説明

分離マトリクス

本発明は、支持体;支持体の外部部分に結合された増量剤;および増量剤に結合されたリガンドを含む分離マトリクスに関し、ここで、増量剤が結合する支持体の部分は、分離マトリクスの容量の50%未満を構成する。本発明はまた、そのような分離マトリクスを調製する方法、ならびに分離媒体を使用するプロセスを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な分離マトリクスに関するものであり、これは標的化合物、通常は生体分子を、液体から単離するための有用な様々なプロセスである。本発明の分離マトリクスは、非常に有益な結合能力を提供し、そして迅速な平衡化を可能にし、これらは両方とも、特に生体分子のラージスケールの精製において、プロセスの経済に有益である。本発明は、そのような分離マトリクスを調製する方法、および本発明の分離マトリクスを使用して、標的化合物を液体から分離するプロセス、にも関する。
【背景技術】
【0002】
今日のバイオテクノロジー分野において、最も幅広く使用される分離方法の一つは、クロマトグラフィーである。用語クロマトグラフィーは、非常に関連する分離方法の一群を包含する。クロマトグラフィーを、ほとんどのその他の物理的分離方法および化学的分離方法から区別する特徴は、一方の相は固定相でありもう一方が移動相である互いに混合しない2つの相を接触させることである。移動相中に導入されたサンプル混合物は、一連の相互作用を受け、すなわち、移動相によりシステムを通じて運ばれるため、固定相および移動相のあいだで何回も分配をされる。相互作用は、サンプル中の成分の物理的特徴および化学的特徴の差異を利用する。固定相を含有するカラムを通して移動する移動相の影響の下、これらの差異は、個々の成分の移動速度を支配する。分離された成分は、固定相との相互作用に依存して、特定の順序で出現する。最も停滞されない成分が最初に溶出し、最も強力に保持される材料が最後に溶出する。サンプル成分がカラムから溶出するにつれて、近接する溶質のゾーンとオーバーラップすることを防止するために十分なほど一成分が停滞される場合に、分離は得られる。
【0003】
最新式の示唆されたクロマトグラフィー法は、標的との相互作用の様々な様式に基づく。このように、例えば、イオン交換クロマトグラフィーにおいて、官能基は、恒久的にイオン性基を反対の電荷の対イオンと結合させ、一方疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)においては、固定相と分離される成分との間の相互作用が疎水性に基づいている。その他のクロマトグラフィー分離の原理は、当業者にとって周知である。
【0004】
分離マトリクスとしても知られる固定相は、一般に複数の本質的に球状粒子である支持体、および支持体に結合されたリガンドを含む。ほとんどの分離マトリクスにおいて、支持体は、それぞれの粒子中で、より多量のリガンドおよび結果としてより多くの結合された標的化合物を可能にするほどに多孔性である。
【0005】
US 6,428,707(Amersham Biosciences AB)は、物質に対する親和性を有するリガンドを示すビーズを含有する非-充填床に対する吸着による、物質の分離のためのプロセスに関する。開示されたプロセスは、流動床(fluidized bed)での吸着プロセスにおいて、総収量を向上させること;流動床(fluidized bed)での生産性を向上させること;そして流動床(fluidized bed)において向上した貫流容量(breakthrough capacity)を有するマトリクスを提供すること;が記載される。このことは、リガンドが増量剤を介してビーズのベースマトリクスに結合されるビーズを使用することにより、本発明の発明者らによって達成された。この特許において注目され増量剤により引き起こされる積極的な作用は、この特許に従っており、高分子および床を通過させることができるその他の分子に対して透過性である可撓性ポリマー層を伴う、ビーズの内部表面(孔表面)および/または外部表面を提供する、という事実に存在すると考えられており、有効な相互作用性容量ならびにリガンドの立体構造的利用可能性の増加を引き起こし、これが次いで、質量移動速度ならびに全体の能力を上昇させる。
【0006】
EP 1 764 152(Millipore Corporation)は、非対称性多孔性吸着ビーズに関するものであり、これは第1の領域と第2の領域とを含む。少なくとも一つの特徴は、第1の領域を第2の領域から区別し、そのような特徴は、孔サイズ分布、リガンド密度、リガンドタイプ、リガンド混合物、媒体材料、および%アガロースであってもよい。
【0007】
US 6,572,766(Bergstrom et al)は、微小孔システムを示すコア、および微小孔システムが開口を有する表面を含むマトリクスに関するものである。この特許に従って、同一のクロマトグラフィー媒体上で異なる分離原理を同時操作することを達成することができ、そしてこの方法において精製プロセスにおいて必要な分離工程の数を減少させることができた。より具体的には、このことは、微小孔中を通り抜けることができないほどに大きな分子量を有するポリマーを用いて、表面をコーティングすることにより、達成することができた。興味の対照である微小孔は、いくつかの事例において1μm未満であり、しかし完成したマトリクスの目的とする用途に依存して、もっと大きなものであってもよい。多くの場合において、微小孔は、拡散孔に対応する。
【0008】
US 6,426,315(Bergstrom et al)は、多機能性多孔性マトリクスを調製するためのプロセス、およびより具体的には、マトリクス中で十分に特定された1またはそれ以上の層中に、所望の官能基を導入することにより、層状の官能器を導入ためのプロセス、に関する。このことは、マトリクスを試薬Iの機能的欠損と接触させ、そして試薬IとグループAとの間の反応がマトリクス中の試薬Iの核酸よりも迅速であるように条件および試薬Iを選択することにより、得ることができる。本発明のマトリクスの多数の態様において、表面層中のリガンドの置換の程度は、ゼロまたはゼロに近いものであり、一方、同時に、同一のリガンドが内部層中に存在する。逆もまた真であろう。この特許に従って、リガンドは、一般的には既知の技術に従って構造を変化させるものであってもよい架橋を介してマトリクスと結合される。架橋構造は、ポリマー性であり、例えば、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーである。一般的な架橋名は、触手(tentacle)、“増量剤”、 綿毛(fluff)、“リンカー”、“スペーサー”などであった。親水性ポリマー架橋の例は、デキストランなどの多糖、およびその他の水溶性ポリヒドロキシポリマーである。分離マトリクスの多孔性(排除限界)に関する要件は、分離される化合物のモル重量および形状により、主として決定される。発明に関して、試薬Iのマトリクス中そしてしばしば化合物Bのマトリクス中においても、多孔性が輸送を可能にすることもまた、重要である。
【0009】
US 4,927,879(Pidgeon)は、固相膜模倣物に関する方法、およびより具体的には生物学的細胞膜の構造を模倣するように設計された固定相クロマトグラフィー支持材料に関する方法に関連する。膜模倣構造は、親水性外部部分と疎水性内部部分を提示し、そして反応性官能基を有する表面に対して共有結合する。その疎水性部分上に反応性官能基を有するリン脂質を使用して、人工的膜構造を形成することができる。逆相クロマトグラフィー(RPC)システムにおいて一般的に使用される追加のタンパク質-変性溶媒なしに、水系移動相を使用して、開示された支持体を使用して、様々なペプチド/タンパク質の分離が可能になる。
【0010】
上述した先行技術において開示された技術にも関わらず、当該技術分野においては、新規な方法、好ましくは生体分子の大規模な精製のために適した新規な方法の必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US 6,428,707
【特許文献2】EP 1 764 152
【特許文献3】US 6,572,766
【特許文献4】US 6,426,315
【特許文献5】US 4,927,879
【発明の概要】
【0012】
本発明の一側面は、分離マトリクスを提供することであり、それにより液体からの1またはそれ以上の標的化合物の高効率的な分離を可能にする。別の側面は、そのようなマトリクスを提供することであり、それにより1またはそれ以上の標的化合物の高い結合能力を提示する。このことは、分離マトリクスを提供することにより達成することができる、ここでリガンドは、増量剤を介して支持体表面に対して結合されており、そして支持体の内部には実質的にリガンドが何も存在しない。
【0013】
本発明の具体的な側面は、従来技術のマトリクスと比較してより少量の溶出液中に標的化合物を放出する分離マトリクスを提供することである。このことは、本発明による分離マトリクスにより達成することができ、ここでリガンドは、薄層またはその部分にのみ存在し、そしてマトリクスの内部部分には存在しない。
【0014】
本発明の別の具体的な側面は、そのような分離マトリクスを調製することであり、それによりクロマトグラムにおけるピークの高分解能が可能になる。さらなる側面は、分離マトリクスであり、ここで(1または複数の)標的化合物の拡散経路の減少により、従来技術の生成物と比較して、結果としてより低い流速依存性を生じる。
【0015】
本発明の別の側面は、そのような分離マトリクスを調製する方法を提供することである。本発明の好都合な側面は、本発明による大容量の分離マトリクスを調製する方法を提供することであり、その方法では、多数の従来技術の方法と比較して、相対的に少ない総量のリガンドを使用する。
【0016】
本発明のさらなる側面は、少なくとも一つの標的化合物を液体から分離するプロセスを提供することであり、このプロセスには高い結合能力が関与する。本発明の具体的な側面は、生体分子のラージスケールの精製のための、そのようなプロセスを提供することである。
【0017】
本発明の好都合な側面は、少なくとも一つの標的化合物を液体から分離するプロセスを提供することであり、それにより多数の従来技術の方法と比較よりも平衡化時間をより短くし、そして平衡化バッファーの量をより少なくする。
【0018】
上述した1またはそれ以上の側面を、添付の請求の範囲により規定されたように、本発明により達成することができる。本発明の追加の側面および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、増量剤-リガンドシェルビーズの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
用語“分離マトリクス”は、本明細書中において、事実上いずれかの分子または化合物の分離のために有用な材料を意味し、リガンド(その他の分子と相互作用することができる官能基)が結合した支持体(担体)から構成される。
【0021】
用語“増量剤”は、本明細書中において、リガンドを支持体から引き離しておくためにそして標的化合物の吸着のために利用可能な表面積を増加させるために使用される化学的部分のことを意味する。本技術分野において、“増量剤”は、“可撓性腕”、“ 綿毛(fluff)”または“触手(tentacle)”を意味することもある。
【0022】
用語“親和性リガンド”は、本明細書中において、抗体-抗原相互作用、酵素-基質相互作用、などの“鍵穴/鍵”型の相互作用により、標的化合物と相互作用することができるリガンドを意味する。このように、親和性リガンドは一般的に、多数の相互作用モードに関与する非常に特異的な結合と相互作用する。
【0023】
用語“多モードリガンド”は、一般的に従来型の親和性リガンドよりも小さい有機基であり、そして例えば、疎水性基と組み合わされたイオン交換機能などの1つ以上の相互作用が含まれるように設計された、リガンドを意味する。
【0024】
用語“標的化合物”は、本明細書中において、分離マトリクスと結合して、液体からのそれらの分離を可能にすることができる、いずれかの部分のことを意味する。このように、“化合物”は、化学的または生物学的化合物などの分子またはいずれかその他の部分のことを意味することができる。標的化合物の具体的な例は、以下においてさらに詳細に検討される。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、リガンドが支持体の薄いシェルとして提供される、新規な分離マトリクスに関する。リガンドは、支持体に対して直接的に結合することができ、または増量剤を介して結合することができる。
【0026】
このように、最初の側面において、本発明は、支持体;外部部分または支持体の層に結合された1またはそれ以上の増量剤;および増量剤に結合された少なくとも一つのリガンド;を含む分離マトリクスに関するものであり、ここで増量剤が結合する支持体の部分がマトリクスの全量の50%未満を構成する。この文脈において用語“外部部分に結合された”は、マトリクスの内部部分に位置する増量剤が存在しないことを意味するものと理解される。このように、増量剤および結果としてリガンドもまた、外部部分または層として存在し、時には増量剤-リガンドシェル(ELS)とも呼ばれる。
【0027】
本発明に従う分離マトリクスの一態様において、実質的にすべてのリガンドは、増量剤を介して支持体に結合される。当業者であれば理解するように、本発明の支持体マトリクスを調製する方法の文脈において以下に検討するように、増量剤は、支持体の利用可能な表面に結合する。さらに、この文脈において、“少なくとも1つ”のリガンドが増量剤に結合された少なくとも一つの種類のリガンドが存在することを意味することが理解され、そして標的化合物の分離をもたらすために必要とされるように、各支持体が複数のリガンドを含むことが理解される。同様に、“増量剤”は、同一の種または異なる種のものであってもよい複数の増量剤分子を意味する。
【0028】
上述したように、増量剤は、未満のマトリクス(容量/容量)から構成されていてもよく、その50%はマトリクスの一番外側の半分とみなすことができる。好都合な態様において、増量剤は、マトリクスの約15〜20%、たとえば約17%、を構成しまたは1〜17%の範囲内を構成する。
【0029】
当業者であれば理解するように、増量剤層の厚さの正確な値は、粒子サイズに依存する可能性がある。しかしながら、例えば、充填床クロマトグラフィーにおいて有用である可能性がある例示的な態様において、増量剤は、10μm未満、例えば0.5〜10μmの範囲、例えば、2〜3μmの範囲の平均厚を有する外部層として提供される。一態様において、増量剤層は、平均3μmの厚さである。
【0030】
本発明の分離マトリクスの好都合な態様において、増量剤は、例えば、上述したUS 6,428,707(Amersham Biosciences AB)に記載されるものなどの直線状分子または分岐状分子であり、または直線状分子または分岐状分子の混合物である。このように、各増量剤分子は、複数のリガンドを各増量剤に結合させることができる複数の部位を提供する。当業者であれば理解するように、各“スペーサー”は一般的にリガンドのみのための1つの結合部位を提供するため、増量剤は、“スペーサー”または“スペーサー分子”とはこの点で異なる。このように、具体的な態様において、平均して、各増量剤分子は、そこに結合する2つまたはそれ以上のリガンドを有する。一態様において、増量剤の分子量は、1000または2000〜20×106の範囲、例えば50,000〜500,000 Daの範囲である。本発明の増量剤のサイズを表現する別の方法は、当該技術分野において慣例的であるように、それらを特定の分子量のデキストランと比較することである。このように、具体的な態様において、増量剤は、天然のデキストランに対応するサイズのもの、または天然のデキストランに非常に近いサイズのものである。本発明の増量剤は、合成のポリマーであっても天然のポリマーであってもよい。増量剤は、それらの本質から支持体と反応しないものである限りは、より疎水性であってもあるいはよ親水性であってもよい。一態様において、増量剤は、実質的に親水性である。この文脈において、本明細書中にて使用される場合、“実質的に親水性”は増量剤は、疎水性とみなすことができるいずれかの末端または部分を提示しないものと理解されるべきである。当業者は、どの増量剤の型が所定の支持体にあっているか(to with for)を容易に決定することができる。このように、一態様において、増量剤は、デキストラン;デキストリン;スクロースポリマー;アガロース;セルロース、ポリスチレン、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド;ポリビニルアルコール;ビニルフェニルポリマー;およびビニルエーテル;からなる群から選択される。本発明はまた、上述したいずれかの誘導体から構成される増量剤を含む。代わりの態様において、増量剤は、2つまたはそれ以上の上述したものの混合物である。好都合な態様において、増量剤は、機能化アガロースなどのアガロース分子であり、相対的に 親水性な増量剤層を提供する。代わりの態様において、増量剤は、クロマトグラフィーの分野において増量剤としてしばしば使用された、デキストラン分子である。本発明の一つの利点は、増量剤の存在、そして結果的に薄層に限定されたリガンドの存在により、増量剤を介して結合されたリガンドが支持体全体に存在する従来型の生成物と比較して、標的化合物に関して、リガンドに対して拡散しそしてリガンドから拡散する距離を実質的に減少することを提供する。このように、結合および溶出の両方ともが、本発明による新規な分離マトリクスを使用してより速く見える可能性がある。結果的に、プロセスの質量輸送(mass transport)動態は、かなり速い液体流速が可能になるため、本発明実質的に従って改良され、全体のプロセス経済に利益をもたらす。さらに、増量剤が高価な材料であるならば、本発明に従う分離マトリクスを調製するコストは、本発明のさらなる利点である。
【0031】
本発明の分離マトリクスを、粒子、メンブレン、フィルター、モノリス、キャピラリーなど、液体からの標的化合物の分離のために従来から使用されるいずれかの様式で提供することができる。好都合な態様において、分離マトリクスは、ビーズとしても知られる実質的に球状の粒子から構成される。クロマトグラフィーカラム中にパッキングされた本発明のビーズは、すぐに使用可能な様式で提供される。
【0032】
本発明のビーズは、直径が5〜1000μmの間、好ましくは直径10〜500μmの間、そしてより好ましくは直径10〜100μmの間など、いずれかの適切なサイズのものであってもよい。本発明の好都合な態様は、直径100〜200μmなどの相対的に大きなサイズのビーズであり、薄層中のリガンドの存在が限定されているため、ビーズは、現在上市されているかなり小さなビーズと匹敵する分離特性をわずかに提示する。
【0033】
本発明による分離マトリクスの支持体は、多孔性であっても、非多孔性であってもよい。好都合な態様において、支持体は多孔性である。具体的な態様において、支持体は、多孔性であるが、架橋ポリマーから構成され、これによりその剛性が向上する。この態様は、その剛性などのいくつかの観点で有利であり、この態様により、崩壊のリスクなしに、高い液体流速でそれを使用することができる。本発明の分離マトリクスの代わりの態様において、支持体は、実質的に非多孔性であり、すなわち、実質的に中実(solid)なものである。
【0034】
当業者であれば理解するように、本明細書中で使用される場合、表現“支持体の外部部分に結合された増量剤”は、多孔性支持体の文脈において、増量剤が、外部表面に対して、並びに粒子の最も外側部分に存在する孔の表面に対して、結合されることを意味していてもよい。このように、この態様において、増量剤層は、支持体中、特に支持体の孔中、に支持体の外部層を増量剤を用いて修飾することにより、作製されるものとみなすことができる。別の態様において、増量剤層を、増量剤をその外側表面にのみ結合させることにより、もともとの支持体に対して付加された層として作製することができる。このように、最後に言及した態様において、付加された増量剤は、部分または層を作製し、結果として、増量剤を添加する前の支持体の直径よりも大きな直径などのサイズを有する分離マトリクスを生じる。最初に言及した態様において、分離マトリクスは、ほんのわずかだけ支持体よりも大きいものであってもよい。
【0035】
本発明の一つの利点は、例えば平衡化のために、より少ないバッファーが必要とされるそのような平衡化のプロセスをスピードアップし、そして同様の理由によりより迅速に洗浄することもできる。
【0036】
支持体は、合成ポリマーまたは天然ポリマーなどのいずれかの一般的に使用される材料から調製され、そのようなポリマーは、架橋されて剛性をもたらすことができる。このように、一態様において、支持体は、天然のポリマー(多糖、例えば、アガロースなど)から調製される。別の態様において、支持体は、アガロース、シリカ、ガラス、酸化ジルコニウム、およびデキストランからなる群から選択される材料から、調製される。
【0037】
リガンドの性質は、本発明の幅広い側面に限定されない。このように、本発明の分離マトリクスの一態様において、リガンドは、アニオン交換体;カチオン交換体;疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)リガンド;逆相クロマトグラフィー(RPC)リガンド;固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)リガンド;チオ親和性(thiophilic)リガンド;親和性リガンド;核酸ベースのリガンド;pi-相互作用および/またはVan der Waals力により作用するリガンド;そして多モードリガンド(時に、混合様式のクロマトグラフィーリガンドとも呼ばれる)からなる群から選択される、。
【0038】
一態様において、リガンドは、第四アンモニウム基(Q基)またはDEAEなどのアニオン交換体、またはスルホプロピル(SP)またはカルボキシメチル(CM)基などのカチオン交換体である。別の態様において、リガンドは、例えば、US 7,214,321;WO 03/024588;WO 01/38228;WO 2006/043896;およびUS 7,008,542において開示されるものなどの多モードリガンドである。
【0039】
別の態様において、本発明に従う分離マトリクスは、フェニル基またはオクチル基などのHICリガンドを含む。この態様において、疎水性リガンド基をデキストランなどの増量剤に対して結合させることにより形成される複合体を、標的化合物の結合のために必要とされる高イオン強度でも、デキストラン増量剤の作用を維持する様式で、設計することができる。具体的な態様において、このことは、デキストラン増量剤を、双極性イオン基により置換することにより、達成される。
【0040】
さらなる態様において、リガンドは、プロテインA、1またはそれ以上のプロテインAの部分、またはプロテインA模倣物を含む、親和性リガンドである。このように、具体的な態様において、リガンドは、抗体のFabフラグメントを結合することができる非-Fc結合剤として知られる基であってもよい。あるいは、親和性リガンドは、組換えプロテインAまたは天然プロテインA、または例えば、MabSelectTMSuRe(GE Healthcare Bio-Sciences, Uppsala, Sweden)上で利用可能な遺伝子的に操作されたプロテインAリガンド、などの現在市場で利用可能なリガンドである。
【0041】
第2の側面において、本発明は、分離マトリクスを調製する方法に関し、この方法は以下の工程
(a)支持体を提供し;
(b)少なくとも一つのリガンドまたはリガンド結合基が結合される増量剤を提供し;
(c)増量剤を支持体の外部部分に対して結合させる;
工程を含み、ここで増量剤が結合する支持体の部分がマトリクスの全量の50%未満を構成する。
【0042】
(c)において提供される増量剤部分または層の平均厚は、本発明の最初の側面の文脈において上記に検討されたものであってもよい。この側面において調製された分離マトリクスは、本発明のマトリクスの上述した態様のいずれか1つであってもよい。リガンドが、増量剤が支持体に対して結合される前に、増量剤に対して結合されるため、リガンドの存在は、増量剤層に限定される。
【0043】
具体的な態様において、本発明の方法において使用される増量剤は、事前に機能化されており、すなわち、支持体の機能化後に適したリガンド結合基(“ハンドル”)を提供される。そのようなハンドルは、例えば、カルボキシル基またはNHS基であってもよい。あるいは、“ハンドル”はアリル基である。
【0044】
支持体に対する増量剤の結合は、いずれかの適切な方法により実施できるが、しかし最も好都合には、増量剤の架橋を何も含まない。本発明の調製方法の一態様において、(b)において、親和性リガンドは、NHS結合を介して増量剤に対して結合される。NHS結合は、当該技術分野において周知であり、例えば、デキストランを介して表面に対してプロテインAを結合させることのために示唆された方法を参照する。このように、好都合な態様において、NHSを使用してデキストランに対して結合された親和性リガンドは、プロテインA、1またはそれ以上のプロテインAの部分、またはプロテインA模倣物を含む。
【0045】
別の態様において、増量剤は、アガロースまたはアガロースに基づくポリマーであり、そしてリガンドの結合は、従来型の結合手順を使用して、当業者により容易に実施される。
【0046】
好都合な態様において、増量剤は、支持体に対するその結合の前にアリル化されたデキストランである。事前にアリル化されたデキストランを介して、アガロース マトリクスに対してアリル基を導入することにより、動的タンパク質容量(capacity)を顕著に改善し、最初に増量剤を結合しそして次いで結合された増量剤をアリル化するという標準的なアプローチを使用する場合と比較することができることが示された(実施例4を参照)。導入されたアリル基の量は、導入されたアリル化されたデキストランの量を変化させることにより、またはデキストランのアリル化のレベルを変化させることにより、調節することができる。この経路を使用して、デキストラン-修飾アガロース支持体を、アリルグリシジルエーテル(AGE)と反応させる従来の方法の潜在的に欠点を有する作用を回避することができ、そして同様に調節された様式で、リガンドをデキストラン層のみに対して導入することができる。さらに、支持体に対する結合の前の、溶液中でのアリル基のデキストランへの導入により、アリル基のより均質な分配を可能にし、結果的にリガンドのより均質な分配をもたらす。
【0047】
増量剤層の厚さは、上記に検討した。リガンドの量は、増量剤層の正確な厚さ、増量剤分子のサイズ、リガンドと標的化合物とのあいだの結合強度などのその他のパラメータの検討に基づいて、当業者により容易に選択される。本発明の具体的な態様において、分離マトリクスは、クロマトグラフィーカラムにおいて使用するための、実質的に球状のビーズを含む。
【0048】
第3の側面において、本発明は、液体から少なくとも一つの標的化合物を分離するプロセスに関し、このプロセスは、以下の工程:
(a)支持体、支持体の外部部分に結合された増量剤、および増量剤に結合された少なくとも一つのリガンドを含む分離マトリクスであって、全てのリガンドが支持体の外側部分に存在しそして増量剤を介して結合されるものを提供し;
(b)液体を分離マトリクスに接触させて、少なくとも一つの標的化合物をリガンドに対して結合させ;そして、場合により
(c)(1または複数の)標的化合物を液体から放出させる溶出液を添加することにより、少なくとも一つの標的化合物を溶出する;
工程を含む。
【0049】
以下の実験の部分から明らかになるように、本発明に従う分離マトリクスを使用する本発明のプロセスは、非常に高いサンプル能力を提供し、それは標的化合物の精製を高い生産性により得ることができることを意味する。
【0050】
分離マトリクスは、本発明の最初の側面の文脈において上述したような平均厚を有する増量剤の層を含むことができる。この側面において使用される分離マトリクスに関するさらなる詳細は、上記の本発明の最初の側面の文脈において検討されたものであってもよい。
【0051】
一態様において、分離マトリクスはイオン交換リガンドを含み、そして本発明のプロセスは、濃度勾配溶出により少なくとも一つの標的化合物を溶出する工程を含む。例えば、連続的であるかまたは段階的であってもよい濃度勾配溶出は、クロマトグラフィーの技術分野においては周知である。
【0052】
本発明のプロセスを使用して、いずれかの液体から、いずれかの所望の標的化合物を分離することができる。このように、液体は、例えば、換え宿主細胞の培養のために使用される発酵ブロス、血液または血漿、または脳脊髄液などのその他の生物学的液体、であってもよい。一態様において、標的化合物は、薬物または薬物候補、ワクチン生産において使用するための抗原、または診断用途のための化合物などの所望の化合物である。代わりの態様において、標的化合物は、血漿を混在するイムノグロブリンから精製する際など、生成物液体から取り出すことが望ましい化合物である。このように、本発明のプロセスは、結合-溶出様式で使用することができ、所望の生成物が分離マトリクスへの結合およびその後の溶出により単離される様式;あるいは、混在性の種をカラムに結合させながら、所望の生成物が分離マトリクスを通過するフロースルーの様式;を意味する。結合された種の溶出を、フロースルーの様式で実行することができ、ここでマトリクスに結合される混在性の種が溶出されて、分離マトリクスの再使用を可能にする。
【0053】
本発明のプロセスの一態様において、少なくとも一つの標的化合物は、抗体などの天然タンパク質および組換えタンパク質;ペプチド;DNAまたはRNAなどの核酸、例えば、プラスミド;アデノ関連ウィルスまたはインフルエンザウィルスなどのウィルス;および真核細胞または原核細胞などの細胞;からなる群から選択される。一態様において、少なくとも一つの標的化合物の分子量は、30 000 g/mol以上、例えば100 000 g/mol以上である。そのような大きな化合物が従来から使用されたプロセスにおいては、プロセス経済を伴って分離することが困難であるため、この態様は、生体分子のラージスケールの精製において特に有利である。具体的な態様において、少なくとも一つの標的化合物は、イムノグロブリン;またはFabフラグメントなどのそのフラグメント、またはその融合タンパク質;である。より具体的な態様において、イムノグロブリンは、ラマイムノグロブリンである。イムノグロブリンは、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってもよい。
【0054】
具体的な一態様において、本発明のプロセスは、モノクローナル抗体などの抗体を分離するプロセスであり、そして分離マトリクスは、プロテインA、またはそのフラグメントまたは融合タンパク質などのイムノグロブリン-結合リガンドを提供するアガロース増量剤などの、上記に検討された増量剤の薄層を提供する膜である。
【0055】
最後の側面において、本発明は、その最も外側の層においてリガンドの薄層を含む、分離マトリクスに関する。好ましくは、その内部部分には、増量剤は存在しない。このように、リガンドが結合する支持体の部分は、マトリクスの50%未満(容量/容量)を構成することができ、その50%は、マトリクスの最も外側の部分の半分とみなすことができる。好都合な態様において、リガンドは、マトリクスの約15〜20%、例えば約17%、または1〜17%の範囲内を構成する。多孔性または非-多孔性支持体に結合する増量剤の文脈において上述したように、リガンド層は、多孔性支持体の外部部分を構成することができる。この側面は、バッファーの節約、より短い拡散距離、そして結果としてより迅速なプロセスおよび優れた結合能力、の点で、利点に関連する。このように、本発明の発明者らは、そのような利点が、いずれかのリガンドの薄層;または増量剤に結合されたリガンドの薄層;を提供することに関連することを、実際に見いだした。
【0056】
図面の詳細な説明
図1は、本発明に従う増量剤-リガンドビーズの説明図である。球状粒子を取り囲むシェルとほとんど同様に、ビーズに対して増量剤層がどの程度の薄さであるのかが、この図から明らかである。
【実施例】
【0057】
これらの実施例は、説明の目的のみのために本明細書中に提示され、そして添付の請求の範囲により規定される様に、本発明を限定することを意図するものではない。
イントロダクション
生体分子のラージスケールの精製のために通常は使用されるクロマトグラフィー媒体を適切なリガンドと置換して、分離を達成する。リガンドは、多量のサンプルを吸着するため、通常はビーズ中で均質に置換される。しかしながら、本発明者らは、ビーズの非常に薄い外部層が、リガンドにより置換される場合にのみ、高いタンパク質容量を得ることができることを見いだした(図1)。この種のシェル-ビーズの高いタンパク質容量を得るための必要条件は、リガンドを増量剤に対して結合することである。さらに、複合体[リガンド-増量剤]をマトリクスに結合されることが、重要である。2つの試作品が、非常に薄いシェル(2〜3μmの厚さ)に結合させたDEAE-デキストランをセファロース6 Fast Flowに対して用いて、製造された。これらの2種の試作品を、Q-基(-N(CH33)を薄いシェルと結合させたが増量剤を含まない試作品と比較した。さらに、この結果を、商業的に利用可能な媒体であるDEAEセファロースFast Flow(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)とも比較したが、この場合、DEAE基がビーズ全体に均質的に分布し、そして精製時には増量剤を何も使用しない。
【0058】
概説
マトリクスの容量は、確定された床容量(settled bed volume)のことをいい、そしてグラムで示されるマトリクスの重量は、吸引乾燥重量のことをいう。ラージスケールの反応のため、マグネティックバースターラーの使用が、ビーズを損傷しやすいため、攪拌は、懸架性モーター-駆動性スターラーのことをいう。スモールスケールの反応(20 mLまたはゲル20 gまで)を、閉鎖バイアル中で行い、そして攪拌は、震盪テーブルを使用することを意味する。従来の方法を、機能性の分析、およびアリル化の程度またはビーズ上のアミン含量の程度の決定のために使用した。
【0059】
本発明に従う分離マトリクスを調製するために一つの方法は、以下に例示する通りであり、架橋 アガロースゲル(SepharoseTM 6 Fast Flow、GE Healthcare, Uppsala, Sweden)から始める。
【0060】
実施例1:シェルリガンド(試作品D1およびD2)としてのDEAE-デキストランに基づく、シェル媒体の調製
セファロース6 Fast Flowのアリル活性化
セファロース6 Fast Flowを、グラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。ゲル、250 mL、をフィルター上に注ぎ、そして3首の丸底フラスコ中で秤量した。NaOH(115 mL、50%溶液)を添加し、そして機械的攪拌を開始した。ホウ化水素ナトリウム、0.5 g、および硫酸ナトリウム、31 g、をフラスコに添加し、そしてスラリーを水浴中で50℃まで加熱した。およそ1時間後、250 mLのアリルグリシジルエーテル(AGE)を添加した。次いで、スラリーを、一晩強く攪拌した。約20時間後、スラリーをグラスフィルタに移し、そして蒸留水(×4)、エタノール(×4)および蒸留水(×4)を用いて洗浄した。
【0061】
次いで、アリル含量を滴定により測定した;272μmol/mL。
試作品D1のシェル活性化
アリル化されたゲル、25 mL、をフラスコ中で秤量し、そして250 mLの蒸留水および2.5gの酢酸ナトリウムを添加した。0.21等量の臭素、75μL、を、キャップ付きバイアル中、20 mLの蒸留水中に溶解した。臭素のこの量は、約2μmのシェル厚に対応する。この臭素溶液を、強く攪拌する間、アリルゲルスラリーに対して瞬間的に添加した。およそ2分後、ゲルをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0062】
試作品D2のシェル活性化
アリル化されたゲル、40 mL、を、フラスコ中で秤量し、そして400 mLの蒸留水および4 gの酢酸ナトリウムを添加した。0.31等量の臭素、175μL、を、キャップ付きバイアル中、30 mLの蒸留水中に溶解した。臭素のこの量は、約3μmのシェル厚に対応する。この臭素溶液を、強く攪拌する間、アリルゲルスラリーに対して瞬間的に添加した。およそ2分後、ゲルをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0063】
DEAE-デキストランのシェル結合(試作品D1およびD2)
23.5 mLの部分的に臭化されたゲルを、グラスフィルタ上で乾燥吸引して18.5 gにし、そして各ゲルをフラスコに移し、そして1時間室温(約20℃)にて、32 mLの蒸留水中19 g DEAE-デキストランの溶液と混合した。DEAE-デキストラン(500 000 g/molの分子量)を、GE Healthcare, Uppsala, Swedenから入手した。
【0064】
各スラリーに対して、3.5 mLの50%NaOHを添加した。このスラリーを50℃まで加熱して、そして一晩攪拌した。およそ18時間後、ゲルをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0065】
試作品D1の塩素イオン能力は、110μmol/mLであった。241μmol/mLの残留アリル含量は、2μmの理論シェル厚に対応する。
試作品D2の塩素イオン能力は、126μmol/mLであった。220μmol/mLの残留アリル含量は、3μmの理論シェル厚に対応する。
【0066】
ビーズコアにおけるアリル排除
4 mLの各ゲル(試作品D1およびD2)を、オーバーヘッドスターラーを備えたビーカー中で蒸留水と混合した。スラリーが、残留する深いオレンジ色/黄色を有するまで、臭素を添加した。3分間の攪拌後、スラリーが完全に退色されるまで、ナトリウムホミエート(sodium formiate)を添加した。次いで、ゲルをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0067】
注がれた臭化ゲルを、バイアルに移し、そして2 mLの水および4 mLの2 M NaOHと混合した。次いで、この混合物を50℃にて17時間攪拌し、その後グラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0068】
実施例2:シェルリガンドとしてのQ-基((-N(CH33)に基づくシェル媒体の調製(試作品Q)
セファロース6 Fast Flowのアリル活性化
セファロース6 Fast Flowをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。ゲル、250 mL、をフィルター上に注ぎ、そして3つ首丸底フラスコ中で秤量した。NaOH(115 mL、50%溶液)を添加し、そして機械的攪拌を開始した。ホウ化水素ナトリウム、0.5 g、および硫酸ナトリウム、31 g、をフラスコに添加し、そしてスラリーを水浴中で50℃まで加熱した。およそ1時間後、250 mLのアリルグリシジルエーテル(AGE)を添加した。次いで、スラリーを、一晩強く攪拌した。約20時間後、スラリーをグラスフィルタに移し、そして蒸留水(×4)、エタノール(×4)および 蒸留水(×4)を用いて洗浄した。
【0069】
次いで、アリル含量を滴定により測定した;272μmol/mL。
試作品のシェル活性化、Q-試作品
アリル化されたゲル、40 mL、をフラスコ中で秤量し、そして400 mLの蒸留水および4 gの酢酸ナトリウムを添加した。0.31等量の臭素、175μL、を、キャップ付きバイアル中、30 mLの蒸留水中に溶解した。臭素のこの量は、約3μmのシェル厚に対応する。この臭素溶液を、強く攪拌する間、アリルゲルスラリーに対して瞬間的に添加した。およそ2分後、ゲルをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0070】
Q-基のシェル結合
15 mLの部分的に臭化されたゲル(上記を参照)を、フラスコに移し、そして10 mLの水および6 mLの塩化トリメチルアンモニウム溶液と混合した。pHを50%NaOH を用いて12.5に調整し、そしてスラリーを45℃にまで加熱し、そして一晩強く攪拌した。およそ18時間後、ゲルをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0071】
塩素イオン能力は、63μmol/mLと推定された。220μmol/mLの残留アリル含量は、3μmの理論シェル厚に対応する。
ビーズコアにおけるアリル排除
4 mLのゲル(試作品Q)を、オーバーヘッドスターラーを備えたビーカー中で蒸留水と混合した。スラリーが、残留する深いオレンジ色/黄色を有するまで、臭素を添加した。3分間の攪拌後、スラリーが完全に退色されるまで、ナトリウムホルミエート(sodium formiate)を添加した。次いで、ゲルをグラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0072】
注がれた臭化ゲルを、バイアルに移し、そして2 mLの水および4 mLの2 M NaOHと混合した。次いで、この混合物を50℃にて17時間攪拌し、その後グラスフィルタ上で蒸留水を用いて洗浄した。
【0073】
実施例3:3種の試作品(D1、D2およびQ)のクロマトグラフィー評価
イントロダクション
3種のシェル媒体試作品(試作品:D1、D2およびQ)のクロマトグラフィーのふるまいを試験するため、オボアルブミンの貫流容量(breakthrough capacity)を調べた(実験の項を参照)。これらの試作品の結果を、リガンドがビーズの全体にわたり均質に分配されている、確立された媒体であるDEAEセファロースFast Flowと比較した。D-試作品とQ-試作品との比較から、増量剤を使用して、複合体[増量剤-リガンド]をシェルと結合させることについての高い能力および利点を得ることの重要性が示される。
【0074】
実験
貫流容量に関して調べる対象となるシェル媒体(試作品:D1、D2およびQ)を、Tricorn 5/100カラム中にパッキングし、そしてサンプル溶液を、バッファー溶液を用いて平衡化した後、1.0 mL/minの流速でカラムを通してポンプで流した。貫流容量を、最大UV検出器シグナル(280 nm)の10%で評価した。最大UVシグナルは、試験溶液を検出器内部に直接的にポンプで送り込むことにより推定された。最大吸光度の10%での貫流容量(Qb10%)を、以下の式に従って算出した:
Qb10%=(TR10%- TRD)×C / Vc
式中、TR10%は、最大吸光度の10%での保持時間(分)であり、TRDは、システム中の空隙容量(void volume)時間(分)であり、Cは、サンプル濃度(4 mgタンパク質/mL)であり、そしてVCはカラム容量(mL)である。貫流容量測定にて使用される吸着バッファーは、50 mM Tris(pH 8.0)であった。
【0075】
サンプル
サンプルは、50 mM Tris(pH 8.0)中に溶解したオボアルブミンであり、そして供給濃度は、3.7 mg/mlに調整された。
【0076】
装置
LCシステム:Akta Explore 10
ソフトウェア:Unicorn
カラムTricorn 5/100
【0077】
ユニコーン法
主要な方法:
0.00 Base CV (2)#Column_volume {ml} Any
0.00 BufferValveA1 A11
0.00 ColumnPosition (Position2)#ColumnPosition
0.00 Flow (1.000)#Flow_rate {ml/min}
0.00 Alarm_Pressure Enabled (3.00)#Max_pressure {MPa} 0.00 {MPa}
0.00 Wavelength 280 {nm} 294 {nm} 290 {nm}
0.00 Message (Obeliex)#ColumnID Noscreen "No sound"
0.00 OutletValve WasteF1

0.00 Block Equilibration (Equilibration)
0.00 Base SameAsMain
0.00 BufferValveA1 A11
0.00 OutletValve WasteF1
29.00 AutoZeroUV
30.00 End_Block
0.00 Block 100_percent_absorbance (100_percent_absorbance)
0.00 Base Volume
0.00 Gradient 100 {%B} 0.00 {base}
0.00 PumpBInlet B1
0.00 ColumnPosition Position1Bypass
7 End_Block
0.00 Block Loading
(Loading)
0.00 Base SameAsMain
0.00 ColumnPosition (Position2)#col_pos_2
0.00 Gradient 100 {%B} 0.00 {base}
0.00 PumpBInlet B1
0.00 Flow (1)#flow_rate_load {ml/min}
0.00 OutletValve (FracF2)#utlopp_loading
0.00 InjectionMark
0.20 AutoZeroUV
1.5 Watch_UV1 Greater_Than (426.0000)#85_percent {mAU} END_BLOCK
6.00 OutletValve WasteF1
(64.00)#Max_sample_vol_in_CV End_block
0.00 Block Washing
(Washing)
0.00 Base SameAsMain
0.00 OutletValve WasteF1
0.00 PumpAInlet A1
0.00 Gradient 0.00 {%B} 0.00 {base}
0.00 OutletValve WasteF1
0.00 Watch_Off UV1
0.00 BufferValveA1 A11
0.00 Flow (2.00)#Wash_flow {ml/min}
3.00 Watch_UV1 Less_Than (25.0000)#5_percent {mAU} END_BLOCK
(12.00)#Max_wash_vol_in_CV End_block
0.00 Block Elution (Elution)
0.00 Base SameAsMain
0.00 PumpAInlet A2
0.00 PumpWashExplorer OFF ON OFF OFF
0.00 Watch_Off UV1
0.00 OutletValve (WasteF1)#Eluate_outlet
0.00 Flow (2.000)#Flow_rate_elution {ml/min}
1.00 Watch_UV1 Greater_Than 300 {mAU} END_BLOCK
(15.00)#Max_elu_vol_in_CV End_Block
0.00 Block Appearance_2
(Appearance_2)
0.00 Base SameAsMain
0.00 PumpAInlet A2
0.00 Watch_UV1 Less_Than (25.0000)#5_percent_2 {mAU} END_BLOCK
20.00 End_block
0.00 Block CIP
(CIP)
0.00 Base SameAsMain 0.00 OutletValve WasteF1 0.00 Watch_Off UV1
0.00 Gradient 0 {%B} 0.00 {base}
0.00 PumpWashExplorer A12 OFF OFF OFF 0.00 PumpAInlet A1
0.00 BufferValveA1 A12
0.00 Flow (1.000)#Flow_rate_CIP {ml/min}
60.00 Block Equilibration_3
(Equilibration_3)
0.00 Base SameAsMain
0.00 PumpAInlet A1
0.00 PumpWashExplorer A11 OFF OFF OFF
0.00 BufferValveA1 A11
0.00 Gradient 0.00 {%B} 0.00 {base}
0.00 Flow (1.000)#Flow_Reequilibration {ml/min} 10.00 End_Block
60.00 End_block
0.00 End_method

【0078】
結果と検討
下流のクロマトグラフィー精製プラットフォームを改良して、プロセス生産性およびタンパク質製造を大幅に上昇させるため、分離媒体のタンパク質容量(capacity)を上昇させることが非常に重要である。[増量剤-リガンド]複合体を非常に薄いシェル中に置換する場合のシェルビーズにより、高い貫流容量を達成することができることを証明するため(図1)、3種の試作品を構築した。All 3種の試作品全ては、セファロース6 Fast Flowに基づくものであった(表1)。
【0079】
【表1】

【0080】
表1により、シェル中において、DEAE-デキストランで置換された2種の試作品およびQ-基で置換された1種の試作品を生成した。外部“リガンドシェル”は非常に薄井ものであるが、3μmのシェル厚は、全ビーズ容量の約17%に対応する(この算出は、ビーズの直径が100μmであることに基づいている)。このことは、83%の全ビーズ容量(コア容量)が、いずれのリガンドによっても置換されていないことを意味する。DEAE-試作品の結果は、非常に良好であり(表2)、そしてこのことは部分的には、結合手順(DEAE-デキストランが活性化セファロース6 Fast Flowに対して結合される)こと、拡散距離が短いこと、そしてシェル中のリガンド密度が高いこと、により説明することができる。
【0081】
【表2】

【0082】
試作品Qから得られた低い結果(試作品D1およびD2と比較して、ほぼ1/6低いもの)は、増量剤の使用が、高いタンパク質容量を達成するためには、非常に重要であることを明らかに示すものである。さらに、試作品D1およびD2は、DEAEセファロースFast Flowと比較して、2倍も高い動的能力を有する(表2)。DEAEセファロースのイオン交換能力は約130μmol/mLであり、ビーズはDEAE-基により均質に置換されるが、しかし増量剤によっては置換されない。この結果は、D1およびD2について使用される構造原理が、高いタンパク質能力を得るためには、非常に最適なものであることを証明するものである。
【0083】
実施例4:事前-アリル化デキストランからのシェル媒体の調製
本発明に従う分離マトリクスを調製するため、初めにアガロース支持体粒子を、US 6,602,990(Berg)に記載される様に、調製した。デキストラン増量剤をアリル化し、そしてその後アガロース粒子に対して結合させた。次いで、スルホプロピル(SP)リガンドを、従来技術(1171039A)を介して、アリル基に対して結合させた。
【0084】
比較の分離マトリクス(1012076A)を、標準技術に従って調製した。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例5:IgGの精製
分離マトリクスを、SepharoseTM 6FF(GE Healthcare)を支持体として使用し、そして1.3μmol/gのアリル化度での150 kDの分子量(Mw)を有するデキストランを使用して、上述の実施例4に従って調製した。以下の表4から明らかなように、この分離マトリクスは、タンパク質IgGについて、予期せず高い動的タンパク質容量を示した。
【0087】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体;支持体の外部部分に結合された1またはそれ以上の増量剤;および増量剤に結合されたリガンド;を含む分離マトリクスであって、増量剤が結合する支持体の部分は、マトリクスの全量の50%未満を構成する、前記分離マトリクス。
【請求項2】
増量剤がマトリクスの内部部分に何も位置しない、請求項1に記載の分離マトリクス。
【請求項3】
増量剤が結合する支持体の部分がマトリクスの全量の1〜17%を構成する、請求項1または2に記載のマトリクス。
【請求項4】
増量剤が分岐分子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマトリクス。
【請求項5】
増量剤の分子量が、1000〜20×106 Daの範囲である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマトリクス。
【請求項6】
増量剤が、アガロース;デキストラン;デキストリン;およびそれら2種または3種の混合物、からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマトリクス。
【請求項7】
支持体が、実質的に球状粒子から構成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマトリクス。
【請求項8】
支持体が、多糖などの天然のポリマーから調製される、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマトリクス。
【請求項9】
リガンドが、アニオン交換体;カチオン交換体;疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)リガンド;逆相クロマトグラフィー(RPC)リガンド;固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)リガンド;親和性リガンド;および多モードリガンド、からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載のマトリクス。
【請求項10】
リガンドが、アニオン交換体またはカチオン交換体である、請求項9に記載のマトリクス。
【請求項11】
リガンドが、プロテインA、プロテインAの1またはそれ以上の部分、またはプロテインA模倣物、を含む親和性リガンドである、請求項9に記載のマトリクス。
【請求項12】
(a)支持体を提供し;
(b)リガンドおよび/またはリガンド結合基が結合される1またはそれ以上の増量剤を提供し;そして
(c)増量剤を支持体の外部部分に対して結合させる;
を含む、分離マトリクスを調製する方法であって、ここで増量剤が結合する支持体の部分がマトリクスの全量の50%未満を構成する、前記方法。
【請求項13】
工程(b)において提供される増量剤が、支持体に対する増量剤の結合に続く、その後のリガンドの結合を可能にするかどうかについて評価される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(a)支持体、支持体の外部部分に結合された1またはそれ以上の増量剤、および増量剤に結合されたリガンドを含む分離マトリクスであって、全てのリガンドが増量剤を介して支持体に対して結合されるものを提供し;
(b)液体を分離マトリクスに接触させて、少なくとも一つの標的化合物をリガンドに対して結合させ;そして場合により
(c)(1または複数の)標的化合物を液体から放出させる溶出液を添加することにより、少なくとも一つの標的化合物を溶出する;
を含む、液体から少なくとも一つの標的化合物を分離するプロセス。
【請求項15】
増量剤が結合する支持体の部分が、1〜17%など、マトリクスの全量の50%未満を構成する、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
分離マトリクスを、請求項12または13の方法に従って調製する、請求項14または15に記載のプロセス。
【請求項17】
分離マトリクスがイオン交換リガンドを含み、濃度勾配溶出により少なくとも一つの標的化合物を溶出する工程を含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
少なくとも一つの標的化合物が、組換えタンパク質または核酸である、請求項14〜17のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
少なくとも一つの標的化合物が、イムノグロブリンまたはその融合タンパク質のフラグメントである、請求項14〜17のいずれか1項に記載のプロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2010−534336(P2010−534336A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518145(P2010−518145)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国際出願番号】PCT/SE2008/000461
【国際公開番号】WO2009/014481
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(509088240)ジーイー・ヘルスケア・バイオ−サイエンシズ・アーベー (22)