説明

分子インプリントポリマーの調製

重合方法、好ましくはリビングラジカル重合方法が、テンプレート物質の存在下で実行され、分子インプリントポリマー(「MIPs」)を製造する。それは、生成物が非常に小さく(500〜10ダルトン)、溶解可能である又はコロイド懸濁液を生成するように制御される。テンプレート物質は、固定されたテンプレートであり、再利用することができる。固定されたテンプレートは、アフィニティクロマトグラフィーによるMIP溶液/懸濁液の精製にも役立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、有機合成及び高分子化学の分野に関し、特に、テンプレート指示合成(template-directed synthesis)及びテンプレート重合による有機分子の調製のための方法論についての領域に関する。
【0002】
(背景技術)
「テンプレート指示合成」という用語は、基質の化学的変性による、又は新規構造を生成するための型として働くテンプレートの存在下での2つまたはそれより多い分子のカップリングによる、新規物質の生成を含んでいる。このプロセスの最も知られた例は、遺伝子転写である。テンプレート指示合成の特別な例は、ポリマーレセプター(レプリカ)の生成が、他のポリマー又は小分子量の有機物質(テンプレート)の存在下で進行するテンプレート重合である。重合を開始する前、そして重合の間、モノマーは、テンプレートのサイズ、極性及び機能に従ってテンプレート分子の周辺に空間的に広がる(自己集合プロセス)。モノマーは重合して、直鎖状又は剛性のある三次元網目構造のいずれかになる。テンプレート重合の具体例は、テンプレートの存在下でのビニル又はアクリルモノマーの重合に基づく分子インプリンティングである(参考文献1,2参照)。従来のアプローチは、水性及び有機性の溶媒に不溶である、高度に架橋されたインプリントポリマー(imprinted polymers)の製造を含んでいる。それらの固有の不溶性が原因で、薬理学及び医療において分子インプリントポリマー(MIPs)を使用する可能性は、制限されている。
【0003】
最近、溶解可能であるか、少なくともコロイド状で存在可能な比較的低分子量のインプリントポリマー調製のためのプロトコルを開発するために、いくつかの試みが実行された。この計画によって、ポリマーは、薬理学及び医療における生物学的活性分子(薬、エフェクター、モジュレーター、禁止剤)として、センサー又はアフィニティ分離において生体分子を置き換える「プラスチック抗体」として、並びに、酵素のような特性を有する触媒として用いることができる。
【0004】
そのような1つの例では、MIP分子は、生物学的レセプター、酵素、核酸、細胞、ウイルス、ミクロ微生物、組織サンプル又は薬の周辺でのアミノ酸とヌクレオチドとの重縮合によって合成された(米国特許第6852818号参照)。他の例では、種々の方法がMIPsオリゴマー及びポリマーの製造に用いられた(米国特許第6127154号参照)。従来技術の大部分の例では、溶解可能な又はコロイド状の粒子を溶液中で安定に供給するために、加水分解を必要とする高分子量架橋ポリマーの調製が説明されている。そのような1つの例(US6127154参照)では、研究者は、照明によりカップリング可能な光活性パーフルオロフェニルアジド基を有する特別に設計された化合物を用いた。このケースでは、アフィニティリガンドは、溶解可能な粒子として合成することができた。これらのケースの全てにおいて、合成された化合物は、サイズ及び特性の制御が不十分な多数の留分を含んでいる。生物学的活性を有する分子を合成する他の方法が、WO96/40822号及び米国特許第5630978号に記載されており、そこでは、化学物質がテンプレートをインプリントしたポリマーの存在下で調製され、このインプリントポリマーは別のテンプレート、通常はヘパリンのような薬、の存在下で調製された。その結果得られたレプリカは、テンプレートに対してアフィニティを有さず、むしろオリジナルの薬の分子そのものの構造に似たリガンド分子である。
【0005】
ナノ粒子を製造する方法の1つは、制御された縮合又は付加ラジカル「リビング」重合を利用するものである。イニファーター重合、ニトロキシド媒介ラジカル重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、及び可逆的付加開裂型連鎖移動(RAFT)重合等のリビングフリーラジカル重合の技術は、比較的制御された低分子量のポリマーの合成のための新規ルートを開くものである(参考文献3〜9参照)。制御された/リビング重合の技術は、系中における成長種の濃度を効果的に低下させて停止反応の程度を最小化する、不活性種及び活性種の間の微妙なバランスに基づいている。リビング重合は、停止や連鎖移動などの副反応をなくすことができ、それによって明確に決められた分子量分布及び構造を有するポリマーを生成させることができる。同じ方法が共重合体の製造に適用でき、したがって適切な順序でモノマーを添加することによってフリーラジカル重合によりブロックコポリマーの製造が可能となる。リビング重合は、以前、バルクのグラフト化されたMIPsの製造に用いられた(参考文献10,11参照)。溶解可能なポリマーもリビング重合によって製造され、後にMIPの製造に用いられた(参考文献12参照)。最近、制御リビング重合は、MIPナノ粒子の調製に用いられた(参考文献13)。
【0006】
MIPの合成を複雑化させる要因の1つは、タンパク質や幾つかの毒素などの高価及び/又は入手困難なテンプレートを頻繁に使用する必要がある点であり、これらは重合後の回収が困難であって、また、得られるMIPの量が限定的である。理想的には、これらの限界を克服するため、テンプレートは再利用可能とすべきである。これを達成する最適な方法は、固定された形態でテンプレートを用いることである。固定されたテンプレートは、以前に用いられた(US7393909参照)。ここでは、テンプレートはシリカ表面上に固定され、ポリマーはその周辺にある細孔の中で生成された。シリカ担体の溶解及びテンプレートの除去により、種々のモルフォロジーのMIPsが得られた。US7393909に開示された全ての実施例において、固定されたテンプレートを担持する表面は、溶解プロセス中に失われ、再利用することができない。他の例において、固定されたテンプレートが、インプリントされた表面の製造に用いられた(US6127154;US6458599;US7288415)。潜在的には、これらの報告において開示されたテンプレートを担持している表面は再生することができ、かつ何回か用いることができる。これらの方法は、センサーまたはアレイの製造のために用いることができるが、ナノ粒子又は小さい溶解可能な分子の製造に適応させるのは困難である。
【0007】
MIPsに関連した更なる1つの大きな課題は、製造された結合部位の異質性であり、これが、一般に高水準での非特異的結合の原因となっている。この課題は、固定されたテンプレートを有するカラム上で別々に製造されたMIPナノ粒子のアフィニティ分離により是正された(参考文献13)。アフィニティ分離を可能とするため、MIPsが、適切な形態、好ましくはナノ粒子の形態でなければならないことは、明らかである。
【0008】
本発明は、2つの技術:(i)インプリントナノ粒子を生成するための、固定されたテンプレートを担持している1つ又は複数の表面の存在下での制御重合(任意選択で制御ラジカル重合でもよい)の実行、及び(ii)選択及び精製用の固定されたテンプレートとのアフィニティ相互作用によりナノ粒子を保持すること、の組合せを提案することによって、高性能架橋MIPナノ粒子の開発に関するこれらの課題の全てに対処するものである。
【0009】
背景における材料は、以下の参考文献で見つけることができる。
1.Wulff,G. Makromol.Chem.Macromol.Symp.,1993,70/71,285.
2.Vlatakis,G.;et al. Nature,1993,361,645.
3.Moad,G.;Rizzardo E.;Solomon,D.H. Macromolecules 1982,15,909;
4.Matyjaszewski,K.;Xia,J.Chem.Rev.2001,101,2921.
5.Kamigaito,M.;Ando,T.;Sawamoto,M.Chem.Rev.2001,101,3689.
6.Hawker,C.J.;Bosman,A.W.;Harth,E. Chem.Rev.2001,101,3661.
7.Fischer,H. Chem.Rev.2001,101,3581.
8.Otsu,T.;Matsumoto,A. Adv.Polym.Sci.1998,136,75-137.
9.Moad,G.;et al. Polym.Int.2000,49,993-1001.
10.Ruckert,B.;Hall,A.J.;Sellergren B.J. Mater.Sci.2002,12,2275.
11.Hattori,K.;et al. J.Membr.Sci.2004,233,169.
12.Li,Z.;Day,M.;Ding,J.F.;Faid,K. Macromolecules.2005,38,2620.
13.Guerreiro A.R.,Chianella I.,Piletska E.,Whitcombe M.J.,Piletsky S.A. (2009).Biosens.Bioelectron.,24,2740-2743.
14.Jagur-Grodzinski, J.Reactive & Functional Polymers.2001,1,1.
15.Shim,S.E.et al. Macromolecules.2003,36,7994-8000.
16.Yu,Q.;Zeng,F.;Zhu S. Macromolecules.2005,34,1612.
17.米国特許第7019072号-コーティング紙用ラテックスの製造方法、2006.
【0010】
(引用した特許)
【表1】

【発明の概要】
【0011】
(発明の開示)
本発明によれば、溶液の状態で又は分子インプリントポリマー(「MIP」)粒子のコロイド懸濁液の状態で、MIPを調製する方法であって、(a)その表面が露出するように、その上にテンプレート材料を固定したキャリア物質を提供する工程と、(b)前記表面に接するように重合性組成物を提供する工程と、(c)前記表面に接する前記重合性組成物の制御重合を行い、溶液又はコロイド懸濁液を生成可能なMIP粒子が生成されたときに、前記重合を停止する工程と、(d)前記表面から前記MIP粒子を分離する工程とを有する方法が提供される。コロイド懸濁液は、安定であることが望ましく、1μm未満の微粒子からなることが望ましい。
【0012】
本発明は、溶解可能な又はコロイド状の架橋MIP粒子の製造のための、固定された(凸面の)テンプレートの存在下で行われる制御重合(任意選択で制御ラジカル重合でもよい)の適用を含むものである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、以下の1つ又はそれより多い利点が提供される。
1.MIPナノ粒子は、自動的なプロトコルを用いて(機械により)提供することができる。
2.合成されたMIPsは、固体の表面に固着したままのテンプレートを含まない。
3.MIP調製の間、どんな溶媒でも使用することができる。
4.MIPの合成、分離及び精製のプロセスは、非常に速い(数分から数時間である)。
5.テンプレートは無駄にならず、MIPの合成プロセスを数回繰り返すことができる(それにより高価なテンプレートのためのMIPの調製コストが減少する)。
6.固定されたテンプレート上に残存する合成された粒子が、例えば、蛍光ラベル又は非接着性コーティング層を加えることによって更に官能化されるとき、別の工程を追加する可能性がある。
7.合成された粒子のサイズを制御する可能性がある。
8.合成されたナノ粒子を分割して、種々のアフィニティを有する留分を集める可能性がある。
【0014】
ここに記載されている方法においては、MIPsが、制御重合(任意選択で制御ラジカル重合でもよい)の技術を用い、固定されたテンプレートの存在下で製造される。制御重合によりナノ粒子を製造するのに有用な種々の技術は、技術に精通している専門家に知られている。重合反応は、合成された分子のサイズが比較的小さい段階で停止する。このような方法による生成物は、溶液中又は懸濁液中において、溶解状態又は安定なコロイド状態のいずれかで存在することができる。本発明に係るMIPsのコロイド懸濁液又は溶液は、水性液体でも有機液体のいずれでもよい。
【0015】
合成された分子は、オリジナルテンプレートと相補的な構造を有しており、適度な高アフィニティでそれを結合する能力を有している。目的を明確にするために、本発明において、「高アフィニティ」及び「高性能」のMIPsは、典型的な対応するブランクポリマーのアフィニティの少なくとも3倍(好ましくは少なくとも5倍)を上回るアフィニティを有するポリマーと定義される。尚、「ブランク」ポリマーとは、テンプレートを存在させずにMIPを製造するために使用された重合プロセスによる生成物である。これらの合成分子(ポリマー及びオリゴマー)は、所定のアフィニティ及び特異性(ランダムに合成されたポリマーに対する優れた活性)を有しており、特別に設計された個別の有機構造よりもずっと容易に調製することができる。本明細書において記載されているように、MIPsを生成する重合プロセスは、不完全であって、結果として、高アフィニティ及び低アフィニティの両粒子が生成(例えばテンプレートが存在しない溶液中での生成)されることになるかもしれない。高アフィニティ粒子は、固定されたテンプレートを持つ表面に選択的に結合され(そして、その後に回収され)、それにより、低アフィニティ粒子から分離することができる。固定されたテンプレートを持つ表面は、MIPsの生成に使用される表面と同じであるか、または、固定されたテンプレートを持つ別の表面(例えば、分離カラム内に収納されたもの)でありうる。ここで言う表面とは、アフィニティカラム、センサーデバイス、マイクロ流体装置、マイクロチップ、反応器、ビーズ、繊維、ウェル(wells)、マイクロプレート、膜、フィルタ、穴、ナノ構造、小胞(vesicles)、カプセルなどの表面でありえる。表面は、固体、半固体若しくは液体、又は流体(ミセル又は界面の場合)でありえる。任意選択で、粒子は追加の1つ又は複数のカラムを使用して更に選別して、潜在的に障害となる化合物に対してアフィニティを持たない粒子の副留分を選択することができる。「クラス選択的(class-selective)」バインダーを製造するために、1つ又はそれより多くのテンプレート類似体に対して追加的なアフィニティを有する粒子の副留分を選択することに、同様の手法を採用することができる。
【0016】
本発明において説明されたように合成された分子(二量体、オリゴマー、ポリマー又はそれらの混合物)は、薬理学及び医療における薬として、分析化学(センサー、分析(assays))におけるレセプター特有のリガンドとして、生物工学、医薬及び食品産業における分離のため、そして合成触媒として、又は、分析、センサー及び他の用途(例えば粉せっけん)における酵素の代わりとして、使用することができる。薬の設計における従来の取り組みは、典型的には、多数の化学構造における構造と活性との関係についての面倒な研究に基づいていた。本発明は、より単純でより直接的な方法を説明する。その方法は、固定されたテンプレートの存在下で架橋MIPナノ粒子を生成して生物学的活性物質を設計するための制御重合(任意選択で制御ラジカル重合でもよい)であり、その生物学的活性物質は、大きな利点(従来の薬の設計及び発見の方法と比較した場合)を持っており、アフィニティ分離、センサー及び触媒のための有用なリガンドでもある。
【0017】
本発明の重要な態様として、以下のものが挙げられる。
(1)生物学的レセプター、核酸、細胞、胞子、ウイルス、微生物、組織サンプル、炭水化物、オリゴ糖、多糖、ペプチド、核タンパク質、ムコタンパク質、リポタンパク質、合成タンパク質、グリコプロテイン、グルコサミノグリカン、ステロイド、免疫抑制薬、ホルモン、ヘパリン、抗生物質、ビタミン、病的若しくは病気の生物指標化合物、毒素、農薬、除草剤、爆発物、神経ガス、汚染物質、内分泌かく乱化学物質、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、代謝産物、二次代謝産物、薬代謝産物、薬中間体又は薬でありえる、固定化されたテンプレートの存在下での制御重合(任意選択で制御ラジカル重合でもよい)による架橋MIPナノ粒子の合成。このリストは限定を意図するものではなく、テンプレートとして可能性のある代表例であり、その及ぶ範囲は当業者であれば理解できる。
(2)比較的小さいサイズの粒子を生成するための反応条件の最適化。
(3)ビニルモノマー、アリルモノマー、アセチレン、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、クロロアクリレート、イタコネート、トリフルオロメチルアクリレート、アミノ酸誘導体、ヌクレオシド、ヌクレオチド及び炭水化物を1つ又はそれより多くを含む機能性モノマーから、生物学的活性分子などを含む分子の合成。
(4)MIPの調製のために使用された固定されたテンプレートを持つ同一の表面上、又は固定されたテンプレート又はテンプレート類似体を同様に持つ別の表面上で生じるアフィニティ相互作用による、合成された高アフィニティ粒子の保持。
(5)合成された分子の特性又は機能を変えるために、固定されたテンプレートを有する表面上に保持されたインプリントポリマー粒子が、他のタイプの分子によって変性される逐次重合。
(6)薬理学及び医療における薬として、分析化学(センサー、分析)におけるレセプター特有のリガンドとして、生物工学、医薬及び食品産業における分離のため、そして触媒としての、合成された分子の応用。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】固定されたテンプレートで被覆された粒子が充填されたHPLCカラム中に注入されたブランク(対照)粒子のクロマトグラムを表す。
【図2】固定されたテンプレートで被覆された粒子が充填されたHPLCカラム中に注入されたMIP粒子のクロマトグラムを表す。
【図3】メラミンでインプリントされたMIPナノ粒子のサイズ分布を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明にて説明されたように調製されたポリマーは、テンプレートのエフェクター(活性剤、禁止剤又は基質)に類似しており、テンプレートがそのような分子又は構造の生理的プロセス又は有効な類似プロセスに関与している場合には、生物学的活性を有することができる。この種のポリマーは、例えば、薬理学及び医療における薬として用いることができる。この手法による利点は数え切れないほど多く、例えば、MIP合成のための固定されたテンプレートを再利用する可能性、低アフィニティ粒子及び未反応モノマーから高アフィニティを有するMIPsを分別する可能性、テンプレートから合成MIPsの除去が容易なこと、固定されたテンプレートに付着したMIPsを後に機能化する可能性、製造方法を完全に又は部分的に自動化する可能性などが挙げられる。本発明の他の利点は、当業者にとって明らかである。
【0020】
具体的には、1つの態様において、本発明は、固定されたテンプレートの存在下における、制御重合(任意選択で制御リビングラジカル重合(LRP)でもよい)、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、及び制御重縮合による架橋MIPsの合成に関する。テンプレートとしては、生物学的レセプター、核酸、細胞、胞子、ウイルス、微生物、組織サンプル、炭水化物、オリゴ糖、多糖、ペプチド、核タンパク質、ムコタンパク質、リポタンパク質、合成タンパク質、グリコプロテイン、グルコサミノグリカン、ステロイド、ホルモン、免疫抑制薬、ヘパリン、抗生物質、ビタミン、病的若しくは病態の生物指標化合物、毒素、農薬、除草剤、爆発物、神経ガス、汚染物質、内分泌かく乱化学物質、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、代謝産物、二次代謝産物、薬代謝産物、薬中間体又は薬、あるいは当業者に知られている他のクラスのテンプレートが挙げられる。テンプレートは、ポリマー、多糖若しくはガラスの表面上に、例えばビーズ、導波路、ファイバー、薄膜又は毛細管の形態で、又は当業者に知られている目的とする用途に適した任意の他の表面上に固定することができる。
【0021】
重合は、例えば加熱により、電流を流すことにより(電解重合)、レドックス触媒、過硫酸塩又は過酸化物の添加により、ガンマ線等の照射により、マイクロ波の照射により、又は好ましくはUVもしくは可視光の照射により開始することができ、通常、種の反応性に応じて、数分間又は数時間行われる。
【0022】
制御重合の幾つかの異なる形態は、本発明に包含される。それらは、全て、連続重合層又は網目状ではなくむしろ溶解可能なナノ粒子が主に生成されるようなレベルで、付加又は縮合反応を制御する能力に基づいている。リビングラジカル重合の例において、開始剤分子は、熱的、化学的、又は光化学的刺激によって可逆的な変換を起こし、不活性種を、鎖成長種(chain propagators)として機能する活性なフリーラジカル又はイオンに、可逆的に変換する。このため、反応の平衡定数を適用する条件は、不活性種の生成を助け、不活性種と成長種間の高速変換を可能するものでなければならない。したがって、成長種の濃度は非常に低く、その滞留時間は非常に短くなり、それによって、成長中のポリマー鎖の成長を停止させる副反応が起きる可能性が低下する。リビング重合の幾つかの例としては、もちろん特に限定されないが、ニトロキシド媒介重合(NMP)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、及び可逆的付加開裂型連鎖移動重合(RAFT)が挙げられる。RAFT重合は、活性種と不活性種の間での変換が起こる可逆的な付加開裂型連鎖移動平衡に基づいている。開始工程で生成するラジカルは、連鎖移動剤として働くことが可能な分子と衝突しそこに可逆的な形態で付加するまで、モノマーの添加により成長する。一般的に、リビング重合プロセスでは、重合にリビング性を与えるために、任意選択で従来型の開始剤と組み合わせることもできるイニファーター(開始剤、移動剤、停止剤)を使用することができる。イニファーターは、ジチオカルバミル基を持つ光イニファーター、又は炭素−炭素若しくはアゾ基を持つ熱イニファーター(例えば参考文献14参照)、又は当業者に知られている他の種類の化合物であることができる。好ましい種類のイニファーターは、異なるラジカルを生成するものであり、1つは反応性のある炭素ラジカルで、別の1つはより反応性の低いラジカル(例えばジチオカルバミルラジカル)である。炭素ラジカル(典型的にはベンジルラジカル)は、不飽和モノマーと反応して、重合を開始することができる。より反応性の低いラジカル(例えばジチオカルバミルラジカル)は、成長ポリマー鎖と再結合することで重合を停止させるが、停止した生成物は、継続した刺激、例えばUV照射(例えば文献15参照)の適用に応答して、更に新しい成長ラジカル及び停止剤に解離することができる。
【0023】
本発明の範囲に包含される、種々のタイプのリビング重合(原子移動、アニオン、カチオンなど)用の開始剤として使用できる他の化合物としては、特に限定されないが、以下のものが挙げられる。N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンと錯形成したCu(I)Brを含む2−ブロモプロピオニトリル、Cu(I)CI/PMDETAを含むポリスチレンブロモマクロ開始剤、CuCl/ビピリジンを含むエチル2−ブロモイソブチレート;1,4−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)アセナファテンジイミンニッケル(II)ジブロミド;テトラエチルチウラムジスルフィドと結合した2,2−ジメトキシ−2−フェニルエースフェノン;テトラフェニルビホスフィン、ジ−ターシャリィ−ブチルパーオキシド等の3級過酸化物;SmMe(CMe(THF);TiClが結合されたスチレン系エポキシド;メチルスチレン4量体ジナトリウム;MoOCl−n−BuSn−EtOH;HCl/ZnCl;メチルp−トルエンスルホネート;2,10,15,20−テトラフェニルポルフィナトアルミニウムメチル;3−メチル−1,1−ジフェニルペンチルリチウム;THF中のブチルリチウム;モリブデンアルキリジン化合物;2官能性有機ランタノイド(III);Mo(CH−t−Bu)(NAr)(OCMe及びMo(CHCPhMe)(NAr)(OCMe(CF;HI/I;メチルアルミノキサン又はフェニルボレートと結合したZr、Ti及びHf錯体;Pd、Ni、Fe又はCoのジイミド錯体;均一なTa、Ti、Mo、Wカルベン錯体;メタロセン型又は非メタロセン型錯体からなる希土類金属錯体;カチオン性モノシクロペンタジエニルジルコニウムアセトアミジナート錯体;銅媒介リビング重合用の開始剤として1又は2の水酸基を有するエステル型フッ化テロマ;Yb[C(SiMe
【0024】
従来のラジカル重合と比べてリビング重合の1つの利点は、従来のラジカル重合がしばしば強い自己加速を起こしながら進行するのに対し、リビング重合は低速度で目立った自己加速なしに進行するという点である(参考文献16参照)。本発明では、比較的低分子量のポリマーを生成する条件でリビング重合を行うことによって、これを生かしている。典型的には、その反応は、500〜1,000,000Daの間の分子量を有するポリマーを生成するために、初期の段階で停止される。
【0025】
比較的小さいサイズの粒子を生成するために、反応条件を最適化することができる。そのプロセスの重要な部分は、適切なリビング開始剤の選択及び重合反応条件の最適化である。あるいは、ラジカルの生成及び成長の速度は、反応禁止剤の添加又はメルカプト誘導体等の連鎖移動剤を加えることで制御することができる(参考文献17)。
【0026】
リビングラジカル重合開始剤は、別々の有機分子から、又は高分子から調製することができる。ヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミノ基を含む大部分の化合物は、開始剤に変換することができ、したがって容易にポリマーに組み込むことができる。これは、単官能開始剤の場合にはポリマーの末端に、又、多官能開始剤の場合にはポリマーの中間に存在させることもできる。
【0027】
比較的低分子量のポリマーを生成するための反応条件は、特に限定されないが、以下が挙げられる:(i)開始剤とモノマーとの間において化学量論比を利用すること;(ii)反応系を冷やすか又はUVもしくは他の照射源を除去することで、反応の初期段階において新しい成長種の生成を停止させること;(iii)例えば濾過又はクロマトグラフィーにより、成長しているポリマー鎖と接触するモノマーの除去;(iv)禁止剤を反応に加えること;(v)かなり希釈した溶液中で重合を行うこと;(vi)連鎖移動剤を加えること。好ましい選択は、照射源の除去又はその遮断である。あるいは、モノマー及び他の反応剤は、固定されたテンプレートに付着した成長中のMIPから、溶出によって除去することができる。制御リビング重合の結果、MIP粒子を500〜1,000,000Daのサイズ範囲で生成することができ、そのMIP粒子は、溶解可能な状態で、又は溶液において安定でかつアフィニティクロマトグラフィーの条件に適合する微細なコロイドの状態で存在しうる大きめの粒子(ただし1マイクロメートル未満)で存在することができる。
【0028】
MIPの調製に用いることができるモノマーとしては、以下のものが挙げられる:ビニルモノマー、アリルモノマー、アセチレン、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、クロロアクリレート、イタコネート、トリフルオロメチルアクリレート、アミノ酸誘導体(例えばエステル又はアミド)、ヌクレオシド、ヌクレオチド及び炭水化物。提案された本発明の他の態様において、重合は、二重結合を有する粒子の存在下、又はその表面上で行われる。架橋モノマーは、結果として生じるレプリカ分子の構造を、テンプレートの構造と相補的なままで維持できるように固定又は安定させるために用いられる。MIPsに好適な架橋剤の典型例としては、特に限定されないが、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド及びN,N’−ビスアクリロイルピペラジンが挙げられる。架橋剤の機能は、二重結合を有する粒子若しくは前駆体ポリマー、又は、官能性モノマーと結合することができる複数の機能が付与された粒子又はポリマー、により発現することができる。当業者であれば、特定のシステムに好適なモノマー及び架橋剤を選択することができる。あるいは、種々の組合せと計算による方法を、この選択を補助するために用いることができる。
【0029】
合成されたナノ粒子は、固定されたテンプレートに対して、モノマー、非特異性のオリゴマー及び低アフィニティポリマー(例えば、テンプレート非存在下でバルク状に生成されたもの)よりも、高いアフィニティを有する。したがって、提案された発明の1つの態様において、弱く結合した材料は、洗浄により、固定されたテンプレートに付着したナノ粒子から除去される。固定されたテンプレートからの高アフィニティナノ粒子の分離は、加熱により錯体の形成を阻害することで、溶液pHの変更によりイオン強度を変えることで、又は、尿素、グアニジン、若しくはMIPより強くテンプレートと相互作用する物質を追加することで、達成される。
【0030】
合成されたアフィニティMIPナノ粒子は、更に、クロマトグラフィー、濾過及び/又は電気泳動により精製することができる。合成されたポリマーの分離は、テンプレートに対して最も高いアフィニティを有するポリマー留分の精製のために同一若しくは類似の固定化されたテンプレートが用いられる場合はアフィニティクロマトグラフィー又は選択的溶出により、又は/及び、異なるサイズのポリマー留分を分離するゲル浸透クロマトグラフィーにより、達成できる。分別、分離及び精製は、異なるpH、すなわちイオン強度を有する緩衝液を用いて、又は、尿素、グアニジン、若しくはポリマーよりも強くテンプレートと相互作用する物質の追加により、達成できる。あるいは、高アフィニティを有する粒子の分別は、濾過、電気泳動、クロマトグラフィー分離、洗浄、遠心分離又は透析により達成できる。テンプレートに対するアフィニティの分布が狭いMIPsの調製が可能であることから、アフィニティクロマトグラフィーは特に強力なツールであり、特に好ましい。
【0031】
成長中のポリマー鎖は、MIPsにその抽出又は他の態様の分離を促進するような特定の特性を与える目的で、他のポリマー又は官能基により変性することができる。これの例は、やはり、例えば有機溶剤により水溶液からポリマーの抽出を可能にする疎水性末端を有するポリマーでありえる。アフィニティ吸着剤によりポリマーの選択的除去を可能とする特定の結合基(例えば、ビオチン)を導入することが可能である。当業者は、この変性及びそれにより実行される分離を可能とする多様な実験手順を知っている。その変性は、固定されたテンプレートにポリマーが結合した状態の表面上において直接達成でき、又は別個に達成できる。
【0032】
したがって、本発明では、インプリントポリマーが合成された分子の特性又は機能を変えるために他のタイプの分子で変性される場合、逐次重合を採用することができる。成長中のポリマー鎖がその分離を促進するために他のポリマー又は官能基によって変性できることは、既に述べた。リビング重合の1つの重要な特性は、単に、例えば反応混合物へのUV照射を止めることで反応を停止させ、後にそれを継続できる点にある。成長中のポリマー鎖の末端は、再度活性化されて新たな重合段階を開始できる開始剤を含んでいる。したがって、成長中のポリマー鎖は、他のモノマーにさらされることで、重合を継続することができ、結果としてブロックコポリマーが生成される。新しいモノマーは、新しい機能をポリマーに導入することができる。すなわち、第1のMIPによってもたらされる第1のテンプレートに対するアフィニティに加えて、延長されたポリマーは、系に導入された第2のテンプレートに対するアフィニティを有するものとして生成できる。延長されたブロックポリマーは、診断において有用な、末端基に取り付けられた蛍光タグを有することができる。殺菌性を有する活性種、触媒基、同位体ラベル、固定化、検出及び造影に有用な基(例えば造影剤)などをもたらす能力等の他の機能を導入するために、他の形態の変性をすることも可能である。これらの機能は、対応する機能化された開始剤を用いることで、ポリマーに導入することもできる。その変性は、固定されたテンプレートに粒子が結合した状態の表面上において直接達成でき、又は別個に達成できる。
【0033】
1つの態様では、本発明は、薬理学及び医療における薬としての、分析化学(センサー、分析)におけるレセプター特有のリガンドとしての、生物工学、薬理学及び食品産業における分離のための、そして触媒としての、合成された分子の応用に関する。合成されたポリマーは、その溶解可能な性質によって、薬としての使用に理想的な候補となる。酵素、レセプター又は他の生体分子への選択的な結合は、これらの分子の生物学的機能に影響を与えるために用いることができる。したがって、リビング重合によって合成されたMIPsは、生物学的プロセスの変調のためにインビボで使うことができる。同位体又は蛍光タグに結合する場合、MIPsは、選択的な造影剤として、又は他の形態の診断法で用いることができる。ある条件で、例えば1重項分子酸素を製造可能なリガンドと結合したMIPsは、選択的な殺菌剤として用いることができる。様々な他の変性が当業者によって提案されており、リビング重合によって調製されたMIPs中に抗生特性(antibiotic properties)を導入することができる。
【0034】
合成されたMIPsは、天然抗体又は種々の形態の分析及びセンサーにおけるレセプターのため代替品として用いることができる。幾つかの特徴により、リビング重合により調製されたMIPsは、特にセンサー用途として魅力的な対象となる。このようにして合成されたMIP分子は、ポリマーを固体の表面に共有結合的に結合させるために用いることができる開始剤を依然として含んでいる。したがって、二重結合で被われた表面にMIPsを結合させるためには、単純なUV照射で十分であろう。
【0035】
MIPリガンドを種々のアフィニティを有する幾つか留分に分割するためにアフィニティクロマトグラフィーを用いることができることは、検出範囲を変化させることによるセンサー/分析の製造のために有利である。幾つかの応用として、テンプレート非存在下でのリビング重合で調製したブランクポリマーを用いることもできる。しかしながら、あるアフィニティ又はこの特別な用途のために必要な他の特性を有するモノマーを用いて、そのようなポリマーを調製することが必要となるであろう。当業者は、例えば計算的な又は組合せ的な手法を用いて、この種のモノマーを選択する方法を知っている。MIPs及び対応する実施形態おいて説明した態様で調製されたブランクポリマーを用いることが本発明の範囲に包含されることを明らかにしなければならない。
【0036】
以下の非限定的な実施例を参照しつつ、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0037】
〔実施例1〕:メラミンとアフィニティを有するMIP粒子の合成
1.17gのアセトニトリル、0.32gのメタクリル酸、0.36gのトリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、0.36gのエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、0.087gのジエチルジチオカルバミン酸ベンジルエステル(リビング開始剤)及び0.02gのペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(連鎖移動剤)の混合物に窒素パージし、メラミンで誘導体化されたガラスビーズ(直径9〜13μm)が充填されたガラスカラム(70×4mm)内で、UV照射(強度0.163W/cmのUVAPRINT 100 CVI UV源、Dr.Honle)により3分間重合した。同じサイズの非誘導体化ガラスビーズでカラムが充填されていること以外は同様にして、ブランク(対照)粒子を合成した。重合後、カラムを1mlのアセトニトリルによって洗浄し、ナノ粒子及び未反応モノマーを溶出した。
得られた溶解可能なインプリントナノ粒子の平均径は60nmであった。平均径はNanosizer(マルバーンインスツルメント)の動的光散乱により算出した。3つの異なる実験における粒度分布を図3に示す。
【0038】
〔実施例2〕合成ポリマーのアフィニティ分離
a)アフィニティ吸着体の調製−テンプレートの固定
ガラスビーズを4M−NaOH中で10分間煮沸させることで活性化し、脱イオン水及びアセトンで洗浄し、その後80℃で2時間乾燥した。そのビーズを、(3−アミノプロピル)トリメトキシシランが2%v/vのトルエン中に3時間放置し、アセトンで洗浄し、グルタルアルデヒドが7%v/vのPBS(pH7.2)中に30分間置き、その後水で洗浄した。テンプレート(メラミン)を、N−メチル−2−ピロリドン(10%v/v)及びメラミンが0.1g/mlのPBS溶液(pH7.2)中に4時間放置することによって、ビーズの表面上に固定した。
メラミンで被覆された粒子は、インプリントナノ粒子の合成のため、及びアフィニティクロマトグラフィーのために用いた。
【0039】
b)アフィニティクロマトグラフィー
実施例1のガラスカラムから溶出されたサンプルを、0.22μmの細孔サイズを有するPTFEシリンジフィルタで濾過することによって、大きなポリマー集合体を取り除いた。その後、未反応モノマーを除去するために、濾液を10000Daカットオフの遠心分離機フィルタカートリッジに配置し、3000gで4時間遠心分離した。その後、粒子をアセトニトリル中に再懸濁し、アジレント(Agilent)1100シリーズHPLCを用いて、上記(実施例2a)で調製したアフィニティ吸着剤を充填したカラム(100×4.6mm)を有するHPLCでテストした。注入容量は40μlであり、使用した移動相は1ml/minのアセトニトリルであり、検出は210nmで行った。溶出を補助するための酸の使用を回避するために、分析は80℃で行った。MIPと対照ポリマーの両方を、同じようにして調製した。アフィニティ相上のブランク及びインプリント粒子の両方のクロマトグラムを、以下の図1及び図2に示す。
【0040】
〔実施例3〕メラミン用ナノ粒子の調製
ガラスビーズ(直径75μm)を4M−NaOH中で10分間煮沸させることで活性化し、再蒸留水及びアセトンで徹底的に洗浄し、80℃で2時間乾燥した。その後、ビーズを、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)が2%v/vのトルエン溶液中に夜通し放置し、アセトンで洗浄し、グルタルアルデヒド(GA)が5%v/vのPBS緩衝液(pH7.2)25ml中に1時間放置し、再蒸留水で洗浄した。N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が10%v/vで、メラミンが0.01g/mlのPBS(pH7.2)溶液中に、このビーズを4時間置くことにより、テンプレートを固定した。物理的に吸着された過剰なメラミンを、再蒸留水及びメタノールで洗浄することで除去した。誘導体化されたガラスビーズを、真空下で乾燥し、石英カラム(1.5mmの壁を含む外径6.4mm、長さ150mm)に充填した。0.32gのメタクリル酸(MAA)、0.36gのトリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、0.36gのエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、0.087gのN、N’−ジエチルジチオカルバミン酸ベンジルエステル及び0.02gのペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(CTA)を、1.17gのアセトニトリル(ACN)中で混合し、2分間窒素パージした。その後、500μlを、アフィニティ媒体を充填したカラムに注入し、366nmの紫外線(HB 171/A lamp、強度4×15W、フィリップス)下で2分間重合した。重合後、カラムを、HPLCシステム(Agilent1 100シリーズHPLC)に接続した。220nmでUV検出しながら、1ml/minの流量で溶出した。最初の90分間は、カラムを氷浴中で0℃に保ちつつ、ACNを移動相として使用した。その後の45分間は、移動相をギ酸(10mM)を含むACNに切り替え、温度を25℃に上げた。最後の35分間は、ナノ粒子の高アフィニティ留分の溶出を60℃で行った。非誘導体化ガラスビーズを使用したこと以外は、上記の通りにして、ブランクのナノ粒子を調製した。様々な留分中の合成ナノ粒子のサイズは、Nanosizer(マルバーンインスツルメント)の動的光散乱により算出したが、120〜460nmの間を変動した。
【0041】
〔実施例4〕ペプチド用ナノ粒子の調製
ガラスビーズ(直径75μm)を、4M−NaOH中で10分間煮沸させることで活性化し、再蒸留水及びアセトンで洗浄し、80℃で2時間乾燥した。その後、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)が2%v/vのトルエン溶液中に、そのビーズを夜通し放置し、その後アセトンで洗浄し、グルタルアルデヒド(GA)が7%v/vのPBS溶液(pH7.2)25ml中に1時間放置し、再蒸留水でリンスし、ペプチド(TATTSVLG−NH)が0.05mg/mlのPBS(pH7.2)溶液中に4時間放置した。その誘導体化されたビーズを再蒸留水で洗浄し、MIPナノ粒子の調製に利用した。19.5mgのN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)、1mgのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)、16.5mgのN−tert−ブチルアクリルアミド(TBAm)及び1.11μlのアクリル酸(AAc)を、10mgのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む50mlの水に溶かした。この溶液を10分間超音波処理し、30分間窒素パージした。この溶液の10mlを、4gの誘導体化されたビーズを含む20mlのねじ口瓶に入れた。60mg/mlの過硫酸アンモニウム(APS)100μlとN,N,N’,N’−テトラメチレンジアミン(TEMED)3μlを加えることによって重合を開始し、室温で22時間行った。MIP生成物及びアフィニティ媒体を含む瓶を氷中で10分間0℃に保ち、その後SPEカートリッジ中に投入して、ナノ粒子が付着したビーズを他の成分から分離した。毎回10mlの冷たい再蒸留水を用いて洗浄工程を5回行うことによって、低いアフィニティ又は全くアフィニティのない材料を除去した。ナノ粒子の高アフィニティ留分の溶出を、60℃でPBS(pH7.2)により行った。非誘導体化ガラスビーズを使用したこと以外は、上記の通りにして、ブランクのナノ粒子を調製した。様々な留分中の合成ナノ粒子のサイズは、Nanosizer(マルバーンインスツルメント)の動的光散乱により算出したが、30〜130nmの間を変動した。
【0042】
(合成ナノ粒子のアフィニティの分析)
金被覆チップ(SIA Kit Au)を、ピラニア溶液(HSO/H、3:1 v/v)に5分間浸漬することで洗浄した。その後、それらを再蒸留水及びエタノールで徹底的にリンスした。グリシンスペーサ(CGGGGTATTSVLG−NH)を有するペプチドテンプレートのチオレート化された誘導体、及びチオレート化された参照ペプチド(CQLPELKQKSS−NH)の固定化を、清浄された金チップ上に、PBS(pH7.4)中0.1mg/mlのペプチド溶液100μlを、25℃で15μl/min分の流量で注入することによって実行し、Biacore 3000 SPRを用いてオンラインで記録した。PBS(pH7.4)中、1:10、1:20、1:40、1:60、1:80及び1:100に希釈されたナノ粒子100μlを注入し(流量:15μl/min)、センサー応答を、Biacoreソフトウェアを用いて2分間分析した。見かけの解離定数K=2.5pMが、MIPナノ粒子とテンプレートペプチド(CGGGGTATTSVLG−NH)の間の相互作用について得られた。参照ペプチド(CQLPELKQKSS−NH)について記録された見かけの解離定数はK=3.3nMであり、これは、MIPナノ粒子がテンプレートペプチドに対して約1000倍特異的であることを示している。
【0043】
〔実施例5〕バンコマイシン用ナノ粒子の調製
ガラスビーズ(直径75μm)を4M−NaOH中で10分間煮沸させ、再蒸留水及びアセトンで洗浄し、80℃で2時間乾燥した。その後、ビーズを、(3−アミノプロピル)トリメトキシシランが2%v/vの溶液中に夜通し放置し、アセトンで洗浄し、グルタルアルデヒド(GA)が7%v/vのPBS緩衝液(pH7.2)中に1時間放置し、再蒸留水でリンスし、バンコマイシンHClが0.5mg/mlのPBS(pH7.2)中に4時間放置した。誘導体化されたビーズを再蒸留水で洗浄し、MIPナノ粒子の調製に利用した。19.5mgのN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)、1mgのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)、16.5mgのN−tert−ブチルアクリルアミド(TBAm)及び1.11μlのアクリル酸(AAc)を、10mgのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む50mlの水に溶かした。溶液を10分間超音波処理し、30分間窒素パージした。この溶液の50mlを、20gの誘導体化されたビーズを含む100mlのねじ口瓶に入れた。60mg/mlの過硫酸アンモニウム(APS)500μlとN,N,N’,N’−テトラメチレンジアミン(TEMED)3μlを加えることによって重合を開始し、室温で22時間行った。MIP生成物及びアフィニティ媒体を含む瓶を氷中で10分間0℃に保ち、その後SPEカートリッジ中に投入して、ナノ粒子が付着したビーズを他の成分から分離した。毎回20mlの冷たい再蒸留水を用いて洗浄工程を5回行い、低いアフィニティ又は全くアフィニティのない材料を除去した。その後、高アフィニティのナノ粒子を、60℃で20mlのPBS(pH7.2)の5つの留分を通過させことによって、アフィニティ媒体から分離した。クロロトリメチルシランによって誘導体化されたガラスビーズを使用したこと以外は同様にして、非インプリントナノ粒子を調製した。その結果得られた溶解可能なインプリントナノ粒子は、228nmの平均径を有していた。平均径は、マルバーンインスツルメント社(Malvern,UK)製のZetasizer Nano(Nano−S)を用いて、動的光散乱(DLS)により算出した。
【0044】
(合成ナノ粒子のアフィニティの分析)
Biacoreから購入した金被覆チップ(SIA Kit Au)を、ピラニア溶液(HSO/H、3:1 v/v)に5分間浸漬することで洗浄した。その後、それらを再蒸留水及びエタノールで徹底的にリンスし、4−アミノチオフェノールが0.2mg/mlのエタノール溶液中に4℃で24時間放置した。この後、チップを再蒸留水でリンスし、GAが7%v/vのPBS(pH7.2)溶液中に室温で1時間放置した。チップを更に再蒸留水でリンスし、バンコマイシンが1.2mg/mlのPBS(pH7.2)溶液中に室温で24時間放置し、Biacore 3000に結合した。ナノ粒子、及びPBS(pH7.4)中において1:10、1:100、1:1000、1:10000に希釈されたナノ粒子100μlを30℃で注入した(流量:15μl/min)。センサー応答を、Biacoreソフトウェアを用いて分析した。MIPナノ粒子についてのバンコマイシンの見かけの解離定数Kは、0.9nMであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液の状態又はコロイド懸濁液の状態で、分子インプリントポリマー(「MIP」)を調製する方法であって、
(a)その表面が露出するように、その上にテンプレート材料を固定したキャリア物質を提供する工程と、
(b)前記表面に接触するように重合性組成物を提供する工程と、
(c)前記表面に接触した前記重合性組成物の制御重合を行い、溶液又はコロイド懸濁液を生成可能なMIP粒子が生成されたときに、前記重合を停止する工程と、
(d)前記表面から前記MIP粒子を分離する工程と
を有する方法。
【請求項2】
前記表面から前記MIP粒子を分離する前記工程の後に、固定された前記テンプレート材料を有する前記キャリア物質を工程(b)、(c)及び(d)において再利用する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キャリア物質が、ポリマー樹脂、多糖、ガラス又は金属の表面である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリア物質が、ビーズ、導波路の表面、光ファイバーを含むファイバー、薄膜、又は毛細管である請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記表面から前記MIP粒子を分離する前記工程の後に、
(i)前記分離されたMIP粒子を含む溶液又は懸濁液を、表面が露出するように固定された前記テンプレート材料を有するキャリア物質に接触させて、その結果、前記MIP粒子を前記固定されたテンプレート材料に固着させ、(ii)固着されていない材料を前記キャリア物質から分離し、その後、(iii)MIP粒子を前記固定されたテンプレート材料から回収して、精製された溶液又はコロイド懸濁液を生成する精製工程(e)を、更に有する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
精製工程(e)で使用される前記キャリア物質が、請求項3又は4で定義されたものであり、工程(c)で使用される前記キャリア物質と同一又は異なる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記制御重合が、ラジカル重合である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記制御重合が、制御リビングラジカル重合(LRP)、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、及び制御重縮合から選択される請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記制御重合が、イニファーター媒介重合、ニトロキシド媒介重合(NMP)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、及び可逆的付加開裂型連鎖移動重合(RAFT)から選択される請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(c)において、500〜1,000,000ダルトンの範囲の分子質量を有する溶解可能なMIP粒子を製造するように、重合を停止する請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
工程(c)において、粒子径が1マイクロメートル未満でかつ溶液中で安定なコロイド粒子を製造するように、重合を停止する請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記重合性組成物が、ビニルモノマー、アリルモノマー、アセチレン、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、クロロアクリレート、イタコネート、トリフルオロメチルアクリレート、アミノ酸誘導体、ヌクレオシド、ヌクレオチド、及び炭水化物から選択される1つ又はそれより多いモノマーを含む請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記重合性組成物が、少なくとも1つの架橋剤を更に含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの架橋剤が、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、及びN,N’−ビスアクリロイルピペラジンから選択される請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記表面から前記MIP粒子を分離する前記工程(d)が、加熱、溶液pHの変更、イオン強度の変更により、又は尿素、グアニジン、若しくはMIPよりも強くテンプレートと相互作用する物質の添加により行われる請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
制御重合を行う前記工程(c)において逐次重合が採用され、そこでは、工程(b)で提供される前記重合性組成物が第1の重合工程で使用され、その後に別の重合性組成物が提供され、更に重合工程が実行されて、溶液又はコロイド懸濁液を依然として生成可能な変性MIP粒子を製造する請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程(c)の後に、洗浄によって前記固定されたテンプレート材料から固着が不十分な低アフィニティ材料を除去し、その後の工程(d)において、高アフィニティ粒子の溶出及び回収のために、より強い溶出条件を適用する請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
工程(c)において、モノマー混合物の希釈、低温での重合の実施、連鎖停止剤の添加、又は禁止剤の添加、の1つ以上を含む、溶解可能なコロイド微粒子の生成に有利に働く、重合条件が採用される請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
工程(c)において、加熱、UV光若しくは可視光の照射、マイクロ波の照射、電解重合、酸化、又は触媒の添加によって、重合が開始する請求項1〜18のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−512324(P2013−512324A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541572(P2012−541572)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【国際出願番号】PCT/GB2010/002213
【国際公開番号】WO2011/067563
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(504455403)クランフィールド ユニヴァーシティー (5)
【氏名又は名称原語表記】CRANFIELD UNIVERSITY
【Fターム(参考)】