説明

分離肺換気用ダブルルーメンチューブ

【課題】 単純な操作で確実に分離肺換気を行うことができ、かつ、手術中に器具のずれや脱落を防止する。
【解決手段】 ダブルルーメンチューブの最上流側に配置されたポート部材20、21は、それぞれ、最下流側に位置する共通ポート36と、共通ポート36と直線上に連なる第1ポート32と、共通ポート36、第1のポート32と、所定の角度を持って配置される第2ポート34と、3つのポートを連結する連結部分41と、軸39により連結部分41に回動自在に取り付けられたレバー38を有する。また、軸39に取り付けられ、レバー38とともに回動する弁機構40は、レバー38が第1の位置にあるときに、第1のポート32と共通ポート36とを連通させ、かつ、第2ポート34を閉鎖し、レバー38が第2の位置にあるときに、第2のポート34と共通ポート36を連通させ、かつ、第1ポート32を閉鎖させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離肺換気の際に使用するダブルルーメンチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
左右の肺を別々に換気する分離肺換気は、胸腔鏡補助下手術、胸部大動脈瘤人工血管置換術、食道癌根治術、肺切除術の片肺換気時において行われている。左右の肺を別々に換気するために、二重管の構造を有するダブルルーメンチューブや、気管支ブロッカーが使用される。
【0003】
ダブルルーメンチューブでは、非特許文献1に記載されているように、気管粘膜を損傷しにくいブロンコキャス(登録商標)がしばしば使用されている。
【0004】
気管支ブロッカーについては、特許文献1や特許文献2に開示されたような改良が提案されている。
【0005】
図11は、従来の分離肺換気用ダブルルーメンチューブの例を示す図である。図11に示す分離肺換気用ダブルルーメンチューブ(以下、単に「ダブルルーメンチューブ」と称する。)は、いわゆるブロンコキャス(登録商標)と称されるものである。
【0006】
図11に示すように、ダブルルーメンチューブ100は、ダブルルーメン式の管を備えた本体11と、本体11の上流側(図11における上側)に取り付けられ、本体11の2つの管を分岐させる分岐部材12と、分岐部材12のさらに上流側に取り付けられる2つのスリーブ部材13、14とを有する。
【0007】
本体の下流側には、後述するように膨張することで気管を閉鎖する気管用カフ15と、さらにその下流側に、前記本体11の一方の管と連通し、右肺に麻酔ガスや空気等を供給し、或いは、右肺内を脱気するための右肺用開口部17と、さらに下流側に延びる左気管支延長部18と、を有している。
【0008】
左気管支延長部18には、膨張することで左の気管支を閉鎖する気管支用カフ16と、最先端に左肺に麻酔ガスや空気等を供給し、或いは、左肺を脱気するための左肺用開口部19とが設けられている。
【0009】
さらに、スリーブ部材13、14の上流側先端には、それぞれ、3つの入出力ポートを有するポート部材220、221が取り付けられる。ポート部材220、221において、最上流(図11における上側)のそれぞれの開口には当該開口を閉じるための蓋体223、224が設けられている。また、ポート部材220、221において垂直方向に延びるポート225、226は、弾性変形可能な材料で形成される、したがって、クランプ(図示せず)で、破線部分を挟むことで、当該ポート225、226を閉鎖することができる。
【0010】
図11に示すダブルルーメンチューブ100においては、右肺用開口部17とポート部材221とが連通し、左肺用開口部19とポート部材220とが連通している。
【0011】
ポート部材220、221のそれぞれから垂直に延びる垂直ポート225、226の先端には、チューブ(図示せず)がそれぞれ連結される。これらチューブは、麻酔ガスを供給する麻酔ガス供給装置および人工呼吸器と連結される。
【0012】
本体11からは、気管支用カフ16と連通する第1のインフレーションライン22が延び、第1のインフレーションライン22の端部には、一方弁が先端に取り付けられた第1のパイロットバルーン24が連結される。
【0013】
また、本体11からは、気管用カフ15と連通する第2のインフレーションライン23が延び、第2のインフレーションライン23の端部には、一方弁が先端に取り付けられた第2のパイロットバルーン25が連結される。パイロットバルーン25、26を、医師が押圧操作することにより、第1のインフレーションライン22および第2のインフレーションラインをそれぞれ空気が通過して、気管支用カフ16および気管用カフ15のそれぞれが膨張する。
【0014】
分離肺換気を行うために、ダブルルーメンチューブ100は、医師により気管に挿管される。気管用カフ15が気管の所定の位置に達し、かつ、気管支用カフ16が、左気管支の所定の位置に達した状態で、パイロットバルーン24、25を押圧操作することにより、気管支用カフ16および気管用カフ15は膨張する。
【0015】
気管支用カフ16が膨張することにより、左気管支は閉鎖され、左肺には、左肺用開口部19を介して、空気等が供給されることになる。その一方、気管用カフ15および気管支用カフ16が膨張することにより、気管および左気管支も閉鎖され、右肺には、右肺用開口部17を介して、空気等が供給されるようになる。
【0016】
従来のダブルルーメンチューブ100において、一方の肺の換気を止めて肺をしぼませる場合について説明する。右肺だけを換気して、左肺をしぼませる場合には、左気管支と連通するポート部材220の垂直ポート225を、クランプ(図示せず)により閉鎖する。次いで、ポート部材220の上部に配置された蓋223を開けることで、左肺の空気を排出する。これにより左肺をしぼませることができる。
【0017】
医師が、蓋223を閉じ、かつ、クランプを取り外すことで、左肺が再び換気される。
【0018】
右肺の場合には、右肺用のポート部材221について同様の操作が施される。
【非特許文献1】日本救急医学会・医学用語解説集「分離肺換気」、有限責任中間法人日本救急医学会ホームページ、[on line]、2007年2月、[平成19年11月6日検索]、インターネット<URL:http://www.jaam.jp/html/report/dictionary/word/0419.htm>
【特許文献1】特開2004−154268号公報
【特許文献2】特開2002−113101号公報号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来のダブルルーメンチューブを使用する場合には、医師がポート部材220、221の蓋223、224の開閉、クランプを用いたポート部材220、221の垂直ポート225、226の閉鎖を伴う。つまり、蓋の閉鎖およびクランプによる垂直ポートの閉鎖という二つの行為をほぼ同時に行わなければならない。
【0020】
また、クランプは、重くかつ大きいため、手術中にクランプが垂直ポート225、226を閉鎖している状態では、クランプの重量によってダブルルーメンチューブの位置がずれてしまう恐れがある。さらに、クランプが大きいため、医師や看護師が、クランプに触れてしまい、クランプが脱落してしまう可能性もある。
【0021】
本発明は、医師が単純な操作で確実に分離肺換気を行うことができ、かつ、手術中に器具のずれや脱落を防止することが可能な分離肺換気用ダブルルーメンチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、ダブルルーメン式の2つの管を備えた本体と、
前記本体の上流側端部に取り付けられ、前記本体の2つの管を分岐させる分岐部材と、
分岐部材のさらに上流側に取り付けられる、3つの入出力ポートを備えた2つのポート部材と、
前記本体の下流側に取り付けられた、気管を閉鎖する気管用カフと、
前記気管用カフの下流側に位置し、前記本体の一方の管と連通し、一方の肺に麻酔ガスや空気を供給し、また、当該一方の肺内を脱気するための第1の開口部と、
前記第1の開口部からさらに下流側に延びる延長部であって、膨張することにより他の肺に繋がる気管支を閉鎖する気管支用カフ、および、下流側の最先端に位置し、当該他の肺に麻酔ガスや空気を供給し、また、当該他の肺を脱気するための第2の開口部を有する延長部と、
前記気管用カフに空気を供給する第1の空気供給部材と、
前記気管支用カフに空気を供給する第2の空気供給部材と、を備えたダブルルーメンチューブであって、
前記ポート部材が、それぞれ、
最下流側に位置する共通ポートと、
前記共通ポートと直線上に連なる第1のポートと、
前記共通ポートおよび第1のポートと、所定の角度を持って配置される第2のポートと、
前記第1のポート、第2のポートおよび共通ポートとを連結する連結部と、
軸により、前記連結部に回動自在に取り付けられたレバーと、
前記軸に取り付けられ、前記レバーの回動に伴って回動する弁機構であって、前記レバーが所定の第1の位置にあるときに、前記第1のポートと前記共通ポートを連通させ、かつ、第2ポートを閉鎖し、前記レバーが所定の第2の位置にあるときに、前記第2のポートと前記共通ポートを連通させ、かつ、第1ポートを閉鎖させる弁機構と、を有することを特徴とする分離肺換気用ダブルルーメンチューブにより達成される。
【0023】
好ましい実施態様においては、前記第2のポートが、前記第1のポートおよび前記共通ポートと直交するように配置され、
前記レバーが、前記第1のポートおよび共通ポートと平行な第1の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第2のポートを閉鎖して、前記第1のポートと共通ポートとを連通させ、かつ、
前記レバーが、前記第2のポートの方向に向いた第2の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第1のポートを閉鎖して、前記第2のポートと共通ポートとを連通させる。
【0024】
より好ましい実施態様においては、前記弁機構が、前記連結部分の内壁と整合する円弧状の断面形状の外壁を有し、前記第1のポート或いは第2のポートのいずれかを閉鎖する遮断部材を有する。
【0025】
別の好ましい実施態様においては、前記第2のポートが、前記第1のポートと鋭角をなすように配置され、
前記レバーが、前記第1のポートの方向を向いた第1の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第2のポートを閉鎖して、前記第1のポートと共通ポートとを連通させ、かつ、
前記レバーが、前記第2のポートの方向に向いた第2の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第1のポートを閉鎖して、前記第2のポートと共通ポートとを連通させる。
【0026】
より好ましい実施態様においては、前記弁機構が、
前記レバーが前記第1の位置にあるときに、前記第1のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成し、その一方、前記レバーが前記第2の位置にあるときに、前記第1のポートを遮断するとともに、前記第2のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成する第1の遮断部と、
前記レバーが前記第1の位置にあるときに、前記第2のポートを遮断するとともに、前記第1のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成し、その一方、前記レバーが前記第2の位置にあるときに、前記第2のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成する第2の遮断部と、を有する。
【0027】
別の好ましい実施態様においては、前記連結部分の外壁に、前記第1の位置および第2の位置により画定される範囲を超えて前記レバーが回動することを規制する2つの突起が形成される。
【0028】
さらに別の好ましい実施態様においては、前記連結部材の内部に、前記レバーおよび当該レバーの軸と連結された円弧部を有し、前記円弧部の時計方向の端部は、前記レバーが前記第1の位置にあるときに、前記連結部分に固定された第1の突起50と当接し、前記円弧部の半時計方向の端部は、前記レバーが前記第2の位置にあるときに、前記連結部分に固定された他の突起と当接するように構成される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、医師が単純な操作で確実に分離肺換気を行うことができ、かつ、手術中に器具のずれや脱落を防止することが可能な分離肺換気用ダブルルーメンチューブを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる分離肺換気用ダブルルーメンチューブの構成例を示す斜視図である。なお、本明細書において、人工呼吸器や麻酔装置に接続される側を上流側、気管、気管支に挿入される側を下流側と称する。
【0031】
図1に示すように、ダブルルーメンチューブは、ダブルルーメン式の管を備えた本体11と、本体11の上流側に取り付けられ、本体11の2つの管を分岐させる分岐部材12と、分岐部材12のさらに上流側に取り付けられる2つのスリーブ部材13、14とを有する。
【0032】
本体の下流側には、後述するように膨張することで気管を閉鎖する気管用カフ15と、さらにその下流側に、前記本体11の一方の管と連通し、右肺に麻酔ガスや空気等を供給し、或いは、右肺内を脱気するための右肺用開口部17と、さらに下流側に延びる左気管支延長部18と、を有している。
【0033】
左気管支延長部18には、膨張することで左の気管支を閉鎖する気管支用カフ16と、最先端に左肺に麻酔ガスや空気等を供給し、或いは、左肺を脱気するための左肺用開口部19とが設けられている。
【0034】
図1に示すダブルルーメンチューブは、左気管支用のものである。無論、右気管支用のダブルルーメンチューブであっても良い。この場合には、図2に示すものとほぼ左右が逆の構成となる。
【0035】
本体11からは、気管支用カフ16と連通する第1のインフレーションライン22が延び、第1のインフレーションライン22の端部には、一方弁26が先端に取り付けられた第1のパイロットバルーン24が連結される。
【0036】
また、本体11からは、気管用カフ15と連通する第2のインフレーションライン23が延び、第2のインフレーションライン23の端部には、一方弁27が先端に取り付けられた第2のパイロットバルーン25が連結される。パイロットバルーン24、25を、医師が押圧操作することにより、第1のインフレーションライン22および第2のインフレーションラインをそれぞれ空気が通過して、気管支用カフ16および気管用カフ15のそれぞれが膨張する。なお、一方弁26、27の先端に設けられた通常は閉鎖されている開口を、先端の細い器具などで押すことにより、空気を逆流させて、気管支用カフ16および気管用カフ15を収縮させることができる。
【0037】
図1に示すように、スリーブ部材13、14の上流側先端には、それぞれ、3つの入出力ポートを有するポート部材20、21が取り付けられる。
【0038】
図1に示すダブルルーメンチューブ10においては、右肺用開口部17とポート部材21とが連通し、左肺用開口部19とポート部材20とが連通している。
【0039】
また、ポート部材20、21のそれぞれにおいて、第2ポート(垂直ポート)(たとえば、図2の第2ポート34)の先端には、チューブ(図示せず)がそれぞれ連結される。これらチューブは、麻酔ガスを供給する麻酔ガス供給装置および人工呼吸器と連結される。
【0040】
図2および図3は、それぞれ、本実施の形態にかかるポート部材20の正面図および側面図である。本実施の形態においては、ポート部材20、21の2つが利用されているが、これらは、レバーの位置が相違するだけであるため、ポート部材20のみについて説明する。
【0041】
図2および図3に示すように、ポート部材20は、いわゆる三方活栓であり、本体30は、第1ポート32、第2ポート(垂直ポート)34および共通ポート36という3つのポートを有している。第1ポート32、第2ポート34および共通ポート36の先端は、それぞれ開口している(符号33、35、37参照)。
【0042】
第1ポート32と共通ポート36とは直線をなすように配置され、第2ポート34は、第1ポート32および共通ポート36と直交するように配置される。
【0043】
第1ポート32、第2ポート34および共通ポート36の連結部分41にはレバー38が軸39により回転可能に取り付けられている。上記連結部分41の内部には軸39に取り付けられた弁機構40が配置されている。レバー38と弁機構40とは、軸39を介して連動し、レバー38を、軸39を中心として回動させることに伴って、弁機構40も回動する。したがって、レバー38の操作により、第1ポート32と共通ポート36とを連通させ、或いは、第2ポート34と共通ポート36とを連通させることができる。以下、本実施の形態にかかる連結部分に配置された弁機構についてより詳細に説明する。
【0044】
なお、図4に示すように、レバー38は、矢印に示すように、空想線で示す第1の位置と、実線で示す第2の位置との間で回動可能である。第1の位置においては、レバー38は、共通ポート36の長手方向の軸と平行となり、第2の位置においては、第2ポート34の長手方向の軸と平行となる。
【0045】
図5(a)、(b)は、本実施の形態にかかる連結部分および弁機構の内部構造をより詳細に示す図である。図5(a)は、レバー38が第1の位置にあるときの状態を示す図であり、図5(b)は、レバー38が第2の位置にあるときの状態を示す図である。
【0046】
図5(a)、(b)に示すように、弁機構40は、連結部分14の内壁と整合するような円弧状の断面形状の外壁を有し、第1ポート32或いは第2ポート34のいずれかを閉鎖する遮断部材42を有する。
【0047】
図5(a)に示すように、レバー38が第1の位置にあるときには、弁機構40の遮断部材42は、第2ポート34を閉鎖する。したがって、第1ポート32と共通ポート36とが連通する。その一方、図5(b)に示すように、レバー38が第2の位置にあるときには、弁機構40の遮断部材42が第1ポート32を閉鎖する。したがって、第2ポート34と共通ポート36とが連通する。
【0048】
また、スリーブ部材20には、レバー38が第1の位置と第2の位置との間のみで回動できるための規制部材が設けられている。図6は、本実施の形態にかかる規制部材の例を示す図である。図6に示す例においては、スリーブ部材20の第2ポート34および共通ポート36のそれぞれの外壁に、突起45、46が形成され、突起45、46により、これらの位置を超えてレバー38が回動できないようになっている。
【0049】
図7は、本実施の形態にかかる規制部材の他の例を示す図である。図7に示すように、この例では、連結部分41の内部に規制部材が設けられる。連結部材41の内部には、レバー38および軸39と連結された円弧部48が設けられる。図7(a)に示すように、円弧部48の時計方向の端部52は、レバー38が第1の位置にあるときに、連結部分41に固定された突起50と当接する。
【0050】
その一方、図7(b)に示すように、円弧部48の半時計方向の端部51は、レバー38が第2の位置にあるときに、連結部分41に固定された突起49と当接する。これにより、図7(a)、(b)の矢印に示すように、レバー38は、第1の位置と第2の位置との間でのみ回動可能となる。
【0051】
分離肺換気を行うために、本実施の形態にかかるダブルルーメンチューブ10は、医師により気管に挿管される。気管用カフ15が気管の所定の位置に達し、かつ、気管支用カフ16が、左気管支の所定の位置に達した状態で、パイロットバルーン24、25を押圧操作することにより、気管支用カフ16および気管用カフ15は膨張する。
【0052】
気管支用カフ16が膨張することにより、左気管支は閉鎖され、左肺には、左肺用開口部19を介して、空気等が供給されることになる。その一方、気管用カフ15および気管支用カフ16が膨張することにより、気管及び左気管支も閉鎖され、右肺には、右肺用開口部17を介して、空気等が供給されるようになる。
【0053】
本実施の形態にかかるダブルルーメンチューブ10のポート部材20、21のレバー38は、初期的には第2の位置にある。これにより、共通ポート36と第2ポート34とが連通する(図5(b))。したがって、両肺は、麻酔ガス供給装置および人工呼吸器と連通しているため、換気が行われ得る。
【0054】
本実施の形態において、一方の肺の換気を止めて肺をしぼませる場合について説明する。右肺だけを換気して、左肺をしぼませる場合には、医師は、左気管支と連通するポート部材20のレバー38を、第2の位置から第1の位置に回動させる。これにより、共通ポート36と第1ポート32とが連通する(図5(a))ため、左肺の空気が排出される。このようにして、左肺をしぼませることができる。
【0055】
左肺を再度換気する場合には、医師は、ポート部材20のレバー38を第1の位置から第2の位置に回動させる。これにより、共通ポート36と第2ポート34とが連通し、左肺の換気が再開される。
【0056】
ここで、本実施の形態においては、ポート部材20、21のレバー38が第2の位置にあるときに、つまり、レバー38が、連通状態である第2ポート34の方向に向いているときに、共通ポート36と第2ポート34とが連通している。
【0057】
ポート部材20、21のレバー38が第1の位置にあるときに、つまり、レバーが連通状態である第1ポート32の向きと平行であり、かつ、非連通状態である第2ポート34とは垂直方向であるときに、共通ポート36と第1ポート32とが連通している。
【0058】
したがって、医師は、第1ポート32或いは第2ポート34の何れが、共通ポート36と連通しているかを直感的に即座に把握することが可能となり、誤ったポートの連結状態を防止することが可能となる。
【0059】
また、ダブルルーメンチューブ10の挿入位置を確認するために、気管支鏡(図示せず)をチューブ内に挿入する場合がある。気管支鏡およびそのチューブの直径は、ポート部材20、21の第1ポート32の開口33の直径と略同一である。
【0060】
気管支鏡を挿入する場合には、ポート部材20、21のレバー38を第1の位置にして、共通ポート36と第1ポート32とを連通させて、開口33から気管支鏡およびそのチューブを送り込んでいけばよい。
【0061】
上述したように、本実施の形態によれば、気管支鏡挿入の際にも、クランプを使用することなく、また、カバーの開閉などの操作もなく、レバー38を回動させるだけで良い。
【0062】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、第2ポートが、共通ポート36および第1ポート32に対して垂直の方向に延びていた。これに対して、第2の実施の形態では、第2ポートと第1ポートとが鋭角をなすように第2ポートが延びる。
【0063】
図8および図9は、それぞれ、第2の実施の形態にかかるポート部材120の正面図および側面図である。図8および図9において、第1の実施の形態にかかるポート部材20と同一の構成要素には同一の符号を付す。
【0064】
図8および図9に示すように、第1の実施の形態と同様に、第2の実施の形態にかかるポート部材120も、いわゆる三方活栓であり、本体130は、第1ポート32、第2ポート134および共通ポート36という3つのポートを有している。第1ポート32、第2ポート134および共通ポート36の先端は、それぞれ開口している(符号33、135、37参照)。第1ポート32と共通ポート36とは直線をなすように配置され、第2ポート134は、第1ポート32とのなす角が鋭角となるように配置される。
【0065】
第1ポート32、第2ポート134および共通ポート36の連結部分141にはレバー38が軸39により回転可能に取り付けられている。上記連結部分141の内部には軸39に取り付けられた弁機構140が配置されている。レバー38と弁機構140とは、軸39を介して連動でき、レバー38を、軸39を中心として回動させることに伴って、弁機構140も回動する。したがって、レバー38の操作により、第1ポート32と共通ポート36とを連通させ、或いは、第2ポート134と共通ポート36とを連通させる。
【0066】
図8に示すように、レバー38は、実線で示す第1の位置と、空想線で示す第2の位置との間で回動可能である(図8の矢印参照)。第1の位置においては、レバー38は、第共通ポート36および第1ポート32の長手方向の軸と平行で、かつ、第1ポート32の延びる方向に向き、第2の位置においては、第2ポート134の長手方向の軸と平行で、かつ、第2ポート134の延びる方向に向く。
【0067】
図10(a)、(b)は、本実施の形態にかかる連結部分および弁機構の内部構造をより詳細に示す図である。図10(a)は、レバー38が第1の位置にあるときの状態を示す図であり、図10(b)は、レバー38が第2の位置にあるときの状態を示す図である。
【0068】
図10(a)、(b)に示すように、連結部分のハウジング143内に収容された弁機構140は、レバー38が第1の位置にあるときに、第1ポート32と共通ポート36とを連通させる管路を形成し、その一方、レバー38が第2の位置にあるときに、第1ポート32を遮断するとともに、第2ポート134と共通ポート36とを連通させる管路を形成する第1の遮断部142を有する。
【0069】
また、弁機構140は、レバー38が第1の位置にあるときに、第2ポート134を遮断するとともに、第1ポート32と共通ポート36とを連通させる管路を形成し、その一方、レバー38が第2の位置にあるときに、第2ポート134と共通ポート36とを連通させる管路を形成する第2の遮断部143を有する。
【0070】
したがって、図10(a)に示すように、レバー38が第1の位置にあるときには、弁機構140の第1の遮断部142および第2の遮断部143により、第1ポート32と共通ポート36とが連通する。その一方、図10(b)に示すように、レバー38が第2の位置にあるときには、弁機構140の第1の遮断部142および第2の遮断部143により、第2ポート134と共通ポート36とが連通する。
【0071】
なお、詳細な説明は省略するが、第2の実施の形態においても、連結部分141の外部に、図6に記載されたような突起を含む規制部材が設けられている。或いは、連結部分141の内部に、図7に示すような規制部材が設けられていても良い。
【0072】
第2の実施の形態にかかるポート部材120、121を備えたダブルルーメンチューブも、第1の実施の形態にかかるダブルルーメンチューブと同様に使用される。たとえば、右肺だけを換気して、左肺をしぼませる場合には、医師は、左気管支と連通するポート部材120のレバー38を、第2の位置から第1の位置に回動させる。これにより、共通ポート36と第1ポート32とが連通する(図10(a))ため、左肺の空気が排出される。このようにして、左肺をしぼませることができる。
【0073】
左肺を再度換気する場合には、医師は、ポート部材120のレバー38を第1の位置から第2の位置に回動させる。これにより、共通ポート36と第2ポート134とが連通し、左肺の換気が再開される。
【0074】
特に、第2の実施の形態においては、ポート部材120、121のレバー38が第2の位置にあるときに、つまり、レバー38が、連通状態である第2ポート134の方向に向いているときに、共通ポート36と第2ポート134とが連通している。
【0075】
また、ポート部材120、121のレバー38が第1の位置にあるときに、つまり、レバー38が、連通状態である第1ポート32の方向に向いているときに、共通ポート36と第1ポート31とが連通している。
【0076】
つまり、レバー38は、第1の位置、第2の位置の何れにおいても、連通しているポートの向きにある。したがって、医師は、第1ポート32或いは第2ポート134の何れが、共通ポート36と連通しているかを直感的に即座に把握することが可能となり、誤ったポートの連結状態を防止することが可能となる。
【0077】
また、気管支鏡を挿入する場合にも、ポート部材120、121のレバーを第1の位置にして、共通ポート36と第1ポート32とを連通させて、開口33から気管支鏡およびそのチューブを送り込んでいけばよい。
【0078】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる分離肺換気用ダブルルーメンチューブの構成例を示す斜視図である。
【図2】図2は、本実施の形態にかかるポート部材の正面図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかるポート部材の側面図である。
【図4】図4は、本実施の形態にかかるポート部材のレバーの位置を説明する図である。
【図5】図5(a)、(b)は、本実施の形態にかかる連結部分および弁機構の内部構造をより詳細に示す図であり、図5(a)は、レバーが第1の位置にあるときの状態を示す図、図5(b)は、レバーが第2の位置にあるときの状態を示す図である。
【図6】図6は、本実施の形態にかかる規制部材の例を示す図である。
【図7】図7は、本実施の形態にかかる規制部材の他の例を示す図である。
【図8】図8は、第2の実施の形態にかかるポート部材の正面図である。
【図9】図9は、第2の実施の形態にかかるポート部材の側面図である。
【図10】図10(a)、(b)は、第2の実施の形態にかかる連結部分および弁機構の内部構造をより詳細に示す図であり、図10(a)は、レバーが第1の位置にあるときの状態を示す図、図10(b)は、レバーが第2の位置にあるときの状態を示す図である。
【図11】図11は、従来の分離肺換気用ダブルルーメンチューブの例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0080】
11 本体
12 分岐部材
13 スリーブ部材
14 スリーブ部材
15 気管用カフ
16 気管支用カフ
17 右肺用開口部
18 左気管支延長部
19 左肺用開口部
20,21 ポート部材
22,23 インフレーションライン
24,25 パイロットバルーン
26,27 一方弁
30 ポート部材の本体
32 第1ポート
33 第1ポートの開口
34 第2ポート
35 第2ポートの開口
36 共通ポート
37 共通ポートの開口
38 レバー
39 軸
40 弁機構
41 連結部分
42 遮断部
45,46 突起
48 円弧部
48,50 突起
51,52 円弧部の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダブルルーメン式の2つの管を備えた本体と、
前記本体の上流側端部に取り付けられ、前記本体の2つの管を分岐させる分岐部材と、
分岐部材のさらに上流側に取り付けられる、3つの入出力ポートを備えた2つのポート部材と、
前記本体の下流側に取り付けられた、気管を閉鎖する気管用カフと、
前記気管用カフの下流側に位置し、前記本体の一方の管と連通し、一方の肺に麻酔ガスや空気を供給し、また、当該一方の肺内を脱気するための第1の開口部と、
前記第1の開口部からさらに下流側に延びる延長部であって、膨張することにより他の肺に繋がる気管支を閉鎖する気管支用カフ、および、下流側の最先端に位置し、当該他の肺に麻酔ガスや空気を供給し、また、当該他の肺を脱気するための第2の開口部を有する延長部と、
前記気管用カフに空気を供給する第1の空気供給部材と、
前記気管支用カフに空気を供給する第2の空気供給部材と、を備えたダブルルーメンチューブであって、
前記ポート部材が、それぞれ、
最下流側に位置する共通ポートと、
前記共通ポートと直線上に連なる第1のポートと、
前記共通ポートおよび第1のポートと、所定の角度を持って配置される第2のポートと、
前記第1のポート、第2のポートおよび共通ポートとを連結する連結部と、
軸により、前記連結部に回動自在に取り付けられたレバーと、
前記軸に取り付けられ、前記レバーの回動に伴って回動する弁機構であって、前記レバーが所定の第1の位置にあるときに、前記第1のポートと前記共通ポートを連通させ、かつ、第2ポートを閉鎖し、前記レバーが所定の第2の位置にあるときに、前記第2のポートと前記共通ポートを連通させ、かつ、第1ポートを閉鎖させる弁機構と、を有することを特徴とする分離肺換気用ダブルルーメンチューブ。
【請求項2】
前記第2のポートが、前記第1のポートおよび前記共通ポートと直交するように配置され、
前記レバーが、前記第1のポートおよび共通ポートと平行な第1の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第2のポートを閉鎖して、前記第1のポートと共通ポートとを連通させ、かつ、
前記レバーが、前記第2のポートの方向に向いた第2の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第1のポートを閉鎖して、前記第2のポートと共通ポートとを連通させることを特徴とする請求項1に記載の分離肺換気用ダブルルーメンチューブ。
【請求項3】
前記弁機構が、前記連結部分の内壁と整合する円弧状の断面形状の外壁を有し、前記第1のポート或いは第2のポートのいずれかを閉鎖する遮断部材を有することを特徴とする請求項2に記載のダブルルーメンチューブ。
【請求項4】
前記第2のポートが、前記第1のポートと鋭角をなすように配置され、
前記レバーが、前記第1のポートの方向を向いた第1の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第2のポートを閉鎖して、前記第1のポートと共通ポートとを連通させ、かつ、
前記レバーが、前記第2のポートの方向に向いた第2の位置にあるときに、前記弁機構が、前記第1のポートを閉鎖して、前記第2のポートと共通ポートとを連通させることを特徴とする請求項1に記載の分離肺換気用ダブルルーメンチューブ。
【請求項5】
前記弁機構が、
前記レバーが前記第1の位置にあるときに、前記第1のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成し、その一方、前記レバーが前記第2の位置にあるときに、前記第1のポートを遮断するとともに、前記第2のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成する第1の遮断部と、
前記レバーが前記第1の位置にあるときに、前記第2のポートを遮断するとともに、前記第1のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成し、その一方、前記レバーが前記第2の位置にあるときに、前記第2のポートと前記共通ポートとを連通させる管路を形成する第2の遮断部と、を有することを特徴とする請求項4に記載の分離肺換気用ダブルルーメンチューブ。
【請求項6】
前記連結部分の外壁に、前記第1の位置および第2の位置により画定される範囲を超えて前記レバーが回動することを規制する2つの突起が形成されたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の分離肺換気用ダブルルーメンチューブ。
【請求項7】
前記連結部材の内部に、前記レバーおよび当該レバーの軸と連結された円弧部を有し、前記円弧部の時計方向の端部は、前記レバーが前記第1の位置にあるときに、前記連結部分に固定された第1の突起50と当接し、前記円弧部の半時計方向の端部は、前記レバーが前記第2の位置にあるときに、前記連結部分に固定された他の突起と当接するように構成されたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の分離肺換気用ダブルルーメンチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−125183(P2009−125183A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301347(P2007−301347)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)