説明

分岐構造を導入したポリアミド4共重合体及びその製造方法

【課題】高分子鎖構造と高分子鎖組成の制御をすることにより、物性(機械的性質、熱的性質)が改質されたポリアミド4共重合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより得られる、開始剤に由来する構造を含む特殊構造を有するポリアミド4共重合体および2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより、開始剤に由来する構造を含むポリアミド4共重合体を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子鎖構造と高分子鎖組成の制御により物性(機械的性質、熱的性質等)の改質が可能なポリアミド4共重合体に関するものである。本発明により得られるポリアミド4共重合体は高強度、高融点という優れた物性を有しているのでエンジニアリングプラスチックとしての利用が可能である。さらに土壌中や活性汚泥中の微生物により生分解され、原料モノマーである2-ピロリドンは環境適合性も高く広範囲な応用が可能である。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド4は1956年にWilliam O.Neyらにより、金属カリウムを塩基性触媒とし、アシル基を含む化合物を活性化剤として使用することにより、2-ピロリドンが活性化モノマー機構で開環重合することにより初めて合成された(特許文献1)。その手法を基にして、1950年代から1990年代にかけて断続的に高分子量化、多分散性制御、製造工程の簡素化を目的に、新規触媒系、重合方法、ε-カプロラクタムとの共重合化等の技術開発が行われてきた(非特許文献1−5)。総じて、汎用材料として線状ポリアミド4を工業生産し、経済的に有利な溶融成型により、繊維やフィルムにすることを目標にしていた。それらの研究の中には溶融紡糸が可能となった技術開発例もあったが、加工が難しいことやコスト面で課題があり実用化は断念されている。また、ポリアミド4は高融点という優れた熱的性質を有しているが、融点と熱分解温度が接近しているために、溶融成形が困難であるという欠点がある。
【0003】
特許文献2には、塩基性重合触媒および特殊構造または特殊官能基を持つカルボン酸系化合物を使用して2-ピロリドンを重合させることにより、高分子鎖中または高分子鎖末端に特殊構造もしくは官能基を有する2-ピロリドン重合体を製造できること、これにより2-ピロリドン重合体の熱安定性、成形加工性等の諸物性を制御、改善できることが記載されている。特許文献2では2-ピロリドンのホモポリマーについてのみ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許2,739,959号明細書
【特許文献2】特許第3453600号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chuchma, F. et al : Polymer, 24, 1491-1494(1983)
【非特許文献2】Kobayashi, F. et al : Journal of Polymer Science: Part A, 1, 111-123(1963)
【非特許文献3】Barzakay, S. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 4, 2211-2218(1966)
【非特許文献4】Bar-Zakay, S. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 5, 965-974(1967)
【非特許文献5】Tani, H. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 4, 301-318(1966)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は2-ピロリドンの開環重合が活性化モノマー機構で進行することにより、開始剤の構造がポリアミド4高分子鎖に導入できることを利用している。つまり、ポリアミド4高分子鎖に開始剤由来の特殊構造(分岐構造)と他のモノマー由来の構成単位(ε-カプロラクタム)とを共存させることで、高分子鎖構造と高分子鎖組成の制御をすることにより、物性(機械的性質、熱的性質)が改質されたポリアミド4共重合体およびその製造方法を提供することを主目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、2-ピロリドン(PRN)の重合の際に、塩基性重合触媒、分岐構造(2分岐以上)を有する開始剤を使用して、ε-カプロラクタム(CLM)との共重合を行うことによって、上記目的を達成することができるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のポリアミド4共重合体およびその製造方法を提供すものである。
項1.開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する2-ピロリドンとε-カプロラクタムの共重合体。
項2.前記開始剤由来の分岐構造が2分岐又は3分岐である項1記載の共重合体。
項3.前記開始剤が、テレフタロイルクロライド又は1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライドである項2記載の共重合体。
項4.2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより得られる、開始剤に由来する構造を含むことを特徴とする特殊構造を有するポリアミド4共重合体。
項5.前記2分岐以上の分岐構造を有する開始剤が、2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤である項4記載のポリアミド4共重合体。
項6.前記2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤が、テレフタロイルクロライド又は1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライドである項5記載のポリアミド4共重合体。
項7.2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより、開始剤に由来する構造を含むポリアミド4共重合体を得ることを特徴とする特殊構造を有するポリアミド4共重合体の製造方法。
項8.前記2分岐以上の分岐構造を有する開始剤として、2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤を用いる項7記載の特殊構造を有するポリアミド4共重合体の製造方法。
項9.前記2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤として、テレフタロイルクロライド又は1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライドを用いる項8記載の特殊構造を有するポリアミド4共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ポリアミド4高分子鎖に開始剤由来の特殊構造(分岐構造)と他のモノマー由来の構成単位(ε-カプロラクタム)とを共存させて、高分子鎖構造と高分子鎖組成の制御をすることにより、物性(機械的性質、熱的性質)の改質が可能となる。更に、本発明のポリアミド4共重合体は土壌中や活性汚泥中の微生物により生分解される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき詳述する。
【0010】
本発明の特殊構造を有するポリアミド4共重合体は、2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより得られる、開始剤に由来する構造を含むものである。
【0011】
また、本発明の特殊構造を有するポリアミド4共重合体の製造方法は、2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより、開始剤に由来する構造を含むポリアミド4共重合体を得る方法である。
【0012】
前記2-ピロリドンとε-カプロラクタムの配合割合は(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(99/1)〜(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(1/99)まで任意の割合が可能であり、その割合により得られたポリアミド4共重合体の物性を制御することができる。
【0013】
前記塩基性重合触媒としては、ラクタム類のアニオン重合法で一般的に用いられるアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物(水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等)、塩基性の有機金属化合物(n−ブチルリチウム等)等を使用できる。これらの中ではナトリウムが扱い易さや収率の点で好ましい。
【0014】
塩基性触媒の使用量は2-ピロリドンとε-カプロラクタムの合計量1 molに対して1.0〜18 mol%、好ましくは1.5〜9 mol%、更に好ましくは3〜4.5 mol%である。使用量が上記の下限および上限を超える場合でも重合は可能である。ただし、収率を高めるために工夫が必要と考えられる。
【0015】
使用する開始剤としてはカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸エステル等のカルボン酸誘導体や広義の活性化されたカルボン酸誘導体類が使用可能である。いくつかの具体例として、ベンゾイルクロライド(BzC)、テレフタロイルクロライド(Bz14DCC)、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド(Bz135TCC)、アセチルクロライド、ステアロイルクロライド、N-アセチル-ε-カプロラクタム(aCLM)等が挙げられる。ポリアミド4共重合体に導入しようとする構造を含む開始剤を用いればよい。
【0016】
特に2分岐以上の分岐構造を有する開始剤が好ましい。2分岐を有する開始剤としてテレフタロイルクロライドが、3分岐を有する開始剤として1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライドが挙げられる。
【0017】
前記開始剤の使用量は2-ピロリドンとε-カプロラクタムの合計量1 molに対して0.5〜16.5 mol%、好ましくは0.5〜7.5 mol%、更に好ましくは0.5〜3 mol%である。
【0018】
反応に際しては、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒を使用することもできる。この場合、開始剤を選択することにより(例:ステアロイルクロライド等)、分散重合が可能となり、粉状またはフレーク状のポリアミド4共重合体が得られる。一方、無溶媒でバルク重合を行う場合には、溶媒の除去が不要という利点があるが、塊状のポリアミド4共重合体が得られるので粉砕操作が必要となる。目的により、両手法を使い分ける必要がある。
【0019】
また、本発明方法においては、20〜180℃程度の条件で重合を行うことができる。より好ましくは50〜150℃程度、さらにより好ましくは75〜125℃程度の温度である。ただし、仕込みモノマーであるε-カプロラクタムの割合が高い場合はその融点以上にすることが必要である。
【0020】
また、発生する水素を除去するために、反応は減圧下で行うことが好ましい。
【0021】
このような条件で、2-ピロリドンに塩基性重合触媒を添加し、この塩基性重合触媒が反応して無くなった後、すなわち2〜4時間程度反応させた後、ε−カプロラクタムを加えて均一な反応混合物とする。なお、均一な反応混合物とするのに2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ナトリウムを同時に混合しても良い。さらにカルボン酸系化合物を添加して、12〜168時間程度反応させればよい。
【0022】
その後、生成した重合体を、常法に従い回収すればよい。
【0023】
ポリアミド4共重合体の機械的性質、熱的性質を制御する方法としては、2-ピロリドンとε-カプロラクタムの配合割合、塩基性触媒又は開始剤の種類、反応温度又は反応時間等を変更することが挙げられる。
【0024】
高分子鎖中に特殊構造を有するポリアミド4共重合体として以下のものを例示できる。2-ピロリドンの開環重合は活性化モノマー機構により進行し、重合生成物は開始剤の構造が反映されるため、単官能性開始剤では末端線状、二官能性開始剤では二方線状、三官能性開始剤では三方分岐型のポリアミド4共重合体を合成できる。これら二方線状又は三方分岐型のポリアミド4共重合体は、成形加工性や機械的強度に優れる高分子材料としてそのまま用いることができ、さらに他のプラスチックヘの添加剤として用いることにより、成形加工性や機械的強度の改善剤として使用できる。
【0025】
本発明のポリアミド4共重合体はランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれであってもよい。本発明のポリアミド4共重合体は生分解性を有している。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。
【0027】
以下の各実施例において、数平均分子量及び重量平均分子量は、高速GPCシステム(東ソー社製、(HLC-8220GPCシステム))により、ポリメチルメタクリレートを標準物質として用いて測定した結果から算出した。ポリマー組成比PRN/CLMは1HNMを測定し、CLMユニット由来のメチレンプロトンの強度とPRNユニット由来のメチレンプロトンの比を見積ることにより算出した。
【0028】
実施例1
三方分岐型ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。減圧装置の付いたフラスコに精製して水分を除去した2-ピロリドン3.40 g(40 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)を入れ、減圧下50℃で加熱してナトリウムを反応させた。ナトリウムが完全に反応した後、ε-カプロラクタム1.13 g(10 mmol)を加えて、均一な反応混合物とした(なお、均一な反応混合物とするのに2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ナトリウムを同時に混合しても良い。)。つづいて、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド0.066 g(0.25 mmol、アシル基として0.75 mmol)を加えて75℃で数時間減圧とし、アルゴン置換を行い、合計24時間程度、重合反応を行った。重合生成物はトリフルオロエタノールに溶解させ、ギ酸を使用してナトリウムによる塩基性を中和した後、ガラスフィルターでろ過して不溶物を除いた。得られた重合生成物の濾液を濃縮し、アセトンで沈澱させ、蒸留水、メタノールで洗浄することにより精製した。これにより淡赤色固体が2.37 g(収率52 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=90/10。重量平均分子量272×103。融点266℃。
【0029】
実施例2
三方分岐型ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン2.98 g(35 mmol)とε-カプロラクタム1.70 g(15 mmol)にナトリウム0.034 g(1.5 mmol)を入れ、減圧下50℃で加熱してナトリウムを反応させた。ナトリウムが完全に反応した後、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド0.066 g(0.25 mmol)を加えて75℃で数時間減圧とし、アルゴン置換を行い、合計24時間程度、重合反応を行った。精製は実施例1と同様の操作を行った。これにより淡赤色固体が2.16 g(収率46 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=78/22。重量平均分子量263×103。融点265℃。
【0030】
実施例3
三方分岐型ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン2.55 g(30 mmol)、ε-カプロラクタム2.26 g(20 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド0.066 g(0.25 mmol)を用いて、実施例2と同様の操作を行った。これにより象牙色固体が0.61 g(収率13 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=70/30。重量平均分子量83×103。融点155, 246℃(2つのピーク)。
【0031】
実施例4
三方分岐型ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン2.55 g(30 mmol)、ε-カプロラクタム2.26 g(20 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド0.066 g(0.25 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより淡橙色固体が1.01 g(収率21 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=59/41。重量平均分子量196×103。融点154℃。
【0032】
実施例5
三方分岐型ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン2.13 g(25 mmol)、ε-カプロラクタム2.83 g(25 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド0.066 g(0.25 mmol)を用いて、実施例2と同様の操作を行った。これにより象牙色固体が1.06 g(収率21 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=51/49。重量平均分子量240×103。融点158℃。
【0033】
実施例6
三方分岐型ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン1.70 g(20 mmol)、ε-カプロラクタム3.39 g(30 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド0.066 g(0.25 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより白色固体が1.00 g(収率19 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=40/60。重量平均分子量258×103。融点148, 156℃(2つのピーク)。
【0034】
実施例7
三方分岐型ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン3.83 g(45 mmol)、ε-カプロラクタム0.57 g(5 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライド0.066 g(0.25 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより淡赤色固体が2.46 g(収率56 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=96/4。重量平均分子量157×103。融点266℃。
【0035】
実施例8
二方線状ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン3.83 g(45 mmol)、ε-カプロラクタム0.57 g(5 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、テレフタロイルクロライド0.076 g(0.375 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより白色固体(粉末)が0.86 g(収率20 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=87/13。重量平均分子量47×103。融点253℃。
【0036】
実施例9
二方線状ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン3.40 g(40 mmol)、ε-カプロラクタム1.13 g(10 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、テレフタロイルクロライド0.076 g(0.375 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより淡赤色固体が0.90 g(収率20 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=72/28。重量平均分子量43×103。融点161, 256℃(2つのピーク)。
【0037】
実施例10
二方線状ポリアミド4共重合体は以下のように合成した。2-ピロリドン2.55 g(30 mmol)、ε-カプロラクタム2.26 g(20 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、テレフタロイルクロライド0.076g(0.375 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより白色固体(粉末)が1.76 g(収率37 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=66/34。重量平均分子量55×103。融点156℃、262℃(2つのピーク)。
【0038】
実施例11
対照として末端線状ポリアミド4共重合体を以下のように合成した。2-ピロリドン3.40 g(40 mmol)、ε-カプロラクタム0.57 g(5 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、ベンゾイルクロライド0.105 g(0.75 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより白色固体(粉末)が1.58 g(収率35 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=91/9。重量平均分子量28×103。融点265℃。
【0039】
実施例12
対照として末端線状ポリアミド4共重合体を以下のように合成した。2-ピロリドン3.83 g(45 mmol)、ε-カプロラクタム1.13 g(10 mmol)、ナトリウム0.034 g(1.5 mmol)、N-アセチル-ε-カプロラクタム0.116 g(0.75 mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。これにより淡赤色固体が1.28 g(収率29 %)得られた。ポリマー組成比PRN/CLM=90/10。重量平均分子量29×103。融点264℃。
【0040】
上記実施例1〜12および表の実験結果により、以下のことがわかる。(1)ポリアミド4共重合体の重量平均分子量は、単官能性開始剤を使用して合成した末端線状ポリアミド4共重合体に比べて、二官能性や三官能性開始剤を使用して合成した二方線状ポリアミド4共重合体、三方分岐型ポリアミド4共重合体の方が高くなる。特に、三官能性開始剤を使用した場合は、可溶性ミクロゲルが生成することが原因と考えられる高分子量化が起こる。(2)ポリアミド4共重合体の融点はその組成により熱的性質の調節が可能である。特に、ポリマー組成比でCLM含有率が40%を超える辺りから融点の低下が顕著となる。
【0041】
実施例13
上記の実施例に基づいて合成したポリアミド4共重合体を使用し、トリフルオロエタノールを溶媒として、溶媒キャスティング法によりフィルムを作成し、引張強度と破断伸度を測定した。対照試料である末端線状ポリアミド4共重合体は測定可能なフィルムが形成されなかった。しかし、二方線状ポリアミド4共重合体、三方分岐型ポリアミド4共重合体は良好なフィルムが形成された。
【0042】
実施例14
溶媒キャスティング法により作成したフィルムを厚さ53μm(平均)、長さ15 mm、幅5 mmの矩形型の試験片に加工した。 万能試験機(Auto com/AC-50、テイ・エス エンジニアリング)を用いて、引張強度、破断伸度を測定し、各試験片について15個の測定値を平均した(表参照)。
【0043】
単官能性開始剤を使用して合成した末端線状ポリアミド4共重合体に比べて、二官能性や三官能性開始剤を使用して合成した二方線状ポリアミド4共重合体、三方分岐型ポリアミド4共重合体は、力学的性質(引張強度、破断伸び)の改質が可能となることが確認できた。特に、三官能性開始剤を使用した場合は、分岐による絡み合いの効果に加えて、可溶性ミクロゲルが生成することが原因と考えられる高分子量化により、力学的性質が向上したものと考えられる。
【0044】
引張強度、破断伸度については、CLMユニットからなるポリアミド6は70〜83MPa、300%(MARUZEN高分子大辞典、丸善株式会社1994、p980)、PRNユニットからなるポリアミド4は72MPa、51%( Kawasaki, N. et al : Polymer: 46, 9987-9993(2005))というデータがあるが、CLMユニットとPRNユニットを含有する分岐構造を有するポリアミド4共重合体では引張強度は同程度からやや低下するものの、破断伸度は大幅に大きくなった。このことより、ポリアミド4の力学的性質である引張強度、破断伸度を改質する手法として、分岐構造を有して共重合化することは有効であることが分かった。
【0045】
実施例15
ポリアミド4共重合体の特徴である活性汚泥中における生分解性を以下のように調べた。無機培養液500 mlにポリマー試料200 mgを分散させ、(財)化学物質評価研究機構より提供された標準活性汚泥30 mlを加え、撹拌しながら二酸化炭素を除いた空気で曝気を行い、培養槽の排気をアルカリトラップ(0.025 N 水酸化ナトリウム水溶液)に通し、微生物の代謝により発生した二酸化炭素を捕捉した。発生二酸化炭素は無機炭素量として全有機炭素計(TOC-VCSH、島津製作所)を用いて4週間、1週ごとに測定した。ポリマー試料の生分解性は100 %分解した場合に発生する二酸化炭素量を理論値として以下の式により評価した(表参照)。
生分解(%) = 二酸化炭素(測定値)/二酸化炭素(理論値)×100
【0046】
表より、ポリアミド4共重合体の生分解性についての傾向を明らかにするには(分解実験条件が活性汚泥中の時々刻々と変化する微生物相に影響を受け、一定条件を維持するのが困難であるので)測定例を増やすことが必要ではあるが、少なくとも通常の条件では分解しにくいポリアミド6(CLM含有率100%)にPRNユニットを含有させることにより、生分解性の付与をすることが可能であることが分かる。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する、2-ピロリドンとε-カプロラクタムの共重合体。
【請求項2】
前記開始剤由来の分岐構造が2分岐又は3分岐である請求項1記載の共重合体。
【請求項3】
前記開始剤が、テレフタロイルクロライド又は1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライドである請求項2記載の共重合体。
【請求項4】
2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより得られる、開始剤に由来する構造を含むことを特徴とする特殊構造を有するポリアミド4共重合体。
【請求項5】
前記2分岐以上の分岐構造を有する開始剤が、2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤である請求項4記載のポリアミド4共重合体。
【請求項6】
前記2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤が、テレフタロイルクロライド又は1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライドである請求項5記載のポリアミド4共重合体。
【請求項7】
2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε-カプロラクタムとの共重合を行うことにより、開始剤に由来する構造を含むポリアミド4共重合体を得ることを特徴とする特殊構造を有するポリアミド4共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記2分岐以上の分岐構造を有する開始剤として、2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤を用いる請求項7記載の特殊構造を有するポリアミド4共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記2分岐又は3分岐の分岐構造を有する開始剤として、テレフタロイルクロライド又は1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロライドを用いる請求項8記載の特殊構造を有するポリアミド4共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2013−108098(P2013−108098A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−48254(P2013−48254)
【出願日】平成25年3月11日(2013.3.11)
【分割の表示】特願2007−338662(P2007−338662)の分割
【原出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】