分散型天然澗水豆腐凝固剤およびその製造方法
【課題】分散型天然澗水豆腐凝固剤およびその製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、粗製海水塩化マグネシウムのマグネシウム濃度を高濃度の飽和状態にし、低温で高速にて相転移を引き起こして安定した分散状態を長期に亘って維持する分散型豆腐凝固剤およびその製造方法に関する。本発明によれば、速効性凝固剤である塩化マグネシウムが主成分である天然澗水を油脂に微細且つ均一に分散させてＷ／Ｏ（Ｗａｔｅｒ ｉｎ Ｏｉｌ；油中水）状態で安定化させて、豆乳に添加するときに凝固速度を遅らせることができて良質の豆腐を生産することができる。なお、天然澗水を用いて、既存の量産型設備により高品質の豆腐を生産することができる。
【解決手段】本発明は、粗製海水塩化マグネシウムのマグネシウム濃度を高濃度の飽和状態にし、低温で高速にて相転移を引き起こして安定した分散状態を長期に亘って維持する分散型豆腐凝固剤およびその製造方法に関する。本発明によれば、速効性凝固剤である塩化マグネシウムが主成分である天然澗水を油脂に微細且つ均一に分散させてＷ／Ｏ（Ｗａｔｅｒ ｉｎ Ｏｉｌ；油中水）状態で安定化させて、豆乳に添加するときに凝固速度を遅らせることができて良質の豆腐を生産することができる。なお、天然澗水を用いて、既存の量産型設備により高品質の豆腐を生産することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は分散型天然澗水豆腐凝固剤およびその製造方法に係り、特に、低温で溶解度の差を用いて塩化マグネシウム以外の成分を最大限に除去し、低温で効果的に相転移を引き起こして油脂溶液中に天然澗水を超微細に分散させた遅効性豆腐凝固剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
豆腐の製造に際しては、澗水（かん水）、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムなどの２価イオンを持つ凝固剤若しくはグルコノデルタラクトン（ＧＤＬ）などの酸度調節剤を用いてｐＨを調節する方法と、加熱条件の調整などにより豆から分離した豆乳液を凝固させる方法と、が用いられてきている。中でも、塩化マグネシウムは、豆腐本然の風味を最も引き立たせる凝固剤である。韓国はもとより、日本国でも、高級豆腐はほとんど塩化マグネシウムを用いて製造している。
【０００３】
塩化マグネシウムは、塩化カルシウム、硫酸カルシウムやＧＤＬとは異なり、豆乳と混合したときに直ちに反応する速効性凝固剤である。現代式の豆腐量産ラインでは、豆乳と塩化マグネシウムとを混合した後、成形ラインに搬送する。搬送された液の流動が成形機において完全に止まり、定置状態になるまで少なくとも２分以上かかる。この時間が経過後に凝固反応が起きてはじめて、最大限の水分を吸収した弾力のある豆腐組織が形成され、少なくとも混合後３０秒ほどの凝固遅延効果が必要となる。
【０００４】
ところが、塩化マグネシウムそのものは豆乳との反応速度が速いため、混合後数秒内に凝固し始める。流動中に凝固が起こると、所々で不完全凝固が起きて豆腐の水抜きが激しく起こり、豆乳の歩留まりと弾力が大幅に悪化してしまうという問題がある。
【０００５】
このため、塩化マグネシウムは、「風味」という観点よりはかなりの強点を有する凝固剤ではあるものの、歩留まりや作業性などの観点よりはかなりきつい凝固剤であるといえる。
【０００６】
塩化マグネシウムを用いて風味と保水性を兼ね備えた豆腐を製造する方法を探るために鋭意努力されてきている。その代表例が、塩化マグネシウムを、乳化剤を用いて油脂でコーティングした「乳化凝固剤（ミルキーマグネシウム）」を用いる方法である。
【０００７】
この方法は、熱い豆乳（７５〜９２℃）に連続して乳化凝固剤を豆乳に添加しつつ高速（２、０００ｒｐｍ以上）にて微細且つ完全に混合するように講じられた装置を用いる。この方法が、最も手軽であり、歩留まりが高く、風味と組織など品質に優れた豆腐を製造することができて、量産型で最も好まれる方式である。
【０００８】
乳化凝固剤は、親水性の高いシュガーーエステル、ソルビタンエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどを用いて安定した乳化を維持することが最大の特徴である。
【０００９】
ところが、韓国では、インターネット媒体、言論媒体を通じて添加物がイッシュとなり、豆腐メーカーからは、天然、無添加マーケティングの一環として、乳化剤を用いることなく、合成添加物として登載されている塩化マグネシウムの代わりに、天然添加物として登載されている澗水（粗製海水塩化マグネシウム）を用いた凝固剤への需要が高い。
【００１０】
ところが、乳化剤を使用しない豆腐凝固剤は、常温で２〜３日内に層分離が起こり易いという問題点がある。しかも、一般澗水はＭｇの純度が低いため、さらに乳化の安定性に劣っている。塩化マグネシウムは純度が９９％以上であるのに対し、澗水の塩化マグネシウムの含量は２６〜６４％（無水物を基準として１２．０〜３０．０％）と低い。このため、マグネシウムに加えて、海水に存在する塩化ナトリウム（ＮａＣｌ）、硫酸イオン（ＳＯ４２−）、カルシウム（Ｃａ）、塩化カリウム（ＫＣｌ）などもかなり存在する。これらはいずれも乳化の安定性を落とす要素として働いて、乳化凝固剤の分離をなお一層促す。なお、冷蔵で流通しても賞味期間が１週間に過ぎず、需給が極めて困難である。さらに、塩化カリウム（ＫＣｌ）と硫酸イオン（ＳＯ４２−）は酸味を有しているため、豆腐の風味を悪化させる。
【００１１】
この理由から、製品の不安定性と、風味および組織が悪化するといった問題点を改善した新規な方式の安全性に優れた天然澗水を用いた遅効性凝固剤の開発が切望されている。これらの先行技術としては、速効性凝固剤の凝固遅延方法およびその方法を用いた豆腐の製造方法（例えば、下記の特許文献１参照）、豆腐製造用の凝固剤およびこの凝固剤を用いた豆腐の製造方法（例えば、下記の特許文献２参照）、豆腐製造用の凝固剤（例えば、下記の特許文献３参照）、豆腐用の凝固剤および豆腐用の凝固剤およびその製造方法（例えば、下記の特許文献４参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【００１２】
【特許文献１】大韓民国公開特許１０−２００５−００３７２４１
【特許文献２】大韓民国特許第１０−１９９８−００３９３２０
【特許文献３】大韓民国特許第１０−２００１−００３５６６１
【特許文献４】大韓民国特許第１０−２００５−００５４９５８
【特許文献５】大韓民国特許第１０−２０１０−００７２４５８
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【００１３】
本発明は前記諸欠点を解消するために鋭意努力して開発されたものであり、その目的は、塩化マグネシウム（合成添加物であり、添加物コーデックスに登載）の代わりに、粗製海水塩化マグネシウム（澗水、天然添加物として登載）を用いて、乳化剤を用いることなく、従来品に比べて流通期間を４倍以上延ばすことができ、作業性に優れている他、安定した分散型であり、しかも、常温での流通を可能にした分散型天然澗水豆腐凝固剤およびその製造方法を提供するところにある。
【００１４】
本発明の他の目的は、常温での流通を可能にした豆腐凝固剤およびその製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【００１５】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤の製造方法は、
海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造するステップと、
製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去し、塩化マグネシウムの含量が９０％以上である安定性の高い澗水を製造するステップと、
相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合するステップと、
前記混合ステップにおいて混合された混合物を前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高めるステップと、を含んでなることを特徴とする。
【００１６】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤の製造方法は、常温流通品にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ：Ｈｙｄｒｏｐｈｉｌｅ Ｌｉｐｏｈｉｌｅ Ｂａｌａｎｃｅ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合するステップをさらに含むことを特徴とする。
【００１７】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤は、海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造し、製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して、少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去して塩化マグネシウムの含量が９０％以上である分散安定化の高い澗水を製造し、相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合し、前記混合ステップにおいて混合された混合物を、前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高める豆腐凝固剤の製造方法により製造されることを特徴とする。
【００１８】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤は、常温での流通を可能にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【００１９】
本発明によれば、（１）天然澗水を用いても、塩化マグネシウムを用いた製品よりも安定した豆腐凝固剤が製造可能である。（２）分散安定性と風味を悪化させる硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）などが除去されて、風味のよい豆腐を製造することができる。（３）安定性に優れていることから、流通（賞味）期間中に凝固速度を一定に遅らせることができて、良質の豆腐を生産することができる。（４）乳化剤を用いることなく、天然澗水を用いて、冷蔵条件で３ヶ月間以上安定した分散型凝固剤を製造することができる。（５）常温で長期に亘って流通するためには乳化剤の使用を余儀なくされるが、製造工程および原料に安定性が確保された状態であるため、０．３〜２％の乳化剤の使用だけでも安定した乳化状態を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【００２０】
以下、本発明に係る豆腐凝固剤およびその製造方法を実施例を挙げて詳述する。
【００２１】
＜製造例＞
海から取水した海水を太陽熱と海風により１年以上長期に亘って徐々に濃縮して製造された、ＭｇＣｌ２の含量が５５％（固形分基準８０％）を超える予備澗水を０〜１０℃の範囲の低温状態の冷蔵庫で３日間保管しつつ、硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を析出（除去）してＭｇＣｌ２の含量が９０％（固形分基準）以上である澗水を製造する。
【００２２】
このようにして製造された澗水６０％と玄米油４０％とを混合して、混合物の品温を１５〜２０℃に維持しつつ低速攪拌機により攪拌して一定に混ぜ合わせる。
【００２３】
澗水と玄米油との混合物を高速攪拌機である５、０００ｒｐｍのホモミキサーにより攪拌して、相転移が起きた状態で油脂溶液に澗水を微細且つ均一に分布させる。１０分間攪拌した後、高圧均質機を用いて均質化させて粒子径を揃えて分散安定性を高める。このようにして製造された遅効性豆腐凝固剤は、豆腐の製造に供される。
【００２４】
＜実施例１＞
太陽熱と海風により１年以上長期に亘って徐々に濃縮して製造された、ＭｇＣｌ２の含量が５５％（固形分基準８０％）を超える澗水を０〜１０℃の低温状態の冷蔵庫で３日間保管しつつ、硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を析出（除去）してＭｇＣｌ２の含量が９５％（固形分基準）以上の澗水を製造し、製造された澗水６０％と玄米油４０％とを混合して、混合物の品温を１５〜２０℃に維持しつつ低速攪拌機により攪拌して一定に混ぜ合わせ、澗水と玄米油との混合物を高速攪拌機である５、０００ｒｐｍのホモミキサーにより攪拌して、相転移が起きた状態で油脂溶液に澗水を微細且つ均一に分布させ、これを１０分間攪拌した後、高圧均質機を用いて均質化させて粒子径を揃えて分散安定性を高めた豆腐凝固剤を得た。
【００２５】
＜実施例２＞
太陽熱と海風により１年以上長期に亘って徐々に濃縮して製造された、ＭｇＣｌ２の含量が５５％（固形分基準８０％）を超える澗水を０〜１０℃の低温状態の冷蔵庫で３日間保管する低温熟成過程を経ることなく直接的に使用する以外は、前記実施例１の方法と同様にして遅効性豆腐凝固剤を製造した。
【００２６】
＜実施例３＞
高速攪拌の前に、油脂（玄米油）にＨＬＢ値が１０以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを０．４％添加する以外は、実施例１の方法と同様にして遅効性豆腐凝固剤を製造した。
【００２７】
＜実施例４＞
高速攪拌の前に、油脂（玄米油）にＨＬＢ値が１０以上のデカセリン脂肪酸エステルを１％添加する以外は、実施例１の方法と同様にして遅効性豆腐凝固剤を製造した。
【００２８】
＜比較例＞
澗水を４０％の水に希釈して豆腐凝固剤を製造した。
【００２９】
＜試験例１＞
前記実施例および比較例に従い製造された凝固剤を通常の豆腐の製造方法に従い１２Ｂｒｉｘの豆乳に添加し、高速攪拌機により３、０００ｒｐｍにて混合して豆腐を製造した。このとき、凝固剤の添加量はいずれも豆乳１ｌに対して１０ｇであった。試験結果を下記表１に示す。
【００３０】
【表１】
【００３１】
量産型豆腐生産ラインでは凝固開始時間が３０秒以上かかるのに対し、本発明に係る凝固剤は、比較例に比べて、いずれも３０秒以上の凝固時間がかかっていることが確認できた。
【００３２】
＜試験例２＞
試験方法は、前記実施例１〜４に従い製造された本発明品と対照品（比較例）のそれぞれの試料を同時に提供し、前の試料に対する官能特性が次の試料に影響することを防ぐために、各試料の評価前には、パネラーに口を濯がせて１０分間休憩させた後に、次の試料に対して下記の項目についての官能試験を行わせた。その結果を下記表２に示す。
【００３３】
【表２】
【００３４】
本発明に係る凝固剤を用いて豆腐を製造する場合、上記の実施例から明らかなように、豆腐の製造に際して豆腐の凝固速度を調節して生産性および品質に優れた豆腐を生産することができるだけではなく、特別な設備や熟練技術がなくても種々の豆腐を製造することができる。なお、速効性凝固剤（塩化マグネシウム）を用いる場合と同様の風味を有する豆腐を製造することができるということも上記表２から十分に確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【００３５】
本発明は、天然澗水を用いて、既存の量産ラインの生産条件や設備を変えることなく安定して高品質の豆腐を生産することができるという産業上の利点がある。
【００３６】
以上、本発明の好適な実施形態を詳述したが、当該技術分野における熟練者であれば、特許請求の範囲に記載の本発明の思想および領域から逸脱しない範囲内において本発明を種々に修正および変更することが可能であるということが理解できるであろう。
【技術分野】
【０００１】
本発明は分散型天然澗水豆腐凝固剤およびその製造方法に係り、特に、低温で溶解度の差を用いて塩化マグネシウム以外の成分を最大限に除去し、低温で効果的に相転移を引き起こして油脂溶液中に天然澗水を超微細に分散させた遅効性豆腐凝固剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
豆腐の製造に際しては、澗水（かん水）、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムなどの２価イオンを持つ凝固剤若しくはグルコノデルタラクトン（ＧＤＬ）などの酸度調節剤を用いてｐＨを調節する方法と、加熱条件の調整などにより豆から分離した豆乳液を凝固させる方法と、が用いられてきている。中でも、塩化マグネシウムは、豆腐本然の風味を最も引き立たせる凝固剤である。韓国はもとより、日本国でも、高級豆腐はほとんど塩化マグネシウムを用いて製造している。
【０００３】
塩化マグネシウムは、塩化カルシウム、硫酸カルシウムやＧＤＬとは異なり、豆乳と混合したときに直ちに反応する速効性凝固剤である。現代式の豆腐量産ラインでは、豆乳と塩化マグネシウムとを混合した後、成形ラインに搬送する。搬送された液の流動が成形機において完全に止まり、定置状態になるまで少なくとも２分以上かかる。この時間が経過後に凝固反応が起きてはじめて、最大限の水分を吸収した弾力のある豆腐組織が形成され、少なくとも混合後３０秒ほどの凝固遅延効果が必要となる。
【０００４】
ところが、塩化マグネシウムそのものは豆乳との反応速度が速いため、混合後数秒内に凝固し始める。流動中に凝固が起こると、所々で不完全凝固が起きて豆腐の水抜きが激しく起こり、豆乳の歩留まりと弾力が大幅に悪化してしまうという問題がある。
【０００５】
このため、塩化マグネシウムは、「風味」という観点よりはかなりの強点を有する凝固剤ではあるものの、歩留まりや作業性などの観点よりはかなりきつい凝固剤であるといえる。
【０００６】
塩化マグネシウムを用いて風味と保水性を兼ね備えた豆腐を製造する方法を探るために鋭意努力されてきている。その代表例が、塩化マグネシウムを、乳化剤を用いて油脂でコーティングした「乳化凝固剤（ミルキーマグネシウム）」を用いる方法である。
【０００７】
この方法は、熱い豆乳（７５〜９２℃）に連続して乳化凝固剤を豆乳に添加しつつ高速（２、０００ｒｐｍ以上）にて微細且つ完全に混合するように講じられた装置を用いる。この方法が、最も手軽であり、歩留まりが高く、風味と組織など品質に優れた豆腐を製造することができて、量産型で最も好まれる方式である。
【０００８】
乳化凝固剤は、親水性の高いシュガーーエステル、ソルビタンエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどを用いて安定した乳化を維持することが最大の特徴である。
【０００９】
ところが、韓国では、インターネット媒体、言論媒体を通じて添加物がイッシュとなり、豆腐メーカーからは、天然、無添加マーケティングの一環として、乳化剤を用いることなく、合成添加物として登載されている塩化マグネシウムの代わりに、天然添加物として登載されている澗水（粗製海水塩化マグネシウム）を用いた凝固剤への需要が高い。
【００１０】
ところが、乳化剤を使用しない豆腐凝固剤は、常温で２〜３日内に層分離が起こり易いという問題点がある。しかも、一般澗水はＭｇの純度が低いため、さらに乳化の安定性に劣っている。塩化マグネシウムは純度が９９％以上であるのに対し、澗水の塩化マグネシウムの含量は２６〜６４％（無水物を基準として１２．０〜３０．０％）と低い。このため、マグネシウムに加えて、海水に存在する塩化ナトリウム（ＮａＣｌ）、硫酸イオン（ＳＯ４２−）、カルシウム（Ｃａ）、塩化カリウム（ＫＣｌ）などもかなり存在する。これらはいずれも乳化の安定性を落とす要素として働いて、乳化凝固剤の分離をなお一層促す。なお、冷蔵で流通しても賞味期間が１週間に過ぎず、需給が極めて困難である。さらに、塩化カリウム（ＫＣｌ）と硫酸イオン（ＳＯ４２−）は酸味を有しているため、豆腐の風味を悪化させる。
【００１１】
この理由から、製品の不安定性と、風味および組織が悪化するといった問題点を改善した新規な方式の安全性に優れた天然澗水を用いた遅効性凝固剤の開発が切望されている。これらの先行技術としては、速効性凝固剤の凝固遅延方法およびその方法を用いた豆腐の製造方法（例えば、下記の特許文献１参照）、豆腐製造用の凝固剤およびこの凝固剤を用いた豆腐の製造方法（例えば、下記の特許文献２参照）、豆腐製造用の凝固剤（例えば、下記の特許文献３参照）、豆腐用の凝固剤および豆腐用の凝固剤およびその製造方法（例えば、下記の特許文献４参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【００１２】
【特許文献１】大韓民国公開特許１０−２００５−００３７２４１
【特許文献２】大韓民国特許第１０−１９９８−００３９３２０
【特許文献３】大韓民国特許第１０−２００１−００３５６６１
【特許文献４】大韓民国特許第１０−２００５−００５４９５８
【特許文献５】大韓民国特許第１０−２０１０−００７２４５８
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【００１３】
本発明は前記諸欠点を解消するために鋭意努力して開発されたものであり、その目的は、塩化マグネシウム（合成添加物であり、添加物コーデックスに登載）の代わりに、粗製海水塩化マグネシウム（澗水、天然添加物として登載）を用いて、乳化剤を用いることなく、従来品に比べて流通期間を４倍以上延ばすことができ、作業性に優れている他、安定した分散型であり、しかも、常温での流通を可能にした分散型天然澗水豆腐凝固剤およびその製造方法を提供するところにある。
【００１４】
本発明の他の目的は、常温での流通を可能にした豆腐凝固剤およびその製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【００１５】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤の製造方法は、
海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造するステップと、
製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去し、塩化マグネシウムの含量が９０％以上である安定性の高い澗水を製造するステップと、
相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合するステップと、
前記混合ステップにおいて混合された混合物を前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高めるステップと、を含んでなることを特徴とする。
【００１６】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤の製造方法は、常温流通品にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ：Ｈｙｄｒｏｐｈｉｌｅ Ｌｉｐｏｈｉｌｅ Ｂａｌａｎｃｅ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合するステップをさらに含むことを特徴とする。
【００１７】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤は、海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造し、製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して、少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去して塩化マグネシウムの含量が９０％以上である分散安定化の高い澗水を製造し、相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合し、前記混合ステップにおいて混合された混合物を、前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高める豆腐凝固剤の製造方法により製造されることを特徴とする。
【００１８】
上記の目的を達成するために、本発明に係る豆腐凝固剤は、常温での流通を可能にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【００１９】
本発明によれば、（１）天然澗水を用いても、塩化マグネシウムを用いた製品よりも安定した豆腐凝固剤が製造可能である。（２）分散安定性と風味を悪化させる硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）などが除去されて、風味のよい豆腐を製造することができる。（３）安定性に優れていることから、流通（賞味）期間中に凝固速度を一定に遅らせることができて、良質の豆腐を生産することができる。（４）乳化剤を用いることなく、天然澗水を用いて、冷蔵条件で３ヶ月間以上安定した分散型凝固剤を製造することができる。（５）常温で長期に亘って流通するためには乳化剤の使用を余儀なくされるが、製造工程および原料に安定性が確保された状態であるため、０．３〜２％の乳化剤の使用だけでも安定した乳化状態を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【００２０】
以下、本発明に係る豆腐凝固剤およびその製造方法を実施例を挙げて詳述する。
【００２１】
＜製造例＞
海から取水した海水を太陽熱と海風により１年以上長期に亘って徐々に濃縮して製造された、ＭｇＣｌ２の含量が５５％（固形分基準８０％）を超える予備澗水を０〜１０℃の範囲の低温状態の冷蔵庫で３日間保管しつつ、硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を析出（除去）してＭｇＣｌ２の含量が９０％（固形分基準）以上である澗水を製造する。
【００２２】
このようにして製造された澗水６０％と玄米油４０％とを混合して、混合物の品温を１５〜２０℃に維持しつつ低速攪拌機により攪拌して一定に混ぜ合わせる。
【００２３】
澗水と玄米油との混合物を高速攪拌機である５、０００ｒｐｍのホモミキサーにより攪拌して、相転移が起きた状態で油脂溶液に澗水を微細且つ均一に分布させる。１０分間攪拌した後、高圧均質機を用いて均質化させて粒子径を揃えて分散安定性を高める。このようにして製造された遅効性豆腐凝固剤は、豆腐の製造に供される。
【００２４】
＜実施例１＞
太陽熱と海風により１年以上長期に亘って徐々に濃縮して製造された、ＭｇＣｌ２の含量が５５％（固形分基準８０％）を超える澗水を０〜１０℃の低温状態の冷蔵庫で３日間保管しつつ、硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を析出（除去）してＭｇＣｌ２の含量が９５％（固形分基準）以上の澗水を製造し、製造された澗水６０％と玄米油４０％とを混合して、混合物の品温を１５〜２０℃に維持しつつ低速攪拌機により攪拌して一定に混ぜ合わせ、澗水と玄米油との混合物を高速攪拌機である５、０００ｒｐｍのホモミキサーにより攪拌して、相転移が起きた状態で油脂溶液に澗水を微細且つ均一に分布させ、これを１０分間攪拌した後、高圧均質機を用いて均質化させて粒子径を揃えて分散安定性を高めた豆腐凝固剤を得た。
【００２５】
＜実施例２＞
太陽熱と海風により１年以上長期に亘って徐々に濃縮して製造された、ＭｇＣｌ２の含量が５５％（固形分基準８０％）を超える澗水を０〜１０℃の低温状態の冷蔵庫で３日間保管する低温熟成過程を経ることなく直接的に使用する以外は、前記実施例１の方法と同様にして遅効性豆腐凝固剤を製造した。
【００２６】
＜実施例３＞
高速攪拌の前に、油脂（玄米油）にＨＬＢ値が１０以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを０．４％添加する以外は、実施例１の方法と同様にして遅効性豆腐凝固剤を製造した。
【００２７】
＜実施例４＞
高速攪拌の前に、油脂（玄米油）にＨＬＢ値が１０以上のデカセリン脂肪酸エステルを１％添加する以外は、実施例１の方法と同様にして遅効性豆腐凝固剤を製造した。
【００２８】
＜比較例＞
澗水を４０％の水に希釈して豆腐凝固剤を製造した。
【００２９】
＜試験例１＞
前記実施例および比較例に従い製造された凝固剤を通常の豆腐の製造方法に従い１２Ｂｒｉｘの豆乳に添加し、高速攪拌機により３、０００ｒｐｍにて混合して豆腐を製造した。このとき、凝固剤の添加量はいずれも豆乳１ｌに対して１０ｇであった。試験結果を下記表１に示す。
【００３０】
【表１】
【００３１】
量産型豆腐生産ラインでは凝固開始時間が３０秒以上かかるのに対し、本発明に係る凝固剤は、比較例に比べて、いずれも３０秒以上の凝固時間がかかっていることが確認できた。
【００３２】
＜試験例２＞
試験方法は、前記実施例１〜４に従い製造された本発明品と対照品（比較例）のそれぞれの試料を同時に提供し、前の試料に対する官能特性が次の試料に影響することを防ぐために、各試料の評価前には、パネラーに口を濯がせて１０分間休憩させた後に、次の試料に対して下記の項目についての官能試験を行わせた。その結果を下記表２に示す。
【００３３】
【表２】
【００３４】
本発明に係る凝固剤を用いて豆腐を製造する場合、上記の実施例から明らかなように、豆腐の製造に際して豆腐の凝固速度を調節して生産性および品質に優れた豆腐を生産することができるだけではなく、特別な設備や熟練技術がなくても種々の豆腐を製造することができる。なお、速効性凝固剤（塩化マグネシウム）を用いる場合と同様の風味を有する豆腐を製造することができるということも上記表２から十分に確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【００３５】
本発明は、天然澗水を用いて、既存の量産ラインの生産条件や設備を変えることなく安定して高品質の豆腐を生産することができるという産業上の利点がある。
【００３６】
以上、本発明の好適な実施形態を詳述したが、当該技術分野における熟練者であれば、特許請求の範囲に記載の本発明の思想および領域から逸脱しない範囲内において本発明を種々に修正および変更することが可能であるということが理解できるであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造するステップと、
製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去し、塩化マグネシウムの含量が９０％以上である安定性の高い澗水を製造するステップと、
相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合するステップと、
前記混合ステップにおいて混合された混合物を前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高めるステップと、
を含んでなることを特徴とする分散型天然澗水豆腐凝固剤の製造方法。
【請求項２】
常温流通品にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合するステップをさらに含むことを特徴とする請求項１に記載の分散型天然澗水豆腐凝固剤の製造方法。
【請求項３】
海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造し、製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して、少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去して塩化マグネシウムの含量が９０％以上である分散安定化の高い澗水を製造し、相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合し、前記混合ステップにおいて混合された混合物を、前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高める豆腐凝固剤の製造方法により製造されたことを特徴とする分散型天然澗水豆腐凝固剤。
【請求項４】
常温での流通を可能にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合することを特徴とする 請求項３に記載の分散型天然澗水豆腐凝固剤。
【請求項１】
海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造するステップと、
製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去し、塩化マグネシウムの含量が９０％以上である安定性の高い澗水を製造するステップと、
相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合するステップと、
前記混合ステップにおいて混合された混合物を前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高めるステップと、
を含んでなることを特徴とする分散型天然澗水豆腐凝固剤の製造方法。
【請求項２】
常温流通品にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合するステップをさらに含むことを特徴とする請求項１に記載の分散型天然澗水豆腐凝固剤の製造方法。
【請求項３】
海水から１年以上太陽熱を用いて徐々にＣａＳＯ４、ＮａＣｌなどの溶解度が低い部分を除去（析出）して予備澗水を製造し、製造された予備澗水を２日以上低温（０〜１０℃）保管して、少量残留している硫酸イオン（ＳＯ４２−）、塩化カリウム（ＫＣｌ）を除去して塩化マグネシウムの含量が９０％以上である分散安定化の高い澗水を製造し、相転移が起こる１０〜２０℃で澗水と油脂溶液とを５０：５０〜７０：３０％の割合にて均一に混合し、前記混合ステップにおいて混合された混合物を、前記温度よりも低い温度で高速攪拌機にて高速攪拌して、澗水と油脂との混合物に高速にて相転移が起こるようにし、相転移された混合物を高圧均質機により均質化させて粒度を均一にして分散安定性を高める豆腐凝固剤の製造方法により製造されたことを特徴とする分散型天然澗水豆腐凝固剤。
【請求項４】
常温での流通を可能にしたいときには、高速攪拌の前に親水親油バランス（ＨＬＢ）値が１０以上の乳化剤を０．３〜２％混合することを特徴とする 請求項３に記載の分散型天然澗水豆腐凝固剤。
【公開番号】特開２０１２−２１７４５１（Ｐ２０１２−２１７４５１Ａ）
【公開日】平成２４年１１月１２日（２０１２．１１．１２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１２−８３６３８（Ｐ２０１２−８３６３８）
【出願日】平成２４年４月２日（２０１２．４．２）
【出願人】（５１２０８５９５７）ソウル パフューマリー カンパニー，リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Ｓｅｏｕｌ Ｐｅｒｆｕｍｅｒｙ Ｃｏ．，Ｌｔｄ．
【住所又は居所原語表記】３０６ Ｓｉｎｂａｎｐｏ−ｒｏ（Ｂａｎｐｏ−ｄｏｎｇ），Ｓｅｏｃｈｏ−ｇｕ，Ｓｅｏｕｌ，Ｒｅｐｕｂｌｉｃ ｏｆ Ｋｏｒｅａ
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２４年１１月１２日（２０１２．１１．１２）
【国際特許分類】
【出願日】平成２４年４月２日（２０１２．４．２）
【出願人】（５１２０８５９５７）ソウル パフューマリー カンパニー，リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Ｓｅｏｕｌ Ｐｅｒｆｕｍｅｒｙ Ｃｏ．，Ｌｔｄ．
【住所又は居所原語表記】３０６ Ｓｉｎｂａｎｐｏ−ｒｏ（Ｂａｎｐｏ−ｄｏｎｇ），Ｓｅｏｃｈｏ−ｇｕ，Ｓｅｏｕｌ，Ｒｅｐｕｂｌｉｃ ｏｆ Ｋｏｒｅａ
【Ｆターム（参考）】
[ Back to top ]