説明

分離可能な靴

【課題】確実かつ容易に着脱でき、サイズを柔軟に調整することができ、かつ、履き替え用靴として携行するのに便利な、前後に分離可能な靴を提供する。
【解決手段】つま先部を含む前靴部20とヒール部32を含む後靴部30とからなる。前靴部20には前中敷23が一体的に設けられ、後靴部30には後中敷33が一体的に設けられる。後中敷33とヒール部32との間に前中敷23を収容する収容ポケット35が設けられている。前靴部29と後靴部30は互いに分離可能である。また、前中敷23の表面が後中敷33の裏面に接する状態で、前中敷23の後端が収容ポケット35に収容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴に関し、より詳細には、前靴部と後靴部とを互いに分離可能に組み合わせることで構成される分離可能な靴に関する。
【背景技術】
【0002】
既成靴を購入する際には、長さ(以下、サイズ)、デザイン、カラー等を考慮する。しかしながら、通常、既成靴は標準的な型を用いて作製されるために、例えばサイズが装着者の足に適合しても、幅(ウィズ)が装着者の足に適合するとは限らない。このため、気に入ったデザインやカラーの既成靴があり、自ら最適と思うサイズを選択しても、必ずしも足にフィットするとは限らず、結局、サイズ、ウィズ、デザイン、カラー等のいずれかを犠牲にして靴を購入する場合がある。
そこで、特許文献1では、靴本体を構成すべき前足部パートと後足部パートとを別体として形成し、これらを結合手段により分離可能に結合することを提案している。より具体的には、幅の異なる複数の前足部パート及び/又は後足部パートを形成し、これら幅の異なる複数のパートから任意のパートを選択して前足部パートと後足部パートを結合することにより、1つのサイズで幅が異なる複数種類の靴を製造可能とする、というのが特許文献1による提案である。
また、靴の色を、鞄又は衣装に応じて自在に組合せたいというニーズがある。こうしたニーズを考慮して、特許文献2は、靴の甲を含む前靴部とヒールを含む後靴部が互いに分離可能であり、かつ相互固定手段により前靴部と後靴部との複数の組合せが可能な靴を開示している。上記ニーズは、男性や子どもよりも女性の方が高いため、特許文献2に具体的に開示されている分離可能な靴は、女性用のハイヒールを対象としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−28001号公報
【特許文献2】特表2009−512471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の靴は、その図2に示されるように、後足底部に設けられた着脱用留め具12を前足底部に差し込んで前靴の底部と後靴の底部を結合し、さらに、前靴アッパーおよび後靴アッパーそれぞれの内側に備えられた着脱用留め具11の複数の突起を係止孔に嵌め合わせ、その上さらに結合された靴の内側に中敷を内設しなければならず、着脱作業が面倒である。また、靴のヒールの高さやデザインを外出先などで変える必要がある際に、履き替え用として通常の靴を1足そのまま携行するとかさばって荷物が増えてしまうが、前後が分離した靴を使用していれば前靴又は後靴のみを携行すれば良いので便利である。しかし、特許文献1の靴は、前靴と後靴とさらに別体の中敷の3点の部品から構成され、中敷が後靴と一体化している特許文献2の靴と比較しても部品点数が多く、手軽に携行できる履き替え用の靴としては不向きである。
【0005】
特許文献2に記載の靴は、前靴の靴底に設けられたベルクロ(登録商標)ストリップ型の結合手段の他に、後靴に一体的に設けられた中敷の土踏まず部分に配置された複数のホック型の押圧結合手段が設けられ、複数の結合手段により前靴と後靴との結合を確実にするものである。しかし、この押圧結合手段はその図1に示されるように中敷の土踏まず部分に位置が固定されているため、前靴と後靴が結合された靴のサイズが一定になる。したがって、靴下やタイツ等の厚さや足のむくみなどによって足のサイズが変化しても、前靴と後靴を結合する位置を任意に調整することができないため、靴のサイズを足に適合できない。また、会社やパーティ会場等で自宅から履いてきた靴を後靴あるいは前靴だけ素早く取り替えたい場合に、結合しなければならない箇所が複数あると時間と手間がかかりすぎる。さらに、前靴と後靴とが重なり合う部分は、前靴の先端から後靴との結合部位である土踏まず部分まであり、靴を履いたときの剛性感や安定性を欠いた構成となっている。
【0006】
本発明は、以上の課題に基づいてなされたもので、確実かつ容易に着脱でき、サイズを柔軟に調整することができ、かつ、履き替え用靴として携行するのに便利な、前後に分離可能な靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
人が靴を履いたときに、体重はもっぱら後靴部が備えるヒール部にかかる。この体重により前靴部に一体的に設けられる中敷を押さえれば、前靴部と後靴部との結合を強固に行うことができる。本発明の分離可能な靴は、この視点に基づいてなされたものであり、つま先部を含む前靴部とヒール部を含む後靴部とからなり、前靴部と後靴部は互いに分離可能である。前靴部には前中敷が一体的に設けられ、後靴部には後中敷が一体的に設けられる。そして、後靴部には、後中敷とヒール部との間に前中敷を収容する収容ポケットが形成されており、前中敷の表面が後中敷の裏面に接する状態で、前中敷の後端が収容ポケットに収容される。
つまり、本発明の分離可能な靴は、前靴部に一体的に設けられる前中敷と、後靴部に一体的に設けられる後中敷とを有し、後靴部に設けられた収容ポケットに前中敷を収容することを特徴としている。そして、この収容ポケットは、後靴部に一体的に設けられる後中敷とヒール部との間に存在する。上述の通り、人が靴を履いたときに体重はもっぱら後靴部が備えるヒール部にかかるため、収容ポケットに収容された前中敷、および前中敷の上に存在する後中敷、すなわち重なり合った二つの中敷を同時に踏むことにより、剛性感のある安定した履き心地の良い靴が提供される。また、このように前中敷と後中敷を同時に踏むことで前靴部と後靴部とを固定できるため、本発明の分離可能な靴は、前靴部と後靴部との結合が容易である。さらに、収容ポケットにおける前中敷の位置は任意に調節可能であるため、前靴部と後靴部の結合時に、前中敷の収容位置を任意に設定することにより、靴のサイズ調整も可能となる。例えば、足のむくみなどが生じた際には、前中敷の後端を、収容ポケット内部における後端よりも前方に位置させることで、靴のサイズをその時の足の状態に合わせて微調整することもできる。また、前靴部と後靴部の組み合わせは一通りに限らず、例えば、色違いで組み合わせてもよい。これにより、靴のデザインについての選択肢が広がるという利点がある。
【0008】
本発明の分離可能な靴において、前靴部と後靴部は面状ファスナにより結合することが好ましい。この面状ファスナとしては、前中敷の表面のつま先部近傍に設けられる第1ファスナ部材と後中敷の裏面であって第1ファスナ部材と対応する位置に設けられる第2ファスナ部材とから構成できる。つまり、収容ポケットに収容された前中敷と前中敷の上に存在する後中敷とを同時に踏むことによる結合に加えて、面状ファスナで前靴部と後靴部を結合することにより、より強固に前靴部と後靴部を結合できる。面状ファスナによれば、面倒な手間もなく、装着に時間もかからず、前靴部と後靴部との結合を強化できる。面状ファスナがつま先部近傍に設けられると、面状ファスナが歩行の際に体重のかかるつま先部のクッションにもなり得る効果もある。
【0009】
本発明の分離可能な靴において、前靴部と後靴部は、靴の側面に設けられ、その一部が外側に露出した留め具によって結合されることが好ましい。靴の側面に留め具の一部を露出させることにより、結合という留め具本来の機能に加えて、デザインについての付加価値を靴に付与できる。これは、購入者の購買意欲増進につながるとともに、靴の使用者に好みのデザインの靴を履くことにより得られる満足感を与えることができる。また、靴外側面に留め具を配置することにより、留め具の着脱を容易かつ短時間で行うことができる。
【0010】
本発明の分離可能な靴において、前靴部と後靴部は、ジョイントパーツにより結合することができる。このジョイントパーツは、一端側が前靴部に、他端側が後靴部に各々留め具により固定される。長さの異なるジョイントパーツを用意することによって、靴のサイズ調整を行うことも可能であり、また通気性向上という効果も期待できる。前靴部と後靴部、およびジョイントパーツという3点を任意に組み合わせることで、組み合わせの選択肢が広がり、デザインについてのさらなる付加価値を靴に付与できる。
【0011】
本発明の分離可能な靴において、ヒール部は、後靴部に形成されるヒール部着脱路を貫通させることにより交換可能とすることができる。靴内部からヒール部を挿入することにより、ヒール部を保持する面積を増やすことができ、結果的に、交換可能なヒール部の保持力を増すことができる。また、ヒール部着脱路を用いることで、ネジ等を用いることなくヒール部の着脱が可能になるため、ヒール部の着脱を短時間、かつ容易に行うことができる。
【0012】
本発明の分離可能な靴において、ヒール部が、後靴部に固定されるヒール本体とヒール本体に着脱可能なヒール高さ変更部材とをさらに備えることができる。この形態では、後靴部に固定されたヒール本体に、さらに別のヒールを固定することが可能であり、ヒール高さ調節の選択肢が増える。
ヒール高さ変更部材は、ヒール本体に形成される着脱路を貫通してヒール本体に着脱自在に設けてもよい。この形態では、ネジ等を用いずにヒールの高さ調節ができるため、ヒールの高さ調節が容易である。
【0013】
また、本発明の技術的思想は、互いに組み合わされることで靴を構成する第1分離体と第2分離体とを備えた靴であって、第1分離体は、足底が載置される第1中敷と、第1中敷の一端が結合されるとともに足の踵を収容する踵収容部と、踵収容部から延びるヒール部と、を備え、第2分離体は、第1中敷と接して配置される第2中敷と、第2中敷の一端が結合されるとともに足の甲を収容する甲収容部とを備えるとともに、第1中敷と踵収容部との間に、第2中敷の一端を収容する中敷収容部を備えたことを特徴とする靴として捉えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る靴を示し、(a)は靴の構成図、(b)は前靴部の斜視図、(c)は後靴部の斜視図、(d)(e)は後靴部の断面図である。
【図2】(a)は第2実施形態に係る前靴部と後靴部及びホックの構成図、(b)は前靴部の斜視図、(c)は後靴部の斜視図である。
【図3】(a)は第3実施形態に係る前靴部と後靴部及びジョイントパーツの構成図、(b)はジョイントパーツの構成図である。
【図4】(a)は第4実施形態に係る後靴部の斜視図、(b)は踵収容部の底面に設けられたヒール部着脱路を説明するための概略図である。
【図5】(a)はヒール部の一構成例を示す概略側面図、(b)は(a)に示したヒール部を用いて組み立てた第4実施形態に係る靴の構成図、(c)はヒール本体の高さが比較的低い他のヒール部を示す概略側面図、(d)は(c)に示したヒール部を用いて組み立てた第4実施形態に係る靴の斜視図である。
【図6】第4実施形態に係る後靴部の断面図を示し、(a)は後中敷が定位置にある状態を示す図、(b)は後中敷を変位させてヒール部着脱路を露出させた状態を示す図である。
【図7】第4実施形態に係る後靴部の断面図であり、(a)はヒール部を踵収容部の内部から挿入しようとする図、(b)はヒール部を後靴部に取り付けた状態を示す図である。
【図8】第4実施形態に係る靴であって、ヒール部を後靴部に取り付けた後に、前中敷を配置した状態を示す図である。
【図9】第4実施形態に係る靴であって、前中敷を配置した後に、後中敷を定位置に戻した状態を示す図である。
【図10】第5実施形態に係る靴の後靴部を示す断面図である。
【図11】第5実施形態に係る靴の後靴部を示す断面図であって、ローヒール仕様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
図1に示される本発明の第1の実施形態に係る靴1は、靴1の土踏まず部Sを境に前後に分離された前靴部20と後靴部30とから構成される(図1(a))。
【0016】
<前靴部20>
前靴部20は、足のつま先や甲を収容するつま先収容部(つま先部)21と、靴底部22と、つま先収容部(つま先部)21及び靴底部22に一体的に設けられた前中敷23とを備える(図1(b))。
前中敷23の表面のつま先近傍には、前靴部20と後靴部30との着脱の際に用いられる第1ファスナ部材24が設けられている(図1(b))。第1ファスナ部材24は、着脱が容易なマジックテープ(登録商標)等の面状ファスナから構成されている。
【0017】
前靴部20のつま先収容部21は任意の素材で構成することができ、樹脂、皮革、布(織物)等、一般の靴のアッパーに使用される素材全般から選択できる。また、つま先収容部21は図1(a)(b)のように前端が閉ざされていても良いし、前端が開口するように形成しても良い。
靴底部22も任意の素材で構成することができ、樹脂、各種合成ゴム、天然ゴム、皮革等、一般の靴底に使用される素材全般から選択できる。靴底部22は、前靴部20と後靴部30とを組み合わせたときに外部に露出する部分であり、地面と接する部分が所定の厚さを有するように構成しても良い。
前中敷23も一般の中敷に使用される素材全般から任意に選択できるが、足が滑りにくく、吸水性があり、また、前中敷23の後端部25を後靴部30の収容ポケット35に挿入しやすい柔軟性を有する素材であることが好ましい。また、収容ポケット35から前中敷23を抜けにくくするために、後端部25の縁部に樹脂等から構成されるすべり止めを設けても良い。
【0018】
<後靴部30>
後靴部30は、足の踵を収容する踵収容部31と、踵収容部31を保持するヒール部32と、踵収容部31に一体的に設けられた後中敷33とを備える。後中敷33とヒール部32との間には、収容ポケット35が設けられている(図1(c))。前中敷23の後端部25が収容ポケット35の内部に収容され、前靴部20と後靴部30が互いに結合されることにより、靴1を構成する。
【0019】
収容ポケット35は、踵収容部31の底面31aと、後中敷33の裏面との間に形成された隙間であって、土踏まず部Sに向かって開口している(図1(c)(d))。収容ポケット35の内部には、前中敷23の後端部25が収容ポケット35の内部の後端35aに接触するように挿入されることにより収容される(図1(e))。
収容ポケット35の奥行きは、後靴部30の後端に向けて深ければ深いほど、収容ポケット35に挿入される前中敷23の面積が広くなるため、靴1を履いたときに体重がかかる面積が広くなり、前靴部20と後靴部30とがより確実に一体化され、靴1の剛性感や安定感が向上する。
収容ポケット35の開口の高さ(底面31aから後中敷33の裏面まで距離)は、前中敷23の厚さと同じか、それよりもやや大きくするのが好ましい。収容ポケット35の開口の高さが小さすぎると、前中敷23の後端部25を収容ポケット35へ挿入する作業が困難となる。また、収容ポケット35の開口の高さが高すぎると、前中敷23の後端部25が収容ポケット35から抜けやすくなり、前靴部20と後靴部30との結合状態が不安定になる。
収容ポケット35の開口の幅は、前中敷23の後端部25の最大幅と同じであることが好ましい。収容ポケット35の開口の幅が後端部25の最大幅より広くなると、収容ポケット35から前中敷23が抜けやすくなり、前靴部20と後靴部30との結合状態が不安定になる。収容ポケット35の開口の幅を後端部25の最大幅よりもやや狭く構成することもできる。この場合は、挿入された後端部25が収容ポケット35の開口の高さ方向に撓む程度で、後端部25全体が収容ポケット35に無理なく収容される幅とすることが好ましい。
【0020】
収容ポケット35の内部、すなわち、底面31aおよび/または後中敷33の裏面に微小な突起を設け、あるいは底面31aと前中敷23の後端部25の裏面を摩擦係数の大きい材料で構成することができる。このような工夫により、前中敷23の後端部25が収容ポケット35から抜けにくくなり、前靴部20と後靴部30をより確実に結合できる。
【0021】
収容ポケット35の内部に前中敷23を挿入するときに、前中敷23の後端部25が収容ポケット35の内部における後端35aに接触するように挿入すると、収容ポケット35に収容される前中敷23の面積、体重により押し付けられる面積が最大となり、前靴部20と後靴部30との結合状態が最も安定する。よって、このように前中敷23を収容ポケット35の内部に挿入して得られる靴1のサイズが、個人が通常履く靴のサイズと合致するように、前靴部20と後靴部30のサイズを選択することが好ましい。
ただし、上述の挿入位置は固定されているわけではないので、靴下やタイツの厚さなどに応じて挿入位置を適宜調整し、靴1のサイズを変更することが可能である。
【0022】
後中敷33の裏面であって、後中敷33と前中敷23とを重ね合せたときに第1ファスナ部材24と対応する位置に、第2ファスナ部材34が設けられている(図1(c))。第2ファスナ部材34は、前靴部20と後靴部30とが結合されるときに、第1ファスナ部材24との対応位置がずれても第1ファスナ部材24と確実に結合できるように十分な大きさを有している。第2ファスナ部材34の大きさは、靴1全体のサイズにより任意に選択されるが、具体的には、第2ファスナ部材34の横幅は4cm以上、縦幅は1cm以上であるのが望ましい。
【0023】
踵収容部31およびヒール部32も一般的な素材から任意選択できる。踵収容部31に一体的に設けられた後中敷33は、前中敷23と同じ素材から構成できるが、収容ポケット35に収容された前中敷23の後端部25を体重でしっかりと押さえ付けることができる摩擦力を発揮する素材で構成することが好ましい。
【0024】
<前靴部20と後靴部30の結合方法>
次に、前靴部20と後靴部30の結合方法について説明する。
互いに分離された前靴部20と後靴部30は、前中敷23の後端部25を収容ポケット35内部に挿入して収容し(図1(e))、後中敷33の裏面を前中敷23の表面に重ね合わせ、第1ファスナ部材24に第2ファスナ部材34を押圧することにより結合される。そして、結合された靴1を履き、後靴部30にかかる体重により、収容ポケット35内部に収容された前中敷23を前中敷23の上部に存在する後中敷33を介して踏み、押え付ける。これにより、押え付けられた前中敷23と一体的に形成された前靴部20を後靴部30に対して確実に固定できる。
【0025】
従来の分離靴は、前靴と後靴との結合をより強固にするために複数の結合手段が設けられ、前靴と後靴の着脱に手間と時間を要していた。これに対し、本発明に係る靴1は、着脱が容易な第1ファスナ部材24と第2ファスナ部材34の一対が唯一の固定された結合手段であって、靴1を履き、後靴部30に自然に体重が載ることで収容ポケット35に収容された前中敷23が踏まれ、前靴部20と後靴部30とを迅速かつ確実に結合できる。また、靴1を前靴部20と後靴部30とに分離するときは、第1ファスナ部材24から第2ファスナ部材34を取り外し、前中敷23を収容ポケット35から引き抜くだけでよいので、着脱が極めて簡易である。
【0026】
また、従来の分離靴の結合手段は結合位置が固定されていたため、靴のサイズを任意に調節することができなかった。しかし、本発明の靴1は、前中敷23の収容位置を前後にスライドさせることで前靴部20と後靴部30の結合位置を微調整できる。また、第1ファスナ部材24と第2ファスナ部材34は、前述の通り、前靴部20と後靴部30の結合位置が微調整されて第1ファスナ部材24と第2ファスナ部材34との接触位置がずれても前靴部20と後靴部30とを確実に結合するのに充分な大きさを有するように設けられている。これにより、例えば靴下等の厚さや足のむくみによって所望の靴のサイズが変化しても、前中敷23の後端部25を収容ポケット35内部における後端よりも前方に位置させることにより、足にフィットした靴1を容易に構成することが可能となる。また、異なる高さのヒール部32を備える別の後靴部30や、異なるデザインや色からなる別の前靴部20等と交換するときなども、適宜調節しながら容易に結合できる。
【0027】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、留め具を結合の補助とする形態について説明する。なお、以下に説明する靴1は、基本的な構成は上記第一の実施形態で示した靴1と同様であるので、以下においてはその相違点を中心に説明し、上記第一の実施形態の靴1と共通する構成については、同符号を付してその説明を省略する。
前靴部20と後靴部30の結合は、前靴部20のつま先収容部21両端縁部に設けられたホック41と、後靴部30の踵収容部31両端縁部に設けられたホック42を結合することによっても可能である(図2(a))。
【0028】
前靴部20と後靴部30は、互いに対向した両端縁部を着脱可能に結合するための結合手段として互いに着脱可能なオス型のホック41とメス型のホック42を有する。このホック41とホック42は結合すべき前靴部20と後靴部30の両端においてそれぞれ対向した両端縁部に各々設けられ、ホック41は突起を有し、一方、ホック42は係止孔を有している。そして、ホック41の突起をホック42の係止孔に嵌挿して係止させることにより、前靴部20と後靴部30の結合を補助する。
【0029】
ホック41,ホック42の素材は任意であり、例えば金属や樹脂で構成できる。また、これらホック41とホック42の前靴部20と後靴部30に対する固定方法も任意であり、例えば、縫合や接着によって固定できる。ホック41,ホック42は前靴部20と後靴部30の素材に応じて適当な構造、形状のものを用いることができるため、ホック41,ホック42の一部を前靴部20と後靴部30の外側に露出させるように配置することで、靴にデザイン性を持たせることができるという利点もある。
【0030】
<第3の実施形態>
第3の実施形態では、ジョイントパーツを結合の補助とする形態について説明する。なお、以下に説明する靴1は、基本的な構成は上記第1の実施形態および第2の実施形態で示した靴1と同様であるので、以下においてはその相違点を中心に説明し、上記第1の実施形態および第2の実施形態の靴1と共通する構成については、同符号を付してその説明を省略する。
【0031】
ホック41,42は、ジョイントパーツ45,46を介して前靴部20と後靴部30を結合できる。つまり、ジョイントパーツ45,46の両端をホック41,42で前靴部20,後靴部30の各々に固定することで、前靴部20と後靴部30の結合の補助を担う。
ジョイントパーツ45,46には、前靴部20に結合される端縁部にホック42が設けられ、後靴部30に結合される端縁部にホック41が設けられる。ジョイントパーツ45,46は靴の幅方向の両側面にそれぞれ配置結合される。(図3(a),(b))
ジョイントパーツ45,46を介して前靴部20と後靴部30を結合させることにより、靴のデザインの選択肢を増やすことができる。
ジョイントパーツ45,46は、前中敷23の後端部25を後靴部30の収容ポケット35に挿入する際、前中敷23の挿入位置を位置決めする効果を奏するものであり、靴サイズの指標にできる。ジョイントパーツ45,46の素材は任意であり、例えば、皮革、樹脂、各種合成ゴム、天然ゴム、布(織物)等、一般の靴に使用される素材全般から任意に選択して採用できる。
【0032】
<第4の実施形態>
第4の実施形態では、ヒールの高さ変更が可能な靴100について図4および図5を用いて説明する。
靴100は、前靴部20と後靴部30Aとを備え、両者を互いに結合することにより、靴100が構成される。前靴部20の構成は、第1の実施形態の箇所で詳述した通りなので、ここでの説明は割愛する。
【0033】
まず、図4(a)、(b)を用いて、後靴部30Aの構成を説明する。
図4(a)は後靴部30Aの斜視図である。
後靴部30Aは、足の踵を収容する踵収容部310と、踵収容部310を支持するヒール部50と、踵収容部310に一体的に設けられた後中敷330と、後中敷330とヒール部50との間に設けられた収容ポケット350を備える。なお、図4(a)では、後中敷330に設けられた第2ファスナ部材34の記載は省略している。
後中敷330は、皮や布など、弾力性のある材料で構成されており、後中敷330の後端は踵収容部310に固定されているが、その他の部分は踵収容部310に対して移動可能なように構成される。
なお、第4の実施形態では、図4(a)に示すように、後中敷330が定位置にある場合に、後中敷330とヒール部50との間に形成される領域を、収容ポケット350という。後中敷330の一部が踵収容部310に対して移動した場合には、上記領域に対応する領域を、収容ポケット350という。
ヒール部50は、後中敷330が設けられた踵収容部310とは別体で構成され、踵収容部310に対して着脱可能に構成される。このため、図4(b)に示すように、踵収容部310の底面310aには貫通孔が形成されており、この貫通孔がヒール部着脱路310bとして機能する。なお、図4(b)では、後中敷330の記載は省略している。
【0034】
図5(a)は、ヒール部50の一構成例を示す概略側面図である。
ヒール部50は、人が靴100を履いたときに地面に接地する接地部分を含むヒール本体50aと、ヒール本体50aの上部(接地部分とは異なる側)に設けられるベース部50bとを備える。
女性用のハイヒールの場合、ヒール本体50aは、通常、図5(a)に示すように上部から接地部分に向かって先細りとなる形態を有する。このため、ヒール本体50aの上部端部は、他の部分に比較して径が大きい拡径部50cを構成する。ベース部50bの面積は拡径部50cの面積よりも大きく、ベース部50bは、その一端が、拡径部50cの上面をすべて覆うようにして、ヒール本体50aに結合される。靴100を装着した際の安定性を考慮すると、ベース部50bはヒール本体50aと一体形成されていることが好ましい。
【0035】
ベース部50bにおいてヒール本体50aの拡径部50cと接する部分は、他の部分よりも肉厚とすることが好ましい。人が靴100を履いたときには踵に体重がかかるが、踵に対応する部分を肉厚とすることにより、ベース部50bの強度を向上させることができる。
一方、ベース部50bにおいて、ヒール本体50aの拡径部50cと接しない部分は、ヒール部50を後靴部30Aに挿入した際に、靴100の土踏まず部Sおよびその近辺に対応する位置に配置されることになる。ヒール本体50aの拡径部50cと接しない部分は、できるだけ厚さが薄い方が靴100の装着感がよいため、ベース部50bはその長手方向の他端に向かって、徐々に厚さが薄くなる構成とすることが好ましい。
【0036】
上述の通り、ヒール部50の着脱は、ヒール部着脱路310b(図4(b))を介して行われる。このため、ヒール部着脱路310bの形状および寸法は、拡径部50cの形状および寸法に適合するように設定される。
【0037】
次に、前靴部20、後靴部30A、およびヒール部50を組み合わせて靴100を組立てる際の手順について、図6〜図9を参照して説明する。なお、図7(a)、(b)では、後中敷330の記載を省略している。
図6(a)は、後靴部30Aの断面図である。
前靴部20、後靴部30A、およびヒール部50を組み合わせる際には、まず、踵収容部310に固定された後中敷330の後端部を中心として、図4(a)中の矢印Aに示す方向、すなわち後靴部30Aの後端の上方に向かって、後中敷330の前端を引き上げることにより後中敷330を回転させる。これにより、図6(b)に示すように、踵収容部310の底面310aに設けられたヒール部着脱路310b(図4(b))、つまり貫通孔を、露出させる。
次に、図7(a)に示すように、ヒール部50を、踵収容部310の内部から挿入する。具体的には、接地部分を含むヒール本体50aが、ヒール部着脱路310bを貫通するようにして、ヒール部50を挿入する。ここで、ヒール部50の一部を構成するベース部50bは、ヒール部着脱路310bを通過できない寸法および形状に形成されている。このため、ヒール部50の挿入が完了すると、図7(b)に示すように、ベース部50bは踵収容部310の内部に位置し、ヒール本体50aは踵収容部310の外部に位置することになる。
【0038】
続いて、図8に示すように、前靴部20に設けられた前中敷23の後端部25(図1(b))が、収容ポケット350の内部に位置するようにして、前靴部20を後靴部30Aに取り付ける。これにより、ベース部50bの表面と、前中敷23の裏面が接することになる。ベース部50bの表面または/および前中敷23(図1(b))の裏面の少なくとも一部に、滑り止め防止用の工夫を設けることで、ヒール部50のぐらつきを防止し、靴100の装着感を向上させることができる。こうした工夫としては、例えば前中敷23(図1(b))の裏面に微小な突起を設けること、前中敷23の少なくとも裏面または/およびベース部50b(図5(a))の表面を摩擦係数の高い材料で構成すること、などが挙げられる。
最後に、図9に示すように、踵収容部310に一体的に設けられた後中敷330(図4(a))を、元の位置に戻すことで、装着可能な靴100が構成されることになる。前靴部20、後靴部30A、およびヒール部50を組み合わせた状態の靴100の構成図を図5(b)に示す。
以上説明の通り、第4の実施形態では、靴100の内部からヒール部50を挿入する。これにより、後靴部30Aがヒール部50を保持する面積を増やすことができ、結果的に、交換可能なヒール部50を後靴部30がしっかりと保持できる。また、ヒール部着脱路310bを用いることで、ネジ等を用いずにヒール部50の着脱を行うことも可能となるため、ヒール部50の着脱を短時間、かつ容易に行うことができる。
【0039】
なお、ベース部50b(図5(a))の表面と、前中敷23(図1(b))の裏面が接する場合を例にして、靴100の組立手順を示したが、この手順は一例である。例えば、ベース部50bの裏面と、前中敷23の表面が接するようにして、靴100を組み立ててもよい。この場合には、前中敷23にヒール部着脱路310bの形状および寸法に適合した貫通孔を予め形成しておき、前中敷23の後端部25を収容ポケット350の内部に挿入した後に、ヒール部50を、踵収容部310の内部から挿入すればよい。
【0040】
また、図5(a)、(b)に示したヒール部50は、ヒール本体50aの高さが比較的高い女性用ハイヒールを対象としたものであったが、上述の通り、第4の実施形態に係る靴100では、ヒール部50は後靴部30Aに対して着脱可能な構成となっている。
図5(c)に示すように、ヒール本体50a1の高さが比較的低いヒール部50Aを、上述した手順で取り付けることにより、靴本体(前靴部20および後靴部30A)は同じであるが、高さの低い靴にできる。ヒール部50Aを用いて組み立てた靴100の斜視図を図5(d)に示す。
なお、ヒール本体50a1の高さが比較的低いヒール部50Aについては、ヒール本体50a1の上部端部は、ヒール本体50a1における他の部分と同程度の径を有するものにできる。つまり、ヒール本体50a1は拡径部を有しない構成とすることができ、この場合には、ベース部50b1の厚さも長手方向にほぼ均一なものにできる。
【0041】
ここで、ベース部50bおよびベース部50b1は、図5(a)〜(d)に示したように、長手方向の長さが靴本体の長さよりも短く構成されている。例えば、ヒール部50Aを取り付けたローヒールの状態で目的地まで移動し、目的地ではヒール部50を取り付けたハイヒールを装着したい場合があるが、ベース部50bの寸法をコンパクトにすることで、ヒール部50を携帯しやすくなる。また、高さの異なる複数のヒール部50(50A)を用意することで、靴本体は同じでありながら、高さの異なる靴100にできる。よって、高さの異なる一体型の靴を複数保管する場合と比較して、保管時の収納スペースが少なくてもよいという利点もある。
【0042】
<第5の実施形態>
以上の第4の実施形態はヒール部32の全体を着脱可能にしているが、本発明は、後靴部30Bに固定される第1ヒール部50Bに加えて、第1ヒール部50Bを貫通して着脱される第2ヒール部50Cを備える。図10を参照してこの例を説明する。
【0043】
後靴部30Bは、踵収容部31内に、第2ヒール部50Cが貫通する着脱孔37が形成される。着脱孔37は、下側から、第1ヒール部50B、踵収容部31の底面31a、前中敷23及び後中敷33を貫通して形成されている。着脱孔37は、上端から下端に向けて径が小さくなる円錐台形をなしている。
【0044】
第2ヒール部50Cは、着脱孔37に対応する側面を備えた円錐台形をなしている。第2ヒール部50Cの上端には、支持片50c1が固定されている。支持片50c1は、第2ヒール部50Cが後靴部30Bに装着されている際に、後中敷33の後端側に形成される凹部33aに嵌合されて、第2ヒール部50Cを後靴部30Bに支持され易くする。
【0045】
後靴部30Bは、ハイヒールとして用いる場合には、第2ヒール部50Cを着脱孔37に挿入する。一方、ローヒールとして用いる場合には、第2ヒール部50Cを取り外す。着脱孔37をそのままにして用いることもできるが、図11に示すように、第3ヒール部50Dを着脱孔37に挿入して栓をすることもできる。
【0046】
以上の第5の実施形態によれば、着脱自在な第2ヒール部50Cを一つ用意するだけで、二つの異なるヒール高さの靴を実現できる。
【0047】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1,100…靴
20…前靴部
21…つま先収容部(つま先部)、22…靴底部、23…前中敷、24…第1ファスナ部材、25…後端部
30,30A…後靴部
31,310…踵収容部、31a,310a…底面、310b…ヒール部着脱路、32…ヒール部、33,330…後中敷、33a…凹部、34…第2ファスナ部材、35,350…収容ポケット
41,42…ホック、45,46…ジョイントパーツ
50,50A,50B,50C…ヒール部
50a,50a1…ヒール本体、50c…拡径部、50b,50b1…ベース部、50c1…支持片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
つま先部を含む前靴部とヒール部を含む後靴部とからなり、
前記前靴部に一体的に設けられる前中敷と、
前記後靴部に一体的に設けられる後中敷と、
前記後中敷と前記ヒール部との間に前記前中敷を収容する収容ポケットと、を有し、
前記前靴部と前記後靴部は互いに分離可能であり、
前記前中敷の表面が前記後中敷の裏面に接する状態で、前記前中敷の後端が前記収容ポケットに収容されることを特徴とする分離可能な靴。
【請求項2】
前記前靴部と前記後靴部は、面状ファスナにより結合され、
前記面状ファスナは、
前記前中敷の前記表面の前記つま先部近傍に設けられる第1ファスナ部材と、
前記後中敷の前記裏面であって前記第1ファスナ部材と対応する位置に設けられる第2ファスナ部材とからなることを特徴とする請求項1に記載の分離可能な靴。
【請求項3】
前記前靴部と前記後靴部は、前記靴の側面に設けられ、その一部が外側に露出した留め具によって結合されることを特徴とする請求項1に記載の分離可能な靴。
【請求項4】
前記前靴部と前記後靴部は、
ジョイントパーツにより結合され、
前記ジョイントパーツは、一端側が前記前靴部に、他端側が前記後靴部に各々留め具により固定されることを特徴とする請求項1に記載の分離可能な靴。
【請求項5】
前記ヒール部は、前記後靴部に形成されるヒール部着脱路を貫通させることにより交換可能であることを特徴とする請求項1に記載の分離可能な靴。
【請求項6】
前記ヒール部は、
前記後靴部に固定されるヒール本体と、
前記ヒール本体に着脱可能なヒール高さ変更部材とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の分離可能な靴。
【請求項7】
前記ヒール高さ変更部材は、前記ヒール本体に形成される着脱路を貫通して、前記ヒール本体に着脱自在に設けられることを特徴とする請求項6に記載の分離可能な靴。
【請求項8】
互いに組み合わされることで靴を構成する第1分離体と第2分離体とを備えた靴であって、
前記第1分離体は、足底が載置される第1中敷と、前記第1中敷の一端が結合されるとともに足の踵を収容する踵収容部と、前記踵収容部から延びるヒール部と、を備え、
前記第2分離体は、前記第1中敷と接して配置される第2中敷と、前記第2中敷の一端が結合されるとともに足の甲を収容する甲収容部とを備えるとともに、
前記第1中敷と前記踵収容部との間に、前記第2中敷の一端を収容する中敷収容部を備えたことを特徴とする分離可能な靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−115400(P2011−115400A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275785(P2009−275785)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(509326762)
【Fターム(参考)】