説明

分離固定面を備えた軟質充填プロテーゼシェル

組織接着のための分離した固定面を有する、シリコーンインプラントシェルのような軟質プロテーゼインプラントシェル。固定面は、シェルの後面、ならびに周囲または前面の分離した領域に配置され得る。帯状固定面は、シェルの前面に、通常大胸筋または小胸筋の角度にあわせて配置され得る。固定面は、シェルの粗雑化された領域であり得、またはシェルに接着した分離構成要素であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年8月13日に出願された米国仮特許出願61/088,427号の利益を主張するものであり、この特許出願の全開示を具体的な参照により本願明細書に組み込むものとする。
【0002】
本発明は、軟質人工装具インプラント、とりわけ、そのようなインプラント(例えば乳房インプラント)の加工された外表面に関する。
【背景技術】
【0003】
移植型プロテーゼは、体内組織の置換または増強のために一般的に使用されている。乳ガンにおいては、乳腺およびその周辺組織の一部または全てを除去することが必要な場合があり、それは移植型プロテーゼで満たし得る空間を作り出す。インプラントは、周辺組織を支え、身体の外観を維持する働きをする。身体の正常な外観の復元は、術後の患者に極めて有益な心理的効果を有し、大規模な外科手術後にしばしば起こるショックや落ち込みの多くを取り除く。また、移植型プロテーゼは、臀部、顎、ふくらはぎなどの身体の様々な領域の軟組織の正常な外観を復元するためにも、より一般的に使用されている。
【0004】
軟質移植型プロテーゼは、通常、比較的薄く非常に柔軟な外膜または加硫(硬化)シリコーンエラストマー製のシェルを含む。該シェルはシリコーンゲルまたは生理食塩水のいずれかにより満たされている。シェルの充填は、患者を切開してシェルを挿入する前または挿入後に行う。
【0005】
米国においては、女性は、乳房インプラントの2つの異なるタイプのシェル表面(滑らかな表面および加工された表面)のどちらかを選択し得る。外科医は、通常、彼らの技術に基づいて表面のタイプを推薦し、各患者の要求に最も沿うように選択する乳房インプラントの形状を推薦する。
【0006】
乳房インプラントには合併症がないわけではなく、その1つは被膜拘縮と呼ばれる。これは、インプラントの周辺に形成した繊維性外膜の収縮が生じる合併症であり、インプラントを球状の硬化した審美的に望ましくない状態にする傾向がある。米国食品医薬品局(FDA)のBreast Implant Consumer Handbook、2004年によると、この文献は、加工表面乳房インプラントが被膜拘縮率を減少させ得ることを示す。
【0007】
微細構造化は、種々の方法で行い得る。加工されたポリウレタンフォームの薄層により被覆されたシリコーンゲル乳房インプラントは、その繊維性被膜拘縮の初期発生に対する顕著な耐性により、1980年代に多大な人気を得た。
【0008】
円形の食塩結晶を用いた加工表面インプラントの製造方法は、Pawell等により2008年10月30日に出願された米国特許出願第12/261,939号に記載され、軟質プロテーゼシェル加工法と題されている。この文献の全開示を具体的な参照により本願明細書に組み込むものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第12/261,939号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】米国食品医薬品局(FDA)、Breast Implant Consumer Handbook、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
軟質人工インプラントシェルの構造における多くの進歩にもかかわらず、被膜拘縮を誘発することなく、同時に滑らかなインプラントの利点を全く失うことなく、接着性を強化するために(特に成形した装具に対して)その外部表面を加工するためのより良い方法に対する要求が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、人の移植用に適したプロテーゼ、例えば、人の乳房の再建または豊胸における使用に適した乳房インプラントを提供する。該プロテーゼは、通常、組織内殖または接着を促進および/または制御するために分離した固定面を含む、例えばシリコーンエラストマーシェルのような軟質人工インプラントシェルを含んでなる。該プロテーゼは、さらに、シェルにより包み込まれたコア(例えばゲルコア)を含んでなる。または、該シェルは、人にプロテーゼを移植した後に、例えば生理食塩水により満たされるのに適した構造であってよい。
【0013】
本発明の1つの態様によれば、固定面は、微細構造、粗雑感または光沢を有していない他の同様の表面と比較して、組織内殖または接着性を促進および/または制御する微細構造、粗雑感または光沢を有するシェルの外面である。
【0014】
本発明の1つの実施態様において、固定部位は、体内に移植後のプロテーゼが人体とともにより自然に動くよう、例えば、身体の筋肉と比較的調和して動くよう、配置または設置される。人体とともにインプラントがより自然に動くため、本発明のインプラントは、そのような固定部位を有さない従来のインプラントと比較して、材料応力により摩耗する傾向を低くし得る。
【0015】
より具体的には、固定面(これより後、固定領域という場合がある)を、シェルの前面、すなわち、インプラントが人体に適当に移植された場合に人体の前側に面するシェルの面の特定の領域に配置してよい。それに代えて、またはそれに加えて、1つ以上の分離した表面をシェルの周辺(例えば周囲)および/またはシェルの後面、すなわち、インプラントが人体に適当に移植された場合に人体の後側に面するシェルの面に配置してよい。
【0016】
さらに具体的な本発明の態様において固定領域は、シェルの前面に配置された少なくとも1つの細長い領域を含んでなる。この少なくとも1つの細長い領域は、例えば、帯状の領域であってもよく、または増強した微細構造、粗雑感または光沢を有する複数の帯状領域であってもよい。
【0017】
インプラントを体内に移植する際、人体の大胸筋群または小胸筋群の1つと一直線に並ぶように、細長い固定領域を配置し得る。例えば、本発明の1つの実施態様において、少なくとも1つのこの細長い領域は、インプラントが体内に移植された際に大胸筋群と一直線に並ぶように、対角線上に配置された帯状領域を含んでなる。他の実施態様において、少なくとも1つの固定領域は、インプラントが体内に移植される小胸筋群の位置決めを概してまねた放射状配置において複数の細長い領域を含んでなる。
【0018】
本発明の別の広い態様において、プロテーゼは第1テクスチャーおよび第1テクスチャーとは異なる第2テクスチャーを有するシェル表面の残領域を有する固定領域を含むシェルを有する乳房インプラントを含んでなる。言い換えると、本発明のいくつかの実施態様において、乳房インプラントのシェルの全外側または実質的に全外側は、加工表面以外の表面と比較して高い微細構造加工度を有する特定領域を備えた加工表面である。
【0019】
そのような異なる微細構造化は、異なる固定領域において異なる組織内殖または接着の度合いを刺激または促進すると考えられる。例えば、1つの実施態様において、第1固定領域はインプラントの後面に位置し、第2固定領域はインプラントの前面に位置する。第1固定領域は、組織相互作用および接着をより促す微細構造により定義されてよく、一方、第2固定領域は、組織相互作用および接着を相対的に促さない微細構造により定義されてよい。
【0020】
さらに別の実施態様において、プロテーゼは、組織と接触するために構造化された外側を有するシェル(該シェルは、第1オープンセル構造を有する第1固定面、および第1オープンセル構造とは異なる第2オープンセル構造を有する第2固定面を含んでなる)を含んでなる。さらに、第1固定面および第2固定面は、身体とシェルとの接着部分において、体内でそれぞれ異なる度合いの組織内殖または組織接着を促すように配置される。
【0021】
例えば、第1オープンセル構造は比較的大きなオープンセルを含み、第2オープンセル構造は比較的小さなオープンセルを含む。それに代えて、またはそれに加えて、第1オープンセル構造は、第1セル分布を含んでいてよく、かつ、第2オープンセル構造は第2セル分布を含んでいてよい(第1セル分布は第2セル分布より比較的高密度である)。
【0022】
さらに別の特定の態様において、第1オープンセル構造は比較的大きな円形のオープンセルを含んでなり、第2オープンセル構造は比較的小さな円形のオープンセルを含んでなる。あるいは、第1オープンセル構造は比較的円形のオープンセルを含んでなり、第2オープンセル構造は比較的角張ったオープンセルを含んでなる。
【0023】
特定の実施態様によれば、有利には、プロテーゼを体内に移植した後、プロテーゼについて、被膜組織形成を中断または混乱させるのに少なくともいくらかは効果的であるように第1および第2固定面を配置または構造化する。
【0024】
本発明は、さらに人の移植用乳房インプラントシェルを提供する。該シェルは、シェル前駆体を供給し、シェル前駆体にシリコーンエラストマーを適用し、層が完全に硬化する前に第1構造の固体粒子をシリコーンエラストマー層の一部に適用し、第2構造の固体粒子をシリコーンエラストマー層の別の一部に適用する工程により製造される。それらの中に組み込まれた固体粒子を含む層が硬化した後、例えば、シリコーンエラストマーを感知し得る量溶解しない溶剤により固体粒子を溶解する。得られるエラストマーシェルは、第1構造の固体粒子の前記適用により形成された第1オープンセルテクスチャー領域、および第2構造の固体粒子の前記適用により形成された第2オープンセルテクスチャー領域を含む。
【0025】
本発明の特質および効果のさらなる理解は、以下の記載および特許請求の範囲で、特に類似部分が類似の参照番号を有する添付図面と合わせて考察する場合になされる。
【0026】
本発明の特徴および効果は、明細書、特許請求の範囲および添付図面を参照することにより正しく認識され、またより理解されるであろう。図は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1A、図1Bは、後方および周囲固定面を有する本発明の典型的な円形乳房インプラントの正面図または側面図である。
【図2】図2A、図2Bは、後方および周囲固定面を有する本発明の典型的な成形乳房インプラントの正面図または側面図である。
【図3】図3Aおよび図3Bは、それぞれ、片側の大胸筋または小胸筋を示す女性の上胴の概略図である。
【図4】図4Aおよび図4Bは、それぞれ、乳房インプラントの乳腺下配置(subglandular placement)および胸筋下配置(submuscular placement)を示す女性の乳房および隣接する胸部組織の垂直断面図である。
【図5】図5Aおよび図5Bは、後方および周囲固定面および前面帯状固定面を有する本発明の典型的な円形乳房インプラントの正面図または側面図である。
【図6】図6Aおよび図6Bは、後方および周囲固定面および前面帯状固定面を有する本発明の典型的な成形乳房インプラントの正面図または側面図である。
【図7】図7は、第1テクスチャーを有する第1固定領域および第1テクスチャーとは異なる第2テクスチャーを有する第2固定領域を含む、本発明による別の乳房インプラントの正面図である。
【図8】図8Aおよび図8Bは、互いに異なる前面テクスチャーおよび後面テクスチャーを有する、本発明の典型的な円形乳房インプラントの正面図または背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、外部に固定面を有する、生理食塩水またはゲル充填軟質インプラントシェル、好ましくはシリコーンエラストマーシェルを提供する。そのような軟質インプラントの第1の用途は、女性の乳房を再建または豊胸することである。別の潜在的用途は、他の部位の中でも、臀部、睾丸またはふくらはぎ用のインプラントである。
【0029】
用語「固定面」は、組織内殖または接着を促進するのに適したインプラントシェルの外側の表面のことをいう。固定面は、インプラントシェルの滑らかなまたは加工度の低い他の領域と比較して、粗くまたはざらざらした領域であってよい。例えば、加工表面は塩除去法により、例えばAllergan BIOCELL(登録商標)表面により形成さてよい。固定面の他の構造は、例えばインプラントの外側に接着したパッチやフィルムのような加工された分離構成要素、ならびに成形法により形成された粗面特性を含む。1つの典型的な方法は、インプラントシェルを形成するモールドの内部表面を粗面化する方法である。別の方法は、インプラントの形成後にインプラントの外面を粗面化する方法である。本発明は、1つ以上のこれらの技術による特定の利点があり得るが、微細構造または固定面のいかなる特定のタイプにも限定して理解されるべきでない。
【0030】
従来の乳房インプラントは、全て滑らかなシェルまたは全て加工されたシェルのいずれかで形成されていた。いくつかの先行技術は、胸壁に対する接着を促進するために、インプラントの前面または後面に加工表面を配置することを記載する。今まで、先行技術に、乳房インプラントの周辺または前面に分離した固定面の特定の配置は記載されていない。本発明は複数の異なる構造を例示しているが、当業者は別の形態および配置が可能であること、および本発明が添付の特許請求の範囲に限定されるべきでないことを理解するであろう。
【0031】
図1Aおよび図1Bは、一般的に、後部または後面22および周辺24固定面を除き滑らかな外面を有する、本発明の典型的な円形乳房インプラント20の正面図および側面図である。または、インプラントの外面は固定面22、24の他に、例えば微細加工またはつや消し仕上げ、あるいは滑らかな領域および加工度の低い領域の組み合わせのような、加工度の低い領域を有していてよい。実際に、固定面22、24自体は、異なる微細構造加工度を有していてよい。この実施態様において、固定面22、24は点刻により例示され、それらは塩除去法または粗面モールドに由来する粗雑さを表す。当然、固定面22、24を他の手段、例えば、インプラント20に接着した分離素材や泡層により形成してもよい。インプラントの直径Dおよび前−後面厚Tが示されており、これらは患者の胸のサイズおよび美的考慮により変化する。
【0032】
望ましくは、後方固定面22は、インプラント20の頂端26または凸状の外周の母線まで延びている。周囲固定面24は、インプラントの前面または正面の周囲に、前方に短距離Sで延びている。好ましい実施態様において、この距離Sは、前−後面厚Tの約10〜30%である。好ましくは、周囲固定面24は、完全にインプラント20の外周の周りに延びており、それにより、円形インプラント20のレンダリングは完全に軸対称である。しかしながら、周囲固定面24は、インプラントの周辺の一部のみの周囲に延びるよう短縮されてよく(例えば下半分または上半分)、あるいは隔てられた区分に分割されてもよい。1つの実施態様において、周囲固定面24は、交互に滑らかな領域と加工領域とを生じる等しく隔てられた区分に分割され、それによりインプラント20は実質的に軸対称となり、外科医はいかなる特定のインプラントの方向性にも悩む必要がない。
【0033】
図2Aおよび図2Bは、自然な乳房を模した下位正面ローブ32を有する本発明の成形乳房インプラントを例示する。インプラント30は、図1Aおよび図1Bの実施態様のような後方固定面34および周囲固定面36を含む。インプラントの幅W、高さHおよび前−後面厚Tを示す。前面突出部が円形の場合、W=Hであり、そうでなければWはHより大きいかHより小さくてよい。自然な形を提供する場合、インプラント30は適切な方向性を有する。すなわち、下方中心に下位ローブ32を有する。これにより、周囲固定面36は、インプラントの周囲を完全に囲むように延びていてよく、または分離した部位に形成されていてもよく、インプラントの自然な形に対して配置されていてもよい。例えば、周囲固定面36は、インプラントの下部または下半分の周囲にのみ形成されていてよく、または側面にのみ形成されていてよい。したがって、その自然な形に基づくインプラント30の適切な配置は、同時に分離固定面を適切に配置するであろう。
【0034】
図3Aは、片側の大胸筋群の配置を概略的に示す女性の上胴を例示し、図3Bは、小胸筋群を例示する。これら2つの大部分の群は互いに重なり、通常肩または鎖骨領域から乳房下の胸郭にまで広がる。これらの筋肉の拡張と収縮は極めて重要であり、備わった動きであり、それにより乳房下の領域は、これらの筋群の線に沿って大いに伸び縮みする。以下に説明するように、本発明の1つの実施態様は、これらの筋群に同調する固定面を提供するものである。インプラントと主要な胸筋とが接触する点または接触する線は、他の領域に比べて大きく動くため、該筋肉と一致するまたは同調する固定面はよりしっかりと固定された状態を保ちやすい(すなわち、それらは筋肉とともに動く)。これに対して、筋群から離れた固定面は、隣接する筋肉からより大きな剪断力にさらされ得る。
【0035】
図4Aは、乳房インプラント40の乳腺下配置を示す女性の乳房および隣接する胸部組織の垂直断面図である。インプラント40は、大胸筋群42の上面に位置し、同様に小胸筋群44を覆う。複数の肋骨50が示されている胸筋48も、小胸筋44の下に示される。図4Bは図4Aと同様の垂直断面図であるが、大胸筋群42下のインプラント40の胸筋下配置を示す垂直断面図である。主に外科医の臨床的判断によりこれら2つのインプラント配置は用いられ、患者と外科医との対話および所望する結果に影響される場合がある。インプラント配置によって、インプラント40は1つまたは両方の筋群と接触する。
【0036】
図5Aおよび図5Bは、後方固定面62、周囲固定面64および前面帯状固定面66を有する本発明の典型的な円形乳房インプラント60の正面図または側面図である。帯状固定面66は、通常、斜め方向に沿って延び、周囲固定面64の前面の縁で始まる。例示される実施態様、固定面66は、図5Aの正面図からわかるように一定の幅Wを有する。1つの実施例において、幅Wは約2〜15mmである。あるいは、固定面66の正面図は、定幅以外であってもよく、非線形の境界であってもよい。
【0037】
好ましい実施態様において、帯状固定面66は通常、大胸筋群または小胸筋群のいずれかにより正しい方向に配置される。例えば、インプラント60が図4Bにおける場合のように胸筋下配置を予定している場合、固定面66は通常、図3Aに示すような大胸筋群と一直線に並ぶよう配置され得る。あるいは、固定面66が配置される角度は、大胸筋群および小胸筋群の大まかな平均角度であってよい。このように、インプラント60は、インプラントの主な応力ラインに沿って組織内殖または接着を促進するための固定面66を有する。好ましくは、固定面66は、インプラント60の垂直面に対して約30〜60°の角度になる。当然、インプラント60が図のように円形である場合、固定面66自体がその配置を定める。1つの実施態様において、帯状固定面66は、インプラント60のほぼ中心に集中し、それにより180°離れた2つの対称的な配置を作り出す。この配置は、外科医に対して2つの潜在的な配置を提供することにより移植を容易にする。
【0038】
帯状固定面66は、後方固定面62または周囲固定面64と異なる構成を有するものとして示される。この点において、ここで記載される種々の固定面はいずれも、同じ方法または異なる技術を用いて形成し得る。例えば、固定面62、64は、インプラントシェルにおいて加工されていてよいが、帯状固定面66は、インプラントの前面に接着したパッチやフィルムなどの分離構成要素である。読者は、種々の固定面封入体、配置および型の全組み合わせが考慮されることを理解するであろう。同様に、これらの全潜在的組み合わせは、図のような、または図示されていない種々の円形または成形インプラントを供給し得る。例えば、固定面は、他の部位の中でも臀部、睾丸またはふくらはぎ用のインプラントとして有用であり得、またこれらの部位において筋群に沿って整列していてよい。
【0039】
図6Aおよび図6Bは、典型的な本発明の成形乳房インプラント70を示す。インプラント70は、後方固定面72、周囲固定面74、および複数の帯状固定面76a、76b、76cを特徴とする。これらの分離した固定面76a、76b、76cは、望ましくは1つ以上の上述した筋群を模している。例えば、3つの固定面76a、76b、76cは、通常、扇状の小胸筋に対して配置される。成形インプラント70は配置特異性であるため、インプラントの適切な配置は、特定の筋群により固定面76a、76b、76cを自動的に適切な位置に配置する。上述したように、種々の固定面72、74、76a、76b、および76cは同レベルの粗雑さで形成されてもよく、またはいくつかは、例えば艶消し仕上げのように加工の程度を抑えていてもよい。例えば、後方および周囲固定面72、74は微細な艶消し仕上げであり得、一方、前面固定面76a、76b、76cはより高密度に加工される。本発明は、微細構造選択の全ての置換を意図する。
【0040】
横断面において、本発明の加工インプラントシェルは単層または多層であり得る。加工インプラントシェル壁の全厚は、追加される微細構造層のため、類似する滑らかな壁のシェルよりいくらか厚くなり得る。
【0041】
図7をみてみると、本発明の別の乳房インプラントの正面図が(概して110で)示されている。インプラント110は、第1テクスチャー116を有する第1固定領域114と、第1テクスチャー116とは異なる第2テクスチャー122を有する第2固定領域118を含む外面を有するシェル112を含む。例示する実施態様において、第1テクスチャー116は、第2テクスチャーよりもより「強い(aggressive)」微細構造である。第1テクスチャー116は第2テクスチャーよりも高い組織相互作用を促進するために構造化されている。
【0042】
第2テクスチャー122のかわりに、第2固定領域118、およびことによるとシェル112の外面の全残領域が低光沢面(例えば艶消し仕上げ)であってよく、それは低加工面の組織内殖よりも低い組織相互作用を促すと考えられる。
【0043】
図8Aおよび図8Bをみてみると、それぞれ、本発明の別の乳房インプラントの前面(正面)図および後面(背面)図が(概して210)で示されている。インプラント210は、前面212aと後面212bを有し、かつ第1テクスチャー216を有する第1固定領域214と、第1テクスチャー216とは異なる第2固定領域218を有するシェル212を含む。例示した実施態様において、第1テクスチャー216はインプラント210の前面212a全体を、または実質的に全体を包含しうる。第1テクスチャー216は、第2テクスチャーよりも比較的低密度の細孔、隙間または空洞の分布により定められる。インプラント210の後面221b全体を、または実質的に全体を包含し得る第2テクスチャー222は、第1テクスチャー216よりも高い度合いの組織相互作用および接着を促進するために構造化されている。
【0044】
シェル112および212は、シェル前駆体を供給する工程;シェル前駆体にシリコーンエラストマーの層を適用する工程;層が完全に効果する前に、シリコーンエラストマーの層の一部に第1構造の固体粒子を適用し、シリコーンエラストマーの別の一部に第2構造の固体粒子を適用する工程を含む本発明の方法により製造し得る。その中に組み込まれた固体粒子を含む層が硬化した後、例えばシリコーンエラストマーを感知し得る量溶解しない溶剤により、固体粒子を溶解する。得られるエラストマーシェルは、第1構造の固体粒子の前記適用により形成された第1オープンセルテクスチャー領域と、第2構造の固体粒子の前記適用により形成された第2オープンセルテクスチャー領域を含む。
【0045】
移植型プロテーゼ用の軟質インプラントシェルの製造方法は、シリコーンエラストマー分散体に適当に成形したマンドレルを浸すことを含む。多くのそのような分散体はこの分野において使用されている。基本的にそれらはシリコーンエラストマーおよび溶剤を含有する。典型的なシリコーンエラストマーは、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニル−シロキサンまたはこれら2つのいくつかの組み合わせである。典型的な溶剤には、キシレンまたは1,1,1−トリクロロエタンが含まれる。様々な製造業者が、分散体の成分の種類や量、分散体の粘度および分散体の固形分を変えている。それにもかかわらず、本発明は、多種多様なシリコーンゴム分散体により有用性を有するために適合し得るはずである。
【0046】
マンドレルを分散体から取り出し、過剰なシリコーンエラストマー分散体をマンドレルから排出させ得る。過剰な分散体をマンドレルから排出した後、溶剤の少なくとも一部を揮発または蒸発させ得る。通常これは、制御された温度下および湿度下で被覆したマンドレルに空気を流すことにより成し遂げられる。様々な製造業者が、様々な気流の量、速度、向きを使用し、種々の値で空気の温度および湿度を設定する。しかしながら、所望する結果(溶剤を除去すること)は同じである。
【0047】
また、所望するシェルの厚みにするため、複数の層をマンドレル上に構築するために何度もこの浸漬および揮発手順を繰り返すことは、プロテーゼ製造業者にとって一般的である。最新のシリコーンエラストマーシェルの様な層状構造は、異なる分散体にマンドレルを連続して浸すことにより製造してもよい。あるいは、最終製品が単一の均質物質または層となるよう、この工程を単独の分散体において繰り返してもよい。すなわち、浸漬工程は、多段階または多工程、原料をさらに付加する各工程において行ってもよいが、それにもかかわらず、最終製品は明確な層を示さず、かつ全てのシェル壁が均質組成または均一組成である。
【0048】
多層シェルまたは単層シェル上に固定面を形成する典型的な方法を以下に記載する。マンドレルを、そこへ付着する最終層となるべき層とともに分散体から引き上げた後、この層を安定化させることができる。すなわち、安定化は、最終コーティングがもはや自由に流出できなくなるまで行われる。これは、最終コーティングからいくらかの溶媒がその粘度を上昇させながら揮発する時起こる。
【0049】
さらに、微細構造化工程の前に軟質シェルを形成するために別法が考えられることを理解すべきである。該浸漬成形法は、浸漬マンドレル上にあらかじめ備えられた軟質シェルを有利にもたらし、その後微細構造化工程に使用し得る。しかしながら、軟質シェルが他の技法(例えば回転成形)により製造されている場合、軟質シェルをその後浸積マンドレル上に備え付けることができ、同じ方法で工程を継続し得る。
【0050】
軟質シェルを安定化し、マンドレル上に備え付けた時点で、シェルの外面の緩い繊維または粒子は帯電防止空気銃により吹き飛ばされる。タックコート層は噴霧されてもよいが、望ましくは、タックコート分散体中にマンドレル上の軟質シェルを浸漬することにより適用される。操作者は、分散体に軟質シェルを浸漬し、マンドレルを安定化のためラックに戻す。安定化に必要な時間は、通常5〜20分の間で変化する。適当なタックコート層は、望ましくはベース層において用いられるものと同じ材料を用いて作られる。
【0051】
この時点で、顆粒化固体粒子(すなわち塩結晶)を最終的に固定面となる外面の一部に適用する。固体粒子は、マンドレルを操作しながら表面上に手動で振りかけてもよく、または、マンドレル上のコーティングに適切な速さで絶え間なく固体粒子を供給するために、ビーズブラスターやサンドブラスターのような機械操作を用いてもよい。しかしながら、固体粒子の好ましい適用方法は、マンドレル/シェルを多数の固体粒子の中に浸す方法、または固体粒子の懸濁液にマンドレル/シェルをさらす方法である。所望する領域に対してのみ固体粒子が付着することを確保するよう注意を払わなければならないが、本発明が、1つの特定の粒子適用方法に限定されることを意図しないことは理解されるべきである。インプラントの全てではなくいくらかに固体粒子を適用する1つの考え得る方法は、他の領域を覆い隠す方法である。
【0052】
次いで、粘着性軟質シェルを、約10〜約600ミクロンの均一な立方晶系塩結晶または50〜2000ミクロンの円形結晶を含む流動(空気混合)水性塩浴に浸す。様々な程度の微細構造は、シェルの異なる領域上へ異なるサイズまたは形の塩顆粒(例えば円形塩結晶に対して角張った塩結晶、大きな塩結晶に対して小さな塩結晶、高密度分布の塩結晶に対して比較的低密度分布の塩結晶)を用いることにより、塩除去法により形成され得る。シェルを均一な被覆のために回転させ、取り除き、その後安定化させ得る。適当な期間(例えば5〜20分間)安定化した後、軟質シェルを上塗り分散体に浸してもよい。適当な上塗り分散体は、望ましくはベース層において用いられたものと同じ材料を用いて作られる。その後、マンドレル上の軟質シェルをラックに備え付け、例えば15分間揮発させることができる。
【0053】
全シリコーンエラストマーシェル構造を、上昇温度下のオーブンで加硫処理または硬化させる。好ましくは、硬化時間約20分〜約1時間40分に対して、オーブンの温度は、好ましくは約華氏200度〜約華氏350度に維持される。オーブンから取り出した後、マンドレル/シェルアセンブリを、固体粒子に対する溶剤に入れ、固体粒子を溶解することができる。この溶剤はシリコーンエラストマーの構造や品質には影響を及ぼさない。固体粒子が溶解したら、アセンブリを溶剤から取り出し、溶剤を蒸発させる。その後、シェルをマンドレルから剥ぎ取ることができる。この時点で、固体粒子に対する溶剤中にシェルを設置し、全固体粒子の完全な溶解を確保するため静かに攪拌することが好ましい。溶剤からシェルを取り除く際、溶剤を蒸発させる。
【0054】
固体粒子の溶解は、塩を適用したシェルの表面に空間を残す。適用時、固体粒子のいくつかは、溶剤により作用し得るように部分的にさらされる。これらのさらされる固体粒子は、溶剤が順に固体粒子を溶解するよう表面下の固体粒子に達するための経路も提供する。その結果が、シェルの外層におけるセルの相互接続した構造(そのいくつかは表面に開いている)である。このシェルは、マンドレルに接続した支持体部分で裂け目(該裂け目はその後パッチにより覆われる)を有する、シリコーンエラストマー製の薄い外壁を有する。
【0055】
上述した工程に従ってシェルを仕上げた後、完成乳房インプラントプロテーゼを製造するために必要となる工程は、他の製造業者により用いられる方法と同様である。第1に、浸漬成形工程により残った裂け目を、通常シリコーンゴムで作られた加硫されていないシートにより修繕する。その後、プロテーゼがシリコーンゲルで満たされるべき場合には、ゲルを加え、硬化し、充填プロテーゼを包装し、包装したプロテーゼを殺菌する。プロテーゼが生理食塩水で満たされるべき場合には、一方向弁を作り、取付け、必要であればプロテーゼを後硬化し、その後プロテーゼを洗浄し、包装し、殺菌する。ゲル充填嚢が生理食塩水により囲まれるようにシェルの内側に配置される複合乳房インプラントプロテーゼも製造し得る。
【0056】
前述の浸漬法に加えて、プロテーゼインプラント用の軟質シェルを、成形法を用いて形成し得る。例えば、Schuesslerによる米国特許第6,602,452号明細書(全開示を本明細書に組み込むものとする)に記載されるような回転成形法を用いることができる。外面へ微細構造を形成する方法は、シェルを成形した後に浸漬法を用いて行ってもよいが、別の方法はモールド内部を粗雑化することである。例えば、上述したような粗い領域を除いて、通常滑らかな内部表面を有するモールドは、分離した固定面を有するインプラントシェルを製造する。回転成形法は、完全なインプラントシェルを比較的少ない製造工程で形成し得るため、有利である。
【0057】
本発明をある程度詳細な事項により記載および例示したが、本発明の開示はほんの一例であり、以下にクレームするような本発明の範囲を逸脱することなく、一部の組み合わせおよび配置における多くの変更が当業者により採用され得ることは理解されるであろう。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図4A】

【図4B】

【図5A】

【図5B】

【図6A】

【図6B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の移植用乳房プロテーゼであって、該装具は組織に接触するために構造化された外部構造を有するシェルを含んでなり、該シェルは、第1オープンセル構造を有する第1固定面、および第1オープンセル構造とは異なる第2オープンセル構造を有する第2固定面を含み、
該第1固定面および第2固定面は、それぞれ、体とシェルとの接触部分において、体内で異なる組織内殖度または組織接着度を促すように配置されるプロテーゼ。
【請求項2】
第1固定面および第2固定面は、プロテーゼを体に移植した後、プロテーゼの被膜組織形成を中断または混乱させるよう効果的に配置される、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項3】
第1オープンセル構造が比較的大きなオープンセル構造であり、第2オープンセル構造が比較的小さいオープンセル構造である、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項4】
第1オープンセル構造は第1分布のセルを含んでなり、第2オープンセル構造は第2分布のセルを含んでなり、第1分布のセルが第2分布のセルよりもより高密度である、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項5】
第1オープンセル構造は、比較的大きな円形オープンセルを含んでなり、第2オープンセル構造は、比較的小さな円形オープンセルを含んでなる、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項6】
第1オープンセル構造は、比較的円形のオープンセルを含んでなり、第2オープンセル構造は、比較的角張ったオープンセルを含んでなる、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項7】
さらに、シェルに包み込まれたゲルコアを含んでなる請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項8】
体に移植後、シェルが生理食塩水により満たされ得る、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
人の移植用乳房プロテーゼであって、シェルが、
(a)シェル前駆体を供給する工程、
(b)シェル前駆体にシリコーンエラストマーの層を適用する工程、
(c)層が完全に硬化した後、シリコーンエラストマーの一部に第1構造の固体粒子を適用する工程、
(d)層が完全に硬化した後、シリコーンエラストマーの別の一部に、第1構造とは異なる第2構造の固体粒子を適用する工程、および
(e)層を完全に硬化させる工程、および
(f)シリコーンエラストマーを感知し得る量溶解しない溶剤により固体粒子を溶解することにより、第1構造の固体粒子の前記適用により形成された第1オープンセルテクスチャー領域および第2構造の固体粒子の前記適用により形成された第2オープンセルテクスチャー領域を有するエラストマーシェルを形成する工程
により製造されるプロテーゼ。
【請求項10】
体内で組織接着または内殖が、第2オープンセルテクスチャー領域とは異なる第1オープンセルテクスチャー領域に連動するよう構築される請求項9に記載のプロテーゼ。

【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2011−530381(P2011−530381A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523010(P2011−523010)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/042559
【国際公開番号】WO2010/019292
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】