説明

分化細胞由来多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアの選択方法、その選択方法によって選択されたクローン、及びそのクローンの使用方法

in vivoにおいて腫瘍形成リスクが低いか、リスクの無いiPS由来神経幹細胞を効率よく樹立することにより、副作用が少ないか、副作用が無い、iPS由来神経幹細胞を含有する神経損傷治療剤を提供するために、iPS細胞からEmbryoid Bodyを経てニューロスフェアを形成させ、二次ニューロスフェアにおいて約0.01%未満の細胞でNanog遺伝子プロモーターが活性化しているクローンを選択し、選択されたクローンを、神経損傷を有する患者に投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分化細胞由来多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアの選択方法、その選択方法によって選択されたクローン、及びそのクローンの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、及びc-myc遺伝子を導入し発現させた、繊維芽細胞等の体細胞から、Fbx15遺伝子を発現する細胞を選択することにより、胚性幹細胞(以下、ES細胞とも称する)に似た多分化能(pluripotency)を有する細胞を得ることができるようになった(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)。再生医療において、このようにして得られる体細胞由来の多能性幹細胞を用いれば、患者自身の細胞を移植することができるようになるために、ES細胞が用いられる場合より拒絶の問題を最小限になるだろうと考えられている。
【0003】
Fbx15遺伝子の発現を指標に作製された誘導多能性幹細胞(以下、iPS細胞とも称する)は、細胞形態や増殖能、分化能力などの性状においてES細胞と極めて良く似ていたが、遺伝子の発現パターンや、DNAメチル化のパターンなどの性状では、ES細胞と異なる部分もあった。そこで、Nanog遺伝子の発現を指標にして細胞を選択したところ、さらにES細胞に類似した多分化能を持ったiPS細胞が樹立された(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
その後、Fbx15遺伝子やNanog遺伝子の発現を指標とせず、細胞の形態を指標としてiPS細胞が単離されたり(例えば、非特許文献3参照)、c-mycの代わりにN-mycを用いてiPS細胞が樹立されたりするようになった(例えば、非特許文献4参照)。また、繊維芽細胞以外にも、肝臓細胞や胃の上皮細胞から、iPS細胞が樹立された(例えば、非特許文献5参照)。
【0005】
一方、ヒトの細胞を用いたiPS細胞の研究も盛んに行われた。Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Nanog遺伝子、lin28遺伝子の4遺伝子を繊維芽細胞に導入することによって、ヒトiPS細胞が樹立された(例えば、非特許文献6参照)。ヒトiPS細胞はまた、マウスiPS細胞樹立で使用された際と同じ組み合わせの遺伝子であるOct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、及びc-myc遺伝子を、繊維芽細胞や繊維芽様滑膜細胞に導入することにより樹立された(例えば、非特許文献7参照)。
【0006】
このようにして得られたiPS細胞は、再生医学の領域において、iPS細胞は治療対象となる患者由来の細胞を用いて作製することができるため、拒絶反応のない人工臓器等の作製が期待されている。しかしながら、iPS細胞のin vivoでの挙動は、iPS細胞がES細胞と全く同じ性質を有する細胞ではないことを示唆する。例えば、iPS細胞を用いてキメラマウスを作製したところ、約20%の個体において腫瘍形成が観察された。これはES細胞を用いた同様の実験よりも有意に高い数値である。
【0007】
この腫瘍形成リスクが高いという問題を解決するため、マウスおよびヒトにおいて、c-myc遺伝子を用いずにOct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子の3つの遺伝子を導入することによりiPS細胞が樹立され、キメラマウスにおける腫瘍形成リスクを抑制することができた(例えば、非特許文献8及び9参照)。しかしながら、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子の3つの遺伝子を導入することによるiPS細胞の樹立は、4つの遺伝子を用いる場合に比べ、iPS細胞樹立の効率が低い(例えば、非特許文献8及び9参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Takahashi K, Yamanaka S. (2006). “Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors.”. Cell 126: 663-676.
【非特許文献2】Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S. (2007). “Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells.”. Nature 448: 313-317
【非特許文献3】Meissner A, Wernig M, Jaenisch R. (2007). “Direct reprogramming of genetically unmodified fibroblasts into pluripotent stem cells.”. Nat Biotechnol 25: 1177-1181
【非特許文献4】Blelloch R, Venere M, Yen J, Ramalho-Santos M. (2007). “Generation of induced pluripotent stem cells in the absence of drug selection”. Cell Stem Cell 1: 245-247
【非特許文献5】Aoi T, Nakagawa M, Ichisaka T, Okita K, Takahashi K, Chiba T, Yamanaka S. (2008). “Generation of pluripotent stem cells from adult mouse liver and stomach cells.”. Science (February 14, 2008)(published on line)
【非特許文献6】Yu J, Vodyanik MA, Smuga-Otto K, Antosiewicz-Bourget J, Frane JL, Tian S, Nie J, Jonsdottir GA, Ruotti V, Stewart R, Slukvin II, Thomson JA. (2007). “Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells”. Science 318: 1917-1920.
【非特許文献7】Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. (2007). “Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors.”. Cell 131: 861-872.
【非特許文献8】Nakagawa M, Koyanagi M, Tanabe K, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Okita K, Mochiduki Y, Takizawa N, Yamanaka S. (2008). “Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts”. Nat Biotechnol 26: 101-106.
【非特許文献9】Wering M, Meissner A, Cassady JP, Jaenisch R. (2008). “c-Myc is dispensable for direct reprogramming of mouse fibroblasts”. Cell Stem Cell 2: 10-12.
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2007/069666国際公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、in vivoにおいて移植後に腫瘍リスクが低いか、又はリスクが無い、分化細胞由来多能性幹細胞に由来する二次ニューロスフェアを効率よく判別し、選択する方法、それによって選択されたクローン、及びそのクローンの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施態様において、分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアから、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い二次ニューロスフェアを選択するための方法は、各二次ニューロスフェアにおいて、Nanog遺伝子のプロモーター活性を調べる工程とNanog遺伝子のプロモーター活性が抑制された二次ニューロスフェアを選択する工程を含有する。
【0012】
本発明の他の実施態様において、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い二次ニューロスフェアを調製するための方法は、
(1)分化細胞由来誘導多能性幹細胞を用いて、二次ニューロスフェアを調製する工程
(2)各二次ニューロスフェアにおいて、Nanog遺伝子のプロモーター活性を調べる工程
(3)Nanog遺伝子のプロモーター活性が抑制された二次ニューロスフェアを選択し、単離する工程
を含有する。移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い二次ニューロスフェアは、前記いずれの選択方法によって選択されてもよい。
【0013】
前記いずれの方法においても、当該二次ニューロスフェアが、Nanog遺伝子のプロモーターによって発現制御されるマーカー遺伝子を有してもよく、二次ニューロスフェアの選択において当該マーカー遺伝子の発現を調べてもよい。ここで、当該マーカー遺伝子が、蛍光タンパク質、発光タンパク質または酵素をコードすることが好ましい。また、マーカー遺伝子の代わりに、内在性Nanog遺伝子の発現を検出してもよい。
【0014】
前記いずれかの方法において、Nanog遺伝子のプロモーターの、各二次ニューロスフェアの各細胞における活性化レベルを測定してもよい。この際、二次ニューロスフェアの各クローンにおいて、Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合を算出してもよく、Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合が0.01%以下のクローンを選択することが好ましい。また、各二次ニューロスフェアにおいて、Nanog遺伝子のプロモーターの、全体での活性化レベルを測定してもよい。
【0015】
本発明のさらなる実施態様において、分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアから、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い二次ニューロスフェアを選択するためのマーカーは、Nanog遺伝子のプロモーターによって発現した産物である。前記産物が、Nanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、酵素、及びNanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、または酵素からなる群から選択されてもよい。
【0016】
本発明のさらなる実施態様において、分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアから、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い二次ニューロスフェアを選択するためのキットは、Nanog遺伝子のプロモーター活性を検出するための試薬を含有する。前記試薬が、Nanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、酵素、及びNanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、または酵素からなる群から選択され、Nanog遺伝子のプロモーター活性を示すマーカーを検出するための試薬であってもよい。
【0017】
本発明のさらなる実施態様において、分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアのクローンが提供されるが、そのクローン内で、Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合が0.01%以下であってもよい。
【0018】
本発明のさらなる実施態様において、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い、分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアを含有する医薬組成物は、前記二次ニューロスフェアが上記いずれかのクローンに由来する。また医薬組成物は、神経系疾患治療剤、特に神経損傷治療剤であってもよい。
【0019】
本発明のさらなる実施態様において、神経損傷の治療方法は、
(1)分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアから、Nanog遺伝子のプロモーター活性が抑制された二次ニューロスフェアを選択する工程
(2)選択された二次ニューロスフェアを、前記神経損傷を有する患者に投与する工程
を含む。前記選択された二次ニューロスフェアを、神経損傷部位に移植することが好ましい。
【0020】
なお、前記分化細胞由来誘導多能性幹細胞は、Oct3/4遺伝子群、Sox2遺伝子群、及びKlf4遺伝子群を分化細胞で強制発現させて得られた細胞であることが好ましい。また、前記分化細胞由来誘導多能性幹細胞は、Nanog遺伝子が発現していることを指標に選択された細胞であることが好ましい。前記分化細胞は繊維芽細胞であってもよい。
【0021】
==関連出願に対する相互引用==
本出願は、2008年8月5日に出願された米国仮出願US61/086,369に対し優先権を主張するものであって、ここに参照によって取り入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施例において、38C2-Nanog-iPS-SNS移植マウスにおける、細胞生存率の時間経過による変化を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の一実施例において、移植マウスの組織学的解析(ヘマトキシリン・エオシン染色)の結果を示す写真である。
【図3】図3は、本発明の一実施例において、移植マウスの組織学的解析(HRP結合抗RFP抗体を用いたDBA染色)の結果を示す写真である。
【図4】図4は、本発明の一実施例において、移植マウスの組織学的解析(細胞タイプ特異的マーカーに対する抗体染色)の結果を示す写真である。マーカーに対する抗体として、神経細胞検出のために抗Hu抗体(A)、アストロサイト検出のために抗GFAP抗体(B)、およびオリゴデンドロサイト検出のために抗π-GST抗体(C)を用いた。
【図5】図5は、本発明の一実施例において、移植マウスの組織学的解析(抗セロトニン受容体抗体で染色)の結果を示す写真及びグラフである。
【図6】図6は、本発明の一実施例において、移植マウスのBBBスコアによる運動機能解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコルを用いる。
【0024】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0025】
==分化細胞由来多能性幹細胞==
分化細胞由来多能性幹細胞とは、生殖系列にある細胞(例えば、卵細胞、精子細胞、卵原細胞や精原細胞等それらの前駆細胞)または発生初期胚由来の未分化細胞(例えば、胚性幹細胞)以外の分化細胞を初期化することにより、人工的に誘導された多分化能及び自己増殖能を有する細胞のことであり、分化細胞は、胚由来であっても胎児由来であっても成体由来であってもよく、また、マウス、ヒト等どのような動物種に由来しても構わない。分化細胞の性状としては、本来、受精細胞が有する全能性を一部でも失った細胞であれば特に限定されず、例えば、繊維芽細胞、上皮細胞、肝細胞などが例示できる。なお、分化細胞由来多能性幹細胞は、山中4因子によって製造されるiPS細胞を含む(Takahashi K, Yamanaka S. (2006). “Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors.”. Cell 126: 663-676.;Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. (2007). “Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors.”. Cell 131: 861-872.)。
【0026】
初期化方法は特に限定されないが、核初期化因子を導入することにより、多分化能及び自己増殖能を有するように誘導することが好ましい。例えば国際公開WO2005/080598やWO2007/069666に記載された初期化方法を用いることができる。なお、これらの刊行物は、本明細書に参照によって取り入れられる。
【0027】
核初期化因子は、特に限定されないが、ES細胞で特異的に発現している遺伝子またはES細胞の自己複製に関与する遺伝子の産物の組み合わせであることが好ましい。例えば、これらの遺伝子は、Oct遺伝子群、Klf遺伝子群、Sox遺伝子群のそれぞれの遺伝子群から選択されるが、iPS細胞樹立の効率という点では、myc遺伝子群の遺伝子産物をさらに含むことがより好ましい。Oct遺伝子群に属する遺伝子としては、Oct3/4、Oct1A、Oct6などがあり、Klf遺伝子群に属する遺伝子としては、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5などがあり、Sox遺伝子群に属する遺伝子としては、Sox1、Sox2、Sox3、Sox7、Sox15、Sox17、Sox18などがある。myc遺伝子群に属する遺伝子としては、c-myc、N-myc、L-mycなどがある。myc遺伝子群の遺伝子産物は、サイトカインや化合物で置換することができる場合があり、この場合のサイトカインとして、例えばSCFやbFGFなどが挙げられる。
【0028】
核初期化因子としては、上記組み合わせ以外にも、Oct遺伝子群の遺伝子、Sox遺伝子群の遺伝子に加え、Nanog遺伝子及びlin-28遺伝子を含む組み合わせが挙げられる。細胞に導入する場合、上記組み合わせの遺伝子に加え、他にも遺伝子産物を導入してもよく、例えば、不死化誘導因子などが挙げられる。
【0029】
これらの遺伝子は、いずれも、脊椎動物で高度に保存されている遺伝子であり、本明細書では、特に動物名を示さない限り、ホモログを含めた遺伝子を表すものとする。また、遺伝子多型を含め、変異を有する遺伝子もまた、野生型の遺伝子産物と同等の機能を有する限り、含まれるものとする。
【0030】
==分化細胞由来多能性幹細胞の調製方法==
核初期化因子を用いて分化細胞由来多能性幹細胞を調製するには、核初期化因子が細胞内で機能するタンパク質である場合は、発現ベクターを用いて、そのタンパク質をコードする遺伝子を、対象とする体細胞などの分化細胞に導入し、細胞内で発現させることが好ましい(遺伝子導入法)。発現ベクターは特に限定されないが、ウイルスベクターを用いることが好ましく、特にレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはセンダイウイルスベクターを用いることが好ましい。また、Protein Transduction Domain(PTD)と呼ばれるペプチドをタンパク質に結合させ、培地に添加することにより、核初期化因子を細胞内に導入してもよい(Protein Transduction 法)。細胞外で機能するタンパク質の場合は、分化細胞由来多能性幹細胞の調製段階で、分化細胞の培地にその因子を添加すればよい。神経幹細胞のように、初期化すべき分化細胞で核初期化因子が発現している場合は、それは外部から導入する必要が無い。
【0031】
その後、核初期化因子を導入した分化細胞から、Fbx15遺伝子やNanog遺伝子などの未分化マーカー遺伝子を発現している細胞を、細胞が生きたまま選択する。その方法は特に限定されないが、例えば、内在性Fbx15遺伝子や内在性Nanog遺伝子のプロモーターの下流にGFP遺伝子やガラクトシダーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をノックインし、それらマーカー遺伝子を発現している細胞を選択すればよい。あるいは、内在性Fbx15遺伝子や内在性Nanog遺伝子のプロモーターの下流にネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子をノックインし、薬剤で選択することにより容易に目的の細胞を選択することができる。
【0032】
このようにして、核初期化因子を導入した分化細胞から、未分化マーカー遺伝子を発現している細胞を選択して得られた細胞集団を分化細胞由来多能性幹細胞として用いる。
【0033】
==移植後に腫瘍形成のリスクが低い分化細胞由来多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアの判別/選択方法==
分化細胞由来多能性幹細胞を、治療目的で生体内に投与する際、神経系細胞への分化能力を高めるため、予め胚様体(EB)を形成させて、そのEBを培養条件下で神経幹細胞に分化誘導させて投与することが好ましい。例えば、低濃度レベル(10-9 M〜10-6 M)のレチノイン酸存在下で胚様体(EB)を形成させることができる。あるいは、分化細胞由来多能性幹細胞の培地にノギン(Noggin)タンパク質を添加することによりEBを形成させることもできる。具体的には、アフリカツメガエル・ノギン遺伝子をほ乳類培養細胞に導入し、一過性にノギンタンパク質を発現させた培養上清をそのまま含む培地に加えてもよい(1〜50%(v/v))。また、リコンビナントノギンタンパク質(1 μg/ml程度)を当該培養上清に代えて用いてもよい。
【0034】
こうして得られたEBを解離して、FGF-2(10〜100 ng/ml)を添加した無血清培地で培養することによって当該細胞は、ニューロスフェアとして神経幹細胞へ分化する。この時、EBに直接由来するニューロスフェアを一次ニューロスフェア(以下、このニューロスフェアをPS-PNSと称する。)と称し、このPS-PNSを解離し、同じ条件下で再度形成させたニューロスフェア、及び、このニューロスフェア解離−ニューロスフェア形成を繰り返して形成させたニューロスフェアを、全て二次ニューロスフェア(以下、このニューロスフェアをPS-SNSと称する。)と称する。
【0035】
この二次ニューロスフェアは、分化細胞由来多能性幹細胞から分化をさせる度に、異なる特性を有する。本明細書では、この異なる特性を有する各二次ニューロスフェアを、クローンと称する。
【0036】
脊椎動物にPS-SNSを移植すると、腫瘍が時々移植部位で生じる。この腫瘍形成は、PS-SNSの性状に寄与する。PS-SNSのクローンには、腫瘍形成の高いリスクをもつものがあるが、腫瘍形成のリスクの無いものもある。腫瘍形成のリスクの低いクローンは、PS-SNSの多くのクローンでマーカーとしてNanog遺伝子のプロモーター活性を調べ、Nanog遺伝子のプロモーター活性が抑制されているクローンを選択することにより、効率よく同定し、選択することができる。この知見から、本発明は、移植後の腫瘍形成のリスクの低いPS-SNSを同定し、選択する方法を提示する。
【0037】
Nanog遺伝子のプロモーター活性を検出する方法は特に限定されないが、PS-SNSの細胞が、Nanog遺伝子のプロモーターによって発現制御されるレポーター遺伝子を有している時は、そのレポーター遺伝子の発現を検出すればよい。例えば、レポーター遺伝子として、GFP、YFP、BFPのような蛍光タンパク質、ルシフェラーゼのような発光タンパク質またはβガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、HRPのような酵素をコードする遺伝子が挙げられる。あるいは、内在性Nanog遺伝子の発現を調べることによって、Nanog遺伝子のプロモーター活性を検出してもよい。
【0038】
レポーター遺伝子または内在遺伝子の発現は、例えば、PCR法、LAMP法、ノザンハイブリダイゼーション法などによって、転写産物(hnRNA、mRNAなど)を検出してもよく、RIA法、IRMA法、EIA法、ELISA法、LPIA法、CLIA法,あるいはイムノブロット法などによって、翻訳産物(ペプチド、修飾ペプチドなど)を検出してもよい。従って、レポーター遺伝子または内在遺伝子の転写産物や翻訳産物のような、Nanog遺伝子のプロモーターによって発現した産物は、PS-SNSの選択マーカーとして用いることができる。
【0039】
Nanog遺伝子のプロモーター活性を調べる際、クローン中の各細胞における活性化レベルを測定してもよい。各クローンにおける活性化レベルを測定する方法は特に限定されないが、検出の容易さから、レポーター遺伝子を有している分化細胞由来多能性幹細胞を用い、そのレポーターの発現を培養下で調べることが好ましい。この場合、各クローンにおいて、Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合を算出し、Nanog遺伝子のプロモーター活性が抑制されているクローン、例えば0.01%以下の割合を有するクローンを選択して用いるのが好ましい。別法として、各クローンにおいて、Nanog遺伝子のプロモーターの、クローン全体での活性化レベルを測定してもよい。クローン全体での活性化レベルを測定する方法は特に限定されないが、測定の容易さから、レポーター遺伝子または内在遺伝子の転写産物を、定量PCRで測定することが好ましい。この場合、予め、Nanog遺伝子のプロモーターの活性化レベルと生体への移植後のin vivoでの腫瘍形成リスクとを調べておき、ほぼ腫瘍形成が無くなる活性レベルの閾値を決定しておくことが望ましい。
【0040】
このようにして選択されたPS-SNSのクローンは、神経系疾患、特に神経損傷の治療のための医薬組成物または移植物を調製するために単離されてもよい。
【0041】
==医薬組成物==
PS-SNSを含有する医薬組成物または移植物の使用方法については、ES細胞由来の神経幹細胞を神経損傷治療剤として用いるために開発された方法(Okada et al. Dev.Biol. vol.275, pp.124-142. 2004)を適用することができる。この文献は、本明細書に参照によって取り入れられる。
【0042】
この神経損傷治療剤は、分化細胞由来多能性幹細胞以外に、塩などを含んだ緩衝溶液、抗生物質、防腐剤などの薬剤等を含有してもよい。治療対象となる神経組織は特に限定されず、中枢神経系(脳や脊髄)でも末梢神経系でもよい。また、神経細胞が損傷する病態を呈する疾患であれば、治療対象の疾患や疾患の原因(例えば、外傷や脳梗塞などによる一次的原因、感染、腫瘍などによる二次的原因)は限定されない。疾患として、例えば、脊髄損傷などの外傷性疾患;筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、進行性核上清麻痺、ハンチントン病、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症等の神経変性疾患;脳梗塞、脳内出血等による神経細胞の壊死が挙げられる。疾患の原因としては、例えば、外傷や脳梗塞などによる一次的原因、感染、腫瘍などによる二次的原因が挙げられる。
【0043】
PS-SNSの投与は、直接投与でも間接投与でもよい。例えば、直接投与として、細胞を神経損傷部位に移植してもよく、間接投与方法として、静脈注射や髄腔内投与によって血液・脳脊髄液の循環に乗せて細胞を患部に運ばせてもよい。
【0044】
==キット==
本発明にかかる、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアを選択するためのキットは、Nanog遺伝子のプロモーター活性を検出するための試薬を含有する。
【0045】
上記のように、Nanog遺伝子のプロモーター活性を検出する方法には、PCR法、LAMP法、ノザンハイブリダイゼーション法、RIA法、IRMA法、EIA法、ELISA法、LPIA法、CLIA法,イムノブロット法などが例示でき、これらの方法は、既に広く周知であるので、当業者であれば、用いる検出方法に従って、適切な溶液や化合物などをキットに含有させることができる。
【実施例】
【0046】
==細胞==
以下の実施例において、分化細胞由来多能性幹細胞は、マウス胚繊維芽細胞に対してOct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4 またはOct3/4、Sox2、Klf4の遺伝子セットを核初期化因子として用いて得られた。具体的には前者の遺伝子セットの場合、Fbx15遺伝子の発現を指標にして選択された細胞であるFbx15-iPS細胞(Takahashi K, Yamanaka S. (2006). “Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors.”. Cell 126: 663-676.)またはNanog遺伝子の発現を指標にして選択された細胞であるNanog-iPS細胞(Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S. (2007). “Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells.”. Nature 448: 313-317)を、後者の場合、Nanog遺伝子の発現を指標にして選択されたMyc--Nanog-iPS細胞(Nakagawa M, Koyanagi M, Tanabe K, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Okita K, Mochiduki Y, Takizawa N, Yamanaka S. (2008). “Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts”. Nat Biotechnol 26: 101-106.)を用いた。
【0047】
[実施例1]
<iPS細胞の腫瘍形成の抑制>
==iPS-SNSの調製==
本実施例では、Nanog-iPS細胞として、以下のクローンを用いた。すなわち、T58A-c-Mycを導入された20D17 Nanog-iPSクローンと38C2 Nanog-iPSクローン、野生型c-Mycを導入された38D2 Nanog-iPSクローン、コントロールとしては、マウス ES細胞のNanog-EGFP-ESクローンを用いた(各クローンはOkita K, Ichisaka T, Yamanaka S. (2007). “Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells.”. Nature 448: 313-317を参照のこと)。
【0048】
これらのiPS細胞の神経系細胞への分化能力を高めるため、10-8 Mレチノイン酸存在下で胚様体(EB)を形成させ、20 ng/ml FGF-2を添加した無血清培地で培養した(Okada et al. Dev.Biol. vol.275, pp.124-142. 2004)。培養7日後に、iPS由来の一次ニューロスフェア(以下、iPS-PNSとも記される。)が形成された。このiPS-PNSを解離し、二次ニューロスフェア(以下、iPS-SNSとも記される。)が形成されるように、同じ条件下で培養した。なお、ニューロスフェアの再形成は、同じ工程で、繰り返し可能であった。なお、対照実験として、ES細胞についても、同様の処理をした。
【0049】
==iPS-SNS細胞クローンの同定及び選択==
まず、これらのiPS-SNSクローンにおけるNanog遺伝子発現を調べた。これらの細胞には、Nanog遺伝子によって発現制御される外来性EGFP遺伝子がゲノム中に挿入されているので、各クローン由来の細胞を解離し、EGFPを指標にして、FACS解析を行い、Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合を測定した。
【0050】
その後、それぞれのクローンの細胞をNOD/SCIDマウスの線条体に移植し、4週間以降、マウスを解剖し、脳における腫瘍の有無を調べたところ、約0.01%以上の細胞でEGFPが発現していたiPS-SNSクローンは、移植された生体内で腫瘍を形成した(表1)。特に、38C2由来のクローンは、いずれもEGFPの発現は観察されず、24週間、腫瘍形成なく生存したマウスも存在した(例えば、38C2-N2クローンを移植したマウス8とマウス9)。なお、ES細胞を用いた場合は、いずれも腫瘍形成は生じなかった。また、これらの腫瘍は、組織学的観察により、テラトーマであることが確認された。
【0051】

【0052】
表1に示されるように、約0.01%未満の細胞でEGFPが発現していたiPS-SNSクローンは、移植された時、生体内で腫瘍形成能が低下していた。
【0053】
[実施例2]
<iPS-SNSを用いた脊髄損傷マウスの治療>
==使用されたiPS細胞とiPS-SNS細胞の調製==
本実施例では、実施例1で腫瘍形成能がないことが確認された38C2-Nanog-iPS-SNS 及びNg178B5-Myc--Nanog-iPS-SNSを用い、実施例1と同様にiPS-SNSを調製した。また、コントロールとして、EB3-ES-SNSを用いて同様の実験を行った。
【0054】
なお、移植された38C2-Nanog-iPS-SNS細胞のマーカーとして赤色発光コメツキムシ・ルシフェラーゼ(CBRluc)と赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するクローンを得るため、CBRluc遺伝子及びRFP遺伝子をIRESを挟んでレンチウイルスベクターに組み込んで細胞に導入し、得られたCBRluc-38C2-Nanog-iPSを脊髄損傷マウスへの移植実験に用いた。
【0055】
==脊髄損傷マウスの作製と細胞の移植==
マウスの脊髄神経Th10において、外傷性脊髄損傷を負わせることで脊髄損傷モデルマウスを作製し、38C2-Nanog-iPS-SNS またはNg178B5-Myc--Nanog-iPS-SNSを以下のように移植した。
【0056】
まず、8-9週齢のメスC57Bl6マウス(体重20−22g)をケタミン(100mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)で麻酔した。Th10の椎弓切除手術後、硬膜の背側表面を露出させ、Infinite Horizon Impactor (60kdyn;Precision Systems, Kentucky, IL)を用いて外傷性脊髄損傷を負わせた。
【0057】
損傷した脊髄に細胞を移植するため、損傷後9日目に損傷部位を再度露出させ、stereotaxic injector(KDS310, Muromachi-kikai, Tokyo, Japan)に取り付けられたグラスマイクロピペットを用い、欠損部分の中心に、ニューロスフェアを解離させて得られた5x10個/2μlの細胞を0.5μl/分の速度で移植した。なお、コントロールとして、細胞を含まない培地だけを細胞移植と同様に注入した。
【0058】
==38C2-Nanog-iPS-SNS移植脊髄損傷マウスの解析==
生体蛍光イメージング(bioluminescent imaging analysis;BLI解析)(Okada et al. Faseb J. vol.19, pp.1839-1841, 2005)では、移植後すぐと、7日目、21日目、35日目にルシフェラーゼによる発光強度を測定し、細胞数の指標として用いた。すなわち、マウスにD−ルシフェリン(150mg/kg体重)を腹腔内に注射し、ルシフェリン投与後15−40分間、field-of-viewを10cmに設定して最高強度が得られるまで連続画像を撮った。全ての画像はIgor(WaveMetrics, Lake Oswego, OR)及びLiving Imageソフトウエア(Xenogen, Alameda, CA)で解析した。フォトン数を定量化するため、一定の移植領域を決めて、各マウスで解析した。各時点で得られたフォトン量に対し、初期値に対する割合を計算し、グラフ化したのが図1である。図1に示すように、移植細胞の約60%が移植7日目までに脱落し、その後は、移植細胞のシグナルが徐々に減少し、35日目で、約18%の移植細胞が生存していた。
【0059】
外傷後6週目で38C2-Nanog-iPS-SNS細胞移植マウスの組織学的解析を行った。図2H-E(ヘマトキシリン・エオシン染色)と図3RFP(HRP結合抗RFP抗体を用いたDAB染色)において、*印が細胞の移植部位を示し、1のボックス(神経損傷部分の周囲)と2のボックス(移植部位の前方の白質)で示した領域の拡大図を、下部で、それぞれ示した。この結果、腫瘍化の形跡は観察されなかった(図2)。また、移植した細胞の多くが神経損傷部分の周囲(図3−1)で観察されたが、前方に4mmくらい移動した細胞もあった(図3−2)。
【0060】
損傷した脊髄の切片を、細胞タイプ特異的マーカーに対する抗体を用いて染色したところ、RFPで検出された38C2由来の移植細胞が神経細胞(図4A;マーカーはHu)、アストロサイト(図4B;マーカーは GFAP)、オリゴデンドロサイト(図4C;マーカーはπ-GST)の3種の細胞種に分化していた(図4)。
【0061】
さらに、セロトニン作動性ニューロンの数を調べるため、抗セロトニン受容体抗体を用いて染色した。顕微鏡での観察像、及びニューロン数を定量化するために測定された染色部分の面積を図5に示す。顕微鏡像及び染色面積の両方において、コントロールである、細胞を含まない培地(図5では「Control」と示されている)を注入したとき、5HT陽性のセロトニン作動性ニューロンの数は、38C2-iPS-SNS(図5では「38C2-SNS」と示されている)を移植した時に比べ、有意に減少した(図5)。
【0062】
次に、7日ごとに42日目まで後肢の運動機能をBasso-Beattie-Bresnahan(BBB)スコア(Basso et al. J. Neurotrauma vol.12, pp.1-21, 1995)で評価した。運動機能解析では、38C2-Nanog-iPS-SNS(n=20)、EB3-ES-SNS(n=15)、細胞を含まない培地だけ(n=12)の3通りの場合で、比較した。3群とも、脊髄損傷を与えた当初は、完全な麻痺が生じたが、次第に回復した。しかし、手術後6週目で、培地を注入した群のマウスは後肢で体重を支えることができなかったが、38C2-Nanog-iPS-SNSを移植した群のマウスは胴体を持ち上げることも可能なまでに回復した。BBBスコアを比較したところ、手術後6週目で、38C2-Nanog-iPS-SNS(10.03+/-0.47)とEB3-ES-SNS(10.10+/-0.24)は同程度の回復が観察され、細胞を含まない培地だけの場合(8.08+/-0.39)とは有意に差が認められた(図6)。臨床的知見からも、38C2-Nanog-iPS-SNSを移植したマウスでは、体重を支えて足底で歩けるまでの回復が顕著であった。なお、Ng178B5-Myc--Nanog-iPS-SNSwp用いた場合も、38C2-Nanog-iPS-SNSと同様の治療効果が観察された。
【0063】
結論として、神経損傷マウスに対してiPS細胞由来のSNS細胞を移植することにより、神経損傷を治療することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によって、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、又はリスクが無い分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアを効率よく判別し、選択する方法、その方法によって選択された二次ニューロスフェア、及びその二次ニューロスフェアの使用方法を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアから、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、リスクの無い二次ニューロスフェアを選択するための方法であって、
各二次ニューロスフェアにおいて、Nanog遺伝子のプロモーター活性を調べる工程と、
Nanogプロモーター活性が抑制されている二次ニューロスフェアを選択する工程と、を含有することを特徴とする方法。
【請求項2】
移植後の腫瘍形成リスクが低いか、リスクの無い二次ニューロスフェアを選択するための方法であって、
(1)分化細胞由来誘導多能性幹細胞を用いて、二次ニューロスフェアを調製する工程
(2)各二次ニューロスフェアにおいて、Nanog遺伝子のプロモーター活性を調べる工程
(3)Nanog遺伝子のプロモーター活性が抑制された二次ニューロスフェアを選択する工程
を含有する方法。
【請求項3】
前記二次ニューロスフェアが、Nanog遺伝子のプロモーターによって発現制御されるマーカー遺伝子を含有し、
当該マーカー遺伝子の発現が調べられることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
当該マーカー遺伝子が、蛍光タンパク質、発光タンパク質または酵素をコードすることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
内在性Nanog遺伝子の発現が検出されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
各二次ニューロスフェア中の各細胞において、Nanog遺伝子のプロモーターの活性化レベルが測定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
各二次ニューロスフェアにおいて、Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合が算出されることを特徴とする請求項6に記載の選択方法。
【請求項8】
Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合が0.01%以下の二次ニューロスフェアが選択されることを特徴とする請求項7に記載の選択方法。
【請求項9】
各二次ニューロスフェアにおいて、Nanog遺伝子のプロモーターの、全体での活性化レベルが測定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の選択方法。
【請求項10】
分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアから、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、リスクの無い二次ニューロスフェアを選択するためのマーカーであって、
Nanog遺伝子のプロモーターによって制御された産物であることを特徴とする選択マーカー。
【請求項11】
前記産物が、Nanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、酵素、及び、Nanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、酵素をコードする転写産物、及び当該転写産物からなる群より選択されることを特徴とする請求項10に記載の選択マーカー。
【請求項12】
分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアから、移植後の腫瘍形成リスクが低いか、リスクの無い二次ニューロスフェアを選択するためのキットであって、
Nanog遺伝子のプロモーター活性を検出するための試薬を含有することを特徴とするキット。
【請求項13】
前記試薬が、Nanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、酵素、及び、Nanogタンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質、酵素をコードする転写産物、及び当該転写産物からなる群より選択されるマーカーを検出するための試薬であることを特徴とする請求項13に記載のキット。
【請求項14】
分化細胞由来誘導多能性幹細胞由来の二次ニューロスフェアのクローンであって、Nanog遺伝子のプロモーターが活性化している細胞の割合が0.01%以下であることを特徴とするクローン。
【請求項15】
神経疾患に対する医薬組成物であって、
請求項14のクローンを含有する医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−530273(P2011−530273A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505277(P2011−505277)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/JP2009/003755
【国際公開番号】WO2010/016253
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願、並びに平成21年度 文部科学省 科学技術試験研究委託事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】