説明

分析用カラムの製造方法,分析用カラムおよびそれを用いた分析装置

【課題】多孔質体の孔径分布を制御できる分析用カラムの製造方法,分析用カラムおよびそれを用いた分析装置を提供する。
【解決手段】キャピラリ(2)と、キャピラリ内に形成される多孔質体(1)と、を有し、多孔質体は孔(3)および骨格(4)で構成され、多孔質体の骨格は有機高分子で構成され、多孔質体の骨格は周期性を有し、有機高分子には第一のモノマの重合体が含まれ、第一のモノマは、液晶性を発現する媒体を用いて重合体となる性質を有することを特徴とする分析用カラム,分析用カラムを用いた分析装置および分析用カラムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用カラムの製造方法,分析用カラムおよびそれを用いた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ等の粒子をキャピラリカラム内に充填して用いるクロマト用カラムの課題の圧力損失低減を目的に、ゾルゲル法などで形成されるモノリスカラムが提案され、液体クロマト用の分析用カラムとして商品化されている。しかしながら、この従来のモノリスカラムは、シリカの多孔質体で形成されていることから、脆性や、高pH溶媒を用いた分析において構造の溶解などに問題がある。このことから、特許文献1に記載されるような、有機−無機のハイブリッド樹脂を骨格としたモノリスカラムや、特許文献2に記載されるような有機高分子を骨格としたモノリスカラムにより、従来モノリスカラムにおける課題解決が提案されている。なお、本発明に関連する他の先行技術文献としては、下記の非特許文献1−2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−265047号公報
【特許文献2】特開2009−269948号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】アドバンスドマテリアル、2005,17,97
【非特許文献2】IDW‘05 p.21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシリカモノリスカラム、特許文献1および特許文献2に記載のカラムにおいて、ゾルゲル法によるシリカ,有機−無機ハイブリッド樹脂または有機高分子を凝集する手法等よりカラムの骨格が形成されている。
【0006】
しかし、ゾルゲル法による多孔質体は相分離により形成されるので、その孔径分布を厳密に制御することが困難である。したがって、カラムの作製ロット間での特性にばらつきが見られることがある。
【0007】
また、分析用のカラムとしての分離性能を得るために多孔質体に表面処理を施す必要がある。このため、その表面処理が作製ロット間での特性ばらつきの要因となることがある。
【0008】
本発明の目的は、多孔質体の孔径分布を制御できる分析用カラムの製造方法,分析用カラムおよびそれを用いた分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の特徴は以下の通りである。
(1)キャピラリと、前記キャピラリ内に形成される多孔質体と、を有し、前記多孔質体は孔および骨格で構成され、前記多孔質体の骨格は有機高分子で構成され、前記多孔質体の骨格は周期性を有し、前記有機高分子には第一のモノマの重合体が含まれ、前記第一のモノマは、液晶性を発現する媒体を用いて重合体となる性質を有することを特徴とする分析用カラム。
(2)上記(1)において、前記第一のモノマはアクリルモノマまたはメタクリルモノマであることを特徴とする分析用カラム。
(3)上記(1)または(2)において、前記媒体は周期性を有することを特徴とする分析用カラム。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかにおいて、前記媒体はブルー相を発現することを特徴とする分析用カラム。
(5)上記(3)または(4)において、前記有機高分子には第二のモノマの重合体が含まれ、前記第二のモノマは液晶性を発現することを特徴とする分析用カラム。
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかにおいて、前記多孔質体は光ラジカル重合により形成されることを特徴とする分析カラム。
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかにおいて、前記キャピラリは石英またはガラスで形成される分析カラム。
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかにおいて、前記キャピラリは光透過性樹脂で形成される分析カラム。
(9)上記(1)乃至(8)のいずれかにおいて、前記キャピラリの前記多孔質体を形成する側の表面に前記多孔質体と化学結合する置換基が形成されることを特徴とする分析カラム。
(10)上記(9)において、前記置換基は前記キャピラリへのアッシングで形成されることを特徴とする分析カラム。
(11)上記(1)乃至(10)のいずれかにおいて、前記キャピラリは金属製のジャケット内に保持されている分析カラム。
(12)上記(1)乃至(11)のいずれかの分析カラムを用いた分析装置。
(13)第一のモノマと液晶性を発現する媒体との混合材料をキャピラリ内に注入する工程と、前記混合材料に紫外光を照射する工程と、前記キャピラリ内に前記媒体を除去する除去溶液を注入し、前記キャピラリ内に多孔質体を形成する工程と、を有し、前記多孔質体は孔および骨格で構成され、前記多孔質体の骨格は有機高分子で構成され、前記多孔質体の骨格は周期性を有し、前記有機高分子には前記第一のモノマの重合体が含まれることを特徴とする分析カラムの製造方法。
(14)上記(13)において、前記第一のモノマはアクリルモノマまたはメタクリルモノマであることを特徴とする分析用カラムの製造方法。
(15)上記(13)または(14)において、前記媒体はブルー相を発現することを特徴とする分析用カラムの製造方法。
(16)上記(13)乃至(15)のいずれかにおいて、前記媒体にはカイラル剤が含まれることを特徴とする分析用カラムの製造方法。
(17)上記(13)乃至(16)のいずれかにおいて、前記有機高分子には第二のモノマの重合体が含まれ、
前記第二のモノマは液晶性を発現することを特徴とする分析用カラムの製造方法。
(18)上記(13)乃至(17)のいずれかにおいて、前記有機高分子を構成するモノマ、前記媒体および重合開始剤の混合溶液に対する前記有機高分子を構成するモノマの総量が5mol%以上40mol%以下であることを特徴とする分析用カラムの製造方法。
(19)上記(18)において、前記混合溶液に対する前記有機高分子を構成するモノマの総量が10mol%以上40mol%以下であることを特徴とする分析用カラムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、多孔質体の孔径分布を所望の範囲に制御できる。上記した以外の課題,構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施例の多孔質体を形成した分析用カラムの概略図である。
【図2】一実施例の材料を用いて形成した薄膜の表面SEM写真である。
【図3】一実施例における材料における高分子骨格の形成場所を表す概略図である。
【図4】一実施例の分析用カラムの断面SEM写真である。
【図5】一実施例の分析用カラムにおける多孔質体のSEM写真である。
【図6】一実施例の分析用カラムの断面SEM写真である。
【図7】一実施例の分析用カラムにおける多孔質体のSEM写真である。
【図8】一実施例の分析用カラムの断面SEM写真である。
【図9】一実施例の分析用カラムにおける多孔質体とキャピラリ界面部分のSEM写真である。
【図10】一実施例の分析用カラムの概略図である。
【図11】一実施例の分析用カラムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、図面を参照して実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。
【0013】
なお、実施例を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施例は本願発明の内容の具体例を示すものであり、本願発明がこれらの実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。
【実施例1】
【0014】
図1は、本実施例の多孔質体を用いた分析カラムの概略図である。また図2は、本実施例に実施した材料の表面SEM写真像である。
【0015】
図1に示される様に、分析用カラム11は多孔質体1およびキャピラリ2で構成される。多孔質体1はキャピラリ2内に形成される。多孔質体1を基板上に任意の厚さの薄膜として形成しても良い。多孔質体1はマクロ孔3および骨格4で構成される。マクロ孔3のサイズは10nm以上1μm以下である。SEM写真から多孔質体1の表面に観察されるマクロ孔3を囲む骨格4の直径をメジャーで測定することで、マクロ孔3のサイズは測定される。測定は3箇所以上の孔で行われる。
【0016】
骨格4は有機高分子からなり、10nm以上1μm以下、望ましくは50nm以上400nm以下の周期性を有している。有機高分子にはモノマの重合体が含まれている。骨格4の太さは5nm以上200nm以下である。本発明において、高分子とは数十以上の重合度を有し、2000以上100万以下の分子量を有する。骨格4は有機高分子のみから構成されていてもよいが、骨格4に有機高分子以外の不可避不純物(液晶成分,重合開始剤など)が含まれていても良い。
【0017】
この骨格4は、任意のモノマを用いて形成される。モノマは、液晶性を発現する媒体を用いて重合体となる性質を有する。本実施例では、非特許文献1に記載のモノマと液晶との混合材料の溶液を非特許文献1に記載の通りに調合し、石英製のキャピラリ2内に注入した。キャピラリ2はガラスで形成されていてもよい。モノマとしては、2−エチルヘキシルアクリレート(アルドリッチ社製)およびST0321(DKSH社製)を用いた。液晶として、JC1041XX(チッソ石油化学社製)および5−シアノビフェニル(アルドリッチ社製)を用いた。カイラル剤としてZLI4572(メルク社製)を用いた。また、混合材料の溶液は、52.3℃以上53.5℃以下において液晶相でフォトニック結晶の一種のブルー相を発現する。非特許文献1に記載の通り混合材料の溶液に約254nmから405nmの範囲における紫外光を照射して、液晶−高分子複合体とした。具体的には、高圧水銀ランプHLR400T(セン特殊光源製)を用いて、365nmの光で2000mJの照度となるように、混合材料の溶液に紫外光を照射した。液晶−高分子複合体を形成する方法として、放射線,熱などが挙げられる。熱による液晶−高分子複合体の形成に比べて、紫外光照射による形成は、重合温度および液晶が発現する温度を一致させる必要がなく、実用性が大きい。
【0018】
続いて、キャピラリ2内に除去溶液としてシクロヘキサンを送液し、得られた液晶−高分子複合体から液晶成分を除去した。これにより、液晶−高分子複合体を多孔質体1のみとした。このとき、シクロヘキサン中に液晶成分やその他不純物(重合開始剤,重合開始剤の分解物,未反応のモノマなど)がガスクロマトグラフもしくは液体クロマトグラフなどで確認できなくなるまで、シクロヘキサンを送液した。なお、キャピラリ2を加熱して液晶−高分子複合体を等方相とした状態でシクロヘキサンを送液しても良い。また、シクロヘキサンの送液による液晶の除去の代わりに、キャピラリ2を脱気しながら真空下に静置することにより液晶を除去しても良い。この中で、キャピラリ2内へのシクロヘキサンの送液による液晶成分の除去が望ましい。これにより、図1に示す周期性を有する骨格4およびマクロ孔3で構成される多孔質体1が得られる。
【0019】
このような骨格4の周期性は、一般的な小角X線散乱装置により観察される散乱ピークから確認できる。小角側から同心円状に複数のデバイリングが観察されることで、骨格4の周期性を確認できた。このとき得られる散乱のピークの幅は、10nm以上100nm以下であることが望ましい。これよりも散乱のピーク幅が広いとは、骨格4のサイズの分散およびマクロ孔3のサイズの分散が大きいことを表している。骨格4のサイズの分散およびマクロ孔3のサイズの分散が大きいと、分析用カラム分離特性のロット間のバラツキや圧力損失が大きくなるなどの要因となるため、分析用カラムとして用いるには効率が悪いと考えられる。さらに、散乱のピークの幅は、50nm以上400nm以下であることが望ましい。
【0020】
なお、ゾルゲル法などで作製されるモノリスカラムにおいて、小角に非常にブロードな散乱が観察される場合がある。しかし、ゾルゲル法などで作製されるモノリスカラムは本実施例のようなピーク幅で観察されることはなく、ピーク幅として測定困難である。
【0021】
また、キャピラリ2の長手方向の複数の場所において同様に小角X散乱測定を試みた結果、ほぼ等しい2θにピークが現れることを確認した。また、新たに作製したキャピラリ2についても同様であった。
【0022】
以上により、本実施例に因れば、分析用カラム11の場所やロットにかかわらず、骨格4のサイズおよびマクロ孔3のサイズが均質な分析用カラム11が得られる。これにより、骨格4の制御や、分析用カラム11の作製ロット間での特性にばらつきを改善した分析用カラムを提供できる。
【0023】
また、混合材料の溶液に加えるカイラル剤量でマクロ孔3のサイズが変わる。有機高分子を構成するモノマの総量によっても骨格4の太さが変わり、結果としてマクロ孔3のサイズが変わる場合がある。本実施例では、骨格4の制御だけでなく、マクロ孔3のサイズ分布も制御できる。
【実施例2】
【0024】
次に、本発明の分析用カラムの他の実施例について説明する。
【0025】
本実施例では、アクリルモノマまたはメタクリルモノマを、周期性を有する媒体に溶解させて重合させ、その溶媒を除去することにより、多孔質体1を作製する。これにより、多孔質体1を安価にかつ簡便に形成できる。
【0026】
多孔質体1の骨格である有機高分子を形成するためのモノマとしては、任意のモノマを一種類以上含むことが望ましく、本実施例においてはTMPTA(東京化成工業製)を用いた。この任意のモノマについては、分析カラムの分析目的によって選択することができる。一般的な逆相クロマトグラフィ用であれば、エチルヘキシルアクリレートよりもさらに長鎖のアルキル基を有するアクリルモノマである、ステアリン酸アクリレート(東京化成工業製)などが挙げられる。
【0027】
さらに、分離目的物に因って、アルキル基を有するモノマだけでなく、フェニル基を有するモノマ,シアノ基を有するモノマ,ジオール類やグリセロール類などの多価アルコール,多糖類が結合されるアクリルモノマ,多糖類が結合されるメタクリルモノマなどが挙げられる。例えば、イオン性の化合物を選択的に抽出する場合に上記材料が用いられる。
【0028】
さらに、イオン性物質の分離などでは、例えば、カルボン酸,スルホン酸,アミノ基などが末端に結合したようなアクリルモノマ,メタクリレートモノマなどを用いることができる。具体的には、メタクリル酸3−スルホプロピルカリウムやメタクロイルコリンクロリド(いずれも東京化成工業製)などが挙げられる。
【0029】
また、光学分割を目的とする場合には、光学活性を有する置換基が結合したアクリルモノマ,メタクリルモノマを用いることができる。このような場合には、コレステロール類,アミノ酸,ペプチド類,糖類などの任意の光学異性体が結合したアクリルモノマ,メタクリルモノマなどが考えられる。具体的には、下記に示すような構造異性体を有するモノマなどが挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
従来のモノリスカラムにおいては、ゾルゲル法などで多孔質体の骨格を形成したのちに、分離性能を付与するために、オクタデシル基を有するシロキサン化合物を反応させていた。それに対して、本実施例では、骨格4を形成するモノマに分析カラムにおける分離性能を付与できる。このため、骨格4の形成と同時に多孔質体1に分離性能が得られるので、作製プロセスを簡略にでき、作製コストを削減できる。
【0032】
次に、本実施例では、周期性を有する媒体として液晶相を発現する材料を用いた。本実施例では、JC1041XX(チッソ石油化学製)、5−シアノビフェニル(アルドリッチ製)に加え、カイラル剤である下記の化合物を用いた。〔化2〕の化合物は、フォトニック結晶の一種であり、液晶相の一つであるコレステリックブルー相を発現する。〔化2〕の化合物は、おおよそ下記の手順において合成したものを用いた。
【0033】
【化2】

【0034】
まず、15.6gの4−n−プロピル安息香酸(東京化成工業製)をベンゼン100mlに溶解し、その溶液に氷冷下で塩化チオニル16.6gを滴下した。塩化チオニルの滴下後、3時間還流過熱撹拌した後に、減圧濃縮した。減圧濃縮した溶液にベンゼン50mlを加え、良く撹拌してから減圧濃縮して、4−n−プロピル安息香酸酸塩化物を得た。
【0035】
次に、(R)−(+)−1,1′−ビ−2−ナフトール(東京化成工業製)10.0gを塩化メチレン100mlに加えてから、トリエチルアミン10.1gを加えた。次に、先に合成した4−n−プロピル安息香酸酸塩化物に塩化メチレン50mlを溶解した溶液を氷冷下で滴下して、室温にて一夜撹拌した。反応液を水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒(塩化メチレン)を減圧濃縮した。残留物を少量の塩化メチレンに溶解し、展開溶媒がヘキサン:酢酸エチル(10:1)のシリカクロマトにより精製し、〔化2〕の化合物を得た。
【0036】
本実施例においては、周期性を有する媒体であれば、コレステリックブルー相を発現する材料に限定されるものではないが、液晶相を発現するような材料であることが望ましい。液晶相を発現するような材料として、例えば、スメクチックブルー相,コレステリック相,TGB相,キュービック相,ラメラ相,スポンジ相,ミセル相が発現するような材料が挙げられる。材料のバリエーションや制御法の観点から、液晶相を発現するような材料としてブルー相が望ましい。
【0037】
上記のような媒体として液晶相を用いる場合には、任意のモノマに加えて、液晶性のアクリルモノマまたはメタクリルモノマを1種類以上用いることが望ましい。これにより、液晶相が発現する温度の低下を抑制し、骨格4を形成するモノマの含有量を多くでき、骨格4の機械的強度を高められる。本実施例においては、液晶性アクリルモノマとして、下記に示すST0321(DKSH製)を用いた。本実施例で用いた液晶性アクリルモノマは、二官能のアクリルモノマである。二官能のアクリルモノマの代わりに下記のような一官能のアクリルモノマを用いても良い。また、二官能のアクリルモノマおよび一官能のアクリルモノマを合わせて使用しても良い。ここで、〔化4〕におけるRは任意の長さのアルキル基である。
【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
非特許文献2に因れば、本実施例のようにブルー相を発現する液晶を媒体とした場合において、図3に示されるように、ブルー相単位格子5の中に形成される液晶配向の不連続な領域6に骨格4が形成される。なお、図3においては、液晶配向の不連続な領域6の立体的な位置関係を明確にするために、画面奥側から手前に向かってくる場合には、手前側に矢印を描画している。
【0041】
これら周期性を有する媒体を用いることにより、モノマの重合とともに有機高分子が周期性を有する媒体の中で相分離していく中で、媒体の周期構造を反映して骨格4が形成されていく。また、このときの骨格4の周期性のサイズは、材料中の化合物や組成,温度によっても制御できる。本実施例中で用いた材料においては、図3におけるブルー相単位格子5のサイズおよび液晶配向の不連続な領域6の周期がカイラル剤の添加量に依存するため、〔化2〕の化合物により骨格4の周期性を制御できる。
【0042】
さらに、骨格4を形成するために、光ラジカル重合開始剤であるジメトキシフェニルアセトフェノンを上記媒体中に添加した。光ラジカル重合を用いることにより、多孔質体1を安価かつ簡便に形成できる。
【0043】
モノマ,液晶性モノマ,周期構造を有する媒体および重合開始剤を表1に示す割合で混合した溶液を調整した。混合する割合は、表1に示す場合に限定されない。例えば、骨格4の体積分率を増大し、より強固で表面積を広くしたい場合は、モノマ及び液晶性モノマの混合比率を増加させることが望ましい。ここで、骨格4の強度を勘案すると、モノマおよび液晶性モノマの総量は5mol%以上であることが望ましい。モノマ及び液晶性モノマの混合比率は、GCMSなど質量分析から得られるフラグメントから求められる。
【0044】
【表1】

【0045】
この調整した溶液をキャピラリ2内に送液した。キャピラリ2内が溶液で満たされたら、送液を停止した。キャピラリ2の内部に溶液が満たされたキャピラリ2を、恒温槽内に設置し、ブルー相発現温度に温度を保持した。そこで、高圧水銀ランプHLR400T(セン特殊光源製)を用いて、365nmの光で2000mJの照度となるように、上記キャピラリ2に紫外光を照射した。
【0046】
この後、得られた液晶および高分子の複合体から媒体である液晶成分を除去するために、シクロヘキサンを送液した。このとき、シクロヘキサン中に液晶成分やその他不純物がガスクロマトグラフまたは液体クロマトグラフなどで確認できなくなるまで、シクロヘキサンを送液した。
【0047】
以上のようにして得られた多孔質体1を、実施例1と同様にして小角X散乱測定装置を用いて評価した結果、小角側から同心円状にデバイリングを確認した。さらに図4および図5に示すように、SEMによりキャピラリ2の断面を確認したところ、多孔質体1の断面が観察された。これにより、キャピラリ2内に多孔質体1が形成されていることが確認できた。
【0048】
本実施例により、分析用カラム11を簡便かつ安価に提供できる。また、TMPTAはEHAに比べてモノマ中の架橋部位の数が多く、多孔質体1の強度を向上できる。
【実施例3】
【0049】
次に、本発明の分析カラムの他の実施例について説明する。
【0050】
骨格4を形成するための溶液の混合割合が表2に記載した割合となる以外は、材料および作成方法は実施例2とほぼ同様にして分析用カラムを作成した。本実施例では、モノマおよび液晶性モノマの総量が10mol%以上40mol%以下になるようにした。具体的には、モノマおよび液晶性モノマの総量は15mol%であった。モノマおよび液晶性モノマの総量が10mol%より小さいと、骨格4の強度が低下し、多孔質体1の構造が保てなくなり、キャピラリ2と多孔質体1とが剥離する可能性がある。また、モノマおよび液晶性モノマの総量が40mol%より大きいと、モノマ及び液晶性モノマが混合溶液から相分離してしまい、多孔質体1の形成が難しくなる。
【0051】
図6および図7に示すように、得られた分析用カラム11の断面をSEM観察した結果、多孔質体1が形成されていた。また、モノマおよび液晶性モノマの総量が実施例2に比べて高いため、骨格4が実施例2に比べて太く、強固であった。これにより、実施例2よりも緻密な多孔質体1を有する分析用カラム11を形成できた。
【0052】
【表2】

【実施例4】
【0053】
次に、本発明の分析カラムの他の実施例について説明する。図1におけるキャピラリ2が光透過性樹脂であるアクリル製チューブである以外は、本実施例の内容は実施例2に実施した内容とほぼ同様である。
【0054】
一般に、アクリル製チューブは石英製のキャピラリに比べて低コストである。しかし、アクリルは石英に比べて耐熱性が低い。このため、従来のシリカモノリスカラムのように作製の際に焼成が必要な場合に、アクリルを使用することが難しい。
【0055】
一方、本実施例に用いる多孔質体1は光ラジカル重合により形成される。このため、重合開始に必要な波長の光が、キャピラリ2内に透過すれば良い。
【0056】
このような例として、アクリル製チューブに限らず重合開始波長の光を透過するキャピラリを用いることにより、分析カラムを安価に作製できる。具体的には、キャピラリとしてPET,PMMA,ポリスチレン,ポリエーテルスルホン,ポリカーボネートなどの可視または近紫外で光を透過する樹脂チューブが挙げられる。
【実施例5】
【0057】
次に、本発明の分析カラムの他の実施例について説明する。本実施例では、内径50ミクロンの石英製のキャピラリ2(GLサイエンス製)を用いた。多孔質体1の形成前に、キャピラリ2内に、メタノールに対して0.1重量%となるように希釈したアクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル(東京化成工業製)を送液した。この後、キャピラリ2内がメタノール溶液で完全に満たされたら、メタノール溶液の送液を停止した。その後、キャピラリ2を120℃のオーブンで10分焼成した。このようにして、キャピラリ2の多孔質体1を形成する側の表面にアクリル基またはメタクリル基が形成される。
【0058】
本実施例ではアクリル基が結合したシランカップリング剤として、アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルを用いたが、メタクリル酸3−(トリメトキシ)プロピルでもよく、これに限定されない。石英製またはガラス製のキャピラリ2を使用する場合は、本実施例のようにアクリル基またはメタクリル基の結合したシランカップリング剤を用いればよい。キャピラリ2の多孔質体1を形成する側の表面に形成される置換基として、アクリル基またはメタクリル基に限られず、多孔質体1と化学的に結合できる置換基であればよい。
【0059】
また、キャピラリ2が実施例4のような光透過性樹脂からなる場合は、キャピラリ2の内部をオゾンなどでアッシングした後に、アクリル基もしくはメタクリル基が結合したアルキル、アルコール、またはカルボン酸誘導体を用いれば良い。キャピラリ2が光透過性樹脂の場合、シランカップリング剤による表面処理がむずかしいからである。
【0060】
シランカップリング剤では、シランカップリング剤末端のSiOが化学的に多孔質体1と結合しにくい。アッシングであれば、多孔質体1の表面にOH基,COOH基などが形成されるので、表面処理剤と多孔質体1を化学的に結合できる。
【0061】
また、焼成の条件についても、120℃で10分に限定されない。キャピラリ2の材質や、キャピラリ2内に送液する材料によって最適な条件を選択することが望ましい。
【0062】
この後に、実施例2で挙げたTMPTA,ST0321,JC1041XX,5−シアノビフェニルおよび重合開始剤を混合した溶液をキャピラリ2内に送液し、キャピラリ2内が溶液で満たされたら、混合溶液の送液を停止した。
【0063】
混合溶液で満たされたキャピラリ2を、恒温槽内に設置し、32℃に保持してブルー相が発現していることを確認した。その後、高圧水銀ランプHLR400T(セン特殊光源製)を用いて、365nmの光で2000mJの照度となるように、混合溶液に紫外光を照射した。
【0064】
この後、得られた液晶および高分子の複合体から媒体である液晶成分を除去するために、シクロヘキサンを送液した。このとき、シクロヘキサン中に液晶成分やその他不純物が、ガスクロマトグラフもしくは液体クロマトグラフなどで確認できなくなるまでシクロヘキサンを送液した。
【0065】
以上のようにして得られた分析用カラム11をSEMにより観察した。すると、図8および図9のように、多孔質体1およびキャピラリ2が化学的に結合していた。これにより、高圧で移動相を送液しても多孔質体1のキャピラリ2からの剥離が少なく、信頼性が高い分析用カラムを提供できる。
【実施例6】
【0066】
次に、本発明の分析カラムの他の実施例について説明する。
【0067】
本実施例の構成を図10に示す。キャピラリ2はSUS製のジャケット9内に保持されている。このとき、ジャケット9の内径は、キャピラリ2の外径とほぼ等しいことが望ましい。また、キャピラリ2の端部の内一方は、分析装置のインジェクション側に接続されるためのジョイントが形成されることが望ましい。
【0068】
キャピラリ2の外径に対してジャケット9の内径が大きい場合には、キャピラリ2とジャケット9との隙間に緩衝材を充填することが望ましい。緩衝材としては、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が挙げられるが、これに限られない。また、図11に示されるように任意の樹脂剤で形成されたチューブ10の中にキャピラリ2を保持しても良い。チューブ10に用いられる樹脂として耐薬品性や弾性率が高い材料であることが望ましい。具体的には、テフロンやポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。また、キャピラリ2とジャケット7との隙間に任意の樹脂を充填しキャピラリ2を固定,保持しても良い。
【0069】
本実施例のように、キャピラリ2をSUSのような金属製のジャケット9の中に保持することにより、石英やガラス以外のキャピラリ2に本発明のおける多孔質体1を形成した場合の高圧で移動相を送液したことによるキャピラリ2の破裂を防止でき、分析用カラム11の信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0070】
1 多孔質体
2 キャピラリ
3 マクロ孔
4 骨格
5 ブルー相単位格子
6 液晶配向の不連続な領域
9 ジャケット
10 チューブ
11 カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリと、
前記キャピラリ内に形成される多孔質体と、を有し、
前記多孔質体は孔および骨格で構成され、
前記多孔質体の骨格は有機高分子で構成され、
前記多孔質体の骨格は周期性を有し、
前記有機高分子には第一のモノマの重合体が含まれ、
前記第一のモノマは、液晶性を発現する媒体を用いて重合体となる性質を有することを特徴とする分析用カラム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第一のモノマはアクリルモノマまたはメタクリルモノマであることを特徴とする分析用カラム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記媒体は周期性を有することを特徴とする分析用カラム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記媒体はブルー相を発現することを特徴とする分析用カラム。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記有機高分子には第二のモノマの重合体が含まれ、
前記第二のモノマは液晶性を発現することを特徴とする分析用カラム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記多孔質体は光ラジカル重合により形成されることを特徴とする分析カラム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記キャピラリは石英またはガラスで形成される分析カラム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記キャピラリは光透過性樹脂で形成される分析カラム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記キャピラリの前記多孔質体を形成する側の表面に前記多孔質体と化学結合する置換基が形成されることを特徴とする分析カラム。
【請求項10】
請求項9において、
前記置換基は前記キャピラリへのアッシングで形成されることを特徴とする分析カラム。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記キャピラリは金属製のジャケット内に保持されている分析カラム。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかの分析カラムを用いた分析装置。
【請求項13】
第一のモノマと液晶性を発現する媒体との混合材料をキャピラリ内に注入する工程と、
前記混合材料に紫外光を照射する工程と、
前記キャピラリ内に前記媒体を除去する除去溶液を注入し、前記キャピラリ内に多孔質体を形成する工程と、を有し、
前記多孔質体は孔および骨格で構成され、
前記多孔質体の骨格は有機高分子で構成され、
前記多孔質体の骨格は周期性を有し、
前記有機高分子には前記第一のモノマの重合体が含まれることを特徴とする分析カラムの製造方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記第一のモノマはアクリルモノマまたはメタクリルモノマであることを特徴とする分析用カラムの製造方法。
【請求項15】
請求項13または14において、
前記媒体はブルー相を発現することを特徴とする分析用カラムの製造方法。
【請求項16】
請求項13乃至15のいずれかにおいて、
前記媒体にはカイラル剤が含まれることを特徴とする分析用カラムの製造方法。
【請求項17】
請求項13乃至16のいずれかにおいて、
前記有機高分子には第二のモノマの重合体が含まれ、
前記第二のモノマは液晶性を発現することを特徴とする分析用カラムの製造方法。
【請求項18】
請求項13乃至17のいずれかにおいて、
前記有機高分子を構成するモノマ、前記媒体および重合開始剤の混合溶液に対する前記有機高分子を構成するモノマの総量が5mol%以上40mol%以下であることを特徴とする分析用カラムの製造方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記混合溶液に対する前記有機高分子を構成するモノマの総量が10mol%以上40mol%以下であることを特徴とする分析用カラムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−32347(P2012−32347A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174079(P2010−174079)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)