが困難な老人等の患者にとっては取り扱いが困難である。また、分割するために比較的強い力が必要であるといった問題や、分割しようとする際、錠剤が転がって紛失するおそれもあるといった問題がある。加えて、飲みやすさの点から、錠剤は近年小型化の傾向にあり、小型で厚みのある分割錠剤は分割し難いという問題や、医薬品の安定性および苦みのマスキング等の目的でフィルムコーティングを施すと、さらに大きな力が必要となり、錠剤の分割はより困難となるといった問題もある。さらに、錠剤を分割する際、手で錠剤に直接触れた後、服用しなかった分を比較的長時間保存しておく必要があるため、衛生面から好ましくないといった問題がある。
【0005】
後者の分割錠剤は、錠剤がPTP包装された状態のまま分割することができるので、利用者にとって取り扱いが容易であるが、特許文献4〜6のものは、割線が下向きでないと分割が容易でないことから、PTP包装された錠剤の表、裏の向きによって、割線を有する面が硬質平面側となるよう、PTP包装の向きを変える必要があり、不便であるばかりか、錠剤の向きによっては分割時にPTP包装に用いられているアルミ箔を破損する恐れがある他、錠剤の縁部の形状によっては、押圧することによって欠けを生じる恐れがあるという問題がある。
【0006】
他方、特許文献7に記載の分割錠剤は、上下両表面のいずれにも割線を有するため、上記PTP包装に関する分割の問題を回避することができる。しかし、全周にわたって一定幅の側帯部を有する分割錠剤であるため、構造上厚みのある錠剤を製造することは困難である。そうすると所望の錠剤の重量を達成するために錠剤の径を大きくする必要が生じ、その場合、包装するにおいても利用者にとっても不便である。また、硬度が劣ることも懸念され、PTP包装から取り出す際に錠剤が勝手に分割されてしまうおそれがあり、フィルムコーティング操作には不向きであるといった問題が新たに生じる。
【0007】
また、特許文献8に記載の分割錠剤は、上下両表面のそれぞれに大きな溝を有する錠剤であって、当該溝の各底部には見かけ上形成され、かつ当該錠剤の上下両表面それぞれの中央部に沿って、錠剤を2等分する少なくとも1対の互いに平行な割線があり、かかる1対の割線を含む断面に対して左右が対称である。そのため厚みのある錠剤が製造できる。しかし、分割を容易にするために溝を大きく、つまり割線の深さを深くすれば、溝の部分の強度が極めて弱くなり、分割することを意図しないにもかかわらず錠剤が勝手に2分割され易くなるという問題があり、このことからフィルムコーティング操作には不向きであると考えられる。
【0008】
さらに、特許文献9に記載の分割錠剤は、曲面で構成された凸面と、その対向する表面に中心線に沿って形成された割線と、表面の周縁部と前記割線により形成される2つの領域の各々に凸状の曲面とが構成されている。そのため、PTP包装内の錠剤の向きにかかわりなく、すなわち錠剤の包装時に方向規制することなく、包装の上から押圧することで錠剤を分割することができるが、押圧された面と対向する面は、錠剤を置いた硬質平面と点接触もしくは線接触することとなり、分割に際して非常に不安定である。また、このような不安定さのために、押圧する力の向きによっては錠剤が均等に2分割されないおそれがある。
【特許文献1】特開平8−277218号公報
【特許文献2】実開平5−37924号公報
【特許文献3】実開平7−19339号公報
【特許文献4】実公昭40−3680号公報
【特許文献5】特開昭61−289027号公報
【特許文献6】特開平8−53345号公報
【特許文献7】特開平7−179333号公報
【特許文献8】特開平11−1425号公報
【特許文献9】WO99/51207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明は、PTP包装中の錠剤でも、包装外から指等で押圧することによってPTP包装内の錠剤をその表裏を問わず、かつ、欠けを生じることなく均等な二つ以上の錠剤片に分割することができ、分割時にPTP包装を損傷させることがなく、フィルムコーティング等錠剤の製造に通常使用される操作に適した剤形である錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決するため、分割錠剤を、錠剤の上下両表面の少なくとも片側表面に当該錠剤を少なくとも二つの錠剤片に分割する割線を有する錠剤であって、各錠剤片がその上下両表面に前記錠剤の割線を通る分割面側から側縁部側に向かってそれぞれ所定角度で伸張する傾斜面を有し、前記分割面を挟んで隣り合う二つの錠剤片が対を成し、断面逆V字状又は断面V字状の形態を形成するようにしたものである。
【0011】
好ましい態様において本発明の錠剤は、前記対の錠剤片の成す片側表面が、その中央部に前記割線を底又は稜とする断面V字状又は断面逆V字状の割溝を含み、かつ、当該割溝から各錠剤片の側縁部側へ向かって前記分割面と直交方向に伸張して前記傾斜面に連なる水平面を有し、前記対の錠剤片の成す反対側表面が、当該錠剤片対の各錠剤片の側縁部から中央部に向かって前記分割面と直交方向に伸張し前記傾斜面に連なる水平面を有する。
【0012】
より好ましい態様において本発明の錠剤は、前記各錠剤片の片側表面の傾斜面と当該錠剤片の反対側表面の傾斜面とが平行である。
【0013】
より好ましい態様において本発明の錠剤は、前記各錠剤片の傾斜面と前記水平面との為す角が10度以上である。
【0014】
より好ましい態様において本発明の錠剤は、前記対の錠剤片で構成される片側表面の前記割溝を含む水平面の長さが、当該対の錠剤片の反対側表面の各傾斜面の両縁間の長さよりも短い。
【0015】
また、好ましい態様において本発明の錠剤は、前記対の錠剤片で構成される反対側表面が、前記各錠剤片の傾斜面の交叉部に当該対の錠剤片の片側表面の割溝と平行に断面逆V字状又は断面V字状の割溝を含む。
【0016】
さらに好ましい態様において本発明の錠剤は、前記対の錠剤片が、その両側部に当該対の錠剤片の上下両表面の割線の各端を結ぶ線を稜線とする割溝を有する。
【0017】
好ましい態様において本発明の錠剤は、前記対の錠剤片で構成される片側表面が、前記割溝を含む中央部に膨出部を有する。
【0018】
また、好ましい態様において本発明の錠剤は、前記対の錠剤片で構成される反対側表面が、その両側部に膨出部を有する。
【0019】
とりわけ好ましい態様において本発明の錠剤は、前記錠剤が二つの錠剤片に分割可能な錠剤であって、当該対の錠剤片の成す片側表面が、その中央部に当該錠剤を二分割する断面V字状又は断面逆V字状の割溝を含み、該割溝の各縁から前記錠剤の各側縁部方向へ、かつ、前記錠剤を分割する分割面と直交方向に伸張する水平面と、当該水平面の両縁から各側縁部方向へ、かつ、前記各錠剤片の成す反対側表面へ向かって所定角度で伸張する傾斜面とを含んでなり、前記反対側表面が、その中央から各側縁部方向へ、かつ、前記片側表面から離れる方向に所定角度で伸張する傾斜面と、当該各傾斜面の縁から各側縁部方向へ、かつ、前記分割面と直交方向に伸張する水平面とを含んでなる。
【0020】
他の好ましい態様において本発明の錠剤は、前記錠剤が三つまたはそれ以上の錠剤片に分割可能な錠剤であって、当該錠剤の上下各表面に当該錠剤を三つまたはそれ以上の錠剤片に分割する割線を有し、当該割線を通る分割面を挟んで隣り合う二つの錠剤片がそれぞれ対を成し、断面逆V字状又は断面V字状の形態を形成して成る。
【0021】
前記錠剤の形状は通常錠剤に使用されるものであればいかなるものでもよい。例えば円盤状、楕円盤状、矩形状、直方体状または多角盤状等が採用され得るが、これに限るものではない。好ましくは円盤状または楕円盤状あるいは直方体状である。
【0022】
本発明の分割錠剤は、その有効成分に特に制限はなく、錠剤、とりわけ経口投与用分割錠剤の形態で投与されるのが好ましい有効成分であればいかなる有効成分をも採用することができる。
【0023】
本発明の分割錠剤は、その加え得る添加物には特に制限はなく、薬学的に許容される当業者に通常使用される添加物であればいかなる添加物またはそれらの組合せをも採用することができる。例えばかかる添加物の例として、a)乳糖、デキストリン、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、結晶セルロース、デンプンおよび/またはグリシンのような賦形剤;b)二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムまたはカルシウム塩のような滑沢剤;c)ケイ酸マグネシウムアルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびまたはポビドンのような結合剤;d)クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、寒天、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩、または部分α化デンプンのような崩壊剤;および/またはe)吸収剤、着色剤、香味剤および甘味剤等が含まれ得る。
【0024】
本発明の分割錠剤は、任意の方法で製造できるが、通常、有効成分、賦形剤および必要に応じて添加物を配合して調製した組成物を造粒して顆粒とし、該顆粒を打錠して素錠を得る方法が採用される。なお、造粒法としては、乾式法および湿式法があるが、何れの方法を採用してもよい。
【0025】
前記素錠は、そのままでも使用できるが、光や湿度等による影響を軽減したり服用を容易にするため、コーティングを施してもよい。コーティングには糖衣、フィルムコーティング等が含まれ、特にフィルムコーティングが好ましい。コーティング材料としては、医薬製剤に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、カルボキシビニルポリマー、プルラン、ポビドン、ステアリルアルコール、セタノール、セラック、トリアセチン、マクロゴール、ポリソルベート80などが挙げられる。素錠にコーティングを施すと、光や湿度など環境に対して安定で、変質や変色等が無いか少ない製剤とすることができ、また、苦味等が被覆されて服用し易い製剤とすることができる。一般にフィルムコーティングを施すときにツウィニング(錠剤のひっつき)等の障害が起こり得るが、本発明の分割錠剤においては、その特異な形状のためツウィニングの発生を減少させ得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、例えばサイズの大小を問わず、また、表裏の上下を問わず、上から指等で押圧するだけで容易に分割することができる錠剤が得られる。本発明の錠剤は、PTP包装内でいずれの面が上であるかにかかわらず常に片側表面の一部が硬質平面と面接触するため、押圧時に錠剤を分割する位置および方向が安定し、したがって分割が極めて正確に行われ、また、押圧時に欠けを生じることがなく、PTP包装を損傷させることもない。分割された各錠剤片は、PTP包装から指等で押圧することによって別個に取り出すことが可能である。例えば利用者が片方の錠剤片のみを服用し、もう一方の錠剤片をそれより後の時点で服用することを意図するとき、一方の錠剤片を前記方法によってPTP包装から取り出した後、もう一方の錠剤片をPTP包装内に残したままPTP包装シートを錠剤収納本体内側に折り曲げることで、錠剤の簡易な保存が可能である。
【0027】
また本発明の錠剤は、錠剤の厚みを薄くして割れやすさを獲得したものではないので、本発明の錠剤と同様の分割の容易さを得るために割線を両表面に有する錠剤と比較して、錠剤の重量を重くすることができる。これは、利用者が一度に服用すべき薬剤の個数を減ずることができ、利用者にとって便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る分割錠剤の実施形態について添付の図面を参照して説明する。なお、便宜上、図の上側の面を錠剤の表側表面とし、図の下側の面を裏側表面として説明するが、これらの称呼は相対的なものであり、任意の面を表側とすることができる。
【0029】
図1〜3は本発明の一実施形態に係る分割錠剤を示す。この錠剤1は、図1に示すように、その表側表面の中央部に当該錠剤を二つの錠剤片に分割する割線2を有する楕円板状の形態を有し、必要時に、割線2を垂直方向に通る平面3で二つの錠剤片1a,1bに分割して使用される。
【0030】
錠剤1を構成する二つの錠剤片1a,1bは対を成し、図3に示すように、割線2を垂直方向に通る平面(分割面)3について面対称であって、各錠剤片1a,1bは、その上下両表面に錠剤の中央部側から側縁部9a,9b側へそれぞれ所定角度で伸張する傾斜面(4a,4b,5a,5b)を有し、錠剤全体として断面逆V字状の形態を構成している。より具体的には、錠剤1の表側表面は、その中央部に錠剤を二分する断面V字状の割溝2を形成されており、当該割溝2の各上縁から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって、かつ、分割面3と直交方向に伸張する水平面6a,6bと、各水平面6a,6bの各縁から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって、かつ、各錠剤片の裏側表面に向かって所定角度で伸張する傾斜面4a,4bとで構成されている。他方、錠剤の裏側表面は、表側表面の割線2と平行な中央線8から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって、かつ、各錠剤片の表側表面から離れる方向に所定角度で伸張する傾斜面5a,5b(したがって、中央線8は傾斜面5a,5bが交叉する稜線である)と、各傾斜面5a,5bの外縁から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって分割面3と直交方向に伸張する水平面7a,7bとで構成されている。また、錠剤の表面は、コーティング層10で被覆されている。
【0031】
各錠剤片の上下各表面を構成する傾斜面と水平面との成す角度θ1,θは、錠剤の大きさに応じて10〜45度、好ましくは、12〜25度の範囲内の値に設定されるが、これは、前記角度θ1,θが10度未満では押圧しても分割が困難であり、45度を超えると、錠剤の高さが長径や短径よりも大きくなり過ぎて分割が困難となるからである。
【0032】
また、表側表面及び裏側表面に於ける錠剤の分割面又は側縁部から水平面の端までの長さL,Lは、通常、側縁部又は分割面から傾斜面の端までの長さL,Lよりも短くなるように、より具体的には、錠剤の分割面と側縁部間の長さLの1/2以下、好ましくは1/10以上1/3以下に設定される。これは、前記水平面の長さL,Lが1/2を超えると、錠剤の裏側表面を下にして錠剤の表側表面に力を加えた場合或いは錠剤の表側表面を下にして錠剤の裏側表面に力を加えた場合、錠剤に加えた力が硬質面に包装材を介して接する錠剤の水平面に直接作用するため分割が困難となるからである。
【0033】
本発明の前記錠剤を服用する際、例えば、図4に示すように、錠剤をその表側表面を上にして硬質面100に載せて押圧すると、錠剤が裏側表面の両端側にある水平面7a,7bで硬質面に接しているため、表側表面に加わった力Fは、裏側表面にある二つの傾斜面5a,5bと平行な二方向に分力されるが、当該二つの傾斜面の交叉する線8上の点に作用する力を考慮した場合、その力は水平方向に作用する分力Fが垂直方向に作用する分力Fよりも大きいため、表側表面の押圧力が錠剤の機械的強度を超えて大きくなると、前記二つの傾斜面5a,5bの交叉する線8に沿って亀裂が入り、分割される。この時、表側表面のV字状割溝2の存在により当該割溝2と前記交叉する線8とを結ぶ平面3に沿う部分の強度が他の部分に比べて弱いため、前記平面3に沿って略均等に二分される。これは、錠剤がPTP包装内で表側表面をPTP包装の可視面側に向けて収容されている場合にも当てはまる。
【0034】
他方、図5に示すように、錠剤をその裏側表面を上にして硬質面100に載せて押圧した場合、錠剤が表側表面の中央部にある水平面6a,6bで硬質平面に接しているため、裏側表面に加わった力Fは、表側表面の水平面6a,6bが支点として作用することによって表側表面にある二つの傾斜面4a,4bと垂直な二方向に分力されるが、裏側表面にある二つの傾斜面の交叉する線8上の点に作用する力を考慮した場合、その力は水平方向に作用する分力Fが垂直方向に作用する分力Fよりも大きいため、裏側表面の押圧力が錠剤の機械的強度を超えて大きくなると、前記二つの傾斜面の交叉する線8に沿って亀裂が入り、分割される(図5参照)。
【0035】
いずれの面から錠剤を押圧するにせよ、上記のとおり、硬質平面と錠剤が接するのは常に水平面であるので、押圧時に錠剤に欠けを生じさせず、PTP包装を損傷させることもない。また、押圧力のうち垂直方向に作用する分力が常に水平面に対してかかるので、錠剤が安定し、したがって錠剤が略均等に二分割される。硬質平面と接する錠剤の面が曲面である場合、押圧力を鉛直に作用させても面に加わる力が左右または前後方向に均等に加わるとは保証されないので、錠剤が傾き、分割される位置または方向が定まらず、したがって錠剤は均等に分割されない。
【0036】
図6および7は本発明のより好ましい実施形態に係る分割錠剤を示す。この錠剤1は、図7に示すように、その表側表面および裏側表面の中央部に当該錠剤を二つの錠剤片に分割する割線2a,2bを有する楕円板状の形態を有し、必要時に、割線2を垂直方向に通る平面3で二つの錠剤片1a,1bに分割して使用される。
【0037】
錠剤1を構成する二つの錠剤片1a,1bは対を成し、図7に示すように、割線2を垂直方向に通る平面(分割面)3について面対称であって、各錠剤片1a,1bは、その上下両表面に錠剤の中央部側から側縁部9a,9b側へそれぞれ所定角度で伸張する傾斜面(4a,4b,5a,5b)を有し、錠剤全体として断面逆V字状の形態を構成している。より具体的には、錠剤1の表側表面は、その中央部に錠剤を二分する断面V字状の割溝2aを形成されており、当該割溝2aの各上縁から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって、かつ、分割面3と直交方向に伸張する水平面6a,6bと、各水平面6a,6bの各縁から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって、かつ、各錠剤片の裏側表面に向かって所定角度で伸張する傾斜面4a,4bとで構成されている。他方、錠剤の裏側表面は、中央線8に沿って、かつ、表側表面に形成された割線2aと平行に、錠剤を二分する断面逆V字状の割溝2bを形成されており、当該割溝2bの各下縁から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって、かつ、各錠剤片の表側表面から離れる方向に所定角度で伸張する傾斜面5a,5bと、各傾斜面5a,5bの外縁から各錠剤片1a,1bの側縁部9a,9b側に向かって分割面3と直交方向に伸張する水平面7a,7bとで構成されている。また、錠剤の表面は、コーティング層10で被覆されている。
【0038】
表側表面および裏側表面の両方に割溝を形成された錠剤では、分割面に沿って2つの割溝が形成されているため、分割面における錠剤の厚みが他の部分における錠剤の厚みよりも薄い。従って分割面の機械的強度が錠剤の他の部分の機械的強度よりも顕著に低くなるため、錠剤を分割するとき、上記本発明の一実施形態に係る分割錠剤と比較して、より小さな力で錠剤を分割することができ、また、より均等に分割されやすい。
【0039】
図8および9は本発明の他の実施態様に係る分割錠剤を示す。この錠剤は、三つの錠剤片1a,1b,1cに分割可能な錠剤であって、錠剤片1a,1bおよび錠剤片1b,1cはそれぞれ互いに対を成し、断面逆V字状および断面V字状の形態を形成し、錠剤の表側表面は、当該錠剤を錠剤片1aと錠剤片1b,1cとに分割する割線2aを有し、その裏側表面は、当該表面を錠剤片1cと錠剤片1a,1bとに分割する割線2bを有する、平板状形態を有している。
【0040】
錠剤を構成する錠剤片1a,1bおよび錠剤片1b,1cはそれぞれ対を成し、したがって、錠剤片1bは錠剤片1aおよび1cのいずれとも対をなす。錠剤片1a,1bおよび錠剤片1b,1cはそれぞれ割線2a,2bを垂直方向に通る平面(分割面)3a,3bについて面対称であって、各錠剤片1a,1b,1cは、その上下両表面に錠剤の分割面3a側から側縁部9a側および分割面3b側へ、ならびに分割面3b側から側縁部9b側へそれぞれ所定角度で伸長する傾斜面を有し、錠剤全体として断面逆S字状の形態を構成している。
【0041】
より具体的には、錠剤の表側表面は、当該表面と分割面3aとが交わる線に沿って錠剤を1/3分割する断面V字状の割溝2aを形成されており、当該割溝2aの各上縁から錠剤片1aの側縁部9a側および分割面3b側に向かって、かつ、分割面3aと直交方向に伸長する水平面6a,6bと、各水平面6a,6bの外縁から錠剤片1aの側縁部9a側および分割面3b側に向かって、かつ、各錠剤片の裏側表面に向かって所定角度で伸長する傾斜面4a,4bと、表側表面と分割面3bとが交わる線8bから錠剤片1cの側縁部9b側に向かって、かつ、該錠剤片の裏側表面から離れる方向に所定角度で伸長する傾斜面4c(したがって、線8bは傾斜面4b,4cが交叉する谷線である)と、当該傾斜面4cの外縁から該錠剤片1cの側縁部9b側に向かって、かつ、分割面3bと直交方向に伸長する水平面6cとで構成されている。他方、錠剤の裏側表面は、当該表面と分割面3bとが交わる線に沿って錠剤を1/3分割する断面逆V字状の割溝2bを形成されており、当該割溝2bの各上縁から錠剤片1cの側縁部9b側および分割面3a側に向かって、かつ、分割面3bと直交方向に伸長する水平面7c,7bと、各水平面7c,7bの外縁から錠剤片1cの側縁部9b側および分割面3a側に向かって、かつ、各錠剤片1c,1bの表側表面に向かって所定角度で伸長する傾斜面5c,5bと、当該表面と分割面3aとが交わる線8aから錠剤片1aの側縁部9a側に向かって、かつ、当該錠剤片の表側表面から離れる方向に所定角度で伸長する傾斜面5a(したがって、線8aは傾斜面5a,5bが交叉する稜線である)と、傾斜面5aの外縁から錠剤片1aの側縁部9a側に向かって、かつ、分割面3aと直交方向に伸長する水平面7aとで構成されている。また、錠剤の表面はコーティング層10で被覆されている。
【0042】
本発明の前記三つの錠剤片に分割可能な錠剤を服用する際、例えば、対をなす二つの錠剤片のみを押圧することで、前記二分割可能な錠剤と全く同じ作用機序にしたがって、一つの錠剤片ともう一方の対を成す二つの錠剤片とに分割される。このとき押圧される錠剤の表裏を問わないことは上述のとおりである。このような形態の錠剤は、例えば、一つの錠剤片を朝、昼、晩の三度服用しなければならない患者、あるいはそのような形態での服用が望まれる有効成分を含む錠剤の製造にとって、便利である。
【0043】
本発明の錠剤を説明するために以下に実施例を記載するが、例示的な説明のために記載するのであって、これに本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
結晶セルロース67重量部、乳糖30重量部、カルメロースカルシウム2重量部及びステアリン酸マグネシウム1重量部からなる混合粉末を、1錠の重量を150mgに設定してロータリー式打錠機(PICCOLA(登録商標)D8 株式会社 奈良機械製作所製)で打錠し、図1に示す楕円形状の素錠(長径9mm、短径5.5mm、厚さ3mm、上下両水平面の長さLおよびL:1.5mm(長径半径Lの1/3)、上下両表面の傾斜面の角度θおよびθ:15°、V字状割溝の開口幅0.4mm,深さ0.23mm)を得た。なお、打錠圧力は、素錠の分割線を垂直にしてモンサント硬度計で測定したとき、素錠の硬度が10.0〜11.0kg/cmとなるように調整した。次いで、得られた素錠に対し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(信越化学(株)製TC−5R(商品名))7重量部、マクロゴール(6000)2重量部および酸化チタン3重量部を、水と無水エタノール1:1の混合溶液88重量部で溶解したフィルムコーティング液を使用して1錠あたり5mgのフィルムコーティングを行い、錠剤を得た。
【比較例】
【0045】
実施例のものと同じ原料及び組成の混合粉末を用い、実施例と同様に打錠し、上下両表面が平坦で、平面形状が長径9mm、短径5.5mmの楕円形であって、片側表面にのみV字状割溝(開口幅0.4mm,深さ0.23mm)を有する重量150mgの素錠を得、これに実施例と同様にして1錠あたり5mgのフィルムコーティングを行い、錠剤を得た。
【0046】
実施例および比較例の各錠剤について、モンサント硬度計を用いて分割線を垂直にして錠剤硬度を測定する一方、(株)サン科学製レオメーターCR−200Dを用いて、錠剤の表裏各面から錠剤面に垂直に力を加えて錠剤が分割する時点の圧力を測定した。また、これとは別に、実施例および比較例で得た各錠剤を、厚み0.2mmの塩化ビニルおよび厚み0.02mmのアルミ箔を用いてPTP包装を行い、表側表面を上にしたものと裏側表面を上にした試料を得、PTP包装の上から前記方法により錠剤が分割する時点の圧力を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

数値はそれぞれ錠剤5個の平均値である。
【0047】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の実施例に係る錠剤と比較例のものでは、の硬度がほぼ等しい錠剤であっても、その分割のし易さには顕著な差が見られる。比較例の錠剤の分割にはレオメーターによって測定できる範囲を超える圧力を必要とするが、本発明の錠剤は、その表裏を問わず、指等による押圧によって容易に分割し得ることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施例に係る錠剤の斜視図
【図2】図1に示す錠剤の平面図
【図3】図1に示す錠剤のA−A線に於ける断面図
【図4】図1に示す本発明の錠剤を、その表側表面を上にして押圧したときの力の加わる方向を示す図
【図5】図1に示す本発明の錠剤を、その裏側表面を上にして押圧したときの力の加わる方向を示す図
【図6】本発明のより好ましい実施形態に係る錠剤の斜視図
【図7】図6に示す錠剤の断面図
【図8】本発明の他の実施例に係る錠剤の斜視図
【図9】図8に示す錠剤の断面図
【符号の説明】
【0049】
1:錠剤
1a、1b、1c:錠剤片
2、2a、2b:割溝
3、3a、3b:分割面
4a、4b、4c:表側表面の傾斜面
5a、5b、5c:裏側表面の傾斜面
6a、6b、6c:表側表面の水平面
7a、7b、7c:裏側表面の水平面
8、8a、8b:傾斜面4または5が対を成して形成される谷または稜線
9a、9b:側縁部
10:コーティング層
100:硬質平面
θ:表側表面における水平面と傾斜面とが成す角度
θ:裏側表面における水平面と傾斜面とが成す角度
:分割面と側縁部間の長さ
:表側表面における分割面から水平面の端までの長さ
:表側表面における側縁部から傾斜面の端までの長さ
:裏側表面における側縁部から水平面の端までの長さ
:裏側表面における分割面から傾斜面の端までの長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤の上下両表面の少なくとも片側表面に当該錠剤を少なくとも二つの錠剤片に分割する割線を有する錠剤であって、各錠剤片がその上下両表面に前記錠剤の割線を通る分割面側から側縁部側に向かってそれぞれ所定角度で伸張する傾斜面を有し、前記分割面を挟んで隣り合う二つの錠剤片が対を成し、断面逆V字状又は断面V字状の形態を形成して成ることを特徴とする分割錠剤。
【請求項2】
前記対の錠剤片の成す片側表面が、その中央部に前記割線を底又は稜とする断面V字状又は断面逆V字状の割溝を含み、かつ、当該割溝から各錠剤片の側縁部側へ向かって前記分割面と直交方向に伸張して前記傾斜面に連なる水平面を有し、前記対の錠剤片の成す反対側表面が、当該錠剤片対の各錠剤片の側縁部から中央部に向かって前記分割面と直交方向に伸張し前記傾斜面に連なる水平面を有することを特徴とする請求項1に記載の分割錠剤。
【請求項3】
前記各錠剤片の片側表面の傾斜面と当該錠剤片の反対側表面の傾斜面とが平行である請求項1又は2に記載の分割錠剤。
【請求項4】
前記各錠剤片の傾斜面と前記水平面との為す角が10度以上である請求項2又は3に記載の分割錠剤。
【請求項5】
前記対の錠剤片で構成される片側表面の前記割溝を含む水平面の長さが、当該対の錠剤片の反対側表面の各傾斜面の両縁間の長さよりも短い請求項2〜4のいずれか一に記載の分割錠剤。
【請求項6】
前記対の錠剤片で構成される反対側表面が、前記各錠剤片の傾斜面の交叉部に当該対の錠剤片の片側表面の割溝と平行に断面逆V字状又は断面V字状の割溝を含む請求項1〜5のいずれか一に記載の分割錠剤。
【請求項7】
前記対の錠剤片が、その両側部に当該対の錠剤片の上下両表面の割線の各端を結ぶ線を稜線とする割溝を有する請求項5に記載の分割錠剤。
【請求項8】
前記対の錠剤片で構成される片側表面が、前記割溝を含む中央部に膨出部を有する請求項1〜7のいずれか一に記載の分割錠剤。
【請求項9】
前記対の錠剤片で構成される反対側表面が、その両側部に膨出部を有する請求項1〜8のいずれか一に記載の分割錠剤。
【請求項10】
前記錠剤が二つの錠剤片に分割可能な錠剤であって、当該対の錠剤片の成す片側表面が、その中央部に当該錠剤を二分割する断面V字状又は断面逆V字状の割溝を含み、該割溝の各縁から前記錠剤の各側縁部方向へ、かつ、前記錠剤を分割する分割面と直交方向に伸張する水平面と、当該水平面の両縁から各側縁部方向へ、かつ、前記各錠剤片の成す反対側表面へ向かって所定角度で伸張する傾斜面とを含んでなり、前記反対側表面が、その中央から各側縁部方向へ、かつ、前記片側表面から離れる方向に所定角度で伸張する傾斜面と、当該各傾斜面の縁から各側縁部方向へ、かつ、前記分割面と直交方向に伸張する水平面とを含んでなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一に記載の分割錠剤。
【請求項11】
前記錠剤が三つの錠剤片に分割可能な錠剤であって、当該錠剤の上下各表面に当該錠剤を三つの錠剤片に分割する割線を有し、当該割線を通る分割面を挟んで隣り合う二つの錠剤片がそれぞれ対を成し、断面逆V字状又は断面V字状の形態を形成して成る請求項1〜9のいずれか一に記載の分割錠剤。
【請求項12】
前記錠剤が円形錠剤、楕円錠剤、不完全円形錠剤、不完全楕円形錠剤、矩形錠又は多角形錠剤である請求項1〜11のいずれか一に記載の分割錠剤。
【請求項13】
前記錠剤がその表面にフィルムコーティングを施されてなる請求項1〜12のいずれか一に記載の分割錠剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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