説明

切り替え可能な飛行システムを有する航空機

本発明は、回転翼機としても、または固定翼機としても境界なく機能させることができる、切り替え可能な飛行システムを有する航空機に関する。本航空機は、胴体(1)と垂直軸メインローター(2)と、推進手段と、胴体(1)の下部に位置する可動翼(7)と、を備え、この可動翼は、胴体下側に隠れる後退位置(7’)と、前記胴体から突出して固定翼機飛行モードで浮揚翼として機能する展開位置と、の間で揺動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り替え可能な飛行システムを有する航空機に係り、より具体的には、胴体と垂直軸メインローターと他の推進手段とを備え、回転翼機(helicopter)としても、または固定翼機(airplane)としても境界なく機能させることができる航空機に関する。
【0002】
本発明の航空機はこのように回転翼機の飛行特性と従来の固定翼機の飛行特性とを組み合わせることにより、回転翼機の垂直離着陸及び静止運転、すなわちホバリング飛行運転と、固定翼機の巡航運転とが可能となり、しかも一方の飛行モードから他方への移行段階が極めて安全かつ円滑となるものである。
【背景技術】
【0003】
回転翼機としても、または固定翼機としても機能させることができると説明された航空機は、既に知られている。
【0004】
この意味において特許文献1を挙げることができる。この文献には垂直軸ローターを備える航空機が記載されている。垂直軸翼は回転ローターとして使用可能であり、この場合には航空機を回転翼機として機能させることができる。また、固定位置においては、従来の固定翼機のように飛行させるため、回転ローターのブレードのうち2枚を翼として機能させる。このシステムは、固定翼機飛行モードにおいて回転ローターのブレードのうち2枚を翼として機能させるために、回転ローターのブレードを相当に大型とする必要がある。
【0005】
PCTの特許文献である特許文献2には、垂直軸メインローターと2枚の固定翼とを備える切り替え可能な航空機が記載されている。該航空機は垂直軸メインローターによって回転翼機のように飛行でき、2枚の固定翼により固定翼機飛行モードが可能である。この固定翼機飛行モードにおいて、ローターは固定され、航空機が固定翼機モードで作動するときにブレードが後方を向くようにされている。本例において、航空機は固定翼を有しているが、これらは航空機の回転翼機モードにおいて運転中障害となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,792,827号明細書
【特許文献2】国際公開2005/086563パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
巡航中にローターを解放する固定翼により形成され、ローター自体又はそれ以外により供給される推進力に加えて固定翼が推進力を供給することで速度を増速できる複合回転翼機は、幾つか開発されている。しかしながら、これらの場合、ローターの突風にさらされることにより発生する垂直方向の空気抵抗によって、翼が垂直離着陸とホバリング飛行に対する障害となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転翼機モードでも固定翼機モードでも機能させることができ、これらの動作モードのそれぞれにおいて実質的にその動作モードに特徴的な要素のみを有している航空機によって、前記した問題を取り除くという目的を有する。このため、一方の飛行モードに必要な要素であっても、この要素を常に露出させていると他方の飛行モードにとって障害となることがあるものは機能的に取り除かれる。
【0009】
言い換えれば、回転翼機飛行の場合には、航空機は空気流に曝される翼を欠いた構成をとり、これに対し固定翼機航空モードでは、回転翼機の浮揚ローターを作動させずに空気抵抗が最小となる位置とする。
【0010】
本発明の航空機は、胴体の下部又はその両側に個別の可動準翼を有する。これらは、胴体に対して隠れる略後退位置と、胴体から突出して固定翼機モードでの浮揚翼として機能する展開位置と、の間を略水平面内で揺動可能である。
【0011】
この構成を得るため、翼は蝶番様式で胴体に組み付けられて、流体式、機械式、電気式システムに基づく機構によって、一方の位置から他方の位置へ移行するよう作動される。この選択は具体的な航空機の大きさや搭乗する操縦者の有無によって異なるかもしれない関連機構の操縦安全と重量規範とにより調整することにする。
【0012】
さらに、推進手段が回転翼機モードで機能するときには翼は後退位置をとり、航空機が「遷移速度」と呼ばれる飛行時所定速度に達したときには、翼は展開位置へ展開し、推進手段を固定翼機モードで機能させる。逆の場合にはこの逆を行う。
【0013】
言い換えると、翼が所定位置をとると、推進手段は航空機の飛行モードに従って機能することになる。「遷移速度」から増速又は減速させたときに、翼が一方の位置から他方へ自動的に移行するのと同じように、推進手段はその機能態様を同様に自動的に切り換えることになる。推進手段は、一方の飛行モードにおける機能を漸次増大させると同時に、他方の飛行モードにおける機能を低減させる。
【0014】
いわゆる「遷移飛行速度」とは、回転翼機の構成における揚力/空気抵抗を最大化する飛行速度に近い速度のことである。
【0015】
前記したように、本航空機は胴体とメインローター、さらに推進手段が例えば胴体内に収容されたレシプロエンジンやタービンである場合には機体を回転翼機として機能させるための反トルクテールローターとで構成されることになる。本航空機は、ブレード端にガスを噴射するガスタービンにより推進させることもでき、その場合には反トルクローターは不要となるだろう。
【0016】
本航空機は、「遷移速度」に達したときに推進手段(レシプロエンジン又はガスタービン)の動力を切り換ると同時に、メインローターとテールローターの動力を減退させる牽引又は推進プロペラを有していてもよい。
【0017】
回転翼機飛行モードから固定翼機飛行モードへの移行時に、メインローターは自転状態に残すか又は停止させてロックし、さらに後退させてもよく、航空機の空気抵抗を低減することができる。固定翼機飛行モードから回転翼機飛行モードへ移行する場合には、この過程は逆に実行されるだろう。
【0018】
前記したように、ブレード端にガスを噴射するガスタービンにより推進させる型においては、ブレード端にタービンからのガスを噴射してメインローターを作動させ回転させる場合、テールローターは省いてもよい。この場合、一方の飛行モードから他方への移行は、推力ノズルを介してガスを徐々に噴射すると共に、ブレード端に噴射されるガスを減少させることで行われるだろう。翼の展開し格納する構成及び方法は、既に説明した方法で実行されるだろう。
【0019】
このため、本発明の航空機は、胴体下部に潜行可能な翼、又は胴体両側に配置可能な翼を有することになり、ローターやプロペラ(又はガスタービン型の推力ノズル)に印加される動力変動と組み合わせて、これら翼を展開させる過程を有することとなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、回転翼機としても固定翼機としても、航空機の飛行がコンパクトかつ効率的な方法で行えるようにし、回転翼機飛行モードは、翼を胴体内に畳み込むことによって翼に対するローターの突風や、翼が固定位置である場合に受けるであろう空気抵抗の悪影響を取り除く。一方の飛行モードから他方への移行段階は、能動的な浮揚要素(ローター又は翼)が常時存在するのであれば他の公知のシステムに比べてさらに安全となる。これにより本発明の航空機は、エンジントラブル発生時にも、自転して円滑に降下するかまたは翼を用いて滑空するか又はその両方が可能であるため、固有の安全性を得ることとなる。
【0021】
本発明の技術的課題は、従来の固定翼機による極めて効率的な巡航飛行に加えて、従来の回転翼機としての全ての飛行性能を伴った飛行動作をも可能にすることからなる本発明により解決されている。
【0022】
本発明は、垂直離着陸とホバリング飛行能力とを必要とする軍用ならびに民間用に応用することができる。これは、例えば査察、救難の飛行任務、「二地点間」乗客輸送、あらゆる種類の貨物の輸送に用いることができ、用意された広場や滑走路を必要とせず、これら全てが高速の巡航能力と従来の回転翼機を上回る効率とを組み合わせるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明により回転翼機飛行モードに適合させて形成した航空機を示す側立面図である。
【図2】図1の航空機の上面図である。
【図3】図1及び図2の航空機の正立面図である。
【図4】固定翼機飛行モードに適合させた、図1に類似の図である。
【図5】図3の航空機の上面図である。
【図6】図4及び図5の航空機の正立面図である。
【図7】一方の飛行モードから他方へと移行するために翼を折り畳むまたは展開する中間の段階を示す、図2及び図5に類似の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の航空機の特徴と利点がより良く理解されるよう、非限定実施形態を示す添付図面を用いて、より詳細な説明を下記に提供する。
【0025】
図1、2、3は、回転翼機モードで構成した航空機を示している。この航空機は、胴体1と、垂直軸メインローター2と、反トルクテールローター3と、胴体内に収容されレシプロ型エンジンやガスタービンにより構成可能な図示しない動力(推進力)発生手段と、を備える。航空機は牽引又は推進プロペラ4をさらに有し、その動作は図示しない同一の動力発生手段により行われる。航空機には、古典的な水平構成すなわち「V字」構成において、スキッド5と尾翼スタビライザー6とをさらに配設することができる。
【0026】
本発明により、本航空機はさらに、胴体1の下側またはその両側に個別の可動準翼7を有している。これら可動準翼7は、図1と図3に示す参照符号7’による胴体1に寄せて隠した後退位置と、前記胴体から突出して固定翼機飛行モードにおける浮揚翼として機能する、図4〜図6に示す参照符号7による展開位置との間で、略水平面内を揺動可能である。このような翼7は蝶番様式にて組み付けられており、畳み込まれた位置から展開位置へ移行する動作およびその逆の動作は、例えば流体式又は電気式作動と電子制御とを用いる一連のギヤにより形成可能な機械式とすることができる。翼7は、図5に示す長手方向補助翼8と、端部小翼9と、を有することになる。
【0027】
図1〜図3の位置において、本航空機は浮揚推進メインローター2と、反トルクテールローター3と、を有する回転翼機として機能する。航空機を回転翼機モードで動作させる場合であっても問題が起きないように、翼7は胴体1内の隠し位置7’にある。
【0028】
図1〜図3に示す構成の回転翼機飛行モードにある航空機が、「遷移速度」と呼ばれ揚力/空気抵抗が最大化される所定の飛行速度近くに達すると、位置7’にて畳み込まれた翼が、固定翼機としての飛行のため完全に展開された図4〜図6の位置へ到達するまで展開を始める。この位置においては、ローター2のブレード10を畳み込んで長手方向に後方を向かせ、随意選択的にフェアリングにより覆ってあり、いかなる航空機として飛行する場合にも何ら障害とならないようにしている。この遷移が起きると同時に牽引又は推進プロペラ4へ動力を伝達し、メインローター2とテールローター3とから等しく動力を減退させる。
【0029】
固定翼機飛行モードから回転翼機飛行モードへ進む際には、前述の工程は逆に行われる。
【0030】
航空機をガスタービンにより推進する場合、ブレード端10にタービンからガスを噴射して回転させることによりメインローター2を作動させるのであれば、テールローター3はなくてもよい。この場合、一方の飛行モードから他方の飛行モードへの移行は、図示しない推力ノズルを介してガスを徐々に噴射し、ブレード端10に噴射されるガスを減少させることで行われることになる。
【0031】
推進プロペラ4はピッチ可変機構を組み込むことができる。これにより、エンジンが一定の回転数で回転し、このプロペラのブレードのピッチを変化させることで所要の牽引力又は推進力を得ることができる。翼7の端部小翼9には効果的な伸長を増大させる効果があるため、固定翼機飛行モードにおいてより大きな効率を得ることができる。
【0032】
図面に示した例では翼7を後方に畳み込んで後退位置に配置するようにしてあるが、同じようにこれらを前方へ畳み込んでもよい。
【0033】
本発明の特徴は、有人航空機にも無人航空機にも同様に適用することができる。
【0034】
前述の構成及び図1〜図3の回転翼機構成に基づくと、メインローター2によりもたらされる牽引力によって航空機は垂直に離陸し、所望の高度に持ち上げることができる。この状態において、翼7は畳み込み位置または後退位置7’に配置され、胴体1の下側またはその側面に沿って隠されている。推進プロペラ4は停止される。そして、メインローターの周期的なピッチ可変機構によって、メインローターは必要な推力を供給し、航空機は「遷移速度」と呼ばれる値に達するまでの水平速度を得ることができる。この遷移速度とは、回転翼機構成が(飛行速度に応じた水平飛行に必要な、空気抵抗で割られた揚力及び動力について)非効率的になり始める速度であって、この時点で翼7の展開が図7に示すように開始し、図4と図6に示すような完全な展開に至る。プロペラ4に対する動力印加とメインローター2に対する動力低減は、翼7が展開している間に実行される。この操作は数秒程度の時間の問題として行うことができる。この過程において、翼7は航空機を水平飛行状態に保つのに必要な揚力を徐々に発揮し、揚力はこの飛行モードにおいて、翼(補助翼)8と尾翼面6の制御面及び昇降舵や方向舵又はそれらの組み合わせを通じて制御される。図4と図5に示すように、ブレード10が後方に向いた状態で、メインローター2を停止させて畳み込んでもよい。到達させる最大速度に応じて、畳み込んだ翼に対するフェアリングをさらに追加してもよい。テールローター3は、固定翼機飛行モードには必要とされないため、停止又は係合解除される。
【0035】
航空機は、前記した手順をただし逆に実行することによって、いかなる所望の時間に一カ所で静止飛行を維持することができる。すなわち、ローターブレードにバフェット現象(乱気流による不規則震動)が発生しない状態で、前進速度を「遷移速度」又はその上の速度まで減少させ、メインローター2とテールローター3とに動力を印加し、プロペラ4に印加する動力を減じることにより、プロペラを停止させ、翼7を胴体下側またはその両側の位置7’へ後退する。
【0036】
着陸のためにもこれと同様の動作が行われる。航空機は回転翼機式に保たれ、この種の航空機の全操縦能力を用いることによって、垂直着陸が可能となる。
【0037】
ブレード端10にガスを噴射して回転させることによりメインローター2(この場合胴体に対するトルクの補償が不要なので唯一のローター)を動かすのに用いるガスタービンにより推進される型では、本航空機の操作は、ブレード端に噴射されるガスの作用によって動かされるローターの牽引力により、回転翼機として離陸させることからなる。「遷移速度」と呼ばれる適切な水平速度を得ると、図示しない従来の推力ノズルを介してガスの一部を漸次増加する流量で噴出させ、推力を生じさせて航空機の水平速度を増すよう機能させる。続いて翼7が展開され、必要な揚力を生じさせて航空機の水平飛行を維持する。この過程は、タービン内のほぼ全てのガスが推力ノズルへ偏向されるまで継続し、自転中のローター2は、プロペラ推進の場合と同様に停止され畳み込まれる。固定翼機式飛行から、静止飛行、垂直着陸用に回転翼機式飛行へ移行する際には、説明したプロセスは逆の順で行われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体(1)と、垂直軸メインローター(2)と、推進手段と、を備える、回転翼機としても固定翼機としても機能させることができる切り替え可能な飛行システムを有する航空機であって、
前記胴体に対して沿って隠れる後退位置(7’)と、前記胴体から突出して固定翼機飛行モードにおいて浮揚翼として機能する展開位置(7)と、の間を略水平面内で揺動可能な個別の可動翼(7)を、前記胴体(1)の下部又はその両側に有し、
水平移動が遷移飛行速度に満たず、前記推進手段が回転翼機モードとして機能するときは、前記翼は前記後退位置をとり、
前記遷移飛行速度に達したときは、前記翼を前記展開位置へ展開させ、前記推進手段を固定翼機モードにて機能させる航空機。
【請求項2】
前記遷移飛行速度が、回転翼機モードにおいて揚力/空気抵抗比を最大化する飛行速度に近い請求項1記載の航空機。
【請求項3】
前記推進手段が、一方の飛行モードにおけるその機能を漸次増大させると同時に、他方の飛行モードにおける機能を低減させる請求項1記載の航空機。
【請求項4】
前記遷移飛行速度に達し、前記翼(7)が前記展開位置に達した後、続いて前記メインローターのブレード(10)を空気抵抗が最小である長手方向位置に配置する請求項1記載の航空機。
【請求項5】
航行中、前記遷移飛行速度に到達した時に、前記胴体に沿った変速機を介して前記推進手段により作動可能な牽引又は推進プロペラ(4)を備える請求項1記載の航空機。
【請求項6】
前記推進手段がガスタービンを含み、前記ローター(2)のブレード端(10)にガスを噴射する手段と、航行中前記遷移飛行速度に達したときに前記タービンからのガスを漸次移す推力ノズルと、を備える請求項1記載の航空機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2009−541124(P2009−541124A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517028(P2009−517028)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005863
【国際公開番号】WO2008/003455
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(505441568)インスティトゥト ナシオナル デ テクニカ アエロエスパシアル “エステバン テラーダス” (2)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTO NACIONAL DE TECNICA AEROESPACIAL ”ESTEBAN TERRADAS”
【住所又は居所原語表記】Ctra. de Ajalvir, Km 4,5, E−28850 Torrejon de Ardoz (Madrid) (ES).