説明

分級装置及び分級方法

【課題】分級精度に優れた分級装置及び分級方法を提供すること。
【解決手段】粒子を分級する分級路と、粒子分散液を分級路上方に導入する粒子分散液導入路と、一端が輸送液を導入する開口部を有し、他端が分級路に接続され、輸送液を分級路下方に導入する輸送液導入路と、一端が開口部を有し、他端が分級路に接続され、分級された粒子を回収する回収路と、を有し、該粒子分散液導入路は、一端が粒子分散液を導入する粒子分散液導入口を有し、他端が分級路に接続され、該粒子分散液導入路が下記式(1)を満たすことを特徴とする分級装置。
A<B (1)
(式(1)中、Aは、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅であり、Bは粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分級装置及び分級方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子の分級を行う方法・装置として、部分的に細くなった部分を有するマイクロチャネル(ピンチドチャネル)を用い、マイクロチャネル内の特徴的な流れのプロファイルを利用することで、微粒子を導入するだけで流れの左右方向への分級が可能とする方法が提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。この方法では、粒径が15μmと30μmの微粒子の分離が可能であることが報告されている。
【0003】
また、微粒子の分級を行う方法・装置として、円弧状の矩形断面マイクロチャネルの一方から微粒子分散液を導入し、流体と微粒子の比重差と流体の流速に関わる遠心力、揚力などを利用した分離・分級方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
さらに、微粒子分散液を、シース流により粒子を整列させたマイクロ流路の導入部から分級ゾーンに層流で送液させ、前記微粒子分散液中での微粒子の沈降速度差により、微粒子を分級する分級方法及び分級装置が提案されている(例えば、特許文献2及び非特許文献3参照)。
また、同じように粒径の違いによる重力沈降速度差を利用してマイクロ流路内の層流下で分級する微粒子の分級方法及び分級装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−154747号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0040119号明細書
【特許文献3】特開2006−116520号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】関実、山田真澄、「マイクロチャネルを利用した微粒子分級法の開発」、化学とマイクロ・ナノシステム、化学とマイクロ・ナノシステム研究会、2006年3月、第4巻、第2号、p.11−16
【非特許文献2】大川原真一、他3名、「マイクロチャンネル分離分級器の性能に対する流路深さの影響」、化学工学論文集、社団法人化学工学会、2004年3月、第30巻、第2号、p.148−153
【非特許文献3】Shuichi Takayama、他7名、"A gravity-driven microfluidic particle sorting device with hydrodynamic separation amplification", Anal Chem, 2007 February 15; 79(4): 1369-1376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、分級精度に優れた分級装置及び分級方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、以下の<1>及び<6>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<5>及び<7>とともに以下に記載する。
<1> 粒子を分級する分級路と、粒子分散液を分級路上方に導入する粒子分散液導入路と、一端が輸送液を導入する開口部を有し、他端が分級路に接続され、輸送液を分級路下方に導入する輸送液導入路と、一端が開口部を有し、他端が分級路に接続され、分級された粒子を回収する回収路と、を有し、該粒子分散液導入路は、一端が粒子分散液を導入する粒子分散液導入口を有し、他端が分級路に接続され、該粒子分散液導入路が下記式(1)を満たすことを特徴とする分級装置、
A<B (1)
(式(1)中、Aは、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅であり、Bは粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅である。)
【0009】
<2> 前記分級路の流体の流れ方向と直交する方向の断面における横(H):縦(V)の比H/Vが下記式(2)を満たす、<1>に記載の分級装置、
1/1<H/V<10/1 (2)
<3> 前記A、前記B、及び、前記Hが下記式(3)を満たす、<2>に記載の分級装置、
2A<B<H (3)
【0010】
<4> 粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向の流路幅をLaとし、粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向の流路幅をLbとしたとき、La及びLbが下記式(4)を満たす、<1>〜<3>いずれか1つに記載の分級装置、
Lb≦La (4)
【0011】
<5> 前記分級路が水平に対して角度θ(0°<θ<90°)を有し、かつ、前記粒子分散液導入路及び/又は前記回収路が鉛直方向の上方から下方へ送液するように設けられている、<1>〜<4>いずれか1つに記載の分級装置、
<6> <1>〜<5>いずれか1つに記載の分級装置を使用することを特徴とする、粒子の分級方法、
<7> 粒子分散液中に界面活性剤及び/又はpH調整剤を含有する、<6>に記載の分級方法。
【発明の効果】
【0012】
上記<1>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、分級精度が維持される。
上記<2>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、より分級精度が向上する。
上記<3>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、より分級精度が向上する。
上記<4>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、より分級精度が向上する。
上記<5>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、流路の目詰まりが抑制される。
上記<6>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、分級精度に優れる。
上記<7>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、より分級精度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の分級装置の一例を示す概念斜視図である。
【図2】図1に示す分級装置のa−a’断面を示す流路断面図である。
【図3】図1に示す分級装置のb−b’断面図である。
【図4】分級装置の他の実施態様を示す流路断面図である。
【図5】本実施形態の分級装置を用いたシステム構成図の一例である。
【図6】本実施形態の分級装置を用いたシステム構成図の他の一例である。
【図7】本実施形態の分級装置の他の実施態様を示す概念斜視図である。
【図8】図7に示す分級装置を用いたシステム構成図の他の一例である。
【図9】本実施形態の分級装置の他の実施態様を示す断面図である。
【図10】従来の分級装置の一例を示す概念斜視図である。
【図11】図10に示す分級装置のa−a’断面を示す流路断面図である。
【図12】図10に示す分級装置のb−b’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の分級装置は、粒子を分級する分級路と、粒子分散液を分級路上方に導入する粒子分散液導入路と、一端が輸送液を導入する開口部を有し、他端が分級路に接続され、輸送液を分級路下方に導入する輸送液導入路と、一端が開口部を有し、他端が分級路に接続され、分級された粒子を回収する回収路と、を有し、該粒子分散液導入路は、一端が粒子分散液を導入する粒子分散液導入口を有し、他端が分級路に接続され、該粒子分散液導入路が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
A<B (1)
(式(1)中、Aは、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅であり、Bは粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅である。)
なお、以下の説明において、数値範囲を表す「A〜B」の記載は、特に断りのない限り「A以上B以下」を意味する。すなわち、端点であるA及びBを含む数値範囲を意味する。
以下、適宜図面を参照しながらさらに詳細に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、同一の符号は同一の対象を表すものである。
【0015】
図1は本実施形態の分級装置の一例を示す概念斜視図である。
図1に示す分級装置100は、粒子分散液を上層、輸送液を下層とする層流下で粒子分散液及び輸送液を送液する分級路110を有する。
該分級路110の上流には、一端に粒子分散液を導入する開口部(粒子分散液導入口)121を有し、他端が分級路110の上層に接続された粒子分散液導入路120と、一端に輸送液を導入する開口部(輸送液導入口)131を有し、他端が分級路110の下層に接続された輸送液導入路130とが配置されている。
なお、分級路110は、粒子分散液を上層、輸送液を下層とする層流下で、粒子分散液及び輸送液が送流される。粒子分散液中の粒子は、分級路110を送液される間に、重力により沈降する。このとき、粒子分散液が含有する粒子の比重が同じであれば、ストークスの定義により、大きな粒子ほど先に沈降し、小さな粒子はゆっくりと沈降しながら、分級路110下流へと送液される。分級路110の下流には、一端に開口部を有し、他端が分級路に接続され、分級された粒子を回収する少なくとも1つの回収路140が設けられている。図1では、2つの回収路140、141が設けられているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、1つ以上の回収路が設けられていればよいが、2以上の回収路が設けられていることが好ましい。
また、本実施形態において、分級装置100は、粒子分散液導入路120と分級路110との接続部150を有する。以下、接続部のことを、「粒子分散液用補助流路」又は「補助流路」ともいうこととする。
【0016】
本実施形態において、粒子分散液導入路は、下記式(1)を満たす。
A<B (1)
(式(1)中、Aは、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅であり、Bは粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅である。)
図2は、図1のa−a’断面を示す流路断面図である。図2において、A(粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅)、及び、B(粒子分散液導入路と分級路との接続部の、分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れに直交する方向の流路幅)をそれぞれ示している。
図2に示すように、A<Bとすることにより、粒子分散液導入路は、分級路との接続部において流路幅が広くなり、粒子分散液導入路が流路幅方向に広く導入される。
【0017】
本発明者らは、鋭意検討した結果、粒子分散液の粒子濃度が高くなると、置換流の影響により粒子の沈降が促進され、分級精度が低下することを見出した。置換流について説明すれば、粒子が沈降すると、それまで粒子が存在した体積を埋める為に、流体が移動する。粒子濃度が十分に薄い場合には、粒子の隙間から置換流が流れるため、その影響はほとんどない。一方、粒子の濃度が高くなると、粒子間の距離が近くなるため、置換流は粒子の間を流れることができず、分散液はある程度固まった状態で置換流体効果により移動する。その結果、ストークスの式から算出される終末沈降速度以上の流速で粒子の沈降が生じてしまう。
本実施形態では、補助流路を設けて、より流れ方向に対して幅広に粒子分散液を導入することにより、置換流の影響を軽減し、より高い分級精度を得るものである。
【0018】
本実施形態において、分級路の流路幅をHとしたとき、上記A、上記B及び上記Hは、下記式(3)を満たすことが好ましい。
2A<B<H (3)
すなわち、粒子分散液導入口の流路幅Aは、補助流路の流路幅Bの1/2未満であることが好ましい。AはBの1/2.2以下であることがより好ましく、1/2.5以下であることがさらに好ましい。A及びBが上記関係を満たすと、処理可能な粒子分散液の濃度が高く、また、処理量の増加率が大きいので好ましい。
【0019】
また、BはH未満であることが好ましく、Hの0.95倍以下であることが好ましく、Hの0.9倍以下であることがさらに好ましい。BがH未満である場合には、流路の加工が容易であるので好ましい。また、分級路の送液速度は、平面ポアズイユ流となっており、流路の中央部で送液速度が速く、側壁近傍では送液速度が遅い。側壁近傍に粒子が存在すると、ほとんど送液されない一方、重力により沈降する。したがって、BをH未満とすることにより、分級路の側壁近傍に粒子が送液されず、より分級精度が向上する。
【0020】
本実施形態において、分級路110の流路幅(横(H))と縦(V)の比(H/V)が下記式(2)を満たすことが好ましい。
1/1<H/V<10/1 (2)
すなわち、本実施形態において、分級路110は、横に幅広の流路である。
1.5/1<H/V<9.5/1であることがより好ましい。H/Vが1/1を超えると、処理可能な粒子分散液の濃度が高くなり、処理効率に優れるので好ましい。また、H/Vが10/1未満であると、流体の流量が少なく、高い回収液の濃度が得られるので好ましい。
なお、分級路の深さを示す縦方向の長さ(V)は、層流が維持される長さである必要があり、好ましくは10〜5,000μmであり、より好ましくは50〜4,000μmであり、さらに好ましくは100〜3,500μmである。
【0021】
本実施形態において、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面における分級路の流れ方向の流路幅をLaとし、粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向の流路幅をLbとしたとき、La及びLbが下記式(4)を満たすことが好ましい。
Lb≦La (4)
図3は図1のb−b’断面を示す流路断面図である。図3中、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の流路幅をLaで示し、接続部(粒子分散液用補助流路)の分級路の流れ方向の流路幅をLbで示している。
本実施形態において、LbがLa以下であると、粒子分散液導入路より導入される粒子分散液が十分に拡散され、分級精度が高まるので好ましい。また、LbをLaよりも小さくする場合には、粒子分散液用補助流路において、段差が生じる場合があるが、段差部分に粒子が堆積して流路詰まりの原因となる場合がある。したがって、粒子分散液用補助流路や、粒子分散液用補助流路の粒子分散液導入路との接続部を徐々に流路を狭くするテーパー部を設けることが好ましい。
図4は、分級装置の他の実施態様を示す流路断面図である。図4は、図2と同様にa−a’断面を示している。図4(a)及び(b)において、粒子分散液導入口の流路幅Aから接続部の流路幅Bとなるように、流路幅がテーパー状に広がっている。
【0022】
次に、本実施形態の推定メカニズムについて、従来技術と対比しながら説明する。
図10は、補助流路が設けられていない従来の分級装置100の一例を示す概念斜視図である。また、図11は、図10に示す分級装置のa−a’断面であり、図12は図10に示す分級装置のb−b’断面図である。
図10では、一端に開口部を有する粒子分散液導入路120と一端に開口部を有する輸送液導入路130が分級路110に接続されており、分級路110の上層に粒子分散液が送液され、下層に輸送液が送液される。
本発明者らは、図10に示す分級装置に比較的濃度の濃い粒子分散液を導入した場合、粒子の沈降に伴い、粒子の存在していた空間を溶媒が埋めようとする流れ(以下「置換流」と表現する場合がある。)が下向きに生じ、その結果、重力による粒子の沈降以外に外力として作用していると考えられることを発見した。本発明者らは鋭意検討した結果、粒子分散液を流路幅方向に広く送液することによって、その結果置換流の影響が抑制されることを見出し、本発明の完成に至ったものである。また、粒子分散液導入路から導入される粒子分散液が粒子分散液用補助流路で徐々に希釈されるので、特に粒子分散液の濃度が高い場合に生じる、急激な沈降速度の上昇が抑制されるものと考えられる。
【0023】
本実施形態の分級装置において、分級路、粒子分散液導入路、輸送液導入路及び回収路は、いずれもマイクロ流路であることが好ましく、マイクロスケールの複数の流路(チャネル)を有する装置であることが好ましい。
マイクロスケールの流路は、寸法及び流速がいずれも小さい。本実施形態において、レイノルズ数は2,300以下である。したがって、本実施形態の分級装置は、通常の分級装置のような乱流支配ではなく、層流支配の装置である。
ここで、レイノルズ数(Re)は、下記式で表されるものであり、2,300以下のとき層流支配となる。
Re=uL/ν (u:流速、L:代表長さ、ν:動粘性係数)
【0024】
上述のように層流支配の世界では、粒子分散液中の粒子が、分散媒体である媒体液体より重い場合、粒子は媒体液体中を沈降するが、その際の沈降速度は、粒子の比重或いは粒径によって異なる。本実施形態においては、上述の通り、この沈降速度差を利用して粒子を分級するものである。特に粒子の粒径が異なる場合、沈降速度が粒径の2乗に比例し、粒径が大きい粒子ほど急速に沈降するため、粒径が異なる粒子の分級に適している。
一方、流路径が大きく、粒子分散液が乱流となる場合は、粒子の沈降位置が変化してしまうため、基本的に分級されない。
【0025】
なお、補助流路の長さや、分級路の長さは、分級対象とする粒子の分級のし易さ、例えば、粒子分布の幅や、媒体液体と粒子の比重差等により適宜選択すればよい。
一般的には、媒体液体及び輸送液と、粒子との比重差が小さい場合、分級路の長さを長くすることが好ましい。
【0026】
本実施形態において、流路の断面形状は特に限定されず、矩形、台形、円形等のいずれとしてもよく、特に限定されないが、加工が容易である点から、矩形であることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態の分級装置のシステム構成について説明する。
図5は、本実施形態の分級装置を用いたシステム構成図の一例である。なお、図5は、図1に示す分級装置を分級路における送液方向が水平となるように配置したシステム構成図である。なお、図5において、補助流路は省略して記載している。
図5において、粒子分散液Rはシリンジに収容されており、また、該シリンジには、撹拌子180が入れてある。該撹拌子180をシリンジ外部からスターラー181で回転させることで粒子分散液は均一な状態で送液される。なお、粒子分散液は、静置すると粒子の沈降が生じ、均一な粒子分散液を送液することが困難である。そのため、撹拌、超音波、振動等を行いながら送液することが好ましい。
また、輸送液Sは同様にシリンジに収容されている。
粒子分散液R及び輸送液Sは、シリンジポンプ(不図示)により分級装置100に送液される。
【0028】
図5において、分級装置100における輸送液Sの送液方向は水平方向(鉛直方向に対して90度方向)であり、また、粒子分散液導入路120における粒子分散液Rの送液方向は鉛直方向下方である。また、分級路110における送液方向は水平方向である。
図5において、粗大粒子及び微小粒子を含有する粒子分散液Rが分級路110に送液されると、粗大粒子は微小粒子よりも速く沈降するので、粗大粒子はより上流に設けられた回収路140から回収される。一方、微小粒子は、沈降速度が遅いため、回収路141から回収される。したがって、回収路140からは粗粉回収液(送液した粒子分散液に対して、粗分の含有率が大きい回収液)T1が回収され、回収路141からは微粉回収液(送液した粒子分散液に対して、微粉の含有率が大きい回収液)T2が回収される。
【0029】
図6は、本実施形態の分級装置を用いたシステム構成図の他の一例である。
図6は、図5に示す分級路を、角度θ回転させて用いている。本実施形態において、分級路の送液は、上方から下方へと行うことが好ましい。水平方向に送液する場合、分級路において沈降した粒子が、分級路の底面に堆積する場合がある。特に、マイクロ流路では、壁面での流速はほぼゼロであり、粒子の堆積を生じやすい。
一方、分級路の底面が傾斜を有していると、分級路の底面に沈降した粒子は、重力に従って底面に沿って下方へと移動するので、粒子の堆積や、それによる流路の目詰まりが抑制されるので好ましい。
粒子分散液導入路における送液方向は、水平方向から傾きを有し、上方から下方へと下向きに送液されることが好ましく、特に、重力方向であることが好ましい。ここで、流路の送液方向の角度が水平である時を0°、重力方向下方である場合を90°とすると、粒子分散液導入路の送液方向は、0°より大きく、135°以下であることが好ましく、10〜120°であることがより好ましく、20〜110°であることがさらに好ましい。
粒子分散液導入路の送液方向を0°より大きくすることによって、粒子の目詰まりが抑制されるので好ましく、特に90°とすると、粒子の目詰まりが最も生じにくいので好ましい。
【0030】
また、分級路の送液方向は、0°より大きく、90°未満であることが好ましく、10〜80°であることがより好ましく、20〜70°であることがさらに好ましく、30〜60°であることが特に好ましい。分級路の送液方向が0°より大きいと、上述のとおり、分級路底面に沈降した粒子が重力により流路下流へと送液されるので好ましい。また、分級路の送液方向が90°未満であると、分級精度が向上するので好ましい。
【0031】
回収路の送液方向は、粒子分散液導入路の送液方向と同様に、0°より大きく、90°以下であることが好ましく、10〜90°であることがより好ましく、20〜90°であることがさらに好ましく、90°(重力方向)であることが特に好ましい。
回収路の送液方向を重力方向とすることにより、粒子の目詰まりが抑制されるので特に好ましい。
なお、本実施形態において、粒子を含まない輸送液が送液される、輸送液導入路での送液方向は特に限定されない。
【0032】
図7は本実施形態の分級装置の他の実施態様を示す概念斜視図である。また、図8は図7に示す分級装置を用いたシステム構成図の他の一例である。
図8に示すように、分級路の送液方向を角度θ傾斜させたときに粒子分散液導入路の送液方向が鉛直方向下方となり、また、回収路の送液方向が鉛直方向下方となるように、図7に示すように、予め粒子分散液導入路及び回収路に角度を設けた分級装置とすることが好ましい。
これにより、粒子分散液導入路及び回収路での流路詰まりが効果的に抑制され、さらに、分級路においても流路詰まりが効果的に抑制されるので好ましい。
【0033】
粒子分散液の粒子分散液導入路への導入方法、及び、輸送液の輸送液導入路への導入方法は特に限定されないが、マイクロシリンジ、ロータリーポンプ、スクリューポンプ、遠心ポンプ、ピエゾポンプ、ギアポンプ、モーノポンプ、プランジャーポンプ、ダイアフラムポンプ等で圧入することが好ましい。
【0034】
粒子分散液の粒子分散液導入路での流速は、0.01〜5,000mL/hrであることが好ましく、0.05〜4,000mL/hrであることがより好ましい。
また、輸送液の輸送液導入路での流速は、0.02〜10,000mL/hrであることが好ましく、0.05〜8,000mL/hrであることがより好ましい。
【0035】
分級装置の材質としては特に限定されず、金属、セラミックス、プラスチック、ガラスなど、一般的に使用されているものから選択すればよく、送液する媒体等により適宜選択することが好ましい。
【0036】
本実施形態の分級装置の製造方法は特に限定されず、公知のいずれの方法により作製してもよい。
本実施形態の分級装置は、固体基板上に微細加工技術により作製してもよい。
固体基板として使用される材料の例としては、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス、セラミックス及びプラスチックなどが挙げられる。中でも、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス及びセラミックスが、耐熱、耐圧、耐溶剤性及び光透過性の観点から好ましく、特に好ましくはガラスである。
【0037】
流路を作製するための微細加工技術は、例えば、「マイクロリアクタ−新時代の合成技術−」(2003年、シーエムシー刊、監修:吉田潤一)、「微細加工技術 応用編−フォトニクス・エレクトロニクス・メカトロニクスへの応用−」(2003年、エヌ・ティー・エス刊、高分子学会 行事委員会編)等に記載されている方法が挙げられる。
【0038】
代表的な方法を挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザ加工法、イオンビーム加工法、及びダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、及び機械的マイクロ切削加工法である。
【0039】
本実施形態に用いられる流路は、シリコンウエハ上にフォトレジストを用いて形成したパターンを鋳型とし、これに樹脂を流し込み固化させる(モールディング法)ことによっても作製してもよい。モールディング法には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又はその誘導体に代表されるシリコン樹脂が使用される。
【0040】
本実施形態の分級装置を製造する際、接合技術を用いてもよい。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法としては、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法として挙げられる。
【0041】
さらに、接合に際しては高温加熱による材料の変質や変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましく、その技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などが挙げられる。
【0042】
本実施形態の分級装置はパターン部材(薄膜パターン部材)を積層して形成してもよい。なお、パターン部材の厚さは5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。本実施形態の分級装置は、所定の二次元パターンが形成されたパターン部材が積層されて形成された分級装置としてもよく、パターン部材の面同士が直接接触して接合された状態で積層されていてもよい。
接合技術を用いた製造方法としては、
(i)第1の基板上に目的とする分級装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材を形成する工程(ドナー基板作製工程)、及び、
(ii)前記複数のパターン部材が形成された前記第1の基板と第2の基板との接合及び離間を繰り返すことにより前記第1の基板上の前記複数のパターン部材を前記第2の基板上に転写する工程(接合工程)、
を含むことを特徴とする製造方法が例示され、例えば、特開2006−187684号公報に記載の製造方法が参照される。
【0043】
次に、粒子分散液について説明する。本実施形態において、粒子分散液中の粒子の比重は、粒子分散液の分散媒体である媒体液体及び輸送液の比重よりも大きい。
粒子分散液は、体積平均粒子径が0.1μm〜1,000μmの粒子が媒体液体に分散し、該粒子の比重から媒体液体の比重を引いた差が0.01〜20であることが好ましい。
【0044】
粒子分散液に含まれる粒子は、体積平均粒子径が0.1〜1,000μmであれば、樹脂粒子、無機粒子、金属粒子、セラミック粒子等、いずれも好ましく用いられる。
粒子の体積平均粒子径は、0.1〜1,000μmであることが好ましく、0.1〜500μmであることがより好ましく、0.1〜200μmであることがさらに好ましく、0.1〜50μmであることが特に好ましい。該粒子の体積平均粒子径が1,000μm以下であると、流路詰まりが生じにくいので好ましい。また、沈降速度が適当であり、流路底面への堆積、流路の閉塞が抑制されるので好ましい。粒子の体積平均粒子径が0.1μm以上であると、流路内壁面とのインタラクションが生じにくく、付着が生じにくいので好ましい。
【0045】
粒子の形状は特に限定されないが、針状で、特に長軸が流路幅の1/4より大きくなると詰まりの可能性が高くなる場合がある。このような観点から、粒子の長軸長と短軸長との比(長軸長/短軸長)は、1〜50の範囲が好ましく、1〜20の範囲がより好ましい。なお、粒径、粒子形状に合わせて、適宜流路幅を選択することが好ましい。
【0046】
粒子の種類は、以下に列挙したものが可能であるが、それらに限定されるものではない。例えば、高分子粒子、顔料のごとき有機物の結晶あるいは凝集体、無機物の結晶あるいは凝集体、金属粒子、あるいは金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のごとき金属化合物の粒子などである。
【0047】
前記高分子粒子としては、具体的には、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の粒子が挙げられる。また、上記高分子粒子中に、顔料のごとき有機化合物の結晶あるいは凝集体、無機化合物の結晶あるいは凝集体、金属粒子、あるいは金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のごとき金属化合物の粒子や、分散剤、酸化防止剤等の各種添加材を含有した複合系の粒子も挙げられる。
【0048】
また、前記金属あるいは金属化合物の粒子としては、カーボンブラック、亜鉛、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタニウム等の金属、あるいはその合金、TiO2、SnO2、Sb23、In23、ZnO、MgO、酸化鉄等の金属酸化物やこれらの化合物、窒化ケイ素などの金属窒化物などやそれらを組み合わせた粒子が挙げられる。
【0049】
これら粒子の製法は多岐に渉るが、合成により媒体液体中で粒子を作製し、そのまま粒子の分級を行う場合が多い。塊状物を機械的に解砕して作製した粒子を媒体液体中に分散し分級する場合もある。この場合は、媒体液体中で解砕することが多く、この場合はそのまま分級される。
【0050】
一方、乾式で作製された粉体(粒子)を分級する場合には、予め、媒体液体に分散しておく必要がある。媒体液体中に乾燥粉体を分散させる方法としては、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ボールミル、ダイノーミル、高圧ホモジナイザー、超音波分散機、コボールミル、ロールミル等が挙げられるが、この際、分散によって1次粒子が粉砕されない条件で行なうことが好ましい。
【0051】
前記粒子の比重から前記媒体液体の比重を引いた差が0.01〜20であることが好ましく、0.05〜11であることがより好ましく、0.05〜4であることがさらに好ましい。前記粒子の比重から前記媒体液体の比重を引いた差が0.01以上であると、粒子沈降が良好であるので好ましい。一方、20以下であると、粒子の搬送が容易であるので好ましい。
【0052】
媒体液体としては、上述のように、前記粒子の比重から前記媒体液体の比重を引いた差が0.01〜20のものであれば好ましく用いられ、例えば、水、あるいは水系媒体、有機溶剤系媒体などが挙げられる。
【0053】
前記水としては、イオン交換水、蒸留水、電解イオン水などが挙げられる。また、前記有機溶剤系媒体としては、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン、キシレンなど、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0054】
好ましい媒体液体は前記粒子の種類によって異なる。前記粒子の種類別の好ましい前記媒体液体としては、高分子粒子(一般的に比重が1.05〜1.6程度である。)と組み合わされる媒体液体として、粒子を溶解させない水系、アルコール類、キシレンなどの有機溶媒、酸あるいはアルカリ水などが好ましく挙げられる。
また、金属あるいは金属化合物の粒子(一般的に比重が2〜10程度である。)と組み合わされる媒体液体としては、金属などを酸化、還元などで侵さない水、アルコール類、キシレンなどの有機溶媒、あるいは油類が好ましく挙げられる。
【0055】
より好ましい粒子と媒体液体との組み合わせとしては、高分子粒子と水系媒体との組み合わせ、金属あるいは金属化合物と低粘度油性媒体との組み合わせが挙げられ、この中でも高分子粒子と水系媒体との組み合わせが特に好ましい。
好ましい粒子と媒体液体との組み合わせとしては、スチレン−アクリル樹脂系粒子と水系媒体、スチレン−メタクリル樹脂系粒子と水系媒体、ポリエステル樹脂系粒子と水系媒体が挙げられる。
【0056】
また、前記粒子分散液における粒子の含有率は、0.01〜40体積%であることが好ましく、0.05〜25体積%であることがより好ましい。前記粒子分散液における粒子の割合が0.01体積%以上であると、回収が容易であるので好ましい。また、40体積%以下であると、流路詰まりが抑制されるので好ましい。
特に本実施形態においては、従来分級が困難であった比較的粒子濃度の高い粒子分散液を使用した場合であっても、良好な分級精度が得られる。特に、従来のピンチドチャネルを使用した分級方法や、遠心力を使用した分級方法では分級が困難であった、1.0体積%以上の粒子含有率を有する粒子分散液であっても、分級精度に優れる。
【0057】
なお、本実施形態において、前記粒子の体積平均粒径は、下記粒径(5μm以下)の場合を除き、コールターカウンターTA−II型(コールター社製)を用いて測定した値である。この場合、粒子の粒径レベルにより、最適なアパーチャーを用いて測定する。しかし、粒子の粒径が5μm以下の場合は、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(LA−920、(株)堀場製作所製)を用いて測定する。
また、前記粒子の比重は、気相置換法(ピクノメータ法)により、湯浅アイオニクス(株)製ウルトラピクノメータ1000を用いて測定される。
さらに、前記媒体液体の比重は、エーアンドディー社の比重測定キットAD−1653を用いて測定される。
【0058】
本実施形態の分級方法において、輸送液は、分級目的の粒子を含まない液体であり、本実施形態においては、前記媒体液体と該輸送液とが同じ液体であることが好ましい。
また、輸送液は、前記媒体液体と異なる場合、該媒体液体の具体例として挙げられている液体であることが好ましい。
さらに、前記輸送液の前記粒子に対する比重の好ましい態様は、前記媒体液体の前記粒子に対する比重の好ましい態様と同様である。
【0059】
本実施形態において、粒子分散液は、粒子及び分散媒の他に、界面活性剤及び/又はpH調整剤を含有することが好ましい。界面活性剤及び/又はpH調整剤を添加することにより、粒子分散液の粒子の凝集を防止し、分級装置内での粒子の分散状態が安定化するので好ましい。なお、前記界面活性剤及びpH調整剤は、分級装置内での粒子の分散状態を安定化させる効果を有するものであることが好ましい。特に、界面活性剤は、粒子分散液中の粒子表面に吸着して、微細な粒子を形成、かつ安定化し、これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有する。また、分級装置の流路内部壁面への粒子の静電気的な固着を防止する効果を有するので好ましい。さらに、pH調整剤によって粒子分散液のpH濃度をコントロールすることによって、粒子の凝集を防止し、安定した分級を可能とすることが出来る。調整するpH濃度は粒子径や粒子の種類により異なるため、あらかじめ分級に最適なpH濃度をチェックしておき、最適なpH調整剤を選択して使用することが好ましい。
【0060】
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両イオン性界面活性剤及び非イオン系界面活性剤が挙げられ、本実施形態において、特に限定されず、粒子に応じて適宜選択することが好ましい。
カチオン系界面活性剤としては、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミン及びポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリン及びこれらのカチオン性物質の塩が例示される。これらカチオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アニオン系界面活性剤としては、N−アシル−N−メチルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が例示される。中でも、N−アシル−N−メチルタウリン塩もしくはポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩が好ましい。また塩を形成するカチオンはアルカリ金属カチオンが好ましい。これらアニオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどが例示される。中でも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これら非イオン系界面活性剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、粒子分散液として樹脂粒子分散液を使用する場合には、アニオン系界面活性剤を使用することが好ましく、N−アシル−N−メチルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を使用することがさらに好ましい。
【0061】
界面活性剤の添加量は特に限定されないが、粒子分散液固形分全体の0.0001〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜10重量部である。界面活性剤の添加量が上記範囲内であると、粒子の均一分散性及び安定性がより一層向上されるので好ましい。
【0062】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、アンモニア水、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、クエン酸、乳酸等の公知のpH調整剤の中から、適宜選択して使用すればよい。
添加量としては、粒子100重量部に対して、0.0001〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.001〜1重量部である。pH調整剤の添加量が上記範囲内であると、粒子の凝集が防止され、分級が安定して行われるので好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を参照して本実施形態についてさらに詳述するが、本実施形態は以下の実施例及び比較例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
図1に示すような分級装置を作製した。基材として(幅:X)200mm×(厚さ:Y)12mm×(高さ:Z)40mmのアクリル樹脂板2枚を使用し、エンドミルにより左右対称となる流路を切削加工したものを張り合わせネジ止めして分級装置を作製した。
本分級装置では分級ゾーンにおける分級路の上部に(幅:X)0.5mm×(厚さ:Y)5.0mm×(高さ:Z)0.5mmの粒子分散液用補助流路を設けた。このとき、前記分級路の流体の流れ方向と直交する方向の断面における横(H):縦(V)の比H/Vは7/1であり、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅A(0.5mm)と、粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅B(5.0mm)との関係は、A<Bである。
図1は分級装置の概念斜視図を示し、図3には寸法を記載した図面を示した。粒子分散液及び輸送液(水)はシリンジポンプ(Harvard社PHD2000)を用いて送液した。
粒子分散液はシリンジの中で粒子が沈降するのを避けるために、図5のように分級装置の傾斜角θを45°にした状態でセットし、粒子分散液を入れたシリンジ内に小型の撹拌子180を入れて外側からマグネチックスターラー181で撹拌しながら送液した。
【0065】
樹脂粒子(綜研化学(株)製、架橋アクリル粒子MX−300及びMX1500H:密度1.19g/cm3)、を用いて分離テストを行った。まず粒子径3μmと15μmのアクリル樹脂粒子を50:50の混合比(重量部)で水に分散し、さらに界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを0.05重量部添加した固形分濃度6重量%の粒子分散液Aを作製し、上記分級装置を使って粒子分散液Aと水Bの流量比A:Bを20:200(ml/h)で送液し、回収された回収液T2の粒度分布をコールターカウンターTA−II型により測定したところ、分岐した出口2からの回収液T2は15μm以上の粒子含有率が0体積%であり、3μm粒子と15μm粒子の分離が可能であることを確認した。
【0066】
(比較例1)
図10〜12に示すような粒子分散液用補助流路がない分級装置を作製した。本分級装置では、実施例1における分級路の寸法を(幅:X)150.0mm×(厚さ:Y)1.0mm×(高さ:Z)2.0mm、分級された粒子を回収する2本の回収路の断面寸法をいずれも0.5(X)×1.0(Y)mmとなるように変更した。このとき前記分級路における流体の流れ方向と直交する方向の断面における横(H):縦(V)の長さは1.0mm:2.0mmであり、H/Vは1/2であった。
この分級装置を使用して図6のように分級装置をセットして、実施例1と同様なアクリル樹脂粒子分散液を用いて樹脂粒子の分離テストを行った。粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを2:40(ml/h)で送液したところ、分岐した回収路2からの回収液T2中には15μm以上の粒子が9.7体積%混入しており、実施例1と比較して粒子の分離効果が大きく低下していることを確認した。また、5分後には分級路内での目詰まりが発生して分級処理の継続が困難となった。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、分級路の寸法を(幅:X)150.0mm×(厚さ:Y)2.0mm×(高さ:Z)4.0mm、分級路上部の粒子分散液補助流路の寸法を(幅:X)0.5mm×(厚さ:Y)1.6mm×(高さ:Z)0.5mm、分級された粒子を回収する2本の回収路の断面寸法をいずれも0.5(X)×2.0(Y)mmとなるように変更した分級装置を作製した。このときのH/Vは2/4=1/2であり、A(0.5mm)とB(1.6mm)との関係は、A<Bであった。この分級装置を使用して図6のように分級装置をセットして、実施例1と同様なアクリル樹脂粒子分散液を用いて樹脂粒子の分離テストを行った。粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを5:100(ml/h)で送液したところ、分岐した回収路2からの回収液T2中には15μm以上の粒子が3.5体積%混入した。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、分級路の寸法を(幅:X)150.0mm×(厚さ:Y)12.0mm×(高さ:Z)1.0mm、分級路上部の粒子分散液補助流路の寸法を(幅:X)0.5mm×(厚さ:Y)8.0mm×(高さ:Z)0.5mm、分級された粒子を回収する2本の回収路の断面寸法をいずれも0.5(X)×12.0(Y)mmとなるように変更した分級装置を作製した。このときのH/Vは12/1であり、A(0.5mm)とB(8.0mm)との関係は、A<Bであった。この分級装置を使用して図6のように分級装置をセットして、実施例1と同様なアクリル樹脂粒子分散液を用いて樹脂粒子の分離テストを行った。粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを30:300(ml/h)で送液したところ、分岐した回収路2からの回収液T2中には15μm以上の粒子含有率が0体積%であり、3μm付近の粒子のみ回収されており、粒子の分離が可能であることを確認した。ただし、回収液T2は回収液の濃度が低かった。
【0069】
(実施例4)
実施例1において、分級路上部の粒子分散液補助流路の寸法を(幅:X)0.5mm×(厚さ:Y)0.7mm×(高さ:Z)0.5mmとなるように変更した分級装置を作製した。このときのH/Vは7/1であり、A(0.5mm)とB(0.7mm)との関係は、A<Bではあるが2A>Bである。この分級装置を使用して図6のように分級装置をセットして、実施例1と同様なアクリル樹脂粒子分散液を用いて樹脂粒子の分離テストを行った。粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを20:200(ml/h)で送液したところ、分岐した回収路2からの回収液T2中には15μm以上の粒子が1.2体積%混入した。
【0070】
(実施例5)
実施例1において、分級路上部の粒子分散液補助流路の寸法を(幅:X)0.5mm×(厚さ:Y)7.0mm×(高さ:Z)0.5mmとなるように変更した分級装置を作製した。このときのH/Vは7/1であり、A(0.5mm)とB(7.0mm)との関係は、A<Bであった。また、BとHとの関係はB=Hであった。この分級装置を使用して図6のように分級装置をセットして、実施例1と同様なアクリル樹脂粒子分散液を用いて樹脂粒子の分離テストを行った。粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを20:200(ml/h)で送液したところ、分岐した回収路2からの回収液T2中には15μm以上の粒子が4.5体積%混入した。
【0071】
(実施例6)
図9に示すような粒子分散液用補助流路を有する分級装置において、前記粒子分散液用補助流路における流体の流れ方向の長さLbが、粒子分散液導入路の長さをLaとした時に
Lb>La
の関係となるような粒子の分級装置を作製した。すなわち、La=0.5mm、Lb=2.0mmとなるように設計して分級装置を作製した。
この分級装置を使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂粒子の分離テストを行った。図6のように45°傾斜させた状態で上記分級装置を使って粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを20:200(ml/h)で送液したところ、分岐した回収路2からの回収液T2中には15μm以上の粒子が3.3体積%混入しており、実施例1と比較して3μm粒子と15μm粒子の分離効果が低下していることを確認した。
このように、LbがLaよりも大きい場合は、粒子分散液導入路より導入される粒子分散液がほとんど拡散しないうちに分級路に導入されて沈降してしまうため分級精度が低下してしまうことから、LaとLbの関係は、Lb≦Laであることが好ましい。
【0072】
(実施例7)
図5のように、分級装置の傾斜角θを0°に設定したこと、及び、粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを10:140(ml/h)としたこと以外は実施例1と同様にして分級処理を行った。分級処理を連続3時間継続したが、流路の目詰まりの発生は無く、回収路2からの回収液T2中の15μmの粒子は除去されており、3μm粒子と15μm粒子の連続分離処理が可能となることを確認した。
【0073】
(比較例2)
図5のように、分級装置の傾斜角θを0°に設定したこと以外は、比較例1と同様にして連続分級処理を行った。分級処理を継続したところ、1分経過後に流路の目詰まりが発生し、連続分級処理は困難になった。
以上の結果を以下の表1にまとめた。
【0074】
【表1】

【0075】
(実施例8)
スチレン−n−ブチルアクリレート樹脂粒子分散液(組成比75:25、重量平均分子量35,000)の分級を行った。
前記樹脂の密度は1.08g/cm3であり、平均粒子径5μm、10μm、及び、20μmの粒子をそれぞれ体積比8:1:1の割合で混合して、さらに界面活性剤としてN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.03重量部、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム0.02重量部をそれぞれ添加してイオン交換水と分散処理し、固形分濃度9.2%の樹脂粒子分散液Rを作製した。コールターカウンターTA−II型により測定した上記樹脂粒子分散液の粒度分布データは、大きい5μmのピークと10μm及び20μmの小さい2つのピークを有する粒度分布を示した。この粒子分散液Rを図7に示す角度θ=45°だけ傾斜させた粒子分散液導入路と回収路を有する粒子分散液補助流路を設けた分級装置を用いて図8のようにθ=45°傾斜させた状態で分級処理を行った。
図8の回収路2から回収された回収液T2の粒度分布をコールターカウンターTA−II型により測定した結果、分岐した出口2からの回収液T2は20μm以上の粒子含有率が0体積%であり、20μmの粒子ピークがなく、小さい10μmと大きい5μmの2つの粒子ピークを有する粒度分布を示した。
【0076】
(比較例3)
実施例8で使用したスチレン−n−ブチルアクリレート樹脂粒子分散液Rを使用して、比較例1で使用した粒子分散液補助流路がない図10〜12に示す分級装置を用いて図6のように45°傾斜させた状態で分級処理を行った。図6の回収路2から回収された回収液T2の粒度分布をコールターカウンターTA−II型により測定した結果、20μm以上の粒子含有率が4.6重量%混入しており、実施例8と比較して粒子の分離効果が低下していることを確認した。
【0077】
(実施例9)
実施例1において、図4(a)に示すような補助流路と分級路の接合部をテーパー加工した分級装置を作製した。本分級装置では、実施例1における粒子分散液補助流路の寸法を(幅:X)0.4mm×(厚さ:Y)5.0mm×(高さ:Z)0.5mmとなるように変更した分級装置を作製した。また、このときの粒子分散液導入路の長さLa、及び、前記粒子分散液用補助流路における流体の流れ方向の長さLbについては、それぞれLa=0.5mm、Lb=0.4mmとなるように設計して作製した。この分級装置を使用して図6のように分級装置をセットして、実施例8と同様な樹脂粒子分散液を用いて樹脂粒子の分離テストを行った。粒子分散液Rと輸送液(水)Sの流量比R:Sを20:200(ml/h)で送液したところ、実施例1と同様に、分岐した出口2からの回収液T2は20μm以上の粒子含有率が0体積%であり、20μmの粒子ピークがなく、小さい10μmと大きい5μmの2つの粒子ピークを有する粒度分布を示した。
【0078】
(実施例10)
上記実施例9において、図4(b)に示すように補助流路と分級路の接合部を加工した分級装置を作製し、同様に樹脂粒子の分離テストを行ったところ、実施例9と同様に、分岐した出口2からの回収液T2は20μm以上の粒子含有率が0体積%であり、20μmの粒子ピークがなく、小さい10μmと大きい5μmの2つの粒子ピークを有する粒度分布を示した。
【0079】
(実施例11)
上記実施例8において、界面活性剤のN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩を添加しなかったこと以外は実施例8と同様に樹脂粒子分散液Rを作製し、樹脂粒子の分離テストを行ったところ、分岐した回収路2からの回収液T2には20μm以上の粒子が0.6体積%混入しており、実施例8と比較して粗大粒子の分離効果がやや低下していることを確認した。
(実施例12)
上記実施例8において、pH調整剤の炭酸水素ナトリウムを添加しなかったこと以外は実施例8と同様に樹脂粒子分散液Rを作製し、樹脂粒子の分離テストを行ったところ、分岐した回収路2からの回収液T2には20μm以上の粒子が0.8体積%混入しており、実施例8と比較して粗大粒子の分離効果がやや低下していることを確認した。
【0080】
(実施例13)
上記実施例8において、界面活性剤のN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩、及びpH調整剤の炭酸水素ナトリウムをいずれも添加しなかったこと以外は実施例8と同様に樹脂粒子分散液Rを作製し、樹脂粒子の分離テストを行ったところ、分岐した回収路2からの回収液T2には20μm以上の粒子が1.7体積%混入しており、実施例8と比較して粗大粒子の分離効果がやや低下していることを確認した。
【0081】
以下の表に実施例8〜13及び比較例3の結果を示す。
【0082】
【表2】

【符号の説明】
【0083】
100 分離装置
110 分級路
120 粒子分散液導入路
121 粒子分散液導入口
130 輸送液導入路
131 輸送液導入口
140 回収路(回収路1)
141 回収路(回収路2)
150 接続部
180 撹拌子
181 スターラー
R 粒子分散液
S 輸送液
T1 粗粉回収液
T2 微粉回収液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を分級する分級路と、
粒子分散液を分級路上方に導入する粒子分散液導入路と、
一端が輸送液を導入する開口部を有し、他端が分級路に接続され、輸送液を分級路下方に導入する輸送液導入路と、
一端が開口部を有し、他端が分級路に接続され、分級された粒子を回収する回収路と、を有し、
該粒子分散液導入路は、一端が粒子分散液を導入する粒子分散液導入口を有し、他端が分級路に接続され、
該粒子分散液導入路が下記式(1)を満たすことを特徴とする
分級装置。
A<B (1)
(式(1)中、Aは、粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅であり、Bは粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向に直交する方向の流路幅である。)
【請求項2】
前記分級路の流体の流れ方向と直交する方向の断面における横(H):縦(V)の比H/Vが下記式(2)を満たす、請求項1に記載の分級装置。
1/1<H/V<10/1 (2)
【請求項3】
前記A、前記B、及び、前記Hが下記式(3)を満たす、請求項2に記載の分級装置。
2A<B<H (3)
【請求項4】
粒子分散液導入口の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向の流路幅をLaとし、粒子分散液導入路と分級路との接続部の分級路の流れ方向の横断面において、分級路の流れ方向の流路幅をLbとしたとき、La及びLbが下記式(4)を満たす、請求項1〜3いずれか1つに記載の分級装置。
Lb≦La (4)
【請求項5】
前記分級路が水平に対して角度θ(0°<θ<90°)を有し、かつ、
前記粒子分散液導入路及び/又は前記回収路が鉛直方向の上方から下方へ送液するように設けられている、請求項1〜4いずれか1つに記載の分級装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1つに記載の分級装置を使用することを特徴とする、粒子の分級方法。
【請求項7】
粒子分散液中に界面活性剤及び/又はpH調整剤を含有する、請求項6に記載の分級方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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