説明

分散染料組成物、及び疎水性繊維材料の着色方法

【課題】 赤色分散染料や青色分散染料との相容性が良好である三原色用の黄色分散染料の提供。
【解決手段】 化合物(I)と化合物(II)を含み、化合物(I)と化合物(II)との重量比が(95〜30):(5〜70)であることを特徴とする黄色分散染料組成物。


(I)[式中、Xは水素、塩素又は臭素原子を、R、Rは、水素原子、シアノ基、ベンゾイルオキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基を表す。]


(II)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性繊維材料を黄色に着色する際に有用な分散染料組成物、及び疎水性繊維材料の着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下式(I)で示されるモノアゾ系化合物はC.I.Disperse Orange 30及びC.I.Disperse Yellow 54として公知である(非特許文献1、755頁及び728頁を参照)。また、下式(II)で示される複素環化合物は特許文献1の3頁に記載されている。
【0003】

(I)
[式中、Xは水素原子、塩素原子又は臭素原子を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ベンゾイルオキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基を表す。該アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルは、炭素数1〜3のアルキルである。]
【0004】

(II)
【0005】
[式中、( )内の複素環骨格において、2個のベンゼン環を構成する炭素原子及びピリジン環の炭素原子には、合計で臭素原子の1〜2個が結合していてもよい。]
【0006】
【特許文献1】特開平2−170861号公報
【非特許文献1】「新版 染料便覧(昭和45年7月20日丸善株式会社発行)」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記モノアゾ系化合物(I)の単独を用いて疎水性繊維材料を吸尽染色すると、高いカラーバリューを有する着色物が得られる。しかしながら、モノアゾ系化合物(I)を中濃色三原色用の黄色分散染料として、通常併用される青色分散染料や赤色分散染料と配合して疎水性繊維材料を吸尽染色すると、相容性(各色染料における染着速度の揃い具合)が悪いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、疎水性繊維材料を着色する際の三原色用黄色分散染料として、通常併用される赤色分散染料や青色分散染料との相容性が良好である三原色用の黄色分散染料組成物を提供することにある。
【0009】
そこで、本発明者らは、疎水性繊維材料を着色する際の三原色用黄色分散染料として前記モノアゾ系化合物(I)を用いた場合の相容性を改良すべく鋭意検討した結果、特定の化合物を一定比率の範囲で配合すると、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、式(I)で示されるモノアゾ系化合物の1種以上と式(II)で示される複素環化合物の1種以上とを含み、前記モノアゾ系化合物の1種以上と複素環化合物の1種以上との重量比が(95〜30):(5〜70)であることを特徴とする黄色分散染料組成物を提供するものである。また、本発明は、上記の黄色分散染料組成物を用いることを特徴とする疎水性繊維材料の着色方法を提供するものである。
【0010】

(I)
[式中、Xは水素原子、塩素原子又は臭素原子を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ベンゾイルオキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基を表す。該アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルは、炭素数1〜3のアルキルである。]
【0011】

(II)
[式中、( )内の複素環骨格において、2個のベンゼン環を構成する炭素原子及びピリジン環の炭素原子には、合計で臭素原子の1〜2個が結合していてもよい。]
【発明の効果】
【0012】
本発明の黄色分散染料組成物は、赤色分散染料や青色分散染料と併用して中濃色三原色用の分散染料組成物とした際に、青色分散染料や赤色分散染料との相容性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
上式(I)で示される化合物において、Xは水素原子、塩素原子又は臭素原子を表す。式(I)で示される化合物においては、前記のXが塩素原子である化合物が好ましい。
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ベンゾイルオキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基を表す。該アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルは、炭素数1〜3のアルキルである。
好ましいR及びRとしては、水素原子、シアノ基、ベンゾイルオキシ基又はアセチルオキシ基が挙げられる。式(I)で示される化合物の具体例としては、下式(IV)〜(VIII)で示される化合物が挙げられる。
【0014】

(IV)
【0015】

(V)
【0016】

(VI)
【0017】

(VII)
【0018】

(VIII)
【0019】
本発明における黄色分散染料組成物は、モノアゾ系化合物(I)の1種以上と複素環化合物(II)の1種以上とを含み、モノアゾ系化合物(I)の含有量が95〜30重量%であり、複素環化合物(II)の含有量が5〜70重量%である。
【0020】
式(II)で示される化合物としては、例えば、式(III)で示される化合物、下式(IX)で示される化合物、下式(X)で示される化合物や下式(XI)で示される化合物等が例示される。
【0021】

(III)
【0022】

(IX)
【0023】

(X)
【0024】

(XI)
【0025】
式(II)で示される化合物としては、上記化合物(III)や化合物(IX)〜(XI)を単独で用いてもよく、前記化合物(III)や化合物(IX)〜(XI)を配合して混合物として用いてもよい。これらの化合物を混合物として用いる場合の比率は、通常、化合物(III)と化合物(IX)〜(XI)とが、重量比で(0.5〜30.0):(99.5〜70.0)の範囲である。
【0026】
本発明の黄色分散染料組成物は、モノアゾ系化合物(I)と複素環化合物(II)を所定の割合に混合することにより得られる。混合方法としては、例えば、上記の化合物(I)と化合物(II)を後述する分散剤でそれぞれ個別に分散処理した後、該分散化された分散染料をそれぞれ所定の割合で混合する方法が挙げられる。
また、本発明の黄色分散染料組成物は、上記方法で得た分散処理後の染料を染色浴中で所定の割合に混合して調製してもよい。
【0027】
モノアゾ系化合物(I)や複素環化合物(II)の分散化は、例えば、水性媒体中で分散剤の存在下にサンドミルを使用して行うことができる。分散剤としては、ナフタリンスルホン酸のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸やクレゾール・シェーファー酸のホルマリン縮合物等のアニオン界面活性剤が挙げられる。分散化処理においては、必要に応じて、ノニオン界面活性剤を上記のアニオン界面活性剤と併用してもよい。該ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。
得られた分散液は液体状で用いてもよく、上記液体状分散液を噴霧乾燥等により乾燥して粉体又は顆粒状として用いてもよい。
【0028】
また、本発明の分散染料組成物は、性能を損なわない範囲で、モノアゾ系化合物(I)や複素環化合物(II)以外の分散染料化合物、例えば、公知のアゾベンゼン系分散染料やアントラキノン系分散染料等の分散染料と混合して、色相の調整を行ってもよい。
色相の調整に好適な染料としては、例えば、カラーインデックス ジェネリックネーム ディスパースイエロー114、同イエロー119、同イエロー122、同イエロー149、同イエロー192、同イエロー198、同イエロー211、同イエロー226、同イエロー227、同イエロー23、同イエロー42、同イエロー49、同イエロー58、同イエロー71、同イエロー79や同イエロー93;同オレンジ118、同オレンジ29や同オレンジ32等が挙げられる。
さらに、本発明の黄色分散染料組成物は、色相調整用の上記分散染料化合物以外に、上記ノニオン界面活性剤等の分散剤、増量剤、pH調整剤、分散均染剤、ビルダー、染色助剤、樹脂バインダーや沸点が100℃以上である有機溶剤等を含有してもよい。
【0029】
本発明の黄色分散染料組成物は、ポリエステル、トリアセテート、ジアセテートやポリアミド等の疎水性繊維材料を染色又は捺染する分散染料として有用である。
上記の疎水性繊維材料を染色するにあたっては、本発明の黄色分散染料組成物を水性媒体中に分散させた染色浴に、必要に応じて、pH調整剤や分散均染剤等を加えた後、疎水性繊維材料をこの染色浴に浸漬して、例えば、ポリエステル繊維の場合は加圧下で通常100℃以上、好ましくは105〜140℃で15〜60分間染色する。この染色時間は、染着の状態により短縮又は延長することができる。
また、本発明の黄色分散染料組成物を用いて前記の疎水性繊維材料を染色するにあたっては、o−フェニルフェノールやメチルナフタレン等のキャリアーの存在下で、例えば水を沸騰させた状態で染色することもできる。さらに、本発明の黄色分散染料組成物を用いて疎水性繊維材料をパディング染色する場合は、上述した方法で調製した染料分散液を布にパディングした後、100℃以上の温度でスチーミングや乾熱処理をすることもできる。
【0030】
捺染の場合は、染料分散液を適当な糊剤と共に練り合わせ、これを布に印捺乾燥した後、スチーミング又は乾熱処理を行う。また、インクジェット方式によって捺染することもできる。
【0031】
本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、典型的には、エチレングリコールとテレフタル酸の重縮合により得られるポリエステル繊維が挙げられる。また、本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維やポリアミド繊維等も挙げられる。
本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、上記例示の繊維の混紡品又は交織品も挙げられる。該混紡品又は交織品としては、上記例示の繊維同士の混紡品や交織品、前記例示以外のセルロース繊維、羊毛又は絹との混紡品や交織品等が挙げられる。
本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、新合繊材料も挙げられる。新合繊材料としては、0.3デニールよりも大きく且つ1デニール以下のファインデニールファイバー糸、0.3デニール以下のウルトラマイクロファイバー糸、異型断面糸又は異収縮混紡糸等が挙げられる。上記の糸はフィラメント状であってもよい。また、二酸化チタン等を含む艶消し加工糸等のように各種の加工や改質が施された糸であってもよい。さらに、新合繊材料は織物や編み物等であってもよい。
これらの新合繊材料の素材としては、例えば、テレフタル酸と1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンとの重縮合物やポリブチレンテレフタレート等;ナイロン等のポリアミド系繊維と上記ポリエステル繊維類との混紡品や混織品;木綿、絹や羊毛等の天然繊維と上記ポリエステル繊維類の混紡品や混織品が挙げられる。
【0032】
本発明の着色方法において併用される赤色及び青色の分散染料としては、例えば、モノアゾ、ジスアゾやナフタレンアゾを含むベンゼンアゾ系分散染料、チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾやチオフェンアゾを含む複素環アゾ系分散染料、及び、アントラキノン系分散染料等の分散染料群から選択することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、部及び%は、それぞれ重量部及び重量%である。
【0034】
実施例1〜6及び比較例1〜2
1)黄色分散染料の調製
上式(IV)で示される化合物及び上式(IX)で示される化合物の各1gを、それぞれ個別に、ナフタレンスルホン酸ソーダとホルマリンとの縮合物3gと共に6gの水中でサンドミルにより微粒子化し、それぞれ噴霧乾燥して黄色分散染料組成物を得た。これらの各黄色分散染料組成物を表1記載の比率で配合し、黄色分散染料を得た。
【0035】
2)配合染色試験
i)市販の赤色分散染料(Disperse Red 135)の0.025gと、市販の青色分散染料(Disperse Blue 257)の0.05gと、上記1)の黄色分散染料の調製の項で得た表1記載の黄色分散染料0.04gと、イオネットRAP-1170(商品名:三洋化成(株)製)の0.27gとを水に均一に分散させた後、該分散液に酢酸0.045gと酢酸ソーダ0.18gを添加して180mlの染浴とする。この操作を繰り返して、合計7つの同じ染浴を調製した。
【0036】
ii)市販の赤色分散染料(Disperse Red 146)の0.05gと、市販の青色分散染料(Disperse Blue 183)の0.05gと、上記1)項で得た表1記載の黄色分散染料0.04gと、イオネットRAP-1170(商品名:三洋化成(株)製)の0.27gを水に均一に分散させた後、該分散液に酢酸0.045gと酢酸ソーダ0.18gを添加して180mlの染浴とする。この操作を繰り返して、合計7つの同じ染浴を調製した。
【0037】
iii)上記の各染浴にテトロントロピカル(東レ(株)製ポリエステル繊維織物)5gを染浴に投入後、60℃〜130℃まで毎分1℃の速度で昇温して、130℃に到達した時点から30分間染色した。上記の昇温工程において、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃及び130℃の各温度に到達した時点で、これら6つの染浴からテトロントロピカルを抜き取り水洗した。残り1つの染浴において、130℃に到達後、更に同温度で30分間染色して得たテトロントロピカルを抜き取り、水洗した。これらの7枚のテトロントロピカルを、それぞれ還元洗浄後、乾燥して番号1〜7の染色布を得た(130℃で30分保温後、洗浄及び乾燥して得た染色布を番号7とする)。
【0038】
3)相容性の評価
上述した番号1〜7の染色布を順に並べて、染色布表面の色相の変化を目視し(黄色、赤色、青色の各染料における混合割合の変化を観察するものであり、濃度の変化を観察するものではない)、使用した黄色分散染料、赤色分散染料及び青色分散染料の相容性を下記の基準で評価した。
○:番号7の染色布とほぼ同色相で、濃度のみが変化している
△:番号7の染色布と色相が多少異なるが、ほぼ同系統の色相で変化している
×:番号7の染色布と全く異なる色相の抜き取り布が存在する
【0039】
表1に記載の黄色分散染料組成物を用い、配合染色試験2)項に記載の方法で染色して得た染色物の相容性及び堅牢度試験の結果を纏めた。表1記載のように、実施例1〜6の本発明組成物は比較例1〜2記載の組成物に比べて、いずれも相容性が優れていた。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の黄色分散染料組成物は、赤色分散染料や青色分散染料と配合して、疎水性繊維材料の着色に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)で示されるモノアゾ系化合物の1種以上と下式(II)で示される複素環化合物の1種以上とを含み、前記モノアゾ系化合物の1種以上と複素環化合物の1種以上との重量比が(95〜30):(5〜70)であることを特徴とする黄色分散染料組成物。

(I)
[式中、Xは水素原子、塩素原子又は臭素原子を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ベンゾイルオキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基を表す。該アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルは、炭素数1〜3のアルキルである。]

(II)
[式中、( )内の複素環骨格において、2個のベンゼン環を構成する炭素原子及びピリジン環の炭素原子には、合計で臭素原子の1〜2個が結合していてもよい。]
【請求項2】
請求項1記載の黄色分散染料組成物と赤色分散染料と青色分散染料とを用いることを特徴とする疎水性繊維材料の着色方法。

【公開番号】特開2006−219617(P2006−219617A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35811(P2005−35811)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】