説明

分析装置および分析方法

【課題】 例えばイムノクロマトグラフィ法を利用した、被検物質の検出またはその定量を高い信頼性をもって行うことのできる分析装置および分析方法を提供すること。
【解決手段】 この分析方法は、検体に含まれる所定の被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域を有する試験片における反応領域およびバックグラウンド領域を少なくとも視野領域に含む撮影部によって、反応領域およびバックグラウンド領域の各々に係る画像データを取得し、分析部によって、前記被検物質の濃度を反応領域に係る画像データに基づいて算出する濃度算出処理、および、バックグラウンド領域の状態が前記被検物質の検出において被検物質の種類毎に設定された許容範囲内であるか否かを、撮影部によって取得されたバックグラウンド領域に係る画像データに基づいて、判定する判定処理が行われる。分析装置は、上記分析方法が実行されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、イムノクロマトグラフィ法を利用した被検物質の検出または定量に用いられる分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば診察室や病棟などの「患者の近いところ」で行われるポイントオブケア検査(POCT)の手法として、イムノクロマトグラフィ法(免疫学的クロマトグラフィ法)が注目されている。このようなPOCTにおいて用いられるイムノクロマトグラフィ試験片(ストリップ)は、試薬の調整を必要とせず、血液や尿などの被検査液を当該試験片上に滴下するなどの簡単な操作のみでその中の被検物質を分析することが可能であり、被検査液中の被検物質を簡便かつ迅速に分析するのに非常に有用であるため、現在多数のものが実用化されている。
【0003】
このようなイムノクロマトグラフィ法を用いたPOCT用の分析装置としては、例えば、検体中の被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域を有する試験片における当該反応領域に光源からの光を照射し、試験片からの散乱光(または透過光や反射光の場合もある)を適宜の光学系を通してCCDなどからなるイメージセンサに結像させ、イメージセンサの各画素にて得られる光の光量を画素の輝度に変換して分析することにより、検体中の被検物質の濃度を定量化する構成のものが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−101715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、イムノクロマトグラフィ法を用いたPOCT用の分析装置においては、煩雑な操作を要さず短時間で信頼性の高い測定を行うことのできるものが求められている。
しかしながら、上記のような分析装置においては、信頼性の高い測定(分析)結果を確実に得ることができない、という問題がある。この理由は、以下に示すとおりである。
例えば、検体が血液である場合においては、赤血球が破損して、赤血球内部の原形質が細胞外に漏出することがあり、このような場合には、原形質が被検物質による呈色状態を示す反応領域に重なってしまう。従って、取得される画像データにおける、反応領域に係る画像データ部分とバックグラウンド領域に係る画像データ部分とのコントラストが、被検物質による呈色反応によって生じた呈色だけでなく、原形質の色味も混ざったものとなり、呈色状態そのものに異常が生じている可能性が高いものとなる。
また、血液中に乳糜(にゅうび)が混ざることがあるが、このような場合においても、反応領域における呈色状態が乳糜の影響を受けることとなる。なお、乳糜は、尿にも混ざることがあり、検体が血液の場合と同様の問題を生ずる。
以上のように、検体に不所望な物質(妨害物質)が混ざってしまうと、反応領域における呈色状態が目的に沿ったものでない可能性が高くなるが、上記の分析装置においては、いわば異常の生じている呈色状態に基づいて被検物質の濃度の定量化がなされ、不正確な分析結果がユーザに伝えられてしまうこととなる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、例えばイムノクロマトグラフィ法を利用した、被検物質の検出またはその定量を高い信頼性をもって行うことのできる分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の分析装置は、検体に含まれる所定の被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域が形成された試験片における当該反応領域および当該反応領域以外のバックグラウンド領域を少なくとも視野領域に含む撮影部と、前記反応領域における呈色の程度によって前記被検物質を検出する分析部とを具えた分析装置において、
前記分析部は、前記バックグラウンド領域の状態が前記所定の被検物質の検出において被検物質の種類毎に設定された許容範囲内であるか否かを、前記撮影部によって取得された当該バックグラウンド領域に係る画像データに基づいて、判定する機能を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の分析装置においては、前記試験片は、前記呈色反応に関連する情報を含むコードが表示されるコード領域を前記反応領域と同一表面上に有し、当該コードが前記バックラウンド領域に係る許容範囲についての情報を含むものであり、
前記撮影部が、前記コード領域をさらに含む視野領域を有する構成のものとすることができる。
また、本発明の分析装置においては、前記バックラウンド領域に係る許容範囲についての情報が記録された記憶部を具えた構成とされていてもよい。
【0009】
本発明の分析方法は、検体に含まれる所定の被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域を有する試験片における当該反応領域および当該反応領域以外のバックグラウンド領域を少なくとも視野領域に含む撮影部によって、前記反応領域に係る画像データおよび前記バックグラウンド領域に係る画像データを取得し、
分析部によって、前記所定の被検物質の濃度を前記反応領域に係る画像データに基づいて算出する濃度算出処理が行われると共に、前記バックグラウンド領域の状態が前記所定の被検物質の検出において被検物質の種類毎に設定された許容範囲内であるか否かを、前記撮影部によって取得された当該バックグラウンド領域に係る画像データに基づいて、判定する判定処理が行われることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の分析方法においては、前記判定処理において前記バックグラウンド領域の状態が前記許容範囲を逸脱すると判定された場合には、前記濃度算出処理による濃度測定結果を含まないエラーメッセージ情報を分析結果として出力するエラー処理が行われる。
【0011】
本発明の分析方法においては、前記許容範囲内において、前記反応領域における呈色が前記所定の被検物質それ自体によるものでない可能性があると判断される注意範囲がさらに設定されており、
前記判定処理において前記バックグラウンド領域の状態が前記許容範囲内において注意範囲内にあると判定された場合には、前記濃度算出処理による濃度測定結果に注意を喚起するメッセージ情報が付加されたものを分析結果として出力する注意情報付加処理が行われることが好ましい。
【0012】
また、本発明の分析方法においては、試験片として、前記呈色反応に関連する情報を含むコードが表示されるコード領域を前記反応領域と同一表面上に有し、当該コードが前記バックラウンド領域に係る許容範囲についての情報を含むものが用いられ、
前記撮影部によって、前記反応領域および前記バックグラウンド領域並びに前記コード領域を含む分析領域についての画像データが取得されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の分析方法によれば、試験片の反応領域における呈色が被検物質それ自体によるものか、例えば検体の異常等による妨害物質の影響を受けたものであるかを識別することができるので、検体の状態および試験片の状態が反映された分析結果を得ることができる。
上記の分析方法が実行される本発明の分析装置によれば、信頼性の高い分析結果を得ることができるので、不正確な分析結果がユーザに報知されることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の分析装置において用いられるイムノクロマトグラフィ試験片の一例における構成の概略を示す平面図である。
【図2】本発明の分析装置の一例における外観を示す斜視図である。
【図3】図2に示す分析装置の構成の概略を示すブロック図である。
【図4】図2に示す分析装置における検出部の構成の概略を示す斜視図である。
【図5】図2に示す分析装置の動作フローの一例を示すフローチャート図である。
【図6】コード領域に表示されたコードに含まれる検量線情報としての、被検物質濃度と呈色部分の光学的濃度との関係を示す検量線の一例を示す図である。
【図7】第2の撮影条件で撮影された画像データ(被検物質検出用画像データ)における検体の展開方向の輝度プロファイルの一例を示すグラフである。
【図8】第2の撮影条件で撮影された画像データ(被検物質検出用画像データ)における検体の展開方向の輝度プロファイルの他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の分析装置は、例えばイムノクロマトグラフィ法により生体成分中の被検物質を定量分析するために用いられるものである。以下においては、先ず、本発明の分析装置において用いられるイムノクロマトグラフィ試験片について説明する。
【0016】
図1は、本発明の分析装置において用いられるイムノクロマトグラフィ試験片の一例における構成の概略を示す平面図である。
このイムノクロマトグラフィ試験片(以下、単に「試験片」という。)20は、例えば濾紙などの多孔質支持体21(図1においては便宜上斜線が付してある)がケース20Aの内部に収容され、各々多孔質支持体21を外部に露出させる2箇所の開口部22A、22Bが検体の展開方向(図1において白抜きの矢印で示す。)に離間した位置に形成されて構成されている。そして、一方の開口部22Aにより検体滴下部23が構成されていると共に他方の開口部22Bにより読み取り部24が構成されている。読み取り部24においては、多孔質支持体21の、ケース20Aにおける他方の開口部22Bを介して外部に露出される表面領域に、例えば標識抗体、および、被検物質に応じた抗体または抗原が、検体の展開方向と直交する方向(図1において上下方向)に延びるライン状に固定化されており、これにより、反応領域Rが形成されている。
【0017】
また、この試験片20における、検体の展開方向における読み取り部24の下流側の位置には、例えばQRコード(登録商標)などの二次元コード25が設けられており、これにより、コード領域Cが形成されている。従って、この試験片20においては、反応領域Rと同一表面上にコード領域Cが形成されている。
二次元コード25に含まれる情報としては、例えば分析項目、有効期限、ロット番号などの試験片20の基本情報、および、例えば反応時間、検量線、後述するバックグラウンド領域Bの状態を判定するための判定基準となる許容範囲などの試験片20に固有の呈色反応に関連する情報などを例示することができる。
【0018】
〔分析装置〕
本発明の分析装置は、試験片20における反応領域Rおよび当該反応領域R以外の他方の開口部22Bを介して外部に露出される多孔質支持体21の表面領域であるバックグラウンド領域Bを含む領域を少なくとも視野領域に含む撮影部を具えた検出部と、試験片20の反応領域Rにおける呈色の程度によって所定の被検物質を検出する分析部を具えた制御部とを具えている。
【0019】
図2は、本発明の分析装置の一例における外観を示す斜視図、図3は、図2に示す分析装置の構成の概略を示すブロック図、図4は、図2に示す分析装置における検出部の構成の概略を示す斜視図である。
図2において、11は電源スイッチ、12は分析すべき検体に係るID情報などを入力すると共に動作指令信号を入力する操作手段および分析結果を表示する表示手段としてのタッチパネルである。13は試験片挿入口であって、上記構成の試験片20が、反応領域Rおよびコード領域Cを有する表面が上方を向いた状態で、水平な姿勢で挿入される。
【0020】
この実施の形態に係る分析装置における検出部60は、試験片20の有無を検出する試験片検出部、試験片20が適正な位置にセットされた状態において、例えば試験片20における反応領域Rおよびコード領域Cを含む分析領域を視野領域Sに含む撮影部、および、試験片20における撮影部の視野領域Sを含む領域(照明領域、図1において破線で示す。)Lを照明する照明部を具えている。
【0021】
試験片検出部は、例えばフォトインタラプタなどの試験片検出用センサ30により構成されている。
【0022】
撮影部は、試験片20からの例えば反射光を受光して試験片20の分析領域における光強度分布像を撮影する撮影素子を具えた撮影装置40により構成されている。撮影装置40としては、例えばCMOS(Complementary Metal−Oxide Semiconductor)イメージセンサ41よりなる撮影素子を具えてなるものが用いられることが好ましい。CMOSイメージセンサ41を具えた撮影装置40が用いられることにより、例えばCCDイメージセンサにおいて生ずる「スミア」と称される撮影素子の内部で発生する電荷のオーバーフローに起因するノイズが生ずることを抑制することができるため、反応領域Rに対応する画素の出力に影響を及ぼすことはない。
【0023】
照明部は、試験片20の反応領域(呈色ライン)Rの呈色濃度とのコントラストが大きくなる色光を照射する光源を具えた照明装置により構成されている。光源としては、例えばLED、半導体レーザー、ランプとバンドパスフィルターが組み合わされたものなどを用いることができるが、例えば、試験片20が標識として金コロイドが用いられたものである場合には、被検物質によって例えばピンク色に呈色することから、例えば発光ピーク波長が525nm付近にある緑色光を発するLEDが好ましい。
この実施の形態に係る分析装置においては、例えば発光素子52および当該発光素子52からの放射光の一部を受光するモニタ用の受光素子53を具えたLED51を光源として具えた照明装置50が用いられており、LED51がAPC(オートパワーコントロール)制御されることにより、周囲温度などの外乱による光量変動を抑制することができて一定の光量で安定して照明することができる。
照明装置50による照明領域Lの大きさは、例えば照明装置50の試験片20の表面に対する配置位置(離間距離)によって調整することができる。
【0024】
制御部70は、照明装置50におけるLED51の受光素子53からの発光素子52による放射光の光量に応じた出力信号を増幅する信号増幅部71と、フィードバック制御によって、信号増幅部71で増幅された受光素子53の出力信号が一定となるよう発光素子52に対する供給電流を調整してLED51の光出力を一定とする電流制御部72と、試験片20が試験片検出用センサ30によって検出された時点からの経過時間を計測する計時部73と、撮影装置40の動作制御を行う撮影装置制御部75と、撮影装置40によって取得される画像データを分析して検体中の被検物質の濃度を算出する分析部76と、試験片20における二次元コード25に含まれる情報が書き換え可能に記録される記憶部78とを具えている。
【0025】
撮影装置制御部75は、例えば、試験片20における分析領域について、互いに異なる第1の撮影条件および第2の撮影条件で撮影された2つの画像データが取得されるよう、撮影装置40による撮影条件を調整する機能を有する。
撮影装置40による撮影条件を調整する手法としては、例えば、撮影装置40におけるCMOSイメージセンサ41の電子シャッターのシャッタースピード(シャッター時間)を制御することにより露光時間を調整し、これにより、露光量(CMOSイメージセンサ41に受光される光の光量)を調整する方法、あるいは、照明装置50におけるLED51の発光量を制御することにより露光量を調整する方法などを用いることが好ましい。ここに、露光時間を調整して露光量を調整する方法としては、例えば、CMOSイメージセンサ41のゲイン(感度)または絞りを調整する方法もあるが、CMOSイメージセンサ41のゲインを大きくして露光量を大きくするとノイズが増え、また、絞りを変えると写り方が変化するため、CMOSイメージセンサ41の電子シャッターのシャッタースピード(シャッター時間)を制御することにより露光時間を調整する方法が望ましい。
【0026】
撮影装置40による第1の撮影条件は、試験片20の分析領域におけるコード領域Cの撮影に最適な明るさとなるよう設定されており、具体的には例えば、2次元コード25の周辺の最も明るい箇所がCMOSイメージセンサ41の最大階調を超えないよう、CMOSイメージセンサ41の電子シャッターのシャッタースピード(露光時間)および/または照明装置50におけるLED51の発光量の大きさ、すなわちCMOSイメージセンサ41に対する露光量の大きさが設定されている。
【0027】
撮影装置40による第2の撮影条件は、試験片20の分析領域における反応領域Rの撮影に最適な明るさとなるよう設定されており、具体的には例えば、露光量が第1の撮影条件より大きくなる条件、反応領域R(検出ラインおよびコントロールライン)以外の最も明るい箇所がCMOSイメージセンサ41の最大階調を超えない範囲内において、CMOSイメージセンサ41の電子シャッターのシャッタースピード(露光時間)および/または照明装置50におけるLED51の発光量の大きさが、第1の撮影条件より大きくなる条件に設定されている。
第2の撮影条件におけるCMOSイメージセンサ41に対する露光量は、第1の撮影条件におけるCMOSイメージセンサ41に対する露光量の例えば1.3倍程度に設定することができる。
【0028】
以上において、CMOSイメージセンサ41の電子シャッターのシャッタースピードの調整は、例えばCMOSカメラモジュールの動作条件を変更することにより行うことができる。
また、LED51の発光量の調整は、例えばLED51に対する供給電流の大きさを変更することにより行うことができる。
【0029】
分析部76は、試験片20における分析領域について第1の撮影条件で撮影された画像データ(以下、「コード読み取り画像データ」という。)に基づいて二次元コード25に含まれる当該試験片20に固有の情報を読み取る処理、および、第2の撮影条件で撮影された画像データ(以下、「被検物質検出用画像データ」という。)に基づいて反応領域Rにおける呈色部分の光学的濃度を算出する濃度算出処理を行う機能を有する。
ここに、コード読み取り画像データおよび被検物質検出用画像データは、いずれも、例えば0〜255の256階調の濃淡画像で表現されるものであって、例えば、反応領域Rおよびコード領域Cに係る最大階調部が、それぞれ、例えば200から250の範囲内であれば、コード領域Cにおいて表示される情報の読み取り、および、反応領域Rの呈色状態の読み取りを適正に行うことができる。
【0030】
而して、上記の分析装置においては、制御部70を構成する分析部76は、試験片20におけるバックグラウンド領域Bの状態が被検物質の検出において被検物質の種類毎に設定された許容範囲内であるか否かを被検物質検出用画像データにおけるバックグラウンド領域Bに係る画像データに基づいて判定する機能を有する。
具体的には、被検物質検出用画像データにおけるバックグラウンド領域Bに係る画素値を算出し、当該画素値が分析結果をタッチパネル12に表示すべき許容画素値の範囲内にあるか否かを判定する。ここに、画素値の判定基準としては、許容画素値の範囲内において、検体に不所望な物質が含まれていない場合の正常画素値の許容範囲、および、例えば、検体に不所望な物質が含まれていないものの、例えば反応領域Rにおける呈色が被検物質それ自体のものではない可能性があると判断される場合などの注意すべき場合の注意画素値の許容範囲(注意範囲)を設定することができる。許容画素値の範囲、正常画素値の許容範囲および注意画素値の許容範囲は、いずれも、実験的にあるいは経験的に設定することができる。
【0031】
以下、上記の分析装置の動作について説明する。
分析装置の電源スイッチ11が投入されると、タッチパネル12にメニュー画面が表示されて測定可能な状態とされる。
図5に示すように、タッチパネル12において分析開始ボタンを押すと(S1)、給電装置80が作動されて制御部70に対する給電が開始され、電流制御部72によって制御された大きさの電流が発光素子52に供給されてLED51が点灯される(S2)。発光素子52に供給される電流の制御について具体的に説明すると、発光素子52からの放射光の一部が受光素子53によって受光されることにより当該受光素子53から出力される、受光強度に応じた電気信号が、信号増幅部71によって増幅されて電流制御部72に入力され、電流制御部72によって、当該電流制御部72に入力される電気信号が一定になるように、発光素子52に供給する電流の大きさが制御される。
【0032】
そして、タッチパネル12を操作して分析すべき検体に係るID情報を入力した後(S3)、試験片20における検体滴下部23に検体を滴下して試験片20を試験片挿入口13にコード領域C側から挿入する。検出部60における試験片検出用センサ30によって試験片20がセットされたことが検出されると(S4)、試験片検出用センサ30からの試験片検出信号により計時部73が作動されてカウントが開始(タイマースタート)され(S5)、計時部73よりの動作指令信号が撮影装置制御部75に入力される。
【0033】
そして、撮影装置制御部75によって、撮影装置40による撮影条件が第1の撮影条件に調整され、撮影装置40によって試験片20における分析領域が撮影されることによりコード検出用画像データが取得される。コード検出用画像データにおけるコード領域Cについて適宜の画像解析が分析部76によって行われることにより、二次元コード25に含まれた当該試験片20に固有の情報、例えば反応領域Rにおける呈色状態が検出可能となる反応時間に係る反応時間情報、検体に含まれる被検物質の濃度を算出(定量)するための検量線に係る検量線情報、バックグラウンド領域Bの状態の判定処理を行う際に用いられるバックグラウンド領域Bに係る許容画素値の範囲、正常画素値の許容範囲および注意画素値の範囲に係る判定基準情報などが読み取られて、検量線情報および判定基準情報が記憶部78に記録される(S6)。ここに、反応時間情報に係る反応時間は計時部73に設定される。
【0034】
次いで、試験片20がセットされたことが検出されてからの経過時間が、取得された反応時間情報に係る反応時間を超えたことが計時部73によって検出されると(S7)、カウントがリセット(タイマーリセット)され(S8)、その後、撮影装置制御部75によって、撮影装置40による撮影条件が第2の撮影条件に調整され、撮影装置40によって試験片20における分析領域が撮影されることにより被検物質検出用画像データが取得される(S9)。被検物質検出用画像データが取得されると、撮影装置制御部75からの動作指令信号を受けて電流制御部72によって発光素子52に対する給電が停止されてLED51が消灯される(S10)。
【0035】
そして、分析部76によって、被検物質検出用画像データにおける反応領域Rについて適宜の画像解析が行われることにより、反応領域Rにおいて例えばライン状に表れる呈色部分の光学的濃度が算出され(S11)、図6に示すように、算出された反応領域Rにおける呈色部分の光学的濃度Yに応じた被検物質の濃度Xを、コード読み取り用画像データより取得された検量線情報に係る検量線に基づいて、算出する濃度算出処理が行われる(S12)。
【0036】
反応領域Rにおける呈色部分の光学的濃度が算出されると、分析部76によって、試験片20におけるバックグラウンド領域Bの状態についての判定処理が被検物質検出用画像データにおけるバックグラウンド領域Bに係る画像データに基づいて行われる。
【0037】
判定処理が行われるに際しては、先ず、分析部76によって、被検物質検出用画像データにおけるバックグラウンド領域Bに係る画像データについて適宜の画像解析が行われることにより、バックグラウンド領域Bの光学的濃度が画素値(以下、「バックグラウンド値」という。)として算出される(S13)。ここに、バックグラウンド値(BG)は、撮影素子における反応領域Rからの反射光量を検出する画素の、検体の展開方向に隣接する画素による画素値(検体の展開方向前方側における反応領域R近傍に位置されるバックグラウンド領域Bの画素値)をBGR、検体の展開方向の反対方向に隣接する画素による画素値(検体の展開方向後方側における反応領域R近傍に位置されるバックグラウンド領域Bの画素値)をBGLとするとき、BG=(BGR +BGL )/2により示される。
【0038】
この例においては、バックグラウンド領域Bの状態を判定する判定基準として、上記濃度算出処理により得られた濃度測定結果を分析結果として表示すべき許容画素値の範囲内において、反応領域Rにおける呈色が前記所定の被検物質それ自体によるものと判断される正常画素値の許容範囲と、前記反応領域Rにおける呈色が前記所定の被検物質それ自体によるものでない可能性があると判断される、正常画素値の許容範囲以外の注意画素値の許容範囲とが設定されており、先ず、判定基準情報に係る目的とする被検物質に応じた許容画素値がバックグラウンド判定基準値として記憶部78から読み出され、算出されたバックグラウンド値BGが当該バックグラウンド判定基準値の許容範囲内にあるか否かを判定する第1の判定処理が行われる(S14)。
【0039】
この第1の判定処理において、バックグラウンド値BGがバックグラウンド判定基準値の許容範囲を逸脱することが検出された場合には、上記濃度算出処理(S12)において算出された濃度測定結果を含まないエラーメッセージ情報を分析結果としてタッチパネル12に表示させるエラー処理が行われ(S15)、バックグラウンド値BGがバックグラウンド判定基準値の許容範囲内にあることが検出された場合には、第2の判定処理が行われる(S16)。
【0040】
第2の判定処理においては、判定基準情報に係る目的とする被検物質に応じた許容画素値の範囲内において設定された例えば正常画素値(注意画素値でもよい。)がバックグラウンド判定基準値として記憶部78から読み出され、算出されたバックグラウンド値BGが当該バックグラウンド判定基準値の許容範囲内にあるか否かの判定が行われる。
この第2の判定処理において、算出されたバックグラウンド値BGがバックグラウンド判定基準値としての正常画素値の許容範囲を逸脱すると判定された場合には、上記濃度算出処理(S12)において算出された濃度測定結果に注意を喚起するメッセージ情報を付加したものを分析結果としてタッチパネル12に表示させる注意情報付加処理が行われ(S17)、バックグラウンド値BGがバックグラウンド判定基準値としての正常画素値の許容範囲内にあると判断された場合には、上記濃度算出処理(S12)において算出された濃度測定結果がそのまま分析結果としてタッチパネル12に表示される(S18)。
【0041】
例えば、検体が血液である場合の特定の被検物質の検出において、当該被検物質に係るバックグラウンド判定値が、許容画素値の範囲が180より大きく240未満、正常画素値の範囲が200より大きく240未満、注意画素値が180より大きく200未満に設定されているとき、例えば図7に示すような、被検物質検出用画像データにおける反応領域Rおよびバックグラウンド領域Bについての検体の展開方向における輝度プロファイルが取得された場合には、バックグラウンド値BGは218.8となり、上記第2の判定処理において、反応領域Rにおける呈色が被検物質それ自体によるもの、すなわち検体が正常なものであると判定され、濃度測定結果がそのまま分析結果としてタッチパネル12に表示される。
一方、例えば図8に示すような、被検物質検出用画像データにおける反応領域Rおよびバックグラウンド領域Bについての検体の展開方向における輝度プロファイル(図7と同一の画素によるもの)が取得された場合には、バックグラウンド値BGは165.4となり、上記第1の判定処理において、反応領域Rにおける呈色が被検物質それ自体によるものではない可能性があると判断されてエラー処理がなされる。特に、バックグラウンド値BGが許容値の範囲の下限値以下(180以下)の場合には、検体そのものに、例えば血液中の赤血球が破れてヘモグロビンが溶出しているなどの異常が生じているもの(溶血検体)であると判断される。また、バックグラウンド値BGが許容値の範囲の上限値以上(240以上)の場合には、検体が滴下されていないか不足しているものと判断される。
【0042】
而して、上記の分析方法によれば、分析部76によって、試験片20におけるバックグラウンド領域Bの状態についての判定処理が被検物質検出用画像データにおけるバックグラウンド領域Bに係る画像データに基づいて行われることにより、反応領域Rにおける呈色が被検物質それ自体によるものか、例えば検体の異常等による妨害物質の影響を受けたものであるかを識別することができるので、検体の状態および試験片20の状態が反映された分析結果を得ることができる。
そして、このような分析方法が実行される上記分析装置によれば、信頼性の高い分析結果を得ることができるので、不正確な分析結果がユーザに報知されることを回避することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、バックグラウンド判定基準値は、試験片におけるコードに含まれている必要はなく、制御部における記憶部に予め記録しておいてもよい。
また、上記の実施形態に係る分析装置においては、撮影装置として試験片における反応領域およびコード領域を視野領域に含むものが用いられた構成とされているが、撮影装置および試験片の一方を他方に対して相対的に移動させて、反応領域およびバックグラウンド領域の画像データ、および、コード領域の画像データが順次に取得されるよう構成されていてもよい。
さらにまた、被検物質検出用画像データおよびコード読み取り用画像データを取得するに際しては、必ずしも撮影条件を変更する必要はなく、同一の撮影条件であってもよいが、反応領域およびバックグラウンド領域は、検体を展開することによって暗くなるため、撮影条件が変更されることが望ましい。
さらにまた、検出部における照明装置の配置位置および姿勢、並びに、撮影装置の配置位置および姿勢などの具体的構成は適宜に変更することができる。
【符号の説明】
【0044】
11 電源スイッチ
12 タッチパネル
13 試験片挿入口
20 イムノクロマトグラフィ試験片(試験片)
20A ケース
21 多孔質支持体
22A、22B 開口部
23 検体滴下部
24 読み取り部
25 二次元コード
30 試験片検出用センサ
40 撮影装置
41 CMOSイメージセンサ(撮影素子)
50 照明装置
51 LED
52 発光素子
53 受光素子
60 検出部
70 制御部
71 信号増幅部
72 電流制御部
73 計時部
75 撮影装置制御部
76 分析部
78 記憶部
80 給電装置
C コード領域
R 反応領域
B バックグラウンド領域
S 視野領域
L 照明領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる所定の被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域が形成された試験片における当該反応領域および当該反応領域以外のバックグラウンド領域を少なくとも視野領域に含む撮影部と、前記反応領域における呈色の程度によって前記被検物質を検出する分析部とを具えた分析装置において、
前記分析部は、前記バックグラウンド領域の状態が前記所定の被検物質の検出において被検物質の種類毎に設定された許容範囲内であるか否かを、前記撮影部によって取得された当該バックグラウンド領域に係る画像データに基づいて、判定する機能を有することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記試験片は、前記呈色反応に関連する情報を含むコードが表示されるコード領域を前記反応領域と同一表面上に有し、当該コードが前記バックラウンド領域に係る許容範囲についての情報を含むものであり、
前記撮影部が、前記コード領域をさらに含む視野領域を有することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記バックラウンド領域に係る許容範囲についての情報が記録された記憶部を具えていることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
検体に含まれる所定の被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域を有する試験片における当該反応領域および当該反応領域以外のバックグラウンド領域を少なくとも視野領域に含む撮影部によって、前記反応領域に係る画像データおよび前記バックグラウンド領域に係る画像データを取得し、
分析部によって、前記所定の被検物質の濃度を前記反応領域に係る画像データに基づいて算出する濃度算出処理が行われると共に、前記バックグラウンド領域の状態が前記所定の被検物質の検出において被検物質の種類毎に設定された許容範囲内であるか否かを、前記撮影部によって取得された当該バックグラウンド領域に係る画像データに基づいて、判定する判定処理が行われることを特徴とする分析方法。
【請求項5】
前記判定処理において前記バックグラウンド領域の状態が前記許容範囲を逸脱すると判定された場合には、前記濃度算出処理による濃度測定結果を含まないエラーメッセージ情報を分析結果として出力するエラー処理が行われることを特徴とする請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
前記許容範囲内において、前記反応領域における呈色が前記所定の被検物質それ自体によるものでない可能性があると判断される注意範囲がさらに設定されており、
前記判定処理において前記バックグラウンド領域の状態が前記許容範囲内において注意範囲内にあると判定された場合には、前記濃度算出処理による濃度測定結果に注意を喚起するメッセージ情報が付加されたものを分析結果として出力する注意情報付加処理が行われることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
試験片として、前記呈色反応に関連する情報を含むコードが表示されるコード領域を前記反応領域と同一表面上に有し、当該コードが前記バックラウンド領域に係る許容範囲についての情報を含むものが用いられ、
前記撮影部によって、前記反応領域および前記バックグラウンド領域並びに前記コード領域を含む分析領域についての画像データが取得されることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれかに記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−7607(P2013−7607A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139400(P2011−139400)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)