説明

分析方法および装置

皮膚サンプルがレセプター室とドナー室の間において拡散セルに取り付けられる。試験される物質は、ドナー室から皮膚サンプルに供給される。当該拡散セルは、生きている(動いている)皮膚の挙動をシミュレーションするために皮膚サンプルの反復的な屈曲を引き起こす目的で、レセプター室内の液に圧力変動を適用する駆動装置を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析(assay)方法およびその方法に使用される装置に関し、特に、ナノ粒子等の物質の経皮吸収のインビトロモデル化において改善された精度をもたらす方法および拡散セル(diffusion cell)型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、インビボでの経皮吸収状態をより近似的に表現できるインビトロの皮膚系が欠如しているという、皮膚毒物学(dermatotoxicology)における基本的問題に取り組む。
【0003】
フランツセル(拡散セルともいう)は、ドナー室とレセプター室とを有し、それらの室が、間に配置され所定位置に固定された多孔性膜または障壁(例えば、皮膚)によって分離された容器である。フランツセル容器のレセプター室は、通常、レセプター液(receptor fluid)によって満たされ、該レセプター液は前記障壁または膜と接触した状態で保持される。固体、半固体、気体または液体を含み得るドナー物質がドナー室に入れられ、レセプター液中に見出される該ドナー物質の量を測定することによって膜透過を評価することができる。レセプター液は、水、溶媒、水溶液、緩衝液、または食塩水を含み得る。
【0004】
フランツセルは物質の経皮吸収を試験するために利用できる。皮膚サンプルは、ドナー室とレセプター液を収容するレセプター室との間に配置される。このモデルでは、レセプター液は乳頭状叢(papillary plexus)に相当し、従って、その皮膚薄片を透過してレセプター液に浸入する化合物は、インビボで皮膚を透過すると合理的に予想することができ、そのような化合物は皮膚に適用することによって体循環中にもたらされ得る。そのため、拡散セルおよびそれを用いたアッセイ方法は、経皮吸収を経た化合物の生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)の評価を提供することができる。
【0005】
従来技術では、レセプター液内を一定圧力に維持すること、およびレセプター液の流れを制御する手段を含めることが提案されている。また、測定用にレセプター室から少量の液体を取り出すために、高精度の抽出ポンプをフランツセルに組み合わせることも提案されている。通常、マイクロリットル(μl) (10-15m3)オーダーの体積がレセプター室から除去される。そのような系においては、測定のために除去された液量を補填するために、取り込みキャピラリが設けられてもよい。
【0006】
精度および信頼性が改善されたインビトロモデルを提供するためには、化合物が生体の皮膚に適用された時の状態をより近似的にシミュレーションすることが望まれる。
【発明の概要】
【0007】
本発明のいくつかの態様および好適な実施例はクレームに記述される。
【0008】
本発明の一態様は、拡散セルのための容器を提供し、その容器は、膜(例えば、取り付けられた皮膚薄片)を運動させるように配置された駆動装置を有する。これは、インビボで起こる皮膚の屈曲および伸張をシミュレーションするように動作可能な拡散セルを提供するという利点を有する。
【0009】
拡散セルは、液を保持するためのレセプター室を有する。これは、拡散セルに取り付けられた膜(例えば、皮膚薄片)と、特定のレセプター液媒体との接触を維持できるようにする。レセプター室は通常オリフィスを有し、該オリフィス上に例えばクランプまたは他の取付け器具を用いて膜を固定できる。膜が所定位置に取り付けられると、その膜はオリフィスを被覆し、レセプター室が閉じられる。好ましくは、駆動装置は、前記レセプター室液を排出(displace)させることによって皮膚薄片を運動させるように動作する。このことは、膜に著しく局所的な物理的力を適用することなく膜の運動をもたらすという利点を有する。著しく局所的な力を繰り返し適用すると、膜が損傷し、さらには膜が断裂する可能性すらあり、分析の失敗につながることが理解されるであろう。
【0010】
ある実施形態では、力が周期的に膜に加えられ、それは例えば正弦波的な周期性またはそのバリエーションであり得る。それに応じて、観察される膜の運動は例えば周期的または正弦波的となる。
【0011】
膜の「運動」とは、レセプターが図に示されている通常の使用位置に配置される場合には、当然のことながら「上」および/または「下」への運動を意味する。言い換えれば、膜の運動における「下」方向とは、分析実行中に試験化合物/物質が最短距離で膜を透過する際の方向に相当する。
【0012】
ある実施形態では、液の排出は、レセプター室の容量(内部の総体積)を変動させることを含み得る。一実施形態では、駆動装置は、0.01ml〜2ml(例えば、0.001ml〜0.5ml)の体積に相当する液量を排出し、および/または、該体積に相当する分だけレセプター室の内部容積を変えるように作動する。さらに別の実施形態では、駆動装置は、0.02ml〜1.5ml(例えば、0.02ml〜0.7ml)の体積に相当する液量を排出し、および/または、該体積に相当する分だけレセプター室の内部容積を変えるように作動する。さらに別の実施形態では、駆動装置は、0.03ml〜1.5ml(例えば、0.03ml〜0.9ml)の体積に相当する液量を排出し、および/または、該体積に相当する分だけレセプター室の内部容積を変えるように作動する。さらに別の実施形態では、駆動装置は、0.04ml〜1.1mlの体積に相当する液量を排出し、および/または、該体積に相当する分だけレセプター室の内部容積を変えるように作動する。さらに別の実施形態では、駆動装置は、0.04ml〜1ml(例えば、0.1ml〜0.7ml)の体積に相当する液量を排出し、および/または、該体積に相当する分だけレセプター室の内部容積を変えるように作動する。さらに別の実施形態では、駆動装置は、0.06ml〜1ml(例えば、0.2ml〜0.9ml)の体積に相当する液量を排出し、および/または、該体積に相当する分だけレセプター室の内部容積を変えるように作動する。さらに別の実施形態では、駆動装置は、0.08ml〜1.2ml(例えば、0.3ml〜1ml)の体積に相当する液量を排出し、および/または、該体積に相当する分だけレセプター室の内部容積を変えるように作動する。上記のように容量を選択的に変化させることは、取り付けられた膜(例えば、皮膚サンプル)に損傷を与えることなく屈曲と伸張を与えることができ、また膜とレセプター液との接触を維持することができるという利点を有する。また、オリフィスのサイズ、および、望ましい膜の変位(意図される膜の運動レンジによって決まる)に応じて容積変化を選択することもできる。本願の文脈において理解されるように、容積変化および/またはポンプ排出容積は、所望の膜の屈曲/変位、オリフィスの直径、並びに試験される膜の耐久性および弾性特性(例えば、弾性係数)に基づいて選択される。
【0013】
ある実施形態では、膜は組織サンプル(例えば、豚などの動物組織サンプルまたはヒト組織サンプル)である。好ましくは、その組織は皮膚薄片であり、例えば豚またはヒトの切除された皮膚の薄片である。この点に関しては、皮膚サンプルの便利な入手源として、腹部整形や乳房縮小のような皮膚手術を行う病院が挙げられる。しかし、理解されるように、該方法はいかなる組織または膜であっても適用し得る。例えば、SkinEthic研究所(フランス、リヨン)によって提供されるような人工皮膚代替物を簡単に購入することができる。
【0014】
人工皮膚は、通常、最終分化(terminal differentiation)を促進させ機能的角質層を有する表皮の再生を促進させる条件においてヒトケラチン産生細胞をコラーゲンベース上で培養することによって生成される。このような初代ヒトケラチン産生細胞は、例えば、整形外科手術をするドナーからの乳房/腹部サンプルから得られる。再構成(Reconstituted)ヒト表皮(RHE)は、同様の原理に従い、不活性ポリカーボネートフィルター上で気相-液相界面において培養される正常ヒトケラチン産生細胞から生成される。RHEは、一般的に(当業者によって)インビボのヒト表皮の良好な等価物である(組織学的に)と考えられている。
【0015】
本発明の方法は、液体を保持するレセプター室を有する拡散セルにおいて適用でき、そのレセプター液を用いて力が加えられる。通常、レセプター室は、周囲にフランジが付いたオリフィスを有し、例えばクランプを用いて膜(皮膚薄片等)をオリフィスに固定できるようにしてある。本方法は、膜に力を適用するためにレセプター室内の液圧を変動させることを含み得る。ある例では、その圧力変動は周期的であり、例えば正弦波的である。このような方法は、膜の挙動を調節し、インビボで起こる自然な運動を考慮に入れることができるという利点を有する。このことは、皮膚の細胞間隙を通じてナノ粒子の浸透が増進することを考慮に入れることができるため、皮膚への化合物の浸透の研究において特に有利である。
【0016】
ある実施形態では、その駆動された運動は、膜(例えば、皮膚薄片)の屈曲運動を含み、周期的(cyclic)および/または振動的(oscillatory)運動であってもよく、そのような周期的および/または振動的運動は、定期的(periodic)、不定期的、または間欠的であってもよい。例として、平均周期時間は0.1秒、1 秒、1 秒〜10 秒、1秒〜20秒、30 秒〜1 分であり得る。ある実施形態では、平均周期時間は、シミュレーションされるべき動きのレベルに応じて、50秒〜1分20秒である。本願の文脈において理解されるように、適切な屈曲速度は、モデル化されるべき特定の環境に応じて選択される。膜の周期的または間欠的運動の使用は、直接的に制御される測定可能パラメータを用いて組織モデルの挙動を調整可能にするという利点を有する。ある実施形態では、選択される周期時間は、分のオーダーであり、例えば2分、4分、6分、または20分である。このことは、より緩やかな(またはより低頻度な)膜の屈曲をシミュレーションするという利点を有する。ある実施形態では、膜の運動は、膜に損傷をもたらしたり試験化合物に悪影響を与えたりするほど速くならないように制御される。膜に引き起こされる運動の速度の下限は、膜の振る舞いが静止状態と何ら変わらないという事態にならないように選択される。このことは、秒単位から分単位の周期時間範囲を与えることになると思われる。
【0017】
ある実施形態では、運動は、膜サンプルの伸張(ある程度の引き伸ばし)をもたらす。例えば、その駆動される運動に伴う伸張のパーセンテージは、0.01%未満、5%未満、またはある実施形態では 10%未満、別の実施形態では30%未満もしくは50%未満である。本発明の文脈において理解されるように、伸張の程度は、モデル化される系のパラメータ(例えば、対象となる皮膚型のインビボにおける挙動)に基づいて、および膜の特性に基づいて選択され、過剰な伸張による損傷を防止または最小限にする。前記選択されたパーセンテージの範囲は、単なる例であって、本発明の文脈において理解されるように、各例は、異なる条件下において、またシミュレーションされる組織系に応じて、特定の利点をもたらす。 また好都合なことに、本発明は、当業者が特定の条件/系にとって適切な範囲を選択することを可能にする。
【0018】
ある実施形態では、パーセント(%)伸張とは、膜の静止位置(言い換えれば、膜が屈曲運動を受けていない状態)を基準にして、ある一方向への膜変位の最大距離を意味し、100%伸張とは、それ以上だと膜が損傷(例えば、膜がもはや信頼性をもって繰り返し使用できなくなること、または、引き裂き、もしくは弾性限界を超えた伸張)を受けるような膜変位の最大距離を表す。別の実施形態では、100%伸張は、膜の最大厚さ(例えば、本発明の分析中に試験化合物/物質が膜を透過する際の最短移動距離で表される方向における厚さ)を表してもよい。
【0019】
ある実施形態では、膜はその平衡位置から0.05 mm、 0.1mm、 0.2mm、1mmを超えて、またある例では2mmを超えて屈曲(deflect)するように駆動される。ある実施形態では、膜はその平衡位置から50mmまたは1cmまたは 2 cmまで変位する。理解されるように、インビボでの特定の条件をシミュレーションするように膜の特定の屈曲度を選択することができる。
【0020】
ある実施形態では、レセプター室はピストンポンプに連結される。あるいは、ピストンポンプがレセプター室と一体化して、例えばレセプター室の壁中に、設けられる。これらの例では、レセプター室の容積変化を正確に制御するために、単純なリニアアクチュエーター、または往復アーム(reciprocating arm)に連結された電気モーターが使用される。あるいは、レセプター室は、可動壁のような可動部を有してもよく、該可動部はシリンジのように内側に駆動されるか、または、可撓性(flexible)または可圧縮性(compressible)(例えば折り畳み式)の壁を含んでもよい。ある実施形態では、袋(bladder)のような膨張性部材が、言わば風船のような様式でレセプター室内に設けられ、その膨張性部材の内部は制御可能な圧力ポンプに連結され、該膨張性部材の膨張および/または収縮に対応したレセプター室内の容積/圧力変化が引き起こされる。ある実施形態では、標準的な拡散セルを本発明に従って動作するように改良するために、改変サンプリングアームまたはサンプリングアームキャップが提供される(例えば、サンプリングアームキャップ内に、またはそれに連結して駆動装置を設けることによって達成される)。理解されるように、これらは単なる例に過ぎず、レセプター室内に周期的な容積および/または圧力変化をもたらすように動作可能なあらゆる適切な手段が使用可能である。
【0021】
ある実施形態では、レセプター室から気体が排除され、それによってレセプター室の液体内容物は実質的に圧縮不可能となる。この例は、レセプター室の特定の内部容積変化に応答させることによって膜(例えば皮膚薄片)に予測可能な力/圧力を適用できるという利点を有する(レセプター室は該皮膚薄片によって閉じられている)。拡散セルは通常、試験中にレセプター液サンプルを採取するためのサンプリングアームを含む。本発明のいくつかの例では、サンプリングアームは、レセプター液の漏出を防止するためのねじ式(screw-threaded)キャップを有する。好ましくは、サンプリングアームは、空気の頭隙(head space)なしでキャップされ、上記ねじ式の動きが膜を外側に屈曲させる。
【0022】
ある実施形態では、駆動装置は、皮膚薄片に駆動力を適用(例えばクランプを介して)する機械式駆動装置を含む。これは、既存の拡散セルが使用可能であるという利点を有する。機械式駆動装置は、例えばクランプを介して皮膚薄片に機械的に連結される、電気機械的アクチュエーター(例えば、ソレノイドを含むか、またはスピーカー様のものであるか、または一以上の圧電素子を含むアクチュエーター)であってもよい。
【0023】
ある実施形態では、水圧(hydraulic)ピストンがレセプター室に接続される。このピストンは、動きを精密に制御できる水圧ポンプ系によって制御される。試験中にレセプター液サンプルの採取を可能にするサンプリングアームは、レセプター液の漏出を防止するためのネジ式キャップを有する。膜(例えば、切除された皮膚薄片)がこの装置に取り付けられると、ピストンが外側に動くことによってレセプター液がレセプター室から排出されることになる。サンプリングアームは、空気の頭隙なしでキャップされているため、この動きは、図2Aに示されるように、膜を内側に屈曲させることになる。 逆に、ピストンが内側に動くと、液がレセプター室内に移動し、図2Bに示されるように、膜を外側に屈曲させる。 内側および外側へのピストンの運動の繰り返しが、膜の内側および外側への周期的な屈曲をもたらす。
【0024】
ある実施形態では、レセプター室は、レセプター室の温度制御をもたらすために流体ジャケットによって被覆される。本発明は、皮膚薄片を規定の条件下で(例えば特定の温度において、および/または、特定のレセプター液媒体を伴って)維持し、膜を運動させることを可能にしつつ経皮吸収の正確な評価を可能にするという利点を有する。
【0025】
拡散セルは、好ましくはOECD(経済協力開発機構)準拠の拡散セルであって膜の運動を可能にするように改良されたものであり、よってこの系を用いて得られるあらゆる結果は、標準的な非屈曲性の拡散セルを用いて得られる結果と直接的に比較可能である。この点に関しては、皮膚吸収(インビトロ)についてのOECD 428ガイドラインは、拡散セルはドナー室およびレセプター室の二室を有し膜の周囲でよく密閉されることを要求している。該ガイドラインはまた、セルが、容易にサンプリングを行えるものであり、膜の下面と接触するレセプター液をよく混合することができるものであり、並びに、セルおよびその内容物の良好な温度管理が可能であることを要求する。
【0026】
ある実施形態では、通常のオリフィス直径は、例えば5mm、7mm、9mm、11.28mm、15mm、20mm、および25mmである。しかしながら他の直径も可能である。理解されるように、フランツセルについて言うところの「オリフィス」とは、レセプター室上部にあって膜に晒される領域である(この膜を介した移動または浸透が調べられる)。好ましくは、オリフィス上に皮膚薄片を固定してレセプター室を閉じるためのクランプが設けられる。通常、フランツセルのレセプター室は、5ml〜20mlの容積を有するが、他の容積であってもよい。
【0027】
例として、本発明の一実施態様は、レセプター室に接続された水圧ピストンを使用する。このピストンは、動きを精密に制御できる水圧ポンプ系によって制御される。このことは、膜に適用される圧力の変動を精密に制御できるという利点を有する。
【0028】
ある実施形態では、駆動装置は、正逆(forward and reverse)の駆動運動を交互に行う水圧蠕動ポンプである。本発明のこの実施形態と他の実施形態では、試験対象の膜の変位を高い精度および再現性で制御することが可能であり、試験間で結果が再現されることを保証し、また異なる研究で得られた結果の間の比較を容易にする。本発明の文脈において理解されるように、正確な振幅(amplitude)(容積変位)および往復運動頻度(frequency)は、拡散セルによってモデル化またはシミュレーションされている系のパラメータに応じて選択される。
【0029】
本発明の一実施形態では、膜(例えば、皮膚サンプル)はレセプター室とドナー室の間において拡散セルに取り付けられる。試験される物質は、ドナー室から膜に提供される。該拡散セルは、生きている(動いている)皮膚の挙動をシミュレーションするために膜の反復的な屈曲を引き起こす目的で、レセプター室内の液体に圧力変動を与えるための駆動装置を有する。
【0030】
本発明の方法の一実施形態は、さらに、試験分子/物質(例えば、ナノ粒子またはナノ物質)の膜を通した移動を分析することを含む。前記分析は、(例えば規定の時間内に)膜を透過した試験分子/物質の量を計算することを含み得る。一実施形態においてはこれは、膜を透過してレセプター液中に存在するようになった試験分子/物質の量を、膜に適用された試験分子/物質の量との対比において単純に評価することであり得る。分析の種類に関しては複数のバリエーションが当業者によく知られており、単純にそれらは研究の種類および/または所望のデータ形式に依存するだけである。他の(追加オプションとしてもよい)分析の種類としては、膜の様々な領域/層における試験化合物/物質の特異的局在化を見出すための分析が含まれる。検出を補助するために、試験分子/物質は、例えば蛍光体または放射性標識によって標識化されてもよい。 適切な標識および関連する方法論については、当業者によく知られているところである。
【0031】
本発明の実施態様は、リスクアセスメント(例えば、農薬に対する皮膚の曝露について)、法規制上の提出(例えば、局所的医薬品の生物学的同等性および生物学的利用能について)、新規経皮薬物送達系の開発、および正常な肌の生理(例えば、経皮水分損失)についての基礎的研究に適用し得る。
【0032】
本発明の装置および方法は、想定している経皮送達(例えば、有害分子について)を正確に評価するために、膜の屈曲という新たな次元を組み入れた、より正確で再現性のあるインビトロのモデルを提供する。前記装置および方法は、化学製品/物質(例えばナノ粒子)が表皮層を透過できるかどうかについて、皮膚の屈曲エネルギーおよび運動を考慮に入れながら綿密かつ正確に評価することを可能にする。加えて、本発明の装置および方法は、これらの粒子がいかなるルートを通って角質層を透過するかを明らかにすることを可能にする。
【0033】
ナノ粒子およびナノテクノロジーの利用が増加するにつれて、動物(例えば、ヒト)の健康に対するリスクを正しく確実に見極めることが重要になる。従来技術の市販のインビトロ系は、屈曲というこの基本的な側面が欠如しており、それは(本発明者の考えでは)皮膚ルートを通したナノ粒子の取り込みの可能性の不正確な評価(特に、過小評価)につながると思われる。このことは、ナノ粒子が動物(特にヒト)の健康に与えるリスクについて評価する際に何よりも重要な検討課題となる。二酸化チタン、酸化亜鉛等のナノ粒子は、皮膚の損傷の原因となる紫外線の吸収を防止するための日焼け止め等、多くの化粧品に既に含有されている。そのような化粧品は、皮膚表面により良好な分散をもたらすためにナノ粒子配合物を採用している。したがって、本発明(Cutaflex(登録商標)系ともいう)は、配合物(例えば日焼け止め/ローションのような化粧品配合物等)からの化合物/物質(例えばナノ粒子)の取り込みを評価して、市販化に先立つ試験を安全に行い(例えば、規制当局による承認の過程において)、それによって顧客の安全を保証するために、化粧品産業のような業界において直ちに採用可能である。医薬品業界も、医薬有効成分の経皮送達を促進する化合物/物質(例えばナノ粒子/ナノ材料)を含む配合物を開発している。そのような配合物の例として、パッチ、クリーム等がある。したがって、本発明の装置および方法(Cutaflex(登録商標))は、医薬品業界の場面においても、経皮安全性および/または有効性を評価するという応用性を有する。 本発明は、決して満足なものとはいえない現行のインビトロの試験戦略に対して、著しい改善を提供する。
【0034】
本発明の一実施形態について、単に一例として図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ピストン駆動装置を含む拡散セルの断面図を示す。
【図2】2A、2Bは、使用中の図1の拡散セルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、ドナー室2およびレセプター室4を有する拡散セル22を示す。ドナー室2およびレセプター室4は、それぞれ開口部あるいはオリフィス9を有し、該オリフィスはフランジ7a、7bで囲まれている。
【0037】
サンプリングアーム18は、レセプター室4から伸びており、ねじ切りサンプリングアームキャップ20とフィットさせるためのねじ切り部が設けられる。
【0038】
水ジャケット10は、拡散セル22の本体部を包囲し、レセプター室4の壁を通じた熱交換を介してレセプター室液11の温度を制御するための水の循環を可能にする水入口8および水出口6を有する。図では、水ジャケット10は、レセプター室の一部のみを包囲している。しかし、レセプター室全体を包囲するように設計されていてもよい。レセプターとの熱接触をよりよくするために、水ジャケットは、好ましくはレセプター室の大部分を被覆する。 これは、皮膚表面での一定温度(約32℃)をもたらすために水ジャケット内で必要とされる温度を低くするためである。しかし、サンプリングアームおよびポンプ手段が存在するため、レセプター室の全体を水ジャケットで包囲するのは必ずしも可能ではないことになる。
【0039】
ピストン16を含むピストン室14は、レセプター室4に連結されている。
【0040】
レセプター室には、レセプター室4を開けることなくレセプター室液11を攪拌できるように、磁気性駆動装置(図示しない)と組み合わせた羽根車(impeller)を提供するマグネティックスターラー12を設けてもよい。
【0041】
拡散セルの使用にあたっては、この例では切除された皮膚薄片ないしはサンプル5で表される試験対象サンプルがレセプター室とドナー室の間に配置されてドナー室2をレセプター室4から分離し、フランジ7a、7bは一緒に固定される。 この固定によって、皮膚サンプルの周縁部がフランジ7a、7bの対向する平坦面間に捕らわれ、皮膚サンプル5はピンと張った状態で保持される。フランジは、一もしくは複数のクランプ、または一もしくは複数のネジもしくはボルトのような何らかの適切な固定機構により一緒に固定されてもよい。
【0042】
図1に示された例では、レセプター室4はレセプター液で満たされ、それによって、皮膚サンプル5がレセプター液と接触する。 また、ピストン室14およびサンプリングアーム18も液で満たされ、空気の頭隙なしにキャップが付けられる。レセプター液は、水、緩衝液もしくは食塩水または組織培養培地、または溶媒と水の混合液(例えばエタノール水)を含み得る。
【0043】
ピストン16は、ピストン室内で前後に駆動される。 ピストン16が、サンプリングアームキャップ20を閉じた状態で、内部に、つまりレセプター室4に向かって駆動されると、結果として起こるレセプター室液11の排出が皮膚サンプル上の圧力の増加をもたらし、皮膚サンプルはドナー室2の方向に曲がる。逆に、ピストン16が、サンプリングアームキャップ20を閉じた状態で、レセプター室4から離れるように駆動されると、レセプター室液11はピストン室の中に引き込まれ、皮膚サンプル5上の圧力を低下させる。このことは、皮膚サンプルを単にその最初の平坦な状態に戻すだけの場合もあり得るが、もしピストンがその最初の出発点を超えた地点まで駆動されれば、皮膚サンプルをレセプター室の方向に曲げることにもなり得る。
【0044】
皮膚サンプルの曲がりまたは屈曲は、このように、切除された皮膚の薄片によってレセプター室が閉じられた状態で、レセプター室、サンプリングアーム、およびピストン室の合計内部容積を変化させることによって達成される。
【0045】
ドナー室には、使用の際には、皮膚表面に適用される物質が供給される。
【0046】
拡散セルを用いた試験の長さは、数時間または数日間であってもよく、この期間中皮膚の屈曲または伸張をシミュレーションするために、上記内向きおよび外向きの皮膚の屈曲を何サイクルも繰り返し行ってもよい。各サイクルの長さは、シミュレーションされる系に応じて選択される。
【0047】
理解されるように、レセプター室の容量への言及は、容積容量に関するものである。
【0048】
言い換えれば、切除された皮膚薄片を拡散セルに取り付けてピストンを内向きに運動させると、レセプター液がレセプター室に向かって移動し、膜を変位させる。ピストンの外向きの運動は、レセプター液がレセプター室から移動する動きを引き起こし、皮膚薄片の下向きの屈曲をもたらす。ピストンの内向きおよび外向きの連続的な運動は、皮膚の内向きおよび外向きの周期的な屈曲をもたらす。これらの一連の運動は図2A、2Bに示されており、そこでは図1に関して使用された上記参照番号が対応する要素を示す。
【0049】
図1、2A、2Bに関する上記の例は水圧ピストンに関わるが、拡散セル内で皮膚を屈曲させる他の物理的および機械的方法も本発明に含まれる。例えば、フランジ7a、7bの一方または両方に連結して圧電素子がアセンブリ中に取り付けられてもよい。この目的のための圧電素子アセンブリの例としては、膜を取り付けるためのリングが挙げられるが、そのリングは一または複数の圧電素子を有し、それによって電流の適用がリングの屈曲、拡大または収縮を引き起こし、リングに取り付けられた膜を伸張および/または屈曲させる。または、圧電素子またはソレノイドによって駆動されるアクチュエーターを一方または両方のフランジに隣接して取り付けてもよく、それは、フランジ間に取り付けられた膜に力を適用するように動作する。 例えば、そのようなアクチュエーターは、膜に衝撃力を適用するものであってもよく(いわばハンマーとドラムのように)、または、膜に接続して膜をレセプター室に向けて押し下げ、および/もしくは膜をレセプター室から外に向かって引っ張るものであってもよい。この目的のためには、膜の両側に一つずつ、対となるようにアクチュエーターを設けてもよく、各アクチュエーターが膜に力を適用するように配置され、それによって膜は外向きおよび内向きに押し込まれる。または、磁気部材を用いて膜にアクチュエーターを連結してもよい。すなわち、ちょうどマグネティックスターラーのように、磁石を膜の一方に配置し、磁気アクチュエーターを膜のもう一方に配置する。そのような配置で、アクチュエーターが一方向に押されると、膜はその方向に押され、アクチュエーターが逆方向に引っ張られると、磁気部材が磁気アクチュエーターに引っ張られる。膜はアクチュエーターと磁気部材(両者間の磁気的吸引によって定位置に保持される)の間に挟まれた状態にある。ある実施形態では、駆動装置は、正逆の駆動運動を交互に行う水圧蠕動ポンプである。
【0050】
拡散セル内で膜を駆動する方法の別の例は、当業者にとっては本願の文脈から明らかであろう。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散セルに取り付けられた膜の分析を行う方法であって、膜に力を適用して反復的に膜の変形を引き起こすことを含む、方法。
【請求項2】
前記拡散セルがレセプター室を含み、前記レセプター室に液を供給して前記膜が前記液と接触するようにすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レセプター室のオリフィスを閉じるように前記膜を配置すること、および、レセプター室の液容積を変化させて前記膜に力を適用することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記力が実質的に周期的に適用される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記反復的な変形により膜の周期的な運動が提供される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記力が、定期的、非定期的、および間欠的のいずれかから選択される周期的な態様で適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
平均周期時間が0.1 秒、1 秒、1 秒〜10 秒、1秒〜20秒、1秒〜30秒、および50秒〜70秒のいずれかから選択される、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記反復的な変形のそれぞれが実質的に同一である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記反復的変形の振幅および頻度の少なくとも一方が変動する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
拡散セルを用いて組織分析を行う方法であって、添付の図面によって実質的に記述される、方法。
【請求項11】
レセプター室および前記レセプター室に隣接するドナー室を含む拡散セルであって、前記二室の間に配置される膜によって前記二室を分離できるように各室が開口部を有し、前記膜の運動を引き起こすように動作可能な駆動装置を含む、拡散セル。
【請求項12】
前記レセプター室は液体を保持するためのものであって、使用の際には前記膜が前記液体に接触するように取り付けられる、請求項11に記載の拡散セル。
【請求項13】
前記駆動装置が前記液体を排出して前記膜の運動を引き起こすように動作可能である、請求項12に記載の拡散セル。
【請求項14】
前記駆動装置が、前記レセプター室に連結された駆動装置室に配置される、請求項11〜13のいずれかに記載の拡散セル。
【請求項15】
膜を取り付けるための開口部および前記膜を運動させるように配置される駆動装置を含む、拡散セルのための容器。
【請求項16】
液を保持することができ、使用の際には前記膜が前記液に接触するようになっている請求項15に記載の容器。
【請求項17】
前記駆動装置が前記液を排出して前記膜を運動させるように動作可能である、請求項16に記載の容器。
【請求項18】
前記液の排出が、レセプター室の液容量を変化させることを含む、請求項17に記載の容器。
【請求項19】
レセプター室に連結された駆動装置室を含む請求項17に記載の容器であって、前記駆動装置は前記駆動装置室に配置され、レセプター室の液容量を変化させることは駆動装置室の液容量を変化させることを含む、容器。
【請求項20】
前記駆動装置が、レセプター室容積の0.01%〜50%にあたる液容積を排出することによって膜を駆動するように動作可能であり、例えば、前記駆動装置は0.01ml〜0.5mlの液容積を排出することによって膜を運動させるように動作可能である、請求項17〜19のいずれかに記載の容器。
【請求項21】
前記駆動装置が前記膜を実質的に周期的に運動させるように動作可能である、請求項11〜14のいずれかに記載の拡散セルまたは請求項15〜20のいずれかに記載の容器。
【請求項22】
前記駆動装置が前記膜を、0.1秒〜2分の平均周期時間で実質的に周期的に運動させるように動作可能である、請求項11〜14のいずれかに記載の拡散セルまたは請求項15〜20のいずれかに記載の容器。
【請求項23】
前記駆動装置が、前記膜に所望の横方向変位を与えるように選択された液容積を排出するように動作可能である、請求項11〜14のいずれかに記載の拡散セルまたは請求項15〜20のいずれかに記載の容器。
【請求項24】
前記駆動装置がピストンポンプを含む、請求項11〜14のいずれかに記載の拡散セルまたは請求項15〜20のいずれかに記載の容器。
【請求項25】
前記駆動装置が、膜に力を適用するように動作可能な機械的アクチュエーターを含む、請求項11もしくは12に記載の拡散セルまたは請求項15もしくは16に記載の容器。
【請求項26】
前記機械的アクチュエーターが圧電素子およびソレノイドの少なくとも一方を含む、請求項11に記載の容器。
【請求項27】
液を保持するためのレセプター室、および前記レセプター室内の圧力に周期的変化を与えるように動作可能なピストンを含む拡散セルであって、前記レセプター室はオリフィスを有し、前記オリフィスを膜によって被覆することによりレセプター室が閉じられる、拡散セル。
【請求項28】
添付の図面によって実質的に記述される拡散セル。



【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2013−512448(P2013−512448A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541577(P2012−541577)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051992
【国際公開番号】WO2011/067587
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(510127516)
【氏名又は名称原語表記】HEALTH PROTECTION AGENCY