説明

切り花の鮮度保持剤及び鮮度保持方法

【課題】
切り花の高品質貯蔵・流通が可能となり、なおかつ薬害を起こすことなく安全、衛生的であり、低コストの切り花鮮度保持剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明の切り花鮮度保持剤は、フィチン酸と銀イオンを抗菌成分として含有することを特徴とする切り花鮮度保持剤及び鮮度保持剤を用いた切り花鮮度保持方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り花の鮮度保持剤及びそれを使用する切り花の鮮度保持方法に関する。より詳しくは、例えば、フラワーショップ、花の宅配、家庭や栽培農家において使用される切り花の鮮度保持剤であって、抗菌成分としてフィチン酸及び銀イオンを含有する切り花の鮮度保持方法に関する。本発明の鮮度保持剤は、その抗菌成分を含有する鮮度保持剤を溶解した水溶液へ切り花の切り口を浸しておくことによって、収穫後の切り花の花弁及び葉の萎凋を防止し、切り花をきれいに咲かせ、より鮮やかな状態でより長期にわたって保存することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
普通、花弁は根から切り離して、即ち切り花として観賞され、販売その他の取扱がなされている。今日、国民の欧風化に伴い、切り花は、色・種類ともにとても豊富になってきており、バラ、カーネーション、菊、チューリップ、アイリス、百合、アマリリス、ガーベラ、アネモネ、その他、多種多様の園芸植物による飾り付けは、一般の家庭における生花又は仏花としては勿論のこと、結婚式等の室内装飾としては欠かせないものとなっている。そのため、遠隔地からの輸送には長い時間がかかり、さらに市場や小売店を通じて消費者の手に渡るまでにも時間が経つ。さらに従来から切り花において外観だけでなく、せっかく買った花を長く楽しみたいという消費者の欲求を考えると、切り花の鮮度保持の向上が強く望まれる。切り花は、水の腐敗により茎の導管閉鎖が起こり、吸水が悪くなること及び花に栄養分が補給できないことにより、花持ちはおよそ5日程度と短い。従って、どうしても切り花を必要とする場所では、やむなく短い間隔で高価な切り花を交換する必要があるが、これは当事者に大きな経済的負担をかけるものであった。日持ち性の向上には、品種での対応以外に前処理剤の使用、流通の改善、栽培方法等が有効とされる。そこで、収穫後の鮮度保持剤処理効果を検討する。
【0003】
従来、収穫後の切り花の鮮度保持を人為的且つ積極的に増進させ、切り花を長時間保存するため、切り花鮮度保持剤と称される薬剤を切り花を浸す水中に添加することが行われてきた。これら切り花鮮度保持剤の添加物としては、大別して次の効果を持つものである。切り花をつける水中や切り口の病原菌の増殖を抑制して腐敗を防止し、且つ導管閉鎖を少なくして良好な水上げを確保する次亜塩素酸ナトリウム、8-ハイドロキシキノリン硫酸塩(8-HQS)、8-HQC(クエン酸塩)、硫酸銀、STS、硫酸アルミニウム、クエン酸、酢酸等の殺菌剤、切り花に積極的に栄養分を補給するグルコース及びショ糖等の栄養剤、切り花の老化や追熟を促進させる植物成長ホルモンであるエチレンを抑制して、切り花の老化或いは消耗を遅らせる銀イオン等、葉の気孔開閉を制御し、水分の蒸散を少なくする薬剤である。
【0004】
昔から行われてきた切り花の鮮度保持方法も殺菌効果が期待できるものであり、例えば、腐敗防止のために水を頻繁に交換することも経験的に推奨されており、この方法がある程度効果を示すことは事実であるが、実際問題として、多数の容器について頻繁に水換えを行うのは非常に厄介である。その他、切り口からの水分吸収を円滑に行うために水中で茎を剪定する、切り口に塩をすりこむ、ハッカ油のような刺激性の薬剤や中性洗剤中に浸漬させる、切り口を破砕又は火炎で焼く等数多くの方法が工夫されていたが、これらはいずれも煩雑であり、積極的に鮮度保持を図る方法ではないことから、鮮度保持効果もそれほど高くなかった。
【0005】
近年、切り花の需要増大と共に開発され脚光を浴びている鮮度保持剤は、前記したSTSの殺菌成分を含有した水溶液である。その他の切り花の鮮度保持剤としては、アブシジン酸のような薬剤を含有した水溶液が知られている。
【0006】
また、これら以外にも、鮮度保持の機構は不明であるが、微生物由来のコウジ酸(特許文献1)、ウニコナゾール(特許文献2)等を添加する方法等がみられる。フィチン酸の切り花鮮度保持剤(特許文献3)も知られているが、後処理のみに効果があるものであり、前後で使用できる切り花鮮度保持剤ではない。
【特許文献1】特開H06−116106号公報
【特許文献2】特許第1929175号公報
【特許文献3】特開S59−210001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記(1)〜(6)等に示された殺菌剤は、環境汚染、室温安定性が悪い、着色、配合変化、pH調整、花の色調変化、切り花自体に悪影響、高価、前と後処理剤との組み合わせ等から実際の製品に使用するには問題があり、また、現在、あらゆる種類の切り花に対して満足しうる鮮度保持が得られていない。よって、本発明者等は、現状に鑑み、環境に負担のない、前後処理どちらでも使用することが可能であり、吸収効率が良く、切り花に対して優れた鮮度保持効果を得ることが出来、なおかつ切り花本体に薬害を与えず、衛生的、安定性が高く、水換えが不要であり、手間をかけずに花持ちを大変良くすることから低コストの切り花鮮度保持剤を提供することを目的とし、鋭意検討を重ねた結果、切り花の切り口をフィチン酸と銀イオンを含む水溶液に浸漬することにより、切り花の鮮度保持効果を満足させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、使用方法が簡便で、出荷前に生産者が短時間処理すること及び出荷後に生花店や消費者が利用することができ、優れた鮮度保持効果を得ることのできる切り花鮮度保持剤を開発すべく鋭意研究した。その結果、フィチン酸と銀イオンとを併せて抗菌成分として含有することを特徴とすることにより、環境に負担のない、吸収効率が良く、なおかつ切り花本体に薬害を与えず、衛生的、水換えが不要であり、手間をかけずに花持ちを大変良くすることから低コストであり、不安定性を改善し、前後処理どちらでも使用することが可能であり、切り花をより美しく、より鮮やかな状態で長期間保つことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の各発明を包含する。
【0009】
本発明の一つの抗菌成分であるフィチン酸は、ほとんどの植物体に含まれ、種子、穀物類等に多く存在するフィチンから、カルシウム、マグネシウムなどの金属イオンカルシウム・マグネシウム塩を除去し、精製された物質である。米糠から抽出されるフィチン酸は天然添加物として日本の厚生省に認可されおり、食品添加物にも認可されている安全性の高い有機酸である。また、工業的スケールで大量生産されているので、一定の品質のものが安価に入手できるので、安全性及びコストの面から見ても、本発明の目的に好適な抗菌成分といえる。
【0010】
本発明の他の一つの抗菌成分である銀イオンは、現在、広い抗菌スペクトルを持つ、耐性菌の報告がない、揮発性がない、防除価が高い、微量で効果を発揮する、すなわち連続的に複数の細菌に対して効果を発揮し続けるというわけであり、予防効果が極めて高い抗菌剤であると考えられている。銀の抗菌メカニズムについてまだ完全な結論を得ていない。現在、大きく分けて2つの有力な説が提唱されている。それが銀イオン説と活性酸素説である。また、抗菌剤として使用するためには形態として、柔軟性に富む必要がある。
古来より銀は、食器を初め、アクセサリー、装飾としてその抗菌力と極めて高い安全性は知られていた。現在でも歯の治療に利用されたり、食品添加物としても認められている。
【0011】
本発明の切り花鮮度保持剤中に含有されるべきフィチン酸及び銀イオンの割合は、特に限定されるものではないが、通常切り花鮮度保持剤中にフィチン酸が0.001〜0.02%程度、好ましくは0.01〜0.02%程度含有されているのが良い。また、銀イオンは、通常切り花鮮度保持剤中に0.01〜0.05%程度、好ましくは0.02〜0,03%程度含有されているのが良い。切り花を浸す抗菌成分濃度が上記濃度範囲より低い場合では、本発明の効果を期待できず、また、この範囲より高い濃度で多量に添加すると、植物自体に影響を及ぼす可能性がある。
次に、本発明は、上記のフィチン酸水溶液をpHが3〜6.5より好ましくは、3〜4の範囲に調整して使用する。(フィチン酸水溶液は強い酸性を示し、例えば、1g/Lの濃度では、pH=2.41である。)使用時のpHが3未満の強酸性であると、刺激性が手荒れの一因となることもある。また、4%をこえると、バクテリアやカビの繁殖を防ぐことが難しいとされているので好ましくない。
フィチン酸水溶液のpHを上記範囲に調整するには、通常アルカリを添加しなければならないが、安全性の面から食品添加物或いは化粧品原料として安全性の確認されている使用されるアルカリとしてはアルカリ金属の水酸化物が好ましい。
本発明においてアルカリ金属の酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用可能である。
フィチン酸は、上記以外のアルカリと結合すると中性の塩になる性質をもっている。そのために、フィチン酸は鉄やカルシウムがあると、それと結合してフィチン酸塩をつくってしまう。このフィチン酸塩は水に溶けない性質のため、本発明の目的に使用することは困難である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィチン酸水溶液に銀イオンを加えて溶解した切り花の鮮度保持剤を使用することにより、従来の切り花鮮度保持剤に比較して切り花の色調、艶、落花等を防止して切り花の鮮度の期間を長期に渡って延長させることが容易にできる。また、安定性にも優れている。従って、これを製造するに当たっては、使用する水が蒸留水の様な塩素を除去した水である必要がないので、蒸留もしくは脱塩の設備が不要となる。また、製造後は貯蔵、運搬等の取扱が容易であり、そのコストが低減される。また、本発明の切り花鮮度保持剤は、STS、植物ホルモン、抗生物質などを使用しないため、人畜に無害であり、また抗菌成分の使用量が微量であるため、植物に悪影響を与える恐れも無く極めて安全かつ手軽な方法であると供に、使用後の廃液によって環境が汚染されることがないというメリットを有するものであり、民生上多大の寄与を果たすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。本発明で言う切り花とは、枝・茎をつけたまま切り取った花を指し、例えば、生け花又は霊前、仏前等に用いられるものである。また、生花とは、通常、生け花で、自然の花を指し、造花や枯れ枝、人工を加えた花などに対して言うが、本発明では、枝・葉・花を切り取ったものを指し、これらは、例えば、花器に挿し、形を整えて鑑賞に供する。以下本明細書では両者をまとめて切り花と称する。
【0014】
本発明の切り花鮮度保持剤を適用できる花の種類としては、カーネーションのようなナデシコ科、ガーベラのようなキク科、バラ科、トルコギキョウのようなリンドウ科、デンファレのようなラン科、ペチュニアのようなナス科等を初めとする、切り花になる全ての花が挙げられるが、本発明の切り花鮮度保持剤は、ガーベラのようなキク科の切り花に特に有効である。
【0015】
本発明の切り花鮮度保持剤の使用方法は、前記の2抗菌剤を合わせて溶解した水溶液に切り花の切り口を浸しておく。しかし、本発明は上記の使用方法に限定されるものではなく、本発明の切り花の鮮度保持剤は、切り花の鮮度保持に有効な全ての使用方法に対して使用可能である。
【0016】
このような方法で使用される本発明の切り花鮮度保持剤は、必須の抗菌成分であるフィチン酸と銀イオンを混合した混合物(プレミックス)の形態で流通にすることができる。
【0017】
(試験例1)
以下、試験例によって本発明をさらに詳細に説明するが、例示は単なる説明用のものである。
【0018】
試験切り花として市販のガーベラを使用した。本発明の一方の必須抗菌成分であるフィチン酸を基本配合として定め、これに本発明の他方の必須成分を添加し、pH調整した。
【0019】
試験方法は、家庭用(後処理)として次の通りである。すなわち、ガーベラの切り花に付いて、水中で茎を先端から茎長40cmの位置で直角にはさみで切断して試験に供した。これらの切り花を同時に室温で、所定濃度のフィチン酸と銀イオンを含む水各々500mLずつ入れた計8個のマヨネーズ瓶に各切り花5本ずつ挿して、毎日蒸発した水分に相当する各水溶液を補給するに留め、水換えは一切行わなかった。瓶の中の水面は一定に保ちつつ、花の鮮度を経時的に観察した。比較対象のため、供試切り花を水道水(pH6.4)に浸漬した場合と、銀イオンの代わりに、メチルパラベン或いは1−Bromo-3-chloro-5,5-dimethylhydantoin、市販の切り花鮮度保持剤(「切り花鮮度保持剤A」)を含む水に浸漬した場合の切り花の鮮度保持を求めた。
【0020】
試験結果の評価は、目視によって行った。評価基準は(各ポイント内容)は次のとおりである。
5:ほとんど変化無し
4:若干のハリの衰え、花弁退色又は1本枯死
3:2、3本枯死
2:4本枯死
1:全て枯死
観察結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
上記表3に示す結果から、対象の水道水の切り花は、7日後には、完全に花弁が脱落して花としての鮮度を失った。これに反し、フィチン酸と銀イオンを添加したものは、7日目においても綺麗な状態を維持し、特に0.03%以上配合においては、12日目でも、新鮮品と殆ど変化の無い色調を保っていた。従って、本発明のフィチン酸と銀イオンを併用した切り花鮮度保持剤が切り花鮮度保持効果に優れていることがわかった。
【0023】
(試験例2)
試験方法は、流通用(前処理)として次の通りである。すなわち、ガーベラの切り花に付いて、水中で茎を先端から茎長40cmの位置で直角にはさみで切断して試験に供した。これらの切り花を同時に室温で、所定濃度のフィチン酸と銀イオンを含む水500mLずつ入れた計8個のマヨネーズ瓶に各切り花5本ずつ挿して、10℃の保冷庫に一昼夜置き、その後水道水に交換した。以下、試験例1と同様にして切り花の鮮度保持を観察した。比較対象のため、供試切り花を水道水(pH6.2)に浸漬した場合と、銀イオンの代わりに、メチルパラベン或いは1−Bromo-3-chloro-5,5-dimethylhydantoin、市販の切り花鮮度保持剤(「切り花鮮度保持剤B」)を含む水に浸漬した場合の切り花の鮮度保持を求めた。観察結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
上記表2に示す結果から、対象のメチルパラベン等の切り花は、12日後には、完全に花弁が脱落して花としての鮮度を失った。これに反し、フィチン酸と銀イオンを添加したものは、10日目においても綺麗な状態を維持し、特に0.02、0.05%配合においては、14日目でも、新鮮品と殆ど変化の無い色調を保っていた。従って、この場合、最終的な鮮度は、1ヶ月以上に及ぶべきことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてフィチン酸及び銀イオンを含有することを特徴とする切り花の鮮度保持剤。
【請求項2】
形状が水溶液であって、フィチン酸の濃度が0.001〜0.02%とし、且つpHが3〜6.5の範囲にある水溶液であることを特徴とする請求項1の切り花の鮮度保持剤。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の切り花の鮮度保持剤を前処理剤としても後処理剤としても使用することを特徴とする切り花の鮮度保持剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の切り花の鮮度保持剤を使用することを特徴とする切り花の鮮度保持方法。